説明

スラスト滑り軸受

【課題】組立性、交換性に優れて製造費の低減を図り得ると共に耐久性及びシール性を更に向上させることができるスラスト滑り軸受を提供すること。
【解決手段】スラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース2と、上部ケース2に対して軸心Oの回りで円周方向Rに回転自在となるように上部ケース2に重ね合わされている合成樹脂製の下部ケース3と、上部ケース2及び下部ケース3間の環状空間4に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片5と、円環状の一端部では夫々環状空間4に連通する上部ケース2及び下部ケース3間の径方向Aの内周側の隙間及び外周側の隙間7の外部に連通する他端部の夫々を閉鎖する合成樹脂製のシール部材8とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製スラスト滑り軸受、とくに四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)のスラスト滑り軸受として組込まれて好適なスラスト滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2001−27227号公報
【特許文献2】特開2001−27228号公報
【特許文献3】特開2001−27229号公報
【特許文献4】特開2007−303643号公報
【特許文献5】特開2009−250278号公報
【0003】
特許文献1においては、合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースに重ねられた合成樹脂製の上部ケースと、上部及び下部ケース間に配された合成樹脂製の滑り軸受手段とを具備した合成樹脂製の滑り軸受であって、上部及び下部ケース間において外周側に配された外側弾性シール手段と、上部及び下部ケース間において内周側に配された内側弾性シール手段とを備えている合成樹脂製の滑り軸受が、特許文献2においては、合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースに重ねられた合成樹脂製の上部ケースと、上部及び下部ケース間の空間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受部材とを具備した合成樹脂製の滑り軸受であって、上部及び下部ケース間の空間において外周側に配された外側シール手段と、上部及び下部ケース間の空間において内周側に配された内側ラビリンスシール手段とを備えている合成樹脂製の滑り軸受が、特許文献3においては、合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースに重ねられた合成樹脂製の上部ケースと、上部及び下部ケース間に配された合成樹脂製の滑り軸受手段とを具備した合成樹脂製の滑り軸受であって、下部ケースの外面を覆って配されており、両環状の端部で下部及び上部ケース間の空間の外側及び内側環状開口を閉塞した弾性シール手段を具備した合成樹脂製の滑り軸受が、特許文献4においては、環状下面を有した上ケースと、この上ケースに当該上ケースの軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされていると共に環状上面を有した下ケースと、環状下面及び環状上面間の環状空間に配された環状のスラスト滑り軸受片とを具備した合成樹脂製の滑り軸受であって、環状空間の外周側及び内周側のうちの少なくともいずれか一方側に配されたシール手段を具備している滑り軸受が、そして、特許文献5においては、環状下面を有した合成樹脂製の上部ケースと、環状上面を有した合成樹脂製の下部ケースと、環状下面及び環状上面間の環状隙間に配されたスラスト滑り軸受片とを具備した合成樹脂製の滑り軸受が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の滑り軸受では、上部及び下部ケース間において内外周側の夫々の隙間をシールするために、別体の内側弾性シール手段と外側弾性シール手段とを当該各隙間に配しているために、組立作業に時間を要して製造費の上昇を招来する虞を有しており、特許文献2の滑り軸受では、上部及び下部ケース間において内側の隙間をシールするために、ラビリンスシール手段を用いているために、弾性シール手段に比較して内周側の隙間からの塵埃、泥水の侵入の阻止性に若干劣っており、特許文献3の滑り軸受では、上部及び下部ケース間において内外周側の夫々の隙間をシールする弾性シール手段が下部ケースの外面に配されているために、長期の使用において下部ケースからの弾性シール手段の脱落の虞を有しており、特許文献4の滑り軸受では、上部及び下部ケース間において内外周側の夫々の隙間をシールするために別体の内側弾性シール手段と外側弾性シール手段とを当該各隙間に配しているために、特許文献1の滑り軸受と同様に、組立作業に時間を要してコストアップを招来する虞を有しており、特許文献5の滑り軸受では、上部及び下部ケース間において内外周側の夫々の隙間をシールするために、ラビリンスシール手段を用いているために、弾性シール手段に比較して内外周側の隙間からの塵埃、泥水の侵入の阻止性に若干劣っており、いずれの滑り軸受も、製造費、耐久性及びシール性に関して未だ満足できるものではない。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、組立性、交換性に優れて製造費の低減を図り得ると共に耐久性及びシール性を更に向上させることができるスラスト滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスラスト滑り軸受は、軸方向において円環状下面を有した円環状の上部ケース基部、この上部ケース基部の円環状下面の径方向の内周端部から垂下した内周側垂下円筒部及び上部ケース基部の円環状下面の径方向の外周端部から垂下した外周側垂下円筒部を夫々一体的に有した合成樹脂製の上部ケースと、この上部ケースに対して軸心の回りで回転自在となるように当該上部ケースに重ね合わされていると共に軸方向において円環状上面を有した円環状の下部ケース基部及びこの下部ケース基部の円環状上面から上部ケース基部の円環状下面に向かって突出した円環状突部を夫々一体的に有した合成樹脂製の下部ケースと、軸方向における円環状の上面及び径方向の円筒状の内周面で上部ケース基部の円環状下面及び内周側垂下円筒部の径方向の外周面に滑動自在に接触する一方、軸方向における円環状の下面及び径方向の円筒状の外周面で円環状突部の軸方向における円環状上面及び径方向の円筒状内周面に接触するように、上部ケース基部の円環状下面及び下部ケース基部の円環状上面間の環状空間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片と、径方向の内周側には、上部ケースの内周側垂下円筒部及び下部ケースの下部ケース基部間の隙間を閉鎖するように、上部ケースの内周側垂下円筒部の径方向の内周面に接触する可撓性の内周側環状シール部を、径方向の外周側には、上部ケースの外周側垂下円筒部及び下部ケースの下部ケース基部間の隙間を閉鎖するように、上部ケースの外周側垂下円筒部の径方向の内周面に接触する可撓性の外周側環状シール部を夫々有すると共に内周側環状シール部及び外周側環状シール部を相互に連結するように、軸心の回りの方向に互いに離間して配列された複数の連結部を有する合成樹脂製のシール部材とを具備しており、複数の連結部の夫々は、下部ケースの円環状突部及びスラスト滑り軸受片間を通って一端部では内周側環状シール部に他端部では外周側環状シール部に夫々一体的に連接されている。
【0007】
本発明のスラスト滑り軸受によれば、複数の連結部の夫々が、一端部では内周側環状シール部に他端部では外周側環状シール部に夫々一体的に連接されているために、部品点数を少なくでき、組立性、交換性に優れて製造費の低減を図り得、しかも、複数の連結部の夫々が、下部ケースの円環状突部及びスラスト滑り軸受片間を通っているために、脱落の虞をなくし得て耐久性を向上させることができ、加えて、シール部材が、径方向の内周側及び外周側で、上部ケースの内周側垂下円筒部及び下部ケースの下部ケース基部間の隙間を閉鎖する内周側環状シール部及び外周側環状シール部を有しているために、シール性を更に向上させることができる。
【0008】
本発明のスラスト滑り軸受の好ましい例では、シール部材の連結部の夫々は、径方向の一端部で外周側環状シール部に一体的に連結された径方向連結部と、軸方向の一端部で径方向連結部の径方向の他端部に、軸方向の他端部で内周側環状シール部に夫々一体的に連結された軸方向連結部とを有しており、下部ケースの円環状突部は、その軸方向の上面に軸心の回りの方向で互いに離間して配されていると共に連結部の径方向連結部を夫々を受容する上面溝と、その径方向の内周面に上面溝に連接して軸心の回りの方向で互いに離間して配されていると共に連結部の軸方向連結部を夫々を受容する内周面溝とを有しており、上面溝を除く下部ケースの円環状突部の上面は、連結部の径方向連結部の軸方向の上面と面一に又は連結部の径方向連結部の軸方向の上面よりも上方に位置しており、内周面溝を除く下部ケースの円環状突部の内周面は、連結部の軸方向連結部の径方向の内側面と面一に又は連結部の軸方向連結部の径方向の内側面よりも径方向内方に位置しており、スラスト滑り軸受片は、下部ケースの円環状突部の上面に接触している径方向軸受片部と、下部ケースの円環状突部の内周面に接触している軸方向軸受片部とを具備している。
【0009】
本例のスラスト滑り軸受では、径方向軸受片部は、下部ケースの円環状突部の上面及び連結部の径方向連結部の上面に接触しており、軸方向軸受片部は、下部ケースの円環状突部の内周面及び連結部の軸方向連結部の内側面に接触していても、これに代えて、径方向軸受片部は、連結部の径方向連結部の上面に対して隙間をもって下部ケースの円環状突部の上面に接触しており、連結部の軸方向連結部の内側面に対して隙間をもって下部ケースの円環状突部の内周面に接触していてもよい。
【0010】
他の好ましい例では、円環状突部は、その上面の径方向の外周部に円環状の切欠き段部を有しており、可撓性の外周側環状シール部は、径方向の内周端部で径方向連結部の径方向の径方向外方端部に一体的に連接されていると共に切欠き段部に嵌合された円環状の外周シール基部と、径方向の内周端部で外周シール基部の径方向の外周端部に連接されていると共に上部ケースの外周側垂下円筒部の内周面に接触する可撓性の外周シール部とを具備しており、外周シール部は、外周シール基部の軸方向厚みよりも小さい軸方向厚みを有していると共に外周シール基部の径方向の外周端部に連接されている内周端部から斜め下方に伸びている。
【0011】
下部ケースは、円環状突部の内周面と協働して内周側円環状凹所を形成するように、下部ケース基部の円環状上面の径方向の内周部から上部ケース基部の円環状下面に向かって突出した円環状内周側突部を下部ケース基部と一体的に有しており、内周側環状シール部は、径方向の外周端部で軸方向連結部の軸方向下端部に一体的に連接されていると共に内周側円環状凹所に嵌合された円環状の内周シール基部と、径方向の外周端部で内周シール基部の径方向の内周端部に連接されていると共に上部ケースの内周側垂下円筒部の外周面に接触する可撓性の内周シール部とを具備しており、内周シール部は、内周シール基部よりも小さい軸方向厚みを有していると共に内周シール基部の径方向の内周端部に連接されている外周端部から斜め下方に伸びているとよい。
【0012】
上部ケースは、上部ケース基部の軸方向における円環状上面の径方向中央部に一体的に形成されている円環状の台座部を有していてもよい。
【0013】
一つの好ましい例では、内周側垂下円筒部は、軸方向上端部で上部ケース基部の円環状下面の径方向の内周端部に連接された厚肉円筒部と、軸方向上端部で厚肉円筒部の軸方向下端部に連接されていると共に厚肉円筒部に対して薄肉の薄肉円筒部とを有しており、内周側環状シール部は、薄肉円筒部の径方向の円筒状の内周面に接触しており、外周側垂下円筒部は、軸方向上端部で上部ケース基部の円環状下面の径方向の外周端部に連接されていると共に軸方向において上部ケース基部の円環状下面から離れるに従って拡径した内周面を有した台形断面円筒部と、軸方向上端部で台形断面円筒部の軸方向下端部に連接されていると共に軸方向において台形断面円筒部の軸方向下端部から離れるに従って縮径し、この縮径から離れるに従って拡径した内周面を有した膨大円筒部とを有しており、外周側環状シール部は、台形断面円筒部に接触している。
【0014】
好ましい例では、円環状突部は、軸方向下端部で下部ケース基部の円環状上面の外周端部に連接されていると共に軸方向において下部ケース基部の円環状上面から離れるに従って縮径した円弧凹状外周面を有している。
【0015】
本発明のスラスト滑り軸受は、好ましくは、四輪自動車におけるストラット型サスペンションのスラスト滑り軸受として用いられる。
【0016】
上部ケース及び下部ケースを形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂であってもよく、また、スラスト滑り軸受片を形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂であってもよく、シール部材を形成する合成樹脂としては、ポリウレタンを好ましい例として挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、組立性、交換性に優れて製造費の低減を図り得ると共に耐久性及びシール性を更に向上させることができるスラスト滑り軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の好ましい例の図3に示すI−I線矢視断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例の正面説明図である。
【図3】図3は、図1に示す例の平面説明図である。
【図4】図4は、図1に示す例の斜視説明図である。
【図5】図5は、図1に示す例の一部の拡大断面説明図である。
【図6】図6は、図1に示す例の上ケースの断面説明図である。
【図7】図7は、図1に示す上ケースの一部の拡大断面説明図である。
【図8】図8は、図1に示す例の下ケースの図9に示すVIII−VII線矢視断面説明図である。
【図9】図9は、図1に示す例の下ケースの平面説明図である。
【図10】図10は、図1に示す例の下ケースの斜視説明図である。
【図11】図11は、図1に示す例の下ケースの図9に示すXI−XI線矢視断面説明図である。
【図12】図12は、図1に示す例の下ケースの図7に示すXII−XII線矢視断面説明図である。
【図13】図13は、図1に示す例の下ケースの一部の拡大平面説明図である。
【図14】図14は、図1に示す例のスラスト滑り軸受片の図15に示すXIV−XIV線矢視断面説明図である。
【図15】図15は、図1に示す例のスラスト滑り軸受片の平面説明図である。
【図16】図16は、図1に示す例のスラスト滑り軸受片の底面説明図である。
【図17】図17は、図1に示す例のスラスト滑り軸受片の図15に示すXVII−XVII線矢視断面説明図である。
【図18】図18は、図1に示す例のスラスト滑り軸受片の図15に示すXVIII−XVIII線矢視説明図である。
【図19】図19は、図1に示す例のシール部材の正面説明図である。
【図20】図20は、図1に示す例のシール部材の正面説明図である。
【図21】図21は、図1に示す例のシール部材の底面説明図である。
【図22】図22は、図1に示す例のシール部材の正面側の斜視説明図である。
【図23】図23は、図1に示す例のシール部材の底面側の斜視説明図である。
【図24】図24は、図1に示す例のシール部材の図20に示すXXIV−XXIV線矢視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0020】
図1から図5において、四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるための本例のスラスト滑り軸受1は、取付部材を介して車体側に固定される合成樹脂製の上部ケース2と、上部ケース2に対して軸心Oの回りで円周方向Rに回転自在となるように当該上部ケース2に重ね合わされていると共にサスペンションのコイルばねのばね座側に固定される合成樹脂製の下部ケース3と、上部ケース2及び下部ケース3間の環状空間4に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片5と、円環状の一端部では夫々環状空間4に連通する上部ケース2及び下部ケース3間の径方向Aの内周側の隙間6及び外周側の隙間7の外部に連通する他端部の夫々を閉鎖する合成樹脂製のシール部材8とを具備している。
【0021】
上部ケース2は、図5から図7に特に詳細に示すように、軸方向Bにおいて円環状下面11を有した円環状の上部ケース基部12と、上部ケース基部12の円環状下面11の径方向Aの内周端部13から垂下した内周側垂下円筒部14と、上部ケース基部12の円環状下面11の径方向Aの外周端部15から垂下した外周側垂下円筒部16と、上部ケース基部12の円環状上面17の径方向Aの中央部に突出して形成された円環状の台座部18とを夫々一体的に有している。
【0022】
内周側垂下円筒部14は、上端部21で上部ケース基部12の円環状下面11の内周端部13に連接された厚肉円筒部22と、内周側段部円環状面24及び外周側段部円環状面25を介して厚肉円筒部22の下端部26に上端部23で連接されていると共に厚肉円筒部22に対して薄肉の薄肉円筒部27とを有している。
【0023】
厚肉円筒部22及び薄肉円筒部27は、ストラット型サスペンションの軸部材が貫通する貫通孔28を規定する円筒状の内周面29及び30を有しており、厚肉円筒部22は、円筒状の外周面31を、薄肉円筒部27は、外周面31よりも小径の円筒状の外周面32を夫々有している。
【0024】
円筒状の外周面35を有する外周側垂下円筒部16は、上端部36で上部ケース基部12の円環状下面11の外周端部15に連接されていると共に上部ケース基部12の円環状下面11から離れるに従って拡径した内周面37を有した台形断面円筒部38と、上端部39で台形断面円筒部38の下端部40に連接されていると共に台形断面円筒部38の下端部40から離れるに従って縮径し、この縮径端から離れるに従って拡径した内周面41を有した膨大円筒部42とを有している。
【0025】
下部ケース3は、図5及び図8から図13に特に詳細に示すように、円環状上面51を有した円環状の下部ケース基部52と、下部ケース基部52の円環状上面51から上部ケース基部12の円環状下面11に向かって突出した円環状突部53と、円環状突部53の径方向Aの円筒状の内周面54と協働して内周側円環状凹所55を形成するように、下部ケース基部52の円環状上面51の内周側56において円環状上面51から上部ケース基部12の円環状下面11に向かって突出した円環状内周側突部57と、下部ケース基部52の円環状下面58の内周部59から円環状下面58から離れるように突出した円筒部60と、円筒部60の端部61において円筒部60の円筒状の内周面62から内方に突出した円環状の突出部63と、円筒部60の端部61において突出した円環状の突出部64と、円環状突部53の環状の上面65の外周縁部に上部ケース基部12の円環状下面11に向かって突出していると共に軸心の回りの方向R(円周方向R)で互いに離間して円環状の上面65の外周縁部に沿って配列されている複数の突起66とを夫々一体的に有している。
【0026】
円環状突部53は、その上面65の外周部に円環状の切欠き段部71と、下端部72で下部ケース基部52の円環状上面51の外周端部に連接されていると共に下部ケース基部52の円環状上面51から離れるに従って縮径した円環状の円弧凹状外周面73と、その上面65に円周方向Rで互いに等間隔に離間して配されている複数の上面溝74と、その内周面54に夫々上面溝74に連通して円周方向Rで互いに等間隔に離間して配されていると共に内周側円環状凹所55に連通した複数の内周面溝75とを有している。
【0027】
円筒部60の内周面62及び突出部63の円環状の内周面76とは、貫通孔28と同心であると共にストラット型サスペンションの軸部材が貫通する貫通孔77を規定している。
【0028】
上部ケース基部12の円環状下面11及び下部ケース基部52の円環状上面51間の環状空間4に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片5は、図5及び図14から図18に特に詳細に示すように、上部ケース基部12の円環状下面11に摺動自在に接触する円環状の上面81及び円環状突部53の上面65に接触する円環状の下面82を夫々有している円環状の径方向軸受片部83と、一端部で径方向軸受片部83の一端部に一体的に形成されていると共に厚肉円筒部22の外周面31に摺動自在に接触する円環状の内側面84及び円環状突部53の内周面54に接触する円環状の外側面85を有して下方に伸びた円筒状の軸方向軸受片部86と、径方向軸受片部83の外周面87から外方向に突出していると共に下部ケース3に対してスラスト滑り軸受片5が円周方向Rに回転しないように円周方向Rにおいて突起66間に配されて隣接する当該突起66に挟持された複数個の径方向突板片部88とを具備している。
【0029】
径方向軸受片部83は、上面81の内周側に設けられた円環状溝91と、円環状溝91に一端で開口している一方、他端で外周面87に開口していると共に上面81に円周方向Rに等間隔に離間して設けられた複数の径方向溝92とを有しており、軸方向軸受片部86は、両端で開口して内側面84に円周方向Rに等間隔に離間して設けられた複数の軸方向溝93を有しており、これら円環状溝91、径方向溝92及び軸方向溝93は、潤滑油溜まりとなっている。
【0030】
シール部材8は、図19から図24に特に詳細に示すように、上部ケース2の内周側垂下円筒部14の軸方向端部101である薄肉円筒部27及び下部ケース3の下部ケース基部52の内周端部102である円環状内周側突部57間の隙間6を閉鎖するように、内周側には、内周側垂下円筒部14の薄肉円筒部27の外周面32に弾性的に撓み接触する可撓性の内周側環状シール部103を、上部ケース2の外周側垂下円筒部16の軸方向端部104及び下部ケース3の下部ケース基部52の外周端部105間の隙間7を閉鎖するように、外周側には、外周側垂下円筒部16の台形断面円筒部38の内周面37に弾性的に撓み接触する可撓性の外周側環状シール部106を夫々有すると共に内周側環状シール部103及び外周側環状シール部106を相互に連結する複数の連結部107を有している。
【0031】
円周方向Rにおいて互いに等間隔に離間して配された複数の連結部107の夫々は、一端部111で外周側環状シール部106の円環状内周端部112に一体的に連結された径方向連結部113と、一端部114で径方向連結部113の他端部115に、他端部116で内周側環状シール部103の円環状外周端部117に夫々一体的に連結された軸方向連結部118とを有している。
【0032】
複数の連結部107の夫々は、径方向連結部113が上面溝74の夫々に受容されている一方、軸方向連結部118が内周面溝75の夫々に受容されて、下部ケース3の円環状突部53及びスラスト滑り軸受片5間を通って他端部116では内周側環状シール部103に一端部111では外周側環状シール部106に夫々一体的に連接されている。
【0033】
内周側環状シール部103は、その円環状外周端部117で他端部116である軸方向連結部118の軸方向下端部に一体的に連接されていると共に内周側円環状凹所55に嵌合された円環状の内周シール基部131と、外周端部132で内周シール基部131の内周端部133に連接されていると共に内周側垂下円筒部14の薄肉円筒部27の外周面32に弾性的に撓み接触する可撓性の内周シール部134とを具備している。
【0034】
内周シール部134は、内周シール基部131の厚みよりも小さい厚みを有していると共に内周シール基部131の内周端部133に連接されている外周端部132から斜め下方に伸びている。
【0035】
外周側環状シール部106は、その円環状内周端部112で一端部111である径方向連結部113の外方端部に一体的に連接されていると共に切欠き段部71に嵌合された円環状の外周シール基部141と、内周端部142で外周シール基部141の外周端部143に連接されていると共に外周側垂下円筒部16の台形断面円筒部38の内周面37に弾性的に撓み接触する可撓性の外周シール部144とを具備している。
【0036】
外周シール部144は、外周シール基部141の厚みよりも小さい厚みを有していると共に外周シール基部141の外周端部143に連接されている内周端部142から斜め下方に伸びている。
【0037】
連結部107の径方向連結部113の上面151は、上面溝74を除く下部ケース3の円環状突部53の上面65と面一に位置しており、連結部107の軸方向連結部118の内側面152は、内周面溝75を除く下部ケース3の円環状突部53の内周面54と面一に位置しており、而して、径方向軸受片部83は、その下面82で下部ケース3の円環状突部53の上面65及び連結部107の径方向連結部113の上面151に接触しており、軸方向軸受片部86は、その外側面85で下部ケース3の円環状突部53の内周面54及び連結部107の軸方向連結部118の内側面152に接触している。
【0038】
以上に代えて、上面溝74を除く下部ケース3の円環状突部53の上面65を、連結部107の径方向連結部113の上面151よりも上方に位置させ、内周面溝75を除く下部ケース3の円環状突部53の内周面54を、連結部107の軸方向連結部118の内側面152よりも径方向内方に位置させてもよく、この場合には、軸方向軸受片部83は、その下面82で連結部107の径方向連結部113の上面151に対して隙間をもって下部ケース3の円環状突部53の上面65に接触しており、軸方向軸受片部86は、その外側面85で連結部107の軸方向連結部118の内側面152に対して隙間をもって下部ケース3の円環状突部53の内周面54に接触している。
【0039】
以上のスラスト滑り軸受1は、上部ケース2に対する下部ケース3の円周方向Rの相対的回転を、上部ケース基部12の円環状下面11に対する径方向軸受片部83の上面81及び厚肉円筒部22の外周面31に対する軸方向軸受片部86の内側面84の夫々の円周方向Rの相対的な摺動でもって許容するようになっている。
【0040】
斯かるスラスト滑り軸受1によれば、複数の連結部107の夫々が、一端部では内周側環状シール部103に他端部では外周側環状シール部106に夫々一体的に連接されているために、部品点数を少なくでき、組立性、交換性に優れて製造費の低減を図り得、しかも、複数の連結部107の夫々が、下部ケース3の円環状突部53及びスラスト滑り軸受片5の間を通っているために、脱落の虞をなくし得て耐久性を向上させることができる。
【0041】
加えて、スラスト滑り軸受1によれば、シール部材8が、上部ケース2の内周側垂下円筒部14及び下部ケース3の内周端部102間の隙間6を閉鎖する内周側環状シール部103と、上部ケース2の外周側垂下円筒部16及び下部ケース3の外周端部105間の隙間7を閉鎖する外周側環状シール部106とを有しているために、シール性を更に向上させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 スラスト滑り軸受
2 上部ケース
3 下部ケース
4 環状空間
5 スラスト滑り軸受片
6、7 隙間
8 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向において円環状下面を有した円環状の上部ケース基部、この上部ケース基部の円環状下面の径方向の内周端部から垂下した内周側垂下円筒部及び上部ケース基部の円環状下面の径方向の外周端部から垂下した外周側垂下円筒部を夫々一体的に有した合成樹脂製の上部ケースと、この上部ケースに対して軸心の回りで回転自在となるように当該上部ケースに重ね合わされていると共に軸方向において円環状上面を有した円環状の下部ケース基部及びこの下部ケース基部の円環状上面から上部ケース基部の円環状下面に向かって突出した円環状突部を夫々一体的に有した合成樹脂製の下部ケースと、軸方向における円環状の上面及び径方向の円筒状の内周面で上部ケース基部の円環状下面及び内周側垂下円筒部の径方向の外周面に滑動自在に接触する一方、軸方向における円環状の下面及び径方向の円筒状の外周面で円環状突部の軸方向における円環状上面及び径方向の円筒状内周面に接触するように、上部ケース基部の円環状下面及び下部ケース基部の円環状上面間の環状空間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片と、径方向の内周側には、上部ケースの内周側垂下円筒部及び下部ケースの下部ケース基部間の隙間を閉鎖するように、上部ケースの内周側垂下円筒部の径方向の内周面に接触する可撓性の内周側環状シール部を、径方向の外周側には、上部ケースの外周側垂下円筒部及び下部ケースの下部ケース基部間の隙間を閉鎖するように、上部ケースの外周側垂下円筒部の径方向の内周面に接触する可撓性の外周側環状シール部を夫々有すると共に内周側環状シール部及び外周側環状シール部を相互に連結するように、軸心の回りの方向に互いに離間して配列された複数の連結部を有する合成樹脂製のシール部材とを具備しており、複数の連結部の夫々は、下部ケースの円環状突部及びスラスト滑り軸受片間を通って一端部では内周側環状シール部に他端部では外周側環状シール部に夫々一体的に連接されているスラスト滑り軸受。
【請求項2】
シール部材の連結部の夫々は、径方向の一端部で外周側環状シール部に一体的に連結された径方向連結部と、軸方向の一端部で径方向連結部の径方向の他端部に、軸方向の他端部で内周側環状シール部に夫々一体的に連結された軸方向連結部とを有しており、下部ケースの円環状突部は、その軸方向の上面に軸心の回りの方向で互いに離間して配されていると共に連結部の径方向連結部を夫々を受容する上面溝と、その径方向の内周面に上面溝に連接して軸心の回りの方向で互いに離間して配されていると共に連結部の軸方向連結部を夫々を受容する内周面溝とを有しており、上面溝を除く下部ケースの円環状突部の上面は、連結部の径方向連結部の軸方向の上面と面一に又は連結部の径方向連結部の軸方向の上面よりも上方に位置しており、内周面溝を除く下部ケースの円環状突部の内周面は、連結部の軸方向連結部の径方向の内側面と面一に又は連結部の軸方向連結部の径方向の内側面よりも径方向内方に位置しており、スラスト滑り軸受片は、下部ケースの円環状突部の上面に接触している径方向軸受片部と、下部ケースの円環状突部の内周面に接触している軸方向軸受片部とを具備している請求項1に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項3】
円環状突部は、その上面の径方向の外周部に円環状の切欠き段部を有しており、可撓性の外周側環状シール部は、径方向の内周端部で径方向連結部の径方向外方端部に一体的に連接されていると共に切欠き段部に嵌合された円環状の外周シール基部と、径方向の内周端部で外周シール基部の径方向の外周端部に連接されていると共に上部ケースの外周側垂下円筒部の内周面に接触する可撓性の外周シール部とを具備している請求項1又は2に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項4】
下部ケースは、円環状突部の内周面と協働して内周側円環状凹所を形成するように、下部ケース基部の円環状上面の径方向の内周部から上部ケース基部の円環状下面に向かって突出した円環状内周側突部を下部ケース基部と一体的に有しており、内周側環状シール部は、径方向の外周端部で軸方向連結部の軸方向下端部に一体的に連接されていると共に内周側円環状凹所に嵌合された円環状の内周シール基部と、径方向の外周端部で内周シール基部の径方向の内周端部に連接されていると共に上部ケースの内周側垂下円筒部の外周面に接触する可撓性の内周シール部とを具備している請求項1から3のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−36983(P2012−36983A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178215(P2010−178215)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】