説明

スラッシュ成形品の製造方法

【目的】 粉末の製造が容易で、スラッシュ成形をした場合に造膜性、離形性が優れたアイオノマー組成物を提供し、それを用いてスラッシュ成形により、耐スクラッチ性、耐熱変形性等が優れ、自動車内装用の表皮材としてポリ塩化ビニルに代替使用し得る成形品を製造する。
【構成】 不飽和カルボン酸重合単位の少なくとも5モル%以上が金属イオンにより中和されているエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー100重量部、ポリエステルエラストマー及び/又はポリアミドエラストマー1〜80重量部、及びポリオキシエチレングリコール系化合物1〜20重量部とからなり、メルトフローレートが1〜100g/10分(190℃,2160g荷重)、平均粒子径が1〜500μmである樹脂組成物粉末を用いスラッシュ成形することを特徴とする成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、柔軟性、耐スクラッチ性、耐熱変形性、外観の優れた成形品をスラッシュ成形により、操作性よく製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリ塩化ビニルは、柔軟で触感が優れており、また成形性やしぼ転写性が良好で美観に優れた製品を容易に製造できるところから、各種成形品の表皮材として広く使用されている。しかしながら、廃材の焼却時における腐触性ガスの発生や比重が比較的大きく、製品重量が重いという問題点があり、ポリオレフィン系への材料転換が求められている状況にある。このうち、とくに耐スクラッチ性が要求される分野においては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー、またさらに柔軟性が要求される分野においては、不飽和カルボン酸エステルを共重合成分として含有するアイオノマーによる代替が考えられる。ところがこのような代替において、成形上あるいは物性上において、いくつかの解決すべき課題があり、それを乗り越えることは容易なことではなかった。
【0003】例えば、前記表皮材の製造において、自動車内装材用に見られるようにスラッシュ成形が採用されることがあったが、アイオノマーに直接この成形方法を適用することは事実上できなかった。すなわち最も大きい問題は、表皮材用のスラッシュ成形用金型には、装飾目的のため、微少なしぼが多数設けられているが、アイオノマーが金属との接着性に優れるため、成形後にしぼ付の金型から成形品を離脱することができないことであった。また夏期の自動車内部の温度上昇に対しアイオノマーのみの表皮では耐熱性が不足し、外力によって表面が変形するおそがあった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明者らは、アイオノマーに添加剤や他の重合体を配合することによって、この欠点を改善する検討を開始した。しかし添加剤を配合する場合、多くの課題が存在する。すなわち、一般にアイオノマーは粉砕による微粉化が容易でないが、添加剤を加えると粉砕が更に困難になる傾向がある。また添加剤の中には成形品にべたつきを与えるようなものも多い。従って添加剤の選択に当たっては単に離型性を改善するのみならず、粉砕に悪影響を及ぼさず、成形品にべたつきを与えるようなものでないことも重要な要素となる。また他の重合体の配合によってアイオノマーの勝れた特性が損なわれてはならず、またスラッシュ成形物金型上で綺麗な膜を成形できるものでなくてはならなかった。以上のような観点から数多くの添加剤及び重合体につき検討した結果、一般に熱可塑性樹脂の離型剤あるいはスリップ剤として知られている多くのものは、前記所望性能を満足することができなかったが、ポリエチレングリコール系化合物と特定のエラストマーを併用したときに微粉化及びスラッシュ成形が容易で、かつ所望の形状を有する成形品を製造することができることを見出すに至り本発明に到達した。
【0005】したがって本発明の目的は、造膜性、しぼ転写性、離形性等が良好であり、したがって美観が優れ、かつ耐スクラッチ性の優れた成形品をスラッシュ成形によって製造する方法を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明によれば、不飽和カルボン酸重合単位の少なくとも5モル%以上が金属イオンにより中和されているエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー100重量部、ポリエステルエラストマー及び/又はポリアミドエラストマー1〜80重量部、及びポリオキシエチレングリコール系化合物1〜20重量部とからなり、メルトフローレートが1〜100g/10分(190℃,2160g荷重)、平均粒子径が1〜500μmである樹脂組成物粉末を用い、スラッシュ成形することを特徴とする成形品の製造方法である。
【0007】本発明において用いられるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは任意重合成分として不飽和エステルのような他の単量体が共重合されていてもよく、また不飽和カルボン酸重合単位の少なくとも5モル%以上が金属イオンで中和された構造のものである。中和度の低いものあるいは未中和のものを用いると、後述のポリエチレングリコール系化合物を配合しても離型性良好な組成物が得られず、また耐スクラッチ性の優れた成形品を得ることが難かしい。ここに不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などを例示することができるが、とくにアクリル酸もしくはメタクリル酸の使用が好適である。
【0008】また、任意重合成分である他の単量体としては不飽和エステル、例えば酢酸ビニルのようなビニルエステル、あるいはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステルなどを例示することができる。
【0009】アイオノマーにおける金属イオン種としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムの如き1価金属、亜鉛、マグネシウム、カルシウムの如き2価金属を代表例として挙げることができる。これらの中では、2価金属で中和したアイオノマーの方が、少量のポリオキシエチレングリコール系化合物の使用で離型効果がでるので好ましい。
【0010】エチレン・不飽和カルボン酸共重合体における重合組成は、例えばエチレンが50〜98重量%、不飽和カルボン酸が2〜35重量%、不飽和エステルの如き他の単量体が0〜40重量%のような割合であってよい。とくに柔軟な成形品を目的とする場合には、エチレンが50〜90重量%、とくに60〜90重量%、不飽和カルボン酸が2〜30重量%、とくに5〜20重量%、不飽和エステルが5〜30重量%、とくに10〜25重量%のものを用いることが望ましい。
【0011】金属イオンによる中和度は5モル%以上であるが、中和度が高くなるにつれ硬くなる傾向となるので、80モル%以下、とくに70モル%以下とするのが好ましい。
【0012】このようなアイオノマーは、高圧重合によって得られる前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体と金属化合物を反応させる方法、あるいは、高圧重合によって得られるエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化する方法などによって製造することができる。粉末成形における造膜性を考慮した場合、成形温度によっても若干異なるが、アイオノマーとして190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが1g/10分以上、好ましくは3g/10分以上のものを用いるのが好ましい。一方、アイオノマーの粉砕特性や成形品物性を考慮するとメルトフローレートが100g/10分以下、とくに50g/10分以下のものを用いるのがよい。
【0013】本発明においては、前記アイオノマーにポリオキシエチレングリコール系化合物、すなわちポリオキシエチレングリコール、そのエーテル、そのエステル等が用いられる。ポリオキシエチレングリコールのエーテルとしては、アルキルエーテル、フェニルエーテル、アルキルフェニルエーテルなど、またエステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイト、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどを例示できる。これらの中では、ポリオキシエチレングリコールの使用が最も効果的である。ポリオキシエチレングリコール系化合物としては、常温で液状のものから固体状のものまで広く使用でき、例えば平均分子量200〜50,000のものが使用できるが、アイオノマーとの混和性を考慮すると分子量400〜20,000程度のものを用いるのが好ましい。
【0014】ポリオキシエチレングリコール系化合物の好適配合量は、アイオノマーの種類によっても異なるが、あまり多量に配合するとべたつきや物性低下の原因となるので、一般にはアイオノマー100重量部当り、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部程度である。
【0015】本発明においてはアイオノマーとポリオキシエチレングリコール系化合物の組成物の粉末を用いるものであるが、成形品の用途によっては耐熱変形性を要求される分野がある。このような耐熱性の改良を柔軟性等の他の性質を大きく損なうことなく行うためには、ポリエステルエラストマー及び/又はポリアミドエラストマーを配合するのがよい。その配合量は、アイオノマー100重量部に対し、1〜80重量部、とくには5〜50重量部とするのが効果的である。
【0016】ポリエステルエラストマーとしては、ハードセグメントとしての芳香族ポリエステル単位、例えばポリテトラメチレンテレフタレート単位と、ソフトセグメントとしてのポリオキシアルキレンポリオール単位、例えばポリオキシテトラメチレングリコール単位、あるいは脂肪族ポリエステル単位、例えばポリテトラメチレンアジペート単位からなるブロック共重合体が代表的なものである。
【0017】ポリアミドエラストマーとしては、ハードセグメントとしてのポリアミド単位、例えばナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−11、ナイロン−12などの単位と、ソフトセグメントとしてのポリオキシアルキレングリコール単位あるいは脂肪族ポリエステル単位とからなるブロック共重合体がその代表例である。
【0018】これらは使用目的に応じ種々の硬度のものを使用することができるが、柔軟な成形物を目的とする場合には、ショアD硬度で50以下、とくに35以下のものを用いるのが良い。一般には、ポリアミドエラストマーの方が柔軟グレードが多く、またアイオノマーとの混和性がよいので、好適に使用できる。
【0019】アイオノマー、ポリオキシエチレングリコール系化合物及びポリエステルエラストマー及び/又はポリアミドエラストマーからなる粉末を製造するには、常法によりこれらを溶融ブレンドしペレットを製造する。次いでこれを機械的に粉砕すればよい。アイオノマーは融点が高くないため、粉砕に際し高温にならないようにする必要があり、例えば冷凍粉砕は最も好ましい方法である。なお、上記各成分のブレンドに際し、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を配合することができる。本発明の組成物は、かかる粉砕においてはアイオノマー単味の粉砕に比較して、同等又はそれ以上の効率で行うことができ、ポリオキシエチレングリコール系化合物及び上記エラストマー配合による欠点はとくに見出せない。
【0020】かくして得られる配合物は、造膜性、成形物物性を考慮すると、メルトフローレートが1〜100g/10分、とくに3〜50g/10分となるように調節することが望ましい。また粉末粒子径としては成形性、成形品表面外観等を考慮すると、1〜500μm、とくに1〜350μmの範囲にすることが望ましい。
【0021】本発明においては、かかる配合物の粉末を用い、スラッシュ成形により成形品を得る。スラッシュ成形は、例えばZrサンド流動槽で200〜250℃に加熱された金型に該粉末を投入し、金型を回転させ余剰の粉末を排出し、2〜5分間造膜する。その後金型を冷却水槽に5〜20秒間浸漬した後。金型から成形品を剥離し、目的物を得ることができる。
【0022】
【実施例】次に実施例及び比較例を示す。なお実施例、比較例において使用した原料樹脂および配合剤ならびに実施した試験方法等は以下のとおりである。
【0023】1.使用原料(1)共重合体A:エチレン−メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量15重量%、MFR60dg/min)
【0024】(2)共重合体B:エチレン−メタクリル酸−アクリル酸イソブチル3元共重合体(メタクリル酸含量8重量%、アクリル酸イソブチル含量20重量%、MFR25dg/min)
【0025】(3)ポリアミドエラストマー:ナイロン−6−ポリオキシエチレングリコール−ブロックポリマー(MFR7.0dg/min,融点148℃,硬度ショア−D25) 東レ(株)製PEBAX2533
【0026】(4)ポリエステルエラストマー:東レ・デュポン社製、ハイトレル4047(MFR 6.0dg/min,融点182℃,硬度ショア−A91)
【0027】(5)ポリオキシエチレングリコール及びその誘導体:PEG#600(平均分子量600) 関東化学(株)製試薬
【0028】(6)シリコーン離型剤:SH2000(東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製、低分子量ジメチルシリコーンオイル 1000cs,3000cs,12500cs)
【0029】2.試験方法(1)樹脂組成物ペレットの製造30nmφ2軸押出機(池貝鉄工(株)製PCM30)を使用し、樹脂と添加剤を樹脂温210℃、押出量4.0kg/hrで押出しペレット化した。
【0030】(2)樹脂粉末の製造アトマイザー粉砕機を用い、液体窒素を使用してペレット状の樹脂を脆化温度以下に冷却し(−150℃程度)、粉砕した。
【0031】(3)造膜性及び離型性の試験法予備的な試験はペレット状のもので行い、造膜性、離型性が共に良好なものについてはさらに粉末状のものについても行った。ペレット状のものの評価は、230℃のホットプレス上にシボ模様転写用金型に置き、ペレット状の試験片10gを載せ、5分間放置後、直ちに氷冷した。得られるシート状物の表面平滑性及びシボ転写性により造膜性を、また手で金型からシート状物を剥がすことにより離形性を判定した。また粉末状のものの評価は、シボ模様転写用金型を予め250℃に加熱し、その上に粉末を載せ2分間保ち溶融付着させる。その後、金型を傾斜して未溶融の粉末を除去した後、金型を水冷する。造膜された成形品は同様に評価する。
【0032】造膜性の判定◎ 表面が平滑でシボ転写良好○ 表面に若干凹凸が見られ、シボ転写が若干不充分× 表面の凹凸が激しく、シボ転写も不良
【0033】離型性の判定◎ 手で容易に剥れる○ 剥すのに若干の力を要する× 剥離しない
【0034】(4)耐スクラッチ性試験成形品表面を爪で引っかき、傷つき状態を観察した。
【0035】(5)耐熱変形性試験造膜した成形品を90℃の温水中に10分間浸漬後、取り出し変形性をチェックした。
【0036】(6)メルトフローレートの測定メルトインデクサー(東洋精機社製)により、190℃、2160g荷重にて測定した。
【0037】[ペレット状試料からの離型性及び造膜性テスト]
実施例1〜6 アイオノマー、ポリオキシエチレングリコール系化合物、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドエラストマーを表1に示す組成で配合し、得られたアイオノマー組成物のペレットから、離型性及び造膜性のテストを行った。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】


【0039】比較例1〜10ポリオキシエチレングリコール系化合物を配合しないアイオノマー、あるいはこれにシリコーン離型剤、スリップ剤、およびポリアミドエラストマーを配合した組成物のペレットから離型性及び造膜性のテストを行った。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】


【0041】表1および表2の結果から明らかなように、ポリオキシエチレングリコール系化合物及びポリアミドエラストマーを配合したアイオノマー組成物はいずれも離型性、造膜性ともに良好であり、シリコーン離型剤やスリップ剤配合処方よりも優れていることがわかる。
【0042】[粉砕テストおよび粉末からの成形品の物性評価]実施例3、4および比較例3の組成物につき冷凍粉砕を行った。得られた粉末の粒径および粒径分布は表3のとおりであった。
【0043】
【表3】


但し IO:アイオノマーPOEG:ポリオキシエチレングリコールPAE :ポリアミドエラストマー
【0044】実施例3、4のポリオキシエチレングリコール系化合物及びポリアミドエラストマーを配合したアイオノマー組成物は充分粒径の小さい粉末に粉砕することができ、添加物による支障は全くなかった。
【0045】また、かくして得られた粉末から造膜性及び離型性の試験を行ない、更に得られた成形品について耐スクラッチ性、耐熱変形性を評価した。その結果実施例3、4の組成物は全て造膜性、離型性ともに良好であり、成形品のべたつきもなかった。
【0046】耐スクラッチ性については、実施例3、4のものは比較例3のものよりさらに優れていた。また実施例3及び4のものは、耐熱変形性も良好であった。すなわちポリオキシエチレングリコール系化合物の配合による他の物性への影響は認められず、しかもポリアミドエラストマーの添加によって耐スクラッチ性および耐熱変形性が向上する。
【0047】
【発明の効果】本発明によれば、造膜性、離形性に優れたアイオノマー組成物粉末が提供され、これを用いてスラッシュ成形により柔軟性に富み、耐スクラッチ性に優れた所望の形状の成形品を容易に製造することができる。かかる特長を生かし本発明は、例えば自動車内装材の表皮、例えばインパネセーフティパッド、ブラグドア、コンソールの表皮などの成形に利用できる。またポリアミドエラストマーを配合したことにより、得られた成形品は耐熱性、耐スクラッチ性、柔軟性に優れ、この点においても自動車内装用の表皮材に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 不飽和カルボン酸重合単位の少なくとも5モル%以上が金属イオンにより中和されているエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー100重量部、ポリエステルエラストマー及び/又はポリアミドエラストマー1〜80重量部及びポリオキシエチレングリコール系化合物1〜20重量部とからなり、メルトフローレートが1〜100g/10分(190℃,2160g荷重)、平均粒子径が1〜500μmである樹脂組成物粉末を用いスラッシュ成形することを特徴とする成形品の製造方法。