説明

スライド式の多芯筆記具

【課題】ユーザーが好みの筆記体とそれに対応した摺動体を蓋体の回動によって、軸筒内に交換可能に収容できる多芯筆記具において、蓋体を装着し易く、且つ外れ難い構造を提供する。
【解決手段】スライド式の多芯筆記具において、軸筒の後端部に、軸筒の外面から突出した基部を形成し、蓋体の一端部に設けた係合部が、前記基部に形成したヒンジ部に、回動自在に凹凸係合し、且つ前記蓋体の嵌合部の突部を、前記軸筒の後端部に、後方に向かって突出した被嵌合部の突部に、着脱自在に乗り越し嵌合して、前記開口部を開閉自在に付設するとともに、前記クリップの後端部の側壁に形成した装着部を、前記基部の側壁に形成した被装着部に装着し、前記クリップの装着部から後方に延出した延出部が、前記蓋体の係合部とヒンジ部の延長線上に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内に複数の筆記体を収容した多芯筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
多芯筆記具において、特開2003−11583号公報「スライド式の多芯筆記具」では、各筆記体の後部に操作部を設けた摺動体を連接し、操作部を軸筒の外方に突出させ、操作部を摺動体に着脱自在に装着したことにより、使用者の好みにあった筆記体に交換した際に、誤った筆記体の選択をすることなく、また操作部の形状や色柄も選択可能とした構成は開示している。
【0003】
前記従来の多芯筆記具は、ユーザーが、交換前に軸筒内に収容されていた筆記体とは異なる種類の筆記体に交換する際、摺動体を軸筒内に残した状態で、摺動体から筆記体と操作部とを取り外し、その後、摺動体に新たな筆記体と新たな操作部とを取り付ける。そのため、筆記体の交換作業が複雑であり、ユーザーが迅速且つ確実な交換を行うことができないおそれがあり、さらに、複数の筆記体を同時に交換する場合、誤って、筆記体とその筆記体に対応しない操作部とを一つの摺動体に取り付けるおそれがある。また、前記操作部は、小さな部品であるため、紛失しやすい。
【0004】
こうした問題を鑑みて、特開2007−38635号公報「多芯筆記具」では、軸筒の後端に、摺動溝を後方に開口させる開口部を設け、前記開口部から、前記摺動体を、軸筒内から取り外し可能及び軸筒内に挿入可能に、蓋体を軸筒に設けたヒンジ部等のヒンジ部に、回動自在に装着した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−11583号公報
【特許文献1】特開2007−38635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、蓋体を回動自在に取り付けする方法には様々な方法が考えられるが、部品点数の増加等を考慮すると、ヒンジ部に回動自在に凹凸嵌合することが最も好ましい。さらに組立性を考慮すると、ヒンジ部に取り付けし易いように、凹凸嵌合力を弱くすることが好ましいが、嵌合し易くする反面、回動時に外れて易いという問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、ユーザーが好みの筆記体とそれに対応した摺動体を軸筒内に交換可能に収容でき、しかも、筆記体及び摺動体を迅速且つ確実に交換することができる多芯筆記具において、蓋体を装着し易く、且つ外れ難い構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、軸筒内に複数の筆記体をコイルスプリングにより軸筒後端方向に付勢して配設し、各筆記体の後部に連接した摺動体を、軸筒に設けた摺動溝に摺動自在に収納するとともに、前記摺動体に、前記摺動溝から外方に突出する操作部を一体に形成または付設し、前記操作部を軸筒先端方向にスライドすることにより、筆記体の筆記部の突出を維持し、前記軸筒の後端部にクリップを付設してなるスライド式の多芯筆記具において、前記軸筒の後端に、摺動溝の後方と連通する開口部を設け、前記開口部から、前記摺動体を、軸筒内から取り外し可能及び軸筒内に挿入可能に構成し、前記軸筒の後端部に、軸筒の外面から突出した基部を形成し、前記蓋体の一端部に設けた係合部が、前記基部に形成したヒンジ部に、回動自在に凹凸係合し、且つ前記蓋体の嵌合部の突部を、前記軸筒の後端部に、後方に向かって突出した被嵌合部の突部に、着脱自在に乗り越し嵌合して、前記開口部を開閉自在に付設するとともに、前記クリップの後端部の側壁に形成した装着部を、前記基部の側壁に形成した被装着部に装着し、前記クリップの装着部から後方に延出した延出部が、前記蓋体の係合部とヒンジ部の径方向における延長線上に位置することを特徴とする。
【0009】
また、前記延出部の内壁と、前記蓋体の係合部の側壁とが隙間を有するとともに、前記隙間が、前記蓋体の係合部のヒンジ部への没入量よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
本願発明の請求項1の構成によれば、前記多芯筆記具は、蓋体を回動して軸筒後端の開口部を開けることで、ユーザーが軸筒内の筆記体を取り外して好みの筆記体に交換できると同時に、摺動体も、軸筒内から取り外してその筆記体に適正に対応したものに交換でき、筆記体と摺動体との誤った連結を防止できる。
【0011】
また、前記クリップの側壁の延出部が、前記蓋体の係合部とヒンジ部の径方向における延長線上に位置し、蓋体の係合部とヒンジ部を覆うように付設してあるため、蓋体の係合部とヒンジ部との係合力が小さくても蓋体の回動によって、蓋体が外れることを防止できる。
【0012】
本願発明の請求項2の構成によれば、前記延出部の内壁と、前記蓋体の係合部の側壁とが隙間を有することで、クリップを装着し易くすることができる。また、前記隙間が、前記蓋体の係合部のヒンジ部への没入量よりも小さくすることで、係合部とヒンジの外れる前に、蓋体と延出部が当接するため、係合部とヒンジの外れ防止効果を損なうことがない。
【0013】
尚、本発明のクリップには、クリップの破損防止や蓋体の外れ防止効果を高めるため、軸筒よりも硬質であることが好ましく、金属製のクリップとすることが最も好ましい。また、蓋体には、PP樹脂、POM樹脂、PC樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂材料や、熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム等の軟質料等を用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ユーザーが好みの筆記体とそれに対応した摺動体を軸筒内に交換可能に収容でき、しかも、筆記体及び摺動体を迅速且つ確実に交換することができる多芯筆記具において、蓋体を装着し易く、且つ外れ難い構造を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1のスライド式の多芯筆記具を示す外観図である。
【図2】図1における筆記部を突出した状態を示す図である。
【図3】図1における蓋体を開いた状態を示す図である。
【図4】図1におけるクリップ側から見た図である。
【図5】図1における筆記体を示す図である。
【図6】図1における筆記体及び摺動体を省略した縦断面図である。
【図7】図6における、一部省略した要部拡大縦断面図である。
【図8】図7におけるA−A断面図である。
【図9】図7におけるB−B断面図である。
【図10】実施例2のスライド式の多芯筆記具の一部省略した要部拡大図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明のスライド式の多芯筆記具の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
実施例1
図1〜図9に示す実施例1のスライド式の多芯筆記具1は、前軸2と後軸3を連結具4を介して螺合により取り付けられる軸筒本体内に複数本(具体的には4本)の筆記体が前後方向に移動可能に収容されている。筆記体15の後部には、筆記体15のインキ収容筒15に収容した筆記具用インキと同色の摺動体9を配設してあり、筆記体15は、コイルスプリング13により後方に付勢してある、従来から知られている出没機構のスライド式の多芯筆記具である。他の筆記体について詳細は図示していないが、筆記体15と同様にして、筆記体を配設してある。
【0017】
筆記体15は、ボールペンレフィルであり、インキ収容筒16の先端部にボールが回転可能に抱持された筆記部17を装着し、インキ収容筒16の内部には、黒色の剪断減粘性を有する水性ゲルインキ及びインキ追従体を直に収容してある。図示はしていないが、他の3本の筆記体も筆記体15と同様に、インキ収容筒の先端部にボールペンチップからなる筆記部を装着し、色の異なる水性ゲルインキ及びインキ追従体を直に収容したボールペンレフィルである。
【0018】
後軸3の後部には、前後方向に延びる細長状の摺動溝3b、3c、3d、3eが4本、形成してあり、互いに、90度間隔に形成される。また、摺動溝3b、3c、3d、3eは、後方が開口した開口部3ba、3caを有していて、後軸3の後端3aで摺動溝3b、3c、3d、3eと連通している。
【0019】
後軸3内には、略円筒状のスプリング支持部8を固着している。スプリング支持部8は、筆記体15が挿通される内孔が軸方向に貫設し、スプリング支持部8と、各々の摺動体9、10間には、コイルスプリング13、14が配置してある。
【0020】
後軸3の後部、且つ後軸3の摺動溝3b、3c間の側面には、外方に向かって突出した基部3hを形成してあり、この基部3hに形成したヒンジ部3iに、ポリプロピレンからなる蓋体5の一端部に設け、クリップ12を正面から見て左右に延出する係合部5cを係合して、蓋体5を回動自在に係合してあり、蓋体5を回動することで、後軸3の後端3aを露出することができる。
【0021】
また、基部3eには、金属製のクリップ12が付設してある。具体的には、クリップ11の後端部12aを略コ字状に形成してあり、クリップ12の後端部12aに形成した鋸歯状の装着部12bを、後軸3に突出した基部3eの溝に装着するとともに、装着部12bから後方に、側面のみを延出した延出部12cが、蓋体5の係合凸部5cとヒンジ部3fを覆うように付設してある。さらにまた、クリップの延出部12cと蓋体5の係合凸部5cとの隙間Mは、ヒンジ部3iに係合した係合部5cの没入量Lよりも小さくしてある。
【0022】
蓋体5には、装着筒部5aを形成してあり、蓋体5が後軸3の後端3aを閉鎖する際、後軸3の後端部に形成した、後方に向かって突出した被装着筒部3fの突出部3gに、装着筒部5aの突部5bを乗り越し嵌合し、蓋体5を後軸3に対し、開閉自在に嵌合してある。
【0023】
また、蓋体5を覆うように、蓋体5に設けた後方に向かって延びる軸部の係止部5dに、ポリカードネードからなる第2蓋体6内の被係止部6bを落とし込み嵌合し、蓋体の一部、具体的には、第2蓋体6は、蓋体5の嵌合部5aの突部5bと後軸3の被嵌合部3fの突出部3gとの乗り越し嵌合の径方向における延長線上を被覆して装着してある。
【0024】
第2蓋体6には、蓋体5の後軸3からの開閉動作を容易にするため、基部3hに係合した係合部5cの軸線に対して対称側の一端部に、外方に向かって突出する取手部6aを一体に形成してある。また、第2蓋体6が蓋体5から離脱しないように、押さえピン7を第2蓋体内に嵌着してある。
【0025】
筆記体15のボールペンチップからなる筆記部17を前軸2の先端開口部2aから突出させるには、摺動体9の操作部9aを、摺動溝3bに沿って、前軸2の先端開口部2a方向へスライドすることにより、摺動体9に形成した係合突起9bが後軸3内に形成した係止部(図示せず)に係止して、筆記体15の筆記部17を前軸2の先端開口部2aから選択して突出を維持することができる。
【0026】
また、筆記体15の筆記部17が前軸の先端開口部2aから突出を維持した状態で、他の摺動体10の操作部10aを前軸2の先端開口部2a方向にスライドすることで、摺動体10の解除突起が、スリーブ18を介して摺動体9の係止を解除し、筆記体15の筆記部17を前軸2内に没入させることができる。筆記体14の筆記部16が没入するとき、その筆記体14に取り付けられた摺動体9の後端部は、蓋体5の前面に形成された当接壁部5dに衝止される。
【0027】
筆記体14を交換するには、蓋体5が後軸3の後端3aを閉鎖した状態から、第2蓋体6の操作部6aを後方に押圧(図1の矢印F方向)し、突出部3eと突部5bとの係合を解除し、蓋体5を後方に回動(図3の矢印G方向)させ、後軸3の後端3aを露出する。
【0028】
蓋体5を回動し、後軸3の後端3aが露出すると、摺動溝3b、3cの開口部3ba、3caから各々の摺動体9、10が、コイルスプリング13、14の後方付勢により後方外部に突出される。この状態から摺動体9を取り出すことにより、その摺動体9と互いに連結状態にある筆記体15を後軸3から取り出し、その後、互いに連結状態にある新たな筆記体(図示せず)と新たな摺動体とを後端が開口した摺動溝3bから後軸3内に挿入する。そして、蓋体5を前方に回動させ、その後、突出部3gと突部5bとを係合させ、後軸3の後端3aを閉鎖する。これにより、筆記体及び摺動体の交換作業が終了するため、ユーザーが好みの筆記体とそれに対応した摺動体を軸筒内に交換可能に収容でき、しかも、筆記体及び摺動体を迅速且つ確実に交換することができる。
【0029】
図10に示す実施例2のスライド式筆記具は、後軸23の後部、且つ後軸23の摺動溝間の側面には、外方に向かって突出した基部23hを形成し、この基部23hに形成した一箇所のヒンジ部23iに、蓋体25の一端部に設けた一箇所の係合部5cを係合して、蓋体25を回動自在に係合した以外は、実施例1と同様にしてスライド式の多芯筆記具を得ている。また、実施例1と同様に、ヒンジ部23iと係合部5cの径方向の延長線上に、クリップ32の延出部32cが位置している。
【0030】
尚、本発明で、筆記体には、例えば、ボールペン、マーキングペン、シャープペンシル等が挙げられる。また、本発明で、軸筒内に収容する筆記体の本数は、2本以上であればよく、具体的には、2本、3本、4本、5本、6本等が挙げられる。
【0031】
また、ヒンジ部と係合部の係合方法は、一箇所又は二箇所でもよく、蓋体を回動自在に係合してあれば特に限定されないが、一箇所のヒンジ部に、蓋体の一端部に設けた一箇所の係合部を係合することで、組立性が著しく向上するので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の多芯筆記具は、インキの種類や筆記部に限定されることなく、多芯筆記具として広く実施可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 スライド式の多芯筆記具
2 前軸
2a 先端開口部
3 後軸
3a 後端
3b、3c、3d、3e 摺動溝
3f 被嵌合部
3g 突起部
3h、23h 基部
3i、23i ヒンジ部
4 連結具
5、25 蓋体
5a、25a 嵌合部
5b 突部
5c 係合部
6、26 第2蓋体
6a、26a 取手部
7 押さえピン
8 スプリング支持部
9、10、11 摺動体
9a、10a、11a 操作部
12、32 クリップ
12a 後端部
12b 装着部
12c、32c 延出部
13、14 コイルスプリング
15 筆記体
17 筆記部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に複数の筆記体をコイルスプリングにより軸筒後端方向に付勢して配設し、各筆記体の後部に連接した摺動体を、軸筒に設けた摺動溝に摺動自在に収納するとともに、前記摺動体に、前記摺動溝から外方に突出する操作部を一体に形成または付設し、前記操作部を軸筒先端方向にスライドすることにより、筆記体の筆記部の突出を維持し、前記軸筒の後端部にクリップを付設してなるスライド式の多芯筆記具において、前記軸筒の後端に、摺動溝の後方と連通する開口部を設け、前記開口部から、前記摺動体を、軸筒内から取り外し可能及び軸筒内に挿入可能に構成し、前記軸筒の後端部に、軸筒の外面から突出した基部を形成し、前記蓋体の一端部に設けた係合部が、前記基部に形成したヒンジ部に、回動自在に凹凸係合し、且つ前記蓋体の嵌合部の突部を、前記軸筒の後端部に、後方に向かって突出した被嵌合部の突部に、着脱自在に乗り越し嵌合して、前記開口部を開閉自在に付設するとともに、前記クリップの後端部の側壁に形成した装着部を、前記基部の側壁に形成した被装着部に装着し、前記クリップの装着部から後方に延出した延出部が、前記蓋体の係合部とヒンジ部の延長線上に位置することを特徴とするスライド式の多芯筆記具。
【請求項2】
前記延出部の内壁と、前記蓋体の係合部の側壁とが隙間を有するとともに、前記隙間が、前記蓋体の係合部のヒンジ部への没入量よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のスライド式の多芯筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−6384(P2013−6384A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141771(P2011−141771)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】