説明

スライム剥離剤およびスライム剥離方法

【課題】本発明の課題は上記の問題点を克服することであり、具体的にはスライムの剥離効果に優れ、安全性が高く、かつ低腐食性のスライム剥離剤およびスライム剥離方法を提供することである。
【解決手段】(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸を有効成分として含有することを特徴とするスライム剥離剤、及び被処理水中に、(A)〜(C)の反応によって得られるモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素を存在させて処理するスライム剥離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系、紙パルプ製造プロセスの各種水系、鉄鋼製造プロセスの各種水系、集塵水系、排水系統、切削油などの金属加工処理水系などの各種水系において、スライムの剥離効果に優れ、しかも安全性が高く、かつ低腐食性であるスライム剥離剤およびスライム剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、紙パルプ製造工程や鉄鋼製造工程などの各種プロセス水系、切削油水系などの水系では、細菌類、真菌類、藻類などから構成されるスライムが系内に発生し、伝熱効率の低下、配管の閉塞、金属材質の腐食などの微生物障害を引き起こす。このような微生物障害を回避する方法として、付着したスライムを剥離洗浄するスライム剥離剤、あるいは殺菌や殺藻やスライムの付着を防止するためのスライムコントロール剤などが使用されている。スライムコントロール剤は主に水中の微生物の生育を抑制することにより微生物の付着を低減させるものであり、菌の酵素反応の阻害や細胞膜の変性などにより菌を死滅させたり、菌の増殖を抑制する。一方、スライム剥離剤は主に細胞外に生成される多糖類に由来する粘性物質の粘性を低下させることにより、細菌の集合体を分散させスライムを剥離する。このようにそれぞれの作用が異なるため、スライムコントロール剤として有効な薬剤であってもスライム剥離剤としては有効とはいえない。
【0003】
従来、水系で発生する微生物由来のスライムを剥離するための洗浄剤として次亜ハロゲン酸生成化合物、過酸化水素やヒドラジンが知られている。次亜ハロゲン酸生成化合物はスライム剥離効果が認められる濃度で使用すると、熱交換器や配管などの金属材質に対する腐食が顕著である。過酸化水素は金属に対する腐食性は低いが、スライム剥離効果を発揮するためには高濃度の添加が必要であり、経済的でない。ヒドラジンは有毒であり発癌性の疑いがあるため、環境上の問題や安全性の面から使用されない傾向にある。
【0004】
特許文献1には、塩素系酸化剤と、スルファミン酸および/またはその塩を含有するスライム剥離剤が開示されている。この方法は、塩素系酸化剤とスルファミン酸が反応して生成するクロロスルファミン酸が効果を発現するものであるが、モノクロラミンや次亜塩素酸と比較すると酸化力が弱く、スライムの剥離効果も十分ではない。
【0005】
特許文献2には、次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニアとを残留塩素(Cl)に対するアンモニウムイオンのモル比が1:1.2〜1.8で混合した混合液を用いることを特徴とする微生物の生育を抑制する方法が示されているが、一旦付着したスライムを剥離する方法は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−267811号公報
【特許文献2】特開2008−221152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は上記の問題点を克服することであり、具体的にはスライムの剥離効果に優れ、低腐食性であって、かつ安全性が高いスライム剥離剤およびスライム剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、被処理水中に、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸の反応によって得られるモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素を存在させて処理するスライム剥離方法であれば、比較的低い添加量で効果的にスライムを剥離でき、また、金属に対する腐食性を増加させることなく、更にヒドラジンを用いないので取り扱い上の安全性が高いことを見出した。そして、この剥離方法に適した、被処理水に対する(A)〜(C)の各成分の添加比率、及び(A)〜(C)の各成分を有効成分として含有するスライム剥離剤組成も見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち請求項1に係る発明は、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸を有効成分として含有するスライム剥離剤であって、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対する(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比が0.6〜1.5であり、かつ、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩のモル比が20:80〜80:20であることを特徴とするスライム剥離剤である。
【0010】
請求項2に係る発明は、被処理水中に、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸の反応によって得られるモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素を存在させて処理するスライム剥離方法であって、被処理水に対する(A)〜(C)の各成分の添加比率が、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対する(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比として0.6〜1.5であり、かつ、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩のモル比として20:80〜80:20であって、剥離処理期間中の被処理水中の全残留塩素濃度をCl換算で15〜300mg/Lの範囲に維持するように前記(A)〜(C)の各成分、又は(A)〜(C)を有効成分として含有する請求項1記載のスライム剥離剤を被処理水に添加することを特徴とするスライム剥離方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスライム剥離剤およびスライム剥離方法を冷却水系、冷温水系、チラー水、紙パルプ製造プロセスの各種水系、鉄鋼製造プロセスの各種水系、集塵水系、排水系統、逆浸透装置、水泳プール、貯水槽、浴槽、切削油などの金属加工処理水系などの各種水系に添加することにより、各種微生物によって生成されたスライムを効果的に剥離することができる。また、金属に対する腐食性が低く、取り扱い上の安全性が高いという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例に使用した試験装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩は、アンモニア、アンモニア水、アンモニウム塩として市販されているものがそのまま使用できる。アンモニウム塩の種類は特に限定されないが、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウムなどの水溶性塩類が使用される。
【0014】
本発明の(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩は市販されているのがそのまま使用できる。スルファミン酸塩の種類は特に限定されないが、例えばスルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸リチウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸マグネシウム、スルファミン酸亜鉛、スルファミン酸アンモニウムなどの水溶性塩類が使用される。最も好ましくは、スルファミン酸とアンモニアの混合水溶液あるいはスルファミン酸アンモニウムの水溶液を用いた製剤である。
【0015】
本発明の(C)次亜塩素酸は水中で溶解して次亜塩素酸を生成する化合物が用いられるが、例えば次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムなどの次亜塩素酸塩、液化塩素、ブロモクロロジメチルヒダントイン、ジクロロジメチルヒダントインなどのハロゲン化ジメチルヒダントイン化合物類やトリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸、クロロイソシアヌル酸やそれらの塩類などが挙げられるが、好ましくは次亜塩素酸塩と液化塩素である。前記次亜塩素酸塩の形態としては、水溶性および経済性などの観点からナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩が好適である。また、次亜塩素酸は塩化物イオンを含む水溶液を電気分解して得ることもできる。
【0016】
本発明において、これらの次亜塩素酸を生成する化合物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。次亜塩素酸を生成する化合物は、安価で取り扱いが容易であり、水に速やかに溶解して次亜塩素酸を速やかに生成する化合物が好ましく、この点で次亜塩素酸ナトリウムが最適である。次亜塩素酸ナトリウムは、有効塩素がCl換算で12%以上の市販品が使用できる。
【0017】
本発明のスライム剥離剤は、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸を有効成分として含有し、他に、溶媒としての水を含有することができ、また、本発明の効果を減じない範囲で、腐食抑制剤、スライムコントロール剤、他のスライム剥離剤、スケール抑制剤、分散剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、及び消泡剤などを同時に含む組成物としてもよい。
【0018】
本発明のスライム剥離剤では、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(C)次亜塩素酸が反応して主にモノクロラミン性結合塩素が生成(反応1)し、その他に遊離塩素やジクロラミン性結合塩素も少量生成する。また、(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸も反応して主にジクロラミン性結合塩素が生成(反応2)し、その他に遊離塩素やモノクロラミン性結合塩素も少量生成する。
【0019】
1モルのアンモニアと1モルの次亜塩素酸を反応させる反応1では、下記式のように1モルのモノクロラミン性結合塩素(NHCl)が生成する。
Cl+HO=HClO+HCl
NH+HClO=NHCl+H
【0020】
また、1モルのスルファミン酸と1モルの次亜塩素酸を反応させる反応2では、ほぼ1モルのジクロラミン性結合塩素が生成するが、ここで生成するジクロラミン性結合塩素の形態はジクロラミンではなく、主にN−モノクロロスルファミン酸(HOS−NHCl)であると推定される。
HOS−NH+HClO=HOS−NHCl+H
このことはN−モノクロロスルファミン酸はジクロラミンと同程度の酸化力を有することを意味する。
【0021】
いま仮に、0.5モルのアンモニアと0.5モルのスルファミン酸と1モルの次亜塩素酸を反応させると、次式のように0.5モルのモノクロラミン性結合塩素と0.5モルのジクロラミン性結合塩素すなわちN−モノクロロスルファミン酸が生成する。
(1/2)NH+(1/2)HOS−NH+HClO
=(1/2)NHCl+(1/2)HOS−NHCl+H
【0022】
この反応は、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対する(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比が1.0であり、かつ、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩のモル比が50:50のスライム剥離剤における反応例である。
【0023】
すなわち、本発明のスライム剥離剤は、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸を含有し、上記の反応1、及び反応2を進行させることにより、モノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素の2種の反応生成物の混合物が得られ、該スライム剥離剤が添加される被処理水系ではこれら2種の反応生成物の相乗効果により優れたスライム剥離効果を発現すると考えられる。
【0024】
本発明のスライム剥離剤の調製方法は、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸を混合する方法に特に制限はないが、好ましくは希釈水の入った容器に次亜塩素酸を生成する化合物を加えて撹拌し、次いでアンモニアおよび/またはアンモニウム塩とスルファミン酸および/またはスルファミン酸塩を加えて撹拌して調製する。このとき、このスライム剥離剤中における次亜塩素酸の濃度はCl換算で0.005〜3%の範囲になるように配合することが好ましく、次亜塩素酸濃度がこの範囲を超えると目的の反応生成物を効率よく生成することができず、十分な剥離効果が得られない。
【0025】
前記スライム剥離剤の製品pHは7〜11の範囲であることが好ましく、このpHがこの範囲を外れると目的の反応物を効率よく生成することができず、十分な剥離効果が得られない。このスライム剥離剤の製品pHが7を下回る場合は、水酸化ナトリウムなどの水溶性のアルカリ金属水酸化物を添加し、11を越える場合は水を加えて、該製品pHが前記のpH範囲内に収まるように調整する。
【0026】
また、前記の添加順序を逆にして(C)次亜塩素酸を生成する化合物を後で加えると、局所的に高濃度となった次亜塩素酸が(A)アンモニアと反応してモノクロラミン性結合塩素以外に不安定なジクロラミンが生成し、モノクロラミン性結合塩素の収率が20%ほど低下するため好ましくない。より好ましい調製方法は、希釈水を被処理水系に対して連続的に通水する混合用配管を設置し、当該混合用配管に(1)次亜塩素酸注入点、(2)ラインミキサー、(3)アンモニア+スルファミン酸の注入点、(4)ラインミキサーをそれぞれ(1)〜(4)の順序で設置し、(1)の次亜塩素酸注入点より注入ポンプなどにより次亜塩素酸ナトリウム水溶液を注入するとともに、(3)のアンモニア+スルファミン酸の注入点よりアンモニアとスルファミン酸の混合水溶液を注入ポンプなどにより注入して調製する方法である。更に好ましくは、被処理水の残留塩素の自動濃度測定装置や酸化還元電位の測定結果を基に、所定の残留塩素濃度や酸化還元電位になるようにアンモニアおよび/またはアンモニウム塩、スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩、次亜塩素酸生成化合物の注入ポンプを制御する方法である。ここで用いられる希釈水は、工業用水、水道水、井水、軟化水、脱イオン水などであってもよく、被処理水系の工程水や循環水であってもよい。
【0027】
本発明のスライム剥離剤における次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対するアンモニアおよび/またはアンモニウム塩とスルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比は、通常0.6〜1.5の範囲であるが、好ましくは 0.8〜1.2である。この比が0.6未満では未反応の次亜塩素酸が被処理水系に供給され、被処理水系における腐食性が増す。一方、この比が1.5を超えると、未反応のアンモニアおよび/または未反応のスルファミン酸が被処理水系に供給され、未反応アンモニアの場合は被処理水系に存在する銅合金などの金属の腐食が発生し易くなり、また、未反応のスルファミン酸の場合は、スルファミン酸が高価なため、非経済的となる。
【0028】
被処理水系に対する本発明のスライム剥離剤の添加方法としては、例えば、前記のように、次亜塩素酸を生成する化合物を水で希釈し、そこに、アンモニアおよび/またはアンモニウム塩とスルファミン酸および/またはスルファミン酸塩を加えて撹拌して調製した本発明のスライム剥離剤を被処理水系に添加すればよいが、調製後のスライム剥離剤を5分間以内に被処理水系に速やかに添加することが重要である。これは、アンモニアと次亜塩素酸との反応により生成するモノクロラミン性結合塩素の貯蔵安定性が劣るためであり、例えば、アンモニアおよび/またはアンモニウム塩とスルファミン酸および/またはスルファミン酸塩を混合した水溶液は安定であるので、アンモニアおよび/またはアンモニウム塩とスルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の混合水溶液を製剤として保存しておき、使用の都度、この製剤と次亜塩素酸と反応させてスライム剥離剤を調製し、直ちに被処理水系に添加しても良い。あるいは、スルファミン酸と次亜塩素酸との反応により生成するN−モノクロロスルファミン酸はアルカリ性であれば貯蔵安定性が良いので、 スルファミン酸と次亜塩素酸塩とアルカリ金属水酸化物の混合水溶液を製剤として保存しておき、使用の都度、この製剤とともにアンモニアおよび/またはアンモニウム塩と次亜塩素酸と反応させて得られたモノクロラミン性結合塩素と混合してスライム剥離剤を調製し、直ちに被処理水系に添加しても良い。
【0029】
本発明のスライム剥離方法は、被処理水中に、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸の反応によって得られるモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素を存在させて処理するスライム剥離方法であって、被処理水に対する(A)〜(C)の各成分の添加比率が、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対する(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比として0.6〜1.5であり、かつ、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩のモル比として20:80〜80:20であって、剥離処理期間中の被処理水中の全残留塩素濃度をCl換算で15〜300mg/Lの範囲に維持するように前記(A)〜(C)の各成分、又は(A)〜(C)を有効成分として含有する本発明のスライム剥離剤を被処理水に添加することを特徴とするスライム剥離方法であり、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸は、被処理水にそれぞれ上記の添加比率で別個に添加しても良いが、次亜塩素酸がアンモニアやスルファミン酸と反応する前に光や熱などにより分解したり、被処理水中の有機物や還元性物質と反応してしまい目的とする反応生成物が効率よく得られなくなるのを防止するために、あらかじめ(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸を有効成分として含有する本発明のスライム剥離剤を前記の方法で調製した上で、該スライム剥離剤を被処理水に添加することが好ましい。
【0030】
本発明のスライム剥離剤を被処理水に添加することにより、(A)〜(C)の被処理水に対する添加比率が、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対する(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比として0.6〜1.5であり、かつ、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩のモル比として20:80〜80:20になる。
【0031】
また、本発明のスライム剥離方法では、被処理水系における全残留塩素濃度がCl換算で通常1〜1000mg/Lになるように添加されるが、好ましくは15〜300mg/L、より好ましくは15〜200mg/Lの範囲である。
【0032】
本発明のスライム剥離方法において、例えば、剥離処理期間中の被処理水中の全残留塩素濃度をCl換算で15〜300mg/Lの範囲に維持するためには、剥離処理期間中に被処理水中の全残留塩素濃度を測定し、その結果に基づいて、適宜、(A)〜(C)の各成分、又は(A)〜(C)を有効成分として含有する本発明のスライム剥離剤を被処理水系に添加すればよいが、本発明のスライム剥離剤を被処理水系に添加することが簡便で好ましい。
【0033】
被処理水中の全残留塩素濃度がCl換算で15mg/Lを下回ると、スライム剥離効果が低下し、それ以上のスライム剥離が進行しなくなる可能性があり、また、被処理水中の全残留塩素濃度がCl換算で300mg/Lを上回る場合は、スライム剥離効果は十分発揮されるが、適用する薬剤量の増加に見合うスライム剥離効果の上昇が認められず、費用に見合う効果が期待できない。
【0034】
剥離処理期間中の被処理水中の全残留塩素濃度の測定は、JIS K0101「工業用水試験方法」などに記載されているジエチル−p―フェニレンジアミン(DPD)比色法、DPD−第一硫酸鉄滴定法などで測定できるが、濃度測定法の具体例を以下に示す。
【0035】
(残留塩素測定方法)
N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩の1.0gとエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物の1.0gとリン酸一水素カリウムの38.2gとリン酸二水素カリウムの59.8gを乳鉢で混合してDPD希釈粉末とする。
(1)200mLトールビーカーに0.5gのDPD希釈粉末を加える。
(2)100mLの試験水を加え、攪拌してDPD希釈粉末を溶解させる。
(3)速やかに2.82mM硫酸第一鉄溶液で滴定する。赤色が無色になった点を終点とする。このときの滴定量をA(mL)する。
(4)更に0.5%ヨウ化カリウム溶液0.1mLを加えて、速やかに2.82mM硫酸第一鉄溶液で滴定し、赤色が無色になった点を終点とする。このときの滴定量をB(mL)する。
(5)更にヨウ化カリウム1gを加えて溶かし、約2分間静置して赤に発色させる。速やかに2.82mM硫酸第一鉄溶液で滴定し、赤色が無色になった点を終点とする。このときの滴定量をC(mL)する。
(6)次式により各成分の濃度が示される。
遊離残留塩素(mgCl/L)=A
モノクロラミン性結合塩素(mgCl/L)=B
ジクロラミン性結合塩素(mgCl/L)=C
全結合塩素(mgCl/L)=B+C
全残留塩素(mgCl/L)=A+B+C
【0036】
本発明のスライム剥離方法を実施することによって、被処理水中のモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素が、Cl換算濃度でほぼ10:90〜90:10の比率の範囲内で存在することになる。
【0037】
本発明のスライム剥離方法を、例えば、冷却水系に適用する場合は、該水系のブローを閉止した上で、循環水中に(A)〜(C)の各成分、又は(A)〜(C)を有効成分として含有する本発明のスライム剥離剤を所定量添加してスライム剥離処理を開始する。このとき、可能な限り該水系の熱負荷を下げ、できれば、熱負荷なしとすることが望ましいが、熱負荷が掛かった状態であっても本スライム剥離方法は適用できる。ただし、熱負荷が掛かった状態では、次第に水系の濃縮度が上昇するため、濃縮度の管理範囲を越える場合は、適宜、間欠ブローを実施し、それに伴って低下する(A)〜(C)の各成分を循環水中の全残留塩素濃度測定結果に基づいて、適宜、追加添加する。
【0038】
本発明のスライム剥離方法における剥離処理期間は、対象となる水系や、そのスライム付着状況によって異なり、通常は、2時間以上であるが、好ましくは6時間以上であり、その上限は特に制限はないが、通常48時間以内である。
【0039】
本発明のスライム剥離方法を適用する被処理水系のpHは特に制限はないが、通常pH5〜11の範囲である。本発明のスライム剥離方法を適用する被処理水系の水温は特に制限はなく、通常は0〜80℃の範囲であるが、十分なスライム剥離効果を得るためには50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明のスライム剥離方法では、各種の好気性バクテリア、嫌気性バクテリア、黴、酵母、大腸菌などの微生物や貝類、原生動物、藻類などの系内に付着している微生物や水棲生物を剥離除去できるだけでなく、殺菌・殺藻・殺黴・殺貝作用などにより微生物や水棲生物を殺滅することもできる。また、レジオネラ属菌の剥離や殺菌に対しても有効である。
【0041】
本発明のスライム剥離方法は、炭素鋼、鋳鉄、オーステナイト系やフェライト系やマルテンサイト系の各種のステンレス鋼、純銅、及び、りん脱酸銅、アルミニウム黄銅、アドミラルティ黄銅、キュプロニッケルなどの各種の銅合金、更に各種のアルミニウム合金などの金属材質に対して適用可能である。
【0042】
本発明のスライム剥離方法では、本発明の効果を減じない範囲で、腐食抑制剤、他のスライムコントロール剤やスライム剥離剤、スケール抑制剤、分散剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤などを同時に用いてもよい。
【0043】
本発明のスライム剥離方法は、被処理水系の金属材質に対する腐食性が小さいが、腐食防止剤と併用することにより腐食をさらに低減することができる。例えば、被処理水系に銅系材質がある場合、腐食抑制剤としてベンゾトリアゾールおよびその誘導体の添加が好ましい。ベンゾトリアゾールおよびその誘導体は、1,2,3−ベンゾトリアゾールや置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール(置換基としてアルキル基、カルボキシル基、塩素、臭素、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基から選択される1種以上)などであり、これらの2種以上組み合わせて使用してもよい。また、被処理水系に鉄系材質がある場合、腐食抑制剤として有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、重合リン酸塩、亜鉛塩、モリブデン酸塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸などを併用するのが好ましい。
【0044】
本発明のスライム剥離方法では、スライムコントロール剤として公知の化合物を併用してもよい。このようなスライムコントロール剤の例として、2−メチルイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−5−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−ジクロロイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン等のイソチアゾリン化合物;2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド等の有機ブロム化合物;メチレンビスチオシアネート、ビス−(1,4−ジブロムアセトキシ)−2−ブテン、ベンジルブロムアセテート、ソジウムブロマイド、α−ブロモシンナムアルデヒド、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)亜鉛、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、 ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、ビス(トリクロルメチル)スルホン、ジチオカーバメート、3,5−ジメチルテトラヒドロ−1,3,5,2H−チアジアジン−2−チオン、ブロム酢酸エチルチオフェニルエステル、α−クロ ルベンゾアルドキシムアセテート、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、及びp−クロル−m−キシレノールなどが挙げられる。
【0045】
本発明のスライム剥離方法では、スライム剥離剤として公知の化合物と併用してもよい。このようなスライム剥離剤の例として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩などのアニオン性界面活性剤、ポリエチレングルコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマー、ポリアルキレングルコールアルキルフェニルエーテル、ポリアルキレングルコールアルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤、アルキレンポリグルコシド、高級不飽和脂肪族ジメチルアミド、酵素などが挙げられる。
【0046】
本発明のスライム剥離方法では、スケール抑制剤、分散剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤などとして公知の化合物を併用して用いても良い。特に本発明のスライム剥離方法では、スライムの粘性により抱き込まれた無機粒子が再分散されるため、これらの無機粒子の再沈着を防止するための分散剤やキレート剤の添加が好ましい、
【0047】
このような分散剤の例として、モノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体などが挙げられる。ここで、モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステルなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド;エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテンなどの炭素数2〜8のオレフィン;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどのビニルアルキルエーテル;マレイン酸アルキルエステルなどがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。分散剤の好ましい例は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、共役ジエンスルホン化物と(メタ)アクリル酸の共重合体などである。分散剤の分子量は、平均分子量として1,000〜100,000が好ましいが、より好ましくは4,000〜20、000である。
【0048】
また、前記のキレート剤の好ましい例として、エチレンジアミン四酢酸塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸塩、トリエチレンテトラミン六酢酸塩、1,3−プロパンジアミン四酢酸塩、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸塩、ジヒドロキシエチルグリシン、グルコン酸塩、ヘプトグルコン酸塩、N,N−ジカルボキシメチルグルタミン酸塩、2−ヒドロキシエチリデン−2,2−ジホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などが挙げられる。
【0049】
上記に例示した腐食抑制剤、スライムコントロール剤、他のスライム剥離剤、分散剤、キレート剤などは、本発明の効果を減じない範囲で、本発明のスライム剥離剤に同時に含んでもよい。
【実施例】
【0050】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1〜10、比較例1〜5)
実機の冷却塔より採取した藻類を主体としたスライムを純水で洗浄し、200メッシュスクリーン(JIS Z8801、75μm)にてろ過して大きな塊を取り除いた。一方、四日市水を一昼夜放置して残留塩素を除去して試験水とした。三角フラスコに前記スライムの3mlと試験水100mL加えシリコン栓にて蓋をして、窓際に約1ヶ月静置し、スライムをフラスコ底部に固着させた。
【0052】
フラスコ内の溶液を全量捨てて、表1に示すスライム剥離剤を含む水溶液を加え、シリコン栓にて蓋をし、25℃を維持しながら振とう器にて撹拌した。30分間経過後に水溶液を捨ててフラスコ底部に残ったスライムの量を外観より目視にて比較した。その試験結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

(記号の説明) +++:剥離効果が大 ++:中程度の剥離効果
+:剥離効果が小 −:変化なし

【0054】
また、表1に示すスライム剥離剤を含む水溶液のうち、実施例1、4、5、比較例1、及び2に用いた水溶液の調製直後の、残留塩素濃度を測定した結果を表2に示した。
【0055】
【表2】

残留塩素濃度単位:mgCl/L

【0056】
実施例1〜5は、(A):(B)モル比を20:80から80:20まで変化させた例であるが、いずれも良好なスライム剥離効果を示しており、特に、(A):(B)モル比が40:60から60:40の範囲のスライム剥離効果が高いことが示された。また、実施例1、4、5については、用いた水溶液(=被処理水)の調製直後の残留塩素濃度を測定したが、その全塩素濃度はいずれも50mgCl/L(表2参照)であり、また、水溶液中のモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素の比がCl換算濃度で30:70(実施例1)、78:22(実施例2)、及び52:48(実施例5)であって、いずれも10:90〜90:10の比率の範囲内であることも証明された。
【0057】
一方、比較例1、及び2は、(A):(B)モル比が、本発明が規定する範囲から外れており、実施例1〜5に比べてスライム剥離効果が劣っていることが示された。比較例1、及び2に用いた水溶液の全塩素濃度はいずれも50mgCl/L(表2参照)であり、この点では本発明が規定する範囲に合致しているが、水溶液中のモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素の比がCl換算濃度で92:8(比較例1)、2:96(比較例2)であって、いずれも10:90〜90:10の比率の範囲からも外れていることも示された。
【0058】
また、比較例1と比較例2のスライム剥離効果を加えても、その効果は実施例5に及ばないことは明らかであり、本発明のスライム剥離方法を実施して被処理水中にモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素を特定の比率で存在させることによって、これら2種の結合塩素の相乗効果により優れたスライム剥離効果が発現したと判断できる。
【0059】
実施例5〜9は、{(A)+(B)}/(C)モル比を0.6から1.5まで変化させた例であるが、いずれも良好なスライム剥離効果を示しており、特に、{(A)+(B)}/(C)モル比が0.8から1.2の範囲のスライム剥離効果が高いことが示された。一方、比較例3、及び4は、{(A)+(B)}/(C)モル比が、本発明が規定する範囲から外れており、実施例5〜9に比べてスライム剥離効果が劣っていることが示された。
【0060】
また、実施例10は、実施例5に対して(A)〜(C)の各成分の被処理水に対する添加量を2/5に減じた例であるが、良好なスライム剥離効果を示している。一方、比較例5は、従来技術である、次亜塩素酸の単独添加例であるが、スライム剥離効果は小さい。
【0061】
以上の結果より、本発明のスライム剥離剤及びスライム剥離方法の優れたスライム剥離効果が明らかになった。
【0062】
(実施例11〜13、比較例6〜8)
(腐食試験)
JIS K0100−1990 工業用水腐食試験方法(回転法)に従って、寸法50×30×1mm、表面積0.316dmの 低炭素鋼試験片(JIS G 3141:SPCC−SB)と銅試験片(JIS C1201)をアセトンで脱脂し、乾燥して重量を測定した。次に表3に示す化合物を全残留塩素濃度が100mgCl/Lになるように試験水に添加した。
【0063】
試験液の水質は、pH:8.3、Mアルカリ度:100mg/L、カルシウム硬度: 100mg/L、塩化物イオン:100mg/Lであった。JIS K0100−1990工業用水腐食試験方法(回転法) に従って、該試験液500mLを還流冷却管、攪拌器付きフラスコに入れて40℃の恒温槽にて保温し、試験片を該試験方法に規定する腐食試験装置のモーター 回転軸の保持器に取り付けて、25℃の試験液の入ったフラスコ中に浸漬し、線速度0.3m/secで3日間、連続で試験片を回転させた。3日後に試験片を 取り出し、表面に付着した腐食性生成物やスケール付着物を流水下、ブラシで除去し、乾燥させて試験片の重量を測定し、次式で腐食速度(mdd)を計算した。
腐食速度(mdd)=(試験片の重量減:mg)/〔(試験片表面積:dm)×(試験日数:日)〕
結果を表3に示した。
【0064】
【表3】

【0065】
本発明の実施例11〜13の腐食速度は比較例6、7の腐食速度よりも小さく、本発明の腐食性が低いことが示された。また、従来技術である、次亜塩素酸をスライム剥離効果が期待できる程度に単独添加する比較例8では、腐食速度が非常に大きいことが明らかである。
【0066】
(比較例9、実施例14、15)
ここで用いた試験装置ならびに試験方法はJIS G0593‐2002『水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法』のオンサイト試験法.に準拠した。試験装置の概略を図1に示す。試験用伝熱管として外径12.7mm、長さ510mmの炭素鋼鋼管STKM11A(JIS G3445)と、銅合金としてアルミニウム黄銅管C6871(JIS H3300)、及びステンレス鋼管(SUS304)を用いた。水槽2及び配管を含む系全体の水容量は62Lとし、水槽2の水温が一定になるように水温制御装置9で制御した。試験用伝熱管評価部の線流速0.3m/sに相当する流量210L/hとなるように流量調整バルブ5で制御しながら循環ポンプ3で通水し、熱交換器7の熱流束は0〜70kW/mとした。冷却塔1は冷却能力1.8冷却トンの誘引通風向流接触型のものを使用した。通常の熱負荷条件では、冷却塔入口・出口の循環水の温度はそれぞれ50℃と35℃、冷却塔1の入口と出口の循環水の温度差は15℃であった。このとき、蒸発水量は4.4L/h、補給水量は5.87L/h、ブローダウン水量は1.47L/h、濃縮度は4倍であった。循環水の電気伝導率は電気伝導率測定セル4で連続的に測定され、その電気伝導率の入力信号に基づき電気伝導率制御装置11を用いて濃縮度4倍に相当する電気伝導率になるようにブローダウンポンプ10を制御した。
【0067】
補給水として四日市市水を使用した。四日市市水の代表水質はpH:7、電気伝導率:13mS/m、Ca硬度:33mg−CaCO/L、Mg硬度:8mg−CaCO/L、Mアルカリ度:35mg−CaCO/L、 塩化物イオン:10mg/L、硫酸イオン:11mg/L、シリカ:12mg/Lであった。循環水のpHは平均8.8、Ca硬度は平均140mg−CaCO/Lであった。
【0068】
初期処理として水槽2に四日市市水を張り、アクアフィルムZP−15(商品名:伯東(株)製、亜鉛塩、アゾール化合物配合)200mg/Lとヘキサメタリン酸ソーダ(平均縮合度40)を12.5mg/L添加して、常温で48時間循環した。その後、通常の熱負荷を開始し、熱負荷開始3日後に濃縮度が4倍に達したので、直ちにブローダウンを開始して濃縮度を4倍に維持した。ブローダウン開始と同時に腐食抑制剤としてアクアフィルムZP−15をブローダウン量に対して60mg/Lの添加濃度で水処理剤注入装置13により連続的に添加した。
【0069】
(比較例9)
熱負荷開始2週間後に冷却塔入口・出口の循環水の温度はそれぞれ37℃と30℃にそれぞれ設定し、実機の冷却塔より採取したズーグレア状細菌、糸状細菌、鉄バクテリア、イオウ細菌、硝化細菌、硫酸塩還元細菌、真菌類、藍藻、緑藻、珪藻が混合されたスライムの一定量(1.2g)を200メッシュのナイロン製ネットに入れて、冷却塔内受水槽8に設置した。アクアフィルムZP−15の12.5gを水槽2に加えた後、28%アンモニア水の4.6重量部とスルファミン酸の5.7重量部とベンゾトリアゾールの1.2重量部と水88.5重量部を含む組成物21.5gを水槽2に加え、次いでCl換算で12%の次亜塩素酸ナトリウムの16.7gを水槽2に加え、直ちに残留塩素の測定を行ったところ、遊離残留塩素は1.5mg/L、モノクロラミン性結合塩素は5.7mg/L、ジクロラミン性結合塩素は3.0mg/Lであった。即ち、遊離残留塩素、モノクロラミン性結合塩素、及びジクロラミン性結合塩素の合計である全残留塩素濃度は10.2mg/Lであり、系に添加した塩素濃度32mg/L(=16.7g×12%/62L)に対する収率は(10.2/32)×100=31.9%であった。この条件下で、24時間ノンブローで循環後、スライムの重量を測定したところスライムの減少率は13%であった。
【0070】
ここで、スライム重量の減少は、ナイロン製ネット内のスライム塊が200メッシュを通過するほどに細かく崩され分散し、微細化したスライムがネット内から抜け出たことを示しており、特に粘着性の低下や分散によるスライム剥離の指標であり、減少率が大きいほど、スライム剥離効果が高いと判断できる。
【0071】
(実施例14)
更に比較例9の冷水塔循環水系を、そのまま通常処理で運転継続し、2週間経過後に、前記と同じスライムの一定量をナイロン製ネットに入れて、冷却塔内受水槽8に設置した。アクアフィルムZP−15の12.5gを水槽2に加えた後、28%アンモニア水の6.9重量部とスルファミン酸の8.6重量部とベンゾトリアゾールの1.2重量部と水83.3重量部を含む組成物21.5gを水槽2に加え、次いでCl換算で12%の次亜塩素酸ナトリウムの25.8gを水槽2に加え、直ちに残留塩素の測定を行ったところ、遊離残留塩素は2.2mg/L、モノクロラミン性結合塩素は8.7mg/L、ジクロラミン性結合塩素は4.5mg/Lであった。即ち、遊離残留塩素、モノクロラミン性結合塩素、及びジクロラミン性結合塩素の合計である全残留塩素濃度は15.4mg/Lであり、系に添加した塩素濃度50mg/L(=25.8g×12%/62L)に対する収率は(15.4/50)×100=30.8%であった。この条件下で、24時間ノンブローで循環後、スライムの重量を測定したところスライムの減少率は40%であった。
【0072】
(実施例15)
更に実施例14の冷水塔循環水系を、そのまま通常処理で運転継続し、2週間経過後に、前記と同じスライムの一定量をナイロン製ネットに入れて、冷却塔内受水槽8に設置した。アクアフィルムZP−15の12.5gを水槽2に加えた後、28%アンモニア水の6.9重量部 とスルファミン酸の8.6重量部とベンゾトリアゾールの1.2重量部と水83.3重量部を含む組成物を調製し、水500gにCl 換算で12%の次亜塩素酸ナトリウム25.8gを混合した水溶液に前記組成物21.5gを添加して撹拌混合し、この混合液である本発明のスライム剥離剤を速やかに水槽2に加え、直ちに残留塩素の測定を行ったところ、遊離残留塩素は2.4mg/L、モノクロラミン性結合塩素は17.9mg/L、ジクロラミン性結合塩素は17.2mg/Lであった。即ち、このときの全残留塩素は37.5mg/Lより、実施例14と同様な計算により収率は75%であった。この条件下で、24時間ノンブローで循環後、スライムの重量を測定したところスライムの減少率は88%であった。
【0073】
尚、比較例9、実施例14、15において、(A)アンモニアと(B)スルファミン酸の被処理水系への添加モル比は3例ともに(A):(B)=56:44であり、また、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対するアンモニア(A)とスルファミン酸(B)の合計モル濃度の比、{(A)+(B)}/(C)は3例ともに約1.0であった。
【0074】
比較例9、実施例14、15の結果から、(A):(B)モル比や{(A)+(B)}/(C)モル比が、全て本発明が規定する範囲内であっても、良好なスライム剥離効果を得るためには、全塩素濃度が15mgCl/L以上であることが必要であることが示された。また、実施例14と実施例15の結果を比較すると、(A)成分と(B)成分の混合物と、(C)成分の水溶液を被処理水に別個に添加した場合(実施例14)に比べて、あらかじめ(A)〜(C)の各成分を有効成分として含有する本発明のスライム剥離剤を調製した上で、該スライム剥離剤を被処理水に添加した場合(実施例15)の方が、スライム剥離効果が高いことを示している。
【0075】
尚、実施例15の試験終了後に冷水塔循環水系の運転を停止し、試験用伝熱管を取り外して、腐食速度、最大腐食深さを測定した。腐食速度の計算式は、実施例11〜13、比較例6〜8の腐食試験と同じとした。炭素鋼鋼管の腐食速度は平均0.7mdd、アルミニウム黄銅管の腐食速度は0.2mdd、また、ステンレス鋼管表面の顕微鏡観察結果では孔食は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
冷却水系、紙パルプ製造プロセスの各種水系、鉄鋼製造プロセスの各種水系、集塵水系、排水系統、切削油などの金属加工処理水系などの各種水系おいて、安全性が高く、かつ低腐食性で、系内に付着しているスライムを剥離することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 冷却塔
2 水槽
3 循環ポンプ
4 電気伝導率測定セル
5 流量調整バルブ
6 流量計
7 熱交換器
8 冷却塔内受水槽
9 水温制御装置
10 ブローダウンポンプ
11 電気伝導率制御装置
12 補給水
13 水処理剤注入装置
14 試験片保持器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸を有効成分として含有するスライム剥離剤であって、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対する(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比が0.6〜1.5であり、かつ、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩のモル比が20:80〜80:20であることを特徴とするスライム剥離剤。
【請求項2】
被処理水中に、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩と(C)次亜塩素酸の反応によって得られるモノクロラミン性結合塩素とジクロラミン性結合塩素を存在させて処理するスライム剥離方法であって、被処理水に対する(A)〜(C)の各成分の添加比率が、(C)次亜塩素酸のCl換算のモル濃度に対する(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩の合計モル濃度の比として0.6〜1.5であり、かつ、(A)アンモニアおよび/またはアンモニウム塩と(B)スルファミン酸および/またはスルファミン酸塩のモル比として20:80〜80:20であって、剥離処理期間中の被処理水中の全残留塩素濃度をCl換算で15〜300mg/Lの範囲に維持するように前記(A)〜(C)の各成分、又は(A)〜(C)を有効成分として含有する請求項1記載のスライム剥離剤を被処理水に添加することを特徴とするスライム剥離方法。



【図1】
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【公開番号】特開2013−10718(P2013−10718A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145004(P2011−145004)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】