説明

スラスト滑り軸受

【課題】更なる低摩擦性を発揮し得る合成樹脂製のスラスト滑り軸受を提供すること。
【解決手段】スラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース100と、合成樹脂製の下部ケース200と、上、下部ケース100及び200間に配される合成樹脂製のスラスト滑り軸受片300とを具備しており、スラスト滑り軸受片300は、上面304に内側列と外側列の二列にわたって形成された内側凹部306及び外側凹部307と、これら内側凹部306及び外側凹部307の夫々に充填された潤滑油剤とを備えており、内側凹部306と外側凹部307とは、角度θ1=6°の位相差をもって配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト滑り軸受、特に四輪自動車におけるストラット型サスペンション(マクファーソン式)の滑り軸受として組み込まれて好適な合成樹脂製の滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にストラット型サスペンションは、主として四輪自動車の前輪に用いられ、主軸と一体となった外筒の中に油圧式ショックアブソーバを内蔵したストラットアッセンブリにサスペンションコイルばねを組合せたものである。斯かるサスペンションには、ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を積極的にオフセットさせ、該ストラットに内蔵されたショックアブソーバのピストンロッドの摺動を円滑に行わせる構造と、ストラットの軸線に対してコイルばねの軸線を一致させて配置する構造のもの、とがある。いずれの構造においても、ステアリング操作によりストラットアッセンブリがコイルばねとともに回転する際、当該回転を円滑に許容するべく車体の取付部材とコイルばねの上部ばね座シートとの間に軸受が配されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平4−52488号公報
【特許文献2】実公平2−1532号公報
【特許文献3】実公平2−6263号公報
【特許文献4】実公平8−2500号公報
【特許文献5】実公平4−47445号公報
【0004】
この軸受には、ボール若しくはニードルを使用したころがり軸受又は合成樹脂製の滑り軸受が使用されている。しかしながら、ころがり軸受は、微小揺動及び振動荷重等によりボール若しくはニードルに疲労破壊を生ずる虞があり、円滑なステアリング操作を維持し難いという問題がある。合成樹脂製の滑り軸受は、ころがり軸受に比べて摩擦トルクが高く、ステアリング操作を重くするという問題がある。さらに、いずれの軸受においても、摺動面への塵埃等異物の侵入を防止するべく装着されたゴム弾性体からなるダストシールの摺動摩擦力が高いことに起因するステアリング操作を重くするという問題、とくに合成樹脂製の滑り軸受においてはステアリング操作を一層重くするという問題がある。
【0005】
上記問題点を解決するべく本出願人は、合成樹脂製の上部ケースと合成樹脂製の下部ケースと上、下部ケース間に合成樹脂製の滑り軸受片を配すると共に、上、下部ケースを弾性装着によって組み合せ、上、下部ケース間に弾性装着部と内周面側及び外周面側にラビリンス作用による密封部を形成して当該密封部により軸受摺動面への塵埃等異物の侵入を防止した合成樹脂製のスラスト滑り軸受を提案した(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5所載)。
【0006】
これを図で説明するとつぎのとおりである。図20及び図21において、合成樹脂製のスラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース10と、合成樹脂製の下部ケース20と、該上、下部ケース10、20間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片30とを具備しており、上部ケース10は、中央部に円孔11を有する上部円板状平面部12と、上部円板状平面部12の外周縁に一体に形成された円筒係合垂下部13と、円筒係合垂下部13の端部内周面に形成された係合フック部14とを備えており、下部ケース20は、挿通孔21を規定する内周面を有する円筒部22と、円筒部22の外周面に円筒部22の一部23を突出させて一体に形成された環状幅広鍔部24と、環状幅広鍔部24の外周縁に一体に形成された円筒係合突出部25と、円筒係合突出部25の下端外周面に形成された係合部26とを備えており、上部ケース10は、係合フック部14を下部ケース20の係合部26に弾性装着させて、下部ケース20に組合わされている。スラスト滑り軸受片30の上、下面の夫々には、放射状に複数個の溝27及び28が互いに円周方向に30°の位相差をもって形成されており、これらの溝27及び28はグリースなどの潤滑油剤の溜まり部となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記スラスト滑り軸受においては、摺動面間に当該摺動面を囲繞して装着されたゴム弾性体からなるダストシールに起因する摩擦抵抗力の増大という問題を解決することができ、また摺動面への塵埃等異物の侵入を極力防止して安定なかつ円滑なステアリング操作力を得ることができるものである。
【0008】
上記スラスト滑り軸受は、合成樹脂製の上部ケースと、合成樹脂製の下部ケースと、該上、下部ケース間に配された合成樹脂製のスラスト滑り軸受片との合成樹脂同士の摺動による低摩擦化と、該スラスト滑り軸受片の上、下面に形成された複数個の溝に充填されたグリース等の潤滑油剤による低摩擦化が相俟って、低摩擦性が発揮されるものであるが、近年においては、滑り軸受の更なる低摩擦性によるステアリング操作力の低減が要求されている。
【0009】
本発明者らは、上記要求を満足させるべく鋭意検討した結果、上、下部ケース間に配されるスラスト滑り軸受片の上、下面に形成されたグリース等の潤滑油剤の溜まり部となる溝の形状を変更することにより、更なる低摩擦性が発揮されることを見出した。
【0010】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その目的とするところは、更なる低摩擦性を発揮し得る合成樹脂製のスラスト滑り軸受を提供することにある。
【0011】
本発明のスラスト滑り軸受は、上側円環状平面部を有する上部ケースと、この上部ケースに当該上部ケースの軸心回りで回転自在となるように重ね合わされていると共に当該上部ケースの上側円環状平面部に対面した下側円環状平面部、この下側円環状平面部に互いに同心に形成された第一及び第二の環状突部並びに第一及び第二の環状突部に囲まれた幅広の下側環状凹所を夫々有する合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースの下側環状凹所に配されていると共に上側円環状平面部及び下側円環状平面部のうちの少なくとも一方に摺接する円環状のスラスト滑り軸受面を有する合成樹脂製のスラスト滑り軸受片とを具備しており、該スラスト滑り軸受片は、そのスラスト滑り軸受面に円周方向に沿うと共に径方向に少なくとも内側列と外側列との二列にわたって形成された複数個の内側凹部及び外側凹部と、これら複数個の内側凹部及び外側凹部の夫々に充填された潤滑油剤とを有しており、該内側凹部と外側凹部とは、互いに円周方向に位相差をもって配列されている。
【0012】
本発明のスラスト滑り軸受によれば、上、下部ケース間に配される合成樹脂製のスラスト滑り軸受のスラスト滑り軸受面に形成された内側凹部及び外側凹部は、スラスト滑り軸受の摺動方向である円周方向に沿って配列されているため、該内側凹部及び外側凹部に充填されたグリース等の潤滑油剤は、該上、下部ケースとスラスト滑り軸受片との相対回転時に常に摺動面であるスラスト滑り軸受面に繰り出される結果、相対回転時のスラスト滑り軸受面には、常時潤滑油剤が介在されるため、この潤滑剤によりスラスト滑り軸受面での更なる低摩擦性が発揮される。
【0013】
本発明のスラスト滑り軸受において、複数個の内側凹部の夫々は、軸心を中心として円弧状に伸びた内側円弧状壁面と、該内側円弧状壁面に対し径方向外方で軸心を中心として円弧状に伸びた外側円弧状壁面と、該内側円弧状壁面及び該外側円弧状壁面の夫々に連接されていると共に互いに円周方向において対面する一対の半円状壁面と、該内側円弧状壁面、該外側円弧状壁面及び該一対の半円状壁面の夫々に連接された底面とによって規定されていてもよく、また複数個の外側凹部の夫々は、軸心を中心として円弧状に伸びた内側円弧状壁面と、該内側円弧状壁面に対し径方向外方で軸心を中心として円弧状に伸びた外側円弧状壁面と、当該内側円弧状壁面及び当該外側円弧状壁面の夫々に連接されていると共に互いに円周方向において対面する一対の半円状壁面と、当該内側円弧状壁面、当該外側円弧状壁面及び当該一対の半円状壁面の夫々に連接された底面とによって規定されていてもよい。
【0014】
本発明のスラスト滑り軸受において、スラスト滑り軸受片は、円孔と、この円孔を囲んでスラスト滑り軸受面に形成された円環状凹部とを備えていてもよい。
【0015】
この円環状凹部は、グリース等の潤滑油剤の溜まり部となると共にスラスト滑り軸受片の円孔側への潤滑油剤の流出を防止できるため、スラスト滑り軸受面に常時潤滑油剤を介在できるので、この円環状凹部により更なる低摩擦性が発揮される。円環状凹部には、グリース等の潤滑油剤を予め充填してもよいが、内側凹部及び外側凹部からの潤滑油剤を収容してもよい。
【0016】
複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面とスラスト滑り軸受面とを合わせた面に占める複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面の総面積の割合又は円環状凹部の開口面と複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面とスラスト滑り軸受面とを合わせた面に占める複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面の総面積は、好ましくは、20〜50%、より好ましくは、30〜40%である。
【0017】
グリース等の潤滑油剤を保持するこれら内側凹部、外側凹部及び円環状凹部において、潤滑油剤の低摩擦性を良好に発揮させるために、複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面とスラスト滑り軸受面とを合わせた面に占める複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面の総面積の割合又は円環状凹部の開口面と複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面とスラスト滑り軸受面とを合わせた面に占める複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面の総面積が、少なくとも20%であるとよく、これが、50%を超えるとスラスト滑り軸受片の強度低下を来たし、クリープ等の塑性変形を生じやすくなる。
【0018】
好ましい例では、上側円環状平面部は、その中央部に円孔を有しており、下側円環状平面部は、その中央部に該上側円環状平面部の円孔と同心の挿通孔を有しており、上部ケースは、該上側円環状平面部の円環状下面の外周縁に一体的に形成された円筒係合垂下部と、該円筒係合垂下部の内周面に形成された環状の係合部とを備えており、第一の環状突部は、下側円環状平面部の円環状上面に一体的に形成されており、第二の環状突部は、該第一の環状突部に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて該下側円環状平面部の円環状上面の外周縁に一体的に形成されており、下側環状凹所は、該第一の環状突部の外周面と第二の環状突部の内周面と下側円環状平面部の円環状上面とで規定されており、下部ケースは、該第二の環状突部の外周面に形成された環状の係合部を更に備えており、該上部ケースは、その環状の係合部を下部ケースの環状の係合部に弾性装着させて該下部ケースに組合わされてなっている。
【0019】
斯かる例によれば、上、下部ケースは、上部ケースの環状の係合部を下部ケースの環状の係合部に弾性装着させることによって互いに組み合わされるので、その組立作業を極めて簡単に行うことができる。
【0020】
本発明のスラスト滑り軸受の他の好ましい例では、上部ケースは、上側円環状平面部の中央部の円孔の周縁から径方向外方に離れていると共に円筒係合垂下部の内周面に対して径方向内方に所定の隙間を隔てて上側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成されていると共に外周面で円筒係合垂下部の内周面と協働して上部外側環状溝を形成する第一の円筒垂下部を更に備えており、下部ケースは、第一の環状突部の外周面に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて下側円環状平面部の円環状上面に一体的に形成されていると共に外周面で第二の環状突部の内周面と協働して下部外側環状溝を形成する第三の環状突部を更に備えており、上部ケースは、上部外側環状溝に第二の環状突部を配する一方、第一の円筒垂下部を下部外側環状溝に配して第二及び第三の環状突部に径方向に重畳させて、下部ケースに組合わされてなる。
【0021】
斯かるスラスト滑り軸受によれば、上部ケースは、上部外側環状溝に第二の環状突部を配する一方、第一の円筒垂下部を下部外側環状溝に配して第二及び第三の環状突部に径方向に重畳させ、環状の係合部同士を弾性装着させて下部ケースに組合わされているので、第一の円筒垂下部と第二及び第三の環状突部との径方向の重畳部及び係合部同士の弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース間のスラスト滑り軸受面への塵埃等異物の侵入は効果的に防止される。
【0022】
本発明のスラスト滑り軸受の好ましい他の例では、上部ケースは、第一の円筒垂下部の内周面に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて上側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成されていると共に当該内周面及び上側円環状平面部の円環状下面と協働して幅広の上部環状凹所を形成する第二の円筒垂下部を更に備えており、第一の環状突部は、挿通孔に環状肩部を介して径方向外方に隣接しており、上部ケースは、第二の円筒垂下部の下端面を環状肩部の上面に隙間をもって対面させると共に第二の円筒垂下部を第一の環状突部に径方向に重畳させて、下部ケースに組合わされてなる。
【0023】
このようなスラスト滑り軸受によれば、上部ケースは、第二の円筒垂下部を下部ケースの第一の環状突部に径方向に、第一の円筒垂下部を下部外側環状溝に配して第二及び第三の環状突部に径方向に夫々重畳させ、環状の係合部同士を弾性装着させて下部ケースに組合わされているので、第二の円筒垂下部と第一の環状突部との重畳部、第一の円筒垂下部と第二及び第三の環状突部との重畳部及び係合部同士の弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成されている結果、上、下部ケース間のスラスト滑り軸受面への塵埃等異物の侵入は一層防止される。
【0024】
本発明のスラスト滑り軸受において、第二の円筒垂下部は、上側円環状平面部の中央部の円孔と同径の内周面を有していてもよいが、これに代えて、上側円環状平面部の中央部の円孔に環状肩部を介して径方向外方に隣接していてもよく、この場合、下部ケースは、外周面で第一の環状突部の内周面と協働して下部内側環状溝を形成するように、第一の環状突部に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて下側円環状平面部の環状肩部の上面に一体的に形成された第四の環状突部を更に備えており、上部ケースは、第二の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突部及び第四の環状突部に径方向に重畳させて、下部ケースに組合わされていてもよい。
【0025】
本発明の斯かるスラスト滑り軸受によれば、上部ケースは、第二の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突部及び第四の環状突部に径方向に重畳させて下部ケースに組合わされているので、第二の円筒垂下部と第一及び第四の環状突部との径方向の重畳部にラビリンス作用による密封部が更に形成される結果、上、下部ケース間、とくに内周面側からスラスト滑り軸受面への塵埃等異物の侵入は一層防止される。
【0026】
本発明のスラスト滑り軸受において、第四の環状突部は、下側円環状平面部の中央部に形成された挿通孔と同径の内周面を有していてもよいが、これに代えて、下側円環状平面部の中央部の挿通孔から径方向外方に離れて下側円環状平面部の環状肩部の上面に一体的に形成されていてもよく、この場合、上部ケースは、外周面で第二の円筒垂下部の内周面と協働して上部内側環状溝を形成するように、上側円環状平面部の中央部の円孔と同径の内周面をもって上側円環状平面部の環状肩部の下面に一体的に形成された第三の円筒垂下部を更に備えており、第三の円筒垂下部の下端面を下側円環状平面部の環状肩部の上面に隙間をもって対面させると共に第三の円筒垂下部を第四の環状突部に径方向に重畳させ、上部内側環状溝に第四の環状突部を配して、下部ケースに組合わされていてもよい。
【0027】
本発明の斯かるスラスト滑り軸受によれば、上部ケースは、第三の円筒垂下部を第四の環状突部に径方向に夫々重畳させ、上部内側環状溝に第四の環状突部を配させ、第二の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突部及び第四の環状突部に径方向に夫々重畳させて、下部ケースに組合わされているので、第二及び第三の円筒垂下部と第一の環状突部及び第四の環状突部との径方向の重畳部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース間、とくに内周面側からスラスト滑り軸受面への塵埃等異物の侵入は更に一層防止される。
【0028】
本発明において、下部ケースは、下側円環状平面部の円環状下面に中央部の挿通孔と同径の内周面を有して一体的に形成された円筒部を備えていてもよい。
【0029】
下部ケースの下側円環状平面部の円環状下面に該挿通孔と同径の内周面をもって一体的に形成された円筒部を備えたスラスト滑り軸受によれば、当該スラスト滑り軸受の取付部材に形成された取付孔に円筒部を挿入することにより取付作業を極めて簡単に行うことができる。
【0030】
本発明のスラスト滑り軸受において、上部ケースは、上側円環状平面部の中央部の円孔と同径の内周面をもって上側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成された円筒部を更に備えていてもよく、この場合、下部ケースは、挿通孔と同径の内周面をもって下側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成された円筒部を更に備えており、上部ケースは、その円筒部の外周面を下部ケースの円筒部の内周面に摺接させて下部ケースに組合わされていてもよい。
【0031】
本発明の斯かるスラスト滑り軸受によれば、スラスト荷重下での摺動を円滑に許容する上に、上部ケースの円筒部の外周面と下部ケースの円筒部の内周面との間で形成されるラジアル軸受部における合成樹脂同士の摺動によって、ラジアル荷重下での摺動をも円滑に許容することができる。
【0032】
本発明のスラスト滑り軸受では、上側円環状平面部は、中央部の円孔の外周縁から径方向外方に所定の幅をもった円形帯状平面と、該円形帯状平面の外周縁から円筒係合垂下部の円筒状の外周面にかけて下り勾配の截頭円錐面とを有した円環状上面を具備していてもよく、また、上側円環状平面部は、中央部の円孔の外周縁から径方向外方に所定の幅をもった円形帯状平面から軸方向上方に一体的に突出した円形帯状突出部を更に具備していてもよい。
【0033】
上記態様のスラスト滑り軸受によれば、車体側取付部材に傾き等の変動荷重が作用した場合に、少なくとも円筒係合垂下部の係合部と円筒係合突出部の係合部との弾性装着部の干渉をより確実に回避することができる。
【0034】
本発明において、上部ケース及び下部ケースを形成する合成樹脂には、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適であり、またスラスト滑り軸受片を形成する合成樹脂には、上部ケース及び下部ケースを形成する熱可塑性合成樹脂との摺動特性が良好なポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性合成樹脂が使用されて好適である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、円環状のスラスト滑り軸受面に形成された内側凹部及び外側凹部は、スラスト滑り軸受の摺動方向である円周方向に沿って配列されているため、該内側凹部及び外側凹部に充填されたグリース等の潤滑油剤は、該上、下部ケースとスラスト滑り軸受片との相対摺動時に常に円環状のスラスト滑り軸受面に繰り出され、摺動時の円環状のスラスト滑り軸受面には、常時潤滑油剤が介在されるため、更なる低摩擦性が発揮されるスラスト滑り軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施の形態の例の断面説明図である。
【図2】図2は、図1の例におけるスラスト滑り軸受片の平面説明図である。
【図3】図3は、図1の例のスラスト滑り軸受片の図2に示すIII−III線矢視断面説明図である。
【図4】図4は、図1の例におけるスラスト滑り軸受片の背面説明図である。
【図5】図5は、図1の例におけるスラスト滑り軸受片の一部拡大平面説明図である。
【図6】図6は、図1の例のスラスト滑り軸受片の図2に示すVI−VI線矢視断面説明図である。
【図7】図7は、図1の例のスラスト滑り軸受片の図2に示すVII−VII線矢視断面説明図である。
【図8】図8は、本発明の好ましい他の例の断面説明図である。
【図9】図9は、図8に示す例のスラスト滑り軸受をストラット型サスペンションに組込んだ例の断面説明図である。
【図10】図10は、本発明の好ましい更に他の例の断面説明図である。
【図11】図11は、図10に示す例の平面説明図である。
【図12】図12は、本発明の好ましい更に他の例の断面説明図である。
【図13】図13は、本発明の好ましい更に他の例の断面説明図である。
【図14】図14は、本発明の好ましい更に他の例の断面説明図である。
【図15】図15は、図10に示す例のスラスト滑り軸受をストラット型サスペンションに組込んだ例の断面説明図である。
【図16】図16は、本発明の好ましい更に他の例の断面説明図である。
【図17】図17は、図1の例におけるスラスト滑り軸受片の好ましい他の例の平面図である。
【図18】図18は、図17に示す例のスラスト滑り軸受片のXVIII−XVIII線断面説明図である。
【図19】図19は、図17に示すスラスト滑り軸受の一部拡大平面説明図である。
【図20】図20は、従来の合成樹脂製のスラスト滑り軸受の断面説明図である。
【図21】図21は、図20に示すスラスト滑り軸受に使用されるスラスト滑り軸受片の平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されないのである。
【0038】
図1から図7において、本例の第一の実施の形態のスラスト滑り軸受1は、合成樹脂製の上部ケース100と、合成樹脂製の下部ケース200と、上、下部ケース100及び200間に配される合成樹脂製のスラスト滑り軸受片300とを具備している。
【0039】
上部ケース100は、中央部に円孔101を有する上側円環状平面部102と、上側円環状平面部102の円環状下面103の外周縁に一体的に形成された円筒係合垂下部104と、円筒係合垂下部104の内周面105の端部に形成された環状の係合部106とを備えている。
【0040】
上部ケース100に当該上部ケース100の軸心O回りで円周方向Rに回転自在となるように重ね合わされている下部ケース200は、上部ケース100の上側円環状平面部102に対面していると共に中央部に上部ケース100の円孔101と同径であって同心の挿通孔201を有する下側円環状平面部202と、挿通孔201と同径の内周面を有して下側円環状平面部202の円環状上面203に一体的に形成された環状突部204と、環状突部204に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて下側円環状平面部202の円環状上面203の外周縁に環状突部204と同心に一体的に形成されていると共にその内周面209で環状突部204の外周面208及び下側円環状平面部202の円環状上面203と協働して幅広の下側環状凹所205を形成する環状突部206と、環状突部206の下端の外周面に形成された環状の係合部207とを備えており、環状突部204及び206に囲まれた下側環状凹所205は、環状突部204の外周面208と環状突部206の内周面209と下側円環状平面部202の円環状上面203とで規定されている。
【0041】
スラスト滑り軸受片300は、下部ケース200の環状突部204の外周面208の径よりも大きい径をもった内周面301で規定された円孔302と、下部ケース200の環状突部206の内周面の径よりも小さい径をもった外周面303と、円環状のスラスト滑り軸受面としての円環状の上面304と、円環状の下面305とを備えており、内周面301と環状突部204の外周面208との間及び外周面303と環状突部206の内周面209との間の夫々に環状隙間を保持して幅広の下側環状凹所205に配されていると共に上面304を下側環状凹所205の開口面210より突出させて上側円環状平面部102の円環状下面103に摺接させ、下面305を下側環状凹所205の底面211を規定する円環状上面203に摺接させて上、下部ケース100及び200間に配されている。
【0042】
スラスト滑り軸受片300は、図2から図7に特に示すように、その上面304に円周方向Rに沿うと共に径方向Xにおいて内側列と外側列の二列にわたって形成された複数個の内側凹部306及び外側凹部307と、これら複数個の内側凹部306及び外側凹部307の夫々に充填された潤滑油剤とを更に備えており、内側凹部306と外側凹部307とは、互いに円周方向Rに所定の角度θ1、本例では角度θ1=6°の位相差をもって配列されている。
【0043】
内側列に位置する複数個の内側凹部306の夫々は、軸心Oを中心として円周方向Rに円弧状に伸びた内側円弧状壁面308と、内側円弧状壁面308に対し径方向外方で軸心Oを中心として円周方向Rに円弧状に伸びた外側円弧状壁面309と、内側円弧状壁面308及び外側円弧状壁面309の夫々に連接されていると共に互いに円周方向Rにおいて対面する一対の半円状壁面310と、内側円弧状壁308、外側円弧状壁面309及び一対の半円状壁面310に連接された底面311とによって規定されている。
【0044】
外側列に位置する複数個の外側凹部307の夫々は、軸心Oを中心として円周方向Rに円弧状に伸びた内側円弧状壁面312と、内側円弧状壁面312に対し径方向外方で軸心Oを中心として円周方向Rに円弧状に伸びた外側円弧状壁面313と、内側円弧状壁面312及び外側円弧状壁面313の夫々に連接されていると共に互いに円周方向Rにおいて対面する一対の半円状壁面314と、内側円弧状壁面312、外側円弧状壁面313及び一対の半円状壁面314の夫々に連接された底面315とによって規定されている。
【0045】
スラスト滑り軸受片300の円環状の上面304に円周方向Rに沿うと共に径方向Xに内側列と外側列の二列にわたって形成された複数個の内側凹部306及び外側凹部307は、内側凹部306及び外側凹部307の開口面330とスラスト滑り軸受面であるスラスト滑り軸受片300の円環状の上面304との総面積に占める内側凹部306及び外側凹部307の開口面330の総面積の割合が20〜50%、好ましくは30〜40%となるように、図2の例では、30%となるように形成されている。
【0046】
そして、上部ケース100は、円筒係合垂下部104の端部の内周面に形成された環状の係合部106を下部ケース200の環状突部206の下端の外周面に形成された環状の係合部207に弾性装着させて下部ケース200に組合わされている。
【0047】
このように形成されたスラスト滑り軸受1では、スラスト滑り軸受片300の円環状の上面304に内側凹部306及び外側凹部307を形成することにより、スラスト滑り軸受片300の上面304と上部ケース100の上側円環状平面部102の円環状下面103との軸心O回りでの円周方向Rの相対回転において、スラスト滑り軸受面であって摺動面となる円環状の上面304と相手材、すなわち上部ケース100の上側円環状平面部102の円環状下面103との接触面積を減少させて、円環状の上面304に作用する面圧(単位面積当たりの荷重)を高めることにより、合成樹脂同士の摩擦による低摩擦化と内側凹部306及び外側凹部307に充填された潤滑油剤の摺動面への介在による低摩擦化とが相俟って一層の低摩擦化を図ることができる。
【0048】
スラスト滑り軸受1は、図8に示すように、下部ケース200の下側円環状平面部202の円環状下面212に、該挿通孔201と同径の内周面を有して一体形成された円筒部213を更に具備していてもよい。
【0049】
下部ケース200の円環状下面212に円筒部213を具備したスラスト滑り軸受1によれば、図9に示すようなストラット型サスペンションにおけるコイルばね40の上部ばね座シート41と、油圧ダンパのピストンロッド42が固着される取付部材43との間へのその取り付け作業が容易となる。
【0050】
この場合、スラスト滑り軸受1の上部ケース100の円孔101及び下部ケース200の挿通孔201にピストンロッド42の上部が上部ケース100及び下部ケース200に対して軸心O回りで円周方向Rに回転自在となるようにして挿通される。
【0051】
図9に示すようなスラスト滑り軸受1を介して装着されたストラット型サスペンションでは、ステアリング操作に際してはコイルばね40を介する上部ばね座シート41の軸心O回りでの相対的な円周方向Rの回転は、上部ケース100に対する下部ケース200の同方向の相対的な回転で円滑に行われる。
【0052】
また、スラスト滑り軸受1は、図10に示すように、上側円環状平面部102の中央部の円孔101の周縁から径方向外方に離れると共に円筒係合垂下部104の内周面105に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて円環状下面103に一体的に形成されていると共に外周面107で円筒係合垂下部104の内周面105と協働して上部外側環状溝108を形成する円筒垂下部109を更に備えている上部ケース100と、環状突部204の外周面208に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて下側円環状平面部202の円環状上面203に一体的に形成されていると共に外周面214で環状突部206の内周面215と協働して下部外側環状溝216を形成する環状突部217を更に備えている下部ケース200とを具備していてもよい。
【0053】
斯かる上部ケース100と下部ケース200とにおいて、上部ケース100は、上部外側環状溝108に環状突部206を配する一方、円筒垂下部109を下部外側環状溝216に配して環状突部217及び環状突部206に径方向に重畳させて、円筒係合垂下部104の端部の内周面に形成された環状の係合部106を下部ケース200の環状突部206の外周面に形成された環状の係合部207に弾性装着させて下部ケース200に組合わされている。
【0054】
図10に示すスラスト滑り軸受1においても、円環状の上面304及び下面305を備えているスラスト滑り軸受片300は、環状突部204の外周面208の径よりも大きい径をもった内周面301を有する一方、環状突部217の内周面218の径よりも小さい径をもった外周面303を有すると共に内周面301と環状突部204の外周面208との間に環状隙間を保持する一方、外周面303と環状突部217の内周面218との間に環状隙間を保持して幅広の下側環状凹所205に配されていると共に上面304を下側環状凹所205の開口面210より突出させて上側円環状平面部102の円環状下面103に摺接させ、下面305を幅広の下側環状凹所205の底面211を規定する円環状上面203に摺接させて上、下部ケース100及び200間に配されている。
【0055】
図10に示すスラスト滑り軸受1によれば、上部ケース100は、円筒垂下部109を下部外側環状溝216に配して環状突部217及び環状突部206に対して径方向に重畳させ、係合部106及び207同士を弾性装着させて下部ケース200に組合わされているので、円筒垂下部109と環状突部217及び環状突部206との径方向の重畳部及び係合部106及び207同士の弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース100及び200間の摺動面への塵埃等異物の侵入は防止される。
【0056】
更に、スラスト滑り軸受1は、図12に示すように、上側円環状平面部102の中央部の円孔101と同径の内周面を有すると共に円筒垂下部109の内周面110に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて上側円環状平面部102の円環状下面103に一体的に形成されていると共に内周面110及び上側円環状平面部102の円環状下面103と協働して幅広の上側環状凹所111を形成する円筒垂下部112を更に備えている上部ケース100を具備している一方、環状突部204が挿通孔201に環状肩部219を介して径方向外方に隣接するようになっていてもよい。
【0057】
図12に示すスラスト滑り軸受1において、上部ケース100は、円筒垂下部112の下端面を環状肩部219の上面に隙間をもって対面させると共に円筒垂下部112を環状突部204に径方向に重畳させ、環状の係合部106及び207同士を弾性装着させて下部ケース200に組合わされている。
【0058】
図12に示すスラスト滑り軸受1によれば、上部ケース100は、円筒垂下部112を環状突部204に径方向に重畳させ、円筒垂下部109を下部外側環状溝216に配して環状突部217及び環状突部206に径方向に重畳させ、係合部106及び207同士を弾性装着させて下部ケース200に組合わされているので、円筒垂下部112と環状突部204との重畳部、円筒垂下部109と環状突部217及び環状突部206との径方向の重畳部及び係合部106及び207同士の弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース100及び200間の摺動面への塵埃等異物の侵入は防止される。
【0059】
また、スラスト滑り軸受1は、図13に示すように外周面115で円筒垂下部109の内周面110と上側円環状平面部102の円環状下面103と協働して幅広の上側環状凹所111を形成する円筒垂下部112が、上側円環状平面部102の中央部の円孔101に環状肩部114を介して径方向外方に隣接している一方、下部ケース200が、下側円環状平面部202の中央部に形成された挿通孔201と同径の内周面をもっていると共に外周面220で環状突部204の内周面215と協働して下部内側環状溝221を形成するように、環状突部204に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて下側円環状平面部202の円環状上面203に一体的に形成された環状突部222を更に備えて、形成されていてもよい。
【0060】
図13に示すスラスト滑り軸受1において、上部ケース100は、環状肩部114の下面を環状突部222の上端面に隙間をもって対面させると共に円筒垂下部112を下部内側環状溝221に配して環状突部204及び環状突部222に径方向に重畳させ、円筒垂下部109を下部外側環状溝216に配して環状突部217及び環状突部206に径方向に夫々重畳させ、環状の係合部106及び207同士を弾性装着させて下部ケース200に組合わされている。
【0061】
図13に示すスラスト滑り軸受1によれば、上部ケース100は、円筒垂下部112を下部内側環状溝221に配して環状突部204及び環状突部222に径方向に重畳させ、円筒垂下部109を下部外側環状溝216に配して環状突部217及び環状突部206と径方向に夫々重畳させ、環状の係合部106及び207同士を弾性装着させて下部ケース200に組合わされているので、円筒垂下部112と環状突部204及び環状突部222との径方向の重畳部、円筒垂下部109と環状突部217及び環状突部206との径方向の重畳部及び係合部106及び207同士の弾性装着部にラビリンス作用による密封部が形成される結果、上、下部ケース100及び200間、とくに内周側から摺動面としての上面304への塵埃等異物の侵入は一層防止される。
【0062】
また、スラスト滑り軸受1は、図14に示すように、上部ケース100が、外周面118で円筒垂下部112の内周面117と協働して上部内側環状溝119を形成するように、上側円環状平面部102の中央部の円孔101と同径の内周面をもって上側円環状平面部102の環状肩部114の下面に一体的に形成された円筒垂下部116を更に備えており、環状突部222が、下側円環状平面部102の中央部の挿通孔201から径方向外方に離れて下側円環状平面部202の環状肩部219の上面に一体的に形成されている。
【0063】
図14に示すスラスト滑り軸受1において、上部ケース100は、円筒垂下部116の下端面を下側円環状平面部202の環状肩部219の上面に隙間をもって対面させると共に円筒垂下部116を環状突部222に径方向に夫々重畳させ、上部内側環状溝119に環状突部222を配して環状突部222を円筒垂下部116及び円筒垂下部112に径方向に夫々重畳させ、円筒垂下部112を下部内側環状溝221に配して環状突部204及び環状突部222に径方向に夫々重畳させ、円筒垂下部109を下部外側環状溝216に配して環状突部217及び環状突部206に径方向に夫々重畳させ、環状の係合部106及び207同士を弾性装着させて下部ケース200に組合わされている。
【0064】
図14に示すスラスト滑り軸受1によれば、上部ケース100は、円筒垂下部116を環状突部222と径方向に夫々重畳させ、上部内側環状溝119に環状突部222を配させ、円筒垂下部112を下部内側環状溝221に配して環状突部204及び環状突部222に径方向に夫々重畳させ、円筒垂下部109を下部外側環状溝216に配して環状突部217及び環状突部206に径方向に夫々重畳させ、環状の係合部106及び207同士を弾性装着させて下部ケース200に組合わされているので、円筒垂下部116と環状突部222との径方向の重畳部、円筒垂下部112と環状突部222及び環状突部204との径方向の重畳部、円筒垂下部109と環状突部217及び環状突部206との径方向の重畳部及び係合部106及び207同士の弾性装着部にラビリンス作用による密封部が夫々形成される結果、上、下部ケース100及び200間の摺動面への塵埃等異物の侵入は一層防止される。
【0065】
スラスト滑り軸受1は更に、図16に示すように、中央部に円孔101を有する上側円環状平面部102、上側円環状平面部102の円環状下面103に円孔101と同径の内周面をもって一体的に形成された円筒部120、円筒部120の外周面121に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて円環状下面103の外周縁に一体的に形成された円筒係合垂下部104、円筒係合垂下部104の内周面105の端部に一体的に形成された環状の係合部106、円筒部120の下端部から下方に一体的に突出する環状突部122、及び環状突部122と協働して環状凹部123を形成するように円筒部120の下端部から下方に一体的に突出すると共に外面にテーパ面124を有して下方に向かって先細りとなる環状突部125を備えた上部ケース100と、中央部に挿通孔201を有する下側円環状平面部202、挿通孔201と同径の内周面226をもって下側円環状平面部202の円環状下面212に一体的に形成された円筒部223、下側円環状平面部202の円環状上面203に一体的に形成された環状突部204、環状突部204の外周面208に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて円環状上面203の外周縁に一体的に形成された環状突部206と、環状突部206の外周面の下端に形成された環状の係合部207、円筒部223の内周面226の下端に径方向内方に伸びる環状突部227、環状突部227に形成された環状凹部228を備えた下部ケース200とを具備しており、円筒部120の外周面121を円筒部223の内周面226に摺接させ、係合部106を係合部207に弾性装着させると共に環状突部125を環状凹部228に配して、上部ケース100が下部ケースに組合わされるようになっていてもよい。
【0066】
図16に示すスラスト滑り軸受1においても、スラスト滑り軸受片300は、図1に示すスラスト滑り軸受片300と同様であって、環状突部204の外周面208の径よりも大きい径をもった内周面301で規定された円孔302を有し、環状突部206の径よりも小さい径をもった外周面303を有すると共に円環状の上面304及び下面305を備えており、内周面301と環状突部204の外周面208との間及び外周面303と環状突部206の内周面209との間の夫々に環状隙間を保持し、間幅広の下側環状凹所205に配されていると共に上面304を下側環状凹所205の開口面210より上方に位置させて上側円環状平面部102の円環状下面103に摺接させ、下面305を下側環状凹所205の底面211を規定する円環状上面203に摺接させて上、下部ケース100及び200間に配されている。
【0067】
図16に示すスラスト滑り軸受1によれば、上記した各例と同様に、スラスト荷重下での上部ケース100と下部ケース200との間の円周方向Rの相対回転を円滑に許容してステアリング操作を円滑に行わせることができる上に、上部ケース100の円筒部120の外周面121と下部ケース200の円筒部223の内周面226との間で形成されるラジアル軸受部における合成樹脂同士の摺動によって、ラジアル荷重下での上部ケース100と下部ケース200との間での円周方向Rの相対回転を円滑に許容することができる。
【0068】
上記の各スラスト滑り軸受1において、上部ケース100の上部円環状平面部102は、図10及び図11に示すように、円孔101の外周縁から径方向外方に所定の幅をもった環状の円形帯状平面127と、円形帯状平面127の外周縁から円筒係合垂下部104の円筒状の外周面128にかけて下り勾配の截頭円錐面129とを有した円環状上面126を具備していてもよく、また図13及び図14に示すように、円形帯状平面127に円形帯状平面127から軸方向上方に突出して一体的に形成された円形帯状突出部130と、円形帯状平面127の外周縁から外周面128にかけて下り勾配の截頭円錐面129とを具備していてもよい。
【0069】
図15に示すように、環状の円形帯状平面127と截頭円錐面129とからなる円環状上面126を有する上部ケース100を具備していると共にストラット型サスペンションに組込んだスラスト滑り軸受1は、環状の円形帯状平面127においてのみ車体側取付部材43の下面44と接触する一方、その他の部位では車体側取付部材43の下面44とは空間Sを保持して、車体側取付部材43の下面44と当該下面44に相対面した上部ばね座シート41の上面45との間に配置されるので、車体側取付部材43に傾き等の変動荷重が作用した場合でも、円筒垂下部109と環状突部217及び環状突部206との径方向の重畳部並びに係合部106と係合部207との弾性装着部とが干渉することがないので、これら重畳部及び弾性装着部に変形、損傷、折損等の不具合を回避し得る。
【0070】
上部ケース100と下部ケース200との間に配されるスラスト滑り軸受片300は、図17ないし図19に示すように、上面304及び下面305のうちの少なくとも一方、本例ではスラスト滑り軸受面としての上面304及び下面305の両面に、円孔302を囲んで形成された円環状の凹部316と、上面304及び下面305に円周方向Rに沿うと共に径方向Xにおいて内側列と中間列と外側列との三列にわたって形成された複数個の内側凹部306、中間凹部317及び外側凹部307と、これら凹部316、内側凹部306、中間凹部317及び外側凹部307の夫々に充填された潤滑剤とを備えており、内側凹部306と中間凹部317と外側凹部307とは、夫々互いに円周方向に所定の角度θ2、本例では角度θ2=4°の位相差をもって形成されている。
【0071】
内側列に位置する複数個の内側凹部306に対して径方向外方に所定の間隔を隔てると共に外側列に位置する複数個の外側凹部307に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて円周方向Rに沿って配列された中間列の複数個の中間凹部317の夫々は、軸心Oを中心として円周方向Rに円弧状に伸びた内側円弧状内壁面318と、内側円弧状壁面318に対して径方向外方で軸心Oを中心として円周方向Rに円弧状に伸びた外側円弧状壁面319と、内側円弧状壁面318及び外側円弧状壁面319の夫々に連接されていると共に互いに円周方向Rにおいて対面する一対の半円状壁面320と内側円弧状内壁面318、外側円弧状壁面319及び半円状壁面320に連接された底面321とによって規定されている。
【0072】
スラスト滑り軸受片300の円環状の上面304に円周方向Rに沿うと共に径方向Xに内側列と中間列と外側列との三列にわたって形成された複数個の内側凹部306、中間凹部317、外側凹部307及び凹部316は、内側凹部306及び外側凹部307の開口面330、中間凹部317の開口面331及び凹部316の開口面332と上面304との総面積に占める開口面330、331及び332の総面積の割合は、20〜50%、好ましくは30〜40%となるように、図17の例では、40%となるように形成されており、スラスト滑り軸受片300の円環状の下面305においても、複数個の内側凹部306、中間凹部317、外側凹部307及び円環状の凹部316は、同様に形成されている。
【0073】
図17ないし図19に示すスラスト滑り軸受片300を具備したスラスト滑り軸受1では、スラスト滑り軸受片300の円環状の上面304及び下面305に内側凹部306、中間凹部317及び外側凹部307並びに円環状の凹部316を形成することにより、摺動面となる例えば円環状の上面304と相手材、すなわち上部ケース100の上側円環状平面部102の円環状下面103との接触面積を減少させて、円環状の上面304に作用する面圧(単位面積当たりの荷重)を高めることによる合成樹脂同士の摩擦による低摩擦化と、内側凹部306、中間凹部317、外側凹部307及び凹部316に充填された潤滑油剤の摺動面への介在による低摩擦化とが相俟って一層の低摩擦化を図ることができる。
【0074】
図10及び図12から図14に示す例のスラスト滑り軸受1においても、図8に示す例のスラスト滑り軸受1と同様に、下部ケース200の下側円環状平面部202の円環状下面212に円筒部213を一体的に形成してもよい。
【0075】
以上のように、本発明のスラスト滑り軸受1では、上、下部ケース100及び200間に配されるスラスト滑り軸受片300の円環状の上面304及び下面305のうちの少なくとも一方の面に少なくとも径方向Xにおいて離間した内側列と外側列との二列にわたって複数個の内側凹部306及び外側凹部307が円周方向に位相差をもって摺動方向である円周方向Rに沿って配列されて形成されているため、内側凹部306及び外側凹部307に充填されたグリース等の潤滑油剤は、該上部ケース100、下部ケース200とスラスト滑り軸受片300との円周方向Rの相対摺動時に常に摺動面に繰り出される結果、摺動時の摺動面に常時潤滑油剤が介在されることによる低摩擦性と、スラスト滑り軸受片300の摺動面としての上面304及び305のうちの少なくとも一方の相手材に対する接触面積の減少による合成樹脂同士の摺動における低摩擦化とが相俟って、一層の低摩擦性を発揮できるスラスト滑り軸受を得ることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 スラスト滑り軸受
100 上部ケース
200 下部ケース
300 スラスト滑り軸受片
101 円孔
102 円環状平面部
103 円環状下面
104 円筒係合垂下部
106 係合部
201 挿通孔
202 円環状平面部
203 円環状上面
204、206 環状突部
205 環状凹所
207 係合部
302 円孔
304 上面
305 下面
306 内側凹部
307 外側凹部
308 内側円弧状壁面
309 外側円弧状壁面
310 半円状壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側円環状平面部を有する上部ケースと、この上部ケースに当該上部ケースの軸心回りで回転自在となるように重ね合わされていると共に当該上部ケースの上側円環状平面部に対面した下側円環状平面部、この下側円環状平面部に互いに同心に形成された第一及び第二の環状突部並びに第一及び第二の環状突部に囲まれた幅広の下側環状凹所を夫々有する合成樹脂製の下部ケースと、この下部ケースの下側環状凹所に配されていると共に上側円環状平面部及び下側円環状平面部のうちの少なくとも一方に摺接する円環状のスラスト滑り軸受面を有する合成樹脂製のスラスト滑り軸受片とを具備しており、該スラスト滑り軸受片は、そのスラスト滑り軸受面に円周方向に沿うと共に径方向に少なくとも内側列と外側列との二列にわたって形成された複数個の内側凹部及び外側凹部と、これら複数個の内側凹部及び外側凹部の夫々に充填された潤滑油剤とを有しており、該内側凹部と外側凹部とは、互いに円周方向に位相差をもって配列されていることを特徴とするスラスト滑り軸受。
【請求項2】
複数個の内側凹部の夫々は、軸心を中心として円弧状に伸びた内側円弧状壁面と、該内側円弧状壁面に対し径方向外方で軸心を中心として円弧状に伸びた外側円弧状壁面と、該内側円弧状壁面及び該外側円弧状壁面の夫々に連接されていると共に互いに円周方向において対面する一対の半円状壁面と、該内側円弧状壁面、該外側円弧状壁面及び該一対の半円状壁面の夫々に連接された底面とによって規定されている請求項1に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項3】
複数個の外側凹部の夫々は、軸心を中心として円弧状に伸びた内側円弧状壁面と、該内側円弧状壁面に対し径方向外方で軸心を中心として円弧状に伸びた外側円弧状壁面と、当該内側円弧状壁面及び当該外側円弧状壁面の夫々に連接されていると共に互いに円周方向において対面する一対の半円状壁面と、当該内側円弧状壁面、当該外側円弧状壁面及び当該一対の半円状壁面の夫々に連接された底面とによって規定されている請求項1又は2に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項4】
複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面とスラスト滑り軸受面とを合わせた面に占める複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面の総面積の割合は、20〜50%である請求項1から3のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項5】
スラスト滑り軸受片は、円孔と、この円孔を囲んでスラスト滑り軸受面に形成された円環状凹部とを備えている請求項1から4のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項6】
円環状凹部の開口面と複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面とスラスト滑り軸受面とを合わせた面に占める複数個の内側凹部及び外側凹部の開口面の総面積は、20〜50%である請求項5に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項7】
上側円環状平面部は、その中央部に円孔を有しており、下側円環状平面部は、その中央部に該上側円環状平面部の円孔と同心の挿通孔を有しており、上部ケースは、該上側円環状平面部の円環状下面の外周縁に一体的に形成された円筒係合垂下部と、該円筒係合垂下部の内周面に形成された環状の係合部とを備えており、第一の環状突部は、下側円環状平面部の円環状上面に一体的に形成されており、第二の環状突部は、該第一の環状突部に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて該下側円環状平面部の円環状上面の外周縁に一体的に形成されており、下側環状凹所は、該第一の環状突部の外周面と第二の環状突部の内周面と下側円環状平面部の円環状上面とで規定されており、下部ケースは、該第二の環状突部の外周面に形成された環状の係合部を更に備えており、該上部ケースは、その環状の係合部を下部ケースの環状の係合部に弾性装着させて該下部ケースに組合わされてなる請求項1から6のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項8】
上部ケースは、上側円環状平面部の中央部の円孔の周縁から径方向外方に離れていると共に円筒係合垂下部の内周面に対して径方向内方に所定の隙間を隔てて上側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成されていると共に外周面で円筒係合垂下部の内周面と協働して上部外側環状溝を形成する第一の円筒垂下部を更に備えており、下部ケースは、第一の環状突部の外周面に対して径方向外方に所定の間隔を隔てて下側円環状平面部の円環状上面に一体的に形成されていると共に外周面で第二の環状突部の内周面と協働して下部外側環状溝を形成する第三の環状突部を更に備えており、上部ケースは、上部外側環状溝に第二の環状突部を配する一方、第一の円筒垂下部を下部外側環状溝に配して第二及び第三の環状突部に径方向に重畳させて、下部ケースに組合わされてなる請求項7に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項9】
上部ケースは、第一の円筒垂下部の内周面に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて上側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成されていると共に当該内周面及び上側円環状平面部の円環状下面と協働して幅広の上部環状凹所を形成する第二の円筒垂下部を更に備えており、第一の環状突部は、挿通孔に環状肩部を介して径方向外方に隣接しており、上部ケースは、第二の円筒垂下部の下端面を環状肩部の上面に隙間をもって対面させると共に第二の円筒垂下部を第一の環状突部に径方向に重畳させて、下部ケースに組合わされてなる請求項8に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項10】
第二の円筒垂下部は、上側円環状平面部の中央部の円孔と同径の内周面を有している請求項9に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項11】
第二の円筒垂下部は、上側円環状平面部の中央部の円孔に環状肩部を介して径方向外方に隣接しており、下部ケースは、外周面で第一の環状突部の内周面と協働して下部内側環状溝を形成するように、第一の環状突部に対して径方向内方に所定の間隔を隔てて下側円環状平面部の環状肩部の上面に一体的に形成された第四の環状突部を更に備えており、上部ケースは、第二の円筒垂下部を下部内側環状溝に配して第一の環状突部及び第四の環状突部に径方向に重畳させて、下部ケースに組合わされてなる請求項9に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項12】
第四の環状突部は、下側円環状平面部の中央部に形成された挿通孔と同径の内周面を有している請求項11に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項13】
上部ケースは、外周面で第二の円筒垂下部の内周面と協働して上部内側環状溝を形成するように、上側円環状平面部の中央部の円孔と同径の内周面をもって上側円環状平面部の環状肩部の下面に一体的に形成された第三の円筒垂下部を更に備えており、第四の環状突部は、下側円環状平面部の中央部の挿通孔から径方向外方に離れて下側円環状平面部の環状肩部の上面に一体的に形成されており、上部ケースは、第三の円筒垂下部の下端面を下側円環状平面部の環状肩部の上面に隙間をもって対面させると共に第三の円筒垂下部を第四の環状突部に径方向に重畳させ、上部内側環状溝に第四の環状突部を配して、下部ケースに組合わされてなる請求項11に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項14】
下部ケースは、下側円環状平面部の円環状下面に中央部の挿通孔と同径の内周面を有して一体的に形成された円筒部を更に具備している請求項7から13のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項15】
上部ケースは、上側円環状平面部の中央部の円孔と同径の内周面をもって上側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成された円筒部を更に備えており、下部ケースは、挿通孔と同径の内周面をもって下側円環状平面部の円環状下面に一体的に形成された円筒部を更に備えており、上部ケースは、その円筒部の外周面を下部ケースの円筒部の内周面に摺接させて下部ケースに組合わされてなる請求項7に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項16】
上側円環状平面部は、中央部の円孔の外周縁から径方向外方に所定の幅をもった円形帯状平面と、該円形帯状平面の外周縁から円筒係合垂下部の円筒状の外周面にかけて下り勾配の截頭円錐面とを有した円環状上面を具備している請求項7から15のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。
【請求項17】
上側円環状平面部は、中央部の円孔の外周縁から径方向外方に所定の幅をもった円形帯状平面から軸方向上方に一体的に突出した円形帯状突出部を更に具備している請求項7から16のいずれか一項に記載のスラスト滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−2603(P2013−2603A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136827(P2011−136827)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】