説明

スラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受を用いたストラット型サスペンションの取付構造

【課題】ラジアル滑り軸受を使用することなくラジアル滑り軸受部を上部及び下部ケース内に形成することにより径方向の寸法を小さくして取付スペースの問題を解決すると共に経済的な問題をも解決することができるスラスト滑り軸受を提供すること。
【解決手段】スラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の下部ケース2と、下部ケース2に重ね合わされた合成樹脂製の上部ケース3と、上部ケース3及び下部ケース2間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片4とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製スラスト滑り軸受、とくに四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)のスラスト滑り軸受として組込まれて好適なスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受を用いたストラット型サスペンションの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にストラット型サスペンションは、主として四輪自動車の前輪に用いられ、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにコイルばねを組み合わせた構造をもっている。斯かるサスペンションには、(1)ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を積極的にオフセットさせ、該ストラットに内蔵されたショックアブソーバのピストンロッドの摺動を円滑に行わせる構造と、(2)ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を同一軸線上に配置させる構造のものとがある。いずれの構造のサスペンションにおいても、ステアリング操作によりストラットアッセンブリがコイルばねと共に回転する際、当該回転を円滑に許容するべく車体の取付部材とコイルばねの上部ばね座シートとの間に軸受が配置されている。
【0003】
そして、この軸受には、車体荷重(スラスト荷重)を支持すると同時に前記サスペンション構造に起因するラジアル荷重、すなわち前者の構造においては、コイルばねの軸線がストラットの軸線に対してオフセットされているため、静止状態においてもコイルばねのストラットの軸線方向への復元力によって生じるラジアル荷重を、また後者の構造においては、ストラットの軸線とコイルばねの軸線とを同一軸線上に配置するという製作上の困難性に起因するミスアライメントによって生じるラジアル荷重を円滑に許容する性能が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−257146号公報
【特許文献2】特開2004−225754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したスラスト荷重及びラジアル荷重を円滑に許容するスラスト滑り軸受として、合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースに重ね合わされた合成樹脂製の上部ケースと、上部及び下部ケース間に配された合成樹脂製の円板状のスラスト滑り軸受片と、上部及び下部ケース間に配された合成樹脂製のラジアル軸受片とを具備したスラスト滑り軸受が提案されている(特許文献1及び特許文献2)。
【0006】
しかしながら、スラスト滑り軸受が配置される車体側取付部材とコイルばねの上部ばね材シートとの間において径方向外方に取付けのためのスペースが取れない場合がある。また、スラスト滑り軸受とラジアル滑り軸受の二つの軸受を使用することによる価格の増大を招来するという経済的な問題もある。
【0007】
本発明は上記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ラジアル滑り軸受を使用することなくラジアル滑り軸受部を上部及び下部ケース内に形成することにより径方向の寸法を小さくして取付スペースの問題を解決すると共に経済的な問題をも解決することができるスラスト滑り軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスラスト滑り軸受は、合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースに重ね合わされる合成樹脂製の上部ケースと、上部及び下部ケース間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片とを具備しており、下部ケースは、環状上面、環状下面、これら環状上面及び環状下面間に配された筒状小径内面及び筒状大径内面並びに円筒外面を有すると共に当該環状上面に第一の環状凹部を有する円環状基体部と、該円環状基体部の筒状小径内面で規定されていると共に該円環状基体部の環状下面で開口する小径孔と、該円環状基体部の筒状大径内面で規定されていると共に該円環状基体部の環状上面で開口する大径孔と、環状内周端では筒状小径内面に連接されていると共に環状外周端では筒状大径内面に連接された環状肩部面と、該円筒外面の下端部から径方向外方に突出する環状突出部と、該環状突出部の環状上面に設けられていると共に筒状内面で該円筒外面及び該環状突出部の環状上面と協働して第二の環状凹部を規定する筒状突起部と、該筒状突起部の筒状外面から径方向外方に突出する環状係合突起部とを備えており、上部ケースは、円環状基板部と、該円環状基板部の筒状内面に当該円環状基板部の環状上面から下方に垂下して一体的に設けられていると共に筒状内面で小径孔と同心の中央孔を規定する内側筒状垂下部と、該円環状基板部の筒状外面に当該円環状基板部の環状上面から垂下して該内側筒状垂下部の環状下端面よりもより下方に延びて一体的に設けられていると共に円筒内面を有した厚肉の外側筒状垂下部と、該円環状基板部の環状下面、該内側筒状垂下部の筒状外面及び外側筒状垂下部の円筒内面によって規定された第三の環状凹部と、該外側筒状垂下部の環状下端面から下方に向かって立設された内側筒状立壁部及び外側筒状立壁部と、該外側筒状垂下部の環状下端面、内側筒状立壁部の筒状外面及び外側筒状立壁部の筒状内面によって規定された第四の環状凹部と、外側筒状立壁部の環状下端面から下方に突出する環状係合部と、該環状係合部の筒状内面から径方向内方に突出する環状フック部とを備えており、スラスト滑り軸受片は、その環状上面を第三の環状凹部を規定する円環状基板部の環状下面に摺動自在に接触させて第三の環状凹部に配されている一方、その環状下面を該第一の環状凹部を規定する円環状基体部の環状凹部底面に摺動自在に接触させて当該第一の環状凹部に配されて、上部ケースの円環状基板部の環状下面と下ケースの円環状基体部の環状上面とを離間させており、上部ケースは、その内側筒状垂下部の環状下端面を隙間をもって環状肩部面に対面させ、径方向に関して内側筒状垂下部よりも厚肉のその外側筒状垂下部の円筒内面を下部ケースの円環状基体部の円筒外面に摺動自在に接触させ、その内側筒状立壁部を第二の環状凹部に配置し、その環状フック部を環状係合突起部に弾性的に嵌着させ、当該弾性的な嵌着部と外側筒状垂下部の円筒内面への円環状基体部の円筒外面の摺動自在な接触部との間において第二の環状凹部に配された該内側筒状立壁部と第四の環状凹部に配された筒状突起部及び環状係合突起部とでラビリンス作用による密封部を形成して、下部ケースに重ね合わされてなる。
【0009】
本発明のスラスト滑り軸受によれば、上部ケースと下部ケースとの相対回転は、スラスト荷重方向に対しては、第一及び第三の環状凹部に配されたスラスト滑り軸受片の環状上面と上部ケースの円環状基板部の環状下面との円滑な摺動により許容され、ラジアル荷重方向に対しては、上部ケースの外側筒状垂下部の円筒内面と下部ケースの円環状基体部の円筒外面との円滑な摺動により許容される。
【0010】
また、本発明のスラスト滑り軸受によれば、スラスト荷重方向に対しての上部ケースと下部ケースとの相対回転の円滑な摺動を許容するスラスト滑り軸受片の環状上面と上部ケースの円環状基板部の環状下面とからなるスラスト滑り軸受部は、ラビリンス作用による密封部及び下部ケースの環状上面よりも上方に位置せしめられているので、内、外周面側からの当該スラスト滑り軸受部への塵埃等の異物の侵入が極力防止され、当該異物の侵入に起因するスラスト滑り軸受部の異常摩耗等の不具合を回避することができる上に、ラジアル荷重方向に対しての上部ケースと下部ケースとの相対回転の円滑な摺動を許容する上部ケースの外側筒状垂下部の円筒内面と下部ケースの円環状基体部の円筒外面とからなるラジアル滑り軸受部への外周面側からの塵埃等の異物の侵入は、ラビリンス作用による密封部により極力防止され、当該異物の侵入に起因するラジアル滑り軸受部の異常摩耗等の不具合をも回避することができる。
【0011】
本発明のスラスト滑り軸受では、上部ケース及び下部ケース間に配されるスラスト滑り軸受片を形成する合成樹脂は、特に自己潤滑性を有することが好ましく、上部ケース及び下部ケースを形成する合成樹脂は、耐摩耗性、耐衝撃性、耐クリープ性等の摺動特性及び剛性等の機械的強度に優れていることが好ましく、具体的には、上部ケース及び下部ケースは、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂から形成されているのが好ましく、また、スラスト滑り軸受片は、ポリエチレン樹脂、ふっ素樹脂などから形成されているのが好ましい。
【0012】
油圧式ショックアブソーバ及びこの油圧式ショックアブソーバを囲繞して配されたコイルばねを具備した車輌のストラット型サスペンションを上記のスラスト滑り軸受を介して車体に取付ける取付構造は、油圧式ショックアブソーバのピストンロッドを車体に取付ける取付手段と、コイルばねを受ける上部ばね受手段とを具備しており、該スラスト滑り軸受は、当該取付手段と上部ばね受手段との間に配されており、取付手段は、車体側に固定された環状平板状部及び該環状平板状部の環状内縁から下方に突出すると共に内周面で貫通孔を規定する円筒突出部を備えた車体取付部材と、該車体取付部材の環状平板状部の下面に一体に形成された環状平板状部及び当該環状平板状部の環状外縁から下方に延びる円筒垂下部を備えた取付部材とを具備しており、上部ばね受手段は、環状平板状部、当該環状平板状部の環状内縁から上方に突出すると共に内周面で貫通孔を規定する円筒突出部を備えた上部ばね受部材からなり、該車体取付部材の円筒突出部の下端面と上部ばね受部材の円筒突出部の上端面とは、互いに相対向して配置されており、スラスト滑り軸受は、車体取付部材の円筒突出部と取付部材の環状平板状部と取付部材の円筒垂下部と上部ばね受部材の環状平板状部と上部ばね受部材の円筒突出部とで形成される環状空間に、上部ケースの円環状基板部の内側円筒垂下部が車体取付部材の円筒突出部の外面に接触され、上部ケースの円環状基板部の環状上面が取付部材の環状平板状部に接触されていると共に取付部材の円筒垂下部の内面で外側円筒垂下部の外周面が囲繞され、下部ケースの円環状基体部の環状下面が上部ばね受部材の平板状部の上面に接触されていると共に下部ケースの円環状基体部の筒状小径内面が上部ばね受部材の円筒突出部の内面で囲繞されて、配されている。
【0013】
本発明の取付構造によれば、ステアリング操作によりストラットアッセンブリが回転されると、上部ケースに対して下部ケースが回転され、この下部ケースの回転は、上部ケース及び下部ケース間に配されたスラスト滑り軸受片によって円滑に許容され、ステアリング操作が円滑に行われる。また、ラジアル荷重が作用した場合は、上部ケースの円環状基板部の外側筒状垂下部の円筒内面と下部ケースの円環状基体部の円筒外面との間に軸受隙間(クリアランス)を保持して形成された当該円筒内面と円筒外面とからなるラジアル滑り軸受部における合成樹脂同志の摺動によって円滑に許容される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ラジアル滑り軸受を使用することなくラジアル滑り軸受部を上部及び下部ケース間に形成することにより径方向の寸法を小さくでき、安価なスラスト滑り軸受及びこのスラスト滑り軸受を用いたストラット型サスペンションの取付構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の一例のスラスト滑り軸受の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す下部ケースの断面図である。
【図3】図3は、図2に示す下部ケースの一部拡大断面図である。
【図4】図4は、図1に示す上部ケースの断面図である。
【図5】図5は、図4に示す上部ケースの一部拡大断面図である。
【図6】図6は、図1に示すスラスト滑り軸受片の平面図である。
【図7】図7は、図6に示すのスラスト滑り軸受片VII−VII線矢視断面図である。
【図8】図8は、図1に示すスラスト滑り軸受片を用いた本発明の実施の形態の好ましい一例のストラット型サスペンションの取付構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。尚、本発明はこれらの例に何等限定されない。
【0017】
本発明のスラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の下部ケース2と、下部ケース2に重ね合わされた合成樹脂製の上部ケース3と、上部ケース3及び下部ケース2間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片4とを具備している。
【0018】
下部ケース2は、環状上面5、環状下面6、これら環状上面5及び環状下面6間に配された筒状小径内面7及び筒状大径内面8並びに円筒外面9を有すると共に当該環状上面5に幅広の環状凹部10を有する円環状基体部11と、該円環状基体部11の筒状小径内面7で規定されていると共に円環状基体部11の環状下面6で開口する小径孔12と、円環状基体部11の環状上面5に向かうに従って拡径する截頭円錐状の筒状大径内面8で規定されていると共に円環状基体部11の環状上面5で開口する截頭円錐状の大径孔13と、環状内周端では筒状小径内面7に連接されていると共に環状外周端では筒状大径内面8に連接された環状肩部面14と、該円筒外面9の下端部から径方向外方に突出する環状突出部15と、該環状突出部15の環状上面16に設けられていると共に筒状内面17で円筒外面9及び環状突出部15の環状上面16と協働して環状凹部18を規定する筒状突起部19と、筒状突起部19の筒状外面から径方向外方に突出する環状係合突起部20と、円環状基体部11の肉厚を均一にするために、円環状基体部11の環状下面6に当該環状下面6から環状上面5側に向けて伸びると共に小径孔12を囲んで形成された肉盗み用の2つの環状凹部21とを備えている。
【0019】
上部ケース3は、円環状基板部25と、円環状基板部25の筒状内面に当該円環状基板部25の環状上面26から下方に垂下して一体的に設けられていると共に筒状内面27で小径孔12と同心の中央孔28を規定する内側筒状垂下部29と、該円環状基板部25の筒状外面に当該円環状基板部25の環状上面26から垂下して該内側筒状垂下部29の環状下端面30よりもより下方に延びて一体的に設けられていると共に円筒内面31を有した厚肉の外側筒状垂下部32と、該円環状基板部25の環状下面33、内側筒状垂下部29の截頭円錐面からなる筒状外面34及び外側筒状垂下部32の円筒内面31によって規定された環状凹部36と、該外側筒状垂下部32の環状下端面37から下方に向かって立設された内側筒状立壁部38及び外側筒状立壁部39と、外側筒状垂下部32の環状下端面37、内側筒状立壁部38の筒状外面40及び外側筒状立壁部39の筒状内面41によって規定された環状凹部42と、該外側筒状立壁部39の環状下端面から下方に突出する環状係合部43と、該環状係合部43の筒状内面から径方向内方に突出する環状フック部44とを備えている。
【0020】
下部ケース2の円筒外面9とでラジアル滑り軸受部を形成する円筒内面31を有する外側筒状垂下部32は、ラジアル荷重に対して強度を高めるために、その肉厚が内側筒状垂下部29の肉厚よりも大きく形成されている。
【0021】
スラスト滑り軸受片4は、中央孔51を規定する円筒内面52を有する円環状板状部53と、該円環状板状部53の環状上面54及び環状下面55の夫々に形成されていると共に該中央孔51を囲んでいるグリース等の潤滑油剤の収容用の環状凹溝56と、該円環状板状部53の環状上面54及び環状下面55の夫々に形成されていると共に一方の端部が該環状凹溝56に開口し、他方の端部が円環状板状部53の円筒外面57で外部に開口するグリース等の潤滑油剤の収容用の複数個の放射状凹溝58とを備えている。
【0022】
スラスト滑り軸受片4の中央孔51を規定する円筒内面52は、環状凹部10を規定する円環状基体部11の環状内側立壁面61の外径寸法よりも大きな内径寸法を有しており、スラスト滑り軸受片4の円筒外面57は、環状凹部10を規定する円環状基体部11の環状外側立壁面62の内径寸法よりも小さな外径寸法を有しており、円環状板状部53の環状上面54及び環状下面55に形成された環状凹溝56及び放射状凹溝58には、グリース等の潤滑油剤が充填される。
【0023】
スラスト滑り軸受片4は、その環状上面54を環状凹部36を規定する円環状基板部25の環状下面33に摺動自在に接触させて環状凹部36に配されている一方、その環状下面55を、環状内側立壁面61及び環状外側立壁面62と協働して環状凹部10を規定する円環状基体部11の環状凹部底面63に摺動自在に接触させて環状凹部10に配されて、上部ケース3の円環状基板部25の環状下面33と下部ケース2の円環状基体部11の環状上面5とを離間させており、而して、円環状板状部53の環状上面54は、幅広の環状凹部10の開口面より上方に位置している。
【0024】
上記構成からなるスラスト滑り軸受1において、上部ケース3は、円環状基板部25の内側筒状垂下部29の筒状外面34を隙間をもって下部ケース2の円環状基体部11の筒状大径内面8に対面させると共に内側筒状垂下部29の環状下端面30を隙間をもって下部ケース2の円環状基体部11の環状肩部面14対面させ、径方向に関して内側筒状垂下部29よりも厚肉の外側筒状垂下部32の円筒内面31を下部ケース2の円環状基体部11の円筒外面9に摺動自在に接触させ、内側筒状立壁部38を環状凹部18に配置し、環状フック部44を環状係合突起部20に弾性的に嵌着させ、当該弾性的な嵌着部と外側筒状垂下部32の円筒内面31への円環状基体部11の円筒外面9の摺動自在な接触部との間において環状凹部18に配された内側筒状立壁部38と環状凹部42に配された筒状突起部19及び環状係合突起部20とでラビリンス作用による密封部を形成して、下部ケース2に重ね合わされてなる。
【0025】
スラスト滑り軸受1によれば、上部ケース3と下部ケース2との相対回転は、スラスト荷重方向に対しては、環状凹部10及び36に配されたスラスト滑り軸受片4の環状上面54と上部ケース3の円環状基板部25の環状下面33とのスラスト滑り軸受での円滑な摺動によって許容され、ラジアル荷重方向に対しては、上部ケース3の外側筒状垂下部32の円筒内面35と下部ケース2の円環状基体部11の円筒外面9とのラジアル滑り軸受部での円滑な摺動によって許容される。
【0026】
また、スラスト滑り軸受1においては、スラスト荷重方向に対しての上部ケース3と下部ケース2との相対回転の円滑な摺動を許容するスラスト滑り軸受片4の環状上面54と上部ケース3の円環状基板部25の環状下面33とからなるスラスト滑り軸受部は、ラビリンス作用による密封部及び下部ケース2の環状上面5よりも上方に位置せしめられているので、スラスト滑り軸受1の内、外周面側からの当該スラスト滑り軸受部への塵埃等の異物の侵入が極力防止され、当該異物の侵入に起因するスラスト滑り軸受部の異常摩耗等の不具合を回避することができる上に、ラジアル荷重方向に対しての上部ケース3と下部ケース2との相対回転の円滑な摺動を許容する上部ケース3の外側筒状垂下部32の円筒内面31と下部ケース2の円環状基体部11の円筒外面9とからなるラジアル滑り軸受部へのスラスト滑り軸受1の外周面側からの塵埃等の異物の侵入は、ラビリンス作用による密封部により極力防止され、当該異物の侵入に起因するラジアル滑り軸受部の異常摩耗等の不具合をも回避することができる。
【0027】
斯かるスラスト滑り軸受1を介して、図8に示すように、油圧式ショックアブソーバ(図示せず)及び油圧式ショックアブソーバを囲繞して配されたコイルばね71を具備した車輌のストラット型サスペンション72は、取付構造73により車体に取付けられる。
【0028】
ストラット型サスペンション72をスラスト滑り軸受1を介して車体に取付けるための取付構造73は、油圧式ショックアブソーバのピストンロッド74を車体に取付ける取付手段75と、コイルばね71を受ける上部ばね受手段76とを具備しており、スラスト滑り軸受1は、取付手段75と上部ばね受手段76との間に配されている。
【0029】
取付手段75は、ボルト77を介して車体に固着される車体取付部材78と、該車体取付部材78に一体的に結合されていると共にスラスト滑り軸受1の上部ケース3の円環状基板部25の環状上面26及び外側筒状垂下部32の円筒外面79を囲繞する取付部材80と、油圧式ショックアブソーバのピストンロッド74の上端部81を車体取付部材78に連結固定するための連結固定手段82とを具備している。
【0030】
車体取付部材78は、車体側に固定された環状平板状部83と、該環状平板状部83の環状内縁から一体的に下方に突出すると共に内周面で貫通孔84を規定する円筒突出部85とを備えている。
【0031】
取付部材80は、貫通孔86を有すると共に車体取付部材78の環状平板状部83の下面に一体に形成された環状平板状部87と、該環状平板状部87の環状外周縁から一体的に下方に延びる円筒垂下部89とを備えており、該取付部材80は、貫通孔86を介して環状平板状部87を車体取付部材78の円筒突出部85の外周面に嵌挿し、環状平板状部87を車体取付部材78の環状平板状部83の下面に接合して該車体取付部材78に一体的に結合されている。
【0032】
上部ばね受手段76は、環状平板状部90と、環状平板状部90の環状内縁から一体的に上方に突出すると共に内周面で貫通孔91を規定する円筒突出部92とを備えた上部ばね受部材93からなり、上部ばね受部材93の円筒突出部92の上端面94は、車体取付部材78の円筒突出部85の下端面95に対向して配置されている。
【0033】
連結固定手段82は、外面で車体取付部材78の内面に嵌着された外側連結部材96と、外側連結部材96に接着された環状弾性ゴム体97と、環状弾性ゴム体97に接着された内側連結部材98と、ピストンロッド74の上端部81と共に内側連結部材98の内縁部を挟持して上端部81に螺着されたナット99とを具備している。
【0034】
スラスト滑り軸受1は、車体取付部材78の円筒突出部85の内面と取付部材80の環状平板状部87の下面と円筒垂下部89の内面と上部ばね受部材93の環状平板状部90の上面と、上部ばね受部材93の円筒突出部92の外面で形成される環状空間101に、上部ケース3の円環状基板部25の内側筒状垂下部29の筒状内面27が車体取付部材78の円筒突出部85の外面に接触され、上部ケース3の円環状基板部25の環状上面26が取付部材80の環状平板状部87の下面に接触されていると共に取付部材80の円筒垂下部89の内面で外側筒状垂下部32の円筒外面79が当該円筒垂下部89の内面に接触して囲繞され、下部ケース2の円環状基体部11の環状下面6が上部ばね受部材93の平板状部90の上面に接触されていると共に下部ケース2の円環状基体部11の筒状小径内面7が上部ばね受部材93の円筒突出部92の内面で当該円筒突出部92の内面に接触して囲繞されて、車体取付部材78と上部ばね受部材93との間に配されている。
【0035】
取付構造73によれば、ステアリング操作により取付手段75に対して上部ばね受手段76が回転されると、上部ケース3に対して下部ケース2が回転され、この下部ケース2の回転は、上部ケース3及び下部ケース2間に配されたスラスト滑り軸受片4によって円滑に許容され、ステアリング操作が円滑に行われる。また、ラジアル荷重が作用した場合は、上部ケース3の円環状基板部25の外側筒状垂下部32の円筒内面31と下部ケース2の円環状基体部11の円筒外面9との間に軸受隙間(クリアランス)を保持して形成されたラジアル滑り軸受部における合成樹脂同志の摺動によって円滑に許容される。
【0036】
また、取付構造73においても、環状空間101に配置されたスラスト滑り軸受1におけるスラスト滑り軸受部は、ラビリンス作用による密封部及び環状上面5より上方に位置しているので、スラスト滑り軸受1の内、外周面側からの当該スラスト滑り軸受部への塵埃等の異物の侵入が極力防止され、当該異物の侵入に起因するスラスト滑り軸受部の異常摩耗等の不具合を回避することができる上に、ラジアル荷重方向に対しての上部ケース3と下部ケース2との相対回転の円滑な摺動を許容する上部ケース3の外側筒状垂下部32の円筒内面31と下部ケース2の円環状基体部11の円筒外面9とからなるラジアル滑り軸受部へのスラスト滑り軸受1の外周面側からの塵埃等の異物の侵入は、ラビリンス作用による密封部により極力防止され、当該異物の侵入に起因するラジアル滑り軸受部の異常摩耗等の不具合をも回避することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 スラスト滑り軸受
2 下部ケース
3 上部ケース
4 スラスト滑り軸受片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースに重ね合わされる合成樹脂製の上部ケースと、上部及び下部ケース間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片とを具備しており、下部ケースは、環状上面、環状下面、これら環状上面及び環状下面間に配された筒状小径内面及び筒状大径内面並びに円筒外面を有すると共に当該環状上面に第一の環状凹部を有する円環状基体部と、該円環状基体部の筒状小径内面で規定されていると共に該円環状基体部の環状下面で開口する小径孔と、該円環状基体部の筒状大径内面で規定されていると共に該円環状基体部の環状上面で開口する大径孔と、環状内周端では筒状小径内面に連接されていると共に環状外周端では筒状大径内面に連接された環状肩部面と、該円筒外面の下端部から径方向外方に突出する環状突出部と、該環状突出部の環状上面に設けられていると共に筒状内面で該円筒外面及び該環状突出部の環状上面と協働して第二の環状凹部を規定する筒状突起部と、該筒状突起部の筒状外面から径方向外方に突出する環状係合突起部とを備えており、上部ケースは、円環状基板部と、該円環状基板部の筒状内面に当該円環状基板部の環状上面から下方に垂下して一体的に設けられていると共に筒状内面で小径孔と同心の中央孔を規定する内側筒状垂下部と、該円環状基板部の筒状外面に当該円環状基板部の環状上面から垂下して該内側筒状垂下部の環状下端面よりもより下方に延びて一体的に設けられていると共に円筒内面を有した厚肉の外側筒状垂下部と、該円環状基板部の環状下面、該内側筒状垂下部の筒状外面及び外側筒状垂下部の円筒内面によって規定された第三の環状凹部と、該外側筒状垂下部の環状下端面から下方に向かって立設された内側筒状立壁部及び外側筒状立壁部と、該外側筒状垂下部の環状下端面、内側筒状立壁部の筒状外面及び外側筒状立壁部の筒状内面によって規定された第四の環状凹部と、外側筒状立壁部の環状下端面から下方に突出する環状係合部と、該環状係合部の筒状内面から径方向内方に突出する環状フック部とを備えており、スラスト滑り軸受片は、その環状上面を第三の環状凹部を規定する円環状基板部の環状下面に摺動自在に接触させて第三の環状凹部に配されている一方、その環状下面を該第一の環状凹部を規定する円環状基体部の環状凹部底面に摺動自在に接触させて当該第一の環状凹部に配されて、上部ケースの円環状基板部の環状下面と下ケースの円環状基体部の環状上面とを離間させており、上部ケースは、その内側筒状垂下部の環状下端面を隙間をもって環状肩部面に対面させ、径方向に関して内側筒状垂下部よりも厚肉のその外側筒状垂下部の円筒内面を下部ケースの円環状基体部の円筒外面に摺動自在に接触させ、その内側筒状立壁部を第二の環状凹部に配置し、その環状フック部を環状係合突起部に弾性的に嵌着させ、当該弾性的な嵌着部と外側筒状垂下部の円筒内面への円環状基体部の円筒外面の摺動自在な接触部との間において第二の環状凹部に配された該内側筒状立壁部と第四の環状凹部に配された筒状突起部及び環状係合突起部とでラビリンス作用による密封部を形成して、下部ケースに重ね合わされてなるスラスト滑り軸受。
【請求項2】
油圧式ショックアブソーバ及びこの油圧式ショックアブソーバを囲繞して配されたコイルばねを具備した車輌のストラット型サスペンションを請求項1に記載のスラスト滑り軸受を介して車体に取付ける取付構造であって、油圧式ショックアブソーバのピストンロッドを車体に取付ける取付手段と、コイルばねを受ける上部ばね受手段とを具備しており、該スラスト滑り軸受は、当該取付手段と上部ばね受手段との間に配されており、取付手段は、車体側に固定された環状平板状部及び該環状平板状部の環状内縁から下方に突出すると共に内周面で貫通孔を規定する円筒突出部を備えた車体取付部材と、該車体取付部材の環状平板状部の下面に一体に形成された環状平板状部及び当該環状平板状部の環状外縁から下方に延びる円筒垂下部を備えた取付部材とを具備しており、上部ばね受手段は、環状平板状部、当該環状平板状部の環状内縁から上方に突出すると共に内周面で貫通孔を規定する円筒突出部を備えた上部ばね受部材からなり、該車体取付部材の円筒突出部の下端面と上部ばね受部材の円筒突出部の上端面とは、互いに相対向して配置されており、スラスト滑り軸受は、車体取付部材の円筒突出部と取付部材の環状平板状部と取付部材の円筒垂下部と上部ばね受部材の環状平板状部と上部ばね受部材の円筒突出部とで形成される環状空間に、上部ケースの円環状基板部の内側円筒垂下部が車体取付部材の円筒突出部の外面に接触され、上部ケースの円環状基板部の環状上面が取付部材の環状平板状部に接触されていると共に取付部材の円筒垂下部の内面で外側円筒垂下部の外周面が囲繞され、下部ケースの円環状基体部の環状下面が上部ばね受部材の平板状部の上面に接触されていると共に下部ケースの円環状基体部の筒状小径内面が上部ばね受部材の円筒突出部の内面で囲繞されて、配されていることを特徴とする取付構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−145147(P2012−145147A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2510(P2011−2510)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】