説明

スラストベクトルと回転を制御する一体型のシステム

ノズル(310)を通じて燃焼ガスを排出することにより長手方向の軸に沿ってスラストを生成するモータのスラストをベクトリングする装置は、線形に位置付け可能で回転不可能な複数のスラストデフレクター(322,325,326,328)を含む。スラストデフレクター(322,325,326,328)はノズル(310)の周囲に配置されている。各スラストデフレクター(322,325,326,328)は前記長手方向の軸(305)に対して横方向の力(F1,F2,F3,F4)と、前記長手方向の軸(305)の回りのトルク(T1,T2,T3,T4)とを同時に生成するように独立に延ばされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この記述はミサイルのフライト制御システムに関し、特に姿勢制御のためのスラストベクトリング機構を搭載したミサイルに関する。
【背景技術】
【0002】
ミサイルは、ミサイルの姿勢或いはトラベル方向を制御する翼、補助翼、方向舵、フラップ、カナード及び他の面のような空気力学による制御面を通常含んでいる。しかしながら、空気力学制御面は、ミサイルが発射した後に低速度になると有効でなくなり、上限を超えた高い高度或いは大気圏外では有効でなくなる。従ってミサイルは低速度及び又は高い高度で姿勢を制御するためにスラストベクトリング機構を使用している。この文脈において、スラストベクトリングは、ミサイルの長手方向の軸に平行でない方向にロケットモータ或いはジェットエンジンのスラストを方向付けるように定義される。
【0003】
スラストベクトリングは、縦揺れと偏揺れに対する姿勢、或いは仰角と方位角を制御するために従来使用されてきた。例えば、大きなロケットモータのスラストベクトリングはモータの全般的な排気ノズルを回転することにより達成される。より小さなロケットモータに対して、スラストベクトリングは、モータノズル内或いは後方のモータ排気流内に延びる空気力学翼或いはフィンである回転可能な装置を用いて達成できる。モータ排気流内に延びている装置はモータによって生み出されるトータルのスラストを減少させるので、スラストベクトリング装置は、ミサイルが空気力学制御面によって制御されるべき十分な速度に到達したときに、排気流から離される。しかしながら、回転させられたり、ロケットモータ排気流の周囲に離されるスラストベクトリング装置は、複雑な作動機構を必要とする。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】代表的なミサイルの斜視図である。
【図2】ロケットモータノズルの側断面図である。
【図3】ロケットモータノズルの側断面図と端面図である。
【図4】ロケットモータノズルの側断面図と端面図である。
【図5】ロケットモータノズルの側断面図と端面図である。
【図6】ロケットモータノズルの側断面図と端面図である。
【図7】ロケットモータノズル端面図である。
【図8】ミサイルフライト制御システムのブロック図である。
【図9】ミサイルの姿勢と回転を制御するプロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
この記述において、図に表れる構成要素には3桁の参照符号が与えられている。最上位桁は図番を表し、2番目の桁は構成要素を特定している。図と共に記述されていない構成要素は、同じ最下位桁の参照符号を有する以前に記述された構成要素と同じ特徴と機能を有するとする。
【0006】
装置の説明
図1を参照すると、代表的なミサイル100はミサイル本体102、空気力学制御面108、フィン106、及びノズル110だけが図1に示されている推進システムとを含んでいる。ミサイル本体は長手方向の軸105の周りに回転対称である。推進システムはノズル110を通して排気ガスを噴射することによってスラストを生成するロケットモータ或いはジェットエンジンである。図1の例では、制御面108はカナードとして示されているが、ミサイル100の航路に作用できるフィン、翼、補助翼、昇降舵、スポイラー、フラップ、エアブレーキ或いはその他の制御可能な装置であってもよい。ミサイル100の航路は、ノズル110を通して生成されるスラストをベクトリングすることによって制御される。
【0007】
ミサイル100はミサイル本体102内にフライト制御システム150を含んでいる。フライト制御システム150は、図1には図示されていないが、1以上のシーカー、ナビゲーションシステム、通信システム、1以上のプロッセッサ、及び制御作動システムを含んでいる。プロセッサはシーカー、ナビゲーションシステム及び通信システムから入力を受けて、ミサイルの航路の必要な修正を決定する。制御作動システムは、プロセッサからのコマンドに応答して、空気力学制御面108及び又はスラストベクトリングを制御する。
【0008】
この特許を通して、方向を表す用語(上へ、下へ、左へ、右へ、垂直に、水平に)、角度オリエンテーションを表す用語(仰角、方位角)、角度方向を表す用語(縦揺れ、偏揺れ)は、図に示されたようなミサイル100或いはミサイル100の部分に言及しており、ミサイル100の絶対的なオリエンテーションを意味していない。
【0009】
図2を参照すると、ミサイルは、ノズル210を通して燃焼ガス215を排出することにより長手方向の軸205に沿って、矢印212で示されるようにスラストを生成するモータによって動力を供給される。矢印212はミサイルに働く力の方向を示していて、この方向は燃焼ガスが排出される方向とは逆向きである。ミサイルとモータは図2には示されていないが、ミサイルとモータはノズル210の左側に延びていることが分かるであろう。ノズル210からの燃焼ガス215の流れが長手方向の軸205について対称であると、モータは矢印212によって示されている長手方向のスラストだけを生成する。スラストデフレクター222は、矢印225によって示されるように燃焼ガスを部分的に遮ったり偏向するためのノズル210から延びた羽である。この応用において、用語”羽”は、「移動や回転を遮るために、空気、ガス或いは液体の流れに晒されている平面或いは曲面」という通常の意味で使用している。
【0010】
ノズル210からの燃焼ガス215、225の流れは、スラストデフレクター222の存在によってもはや対称ではないので、モータにより生成されるスラストは矢印232で示されるように、軸205に対して横の成分を有する。このようにスラストデフレクター222は長手方向の軸205に対して横方向の力を生成するということができる。しかしながら、その横方向の力はスラストデフレクター222によって単に形作られている燃焼ガス215、225の流れによって生成されると理解しなければならない。
【0011】
ミサイルは、複数のスラストデフレクターを含んでいて、これらスラストデフレクターは独立して延びたり引っ込んだりして望ましい方向に横方向の力を生成する。例えば、スラストデフレクター222は、十分に延びた位置にあることを示し、他のスラストデフレクター226は引っ込んだ位置にあることを示している。引っ込んだスラストデフレクター226は横方向の力を本質的に生成せず、ここで”本質的に生成しない”とは、ゼロ或いはミサイルの姿勢に何らの効果もないレベルを意味する。
【0012】
図3を参照すると、スラストベクトルと回転を制御する一体型の装置は第1のスラストデフレクター322、第2のスラストデフレクター324、第3のスラストデフレクター326、第4のスラストデフレクター328とを含んでいる。第1、第2、第3、第4のスラストデフレクター322,324,326,328はノズル310の周囲に90度間隔で配置されている。第1のスラストデフレクター322と第3のスラストデフレクター326はまさに対向しており、第2のスラストデフレクター324と第4のスラストデフレクター328はまさに対向している。第1、第2、第3、第4のスラストデフレクター322,324,326,328の各々は、ノズル310の後方の燃焼ガス流から引っ込んだり或いは燃焼ガス流内に延びたりできる直線的に位置を変更でき、回転できない羽である。このような応用において、”直線的に位置を変更できる”という造語は、直線或いはほぼ直線路に沿って移動可能であることを意味する。
【0013】
スラストデフレクター322、324、326、328はそれぞれ、延びた際に、ノズル310の長手方向の軸305に対して横方向の対応する力F1,F2,F3,F4を生成する。長手方向の軸305は、図3には示されていないミサイルの長手方向の軸でもある。第1のスラストデフレクター322は第1の方向に力F1を生成し、第2のスラストデフレクター324は第1の方向に対して直角な第2の方向に力F2を生成する。第3のスラストデフレクター326は第1の方向と逆の第3の方向に力F3を生成し、第4のスラストデフレクター328は第2の方向と逆の第4の方向に力F4を生成する。
【0014】
スラストデフレクター322,324,326,328はそれぞれ、延びた際に、長手方向の軸の回りでミサイルを回転させるトルクをまた生成する。図3の例では、各スラストデフレクター322,324,326,328は、永久的に回転された平らな羽であり、スラストデフレクターの中心に長手方向の軸305を結合する放射状のラインと斜角を形成する。スラストデフレクターの羽はカーブしていてもよく、折りたたまれていてもよく、又は長手方向の軸の回りにトルクを発生させるようにされていてもよい。第1のスラストデフレクター322と第3のスラストデフレクター326は時計回りにトルクを生成する。第2のスラストデフレクター324と第4のスラストデフレクター328は反時計回りにトルクを生成する。
【0015】
4つのスラストデフレクター322,324,326,328の正味の効果は、次の式により定義される。
【0016】
Fy=F1−F3 (1)
Fx=F2−F4 (2)
Tn=T1+T3−T2−T4 (3)
ここで、Fyは、ノズルに垂直方向に働く正味の力であり、正の値は上向きの力を示す。Fxは、ノズルに水平方向に働く正味の力であり、正の値は右向きの力を示す。Tnは正味のトルクであり、正の値は時計回りの正味のトルクを示す。
【0017】
図4は、回転トルクを生成することなく横方向のスラストを生成するのに使用されるスラストベクトルと回転を制御する一体型の装置420の例を示している。第1のスラストデフレクター422は、垂直方向に横の力F1と時計回りのトルクT1を生成するように十分に延ばされている。第1のスラストデフレクター422と全く反対側にある第3のスラストデフレクター426は、引っ込まされている。第2と第4のスラストデフレクター424,428は、大きさが等しく互いに反対方向を向いている横方向の力F2,F4と、大きさが等しく付加的な反時計回りのトルクT2,T4生成するように部分的に延びている。第2と第4のスラストデフレクター424,428は、T2=T4=0.5(T1)になるように、引っ込んだ状態と十分に延びた状態との中間の位置まで延ばされている。この場合、式(3)によって与えられる正味のトルクはゼロに等しく、式(2)により与えられる正味の水平方向の力はゼロである。4つのスラストデフレクター422,424,426,428の正味の効果は、垂直方向で横方向の力F1である。
【0018】
あるアプリケーションでは、フローダム432が、隣接するスラストデフレクターからの各スラストデフレクターへの影響を少なくとも部分的になくすために、ノズル410の周囲に配置されている。フローダム432は、例えば4つのスラストデフレクター422,424,426,428間の中ほどに、ノズル410の周囲に90度間隔で配置されている。
【0019】
図5を参照すると、第1、第2、第3、第4のスラストデフレクター522,524,526,528は、ノズル510からの燃焼ガス流から引っ込んだり、燃焼ガス流の中に延びたり独立してできる直線的に位置でき回転できない非対称のピンである。例528a、528bに示されているように、各非対称のピンは楔形か半円である。各非対称ピンは、延びた際には、ノズル軸505の回りに横方向の力とトルクを生成する形状をしている。まさに向かい合っている非対称ピンは同じ方向にトルクを生成するように方向付けられる。
【0020】
図5の例では、第1のスラストデフレクター522と第3のスラストデフレクター526は引っ込まされている。第2のスラストデフレクター524と第4のスラストデフレクター528は、大きさが等しく互いに反対方向を向いている水平横方向の力F2、F4を生成し、更に反時計回りのトルクT2,T4を生成するように延びている。図5の例は、正味の横方向の力はなくて回転を引き起こすトルクを生成ためのスラストデフレクターの使用に関して記述している。
【0021】
図6は、ノズル610からの燃焼ガス流内に自由に延ばすことができる非対称ピンの他の使用例を示している。図6において、第1のスラストデフレクター622は垂直な横方向の力F1と時計回りのトルクT1を生成するためにノズル610内に十分に延びきっている。第3のスラストデフレクター626は引っ込まされている。第2のスラストデフレクター624と第4のスラストデフレクター628は、異なる長さでノズル610中に延ばされていて、互いに反対方向の大きさが異なる水平で横方向の力F2,F4と反時計回りのトルクT2,T4を生成する。
【0022】
第2のスラストデフレクター624と第4のスラストデフレクター628をノズルの中に延ばすことにより、第1のスラストデフレクター622により生成される時計回りのトルクT1と正確にバランスする反時計回りのトルクT2+T4を生成することを制御できる。この場合、式(3)により与えられる正味のトルクは、
Tn=T1−T2−T4=0 (4)
となる。
【0023】
第2のスラストデフレクター624と第4のスラストデフレクター628をノズルの中に延ばすことにより、ゼロでない水平な横方向の力F2−F4を生成することを制御できる。第2と第4のスラストデフレクターにより生成される水平な横方向の力と、第1のスラストデフレクター622により生成される垂直で横方向の力とのベクトル和は、以下の角度Θ方向を向いた正味の横方向の力Ftである。
【0024】
Θ=arctan[(F2−F4)/F1] (5)
ミサイルの外に向かう空気流中に延びることができる非対称ピンは姿勢と回転を制御するために使用される。
【0025】
図3から図6までの例では、4つのスラストデフレクターを含んでいるが、スラストベクトルと回転を制御する一体型の装置は4つより多くのスラストデフレクターを含んでいてもよい。スラストベクトルと回転を制御する一体型の装置は、少なくとも2つのスラストデフレクターが時計回りのトルクを生成し、少なくとも2つの他のスラストデフレクターが反時計回りのトルクを生成するように複数のスラストデフレクターを含んでいてもよい。
【0026】
別の例として、図7は、配置されたとき時計回りのトルクを生成する3つの自由に位置を変えられ回転できないスラストデフレクター722A,722B,722Cからなる第1のグループと、配置されたときそれぞれが反時計回りのトルクを生成する3つの自由に位置を変えられ回転できないスラストデフレクター724A,724B,724Cからなる第2のグループとを含むスラストベクトルと回転を制御する一体型の装置を示している。第1のグループのスラストデフレクター722A,722B,722Cの各々は、対応する位置に依存した横方向の力F1A,F1B,F1Cと対応する位置に依存した統計回りのトルクTcwA、TcwB、TcwCとを生成する。第2のグループのスラストデフレクター724A,724B,724Cの各々は、対応する位置に依存した横方向の力F2A,F2B,F2Cと対応する位置に依存した統計回りのトルクTccwA、TccwB、TccwCとを生成する。
【0027】
第1のグループのスラストデフレクター722A,722B,722Cは、ロケットモータノズルの周囲に配置され、スラストデフレクターが組み合わされて望ましい方向に横方向の力を生成するように選択的に配置される。例えば、図7に示すように、第1のグループのスラストデフレクター722A,722B,722Cはノズルの周囲に120度の間隔で配置される。第2のグループのスラストデフレクター724A,724B,724Cもまた、図7に示されるように、ノズルの周囲に120度の間隔で配置される。
【0028】
回転を誘導することなくミサイルの姿勢を制御するための複数のスラストデフレクターの使用例として、1以上の第1のグループのスラストデフレクター722A,722B,722Cは時計回りのトルクを伴った望ましい横方向の力を生成するように配置される。全ての第2のグループのスラストデフレクター724A,724B,724Cは、第1のスラストデフレクターに起因する時計回りのトルクをキャンセルするために反時計回りのトルクを生成するように均等に配置される。6個のスラストデフレクターは、スラストデフレクターによって生成される横方向の力のベクトル和が望ましい横方向の力に等しくなり、スラストデフレクターにより生成されるトルクの和が望ましいトルクに等しくなるように、異なる組合せで位置付けられてもよい。
【0029】
時計回りのトルクを生成するスラストデフレクターの数は、反時計回りのトルクを生成するスラストデフレクターの数と同じか或いは異なっている。例えば、第1のグループの3つのスラストデフレクターは時計回りのトルクと、選択的に配置された場合には、望ましい方向に横方向の力とを生成する。第2のグループの2つのまさに反対方向を向いたスラストデフレクターは第1のグループのスラストデフレクターによって生成されるトルクの全て或いは一部分をキャンセルするように反時計周りのトルクを提供するために使用される。
【0030】
図8を参照すると、ミサイル100のフライト制御システム850は、プロセッサ870、スラストベクトル姿勢及び回転制御サブシステム874、少なくとも1つのシーカーサブシステム852、ナビゲーションサブシステム860、通信サブシステム866を含んでいる。フライト制御システム850はまた、スラストベクトル姿勢及び回転制御サブシステム874と組み合わせて、或いはそれの代わりとして、ミサイルの姿勢を制御するために使用される空気力学姿勢制御サブシステム876を含んでいてもよい。
【0031】
シーカーサブシステム852は、もし存在すると、例えば半活性レーザシーカー854、イメージング赤外(IIR)シーカー856及び又はレーダーシーカー858のような1以上のシーカーを含んでいる。シーカーサブシステム852は、プロセッサ870に1以上の案内信号を供給する。シーカーサブシステム852により提供される案内信号はシーカーサブシステムによって追跡されるターゲットの方向を示している。
【0032】
ナビゲーションサブシステム860は、もし存在すると、例えばGPSナビゲーションシステム862及び又は慣性航法システム864のような1以上のナビゲーションシステムを含んでいる。ナビゲーションサブシステム860は、プロセッサ870に1以上の案内信号を供給する。ナビゲーションサブシステム860により提供される案内情報は特定の地理上の目的地への方向を示している。
【0033】
通信サブシステム866は、もし存在すると、データリンクや他の通信装置を含んでいて、ミサイルの外部のソースからコマンドと制御情報を受信する。受信コマンドと受信制御情報は1以上の案内信号を含んでいて、それらはプロセッサ870に供給される。通信サブシステム866から提供された案内信号は、例えばミサイルの外部にあるミサイルを発射させた車両に搭載されているレーダーシステムのようなセンサーによって追跡されるターゲットの方向を示している。
【0034】
プロセッサ870は、シーカーサブシステム852、ナビゲーションサブシステム860、通信サブシステム866のうちの少なくとも1つから1以上の案内信号を受信する。プロセッサは、ミサイルに適した制御アルゴリズムを使用して、案内信号をスラストベクトルサブシステム874に対する制御信号872に変換する。プロセッサはまず案内信号を必要レベルの横方向の力と必要レベルのトルクに変換し、次にその必要レベルの横方向の力と必要レベルのトルクを制御信号に変換する。ミサイルが空気力学フライト制御サブシステム875を含んでいる場合には、プロセッサ870は、案内信号を、スラストベクトルサブシステム874と空気力学フライトサブシステム876の一方或いは両方への制御信号872に変換する。例えば、プロセッサ870は、ミサイル速度が所定の値より低い場合に、スラストベクトルサブシステム874を使用してミサイルのフライトを制御するための制御信号872を生成する。プロセッサ870は、ミサイルの速度が所定の値より高い場合に、空気力学フライト制御サブシステム876を使用してミサイルのフライトを制御するための制御信号872を生成する。
【0035】
スラストベクトルサブシステム874は、複数のスラストデフレクターとスラストベクトル制御作動システム880を含んでいる。図8の例では、4つのスラストデフレクター822,824,826,828が示されているが、スラストベクトルサブシステムは4個のスラストデフレクターより多くのスラストデフレクターを含んでいてよい。図8の例では、4個のスラストデフレクター822,824,826,828はミサイルを推進するロケットモータのノズルの周囲に90度の間隔で配置されている。
【0036】
4個のスラストデフレクター822,824,826,828の各々は、直線的に位置付け可能で回転不可能である。4個のスラストデフレクター822,824,826,828の各々は、自由に位置を変えることができ、即ち4個のスラストデフレクター822,824,826,828の各々は、他の3個のデフレクターの位置と無関係に延びたり引っ込んだりできる。
【0037】
4個のスラストデフレクター822,824,826,828の各々が延ばされると、ミサイル軸に直角な方向に横方向の力を生成する。特に、4個のスラストデフレクター822,824,826,828の各々は、スラストデフレクターの有効な中心とミサイル軸とを結ぶ放射状の線に沿って働く横方向の力を生成する。まさに向き合ったデフレクターは反対方向に力を生成する。4個のスラストデフレクター822,824,826,828の各々が延びた際には、またミサイルを所定の方向に回転させる周方向のトルクを生成する。まさに向かい合った一対のデフレクターが延びると、ミサイルを時計回りに回転させ、まさに向かい合った他の対のデフレクターが延びた際には、ミサイルを反時計回りの方向に回転させる。
【0038】
スラストデフレクター822,824,826,828の各々によって生成される力とトルクのレベルは、スラストデフレクターの位置の関数として変化する。スラストデフレクター822,824,826,828の各々は、引っ込まされると、力もトルクも本質的に生成ない。この「本質的に生成しない」という句は、「無視できる」を意味する。スラストデフレクター822,824,826,828の各々は、引っ込まされた際には、関連するロケットモータのスラスト或いは効率の減少を本質的に起こさない。スラストデフレクター822,824,826,828の各々が十分に延ばされた位置にあると第1のトルクレベルを生成し、少なくとも1つの中間的な位置にあると第1のトルクレベルの半分に等しい第2のトルクレベルを生成する。4個のスラストデフレクター822,824,826,828は、図3の322,324と図4の422,426,428に示されているような羽であってもよい。4個のスラストデフレクター822,824,826,828は、図5の522,524,526,528に示されているような非対称のピンであってもよい。4個のスラストデフレクター822,824,826,828は、配置された際に、記述されたような放射状の力と周方向のトルクを生ずる他の配置構造であってもよい。
【0039】
スラストベクトル制御作動システム880は4個のアクチュエータ882,884,886,888を含んでいて、これらアクチュエータはプロセッサ870から受信した制御信号872をそれぞれ対応するスラストデフレクター822,824,826,828に伝えそれらの動きに変換する。4個以上のスラストデフレクターを有するスラストベクトルサブシステム874は、スラストデフレクターの数に対応する数のアクチュエータを有している。この特許において、アクチュエータと言う用語は、他のコンポーネントに関して動き可能な少なくとも1つのコンポーネントを含む機械的、電気的及び電気機械的なコンポーネントの組合せをいい、電気信号を動き可能なコンポーネントの動きに変換するトランスジューサを言う。トランスジューサは、リニア或いはロータリーモータ、リニア或いはロータリーソレノイド、或いは電気信号を機械的動きに変換するその他の装置である。トランスジューサによって生成される機械的動きは、リニア、ロータリー、リニアとロータリーの組み合わせ、或いは他の動きである。各アクチュエータは、プッシュロッド、ラック、カム、クランク、ロータリー或いはリニアスライド、リンク、ケーブル、ベアリング、ブッシュ、或いはその他の装置及びそれらの組み合わせによって、対応するスラストデフレクターに機械的に結合される。各トランスジューサは、厳しい温度であるモータの燃焼ガスに晒されないように、対応するスラストデフレクターから分離され、熱的に離隔されている。
【0040】
プロセスの説明
図9を参照すると、ミサイルの姿勢と回転を制御する方法900は905からスタートし、例えばターゲットを得て、910でミサイルを発射するための決定を導く。ミサイルが発射されると、ミサイルのスピードは、空気力学制御面を有するミサイルの姿勢を制御するのに不十分であるかもしれない。この場合、回転を含むミサイルの姿勢は、スラストデフレクターを用いてスラストベクトリングによって制御される。
【0041】
920において、ミサイル内のセンサーサブシステム、ナビゲーションサブシステム及び通信サブシステムの内の少なくとも1つから1以上の案内信号が受信される。例えば、ミサイルは、意図するターゲットを追跡する1以上のセンサー、ミサイルの現在位置を決定するGPS受信機、及びミサイルの姿勢を測定する慣性測定ユニットを含んでいる。
【0042】
930において、ミサイルの望ましい姿勢変化が案内信号から導かれ、望ましい変化を起こすための正味の横方向の力と正味のトルクが決定される。必要な正味の横方向の力と必要なトルクは、ミサイルに適した制御アルゴリズムを用いて1以上の案内信号を処理することにより決定される。
【0043】
940において、複数の回転できないスラストデフレクターが、必要な正味の横方向の力と必要な正味のトルクをまとめて提供するために位置づけられる。スラストデフレクターはロケットモータのノズルの周囲に等間隔或いは非等間隔で配置される。各スラストデフレクターは線形な位置の関数として、横方向の力とトルクの両方を生成する。少なくとも2つのスラストデフレクターは、時計回りのトルクを生成し、少なくとも2つの他のスラストデフレクターは反時計回りのトルクを生成する。スラストデフレクターは、スラストデフレクターにより生成されるトルクの和が必要な正味のトルクに等しく、スラストデフレクターによって生成される横方向の力のベクトル和が必要な横方向の力に等しいように位置づけられる。
【0044】
940におけるスラストデフレクターの位置付けは、942における、必要な正味の横方向の力と必要な正味のトルクに基づき各スラストデフレクターに対して必要な位置を計算することを含む。944において、電気的制御信号がスラストデフレクターの必要な位置から生成される。946において、各スラストデフレクターに結合しているアクチュエータが、それぞれの制御信号に応答して各スラストデフレクターをそれぞれ必要な位置に移動させる。
【0045】
950において、ミサイルがスラストベクトル(TV)制御の使用を継続するかどうかが決定され、継続する場合には、プロセス900は920から継続される。950において、ミサイル速度が空気力学制御の使用だけで十分であるような理由で、スラストベクトルが不要であると決定されると、スラストデフレクターは960において引っ込まされる。
【0046】
920,930,940,950における動作は、説明を容易にするために連続したステップとして図2では示されているが、これらの動作は、まとめて閉ループ制御システムを構成すると理解頂きたい。920,930,940,950での動作は、リアルタイムにおいて連続的に且つ本質的に同時に達成される。この明細書において、「リアルタイム」とは、920における案内信号の受信から946におけるスラストデフレクターの必然的な動きまでの遅延が、ミサイルの姿勢を安定して制御し続けるのに十分に短いことで定義される。
【0047】
終わりのコメント
この記述において、示された実施例と例は、開示され或いは請求された装置と方法に制限を加えるというものではなく、むしろ模範的なものとして考えるべきである。ここに提示された多くの例は、方法の行為或いはシステムの要素の特定な組み合わせを含むが、これらの行為と要素は同一の目的を達成するためにその他の方法で組合されると理解すべきである。フローチャートに関して、追加の数ステップを取り込むことが可能で、示されたステップをここに記述された方法を達成するために組み合わすこともできるし、或いは改良できる。ある実施例との関連でのみ議論された行為、要素及び特徴を、他の実施例における類似の役割から排除することを意図していない。
【0048】
請求項におけるミーンズ・プラス・ファンクションの限定は、述べられた機能を達成するためにここで開示された手段に限定されない。述べられた機能を達成する現在知られている或いは将来開発される任意の手段をカバーすることを意図している。
【0049】
ここで使用されている「複数」という用語は2以上を意味する。
【0050】
ここで使用されている、あるアイテムの「セット」という用語は1以上のそのようなアイテムを含む。
【0051】
明細書での記述或いは請求項での使用の如何にかかわらず、ここで使用されているように、「からなる」、「含む」、「運ぶ」、「有する」、「包含する」、「伴う」等の用語は、オープン・エンデッド(制限のない)用語、即ち制限されずに含んでいる意味に理解すべきである。「のみからなる」、「本質的にのみからなる」という移行句はそれぞれ、請求項に関して、クローズド或いは半クローズド移行句である。
【0052】
請求項の要素を修飾するための「第1」、「第2」、「第3」等の順序を示す用語の請求項での使用は、他の請求項の要素に対するある請求項の要素の任意の優先度、先行或いは順序、或いは方法の行為がなされる一時的な順序をそれ自身で暗示してはいないが、あるネームを有する1つの請求項の要素を、(順序を示す用語の使用がない場合には)同じネームを有する他の要素と区別するためにラベルとして単に使用されている。
【0053】
「及び/または」は、リストされたアイテムが2者択一であることを示しており、しかし2者択一はまたリストされたアイテムの任意の組み合わせも含んでいる。
【符号の説明】
【0054】
100・・・ミサイル、102・・・ミサイル本体、105、205、305・・・長手方向の軸、106・・・フィン、108・・・空気力学制御面、110、210、310、410、510、610・・・ノズル、150・・・フライト制御システム、212、225、232・・・矢印、215、225・・・燃焼ガス、222、226、822,824,826,828・・・スラストデフレクター、322、422、522、622・・・第1のスラストデフレクター、324、424、524、624・・・第2のスラストデフレクター、326、426、526、626・・・第3のスラストデフレクター、328、428、528、628・・・第4のスラストデフレクター、432・・・フローダム、722A,722B,722C・・・第1のグループのスラストデフレクター、724A,724B,724C・・・第2のグループのスラストデフレクター、850・・・フライト制御システム、852・・・シーカーサブシステム、854・・・半活性レーザシーカー、856・・・イメージング赤外(IIR)シーカー、858・・・レーダーシーカー、860・・・ナビゲーションサブシステム、862・・・GPSナビゲーションシステム、864・・・慣性航法システム、866・・・通信サブシステム、870・・・プロセッサ、872・・・制御信号、874・・・スラストベクトル姿勢及び回転制御サブシステム、876・・・空気力学姿勢制御サブシステム、880・・・スラストベクトル制御作動システム、882,884,886,888・・・アクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを通じて燃焼ガスを排出することにより長手方向の軸に沿ってスラストを生成するモータのスラストをベクトリングする装置において、
前記ノズルの周囲に配置された線形に位置付け可能で回転不可能な複数のスラストデフレクターを含み、
各スラストデフレクターは前記長手方向の軸に直角な横方向の力と、前記長手方向の軸の回りのトルクとを同時に生成するように独立に位置付けられている、装置。
【請求項2】
前記複数のスラストデフレクターは、
時計回りにトルクを生成する少なくとも2つのスラストデフレクターと、
反時計回りにトルクを生成する少なくとも2つのスラストデフレクターと、
を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数のスラストデフレクターは、
前記ノズルの周囲に90度の間隔で配置された第1、第2、第3及び第4のスラストデフレクターのみを有し、
前記第3のスラストデフレクターは前記第1のスラストデフレクターに対してまさに向かい合っていて、
前記第1と第3のスラストデフレクターは時計回りのトルクを生成し、
前記第2と第4のスラストデフレクターは反時計回りのトルクを生成する、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1のスラストデフレクターは、延びた際に、第1の方向に力を生成し、前記第3のスラストデフレクターは、延びた際に、前記第1の方向に対向した第3の方向に力を生成し、
前記第2のスラストデフレクターは、延びた際に、前記第1の方向に対して直角な第2の方向に力を生成し、前記第4のスラストデフレクターは、延びた際に、前記第2の方向に対向した第4の方向に力を生成する、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記複数のスラストデフレクターは、
前記ノズルの周囲に60度の間隔でシーケンスに配置された第1、第2、第3、第4、第5及び第6のスラストデフレクターを含み、
前記第1、第3及び第5のスラストデフレクターは時計回りのトルクを生成し、
前記第2、第4及び第6のスラストデフレクターは反時計回りのトルクを生成する、
請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記複数のスラストデフレクターの各々は、引っ込んだ位置、十分に延びた位置及び少なくとも1つの中間的に延びた位置の間を線形に移動される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記引っ込んだ位置では、各スラストデフレクターは実質的に何ら力もトルクも生成せず、前記モータのスラスト及び効率に実質的に何らの効果も与えない、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記複数のスラストデフレクターの各々を独立に位置づける制御アクチュエーションシステムを更に含む、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記制御アクチュエーションシステムは、
前記複数のスラストデフレクターに機械的に結合した複数のアクチュエータを含み、
前記複数のアクチュエータの各々は、制御信号に応答してそれぞれのスラストデフレクターを有効に位置付ける、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
1以上の案内信号を提供するシーカーサブシステム、ナビゲーションサブシステム及び通信サブシステムのうちの少なくとも1つと、
前記1以上の案内信号に基づいて前記複数のアクチュエータに前記制御信号を供給するプロセッサと、を更に含む請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記スラストデフレクターは、前記ノズルの後方に延びることができる羽である、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記ノズルの周囲に配置された複数のフローダムを更に含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記スラストデフレクターは、前記ノズルの中に延びることができる非対称のピンである、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
ロケットモータによって推進されるミサイルの姿勢と回転を制御する方法において、
必要な正味の横方向の力と必要な正味のトルクとを決定するステップと、
前記ロケットモータのノズルの周囲に配置された線形に位置付け可能で回転できない複数のスラストデフレクターを位置付けるステップと、を含み、
前記スラストデフレクターの各々は、線形位置関数として、横方向の力とトルクとを生成し、
前記スラストデフレクターは、前記スラストデフレクターにより生成されるトルクの和が前記必要な正味のトルクに等しく、前記スラストデフレクターによって生成される横方向の力の和が前記必要な横方向の力に等しいように位置付けられる、方法。
【請求項15】
前記決定するステップは、
シーカーサブシステム、ナビゲーションサブシステム及び通信サブシステムの内少なくとも1つから1以上の案内信号を受信するステップと、
前記1以上の案内信号から前記必要な正味の横方向の力と前記必要な正味のトルクとを計算するステップと、を更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記位置付けるステップは、
前記必要な正味の横方向の力と前記必要な正味のトルクとに基づいて、各スラストデフレクターに対する必要な位置を計算するステップと、
それぞれのアクチュエータによって各スラストデフレクターをそれぞれ前記必要な位置に移動させる電気信号を生成するステップと、を更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記決定するステップと前記位置付けるステップは、リアルタイムで連続的に実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ミサイルの速度が空気力学制御面だけでミサイルを制御するのに十分である場合、前記スラストデフレクターを引っ込めるステップを更に含む請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−521200(P2011−521200A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510633(P2011−510633)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/044439
【国際公開番号】WO2010/019299
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(503455363)レイセオン カンパニー (244)