説明

スライバ供給クリール

【課題】クリールガイドの床面からの高さが容易に調整可能なスライバ供給クリールを提供する。
【解決手段】スライバ供給クリール100は、ケンス80より供給されるスライバ81を案内するクリールガイド30,40と、クリールガイド30,40を装着するクリールパイプ10と、床に対して固定され、クリールパイプ10の一端部を回動自在に支持し、クリールパイプ10を上下回動自在とする支持部20と、クリールパイプ10に当接してクリールパイプ10の回動範囲の下限を与える制止部材60と、回動範囲の下限よりもクリールパイプ10が上方にあるときに、クリールパイプ10の他端部を載せて支持するための支持部材50と、を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機や精紡機にスライバを供給するスライバ供給クリールの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紡績機の後方に配置されたケンスからスライバをクリールガイドを介して上方に引き上げ、その後水平方向へ案内しながら紡績機に供給するスライバ供給クリールの技術は公知となっている(特許文献1、2参照)。
【0003】
図7に示すように、従来のスライバ供給クリール300は、紡績機310の上部に固定した支持部320にクリールパイプ330を横方向に固着したものである。クリールパイプ330は複数のクリールガイド340を装着している。ケンス350から引き出されたスライバ360は、クリールガイド340・340・・・を介して、紡績機310のドラフト装置へと送られる。クリールパイプ330は支持部320に固定されるため、作業者が立つ床面からの高さや、床面に対する傾きは常時一定に保持されている。作業者が立つ床面からクリールパイプ330までの高さは、作業者が通行する際の障害とならないことを考慮してある程度の高さ(例えば男性の平均身長程度)を有して固着されている。
【0004】
特許文献1、2には、クリールパイプの床面からの高さ及び傾斜角度を調整可能にしたスライバ供給クリールが開示されている。特許文献1、2のスライバ供給クリールは、原料であるスライバの種類の変更に応じて、クリールガイドの位置を変更可能としたクリールである。
【特許文献1】実開平3−34074号公報
【特許文献2】特開平8−35135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クリールパイプ330は背の低い作業者にとっては高い位置に固着されているため、背の低い作業者はスライバ360をクリールガイド340に通す作業をする際に台などを使用して作業を行わなければならず作業性が悪いという問題点があった。また、そのような作業性の悪い状況で作業を行うため、特に細い番手のスライバ360を処理する場合には上記作業時にスライバが切れる、又は上記作業時に作業者が隣に設置しているスライバに接触してスライバの品質を低下させる等の不具合が生じていた。
【0006】
さらに、クリールガイド340が作業者が立つ床面から離れた位置にあると、クリールガイド340からケンス350の上面までの距離が長くなるため、特にスライバ360がクリールガイド340からケンス350に向けて垂れ下がる部分はスライバ360自体の重みで延びて細くなる。この結果、紡績機で紡績された糸の品質を低下させるという問題点もあった。
【0007】
一方、特許文献1、2のスライバ供給クリールはクリールパイプの床面からの高さ及び傾斜角度が調整可能であるが、ボルト等で固定する構成となっているため、高さ及び傾斜角度を調整するたびにボルト等の固定を解除しなくてはならない。特許文献1、2のスライバ供給クリールは、原料としてのスライバの種類の変更に応じてクリールパイプの高さや傾斜角度を変更するなど、クリールパイプの高さや傾斜角度の調整頻度が少ない場合を意図して製造されたクリールである。このため、スライバをクリールガイドに載せるたびにクリールパイプを上下させるような場合に、一々ボルト等の固定を解除し再び固定するとなると、クリールパイプの位置調整の作業性が悪い。
【0008】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、クリールガイドの床面からの高さが容易に調整可能なスライバ供給クリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
当該目的を達成するために、請求項1に記載のスライバ供給クリールは、ケンスより供給されるスライバを案内するクリールガイドと、前記クリールガイドを装着するクリールパイプと、床に対して固定され、前記クリールパイプの一端部を回動自在に支持し、前記クリールパイプを上下回動自在とする支持部と、前記クリールパイプに当接して前記クリールパイプの回動範囲の下限を与える制止部材と、前記回動範囲の下限よりも前記クリールパイプが上方にあるときに、前記クリールパイプの他端部を載せて支持するための支持部材と、を有するものである。
【0010】
以上の構成により、以下の作用がある。
作業者がクリールパイプを支持部材に載せればクリールパイプは比較的高い位置に静止し、作業者がクリールパイプを制止部材に当接させるとクリールパイプは比較的低い位置に静止する。このように、クリールパイプの床面からの高さが可変となる。すなわち、クリールパイプに装着されているクリールガイドの床面からの高さも可変となる。
【0011】
請求項2においては、ケンスより供給されるスライバを案内するクリールガイドと、前記クリールガイドを装着するクリールパイプと、床に対して固定され、前記クリールパイプの一端部に固定される支持軸を支持し、前記クリールパイプを上下回動自在とする支持部と、前記クリールパイプが上方移動する方向で前記支持軸の回転を許容し、逆方向での回転を制止するラチェットと、前記ラチェットによる前記支持軸の回転の制止を解除する解除手段と、を備えるものである。
【0012】
以上の構成により、以下の作用がある。
ラチェットがクリールパイプの自重によりクリールパイプが下方移動することを阻止する。また、解除手段がラチェットによる阻止を解除することで、クリールパイプが回転自在となる。
【0013】
請求項3においては、請求項1又は2記載のスライバ供給クリールであって、前記クリールガイドは、前記クリールパイプの軸方向に沿って複数個配置され、前記複数のクリールガイドのうち、前記クリールパイプの前記他端部側に配置されるクリールガイドは、前記クリールガイドに回転自在に設けられる回転式のクリールガイドとし、前記クリールパイプの下方に設置される前記ケンスから供給される前記スライバを前記回転式のクリールガイドから案内し、その後他の前記クリールガイドを介して案内するものである。
【0014】
以上の構成により、以下の作用がある。
クリールガイドを回転式とすることで、スライバに引っ張り力が加えられた場合に、クリールガイドにおける摩擦抵抗のためクリールガイドに対してスライバが滑らなくても、クリールガイドが回転することでスライバが流れるようになる。ケンスから供給される直後のスライバを案内するクリールガイドでは、スライバにケンスに向けて垂れ下がる部分の重量が荷重として掛かっている。つまり、スライバが強く接触するために摩擦抵抗が高められているクリールガイドにおいて、スライバの搬送に逆らう抵抗として摩擦抵抗が作用せず、クリールガイドの回転抵抗のみが作用するようになっている。
【0015】
請求項4においては、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスライバ供給クリールであって、前記クリールパイプと直交して一定間隔で固定される複数の支持短軸を具備し、前記クリールガイドが前記支持短軸の両端部に設置されるものである。
【0016】
以上の構成により、以下の作用がある。
1本のクリールパイプに多数のクリールガイドが装着可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
請求項1においては、作業者がクリールパイプを持ち上げて支持部材に載せるとクリールパイプを高い位置で静止させることができ、クリールパイプを支持部材から外して制止部材に当接させるとクリールパイプを高い位置で静止させることができる。このようにして、クリールパイプに支持されるクリールガイドの高さ位置を容易に調整することができる。クリールガイドの床面からの距離が容易に可変であることから、処理時はクリールパイプを高い位置で固定することで作業者の通行の障害とならないようにできるとともに、スライバをクリールガイドに通す作業時にはクリールパイプを低い位置で固定することで作業性を向上することができる。
【0019】
クリールガイドでスライバを支持する位置が高くなるとスライバが自重により延びたり切れたりする弊害があるが、クリールガイドの位置を上下に変更可能としたことにより、高位置にあるクリールガイドでは延びたり切れたりする恐れのあるスライバであっても、低位置にあるクリールガイドでは問題がない場合がある。このように、クリールで使用可能なスライバの範囲を広げることができる。
【0020】
請求項2においては、ラチェット及び解除手段によりクリールパイプの回動及び制止を制御できることから、クリールパイプの床面からの高さを可変とするとともに、自在にクリールパイプの高さを固定することができる。また、ラチェットによりクリールパイプを固定するため、上下位置変更の作業性が良く、クリールパイプを固定するための部品の点数を少なくすることができる。
【0021】
請求項3においては、スライバがクリールガイドから受ける抵抗が軽減されているので、スライバが延びたり切れたりするのを防止できる。
【0022】
請求項4においては、1本のクリールパイプに多数のクリールガイドを装着可能であることから、クリールガイドを支持するために必要なクリールパイプの必要本数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るスライバ供給クリール100について図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係るスライバ供給クリール100についての側面図、図2はスライバ供給クリール100の平面図、図3は図2のA−A、B−B、C−C断面図、図4はクリールパイプ10の支持部20側端部近傍の拡大図である。尚図3において、スライバ及びケンスの断面図は省略する。
【0024】
図1に示すように、スライバ供給クリール100は、クリールパイプ10と、支持部20と、クリールガイド30と、クリールガイド40と、支持部材50と、制止部材60と、から構成されている。スライバ供給クリール100は、ケンス80から引き出したスライバ81を紡績機70の紡績ユニット71(図2)に供給するための装置である。クリールパイプ10の一端側(支持部20側)に紡績ユニット71が位置し、クリールパイプ10の他端側(支持部材50側)にケンス80が配置されている。
【0025】
紡績機70は、スライバ81を原料として紡績糸を製造する装置である。紡績機70には、並列に配置される多数の紡績ユニット71と、これらの紡績ユニット71を支持するフレーム72を備えている。各紡績ユニット71は、スライバ81より紡績糸を製造する一単位の装置である。
【0026】
ケンス80は、紡績機70の後方に、紡績ユニット71の台数分配置されている。またケンス80は、クリールパイプ10の支持部20の反対側で、且つ回転式のクリールガイド30の下方に設置される。
【0027】
次に、スライバ供給クリール100の各構成について詳しく説明する。
【0028】
クリールパイプ10はクリールガイド30、40を装着するための部材である。クリールパイプ10は、クリールパイプを装着する水平部11と、水平部11を支える直立部12と、からなる略L字状の棒状部材である。クリールパイプ10は直立部12の端部を支持部20により回動自在に支持されている。またクリールパイプ10は、水平部11の端部が紡績ユニット71の後方に配置されたケンス80に向くように設置されている。
【0029】
図2に示すように、クリールパイプ10は水平部11の長手方向に対して直交して一定間隔で固定される複数の支持短軸13を具備している。支持短軸13は端部に固定式のクリールガイド30又は回転式のクリールガイド40が設置されている。
【0030】
支持部20は、支持軸21と、支持台22とから形成される。支持軸21は、クリールパイプ10を支持する支持軸であり、クリールパイプ10の直立部12の端部を回動自在に支持する。支持軸21は、クリールパイプ10に固定されている。尚、支持軸21がクリールパイプ10を回動自在に支持する構成であれば、支持軸21がクリールパイプ10に固定されている構成に限定されない。支持台22は、支持軸21を支持する支持台であり、図2に示すように、紡績機70のフレーム72の上部に設置されている。
【0031】
クリールガイド30、40は、ケンス80より供給されるスライバ81を紡績ユニット71へ案内するガイド部材である。クリールガイド30、40は、クリールパイプ10の軸方向(図2の上下方向)に沿って配置されている。クリールガイド30、40は、支持短軸13の端部に装着されている。クリールパイプ10の軸方向に沿って一列に配置されているクリールガイド30、40は、1つのケンス80に対応したクリールガイド群を形成し、ケンス80から供給されるスライバ81はそのクリールガイド群に案内されて紡績ユニット71へ供給される。
【0032】
クリールガイド30は、クリールパイプ10に対して回転自在である回転式のクリールガイドである。図3(a)に示すように、クリールガイド30の形状は鼓状(軸方向の中央部から両端部に向けて径が大きくなる形状)である。スライバ81は、クリールガイド30の軸中央側で、クリールガイド30から脱落することなく安定的に支持される。クリールガイド30の軸心位置には、支持短軸13を挿通する孔部32が形成されている。クリールガイド30は支持短軸13の端部に回動自在に支持されている。図2に示すように、クリールガイド30は、同一のクリールパイプ10に一列に支持されるクリールガイド群(合計5つのクリールガイド)のうち、支持部20の反対側に配置されるクリールガイドである。
【0033】
クリールガイド40は、クリールパイプ10に対して固定である固定式のクリールガイドである。図3(b)に示すように、クリールガイド40は、ガイド体41と、ガイド体41の両端部に固定されるフランジ42・42と、を有する。ガイド体41は、円筒状部材を半分に割った一辺に相当する部材である。フランジ42は、ガイド体41よりも径が大きな扇形状部材である。スライバ81はガイド体41に案内され、フランジ42・42によりクリールガイド40から脱落することを防止される。クリールガイド30は支持短軸13の端部に固着されている。図2に示すように、クリールガイド40は、同一のクリールパイプ10に一列に支持されるクリールガイド群(合計5つのクリールガイド)のうち、支持部20側に配置されるクリールガイドである。
【0034】
支持部材50はクリールパイプ10を支持するための支持部材である。支持部材50はクリールパイプ10の支持部20の反対側に設置されている。図3(c)に示すように、支持部材50はJ字状の部材である。支持部材50は、固定パイプ51に固定されて支持されている。固定パイプ51は、紡績ユニット71の並び方向(図1の紙面垂直方向)と平行に配置されている。また、固定パイプ51は、図示せぬ支持部材により床面に対して固定されている。
【0035】
支持部材50はクリールパイプ10の上下回動の移動経路上に配置されている。作業者は、クリールパイプ10を支持部材50に載せようとする際に、支持部材50の下面にクリールパイプ10が当たるのを避ける必要がある。ここで、クリールパイプ10は支持部20で支持され、支持部材50に載せられる側のクリールパイプ10の端部(他端部)は、支持部20から遠い位置にある。このため、クリールパイプ10の他端部は、クリールパイプ10の撓み等により、左右方向(図2、図3(c)の左右方向)に若干揺動しうる状態にある。以上構成により、作業者は、支持部材50の下面にクリールパイプ10が当たるのを避けながら、クリールパイプ10を支持部材50に載せることが可能である。尚、クリールパイプ10を支持部材50に載せる際にクリールパイプ10が支持部材50と干渉するのを防止する構成としては、次のような構成であってもよい。例えば、支持部材50を固定パイプ51に対して左右揺動自在とする。
【0036】
制止部材60はクリールパイプ10に当接してクリールパイプ10の回動範囲の下限を与える制止部材である。制止部材60は支持部20の下部に設けた板状体である。図2に示すように、制止部材60は支持部20の支持台22に設置されている。制止部材60の上面は水平面に対して角度を有して設置され、この角度によってクリールパイプ10の回動範囲の下限が決まる。
【0037】
次に、スライバ供給クリール100の上下方向の動作について説明する。
図1に示すように、スライバ供給クリール100においては、クリールパイプ10が支持部20の支持軸21を中心に上下方向に揺動する。これによりクリールパイプ10の床面からの距離が可変となるとともに、クリールガイド30・40の床面からの距離も可変となる。尚、クリールパイプ10の床からの高さは、支持部20の高さ、直立部12の長さ、及び支持部20からの突出角度によって決まる。クリールパイプ10は、支持部20の反対側端部が支持部材50により支持されることで床面に対して水平方向に保持される。ここで、支持部材50の支持は、クリールパイプ10の端部を支持部材50の内径面50aに載置することで行う。従って、スライバ供給クリール100は、クリールパイプ10の支持をボルト等で固定して行わないため、上下位置変更の作業性が良く、クリールパイプ10を支持するための部品の点数が少ない。
【0038】
一方、クリールパイプ10は支持部材50の支持が解除されると、クリールパイプ10の自重により下方向へ移動する。ここで、支持部材50の支持の解除は、クリールパイプ10の端部を支持部材50のJ字の端部より上方に上げ、支持部材50の横方向へ移動することで行う。従って、スライバ供給クリール100は、クリールパイプ10の支持の解除の際にボルト等を外すといった作業がないため、上下位置変更の作業性が良い。下方向へ移動するクリールパイプ10は、図4に示すように、支持部20側端部が制止部材60に当接することで制止する。このクリールパイプ10の制止する位置が、クリールパイプ10の回動範囲の下限となる。
【0039】
このように、スライバ供給クリール100においては、クリールパイプ10の端部を上下に移動させるだけで、支持部20を中心に上下方向に揺動する。スライバ供給クリール100においては、支持部材50にクリールパイプ10の端部を載置するだけで、クリールパイプ10が床面(或いはケンス80の上面)から高い位置で床面に対して水平方向に保持される。また、支持部材50に載置しているクリールパイプ10の端部を支持部材50から外すだけで、クリールパイプ10は支持部材50から低い位置まで下降して床面(或いはケンス80の上面)に近接した低い位置で保持される。
【0040】
次に、紡績ユニット71においてスライバ81を処理する際のスライバ供給クリール100の動作について説明する。
【0041】
紡績ユニット71においてスライバ81を処理する場合には、紡績ユニット71ごとに割り振られたケンス80からスライバ81を引き上げる。ケンス80から引き上げられたスライバ81は、まず回転式のクリールガイド30に案内される。特に、ケンス80から引き上げられたスライバ81が最初に案内されるクリールガイド30において、スライバ81には、ケンス80に垂れ下がる部分の重量が荷重として掛かっている。このため、スライバ81と最初のクリールガイドとの間の摩擦抵抗が増大している。このような状態でスライバ81が紡績ユニット71側に引っ張られると、クリールガイドの摩擦抵抗がスライバ81の搬送に逆らう力として作用し、スライバ81が延びたり切れたり痛んだりする。そこで、最初のクリールガイドを回転式のクリールガイド30としている。この場合、クリールガイド30における摩擦抵抗のためクリールガイド30に対してスライバが滑らなくても、クリールガイド30が回転することでスライバが流れるようになる。つまり、クリールガイド30の摩擦抵抗がクリールガイド30の回転抵抗を超えれば、搬送されるスライバ81には、クリールガイド30の回転抵抗のみが、スライバの搬送に逆らう抵抗として作用する。これにより当該摩擦抵抗によるスライバの切断が防止できる。スライバ81は、クリールガイド30に案内されることで、上方に引き上げられていた向きが、クリールパイプ10の軸方向に転換される。
【0042】
回転式のクリールガイド30に案内されたスライバ81は、クリールパイプ10の軸方向に沿って配置される他のクリールガイド30又は固定式のクリールガイド40に順に案内される。つまり、スライバ81は上述したクリールガイド群に沿って案内される。
【0043】
以上説明した本実施の形態に係るスライバ供給クリール100によれば、クリールパイプ10の端部を上下に移動させるだけでクリールガイド30、40の床面からの距離を容易に変更可能であることから、処理時はクリールパイプ10を高い位置で固定することで作業者の通行の障害とならないようにできるとともに、スライバ81をクリールガイド30、40に通す作業時にはクリールパイプ10を低い位置で固定することで作業性を向上することができる。
【0044】
また、クリールガイド30、40の位置を上下に変更可能であるため、高位置にあるクリールガイド30、40では延びたり切れたりする恐れのあるスライバ81であっても、クリールガイド30、40の位置を低位置にすることでスライバ81の延び、切れを防止できる。従って、スライバ供給クリールで使用可能なスライバの範囲を広げることができる。
【0045】
さらに、ケンス80から引き上げられるスライバ81をまず回転式のクリールガイド40に案内することから、スライバ81とクリールガイド40との摩擦抵抗が小さくなり、特に細い番手のスライバを処理する場合には当該摩擦抵抗によるスライバの切断が防止できる。
【0046】
さらにまた、クリールパイプ10に複数の支持短軸13を設け、その端部にクリールガイド30、40を装着することで、これまで2本のクリールパイプに装着していたクリールガイドを1本のクリールパイプに装着することができるため、クリールガイド30、40を支持するために必要なクリールパイプ10の必要本数を削減することができる。
【0047】
次に、他の実施例であるスライバ供給クリール200の各構成について詳しく説明する。
図5は本発明の実施形態に係るスライバ供給クリール200についての側面図である。スライバ供給クリール200は、スライバ供給クリール100と同じクリールパイプ10、支持部20、クリールガイド30、40、支持部材50を具備するため、これら構成の説明は省略する。尚、スライバ供給クリール200においては、支持部材50を具備する構成となっているが、当該構成に限定されるものではなく、支持部材50を省略した構成であってもよい。一方で、スライバ供給クリール200は、スライバ供給クリール100と異なり、支持部20近傍にラチェット90を具備する。
【0048】
図5に示すように、スライバ供給クリール200は、クリールパイプ10の高さ位置を多段階で変更可能となるように構成されている。スライバ供給クリール200には、ラチェット90と、ラチェット90の解除手段である解除用レバー91(図6)と、が備えられている。ラチェット90は、クリールパイプ10の支持軸21に固定されるセグメント部材92と、支持軸21の軸心側へ付勢されてセグメント部材92に当接するラッチ爪93と、を備えている。ラッチ爪93は、図示せぬスプリングによりセグメント部材92側に当接するように付勢されている。また、解除用レバー91は、ラッチ爪93がセグメント部材92に当接する状態を解除するためのレバーである。支持軸21はクリールパイプ10に固定され、セグメント部材92は支持軸21に固定されている。これにより、クリールパイプ10、支持軸21、及びセグメント部材92のすべてが互いに固定されている。
【0049】
図6はラチェット90近傍の側面図である。図6に示すように、ラチェット90は、セグメント部材92と、ラッチ爪93と、から構成されている。ラチェット90は、クリールパイプ10が上方移動する方向では、支持軸21の回転を許容するが、クリールパイプ10が下方移動する方向では、支持軸21の回転を許容しない。このように、ラチェット90は、支持軸21の回転方向を一方向(図6のD方向)にのみ許容する。
【0050】
セグメント部材92には、支持軸21の周方向に沿って、複数の爪部94が形成されている。ラッチ爪93は、一端部で回動自在に設けられている。ラッチ爪93の先端(他端)は、図示せぬスプリングにより付勢されて、セグメント部材92の外周面に当接する。そして、セグメント部材92が支持軸21回りの一方向(D方向)に回転しようとするときに、ラッチ爪93がいずれかの爪部94と噛合って、セグメント部材92の回転を制止する。一方、セグメント部材92が逆方向(反D方向)に回転しようとするときは、ラッチ爪93は爪部94を乗り越えて、セグメント部材92の回転を制止しない。ここで、セグメント部材92自体は、クリールパイプ10の自重のため、常に反D方向に回転するように付勢されている。このため、通常(解除用レバー91の操作時以外)は、セグメント部材92の回転はラッチ爪93により制止されている。
【0051】
解除用レバー91は、ラチェット90による支持軸21の反D方向における回転の制止を解除するためのレバーである。解除用レバー91は、ラッチの先端部に固定された取っ手である。解除用レバー91を支持軸21から遠ざかる方向(図示下方向:矢印E方向)に引くことで、ラッチ爪93の先端がセグメント部材92に当接する状態が解除される。
【0052】
支持軸21の回転は、例えば、作業者がクリールパイプ10を持って上方向または下方向に移動させることで行われる。クリールパイプ10が上方向に移動するときセグメント部材92はD方向に回転し、クリールパイプ10が下方向に移動するときセグメント部材92は反D方向に回転する。ただし、クリールパイプ10を下方向に移動させることができるのは、解除用レバー91を操作してセグメント部材92とラッチ爪93との当接を解除した場合のみである。
【0053】
次に、スライバ供給クリール200の上下方向の動作について説明する。
スライバ供給クリール200においても、スライバ供給クリール100と同様にクリールパイプ10が支持部20の支持軸21を中心に上下方向に揺動する。これによりクリールパイプ10の床面からの距離が可変となるとともに、クリールガイド30・40の床面からの距離も可変となる。図6に示すように、スライバ供給クリール200は、ラッチ爪93の規制位置、すなわちラッチ爪93が噛合う爪部94を、セグメント部材92に備える複数の爪部94のいずれかに変更することで、クリールパイプ10の高さ位置を多段階で変更できる。
【0054】
このラチェット90の構成では、セグメント部材92に爪部94が4つ形成されている。このため、ラチェット90を備えるスライバ供給クリール200においては、クリールパイプ10の高さ位置は4段階で調整可能となっている。
【0055】
このように、スライバ供給クリール200においては、ラチェット90よりクリールパイプ10の自重による落下を制止することで、クリールパイプ10の高さを可変とするとともに、クリールパイプ10の高さを多段階で調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係るスライバ供給クリール100についての側面図。
【図2】スライバ供給クリール100の平面図。
【図3】図2のA−A、B−B、C−C断面図。
【図4】クリールパイプ10の支持部20側端部近傍の拡大図。
【図5】本発明の実施形態に係るスライバ供給クリール200についての側面図。
【図6】スライバ供給クリール200のラチェット90近傍の側面図。
【図7】従来のスライバ供給クリール200についての側面図。
【符号の説明】
【0057】
10 クリールパイプ
20 支持部
21 支持軸
30、40 クリールガイド
50 支持部材
60 制止部材
70 紡績機
80 ケンス
81 スライバ
90 ラチェット
91 解除用レバー(解除手段)
100、200 スライバ供給クリール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケンスより供給されるスライバを案内するクリールガイドと、
前記クリールガイドを装着するクリールパイプと、
床に対して固定され、前記クリールパイプの一端部を回動自在に支持し、前記クリールパイプを上下回動自在とする支持部と、
前記クリールパイプに当接して前記クリールパイプの回動範囲の下限を与える制止部材と、
前記回動範囲の下限よりも前記クリールパイプが上方にあるときに、前記クリールパイプの他端部を載せて支持するための支持部材と、を有すること
を特徴とするスライバ供給クリール。
【請求項2】
ケンスより供給されるスライバを案内するクリールガイドと、
前記クリールガイドを装着するクリールパイプと、
床に対して固定され、前記クリールパイプの一端部に固定される支持軸を支持し、前記クリールパイプを上下回動自在とする支持部と、
前記クリールパイプが上方移動する方向で前記支持軸の回転を許容し、逆方向での回転を制止するラチェットと、
前記ラチェットによる前記支持軸の回転の制止を解除する解除手段と、
を備えることを特徴とするスライバ供給クリール。
【請求項3】
前記クリールガイドは、前記クリールパイプの軸方向に沿って複数個配置され、
前記複数のクリールガイドのうち、前記クリールパイプの前記他端部側に配置されるクリールガイドは、前記クリールガイドに回転自在に設けられる回転式のクリールガイドとし、
前記クリールパイプの下方に設置される前記ケンスから供給される前記スライバを前記回転式のクリールガイドから案内し、その後他の前記クリールガイドを介して案内すること
を特徴とする請求項1又は2記載のスライバ供給クリール。
【請求項4】
前記クリールパイプと直交して一定間隔で固定される複数の支持短軸を具備し、
前記クリールガイドが前記支持短軸の両端部に設置されること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスライバ供給クリール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−41153(P2009−41153A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209755(P2007−209755)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】