説明

スライド式バルブ及びその製造方法

【課題】陽極接合法により、安定な気液界面を持ち、不純物の溶出を起こさない、狭間隙を形成することで、化学・生化学の分析や反応を安定に精度良く行うことができると共に、安価なスライド式バルブ及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】スライド式バルブは、流路と、第1、第2の開口部26、27を有する第1、第2のガラス基板21、22と、陽極接合法で第1、第2のガラス基板21、22に固定された第1の半導体部材23aと、上記第1、第2のガラス基板21、22と相対的に移動可能な、上記液体が流れる流路と第3の開口部28を有する第2の半導体部材23bとを有している。第1、第2のガラス基板21、22と第2の半導体部材23bとの間には狭間隙部37、38が存在し、第1、第2のガラス基板21、22と対向する第2の半導体部材23bの面には、撥水性金属膜35、36が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスライド式バルブ及びその製造方法に関し、より詳細には、半導体の微細加工技術を用いて製造されるマイクロバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学、或いは生化学分野での反応、分析に於いて、流体を停止させたり、流れ方向を切換えたりする流体制御は不可欠である。例えば、血球計数装置等の分析装置に於いては、液体試料のサンプリングは、一般にスライド式のサンプリングバルブが用いられることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3130608号公報 上記特許文献1に開示されているようなバルブのうち、一般的なスライド式バルブについて、図6を参照して以下に簡単に説明する。
【0003】
図6に示されるように、バルブは2つの固定素子1及び2と、これらの固定素子1及び2の間に配置された可動素子3とにより形成されている。固定素子1及び2に挟まれて位置する可動素子3は、該固定素子1及び2に接触しつつ所定方向に回転するように構成されている。
【0004】
2つの固定素子1及び2の周辺部分には、それぞれの固定素子中心として形成された開口部5及び6に対する同心円上に、本体を上下に貫通する貫通孔9及び10が複数個等間隔に設けられている。そして、それら貫通孔9及び10が連通するように2つの固定素子1及び2は配置されている。また、個々の貫通孔9及び10は、それぞれ独立して他の配管に接続されている。
【0005】
一方、可動素子3の固定素子1及び2との接触面には、1つの貫通孔11が形成されている。この貫通孔11は、固定素子1、2と組合わせた際に、該固定素子1、2の複数個存在する貫通孔9、10のそれぞれ何れか1つと連通して流路が形成されるように形成せれている。
【0006】
すなわち、開口部7を中心として可動素子3を所定方向(例えば図示A方向)に回転させることにより、任意の流路切換えが行われる。そして、上記貫通孔の内面、凹部の内面、及び固定素子の接触面によって構成される流路に、試料や試薬の流体を満たした後、可動素子3を回転させることにより、上記構成された流路の容量分だけ、別流路に試料や試薬を移送することが可能となる。
【0007】
一方、近年、半導体製造技術を用いて微細な流路(マイクロチャンネル)を形成した小さな基板上で、化学・生化学の分析や反応等、広範な化学操作を可能とするマイクロチャンネル構造体が知られている(例えば、特許文献2参照)。このような技術を用いることで、試料や試薬の使用量は極めて少量で済み、反応効率が増すため、解析時間は大幅に短縮し、費用も削減可能となる。
【特許文献2】特開2000−298109号公報 マイクロチャンネル構造体を用いた化学処理にて制御する流体量は、前述した一般のスライドバルブでの制御量の数十〜数百分の一である。このような微小流量を制御するためには、固定素子や可動素子に形成する貫通孔や凹部の容積を低減しなければならない。
【0008】
また、このような化学処理に於いては、一定量の流体を切取って移送するだけでなく、流体を一時的に停止させるストップバルブ機能も必要になる。
【0009】
可動素子内の流路をマイクロチャネル構造体の流路から切り離した際には、スライドバルブ内に形成された貫通孔や凹部に流体が滞留することになる。これらの貫通孔や凹部の容積が大きいと、例えば、化学反応が滞留部内で進行する等の理由により、再びマイクロチャネル構造体の流路に連結した際に、正規の反応や分析に影響を与える汚染源となる可能性がある。
【0010】
このような理由からも、上述した貫通孔や凹部の容量も非常に小さく作製する必要がある。
【0011】
上述した一般のスライドバルブは、機械的に加工した部品を個別に、位置精度良く組み立てることにより作製されている。
【0012】
しかし、前述した貫通孔や凹部の容量を数十〜数百分の一以下に低減しようとすると、加工、組み立て精度が厳しくなるため、その作製コストが大幅に引き上げられることになる。
【0013】
そこで、上述したスライドバルブ機構を半導体製造技術を用いて作製すれば、貫通孔や凹部の容積が小さいバルブを安価で精度よく提供することが可能となる。
【0014】
スライド式バルブ機構の構成は、一定間隔に固定された2つの部材により1つの可動する部材が挟み込まれている。そして、少なくとも一方の固定部材に貫通して形成された液体を導入出する開口部と、可動部材に形成した液体が流れる貫通孔若しくは凹部とが、連通する位置及び連通しない位置に配置できるよう、固定部材は可動部材に対する面に平行な方向に移動可能となっている。
【0015】
また、可動部材と固定部材の間には、可動部材の移動を可能とするための間隙が形成されるが、この間隙部から流体が漏れ出ないようにするため、その間隙には気液界面が形成されなくてはならない。
【0016】
以上の構成から成るスライド式バルブを半導体製造技術を用いて形成するためには、開口部を形成した第1の固定部材に、第2の固定部材との間隙を一定に保つためのスペーサとなる部材を接合し、可動部材を配置した後、第2の固定部材を上記スペーサ上に接合すれば良い。
【0017】
また、化学・生化学の分析や反応に用いる部材の接合に於いて、接着剤は試料や試薬に接着剤成分が溶出して悪影響を及ぼす可能性があるため使用すべきではない。
【0018】
一方、シリコン(Si)等の半導体部材とパイレックス(登録商標)ガラス等のガラス部材とは、200℃〜400℃に加熱した状態で、Si側を陽極として500V前後の電圧を印加する、いわゆる陽極接合法を用いることで強固に接合することが可能となる。
【0019】
このような手法を用いれば、接着剤が不要なため、化学・生化学の分析や反応を安定に精度良く行うことができる。したがって、上記した半導体製造技術を用いたスライド式バルブの製造に於いて、陽極接合法を用いてこれらを接合すれば、化学・生化学の分析や反応を安定に精度良く行うことが可能なスライド式バルブを提供することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、各バルブ毎に個別にスペーサとなる部材を接合したり、可動部材を配置したのでは、安価に位置精度良く作製することはできない。また、上述したように、可動部材が移動可能で、且つ液体が漏れないようにするために、可動部材と固定部材の間には狭間隙部が設けられなくてはならない。
【0021】
しかしながら、陽極接合法は基板間に高電界を印加するため、強い静電吸引力にて部材同士が引付けられ、狭間隙部はつぶれて接合されてしまう。また、間隙が狭くとも親水性であれば、液体は間隙部に入り込みやすいので、完全に液体漏れをなくすことはできない。
【0022】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、陽極接合法により、安定な気液界面を持ち、不純物の溶出を起こさない、狭間隙を形成することで、化学・生化学の分析や反応を安定に精度よく行うことができると共に、安価なスライド式バルブ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
すなわち、第1の発明は、液体が流れる流路と当該流路につながる第1の開口部とを有するガラス部材と、陽極接合法を用いて接合することにより上記ガラス部材に固定された第1の半導体部材と、上記ガラス部材と相対的に移動可能であって、上記液体が流れる流路と当該流路につながる第2の開口部を有する第2の半導体部材と、を具備するスライド式バルブであって、上記ガラス部材と上記第2の半導体部材との間に狭間隙部が存在し、上記狭間隙部の、上記ガラス部材と上記第2の半導体部材の対向する少なくとも一方の面には、撥水性金属膜が形成されていることを特徴とする。
【0024】
このように構成されることにより、通常の陽極接合に於いては、狭間隙部は強い静電引力によりつぶれてしまい、接合されてしまうが、例えば特開平9−329518号公報に開示されているように、ガラス基板側に金属膜を形成しておけば、狭間隙を保って接合することが可能となる。また、半導体部材側に金属膜を形成した場合にも、金属膜とガラス中の酸素との化学結合は起こりにくいため接合されなくなる。そして、本発明に於いては、撥水性金属膜を用いるため、狭間隙部を形成するガラス部材と第2の半導体部材の少なくとも一方の面は撥水性となるので、この間隙部には安定な気液界面が形成される。したがって、このように構成したスライド式バルブは、狭間隙部からの漏れの少ない、化学・生化学の分析や反応を安定に精度よく行うことが可能な本発明のスライド式バルブを提供することができる。
【0025】
その他の発明は、上記ガラス部材に対して上記第1の半導体部材を陽極接合する際に於いては、上記第1の半導体部材と上記第2の半導体部材は一体であることを特徴とする。
【0026】
このように構成することにより、スペーサとなる第1の半導体部材と可動部材である第2の半導体部材とが一体となった半導体部材を、上記第1の固定部材であるガラス部材に接合し、接合後に第1の半導体部材と第2の半導体部材とを分離すれば、各バルブ毎に個別にスペーサとなる第1の半導体部材と可動部材である第2の半導体部材を載せて接合する必用がないので、半導体製造技術を用いて安価に位置精度良く本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0027】
その他の発明は、上記撥水性金属膜は、上記狭間隙部の上記第2の半導体部材側に形成されていることを特徴とする。
【0028】
このような構成によれば、陽極接合可能なガラス部材にはNa等のアルカリ金属イオンが含まれている。アルカリ金属イオンは半導体デバイスの電気特性を劣化させるため、半導体装置内にそのようなガラス基板を入れることは一般に敬遠されるが、本発明の構成に於いては、半導体部材側に撥水性金属膜が形成されているので、撥水性金属膜形成時に半導体製造に用いられる装置を使用することできる。このため、膜厚精度や膜の均質性の高い成膜が可能であり、またゴミやパーティクル、その他不純物の付着も低減するので、安定して精度の高い本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0029】
その他の発明は、上記撥水性金属膜を形成した面に対向する他方の面には撥水性膜が形成されていることを特徴とする。
【0030】
このように構成することにより、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成されるので、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0031】
その他の発明は、上記第2の半導体部材の上記ガラス部材と対向する面には撥水性粒子分散金属膜が、上記ガラス部材の上記第2の半導体部材と対向する面には上記撥水性膜が形成されていることを特徴とする。
【0032】
このように構成することにより、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成され、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0033】
その他の発明は、上記狭間隙部に於いて気液界面が形成されることを特徴とする。
【0034】
このように構成することにより、狭間隙部に液体が流れ込まないので、漏れのない安定した本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0035】
その他の発明は、上記第1の開口部と上記第2の開口部との位置を相対的に変化させることによって、上記開口部同士が接続した状態と離れた状態とを切り換えることが可能となり、上記狭間隙部に形成される上記気液界面が、上記液体の流れる方向に対して垂直に形成される状態と平行に形成される状態とを含む少なくとも2つの状態をとることを特徴とする。
【0036】
このように構成することにより、狭間隙部分に形成される気液界面が、液体の流れる方向に対して垂直に形成されれば液体は流れにくくなり、液体の流れを停止できる。また、狭間隙部分に形成される気液界面が、液体の流れる方向に対して平行に形成されていれば、液体の流れ方向とは異なる方向への液体の漏れがなくなる。したがって、液体の流れを漏れなく制御可能な安定した本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0037】
第2の発明は、液体が流れる流路と当該流路につながる第1の開口部とを有するガラス部材と、上記ガラス部材に対して、陽極接合法を用いて接合することにより固定された第1の半導体部材と、上記ガラス部材と相対的に移動可能であって、上記ガラス部材との間に狭間隙部を有し、上記液体が流れる流路と当該流路につながる第2の開口部とを有する第2の半導体部材と、を具備するスライド式バルブの製造方法であって、上記第1の半導体部材と上記第2の半導体部材とが一体となった半導体部材を形成する工程と、上記狭間隙部の上記ガラス部材と上記第2の半導体部材とが対向する、上記一体となった半導体部材若しくは上記ガラス部材上の少なくとも一方の面に撥水性金属膜を形成する工程と、上記第2の半導体部材と一体となった上記第1の半導体部材を上記ガラス部材に陽極接合する工程と、上記第1の半導体部材が上記ガラス部材に接合された後に上記第1の半導体部材から上記第2の半導体部材を分離する工程と、を有することを特徴とする。
【0038】
このように構成することにより、安価に精度良く、安定に本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【0039】
その他の発明は、上記撥水性金属膜を形成する工程は、上記撥水性金属膜を上記第2の半導体部材に形成する工程を有することを特徴とする。
【0040】
このように構成することにより、撥水性金属膜形成時に半導体製造に用いられる装置を使用することできる。このため、膜厚精度や膜の均質性の高い成膜が可能であり、またゴミやパーティクル、その他不純物の付着も低減するので、安定して精度の高い本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【0041】
その他の発明は、上記撥水性金属膜を形成する工程は、上記撥水性金属膜を形成した面に対向するもう一方の面には更に撥水性膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【0042】
このように構成することにより、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成され、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【0043】
その他の発明は、上記第2の半導体部材に上記撥水性金属膜を、上記ガラス部材に上記撥水性膜を形成する工程を更に具備することを特徴とする。
【0044】
このように構成することにより、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成され、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、陽極接合法により、安定な気液界面を持ち、不純物の溶出を起こさない、狭間隙を形成することで、化学・生化学の分析や反応を安定に精度よく行うことができると共に、安価なスライド式バルブ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、図面を参照して、本発明に係るスライド式バルブの実施形態を詳細に説明する。
【0047】
図1は、本発明の一実施形態によるスライド式バルブの構造を説明するもので、(a)は上面図、(b)は(a)のB−B′線に沿った断面図である。尚、図1(a)に於いて、後述する第2の部材であるガラス基板は、説明の簡単化のため図示を省略している。
【0048】
図1(b)に示されるスライド式バルブ20に於いて、第1の半導体部材23a及び第2の半導体部材23bは、第1のガラス基板21と第2のガラス基板22により挟まれている。第1のガラス基板21及び第2のガラス基板22には、貫通された第1の開口部26及び第2の開口部27が、それぞれ形成されている。これら第1の開口部26及び第2の開口部27は、対応して重なるように配置されている。また、第2の半導体部材23bの所定箇所には、上記第1開口部26及び第2開口部27に対応して貫通された第3の開口部28が形成されている。
【0049】
そして、上記第2の半導体部材23bと第1のガラス基板21及び第2のガラス基板22の間には、狭間隙部37及び38が形成されている。第2の半導体部材23bの第1のガラス基板21と対向する面と、第2のガラス基板22に対抗する面で、且つ上記第3の開口部28の近傍以外の部分には、それぞれ撥水性金属膜35及び36が形成されている。
【0050】
上記撥水性金属膜としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の撥水性樹脂を微粒子化したものを、例えばNi、Au等の金属膜に分散した撥水性金属膜が利用できる。
【0051】
上記第1の半導体部材23aと第1のガラス基板21及び第2のガラス基板22とは、陽極接合法を用いて接合されている。尚、第2の半導体部材23bは、第1の半導体部材23aで囲まれた枠内を、図示矢印C方向に移動可能である。そして、第2の半導体部材23bは、第3の開口部28が、上記第1のガラス基板21及び第2のガラス基板22に形成された第1の開口部26及び第2の開口部27と連結する位置及び連結しない位置に、相対的に位置を変えるよう移動可能となっている。
【0052】
一方、図1(a)に示されるように、第2の半導体部材23bの周囲に、枠状に形成された第1の半導体部材23aが形成されている。この第1の半導体部材23aで第2の半導体部材23bと対向する面側の所定箇所には、第2の半導体部材23bの変位する方向を規制するための接触部32が複数個(この場合4個)、更に第2の半導体部材23bを位置決めするための位置決め部33が複数個(この場合3個)、それぞれ形成されている。
【0053】
また、上記第1の半導体部材23aに形成された接触部32及び位置決め部33は、変位する第2の半導体部材23bとは点接触または線接触するものである。
【0054】
次に、図2を参照して、このように構成されたスライド式バルブ20を作製する製造工程について説明する。
【0055】
先ず、図2(a)に示されるように、第1及び第2の半導体部材を構成するSi等の半導体部材23が準備される。
【0056】
次に、図2(b)に示されるように、上記半導体部材23の一部が両面からエッチングされる等により、薄膜化部23′が形成される。この時、両面での薄膜化量が概ね同等になるように注意する。
【0057】
更に、図2(c)に示されるように、上記薄膜化部23′上の所定位置に、撥水性金属膜35及び36が成膜されることで、一体となった半導体部材が形成される。上記所定位置とは、後述する第2の半導体部材23bとなる際に形成される第3の開口部28を除く位置である。上記撥水性金属膜35及び36は、Si上に、例えばNi薄膜がスパッタ形成された後、撥水性粒子として、例えばPTFE粒子が分散されたNiメッキ液が用いられて、複合メッキが施されることで形成される。
【0058】
この複合メッキ皮膜は、例えば、特許第3151533号公報に記載されているように、フッ化黒鉛、PTFE、フッ化ピッチ等の撥水性粒子をメッキ液中に分散させ、電解或いは無電解メッキを行うことにより、金属メッキ膜中に撥水性粒子を共析させた複合膜である。この皮膜は、バルクとしては金属の性質を持ち導電性を有するが、表面は共析した撥水性粒子の影響で撥水性を持つことが知られている。
【0059】
また、撥水性金属膜は、成膜後その表面と一体となった半導体部材に於けるガラス基板との接合面までの距離が10μm以下になるような厚さに形成される。これにより、部材同士を接合した際、撥水性金属膜形成部表面と対面するガラス基板表面との間隙は、10μm以下になるので、液体の流路抵抗が間隙部において非常に大きくなる。
【0060】
一方、図2(a2)に示されるように、第1のガラス基板21が準備される。
【0061】
次いで、図2(b2)に示されるように、上記第1のガラス基板21に貫通孔が形成されることで、第1の開口部26が形成される。この第1の開口部26は、例えば、薬液やガスによるエッチング、サンドブラスト、超音波、レーザ加工、ドリル等の機械加工等を用いて形成することができる。
【0062】
次に、図2(c2)に示されるように、上記第1のガラス基板21の上面、すなわち、上記半導体部材23に於いて後に第2の半導体部材23bとなる部位に対向する箇所に、犠牲層40が形成される。犠牲層40の材質としては、例えば、レジスト等のSiやガラス基板、撥水性金属膜よりもエッチング除去されやすい膜が形成される。
【0063】
ここで、図2(d)に示されるように、図2(c)に示される工程にて形成された一体となった半導体部材23と、図2(c2)に示される工程にて形成された第1のガラス基板21とが、陽極接合法が用いられて接合される。このとき、半導体部材23に形成される第3の開口部28となるべく位置と、第1のガラス基板21の第1の開口部26の位置と対向するように、位置合わせが行われて接合される。
【0064】
そして、図2(e)に示されるように、半導体部材23の薄膜化部23′に、貫通孔が形成されることで、第3の開口部28が形成される。それと共に、半導体部材23が第1の半導体部材23aと第2の半導体部材23bとに分離される。
【0065】
また、図2(a3)及び(b3)に示される工程にて、上述した図2(a2)及び(b2)に示される工程と同様にして、第2のガラス基板23が加工されて第2の貫通孔としての第2の開口部27が形成される。
【0066】
次いで、図2(f)に示されるように、上記第1のガラス基板21と第1の半導体部材23aとが一体的に接合されたものの第1の半導体部材23a側(図2(f)に於いて上側)に、更に第2のガラス基板23が位置合わせされて陽極接合される。
【0067】
最後に、図2(g)に示されるように、犠牲層40が除去されることで、第2の半導体部材23bが第1のガラス基板21から切り離される。
【0068】
以上により、本実施形態によるスライド式バルブ20が完成する。
【0069】
次に、図3を参照して、本実施形態に於けるスライド式バルブの動作について説明する。
【0070】
図3は、本実施形態に於けるスライド式バルブの動作について説明する図である。
【0071】
本スライド式バルブ20の第2の半導体部材23bは、第3の開口部28が形成されている面と平行方向、すなわち図示矢印C方向に、第1の半導体部材23aに囲まれた範囲内で移動可能である。そして、第3の開口部28を、第1及び第2の開口部26及び27と連結する位置及び連結しない位置に配置させることが可能となっている。
【0072】
第2の半導体部材23bの第3の開口部28の開口面と、それに対向する第1及び第2のガラス基板21及び22の面との間には、第2の半導体部材23bを移動可能とするための狭間隙部37及び38が、それぞれ形成されている。
【0073】
ここで、本実施形態のスライド式バルブの構造に於いて、撥水性金属膜を形成しなかった場合の例について説明する。
【0074】
この場合、狭間隙部の流路抵抗はさほど大きくならないので、図3(c)に示されるように、第3の開口部28が第2の開口部27に連結しない位置に配置された状態に於いても、第2のガラス基板22に形成された第2の開口部27に液体を導入すると、狭間隙部38に液体は流れ込む。そして、第2の半導体部材23bの端部等を伝わって、反対面の狭間隙部37へと進行し、第1のガラス基板21に形成された第1の開口部26へと流れ込んで導出されてしまう。
【0075】
図3(a)は、撥水性金属膜を有した本実施形態によるスライド式バルブ20に於いて、第3の開口部28が、第1の開口部26及び第2の開口部27に連結された位置に配置された状態を示している。
【0076】
この状態に於いて、第2のガラス基板22に形成された第2の開口部27に液体を導入する。すると、液体は第3の開口部28を経由して、第1のガラス基板21に形成された第1の開口部26から導出させることができる。
【0077】
ところで、第2の半導体部材23bと、第1及び第2のガラス基板21及び22との間には、狭間隙部37及び38が形成されているが、第2の半導体部材23bの第3の開口部28の周囲には、撥水性金属膜35及び36が形成されている。そして、狭間隙部37、38方向の流路抵抗が第3の開口部28或いは第1及び第2の開口部26、27方向への流路抵抗に比べて非常に大きくなる。そのため、導入された液体は、第2の開口部27から第3の開口部28、第1の開口部26の方向に流れる。
【0078】
このとき、狭間隙部37及び38は気体で満たされているため、液体が流れる方向と平行に気液界面42が、第1、第2の開口部26、27と、第3の開口部28の間を流れる液体の周りに形成される。
【0079】
また、図3(b)は、第3の開口部28が第1及び第2の開口部26及び27に連結しない位置に配置された状態を示している。この状態に於いて、第2のガラス基板22に形成された第2の開口部27に液体を導入すると、第2の開口部27と第3の開口部28は連結していないので、液体は狭間隙部38へと流れ込もうとする。しかしながら、撥水性金属膜36により、狭間隙部38は撥水性となっており、流路抵抗が非常に高いので流れこむことができない。したがって、図3(b)に示されるように、液体は第2の開口部27端で留まってしまう。
【0080】
尚、狭間隙部39は気体で満たされているので、気液界面42は液体が進行する方向とは垂直方向に形成される。
【0081】
以上のように、本実施形態のスライド式バルブは、第2の半導体部材23bを移動させることで、第2のガラス基板に形成された第2の開口部に導入した液体を、第1のガラス基板に形成された第1の開口部から導出したり、しなかったりすることが可能なバルブ素子として用いることができる。
【0082】
尚、図4に示されるように、第2の半導体部材23bに対向するガラス基板側に、それぞれ撥水性金属膜45、46が形成されるようにしてもよい。
【0083】
これにより、陽極接合時に狭間隙が接合されることはないので、安定して本実施の形態のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【0084】
また、図5(a)に示されるように、撥水性金属膜35、36、45、46は、第2の半導体部材側23bと、それに対向するガラス基板側との両面に形成されていてもよい。これにより、狭間隙部の撥水性が更に向上して流路抵抗が大きくなるため、より、漏れの少ない本実施の形態のスライド式バルブを提供することができる。
【0085】
更にまた、図5(b)に示されるように、第2の半導体部材23b側には撥水性金属膜35、36を、それに対向するガラス基板21、22側には撥水膜47、48が形成されていてもよい。これにより、ガラス基板側には容易に形成できる撥水膜を用いても狭間隙が形成でき、狭間隙の撥水性は第2の半導体部材側のみに撥水性金属膜を形成した場合より高まるので、より漏れの少ない本実施の形態のスライド式バルブを安価に提供することができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態以外にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【0087】
尚、請求項1に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項1に記載の発明によれば、通常の陽極接合に於いては、狭間隙部は強い静電引力によりつぶれてしまい、接合されてしまうが、例えば特開平9−329518号公報に開示されているように、ガラス基板側に金属膜を形成しておけば、狭間隙を保って接合することが可能となる。また、半導体部材側に金属膜を形成した場合にも、金属膜とガラス中の酸素との化学結合は起こりにくいため接合されなくなる。そして、本発明に於いては、撥水性金属膜を用いるため、狭間隙部を形成するガラス部材と第2の半導体部材の少なくとも一方の面は撥水性となるので、この間隙部には安定な気液界面が形成される。したがって、このように構成したスライド式バルブは、狭間隙部からの漏れの少ない、化学・生化学の分析や反応を安定に精度よく行うことが可能な本発明のスライド式バルブを提供することができる。
【0088】
請求項2に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項2に記載の発明によれば、スペーサとなる第1の半導体部材と可動部材である第2の半導体部材とが一体となった半導体部材を、上記第1の固定部材であるガラス部材に接合し、接合後に第1の半導体部材と第2の半導体部材とを分離すれば、各バルブ毎に個別にスペーサとなる第1の半導体部材と可動部材である第2の半導体部材を載せて接合する必用がないので、半導体製造技術を用いて安価に位置精度良く本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0089】
請求項3に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項3に記載の発明によれば、陽極接合可能なガラス部材にはNa等のアルカリ金属イオンが含まれている。アルカリ金属イオンは半導体デバイスの電気特性を劣化させるため、半導体装置内にそのようなガラス基板を入れることは一般に敬遠されるが、本発明の構成に於いては、半導体部材側に撥水性金属膜が形成されているので、撥水性金属膜形成時に半導体製造に用いられる装置を使用することできる。このため、膜厚精度や膜の均質性の高い成膜が可能であり、またゴミやパーティクル、その他不純物の付着も低減するので、安定して精度の高い本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0090】
請求項4に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施の形態が対応する。そして、請求項4に記載の発明によれば、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成されるので、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0091】
請求項5に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項5に記載の発明によれば、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成され、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0092】
請求項6に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項6に記載の発明によれば、狭間隙部に液体が流れ込まないので、漏れのない安定した本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0093】
請求項7に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項7に記載の発明によれば、狭間隙部分に形成される気液界面が、液体の流れる方向に対して垂直に形成されれば液体は流れにくくなり、液体の流れを停止できる。また、狭間隙部分に形成される気液界面が、液体の流れる方向に対して平行に形成されていれば、液体の流れ方向とは異なる方向への液体の漏れがなくなる。したがって、液体の流れを漏れなく制御可能な安定した本発明のスライド式バルブを提供することが可能となる。
【0094】
請求項8に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項8に記載の発明によれば、安価に精度良く、安定に本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【0095】
請求項9に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項9に記載の発明によれば、撥水性金属膜形成時に半導体製造に用いられる装置を使用することできる。このため、膜厚精度や膜の均質性の高い成膜が可能であり、またゴミやパーティクル、その他不純物の付着も低減するので、安定して精度の高い本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【0096】
請求項10に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項10に記載の発明によれば、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成され、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【0097】
請求項11に記載の発明に関する実施形態は、第1の実施形態が対応する。そして、請求項11に記載の発明によれば、狭間隙部分の撥水性は更に向上するので、より安定な気液界面が形成され、狭間隙部への液体漏れが非常に少ない安定した特性を持つ本発明のスライド式バルブを作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の一実施形態によるスライド式バルブの構造を説明するもので、(a)は上面図、(b)は(a)のB−B′線に沿った断面図である。
【図2】本発明の一実施形態により構成されたスライド式バルブ20を作製する製造工程について説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態に於けるスライド式バルブの動作について説明する図である。
【図4】本発明の一実施形態に於けるスライド式バルブの他の構成例を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に於けるスライド式バルブの更に他の構成例を示す断面図である。
【図6】従来のスライド式バルブの構成例を示した図である。
【符号の説明】
【0099】
20…スライド式バルブ、21…第1のガラス基板、22…第2のガラス基板、23a…第1の半導体部材、23b…第2の半導体部材、26…第1の開口部、27…第2の開口部、28…第3の開口部、32…接触部、33…位置決め部、35、36…撥水性金属膜、37、38…狭間隙部、40…犠牲層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流れる流路と当該流路につながる第1の開口部とを有するガラス部材と、
陽極接合法を用いて接合することにより上記ガラス部材に固定された第1の半導体部材と、
上記ガラス部材と相対的に移動可能であって、上記液体が流れる流路と当該流路につながる第2の開口部を有する第2の半導体部材と、
を具備するスライド式バルブであって、
上記ガラス部材と上記第2の半導体部材との間に狭間隙部が存在し、
上記狭間隙部の、上記ガラス部材と上記第2の半導体部材の対向する少なくとも一方の面には、撥水性金属膜が形成されていることを特徴とするスライド式バルブ。
【請求項2】
上記ガラス部材に対して上記第1の半導体部材を陽極接合する際に於いては、上記第1の半導体部材と上記第2の半導体部材は一体であることを特徴とする請求項1に記載のスライド式バルブ。
【請求項3】
上記撥水性金属膜は、上記狭間隙部の上記第2の半導体部材側に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式バルブ。
【請求項4】
上記撥水性金属膜を形成した面に対向する他方の面には撥水性膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式バルブ。
【請求項5】
上記第2の半導体部材の上記ガラス部材と対向する面には撥水性粒子分散金属膜が、上記ガラス部材の上記第2の半導体部材と対向する面には上記撥水性膜が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のスライド式バルブ。
【請求項6】
上記狭間隙部に於いて気液界面が形成されることを特徴とする請求項1に記載のスライド式バルブ。
【請求項7】
上記第1の開口部と上記第2の開口部との位置を相対的に変化させることによって、上記開口部同士が接続した状態と離れた状態とを切り換えることが可能となり、上記狭間隙部に形成される上記気液界面が、上記液体の流れる方向に対して垂直に形成される状態と平行に形成される状態とを含む少なくとも2つの状態をとることを特徴とする請求項6に記載のスライド式バルブ。
【請求項8】
液体が流れる流路と当該流路につながる第1の開口部とを有するガラス部材と、
上記ガラス部材に対して、陽極接合法を用いて接合することにより固定された第1の半導体部材と、
上記ガラス部材と相対的に移動可能であって、上記ガラス部材との間に狭間隙部を有し、上記液体が流れる流路と当該流路につながる第2の開口部とを有する第2の半導体部材と、
を具備するスライド式バルブの製造方法であって、
上記第1の半導体部材と上記第2の半導体部材とが一体となった半導体部材を形成する工程と、
上記狭間隙部の上記ガラス部材と上記第2の半導体部材とが対向する、上記一体となった半導体部材若しくは上記ガラス部材上の少なくとも一方の面に撥水性金属膜を形成する工程と、
上記第2の半導体部材と一体となった上記第1の半導体部材を上記ガラス部材に陽極接合する工程と、
上記第1の半導体部材が上記ガラス部材に接合された後に上記第1の半導体部材から上記第2の半導体部材を分離する工程と、
を有することを特徴とするスライド式バルブの製造方法。
【請求項9】
上記撥水性金属膜を形成する工程は、上記撥水性金属膜を上記第2の半導体部材に形成する工程を有することを特徴とする請求項8に記載のスライド式バルブの製造方法。
【請求項10】
上記撥水性金属膜を形成する工程は、上記撥水性金属膜を形成した面に対向するもう一方の面には更に撥水性膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項8に記載のスライド式バルブの製造方法。
【請求項11】
上記第2の半導体部材に上記撥水性金属膜を、上記ガラス部材に上記撥水性膜を形成する工程を更に具備することを特徴とする請求項10に記載のスライド式バルブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−144963(P2006−144963A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337754(P2004−337754)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】