説明

スラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構

【課題】大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わっても、当該環状板金の変形を防止できてピストンロッドの相対的な回転での異音の発生を低減できるスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構を提供すること。
【解決手段】スラスト滑り軸受1は、環状上面2及び環状の係合突起3を有した合成樹脂製の環状の軸受体4と、合成樹脂製の環状の軸受体6と、合成樹脂製のスラスト滑り軸受片7と、軸受体4の係合突起3に係合する係合突起8を有した環状上カバー9と、軸受体6及び環状上カバー9間に介在されている環状板金15とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト滑り軸受、特に四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)の滑り軸受として組込まれて好適なスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪自動車の前輪に用いられるストラット型サスペンションは、一般に、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにコイルばねを組合せた構造をもっている。斯かるサスぺンションにおいては、ステアリング操作においてストラットアッセンブリがコイルばねと共に回る際に、ストラットアッセンブリのピストンロッドが回る形式のものと、ピストンロッドが回らない形式のものとがあるが、いずれの形式においてもストラットアッセンブリの円滑な回動を許容するべく、ストラットアッセンブリの車体への取付機構とコイルばねの上部ばね座部材との間に、ころがり軸受に代えて、合成樹脂製のスラスト滑り軸受が使用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−326758号公報
【特許文献2】特開2004−263773号公報
【特許文献3】特開2004−225754号公報
【特許文献4】特開2008−202703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ストラットアッセンブリの車体への取付機構においては、油圧式ショックアブソーバのピストンロッドの一端を支持するために取付板が用いられるのであるが、斯かる取付機構であると、ピストンロッドの一端を支持する取付板を必要とする上に、複雑な構造となって、高コストを招来している。
【0005】
斯かる問題に対して、特許文献4には、ストラットアッセンブリの車体への取付機構の取付板に代えてピストンロッドの一端を支持でき、而して、取付機構を簡単化し得てコスト低減を図り得るスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構が提案されている。
【0006】
本提案に係るスラスト滑り軸受は、環状上面及び環状係合突起を有した合成樹脂製の環状の軸受体と、この軸受体に当該軸受体の軸心の回りで相対的に回転自在となるように重ね合わされると共に軸受体の環状上面に対面した環状下面を有する合成樹脂製の環状の他の軸受体と、軸受体の環状上面及び他の軸受体の環状下面間に介在されていると共に軸受体の環状上面及び他の軸受体の環状下面のうちの少なくとも一方に摺動自在に接触した下面及び上面のうちの少なくとも一方を有したスラスト滑り軸受手段と、軸受体の環状係合突起に係合する環状係合突起を有した環状上カバーと、他の軸受体の環状上面に下面で接触すると共に上面で環状上カバーの下面に接触して他の軸受体の環状上面及び環状上カバーの下面間に介在されている環状板金とを具備しており、斯かるスラスト滑り軸受において、環状板金は、両軸受体並びに環状上カバーの環状内周面の内径よりも小さな径を有した環状内周面を具備してなり、上記の問題を効果的に解決している。
【0007】
しかしながら、提案のスラスト滑り軸受では、平坦な環状板金においてナットを介してピストンロッドのねじ部に取り付けられるようになっているために、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わると、環状板金が変形してピストンロッドの相対的な回転で異音が発生する虞がある。
【0008】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わっても、当該環状板金の変形を防止できてピストンロッドの相対的な回転での異音の発生を低減できるスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスラスト滑り軸受は、環状上面及び第一の係合突起を有した合成樹脂製の環状の第一の軸受体と、この第一の軸受体に当該第一の軸受体の軸心の回りで相対的に回転自在となるように重ね合わされると共に第一の軸受体の環状上面に対面した環状下面を有する合成樹脂製の環状の第二の軸受体と、第一の軸受体の環状上面及び第二の軸受体の環状下面間に介在されていると共に第一の軸受体の環状上面及び第二の軸受体の環状下面のうちの少なくとも一方に摺動自在に接触した下面及び上面のうちの少なくとも一方を有したスラスト滑り軸受手段と、第一の軸受体の第一の係合突起に係合する第二の係合突起を有した環状上カバーと、第二の軸受体の環状上面に下面で接触すると共に上面で環状上カバーの下面に接触して第二の軸受体の環状上面及び環状上カバーの下面間に介在されている環状板金とを具備しており、環状上カバーは、第二の係合突起を有した円筒部と、この円筒部に一体的に形成されている第一の環状板部とを具備しており、環状板金は、第二の軸受体の環状上面及び環状上カバーの第一の環状板部の環状下面に接触した第二の環状板部と、環状上カバーの第一の環状板部の内周面によって規定される貫通孔に配された第三の環状板部と、一端では第二の環状板部に、他端では第三の環状板部に夫々一体的に形成された環状段部とを具備しており、第三の環状板部は、第一及び第二の軸受体の環状内周面の内径よりも小さな径を有した環状内周面を具備している。
【0010】
本発明によるスラスト滑り軸受によれば、環状板金は、第二の軸受体の環状上面及び第一の環状板部の環状下面に接触した第二の環状板部と、第一の環状板部の内周面によって規定される貫通孔に配された第三の環状板部と、一端では第二の環状板部に、他端では第三の環状板部に夫々一体的に形成された環状段部とを具備しているために、環状段部が環状板金の補強部(リブ)と同様の働きをなす結果、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わっても、環状板金の変形を防止できて環状板金の変形に起因するピストンロッドの相対的な回転での異音の発生を低減できる。
【0011】
好ましい例では、環状板金は、当該環状板金と第二の軸受体との径方向の相対位置を保持するべく、第二の環状板部の下面に一体的に形成されていると共に第二の軸受体の環状外周面に係合する環状突起を具備しており、他の好ましい例では、環状上カバーは、環状板金の環状外周面が接触する環状内周面を有しており、斯かる例でも、環状板金を環状上カバーに対して位置決めできる結果、接着剤等を用いて環状板金を第二の軸受体及び環状上カバーに固定する必要がない。環状板金の第二の軸受体及び環状上カバーへの固定は、場合により接着剤等を用いて行ってもよいが、これに代えて又はこれと共に、突起と貫通孔又は凹所との嵌合により行わせてもよい。突起及び貫通孔又は凹所の夫々は、一個でもよいが、二個以上であるとよい。
【0012】
本発明では、第二の軸受体の環状外周面は、大径外周面部と、この大径外周面部よりも小径の小径外周面部と、大径外周面部と小径外周面部との間に介在された環状面とを具備しており、環状突起は、小径外周面部に係合するようになっていてもよい。
【0013】
スラスト滑り軸受手段は、第一の軸受体及び第二の軸受体とは別体の合成樹脂製のスラスト滑り軸受片を具備していても、これに代えて、第一の軸受体及び第二の軸受体のうちの少なくとも一方に一体的に形成された合成樹脂製のスラスト滑り軸受部を具備していてもよい。
【0014】
両軸受体は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよい。スラスト滑り軸受手段をスラスト滑り軸受片をもって具体化する場合には、斯かるスラスト滑り軸受片は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂からなっているとよく、第一及び第二の軸受体の夫々には、スラスト滑り軸受片を構成する合成樹脂と同様の合成樹脂が使用され得るが、特にスラスト滑り軸受片に使用される合成樹脂と摩擦特性の良好な組合せの合成樹脂が使用され、その望ましい組合せについて例示すると、スラスト滑り軸受片と第一及び第二の軸受体とに対して、ポリアセタール樹脂とポリアミド樹脂との組合せ、ポリオレフィン樹脂、特にポリエチレン樹脂とポリアセタール樹脂との組合せ、ポリアセタール樹脂と熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂との組合せ及びポリアセタール樹脂とポリアセタール樹脂との組合せがある。
【0015】
環状上カバーは、好ましい例ではポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性合成樹脂からなっているが、これに代えてこれら熱可塑性合成樹脂にガラス繊維、ガラス粉末、ガラスビーズ、炭素繊維などの無機充填材で補強された強化熱可塑性合成樹脂であってもよい。環状板金は、好ましい例では鋼、ステンレスなどの鋼板からなっているが、これに代えて銅合金、チタン合金などの非鉄合金板であってもよい。
【0016】
本発明のスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構、好ましい例では、四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるための組合せ機構は、上記のいずれかの態様のスラスト滑り軸受と、ショックアブソーバのピストンロッドとを具備しており、ここで、ピストンロッドは、第一及び第二の軸受体の内周面で規定される貫通孔に配された大径部と、この大径部よりも小径であって大径部に一体的に形成されていると共に環状板金の内周面で規定される貫通孔に配された小径部と、この小径部に刻設されたねじ部とを具備しており、ここで、環状板金は、第三の環状板部で、ピストンロッドの大径部及び小径部間の環状段部面とねじ部に螺合されたナットの環状面とに挟持されている。斯かる環状板金は、熱間圧延鋼板(SPHC)をプレス成形にて形成されているものが好ましいが、この場合、少なくとも、ピストンロッドの大径部及び小径部間の環状段部面とナットの環状面とに挟持される第三の環状板部の被挟持面は、亜鉛、銅、錫等の展延性を有した軟質金属でメッキされて被覆されていることが好ましく、斯かる金属メッキが施されていることにより、環状段部面及びナットの環状面と第三の環状板部の被挟持面とがほぼ全面接触して局部的な接触を回避でき、ピストンロッドの軸方向負荷時の応力を分散できる結果、第三の環状板部に亀裂等の損傷が生じることがない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大きな力がピストンロッドを介して環状板金に加わっても、当該環状板金の変形を防止できて環状板金の変形に起因するピストンロッドの相対的な回転での異音の発生を低減できるスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の一例の正面断面図である。
【図2】図2は、図1に示す例の平面図である。
【図3】図3は、図1に示す例のスラスト滑り軸受片の平面図である。
【図4】図4は、図1に示す例の底面図である。
【図5】図5は、図1に示す例の正面図である。
【図6】図6は、図1に示す例の一部拡大断面図である。
【図7】図7は、図1に示す例をストラット型サスペンションに用いた例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明の実施の形態を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0020】
図1から図6において、本例のスラスト滑り軸受1は、環状上面2及び環状の係合突起3を有した合成樹脂製の環状の軸受体4と、軸受体4に当該軸受体4の軸心Oの回りでR方向に相対的に回転自在となるように重ね合わされると共に軸受体4の環状上面2に対面した環状下面5を有する合成樹脂製の環状の軸受体6と、軸受体4及び軸受体6とは別体であると共に軸受体4の環状上面2及び軸受体6の環状下面5間に介在されているスラスト滑り軸受手段としての環状の合成樹脂製のスラスト滑り軸受片7と、軸受体4の係合突起3に係合する複数、本例では三個の係合突起(係合爪)8を有した環状上カバー9と、軸受体6の環状上面10に下面11で接触すると共に上面12で環状上カバー9の下面13に接触して軸受体6の環状上面10及び環状上カバー9の下面13間に介在されている環状板部14を有した環状板金15とを具備している。
【0021】
中央に貫通孔20を有した軸受体4は、環状上面2、環状内周面21、環状外周面22及び環状下面23を有した環状の下側軸受本体24と、下側軸受本体24の環状上面2に一体形成されていると共に環状上面2から環状下面5に向かって突出した環状の内側突出部25と、下側軸受本体24の環状下面23に一体形成されていると共に環状下面23の内側の部位から下方に向かって突出した円筒部26と、下側軸受本体24の環状上面2に一体形成されていると共に内側突出部25よりも径方向外側に配された環状の外側突出部27とを具備している。
【0022】
軸受体4の貫通孔20は、環状内周面21及び環状内周面21に面一の円筒部26の環状内周面31により規定されており、環状内周面21と環状内周面21に隣接する環状上面2の内側の部位とによって規定された環状段部32の径方向外側において環状上面2に一体的に形成された内側突出部25は、環状内周面21の径よりも大きな径を有した円筒状の内周面33と、外側突出部27の円筒状の内周面34及び環状上面2と協同して円環状の凹所35を規定する円筒状の外周面36と、環状下面5に環状の隙間37をもって対面する環状頂面38とを有しており、円筒部26は、環状外周面39を有しており、内周面34を有した外側突出部27は、環状頂面38と面一になっていると共に環状下面5に環状の隙間40をもって対面した環状頂面41を有しており、外側突出部27に一体形成された係合突起3は、環状下面42、環状下面42に隣接した環状外周面43、環状外周面43に隣接した環状傾斜外周面44、環状内周面45並びに環状内周面45及び環状傾斜外周面44に隣接して挟まれた環状頂面46を有している。
【0023】
軸受体6は、環状下面5、環状上面10、環状内周面51及び環状外周面52を有していると共に下側軸受本体24より薄肉の上側軸受本体53と、上側軸受本体53の環状下面5の内側の部位に一体形成されていると共に環状下面5から環状上面2の内側の環状段部32に向かって垂下した環状突出部54とを有している。
【0024】
環状突出部54は、環状内周面51と面一の環状内周面56と、内周面33よりも小径であって環状の隙間57をもって内周面33と対面している外周面58と、環状上面2の内側の環状段部32の上面に環状の隙間59をもって対面する環状頂面60とを有しており、隙間57は、隙間37及び隙間59に連通していると共に隙間37を介して凹所35に連通している一方、隙間59を介して外部に連通しており、こうして、凹所35は、隙間37、隙間57及び隙間59からなる内側ラビリンスを介して外部に連通しており、環状内周面51及び56は、貫通孔20と同径の軸受体6の中央の貫通孔65を規定しており、環状外周面52は、隙間66をもって環状内周面45に対面する大径外周面部67と、大径外周面部67よりも小径の小径外周面部68と、大径外周面部67と小径外周面部68との間に介在されていると共に軸心Oに直交して伸びた環状面69とを具備している。
【0025】
径方向において内側突出部25と外側突出部27との間の凹所35に配されて、しかも、これら内側突出部25の外周面36及び外側突出部27の内周面34に環状の内周面75及び外周面76でR方向に相対的に回転自在に接触可能となって径方向に関して位置決めされた円盤状のスラスト滑り軸受片7は、平坦な環状下面5及び環状上面2の夫々にR方向に相対的に摺動自在に接触する平坦な環状の上面77及び下面78と、上面77及び下面78の夫々において径方向であって放射状に伸びる複数の溝79及び上面77及び下面78の内側において複数の溝79に連通した環状の溝80とを有しており、上面77及び下面78は、環状下面5及び環状上面2と同様に、軸心Oに直交して平坦に伸びており、上面77及び下面78の夫々の複数の溝79及び溝80には、グリース等の潤滑剤が溜められるようになっており、上面77の各溝79は、下面78の各溝79に対してR方向に関して同一の位置に、又は一定の若しくは種々の角度もって、八個の溝の場合には例えば22.5°の等角度をもって変位して形成されている。
【0026】
環状上カバー9は、係合突起8を有していると共に円筒状の外周面85、円筒状の内周面86、内周面86に連接した環状の傾斜内周面87、傾斜内周面87に連接した環状の下面88、内周面86よりも小径であって下面88に連接した円筒状の内周面89を有した円筒部90と、軸心Oに直交して伸びた平坦な環状の下面13及び環状の上面95並びに内周面89よりも小径であって上面95及び下面13に連接した傾斜内周面97を有していると共に円筒部90に一体的に形成された環状板部98とを具備しており、外周面85は、環状の湾曲面99を介して上面95に連接されている。
【0027】
環状下面42に接触可能となるように隙間101をもって環状下面42に対面した環状上面102を夫々有した係合突起8は、環状外周面22に隙間103をもって対面した径方向の頂面104を有して内周面86から径方向内方に突出していると共にR方向に関して等角度間隔をもって、三個の場合には120°の等角度間隔をもって離間して円筒部90の下端部の内周面86に一体的に形成されており、内周面86、傾斜内周面87、環状の下面88は夫々、隙間105、106及び107をもって環状外周面43、環状傾斜外周面44及び環状頂面46に対面しており、外部に連通した隙間103は、互いに連通する隙間101、隙間105、隙間106、隙間107、隙間66及び隙間40を介して凹所35に連通しており、こうして、凹所35は、隙間103、101、105、106、107、66及び40からなる外側ラビリンスを介して外部に連通している。
【0028】
環状板金15は、環状板部14に加えて、環状板部98の傾斜内周面97によって規定される貫通孔110に配されていると共に亜鉛、銅、錫等の展延性を有した軟質金属で被覆されている環状板部111と、一端では環状板部14に、他端では環状板部111に夫々一体的に形成された環状段部112と、環状板金15と軸受体6との径方向の相対位置を保持するべく、環状板部14の下面11の外側の部位に一体的に形成されていると共に軸受体6の環状外周面52の小径外周面部68に係合するようになっている環状突起113とを具備している。環状板金15は、その全体が亜鉛、銅、錫等の展延性を有した軟質金属で被覆されていてもよい。
【0029】
環状板部111は、軸受体4の環状内周面21及び31並びに軸受体6の環状内周面51及び56の内径よりも小さな径を有している環状内周面114と、上面95と実質的に面一又は上面95よりも少し下方において軸心Oに対して直交して伸びる平坦な環状の上面115とを具備しており、環状傾斜外面116と環状円弧内面117とを有する環状段部112は、環状板部14から径方向内方且つ上方に傾斜して環状板部111まで伸びており、環状傾斜外面116と傾斜内周面97との間には、微小の隙間118が生じるようになっており、環状内周面114は、貫通孔65及び20と同一の軸心Oをもって配されている環状板金15の中央の貫通孔119を規定している。
【0030】
以上のスラスト滑り軸受1では、係合突起3への係合突起8の合成樹脂の撓み性を利用したスナップフィット式の係合装着をもって軸受体4と環状上カバー9とは、上下方向において互いに重ね合わされたスラスト滑り軸受片7、軸受体6及び環状板金15を挟んで互いに重ね合わされて連結されており、軸心Oの周りの軸受体6に対する軸受体4の相対的なR方向の回転において、スラスト滑り軸受片7の上面77と上側軸受本体53の環状下面5との間の低摩擦の摺動又はスラスト滑り軸受片7の下面78と下側軸受本体24の環状上面2との間の低摩擦の摺動を生じさせ、而して、軸心Oの周りの軸受体6に対する軸受体4の相対的なR方向の回転を極めて低い摩擦抵抗をもって行わせる。
【0031】
斯かるスラスト滑り軸受1は、図7に示すように、ピストンロッド121を具備した油圧式のショックアブソーバ(図示せず)と斯かる油圧式のショックアブソーバを取り囲んで配されたコイルばね122とを有した車両のストラット型サスペンション123を取付機構124を介して車体に取り付けられる。
【0032】
車両、例えば四輪自動車におけるストラット型サスペンション123は、油圧式のショックアブソーバ及びコイルばね122に加えて、コイルばね122の一端を受容する上部ばね座部材125と、ピストンロッド121を取り囲んで配されたバンプストッパ126とを具備しており、取付機構124は、心金127が埋設された弾性部材128と、上部ばね座部材125及び下側軸受本体24の環状下面23の間に介在されたスペーサ部材129とを具備しており、スラスト滑り軸受1は、取付機構124の弾性部材128とスペーサ部材129を介してストラット型サスペンション123の上部ばね座部材125との間に配されており、しかも、円筒部26の下端部が上部ばね座部材125の中央の貫通孔130に挿入されて上部ばね座部材125により軸心Oに直交する方向に関して位置決めされており、スペーサ部材129の内周面は、円筒部26の外周面39に接触しており、スラスト滑り軸受1を囲繞した弾性部材128は、環状上カバー9の外周面85、上面95及び湾曲面99に接触して配されている。
【0033】
ピストンロッド121は、貫通孔20及び65を貫通して配された大径部131と、大径部131よりも小径であって大径部131に一体的に形成されていると共に貫通孔119を貫通して配された小径部132と、小径部132に刻設されたねじ部133とを具備しており、環状板金15は、亜鉛、銅、錫等の展延性を有した金属で被覆されている環状板部111においてピストンロッド121の大径部131及び小径部132間の環状段部面134と、ねじ部133に螺合されたナット135の環状面136とに挟持されている。
【0034】
大径部131は、その外周面137で環状内周面21及び31にR方向に回転自在に接触しており、ナット135の外周面には、弾性部材128の環状の内周面138が接触しており、軸受体6及び環状上カバー9は、環状段部面134と環状面136とに環状板部111において挟持された環状板金15を介してR方向に回転しないように弾性部材128に保持されている。
【0035】
以上のスラスト滑り軸受1とピストンロッド121との組合せ機構では、ステアリング操作によりコイルばね122が軸心Oの周りでR方向に回動されると、軸受体6に対して軸受体4が同様にR方向に相対的に回転され、軸受体4のこの回転は、軸受体4及び軸受体6間に配されたスラスト滑り軸受片7により滑らかになされ、したがってステアリング操作も抵抗なく行われる。
【0036】
スラスト滑り軸受1によれば、軸受体4及び6並びに環状上カバー9の環状内周面21、31、51及び56の径よりも小さな径を有した環状内周面114を具備した環状板金15が軸受体6の環状上面10に下面11で接触すると共に上面12で環状上カバー9の下面13に接触して軸受体6の環状上面10及び環状上カバー9の下面13間に介在されているために、斯かる環状板金15でピストンロッド121の一端を支持でき、ストラットアッセンブリの車体への取付機構におけるピストンロッド121の一端を支持するための取付板を省き得、而して、取付機構を簡単化し得てコスト低減を図り得る。
【0037】
加えて、スラスト滑り軸受1によれば、環状板金15は、環状上面10及び環状下面13に接触した環状板部14と、環状板部98の傾斜内周面97によって規定される貫通孔110に配された環状板部111と、一端では環状板部14に、他端では環状板部111に夫々一体的に形成された環状段部112とを具備しているために、環状段部112が環状板金15の補強部と同様の働きをなす結果、上下方向の大きな力がピストンロッド121を介して環状板金15に加わっても、環状板金15の変形を防止できてピストンロッド121の相対的なR方向の回転での異音の発生を低減できる上に、環状板部111が亜鉛、銅、錫等の展延性を有した軟質金属で被覆されているために、環状段部面134及び環状面136と環状段部面134及び環状面136に挟持される環状板部111の被挟持面とがほぼ全面接触して局部的な接触を回避でき、ピストンロッド121の軸方向負荷時の応力を分散できる結果、環状板部111に亀裂等の損傷が生じることがない。
【0038】
また、スラスト滑り軸受1によれば、凹所35は、隙間103、101、105、106、107、66及び40からなる外側ラビリンスを介して外部に連通しているために、凹所35への泥水等の浸入を効果的に防ぐことができて、軸受体6に対する軸受体4のスラスト滑り軸受片7を介するR方向の滑らかな回転を長期に渡って維持できる。
【0039】
以上のスラスト滑り軸受1は、スラスト滑り軸受手段として、軸受体4及び軸受体6とは別体のスラスト滑り軸受片7を具備した例であるが、これに代えて、スラスト滑り軸受手段として軸受体4の環状上面2及び軸受体6の環状下面5のうちの少なくとも一方に一体的に形成された合成樹脂製の環状のスラスト滑り軸受部を具備していてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 スラスト滑り軸受
2 環状上面
3 係合突起
4 軸受体
5 環状下面
6 軸受体
7 スラスト滑り軸受片
8 係合突起
9 環状上カバー
10 環状上面
11、13 下面
12 上面
14 環状板部
15 環状板金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状上面及び第一の係合突起を有した合成樹脂製の環状の第一の軸受体と、この第一の軸受体に当該第一の軸受体の軸心の回りで相対的に回転自在となるように重ね合わされると共に第一の軸受体の環状上面に対面した環状下面を有する合成樹脂製の環状の第二の軸受体と、第一の軸受体の環状上面及び第二の軸受体の環状下面間に介在されていると共に第一の軸受体の環状上面及び第二の軸受体の環状下面のうちの少なくとも一方に摺動自在に接触した下面及び上面のうちの少なくとも一方を有したスラスト滑り軸受手段と、第一の軸受体の第一の係合突起に係合する第二の係合突起を有した環状上カバーと、第二の軸受体の環状上面に下面で接触すると共に上面で環状上カバーの下面に接触して第二の軸受体の環状上面及び環状上カバーの下面間に介在されている環状板金とを具備しており、環状上カバーは、第二の係合突起を有した円筒部と、この円筒部に一体的に形成されている第一の環状板部とを具備しており、環状板金は、第二の軸受体の環状上面及び環状上カバーの第一の環状板部の環状下面に接触した第二の環状板部と、環状上カバーの第一の環状板部の内周面によって規定される貫通孔に配された第三の環状板部と、一端では第二の環状板部に、他端では第三の環状板部に夫々一体的に形成された環状段部とを具備しており、第三の環状板部は、第一及び第二の軸受体の環状内周面の内径よりも小さな径を有した環状内周面を具備しているスラスト滑り軸受。
【請求項2】
環状板金は、当該環状板金と第二の軸受体との径方向の相対位置を保持するべく、第一の環状板部の下面に一体的に形成されていると共に第二の軸受体の環状外周面に係合する環状突起を具備している請求項1に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項3】
第二の軸受体の環状外周面は、大径外周面部と、この大径外周面部よりも小径の小径外周面部と、大径外周面部と小径外周面部との間に介在された環状面とを具備しており、環状突起は、小径外周面部に係合するようになっている請求項2に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受と、ショックアブソーバのピストンロッドとを具備しており、ピストンロッドは、第一及び第二の軸受体の環状内周面で規定される貫通孔に配された大径部と、この大径部よりも小径であって大径部に一体的に形成されていると共に環状板金の内周面で規定される貫通孔に配された小径部と、この小径部に刻設されたねじ部とを具備しており、環状板金は、第三の環状板部で、ピストンロッドの大径部及び小径部間の環状段部面とねじ部に螺合されたナットの環状面とに挟持されているスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構。
【請求項5】
環状板金の第三の環状板部において、ピストンロッドの大径部及び小径部間の環状段部面とナットの環状面とに挟持される被挟持面は、亜鉛、銅、錫等の展延性を有した軟質金属で被覆されている請求項4に記載のスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構。
【請求項6】
四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるための請求項4又は5に記載のスラスト滑り軸受とピストンロッドとの組合せ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−196406(P2011−196406A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61340(P2010−61340)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】