説明

スラスト受け機能評価装置

【課題】実機に近い状態でスラスト受けを評価することができるスラスト受け機能評価装置を提供する。
【解決手段】スラスト受け機能評価装置21は、先端に偏心部30を有する駆動軸22と、スラスト受け11に含まれる第一および第二の軌道輪12a、12bのうち、第一の軌道輪12aを固定する第一の固定部材24と、第一の固定部材24と対面する位置に設けられ、偏心部30に装着されて、第一および第二の軌道輪12a、12bのうち、第二の軌道輪12bとともに偏心回転運動を行う旋回プレート23と、スラスト受け11にスラスト荷重を負荷するスラスト荷重負荷手段26とを備え、スラスト受け11を機能評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラスト受け機能評価装置に関し、特にスクロール形コンプレッサ等に使用されるスラスト受けの偏心回転性能等を評価するスラスト受け機能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用給湯機のスクロール形コンプレッサは、旋回スクロールと固定スクロールが組み合わさり、旋回スクロールが旋回運動をして、吸入、圧縮をおこなっている。ここで、スクロール形コンプレッサの作動原理について、簡単に説明する。図6(A)〜(D)は、スクロール形コンプレッサの作動原理の概略を示す図である。まず、図6(A)を参照して、スクロール形コンプレッサ101は、渦巻き形状の旋回スクロール102と、同じく渦巻き形状の固定スクロール103と、互いの渦巻き形状の中心に位置する圧縮冷媒ガスの吐出部105を含む。固定スクロール103は、他部材に固定されており、公転運動を行うことはできない。旋回スクロール102は、自転運動を行うことはできないが、公転運動を行うことができるよう構成されている。旋回スクロール102の公転運動により、旋回スクロール102と固定スクロール103との間に生じる吸入口106a、106bが開口し、圧縮室104a、104bに、冷媒ガスが吸入される。旋回スクロール102が、図6(B)、図6(C)、図6(D)の順に公転運動し、旋回すると、徐々に圧縮室104a、104bの容積が小さくなり、圧縮室104a、104b内に吸入された冷媒ガスが圧縮され、吐出部105から吐出される。
【0003】
このような構造のスクロール形コンプレッサ、すなわち、固定スクロール103が固定され、旋回スクロール102が偏心回転運動を行うスクロール形コンプレッサにおいては、相互間に発生する偏心スラスト荷重を受ける必要がある。このような偏心スラスト荷重を受けるスラスト受けが、特開2000−186680号公報(特許文献1)、特開2002−242857号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
特許文献1および特許文献2によると、ころ軸受の転動軸心を、互いに垂直な方向に向きを変えて上下に2列に配列し、偏心回転運動によるスラスト荷重を受けることにしている。図7は、この場合のスラスト受けの基本構造を示す分解斜視図である。また、図8は、この場合のスラスト受けの一部を示す断面図である。図7および図8を参照して、スラスト受け111は、一対の軌道輪112a、112bと、軌道輪112a、112bとの間に配置される中間輪113とを含む。軌道輪112aと中間輪113との間には、第一のころ114aが配置され、図7において縦方向(紙面上下方向)に転動軸心を有するように、保持器115aによって保持されている。また、軌道輪112bと中間輪113との間には、第二のころ114bが配置され、図7において横方向(紙面左右方向)に転動軸心を有するように、保持器115bによって保持されている。すなわち、第一のころ114aと第二のころ114bとの転動軸心は、互いに垂直な方向に配列されている。このように構成することにより、スラスト受け111は、偏心回転運動によるスラスト荷重を受けている。
【0005】
ここで、特開2003−120664号公報(特許文献3)には、スラスト荷重を受けるスラスト軸受の回転性能を評価するために、スラスト軸受に偏心スラスト荷重を加え、これによりスラスト軸受の回転性能を評価する試験装置が開示されている。
【特許文献1】特開2000−186680号公報(段落番号0019〜0021、図3)
【特許文献2】特開2002−242857号公報(段落番号0029、図5)
【特許文献3】特開2003−120664号公報(段落番号0008〜0014、図1、2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したスラスト受け111の偏心回転性能を評価するためには、評価装置を用いて評価する必要がある。従来において、スラスト荷重を受けるスラスト軸受を評価する試験装置があるが、このような試験装置は、偏心スラスト荷重を負荷することができず、また、図9に示すように、放射状にころ117が配置されたスラスト軸受116を評価対象としているため、上記したスラスト受け111と構成が異なり、評価することはできない。
【0007】
また、特許文献3に示す試験装置においては、偏心スラスト荷重を負荷することができるが、この場合も、スラスト受け111と構成が異なるスラスト軸受を評価対象としている。さらに、スラスト受け111に含まれる一対の軌道輪のうち、一方の軌道輪を偏心回転運動させ、他方の軌道輪を固定することができず、実機と大きく異なる条件となるため、評価を適切に行うことができない。
【0008】
この発明の目的は、実機に近い状態でスラスト受けを評価することができるスラスト受け機能評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るスラスト受け機能評価装置は、相互間で偏心回転運動を行う第一の部材と第二の部材との間に介在してスラスト荷重を支持するスラスト受けを評価する。また、スラスト受け機能評価装置は、第一の部材に固定した第一の軌道輪と、第二の部材に固定した第二の軌道輪と、第一の軌道輪と第二の軌道輪との間に配置した中間輪と、第一の軌道輪と中間輪との間に配置した複数の第一のころと、第一のころを転動軸心が互いに平行になるように保持するための複数のポケットを有する第一の保持器と、第二の軌道輪と中間輪との間に配置した複数の第二のころと、第二のころを転動軸心が互いに平行になるように保持するための複数のポケットを有する第二の保持器とを具備し、第一のころの転動軸心と第二のころの転動軸心とが直交し、かつ、第一の部材から第一の軌道輪および第一の保持器を貫通して中間輪まで延在する第一のガイドピン、ならびに、第二の部材から第二の軌道輪および第二の保持器を貫通して中間輪まで延在する第二のガイドピンを具備し、第一のガイドピンが第一のころの転動軸線と直交する方向に、第一の保持器および中間輪の規制範囲内において移動可能で、第二のガイドピンが第二のころの転動軸線と直交する方向に、第二の保持器および中間輪の規制範囲内において移動可能としたことを特徴とするスラスト受けを評価する。ここで、スラスト受け機能評価装置は、先端に偏心部を有する駆動軸と、第一の軌道輪を固定する第一の固定部材と、第一の固定部材と対面する位置に設けられ、偏心部に装着されて、第二の軌道輪とともに偏心回転運動を行う旋回プレートと、スラスト受けにスラスト荷重を負荷するスラスト荷重負荷手段とを備え、上記スラスト受けを機能評価できる。
【0010】
このように構成することにより、スラスト受けに含まれる第一および第二の軌道輪のうち、第二の軌道輪は、旋回プレートとともに偏心回転運動を行い、第一の軌道輪は、第一の固定部材に固定される。具体的には、先端に偏心部を有する駆動軸を回転させることにより、旋回プレートおよび第二の軌道輪に、回転運動を除いた公転運動のみを伝達することができる。ここで、スラスト受けには、スラスト荷重負荷手段によって、スラスト荷重が負荷される。このような評価条件は、上記したスクロール形コンプレッサ等において使用される条件に近いものである。したがって、このようなスラスト受け機能評価装置を用いることにより、実機に近い状態でスラスト受けを評価することができる。
【0011】
好ましくは、ラジアル軸受と、一対の玉軸受軌道輪および一対の玉軸受軌道輪の間に配置される玉を含み偏心スラスト荷重を受ける偏心スラスト玉軸受と、一対の玉軸受軌道輪のうち、一方の玉軸受軌道輪を固定する第二の固定部材とを備える。ラジアル軸受は、偏心部および旋回プレートの間に設けられる。旋回プレートの一方の面に第二の軌道輪が配置され、旋回プレートの他方の面に一対の玉軸受軌道輪のうち、旋回プレートとともに偏心回転運動を行う他方の玉軸受軌道輪が配置される。
【0012】
このように構成することにより、偏心部の外径部と旋回プレートとの間に設けられたラジアル軸受を介して、旋回プレートおよびこれに配置される第二の軌道輪、他方の玉軸受軌道輪に、回転運動を除いた公転運動のみを伝達することができる。したがって、より適切に、スラスト受けを評価することができる。
【0013】
より好ましくは、旋回プレートを挟んで、スラスト受けは、駆動軸側に配置され、偏心スラスト玉軸受は、スラスト荷重負荷手段側に配置される。こうすることにより、スラスト受けに、適切にスラスト荷重を負荷することができる。
【0014】
さらに好ましくは、スラスト荷重負荷手段は、駆動軸の中心軸線から偏心された位置にスラスト荷重を負荷する荷重点を含む。こうすることにより、スラスト受けに対し、偏心した位置にスラスト荷重を負荷することができるため、さらに実機に近い状態となる。
【0015】
さらに好ましくは、スラスト荷重負荷手段は、駆動軸の回転中心軸から偏心された位置に、球面状の突部を備える。こうすることにより、適切に、偏心した位置に、スラスト荷重を負荷することができる。
【0016】
さらに好ましくは、駆動軸の回転中心軸から偏心された位置に、軸方向に凹んだ凹部が設けられ、凹部には、凹部の中心軸上に中心が位置する荷重負荷用玉が備えられ、球面状の突部は、凹部内に備えられた荷重負荷用玉の一部である。このように構成することにより、容易に、偏心した位置に、スラスト荷重を負荷することができる。
【0017】
さらに好ましくは、スラスト受け機能評価装置は、冷媒雰囲気での希薄潤滑に近似させ、低粘度油で評価することが可能であり、さらに好ましくは、たとえば、白灯油とPAG(ポリアルキレングリコール)オイルとを含む潤滑剤を用いて評価することができる。また、スラスト受け機能評価装置は、白灯油およびPAGオイルに対して耐性を有するシールを備える。シールの材質は、たとえば、四フッ化エチレン樹脂、水素化ニトリルゴムである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、スラスト受けに含まれる第一および第二の軌道輪のうち、第二の軌道輪は、旋回プレートとともに偏心回転運動を行い、第一の軌道輪は、第一の固定部材に固定される。具体的には、先端に偏心部を有する駆動軸を回転させることにより、旋回プレートおよび第二の軌道輪に、回転運動を除いた公転運動のみを伝達することができる。ここで、スラスト受けには、スラスト荷重負荷手段によって、スラスト荷重が負荷される。このような評価条件は、上記したスクロール形コンプレッサ等において使用される条件に近いものである。
【0019】
その結果、実機に近い状態でスラスト受けを評価することができるスラスト受け機能評価装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図2は、この発明の一実施形態に係るスラスト受け機能評価装置によって評価されるスラスト受けを示す分解斜視図である。図2を参照して、スラスト受け11は、第一の部材であるハウジング20aと、ハウジング20aに対して偏心回転運動を行う第二の部材として回転部材20bとの間に介在して、ハウジング20aと回転部材20bとの間に発生するスラスト荷重を支持する。
【0021】
スラスト受け11は、平板状の環状部材であって片面に軌道面を有し、軌道面と反対側の面がハウジング20aに取り付けられる第一の軌道輪12aと、平板状の環状部材であって片面に軌道面を有し、軌道面と反対側の面が回転部材20bに取り付けられる第二の軌道輪12bと、平板状の環状部材であってその両面に軌道面を有する中間輪13とを備える。第一の軌道輪12aと第二の軌道輪12bとは、軌道面が対向するように配置される。中間輪13は、双方の軌道面が、第一の軌道輪12aの軌道面および第二の軌道輪12bの軌道面と対向するように、第一の軌道輪12aと第二の軌道輪12bとの間に配置される。
【0022】
スラスト受け11は、第一の軌道輪12aと中間輪13との間に配置され、第一の軌道輪12aおよび中間輪13の軌道面と接する複数の第一のころ14aと、第二の軌道輪12bと中間輪13との間に配置され、第二の軌道輪12bおよび中間輪13の軌道面と接する複数の第二のころ14bとを備える。第一のころ14aは、上下方向に配置される第一の軌道輪12aの軌道面および中間輪13の軌道面を転動する。第二のころ14bは、上下方向に配置される第二の軌道輪12bの軌道面および中間輪13の軌道面を転動する。
【0023】
スラスト受け11は、平板状の環状部材であって複数の第一のころ14aを保持する第一の保持器15aと、平板状の環状部材であって複数の第二のころ14bを保持する第二の保持器15bとを備える。複数の第一のころ14aは、その転動軸心が矢印Aの方向に整列して向くように、第一の保持器15aによって互いに平行になるように保持されている。同様に、第二のころ14bは、その転動軸心が矢印Aの方向と直交する矢印Bの方向に整列して向くように、第二の保持器15bによって互いに平行になるように保持されている。第一の保持器15aには、ポケットに保持した第一のころ14aの脱落を防止するため、中間輪13側および第一の軌道輪12a側にころ止め部(図示せず)が設けられている。同様に、第二の保持器15bについても、ポケットに保持した第二のころ14bの脱落を防止するため、中間輪13側および第二の軌道輪12b側にころ止め部(図示せず)が設けられている。
【0024】
第一の軌道輪12aには、180度間隔で相互に対向する位置に一対の丸孔17aが設けられており、中間輪13および第一の保持器15aには、180度間隔で相互に対向し、長手方向が揃うように、一対の長孔18a、19aが設けられている。一対の長孔18a、19aは、半径方向に延びており、第一のころ14aの転動軸線方向(矢印Aの方向)と直交する方向へのそれら自身の移動を許容し、その寸法関係は19a<18aとなっている。
【0025】
スラスト受け11は、ハウジング20aから第一の軌道輪12aおよび第一の保持器15aを貫通して中間輪13まで延在するよう、一対の第一のガイドピン16aを備える。一対の第一のガイドピン16aを、丸孔17a、長孔18a、19aに挿通することにより、各部材の周方向が位置決めされるとともに、第一の軌道輪12aはハウジング20aに固定される。また、中間輪13および第一の保持器15aは、長孔18a、19aの許容範囲内で、第一のころ14aの転動軸線方向と直交する方向、すなわち、矢印Bの方向またはその逆の方向に移動可能である。
【0026】
同様に、第二の軌道輪12bには、180度間隔で相互に対向する位置に一対の丸孔17bが設けられており、中間輪13および第二の保持器15bには、180度間隔で相互に対向し、長手方向が揃うように、一対の長孔18b、19bが設けられている。なお、中間輪13に設けられた一対の長孔18a、18bは、相互に90度間隔で設けられている。一対の長孔18b、19bは、半径方向に延びており、第二のころ14bの転動軸線方向(矢印Bの方向)と直交する方向へのそれら自身の移動を許容し、その寸法関係は19b<18bとなっている。
【0027】
スラスト受け11は、回転部材20bから第二の軌道輪12bおよび第二の保持器15bを貫通して中間輪13まで延在するよう、一対の第二のガイドピン16bを備える。一対の第二のガイドピン16bを、丸孔17b、長孔18b、19bに挿通することにより、各部材の周方向が位置決めされるとともに、第二の軌道輪12bは回転部材20bに固定され、中間輪13および第二の保持器15bは、長孔18b、19bの許容範囲内で、第二のころ14bの転動軸線方向と直交する方向、すなわち、矢印Aの方向またはその逆の方向に移動可能である。
【0028】
このような構成により、ハウジング20aが固定された状態で、回転部材20bが偏心回転運動を行っても、第一の保持器15a、第二の保持器15bおよび中間輪13は、矢印A、Bの方向またはその逆の方向への移動が許容され、第一のころ14aおよび第二のころ14bが転動することにより、スラスト受け11は、回転部材20bと、ハウジング20aとの間の偏心スラスト荷重を支持することができる。
【0029】
次に、上記したスラスト受け11の偏心回転性能を評価するスラスト受け機能評価装置について説明する。図1は、スラスト受け機能評価装置21の構成を示す概略図である。図1および図2を参照して、スラスト受け機能評価装置21は、先端に偏心部30を有する駆動軸22と、スラスト受け11に含まれる第一および第二の軌道輪12a、12bのうち、第一の軌道輪12aを固定する第一の固定部材24と、第一の固定部材24と対面する位置に設けられ、偏心部30に装着されて、第二の軌道輪12bとともに偏心回転運動を行う旋回プレート23と、スラスト受け11に偏心スラスト荷重を負荷するスラスト荷重負荷手段26と、偏心スラスト荷重を受ける偏心スラスト玉軸受29とを備える。偏心スラスト玉軸受29は、一対の玉軸受軌道輪41a、41bと、玉42とを含む。また、スラスト受け機能評価装置21は、偏心スラスト玉軸受29に含まれる一対の玉軸受軌道輪41a、41bのうち、一方の玉軸受軌道輪41aを固定する第二の固定部材25とを備える。
【0030】
上述したように、スラスト受け11は、上記したハウジング20aを第一の固定部材24とし、回転部材20bを旋回プレート23とするように配置され、取り付けられる。具体的には、第一の軌道輪12aは、一対の第一のガイドピン16aによって第一の固定部材24に固定される。第二の軌道輪12bは、一対の第二のガイドピン16bによって旋回プレート23に装着される。
【0031】
偏心スラスト玉軸受29に含まれる一対の玉軸受軌道輪41a、41bのうち、他方の玉軸受軌道輪41bは、旋回プレート23に装着され、一方の玉軸受軌道輪41aは、第二の固定部材25に固定される。他方の玉軸受軌道輪41bが装着される位置は、スラスト受け11の一方の軌道輪が装着された位置と反対側である。すなわち、旋回プレート23の一方の面に、第二の軌道輪12bが装着され、旋回プレート23の他方の面に、玉軸受軌道輪41bが装着される。また、旋回プレート23を挟んで、スラスト受け11は、駆動軸22側に配置され、偏心スラスト玉軸受29は、スラスト荷重負荷手段26側に配置される。こうすることにより、旋回プレート23を介して、適切に、スラスト受け11にスラスト荷重を負荷することができる。
【0032】
ここで、スラスト受け機能評価装置21に備えられる偏心スラスト玉軸受29の構成について、説明する。図3は、偏心スラスト玉軸受29の要部を示す断面図である。また、図4は、偏心スラスト玉軸受29に含まれる一方の玉軸受軌道輪41aを、軸方向からみた図である。図1、図2、図3および図4を参照して、玉軸受軌道輪41a、41bのうち、旋回プレート23および第二の固定部材25に取り付けられた面と反対の面には、玉42が転動するための複数の玉軸受軌道面43a、43bが、同一円周上に形成されている。各玉軸受軌道面43a、43bは、環状であり、各玉軸受軌道面43a、43b上に配置されている玉42は、偏心回転運動によって、玉軸受軌道面43a、43bのピッチ円PCD(Pitch Circle Diameter)上を転動する。
【0033】
次に、上記したスラスト受け機能評価装置21の動作について説明する。駆動軸22は、回転可能であり、駆動軸22の回転中心軸34と、駆動軸22の先端に設けられた偏心部30の回転中心軸33とは、寸法Dだけ偏心しているため、駆動軸22の回転により、偏心部30は、偏心回転運動を行う。偏心部30と旋回プレート23との間には、ラジアル軸受27が配置されており、偏心部30と旋回プレート23との間に発生するラジアル荷重を受けている。第一の固定部材24および第二の固定部材25は、その径方向および周方向の位置がケーシング28によって定められている。なお、上記したピッチ円PCDの直径は、偏心量Dに等しい。
【0034】
このように構成することにより、旋回プレート23およびこれに装着される第二の軌道輪12bに、回転運動を除いた公転運動のみを伝達することができる。具体的には、上記のように構成することにより、偏心部30の外径部と旋回プレート23との間に設けられたラジアル軸受27を介して、旋回プレート23およびこれに配置される第二の軌道輪12b、玉軸受軌道輪41bに、回転運動を除いた公転運動のみを伝達することができる。
【0035】
スラスト荷重負荷手段26は、駆動軸22の回転中心軸34から寸法Cだけ偏心された位置にスラスト荷重を負荷する荷重点を含む。この荷重点から矢印Eの方向に力を付与することにより、スラスト受け11に対し、偏心スラスト荷重を負荷することができる。第二の固定部材25の上側には、軸方向に凹んだ凹部32が設けられている。凹部32内には、凹部32の中心軸31上に中心、すなわち、荷重点が位置するよう、荷重を負荷する荷重負荷用玉35が備えられている。凹部32の径方向の位置は、凹部32の中心軸31が、回転中心軸34よりも寸法Cだけ偏心した位置に設けられている。この荷重負荷用玉35を通じて、スラスト荷重負荷手段26によって、矢印Eの方向に荷重を加えることにより、スラスト受け11に偏心スラスト荷重を負荷することができる。なお、荷重負荷用玉35は一部に球面を有するため、荷重負荷用玉35を通じて、荷重を負荷することにより、偏心した位置に、容易に、かつ、適切に、スラスト荷重を負荷することができる。また、この場合、荷重負荷用玉35および凹部32の代わりに、球面状の突部を設けることにしてもよい。こうすることによっても、適切に、偏心した位置に、スラスト荷重を負荷することができる。
【0036】
ここで、スラスト受け機能評価装置21は、冷媒雰囲気での希薄潤滑に近似させ、低粘度油で評価することが可能であり、たとえば、白灯油とPAGオイルとを含む潤滑剤を用いて評価することができる。また、スラスト受け機能評価装置21は、白灯油およびPAGオイルに対して耐性を有するシールを備える。シールの材質は、たとえば、四フッ化エチレン樹脂、水素化ニトリルゴムである。こうすることにより、より適切に、スラスト受け11を評価することができる。
【0037】
上記したスラスト受け機能評価装置21を用いて、スラスト受け11に含まれる軌道輪の摩耗量を評価する試験を行った。軌道輪の母線形状曲線44a、44b、44cを、図5(A)〜(C)に示す。
【0038】
なお、寸法C、寸法Dを含む具体的な試験条件は以下の通りである。
【0039】
スラスト荷重 :1000N(荷重位置:中心軸線から12.5mmの位置)
回転速度 :1500r/min(公転半径2.5mm)
潤滑剤 :PAG+白灯油
図5(A)は、実機、すなわち、上述したスクロール形コンプレッサ等に備えられたスラスト受けの軌道輪の母線形状曲線44a、図5(B)は、この発明に係るスラスト受け機能評価装置に備えられたスラスト受けのうち、第一の固定部材24側に取り付けられた軌道輪の母線形状曲線44b、図5(C)は、この発明に係るスラスト受け機能評価装置に備えられたスラスト受けのうち、旋回プレート23側に取り付けられた軌道輪の母線形状曲線44cを示す。
【0040】
図5(A)を参照して、実機に備えられたスラスト受けに含まれる軌道輪の母線形状曲線44aは、3.0μm程度摩耗している。これに対し、図5(B)を参照して、第一の固定部材24側に取り付けられた軌道輪の母線形状曲線44bも、3.8μm程度摩耗している。また、図5(C)を参照して、旋回プレート23側に取り付けられた軌道輪の母線形状曲線44cについても、2.5μm程度摩耗している。
【0041】
このように、軌道輪の摩耗量は、ほぼ同じである。したがって、実機における軌道輪の最大摩耗量と、この発明に係るスラスト受け機能評価装置における軌道輪の最大摩耗量がほぼ同じとなる。
【0042】
以上より、スラスト受け機能評価装置を用いることにより、実機に近い状態でスラスト受けの評価試験を行うことができる。
【0043】
なお、上記の実施の形態において、偏心部30と旋回プレート23との間に、ラジアル軸受27を配置し、支持することにしたが、これに限らず、すべり軸受により支持することにしてもよい。また、第二の固定部材25と旋回プレート23との間に、偏心スラスト玉軸受29を配置し、支持することにしたが、これに限らず、すべり軸受により支持することにしてもよい。
【0044】
なお、上記の実施の形態においては、スラスト受け11を第一の固定部材24と旋回プレート23との間に配置し、偏心スラスト玉軸受29を第二の固定部材25と旋回プレート23との間に配置することにしたが、これに限らず、スラスト受け11を第二の固定部材25と旋回プレート23との間に配置し、偏心スラスト玉軸受29を第一の固定部材24と旋回プレート23との間に配置することにしてもよい。
【0045】
また、上記の実施の形態において、寸法Cだけ偏心させた位置にスラスト荷重を負荷することにしたが、これに限らず、寸法Cを0として、偏心させない条件でスラスト荷重を負荷することもできる。
【0046】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明に係るスラスト受け機能評価装置は、実機に近い状態で評価試験を行うことができるため、スクロール形コンプレッサ等に備えられるスラスト受けの偏心回転性能を評価する際に、有効に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明の一実施形態に係るスラスト受け機能評価装置の概略図である。
【図2】スラスト受け機能評価装置によって評価されるスラスト受けを示す分解斜視図である。
【図3】スラスト受け機能評価装置に含まれる偏心スラスト玉軸受の要部を示す断面図である。
【図4】スラスト受け機能評価装置に含まれる偏心スラスト玉軸受に備えられる玉軸受軌道輪を示す図である。
【図5】スラスト受け機能評価装置によって試験されたスラスト受けに含まれる軌道輪の摩耗量を表す図であり、(A)実機におけるスラスト受けに備えられる軌道輪の母線形状曲線、(B)スラスト受け機能評価装置によって偏心スラスト荷重が加えられたスラスト受けのうち、第一の固定部材側に取り付けられた軌道輪の母線形状曲線、(C)スラスト受け機能評価装置によって偏心スラスト荷重が加えられたスラスト受けのうち、旋回プレートに取り付けられた軌道輪の母線形状曲線を示す図である。
【図6】スクロール形コンプレッサの作動原理を示す概略図である。
【図7】従来におけるスラスト受けを表す分解斜視図である。
【図8】従来におけるスラスト受けの一部を示す断面図である。
【図9】従来におけるスラスト軸受を軸方向からみた概略図である。
【符号の説明】
【0049】
11,111 スラスト受け、12a 第一の軌道輪、12b 第二の軌道輪、13,113 中間輪、14a,114a 第一のころ、14b,114b 第二のころ、15a 第一の保持器、15b 第二の保持器、16a 第一のガイドピン、16b 第二のガイドピン、17a,17b 丸孔、18a,18b,19a,19b 長孔、20a ハウジング、20b 回転部材、21 スラスト受け機能評価装置、22 駆動軸、23 旋回プレート、24 第一の固定部材、25 第二の固定部材、26 スラスト荷重負荷手段、27 ラジアル軸受、28 ケーシング、29 偏心スラスト玉軸受、30 偏心部、31 中心軸、32 凹部、33,34 回転中心軸、35 荷重負荷用玉、41a,41b 玉軸受軌道輪、42 玉、43a,43b 玉軸受軌道面、44a,44b,44c 母線形状曲線、101 スクロール形コンプレッサ、102 旋回スクロール、103 固定スクロール、104a,104b 圧縮室、105 吐出部、106a,106b 吸入口、112a,112b 軌道輪、115a,115b 保持器、116 スラスト軸受、117 ころ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互間で偏心回転運動を行う第一の部材と第二の部材との間に介在してスラスト荷重を支持するスラスト受けであって、第一の部材に固定した第一の軌道輪と、第二の部材に固定した第二の軌道輪と、第一の軌道輪と第二の軌道輪との間に配置した中間輪と、第一の軌道輪と中間輪との間に配置した複数の第一のころと、第一のころを転動軸心が互いに平行になるように保持するための複数のポケットを有する第一の保持器と、第二の軌道輪と中間輪との間に配置した複数の第二のころと、第二のころを転動軸心が互いに平行になるように保持するための複数のポケットを有する第二の保持器とを具備し、第一のころの転動軸心と第二のころの転動軸心とが直交し、かつ、第一の部材から第一の軌道輪および第一の保持器を貫通して中間輪まで延在する第一のガイドピン、ならびに、第二の部材から第二の軌道輪および第二の保持器を貫通して中間輪まで延在する第二のガイドピンを具備し、第一のガイドピンが第一のころの転動軸線と直交する方向に、第一の保持器および中間輪の規制範囲内において移動可能で、第二のガイドピンが第二のころの転動軸線と直交する方向に、第二の保持器および中間輪の規制範囲内において移動可能としたことを特徴とするスラスト受けを評価するスラスト受け機能評価装置において、
先端に偏心部を有する駆動軸と、前記第一の軌道輪を固定する第一の固定部材と、前記第一の固定部材と対面する位置に設けられ、前記偏心部に装着されて、前記第二の軌道輪とともに偏心回転運動を行う旋回プレートと、前記スラスト受けにスラスト荷重を負荷するスラスト荷重負荷手段とを備え、上記スラスト受けを機能評価できる、スラスト受け機能評価装置。
【請求項2】
ラジアル軸受と、一対の玉軸受軌道輪および前記一対の玉軸受軌道輪の間に配置される玉を含み偏心スラスト荷重を受ける偏心スラスト玉軸受と、前記一対の玉軸受軌道輪のうち、一方の玉軸受軌道輪を固定する第二の固定部材とを備え、前記ラジアル軸受は、前記偏心部および前記旋回プレートの間に設けられ、前記旋回プレートの一方の面には、前記第二の軌道輪が配置され、前記旋回プレートの他方の面には、前記一対の玉軸受軌道輪のうち、前記旋回プレートとともに偏心回転運動を行う他方の玉軸受軌道輪が配置される、請求項1に記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項3】
前記旋回プレートを挟んで、前記スラスト受けは、前記駆動軸側に配置され、前記偏心スラスト玉軸受は、前記スラスト荷重負荷手段側に配置される、請求項2に記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項4】
前記スラスト荷重負荷手段は、前記駆動軸の中心軸線から偏心された位置にスラスト荷重を負荷する荷重点を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項5】
前記スラスト荷重負荷手段は、前記駆動軸の回転中心軸から偏心された位置に、球面状の突部を備える、請求項4に記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項6】
前記駆動軸の回転中心軸から偏心された位置に、軸方向に凹んだ凹部が設けられ、前記凹部には、前記凹部の中心軸上に中心が位置する荷重負荷用玉が備えられ、前記球面状の突部は、前記凹部内に備えられた荷重負荷用玉の一部である、請求項5に記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項7】
冷媒雰囲気での希薄潤滑に近似させ、低粘度油で評価することが可能である、請求項1〜6のいずれかに記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項8】
前記スラスト受け機能評価装置は、白灯油とPAGオイルとを含む潤滑剤を用いて評価する、請求項1〜7のいずれかに記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項9】
白灯油およびPAGオイルに対し、耐性を有するシールを備える、請求項8に記載のスラスト受け機能評価装置。
【請求項10】
前記シールの材質は、四フッ化エチレン樹脂または水素化ニトリルゴムである、請求項9に記載のスラスト受け機能評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−248305(P2007−248305A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73205(P2006−73205)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】