説明

スラスト滑り軸受

【課題】上部ケースと下部ケースとの環状隙間に対する泥水等の浸入を防止し得るスラスト滑り軸受を提供すること。
【解決手段】スラスト滑り軸受1は、環状下面2を有した合成樹脂製の上部ケース3と、環状下面2に対面する環状上面4が形成されていると共に、上部ケース3に重ね合わされる合成樹脂製の下部ケース5と、環状下面2及び環状上面間4の環状隙間9に配されると共に、環状下面2及び環状上面4のうちの少なくとも一方に滑動自在に当接する環状のスラスト滑り軸受面51を有したスラスト滑り軸受片6とを具備しており、上部ケース3は、下面に環状下面2が形成されている円環状基部11と、円環状基部11の外周部から下部ケース5側に向かって垂下した外側円筒状垂下部12とを具備しており、外側円筒状垂下部12の下部ケース5側の端部61における内径は、軸方向において円環状基部11から漸次離反するに従って漸次拡径されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製スラスト滑り軸受、とくに四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)のスラスト滑り軸受として組込まれて好適なスラスト滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1においては、車体側用の車体側座面及び環状下面を有した合成樹脂製の上部ケースと、上部ケースに当該上部ケースの軸心の回りで回転自在となるように重ね合わされると共に上部ケースの環状下面に対面した環状上面を有した合成樹脂製の下部ケースと、環状下面及び環状上面間に介在されている合成樹脂製の環状のスラスト滑り軸受片とを具備している滑り軸受が提案されている。斯かる滑り軸受の上部ケースの外側円筒状垂下部の下部ケース側の端部における内径は、軸方向において環状基部から漸次離反するに従って漸次縮径されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−263773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、斯かる滑り軸受では、上部ケースと下部ケースとの環状隙間に泥水等が浸入すると、環状上面及び環状下面のうちの少なくとも一方のスラスト滑り軸受片に対するスラスト方向の所望の滑りが阻害される虞があるために、前記環状隙間に対する泥水等の浸入を極力防止することが望まれる。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上部ケースと下部ケースとの環状隙間に対する泥水等の浸入を防止し得るスラスト滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスラスト滑り軸受は、車体側用の車体側座面及び環状下面を有した合成樹脂製の上部ケースと、環状下面に対面する環状上面及びサスペンションコイルばね側の環状下面が一体的に形成されていると共に、上部ケースの軸心の回りで回転自在となるように当該上部ケースに重ね合わされる合成樹脂製の下部ケースと、上部ケースの環状下面及び下部ケースの環状上面間の環状隙間に配されると共に、当該環状下面及び環状上面のうちの少なくとも一方に滑動自在に当接する環状のスラスト滑り軸受面を有したスラスト滑り軸受片とを具備しており、上部ケースは、上面に車体側座面が形成されていると共に下面に環状下面が形成されている環状基部と、環状基部の外周部から下部ケース側に向かって垂下した外側円筒状垂下部とを具備しており、外側円筒状垂下部の下部ケース側の端部における内径は、軸方向において環状基部から漸次離反するに従って漸次拡径されている。
【0007】
本発明のスラスト滑り軸受によれば、特に、外側円筒状垂下部の下部ケース側の端部における内径は、軸方向において環状基部から漸次離反するに従って漸次拡径されているために、外側円筒状垂下部の下部ケース側の端部から上部ケースと下部ケースとの間への泥水の浸入を好適に防止することができ、而して、上部ケースと下部ケースとの環状隙間に対する泥水等の浸入を防止し得る。
【0008】
本発明のスラスト滑り軸受の好ましい例では、下部ケースの外周面に対面する外側円筒状垂下部の端部における内周面の部位は、上部ケースの環状基部から離反するに従って下部ケースの外周面から漸次離反している。
【0009】
本発明のスラスト滑り軸受の好ましい例では、外側円筒状垂下部の内周面には、下部ケースに係合する凹面形状を有している環状の係合フック部が形成されており、係合フック部は、外側円筒状垂下部の下部ケース側の端部に隣接している。
【0010】
外側円筒状垂下部の端部における環状の下面は、下部ケースの環状下面よりも下方に位置している。このような好ましい例によれば、上部ケースと下部ケースとの環状隙間に対する泥水等の浸入をより確実に防止し得る。
【0011】
本発明の上述のスラスト滑り軸受は、好ましくは、四輪自動車におけるストラット型サスペンションのスラスト滑り軸受として用いられる。
【0012】
本発明のスラスト滑り軸受においては、上部ケース及びスラスト滑り軸受片が合成樹脂製であってもよく、斯かる場合、上部ケース及び下部ケースを形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂であってもよく、また、スラスト滑り軸受片を形成する合成樹脂は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上部ケースと下部ケースとの環状隙間に対する泥水等の浸入を防止し得るスラスト滑り軸受を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の例の一部切欠き正面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例の平面説明図である。
【図3】図3は、図1に示す例の一部拡大断面説明図である。
【図4】図4は、図1に示す例の一部拡大断面説明図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態の他の例の一部拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0016】
図1から図4において、四輪自動車におけるストラット型サスペンションに用いるための本例のスラスト滑り軸受1は、車体側の取付部材用の車体側座面10及び環状下面2を有した合成樹脂製の環状の上部ケース3と、環状下面2に対面する環状上面4及びサスペンションコイルばね側の環状下面25が一体的に形成されていると共に、上部ケース3の軸心Oの回りでR方向に回転自在となるように当該上部ケース3に重ね合わされる合成樹脂製の環状の下部ケース5と、環状下面2及び環状上面4間の環状隙間9に配されると共に、環状下面2及び環状上面4のうちの少なくとも一方、本例では環状下面2及び環状上面4に滑動自在に当接する環状のスラスト滑り軸受面51を有した合成樹脂製、例えばポリアセタール樹脂製の環状のスラスト滑り軸受片6とを具備している。
【0017】
上部ケース3は、上面に車体側座面10が形成されていると共に下面に環状下面2が形成されている円環状基部11と、円環状基部11の外周部から下部ケース5側に向かって垂下した外側円筒状垂下部12と、円環状基部11の内周部から下部ケース5側に向かって垂下した内側円筒状垂下部13とを具備している。外側円筒状垂下部12及び内側円筒状垂下部13は、円環状基部11に一体的に形成されている。環状下面2は、外側円筒状垂下部12及び内側円筒状垂下部13間における円環状基部11の下面からなる。
【0018】
円環状基部11の下面の外側円筒状垂下部12側の部位には、下部ケース5側に向かって突出した環状突起15が形成されている。内側円筒状垂下部13の下面には、下部ケース5側に向かって突出した環状突起16が形成されている。外側円筒状垂下部12の内周面には、環状の係合フック部17が形成されている。円環状基部11の上面18と内側円筒状垂下部13の内周面19は、車体側の取付部材に当接する。
【0019】
下部ケース5は、上面に環状上面4が形成されている円環状基部21と、円環状基部21から垂下して当該円環状基部21の内周下部に一体的に形成されている円筒部22とを具備している。下部ケース5の環状下面25のうちの円環状基部21の環状の下面24は、例えば図4に示すように環状の座金73に当接することによって、この座金73及びばね受け部材70を介してサスペンションコイルばねを受けるようになっている。
【0020】
円環状基部21の外周面26には、環状の被係合フック部27が一体的に形成されている。係合フック部17は、円環状基部21の外周に対して凹面形状を有しており、被係合フック部27は、前記凹面形状に対して相補的な凸面形状を有している。係合フック部17は、上部ケース3が下部ケース5に重ね合わされる際に被係合フック部27に摺接しながら復元可能に撓められて、当該被係合フック部27と係合する。
【0021】
円環状基部21の上面には、スラスト滑り軸受片6がR方向に滑動自在に配される環状凹部28が形成されている。環状凹部28は、上部ケース3に対して凹状であり、スラスト滑り軸受片6よりも若干広い幅をもって形成されている。円環状基部21の上面の環状凹部28よりも外周側の部位には、上部ケース3に対して凹状の環状凹溝29が形成されている。環状突起15は、環状凹溝29に配される。
【0022】
円筒部22の下部には、内側円筒状垂下部13の下方に位置すると共に上部ケース3に対して凹状の環状凹溝30が一体的に形成されている。環状突起16は、環状凹溝30に配される。
【0023】
環状突起15と環状凹溝29は、スラスト滑り軸受片6よりも外周側においてラビリンス構造をなしており、環状突起16と環状凹溝30は、スラスト滑り軸受片6よりも内周側においてラビリンス構造をなしている。これらのラビリンス構造は、環状隙間9に対する塵埃、泥水等異物の侵入を防止する。
【0024】
内側円筒状垂下部13の内周面19は、軸心Oを中心とする貫通孔35を画成している。車体側座面10、スラスト滑り軸受面51及び環状下面25は、スラスト滑り軸受1の軸方向において夫々互いに並んで配されている。サスペンションコイルばねが直接的又は間接的に当接する環状下面25の部位、本例ではサスペンションコイルばねがばね受け部材70、座金73等を介して当接する環状下面25の円環状基部21の下面24によって形成された部位、車体側座面10及びスラスト滑り軸受面51は、軸方向において互いに直列に配されている。
【0025】
外側円筒状垂下部12の環状の端部(下端)61における内径は、例えば図3に示すように、軸方向において円環状基部11から漸次離反するに従って漸次拡径されている。端部61よりも円環状基部11側に位置する係合フック部17は、端部61に隣接している。端部61における内周面34は、円環状基部11から漸次離反するに従って当該端部61の外周側に漸次近接するように傾斜している。円環状基部21の外周面26に対面する外側円筒状垂下部12の端部61における内周面34の部位は、軸方向において円環状基部11から漸次離反するに従って外周面26から漸次離反している。外側円筒状垂下部12の端部61は、係合フック部17から円環状基部21よりも下方に向かって伸びている。外側円筒状垂下部12の下面は、円環状基部21の下面24よりも下方に位置している。外周面26と内周面34は、環状の開口端62を画成している。上述のように傾斜した内周面34を有する端部61は、開口端62から上方に向かって外周面26と内周面34との間隔を漸次狭めている。スラスト滑り軸受1は、斯かる外側円筒状垂下部12の端部61を具備しているために、当該端部61から上部ケース3と下部ケース5との間への泥水の浸入を好適に防止することができる。
【0026】
スラスト滑り軸受片6は、上面及び下面にスラスト滑り軸受面51が形成されている環状板体52と、環状板体52の上面に形成された潤滑油用溝53と、環状板体52の下面に形成された潤滑油用溝54とを具備している。グリース等の潤滑油剤が充填される潤滑油用溝53は、環状板体52の上面の内周側の部位に形成された環状溝53aと、環状溝53aから外周側に向かって放射状に伸びて環状板体52の上面に形成された複数の放射状溝53bとを具備している。グリース等の潤滑油剤が充填される潤滑油用溝54は、環状板体52の下面の内周側の部位に形成された環状溝54aと、環状溝54aから外周側に向かって放射状に伸びて環状板体52の下面に形成された複数の放射状溝54bとを具備している。斯かるスラスト滑り軸受片6は、環状凹部28に滑動自在に嵌められて環状下面2及び環状上面4間の環状隙間9に配され、スラスト滑り軸受面51の夫々において環状下面2及び環状上面4の夫々に滑動自在に当接する。
【0027】
本例のスラスト滑り軸受1によれば、車体側用の車体側座面10及び環状下面2を有した合成樹脂製の上部ケース3と、環状下面2に対面する環状上面4及びサスペンションコイルばね側の環状下面25が一体的に形成されていると共に、上部ケース3の軸心Oの回りでR方向に回転自在となるように当該上部ケース3に重ね合わされる合成樹脂製の下部ケース5と、環状下面2及び環状上面間4の環状隙間9に配されると共に、環状下面2及び環状上面4のうちの少なくとも一方に滑動自在に当接する環状のスラスト滑り軸受面51を有したスラスト滑り軸受片6とを具備しており、上部ケース3は、上面に車体側座面10が形成されていると共に下面に環状下面2が形成されている円環状基部11と、円環状基部11の外周部から下部ケース5側に向かって垂下した外側円筒状垂下部12とを具備しており、外側円筒状垂下部12の下部ケース5側の端部61における内径は、軸方向において円環状基部11から漸次離反するに従って漸次拡径されているために、外側円筒状垂下部12の端部61から上部ケース3と下部ケース5との間への泥水の浸入を好適に防止することができ、而して、上部ケース3と下部ケース5との環状隙間9に対する泥水等の浸入を防止し得る。また、スラスト滑り軸受1によれば、外側円筒状垂下部12の端部61における環状の下面は、下部ケース5の環状下面25(本例では下面24)よりも下方に位置しているために、上部ケース3と下部ケース5との環状隙間9に対する泥水等の浸入をより確実に防止し得る。
【0028】
スラスト滑り軸受1によれば、車体側座面10、スラスト滑り軸受面51及び環状下面25が軸方向において互いに並んで配されているために、車体荷重を支える際に、環状下面25が一体的に形成されている下部ケース5等に撓みが生じやすくなる虞を低減することができる。
【0029】
スラスト滑り軸受1によれば、サスペンションコイルばねが直接的又は間接的に当接する環状下面25の部位、車体側座面10及びスラスト滑り軸受面51は、軸方向において互いに直列に配されているために、撓みが生じやすくなる虞をより低減させ得る。
【0030】
スラスト滑り軸受1によれば、下部ケース5は、前記環状上面4が形成されている円環状基部21と、円環状基部21の下部に一体的に形成されている円筒部22とを具備しており、環状下面25は、円筒部22の外周面23と円環状基部21の下面24とによって形成されており、サスペンションコイルばねが直接的又は間接的に当接する環状下面25の円環状基部21の下面24によって形成された部位、車体側座面10及びスラスト滑り軸受面51は、軸方向において互いに直列に配されているために、撓みが生じやすくなる虞をより低減させ得る。
【0031】
スラスト滑り軸受1は、例えば図5に示すように、内側円筒状垂下部13を省略してもよく、斯かる場合には、円環状基部11の内周側の部位と円筒部22の上部とからなるラビリンス構造71が形成される。図5において、環状下面25は、ばね受け部材70に直接に当接している。
【0032】
尚、下部ケース5の環状上面4には、複数の凹部又は孔部が形成されていてもよく、斯かる場合には、合成樹脂製の下部ケース5の射出成形の際における熱変化に基づく膨張、収縮等の変形を、前記複数の凹部又は孔部において局所的に生じさせ得、而して、環状下面25が一体的に形成された下部ケース5の製作精度の低下、特に下部ケース5の環状上面4の製作精度の低下を阻止することができる。複数の凹部又は孔部は、円周方向において夫々互いに等間隔をもって配されていてもよく、平面視三角形状であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 スラスト滑り軸受
2 環状下面
3 上部ケース
4 環状上面
5 下部ケース
6 スラスト滑り軸受片
10 車体側座面
11 円環状基部
12 外側円筒状垂下部
25 環状下面
51 スラスト滑り軸受面
61 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側用の車体側座面及び環状下面を有した合成樹脂製の上部ケースと、環状下面に対面する環状上面及びサスペンションコイルばね側の環状下面が一体的に形成されていると共に、上部ケースの軸心の回りで回転自在となるように当該上部ケースに重ね合わされる合成樹脂製の下部ケースと、上部ケースの環状下面及び下部ケースの環状上面間の環状隙間に配されると共に、当該環状下面及び環状上面のうちの少なくとも一方に滑動自在に当接する環状のスラスト滑り軸受面を有したスラスト滑り軸受片とを具備しており、上部ケースは、上面に車体側座面が形成されていると共に下面に環状下面が形成されている環状基部と、環状基部の外周部から下部ケース側に向かって垂下した外側円筒状垂下部とを具備しており、外側円筒状垂下部の下部ケース側の端部における内径は、軸方向において環状基部から漸次離反するに従って漸次拡径されているスラスト滑り軸受。
【請求項2】
下部ケースの外周面に対面する外側円筒状垂下部の端部における内周面の部位は、上部ケースの環状基部から離反するに従って下部ケースの外周面から漸次離反している請求項1に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項3】
外側円筒状垂下部の内周面には、下部ケースに係合する凹面形状を有している環状の係合フック部が形成されており、係合フック部は、外側円筒状垂下部の下部ケース側の端部に隣接している請求項1又は2に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項4】
外側円筒状垂下部の端部における環状の下面は、下部ケースの環状下面よりも下方に位置している請求項1から3のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項5】
四輪自動車におけるストラット型サスペンションのスラスト滑り軸受に用いるための請求項1から4のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15226(P2013−15226A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−233314(P2012−233314)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2008−109041(P2008−109041)の分割
【原出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】