説明

スラグ形態調整方法

【課題】解消手段といった機械的な構成を付加的に設けることなく、スラグタップ排出孔及びスラグ排出孔といった排出系にてスラグの詰まりが発生することを未然に防止することができる、石炭ガス化装置におけるスラグ形態調整方法を提供する。
【解決手段】ガス化炉で形成される溶融スラグの組成を、CaOとSiOの重量比により決定される塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置に係り、石炭ガス化の際に石炭に含まれる灰分が溶融してなるスラグの排出において閉塞が発生することを防止するスラグ形態調整方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の石炭ガス化装置として、例えば、特許文献1〜3に示される技術が知られている。
特許公報1及び2に示される石炭ガス化装置では、下段のガス化炉において、酸素、又は、酸素及び水蒸気と、石炭を投入して部分酸化によりガス化ガスを生成し、上段の改質炉において、前記生成したガス化ガス中に石炭及び水素を投入して水素化熱分解によりガス、オイル、及びチャーを生成する、上下二室二段の反応器を用いた方式が示されている。そして、このように反応器を二室二段とすることで、石炭のガス化を行う部分と水素化熱分解を行う部分を完全に分けることができ、各部分の操作条件を自由に設定することが可能となる。
【0003】
また、特許公報3に示される石炭ガス化装置では、微粉炭及びガス化剤(酸素含有ガス等)を、高温加圧されたガス化炉内に噴入して内部のガス化部で部分酸化させる構成であり、これにより生成ガスを得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008‐174583号公報
【特許文献2】特開2005‐162896号公報
【特許文献3】特開平11‐140464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許公報1〜3に示される石炭ガス化装置では、ガス化炉内で発生したスラグを、該ガス化炉のスラグタップ排出孔を経由して下方に位置する水槽(水砕部)に案内し、さらに水槽のスラグ排出孔を通じてさらに下方のスラグロックホッパに案内するようにしているが、このとき、これらスラグタップ排出孔及びスラグ排出孔といった排出系が、排出されるスラグにより閉塞することがある。
このため、特許文献3では、別途、気体注入ライン、冷却水抜き出しラインなどの詰まり解消手段を設けているが、このような解消手段を設けることで、装置全体が複雑化する。また、このような解消手段を作動させれば、ガス化炉内の圧力及び温度が乱れ、石炭ガス化処理に支障を来たすという問題もあった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、解消手段といった機械的な構成を付加的に設けることなく、スラグタップ排出孔及びスラグ排出孔といった排出系にてスラグの詰まりが発生することを未然に防止することができる石炭ガス化装置におけるスラグ形態調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本願の請求項1は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置において、前記ガス化炉で形成される溶融スラグのスラグ形態調整方法であって、前記溶融スラグの組成は、CaOとSiOの重量比により決定される塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定されることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、ガス化炉で形成される溶融スラグの組成を、塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定することにより、スラグの融点が上昇して運転効率の低下を招かない範囲で、スラグ詰まりの原因となりうる繊維状スラグの発生割合を低下させることができ、これによって溶融スラグを炉外に排出する排出系にてスラグの詰まりが発生することを未然に防止することができる。また、本発明では、溶融スラグの組成を、塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定することにより、従来のように、解消手段といった機械的な構成を付加的に設けることなく、スラグ詰まりを効果的に防止することができる。
すなわち、前記塩基度が0.3よりも小さいと、繊維状スラグの発生割合を低下させることが難しく、前記塩基度が1.2よりも大きいと、スラグの融点が上昇して運転効率が低下するおそれがある。
【0009】
本願の請求項2は、前記溶融スラグの塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定するために、前記石炭の原材料となる原炭及びその調製剤の成分を調整することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、溶融スラグの塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定するために、石炭の原材料となる原炭及びその調製剤の成分を調整することで、繊維状スラグを減少させてスラグ詰まりを防止できるので、従来のように、解消手段といった機械的な構成を付加的に設けることなく、スラグ詰まりを効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本願の請求項1に係るスラグ形態調整方法によれば、ガス化炉で形成される溶融スラグの組成を、塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定することにより、スラグの融点が上昇して運転効率の低下を招かない範囲で、繊維状スラグの発生割合を低下させることができ、これによって溶融スラグを炉外に排出する排出系にてスラグの詰まりが発生することを未然に防止することができる。また、本発明では、溶融スラグの組成を、塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定することにより、従来のように、解消手段といった機械的な構成を付加的に設けることなく、スラグ詰まりを効果的に防止することができる。
【0012】
本願の請求項2に係るスラグ形態調整方法によれば、溶融スラグの塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定するために、石炭の原材料となる原炭及びその調製剤の成分を調整することで、繊維状スラグを減少させてスラグ詰まりを防止できるので、従来のように、解消手段といった機械的な構成を付加的に設けることなく、スラグ詰まりを効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用される石炭ガス化装置の概略構成図である。
【図2】溶融スラグの塩基度と繊維状スラグの発生割合を示すグラフである。
【図3】溶融スラグ形態を示す繊維状スラグを説明するための図である。
【図4】溶融スラグの塩基度とスラグの融点との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態として示される一般的な石炭ガス化装置100であって、ライン(図示略)より微粉炭(石炭)を搬送し、ライン1を用いてガス化剤(酸素含有ガス等)をバーナ2より高温の加圧されたガス化炉3内に噴入して部分酸化させる構成であり、このガス化炉3で生じる生成ガスGを上部開口3Aから排出する。
なお、ガス化炉3の上部開口3Aの上方には、該ガス化炉3内で生成したガス化ガス中に水素を投入して水素化熱分解によりガス、オイル、及びチャーを生成する図示しない改質炉が連設されている。
【0015】
また、ガス化炉3での部分酸化に伴い、副産物として石炭中の灰分がスラグとなってガス化炉3の内壁にスラグコーティング(符号Sで示す)されるとともに、その一部は溶融スラグS1になって排出される。
すなわち、前記ガス化炉3は、その下部に設けられたスラグタップ排出孔3Bを経由して、内部で形成される溶融スラグS1が排出かつ滴下されるものであって、スラグタップ排出孔3Bから排出された溶融スラグS1は、スラグ冷却部4を滴下する間に冷却された後、スラグ水砕部5に貯留される。
このスラグ水砕部5は内部にスラグ冷却水6が貯留されるものであって、溶融スラグS1を水砕・急冷却して水砕スラグS2とした後、下部のスラグ排出孔5Aより排出する。
なお、ガス化炉3内の温度は、例えば約1300〜1600℃程度とされ、スラグ冷却部4の温度は、例えば約500〜800℃程度とされ、スラグ水砕部5の温度は、例えば約40〜60℃程度となっている。
【0016】
前記スラグ水砕部5の下部に位置するスラグ排出孔5Aには、弁7を有する連結管8が接続されており、該連結管8を通じて、スラグ水砕部5から排出された水砕スラグS2がスラグロックホッパ10に送られる。
このスラグロックホッパ10は、例えば、水砕スラグS2を一定時間貯留して、スラグ沈殿させるものであって、一定時間が経過した後に、弁11を有する連結管12を経由して水砕スラグS2を系外に取り出すようにしている。
【0017】
次に、ガス化炉3で生じる溶融スラグS1について説明する。
本発明に係る溶融スラグS1の組成は、塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定されるものであって、このような塩基度の範囲設定により、スラグ排出時の閉塞原因となる繊維状スラグの発生を抑制し、スラグの安定した排出状態が維持されるものである。
そして、このような溶融スラグS1の塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定するためには、当該塩基度を基準として、石炭の原材料となる原炭及びその調製剤の成分を調整する。なお、ここで言う塩基度とは、CaOとSiOの重量比(=SiO/CaO)であって、溶融スラグS1の塩基度が、0.3〜1.2の範囲内になるように原炭及びその調製剤の成分を調整する。すなわち、溶融スラグS1の塩基度は、石炭における塩基度と相関関係があり、予め検証試験などを実施し、この相関関係を知得しておくことにより、石炭の塩基度に基づいて溶融スラグS1の塩基度を調整することが可能になる。
【0018】
塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定する理由の一つとしては、スラグの融点が上昇して運転効率の低下を招かないように塩基度を1.2以下とするものである。すなわち、図4に示すように、塩基度を1.2より大きくすると、スラグの融点が急激に上昇し、運転効率の低下が招かれるおそれがある。
【0019】
また、塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定する他の理由としては、図2に示すように、塩基度を上げることにより、スラグタップ排出孔3Bから排出される溶融スラグS1(滴下スラグ)に含有される「繊維状スラグ」の発生割合が減少するからであり、ここで閉塞発生の原因となりうる繊維状スラグの発生割合を80%以下とするために、塩基度を0.3以上とするものである。すなわち、繊維状スラグの発生割合が80%よりも大きいと、スラグ詰まりが発生し易いことが、本発明者の実験により確認されている。なお図2に示されるように、塩基度が0.5以上となると、繊維状スラグの発生割合が20%以下になる。
【0020】
ここで、溶融スラグS1がガス化炉3のスラグタップ排出孔3Bから排出されてスラグ冷却部4を滴下する際の形態変化には、スラグのガラス化及び結晶化が係っており、これらガラス化及び結晶化にはスラグの塩基度と冷却速度が関係している。特に、本実施形態で示される石炭ガス化装置100のように、スラグがガス化炉3からスラグ冷却部4に排出され、スラグが溶融状態から急速に冷却される(冷却速度が高い範囲に設定される)場合には、塩基度の影響が大きいことが、本発明者の実験により確認されており、溶融スラグS1の塩基度を調整することでスラグの形態を制御することが可能となる。
このため、溶融スラグS1の塩基度調整のために、原炭及びその調製剤の成分を調整するようにし、これによって石炭ガス化装置100のガス化炉3から排出困難となる滴下スラグ(溶融スラグS1)中の繊維状スラグの形成を抑制し、該石炭ガス化装置100を安定的に運転可能とする。
【0021】
また、本実施形態で示される繊維状スラグは断面形状がほぼ円形の長尺体(すなわち、円柱形状)であって、図3に示すように、円柱の径が0.5mm以下となるスラグを、本実施形態で述べる「繊維状スラグ」とする。この繊維状スラグは、径の減少に従って水中での沈降速度が低下し、排出系に詰まりが発生しやすくなる。ここで繊維状スラグの径と沈降速度との関係を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
なお、繊維状スラグの径の増減と、この繊維状スラグが水中を落下する場合のレイノルズ数Reとは対応しているが、レイノルズ数Reが100未満である場合には、繊維状スラグの抵抗係数Cdが、レイノルズ数Reの減少に対して一定の傾きで増加傾向を示す。そして、繊維状スラグが水中を落下する場合には、径0.5mmが「Re=100」に相当する。
【0024】
一方、塩基度が上昇することにより、繊維状スラグが減少するとともに該繊維状スラグが細かくなって、図3で示すような「粒状スラグ」に変化する。これによりスラグタップ排出孔3Bでの溶融スラグS1の流れが良くなってスラグ詰まりが確実に防止される。
【0025】
ここで、溶融スラグS1の塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定するための塩基度の調整手順について説明する。
【0026】
(1)予め、原炭の灰組成と灰分量を測定する。このとき例えば、原炭の灰組成として、SiO、CaO、Fe、Al、MnO、MgO、TiO、P、SO、KO、NaOを測定し、残分は強熱減量(ig. Loss)とする。
【0027】
(2)次に、前述の測定結果、および目標とするスラグ組成の塩基度(0.3〜1.2)に基づき、調製剤を準備する。ここで調製剤の原料としては、例えば、鉱物(石灰石、硅砂、葉ろう石等)や酸化物粉末(高炉スラグ粉末、耐火材粉末、各種セメント粉末等)等が利用できる。スラグ組成は、例えば、各灰組成および酸化物組成の加重平均で計算することができる。なおこのとき、重量比が大きい代表的な組成を2〜5種類選択して判断してもよい。
【0028】
(3)最後に、原炭と調製剤を混合する。例えば、原炭をコンベアスケール等で計量しながら搬送する場合は、その時間当りの流量(kg/h)に合わせて、調製剤を一定の重量比で混入する。この後、固体混合器や気流搬送等を用いて原炭と調製剤を良く混合する。
【0029】
〔実施例〕
以下に、本実施形態に係るスラグ形態調整方法の一例を示す。
まず、ここで使用する原炭をタニトハルム炭とし、その灰組成及びその灰分量は、例えば、SiOを51.05wt%、CaOを6.87wt%、Feを10.95wt%、Alを25.07wt%、MnOを0.05wt%、MgOを2.48wt%、TiOを1.13wt%、Pを0.33wt%、SOを0.09wt%、KOを1.28wt%、NaOを0.62wt%、ig. Lossを0.08wt%(いずれもDRY)とする。
本例では、原炭の塩基度は0.135程度である。そして、石炭ガス化炉を、部分酸化部石炭500kg/h、酸素315Nm/h、水蒸気50kg/h、改質部石炭量150kg/hを投入し、圧力2.5MPaG、温度1550℃で運転を行い、ガス発生量は約1440Nm/h、チャー60kg/hとなったところ、原炭を使用した際のスラグの発生量は、35kg/h程度であり、そのほとんどが繊維状スラグであった。
この原炭に対して、調製剤を徐々に増量していき溶融スラグS1の塩基度を上げると、図2に示すように、該溶融スラグS1に占める繊維状スラグの重量割合は、塩基度を上げるに従って、減少することが確認された。特に、溶融スラグS1の塩基度が0.3を越えた時点で、溶融スラグS1に占める繊維状スラグの重量割合は80%以下となって、スラグタップ排出孔3B及びさらに下流のスラグ排出孔5Aでのスラグ詰まりを防止できることが確認されている。
【0030】
以上詳細に説明したように本実施形態に係る石炭ガス化装置100におけるスラグ形態調整方法によれば、ガス化炉3で形成される溶融スラグS1の組成を、塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定することにより、繊維状スラグの発生割合を低下させることができ、これによって溶融スラグS1及びその後に形成される水砕スラグS2を炉外に排出する排出系にてスラグの詰まりが発生することを未然に防止することができる。また、本実施形態では、溶融スラグS1の組成を、塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定することにより、従来のように、解消手段といった機械的な構成を付加的に設けることなく、スラグ詰まりを効果的に防止することができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、繊維状スラグの発生割合を低下させるために、塩基度を0.3〜1.2の範囲に設定することを必須とするものであるが、スラグの融点の上昇を抑えるために、0.3〜1.2の範囲内において特に0.3〜0.5の範囲に塩基度を設定しても良い。そして、0.3〜0.5の範囲内での塩基度設定により、20〜80%に繊維スラグ発生割合を維持することができる。
【0032】
また、上記実施形態では、ガス化炉3及び改質炉からなる二室二段炉を使用したが、これに限定されず、例えば1つの炉において、ガス化ガスを生成と、水素化熱分解とを共に行うガス化炉を有する石炭ガス化装置などにおいて、繊維状スラグの発生抑制のために、溶融スラグの塩基度を0.3〜1.2の範囲内に調整しても良い。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置におけるスラグ形態調整方法に関する。
【符号の説明】
【0035】
3 ガス化炉
3B スラグタップ排出孔
100 石炭ガス化装置
S1 溶融スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置において、前記ガス化炉で形成される溶融スラグのスラグ形態調整方法であって、
前記溶融スラグの組成は、CaOとSiOの重量比により決定される塩基度が0.3〜1.2の範囲内に設定されることを特徴とするスラグ形態調整方法。
【請求項2】
前記溶融スラグの塩基度を0.3〜1.2の範囲内に設定するために、前記石炭の原材料となる原炭及びその調製剤の成分を調整することを特徴とする請求項1に記載のスラグ形態調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−193246(P2012−193246A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56944(P2011−56944)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)