説明

スラストフォイル軸受

【課題】リーフ型のスラストフォイル軸受の部品点数を削減し、リーフの組み付けを簡略化することで、低コスト化を図る。
【解決手段】複数のリーフ31、31’と、これを連結する連結部32、32’とを一体に有するフォイル30、30’でフォイル部材22を構成し、このフォイル部材22をスラスト部材21の端面21aに固定する。これにより、複数のリーフをそれぞれ独立する場合と比べて部品点数が削減できる。また、複数のリーフを一度に取り付けることができるため、リーフの組付が簡略化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜状のフォイルに設けられたスラスト軸受面でスラスト軸受隙間を形成し、このスラスト軸受隙間に生じる流体膜で回転部材をスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンや過給機(ターボチャージャ)の軸は高速で回転駆動される。また、軸に取り付けられたタービン翼は高温に晒される。そのため、これらの軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。この種の用途の軸受として、油潤滑の転がり軸受や油動圧軸受を使用する場合もある。しかし、潤滑油などの液体による潤滑が困難な場合、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難な場合、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる場合、等の条件下では、油を用いた軸受の使用は制約を受ける。そこで、上記のような条件下での使用に適合する軸受として、空気動圧軸受が着目されている。
【0003】
空気動圧軸受としては、回転側と固定側の双方の軸受面を剛体で構成したものが一般的である。しかしながら、この種の空気動圧軸受では、回転側と固定側の軸受面間に形成される軸受隙間の管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと呼ばれる自励的な軸の触れ回りを生じ易い。そのため、使用される回転速度に応じた隙間管理が重要となる。しかし、ガスタービンや過給機のように、温度変化の激しい環境では熱膨張の影響で軸受隙間の幅が変動するため、精度の良い隙間管理は極めて困難となる。
【0004】
温度変化の大きい環境下でも隙間管理を容易にできる軸受としてフォイル軸受が知られている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものである。フォイル軸受では、フォイルの可撓性により、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じた適切な軸受隙間が形成される。このため、フォイル軸受は安定性に優れるという特徴があり、一般的な空気動圧軸受と比較して高速での使用が可能である。また、一般的な動圧軸受では、数μm程度の軸受隙間を常時確保する必要があるため、製造時の公差、さらには温度変化が激しい場合の熱膨張まで考慮すると、厳密な隙間管理は困難である。これに対して、フォイル軸受の場合には、数十μm程度の軸受隙間に管理すれば足り、その製造や隙間管理が容易となる利点を有する。
【0005】
また、ガスタービンや過給機の軸には、タービンの高速回転により発生する気流のスラスト方向の反力が加わるため、軸をラジアル方向だけでなくスラスト方向にも支持する必要がある。例えば特許文献1〜3には、回転部材をスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受の一種として、リーフ型のスラストフォイル軸受が示されている。このスラストフォイル軸受は、固定部材の端面の円周方向複数箇所に複数のリーフを設けたものであり、各リーフの円周方向一端は自由端とされ、各リーフの円周方向他端が固定部材の端面に固定される。回転部材が回転すると、各リーフの軸受面とこれに対向する回転部材の端面との間にスラスト軸受隙間が形成され、このスラスト軸受隙間の流体膜により回転部材がスラスト方向に非接触支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−36725号公報
【特許文献2】実開昭61−38321号公報
【特許文献3】特開昭63−195412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のようなリーフ型のスラストフォイル軸受では、複数のリーフを別個に形成する必要があるため、部品点数が多くなる。また、リーフを一枚ずつ固定部材の端面に組み付ける必要があるため、リーフの組み付けに手間がかかり、コスト高を招いていた。
【0008】
そこで、本発明は、リーフ型のスラストフォイル軸受の部品点数を削減し、リーフの組み付けを簡略化することで、低コスト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、スラスト部材と、スラスト部材の端面に取り付けられ、スラスト軸受面を有するフォイル部材とを備え、スラスト軸受面でスラスト軸受隙間を形成するスラストフォイル軸受であって、フォイル部材が、円周方向一端を自由端とし、スラスト軸受面が設けられた複数のリーフと、複数のリーフを連結する連結部とを一体に有するフォイルを具備したスラストフォイル軸受を提供する。
【0010】
このように、複数のリーフをそれぞれ独立して設けるのではなく、連結部で連結してフォイルとして一体化することにより、部品点数を削減できる。また、一体化したフォイルをスラスト部材の端面に組み付けることで、複数のリーフを一度に組み付けることができるため、リーフ組み付けが簡略化される。さらに、複数のリーフを一体化することで、リーフの枚数を増やした場合でも組み付け工数が増えることはないため、コスト高を招くことなくリーフの枚数を増やしてスラスト方向の負荷容量を高めることができる。
【0011】
上記のフォイル軸受において、1枚のフォイルに切り込みを入れることにより複数のリーフ及び連結部を形成すれば、複数のリーフを一体に有するフォイルを簡単に形成することができる。このようなフォイルを複数枚設け、一のフォイルに形成された切り込みに他のフォイルのリーフを差し込めば、一のフォイルのリーフと他のフォイルのリーフとを円周方向で交互に配することができる。これにより、スラスト軸受面を有するリーフを円周方向で密に配置することができるため、軸受のスラスト負荷容量をさらに高めることができる。
【0012】
複数のリーフの自由端の外径端部を、内径側に向けて回転部材の回転方向先行側に傾斜させれば、フォイル部材の外周の空間からスラスト軸受隙間に空気を引き込むことができるため、スラスト軸受隙間における圧力を高めてスラスト負荷容量を高めることができる。具体的には、例えば、複数のリーフの自由端をポンプインタイプのスパイラル形状やヘリングボーン形状に配列することができる。
【0013】
複数のリーフを、スラスト軸受面と反対側から支持する支持部を配置すれば、この支持部の数や形状、配置箇所により調整することにより、取り付け面から立ち上がったリーフの傾斜角度やスラスト軸受面の湾曲形状を自由に設定することができる。これにより、要求される特性に応じたリーフの最適形状の設計が可能となる。
【0014】
フォイル軸受は、高速運転時にはフォイル部材のスラスト軸受面とこれに対向する面との間に流体膜が形成され、これらの面が非接触状態となるが、起動時や停止時の低速回転状態では、フォイル部材のスラスト軸受面やこれに対向する面の表面粗さ以上の流体膜を形成することが困難となる。そのため、回転部材と固定部材とがフォイル部材を挟んで接触し、フォイル部材の表面が損傷する恐れがある。このため、フォイル部材のスラスト軸受面に被膜を設け、損傷を防止することが好ましい。
【0015】
また、フォイル部材を構成するフォイル同士、あるいは、フォイルとフォイルが固定される面との間は、荷重変動や振動に伴い微小変位の摺動が生じている。このため、フォイル部材を構成するフォイルのうち、スラスト軸受面と反対側の面に被膜を設け、摺動による損傷を防止することが好ましい。
【0016】
フォイル軸受は、液体での潤滑が困難な箇所に用いられることが多いので、上記のような被膜には、DLC膜やチタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を用いることができる。DLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質で摩擦係数が低く、強度面で優れている。一方、二硫化モリブデン膜は、スプレー等で噴射することができるため、被膜を簡単に形成することができる。
【0017】
以上のようなスラストフォイル軸受は、ガスタービンや過給機のロータ支持用として好適に使用できる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、リーフ型のスラストフォイル軸受の部品点数を削減し、リーフの組み付けを簡略化できるため、低コスト化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】マイクロガスタービンを概念的に示す図である。
【図2】上記マイクロガスタービンの軸の支持構造を示す断面図である。
【図3】上記支持構造に組み込まれたラジアルフォイル軸受の断面図である。
【図4】上記支持構造に組み込まれた、本発明の一実施形態に係るスラストフォイル軸受の斜視図である。
【図5】上記スラストフォイル軸受の断面図である。
【図6】上記スラストフォイル軸受を構成するフォイルの平面図である。
【図7】(a)〜(c)は、2枚のフォイルを組み付ける様子を示す斜視図である。
【図8】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のフォイル部材の平面図である。
【図9】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のフォイル部材の平面図である。
【図10】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のフォイル部材の平面図である。
【図11】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受のフォイル部材の平面図である。
【図12】他の実施形態に係るスラストフォイル軸受の断面図である。
【図13】図12のスラストフォイル軸受に設けられた支持フォイルの平面図である。
【図14】過給機を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に、マイクロガスタービンと呼ばれるガスタービン装置の構成を概念的に示す。このマイクロガスタービンは、タービン1と、圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、及び発電機3には、水平方向に延びる共通の軸6が設けられ、この軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、このときの高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通った後、排ガスとして排出される。
【0022】
図2に、ロータの支持構造、特に、タービン1と圧縮機2との軸方向間における軸6の支持構造を示す。この領域は高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているため、ここでは空気動圧軸受、特にフォイル軸受が好適に使用される。図示例では、内周に軸6が挿入されたラジアルフォイル軸受10と、軸6のフランジ部6aの軸方向両側に設けられた本発明の一実施形態に係るスラストフォイル軸受20、20により、軸6がラジアル方向及び両スラスト方向に支持される。ラジアルフォイル軸受10及びスラストフォイル軸受20、20は、ケーシング41に固定される。
【0023】
ラジアルフォイル軸受10は、例えばリーフ型のフォイル軸受で構成される。本実施形態では、図3に示すように、内周に軸6が挿入された円筒状の外方部材11と、外方部材11の内周面11aに固定され、円周方向に並べて配された複数のリーフ12とで構成される。
【0024】
リーフ12は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属、例えば鋼材料や銅合金からなる厚さ20μm〜200μm程度の帯状フォイルで形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気に潤滑油が存在しないため、油による防錆効果は期待できない。鋼材料や銅合金の代表例として、炭素鋼や黄銅を挙げることができるが、一般的な炭素鋼では錆による腐食が発生し易く、黄銅では加工ひずみによる置き割れを生じることがある(黄銅中のZnの含有量が多いほどこの傾向が強まる)。そのため、帯状フォイルとしては、ステンレス鋼もしくは青銅製のものを使用するのが好ましい。
【0025】
各リーフ12は、円周方向一方(軸6の回転方向先行側、矢印参照)の端部12aが自由端とされ、円周方向他方の端部12bが外方部材11に固定される。リーフ12の固定端12bは、外方部材11の内周面11aに形成された軸方向溝11bに嵌合固定される。リーフ12の自由端12a側の一部領域は、他のリーフ12と半径方向に重ねて配される。各リーフ12の内径側の面には、孔や段差のない平滑な曲面状をなしたラジアル軸受面12cが設けられる。
【0026】
スラストフォイル軸受20は、リーフ型のフォイル軸受で構成される。本実施形態のスラストフォイル軸受20は、図4に示すように、中空円盤状のスラスト部材21と、各スラスト部材21の端面21aに固定されたフォイル部材22とで構成される。
【0027】
フォイル部材22は、複数のフォイルで構成され、本実施形態では同形状を成した2枚の金属製のフォイル30、30’で構成される(図7(a)参照)。フォイル部材22では、各フォイル30、30’に設けられたリーフ31、31’が円周方向交互に配されている。図5に示すように、各リーフ31、31’の円周方向一方(軸6の回転方向先行側、図中左側)の端部31a、31a’は自由端とされ、これによりリーフ31、31’が自由に撓むことができる。リーフ31、31’の自由端31a、31a’は、隣のリーフ31’、31の円周方向他方の端部31b’、31bとほぼ同じ円周方向位置に配される。複数のリーフ31、31’のフランジ部6a側の面(図中上面)には、孔や段差のない平滑な曲面状をなしたスラスト軸受面31c、31c’が設けられる。
【0028】
ここで、フォイル部材22を構成する各フォイル30、30’の構成を説明する。尚、フォイル30、30’は全く同じ構成であるため、一方のフォイル30の構成のみを説明し、他方のフォイル30’の説明は省略する(図面では、他方のフォイル30’のうち、一方のフォイル30と対応する箇所に「’」を付して示す)。
【0029】
フォイル30は、上記のリーフ12と同様の材質及び厚さを有し、図6に示すように、円周方向等間隔に配置された複数(図示例では4枚)のリーフ31と、複数のリーフ31を連結する連結部32とを一体に有する。フォイル30は円形を成し、その中心に軸6を挿通するための円形の穴33が設けられる。本実施形態では、1枚のフォイル30に、ワイヤカット加工やプレス加工等で切り込みを入れることにより、複数のリーフ31及び連結部32が形成される。具体的には、円形のフォイル30の円周方向等間隔の複数箇所(図示例では4箇所)に、穴33から外径向きに延び、フォイル30の外径端よりも手前で終わる半径方向の切り込み34が設けられる。そして、各切り込み34の外径端から、円周方向他方(軸6の回転方向後方側、図6の反時計周り方向)に円周方向の切り込み35が延びている。円周方向の切り込み35は、隣り合う半径方向の切り込み34の円周方向中央部まで延び、図示例では全周の1/8の長さである。円周方向の切り込み35の幅t1は、半径方向の切り込み34の幅t2よりも大きい(t1>t2)。半径方向の切り込み34及び円周方向の切り込み35をフォイル30に形成することで、円周方向一方の端部31aを軸方向に上下動自由な自由端とした複数のリーフ31と、これらを連結する連結部32とを一度に形成することができる。連結部32は、複数のリーフ31の外周を囲む環状部32aと、環状部32aから内径向きに延びた複数(図示例では4つ)の延在部32bとを有し、延在部32bはリーフ31の円周方向他方の端部31b(図6に点線で示す)と連続している。図示例では、連結部32の延在部32bとリーフ31とが円周方向同じ長さであり、これらが円周方向交互に設けられる。
【0030】
次に、スラストフォイル軸受20の製造方法、特に、2枚のフォイル30、30’からフォイル部材22を組み立てる方法を、図7用いて説明する。尚、2枚のフォイル30、30’の材質及び形状は全く同じであるが、図7では、理解しやすいように一方のフォイル30’に散点を付している。また、ここでは、フォイル30、30’の中心軸方向を上下方向として説明する。
【0031】
まず、図7(a)に示す2枚のフォイル30、30’を、図7(b)に示すように上下に重ねて配置する。上側のフォイル30の半径方向の切り込み34から、下側のフォイル30’のリーフ31’の自由端31a’を差し込む。これにより、下側のフォイル30’のリーフ31’の自由端31a’が、上側のフォイル30の連結部32(延在部32b)の上方に配される。そして、2枚のフォイル30、30’を相対的に回転させることにより、図7(c)に示すように、下側のフォイル30’のリーフ31’の自由端31a’が、上側のフォイル30のリーフ31の端部31bの上方に達する。以上により、上側のフォイル30のリーフ31と、下側のフォイル30’のリーフ31’とが、円周方向交互に配されたフォイル部材22が得られる。このとき、各リーフ31、31’の上面に設けられたスラスト軸受面31c、31c’は、円周方向交互に配され、且つ、円周方向で途切れなく配されている。
【0032】
上記のようにして2枚のフォイル30、30’を一体化したフォイル部材22を、スラスト部材21の端面21aに固定する(図4参照)。固定手段は特に限定されず、例えば接着や溶接により固定される。例えば、2枚のフォイル30、30’を重ねた状態で、連結部32、32’の環状部32a、32a’の円周方向複数箇所を、2枚一度に溶接でスラスト部材21に固定する。以上により、スラストフォイル軸受20が完成する(図2参照)。
【0033】
上記のように、スラストフォイル軸受20は、複数のリーフ31、31’を連結部32、32’で一体化しているため、複数のリーフを一枚ずつ別個に設けた場合と比べて、部品点数が削減されると共に、リーフ31、31’のスラスト部材への組付作業が大幅に簡略化できる。また、上記のように2枚のフォイル30、30’を組み合せることで、簡単に多数のリーフ31、31’を設けることができるため、スラスト方向の負荷容量を高めることができる。
【0034】
軸6が円周方向一方に回転すると、ラジアルフォイル軸受10の各リーフ12のラジアル軸受面12cと軸6の外周面6bとの間にラジアル軸受隙間Rが形成される。このラジアル軸受隙間Rに生じる流体膜(空気膜)で、軸6がラジアル方向に非接触支持される(図3参照)。これと同時に、フランジ部6aの軸方向両側の端面6a1と、フランジ部6aの軸方向両側に設けられたスラストフォイル軸受20のスラスト軸受面31c、31c’との間には、円周方向一方へ向けて軸方向幅を狭めたスラスト軸受隙間Tが形成される。このスラスト軸受隙間Tに生じる流体膜(空気膜)で、軸6が両スラスト方向に非接触支持される(図5参照)。このとき、ラジアルフォイル軸受10のリーフ12及びスラストフォイル軸受20のリーフ31、31’の有する可撓性により、各リーフ12、31、31’の軸受面12c、31c、31c’が、荷重や軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて任意に変形するため、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tは運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温、高速回転といった過酷な条件下でも、ラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tを最適幅に管理することができ、軸6を安定して支持することが可能となる。尚、実際のラジアル軸受隙間R及びスラスト軸受隙間Tの幅は数十μm程度の微小なものであるが、図3及び図5ではその幅を誇張して描いている。
【0035】
フォイル軸受10、20では、軸6の停止直前や起動直後の低速回転時において、リーフ12のラジアル軸受面12c及びリーフ31、31’のスラスト軸受面31c、31c’や軸6の外周面6bに表面粗さ以上の厚さの空気膜を形成することが困難となる。そのため、ラジアル軸受面12cと軸6の外周面6bとの間、及び、スラスト軸受面31c、31c’とフランジ部6aとの間で金属接触を生じる。この金属接触による摩擦力を減じて、リーフ12、31、31’の損傷及びトルク低減を図るため、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面31c、31c’には、表面を低摩擦化する被膜を形成するのが望ましい。この種の被膜としては、例えばDLC膜、チタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を使用することができる。DLC膜、チタンやアルミナイトライド膜はCVDやPVDで形成することができ、二硫化モリブデン膜はスプレーで簡単に形成することができる。特にDLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質であるので、これらで被膜を形成することにより、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面31c、31c’の耐摩耗性をも向上させることができ、軸受寿命を増大させることができる。尚、上記のような被膜は、ラジアル軸受面12c及びスラスト軸受面31c、31c’に形成する代わりに、あるいはこれに加えて、これらの面と対向する軸6の外周面6b及びフランジ部6aの端面6a1に形成してもよい。
【0036】
軸受の運転中は、リーフ12の裏面(ラジアル軸受面12cと反対側の面)と外方部材11の内周面11aとの間や、リーフ31、31’の裏面(スラスト軸受面31c、31c’と反対側の面)とスラスト部材21の端面21aとの間でも微小摺動が生じるため、この摺動部分、すなわちリーフ12、31、31’の裏面やこれと接触する外方部材11の内周面11a及びスラスト部材21の端面21aの一方又は双方にも上記の被膜を形成することにより、耐摩耗性の向上を図ってもよい。なお、振動の減衰作用を向上させるためには、この摺動部である程度の摩擦力が存在する方が好都合な場合もあるので、この部分の被膜にはそれほど低摩擦性は要求されない。従って、この部分の被膜としては、DLC膜やチタンやアルミナイトライド膜を使用するのが好ましい。
【0037】
本発明は上記の実施形態に限られない。尚、以下の説明において、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0038】
スラストフォイル軸受20のリーフ31、31’の形状は上記に限らず、例えば、図8〜11に示すように、リーフ31、31’の自由端31a、31a’の外径端を、内径側に向けて軸6の回転方向先行側に傾斜させてもよい。これにより、軸6の回転に伴って、スラストフォイル軸受20の外径側の空気がリーフ31、31’に沿って内径側に送り込まれるため(図8の点線矢印参照)、スラスト軸受隙間Tに多量の空気を送り込むことができ、スラスト軸受隙間Tにおける圧力が高められる。具体的には、例えば図8に示すように、リーフ31、31’の自由端31a、31a’をポンプインタイプのスパイラル形状に配列することができる。この場合、自由端31a、31a’は、図8のように曲線状に形成する他、直線状に形成してもよい(図示省略)。
【0039】
あるいは、図9及び図10に示すように、リーフ31、31’の自由端31a、31a’をヘリングボーン形状としてもよい。ヘリングボーン形状とは、自由端31a、31a’の外径端及び内径端を半径方向中央に向けて軸6の回転方向先行側に傾斜させた略V字形状のことを意味する。この場合、自由端31a、31a’は曲線状に形成してもよいし(図9参照)、直線状に形成してもよい(図10参照)。尚、図8〜10では、図7と同様に、同一形状の2枚のフォイル30、30’のうち、一方のフォイル30’に散点を付して示している。
【0040】
また、本発明によれば、リーフ31、31’を簡単にスラスト部材21に組み付けることができるため、フォイル30、30’に形成されるリーフ31、31’の数を増やすことができる。例えば図11に示す実施形態は、フォイル30、30’にそれぞれ10枚ずつのリーフ31、31’を形成し、これらを組み合せて合計20枚のリーフを設けた場合を示す。このように、リーフ31、31’の数を増やすことで、スラスト方向の負荷容量をさらに高めることができる。
【0041】
また、図12に示す実施形態では、リーフ31、31’の下方に支持部51を設けている。支持部51は、リーフ31、31’をスラスト軸受面31c、31c’と反対側(図中下側)から支持する。この支持部51の形状、厚さ、枚数、及び配置箇所を調整することにより、リーフ31、31’の自由端31a、31a’の浮上高さを自由に設定することができるため、リーフ31、31’の傾斜角度やスラスト軸受面31c、31c’の形状(曲率)を調整し、スラスト軸受隙間Tを最適形状に設定することが可能となる。例えば、図9に示すフォイル部材22に支持部51を設ける場合、図13に示すように、リーフ31、31’の自由端31a、31a’に沿った線状を成した支持部51と、支持部51の外周を連結した環状部52とを一体に有する支持フォイル50を用いることができる。図12では、2枚の支持フォイル50を重ねて使用し、二重に重ねられた支持部51を、リーフ31、31’の自由端31a、31a’に沿ってその下方に配置している。
【0042】
以上の実施形態では、フォイル部材22を2枚のフォイル30、30’で構成した場合を示したが、これに限らず、1枚のフォイル、あるいは3枚以上のフォイルでフォイル部材を構成してもよい。
【0043】
また、以上の実施形態では、スラスト部材21及びフォイル部材22を固定側とした場合を示したが、これらを回転側とすることもできる。ただし、フォイル部材22を高速で回転させると、遠心力によりフォイル30、30’が変形する恐れがあるため、かかる不具合を回避する観点からは、上記の実施形態のようにスラスト部材21及びフォイル部材22を固定側とすることが好ましい。
【0044】
また、以上の実施形態では、本発明に係るスラストフォイル軸受20をガスタービンに適用した場合を示したが、これに限らず、例えば図14に示すような過給機に適用してもよい。この過給機は、エンジン63に空気を送り込むいわゆるターボチャージャであり、圧縮機61と、タービン62とを備える。圧縮機61及びタービン62は軸6で連結されている。軸6は、ラジアルフォイル軸受10とスラストフォイル軸受20とでラジアル方向及び両スラスト方向に支持される。図示例では、ラジアルフォイル軸受10を軸方向に離隔した2箇所に設けている。図示しない吸気口から吸入された空気は、圧縮機61で圧縮され、燃料を混合してエンジン63に供給される。エンジン63で燃料を混合した圧縮空気を燃焼させ、エンジン63から排気された高温、高圧のガスでタービン62を回転させる。このときのタービン62の回転力が、軸6を介して圧縮機61に伝達される。タービン62を回転させた後のガスは、排ガスとして外部に排出される。
【0045】
本発明にかかるフォイル軸受は、ガスタービンや過給機に限らず、潤滑油などの液体による潤滑が困難である、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難である、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる等の制限下で使用される自動車等の車両用軸受、さらには産業機器用の軸受として広く使用することが可能である。
【0046】
なお、以上に述べたフォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受のみならず、圧力発生流体として潤滑油を使用した油動圧軸受としても使用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 タービン
2 圧縮機
3 発電機
4 燃焼器
5 再生器
6 軸
6a フランジ部
7 吸気口
8 インバータ
9 排熱回収装置
10 ラジアルフォイル軸受
11 外方部材
12 リーフ
12a 端部(自由端)
12b 端部
12c ラジアル軸受面
20 スラストフォイル軸受
21 スラスト部材
22 フォイル部材
30 フォイル
31 リーフ
31a 端部(自由端)
31b 端部
31c スラスト軸受面
32 連結部
32a 環状部
32b 延在部
R ラジアル軸受隙間
T スラスト軸受隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラスト部材と、スラスト部材の端面に取り付けられ、スラスト軸受面を有するフォイル部材とを備え、前記スラスト軸受面でスラスト軸受隙間を形成するスラストフォイル軸受であって、
前記フォイル部材が、円周方向一端を自由端とし、前記スラスト軸受面が設けられた複数のリーフと、複数のリーフを連結する連結部とを一体に有するフォイルを具備したスラストフォイル軸受。
【請求項2】
フォイルに切り込みを入れることにより前記複数のリーフ及び前記連結部を形成した請求項1記載のスラストフォイル軸受。
【請求項3】
前記フォイル部材が複数のフォイルで構成され、一のフォイルに形成された前記切り込みに、他のフォイルのリーフを差し込むことにより、一のフォイルのリーフと他のフォイルのリーフとを円周方向で交互に配した請求項2記載のスラストフォイル軸受。
【請求項4】
前記複数のリーフの自由端の外径端が、内径側に向けて回転部材の回転方向先行側に傾斜した請求項1〜3の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項5】
前記複数のリーフの自由端をポンプインタイプのスパイラル形状に配列した請求項4記載のスラストフォイル軸受。
【請求項6】
前記複数のリーフの自由端をヘリングボーン形状に配列した請求項4記載のスラストフォイル軸受。
【請求項7】
前記複数のリーフを、スラスト軸受面と反対側から支持する支持部を配置した請求項1〜6の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項8】
前記リーフのスラスト軸受面に被膜を設けた請求項1〜7の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項9】
前記リーフのスラスト軸受面と反対側の面に被膜を設けた請求項1〜7の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項10】
前記被膜が、DLC膜、チタンアルミナイトライド膜、二硫化モリブデン膜の何れかである請求項8又は9記載のスラストフォイル軸受。
【請求項11】
ガスタービンのロータ支持に用いられる請求項1〜10の何れかに記載のスラストフォイル軸受。
【請求項12】
過給機のロータ支持に用いられる請求項1〜7の何れかに記載のスラストフォイル軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−61024(P2013−61024A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200410(P2011−200410)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】