説明

スラッシュ成形用パウダーの製造方法

パウダースラッシュ成形に好適な熱可塑性エラストマー組成物からなるパウダーの簡便な製造方法を提供すること。 熱可塑性エラストマー組成物を粉砕して得られるスラッシュ成形用パウダーの製造方法であって、固定刃と回転刃による剪断作用により粉砕することを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法により達成される。特に熱可塑性エラストマー組成物として、特定のアクリル系ブロック共重合体、及びその組成物が好適に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、パウダースラッシュ成形に好適な熱可塑性エラストマー組成物パウダーの製造方法に関するものである。更に詳しくは、アクリル系ブロック共重合体を含む組成物パウダーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
メタアクリル酸メチルなどをハードセグメント、アクリル酸ブチルなどをソフトセグメントに有するアクリル系ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしての特性を有することが知られている。たとえば、特許第2553134号公報には、イニファーター法で製造したメタアクリルブロックとアクリルブロックを有するアクリル系ブロック共重合体の機械特性が開示されている。
アクリル系ブロック共重合体は、耐候性、耐熱性、耐久性および耐油性に優れるという特徴を有している。また、ブロック体を構成する成分を適宜選択することで、スチレン系ブロック体などの他の熱可塑性エラストマーに比べて極めて柔軟なエラストマーを与えることが可能である。
このようなアクリル系ブロック共重合体の特性を活かした用途として、自動車の内装部品の表皮材としての展開が期待されている。これら表皮材の成形方法は、原料となる樹脂パウダーを成形金型に流し込み、ある一定時間経過後に溶融成形された表皮を取り出すパウダースラッシュ成形が主流である。この様な成形方法で得られる表皮材は、原料樹脂パウダーの流動性、粒子径、粒子径分布などの条件によってはピンホールの発生や気泡の混入を認めることがある。
パウダースラッシュ成形に好適なパウダーを製造する技術として、水中カット方式により、球換算平均粒子径700μm以下の熱可塑性エラストマー組成物パウダーを製造する方法が開示されている(例えば特開2002−166417)。微細なダイスからの押出しを可能にするため、ダイス温度は230〜350℃が規定されているが、本温度範囲ではメタアクリル系重合体ブロックの分解が発生しやすい。
パウダースラッシュ成形に好適なパウダーを製造する技術として、液体窒素を用いた冷凍粉砕によりパウダーを製造する方法が開示されている(例えば特開平5−005050)。軟質な熱可塑性エラストマーを一般的な衝撃式粉砕機で粉砕する場合、極低温において粉砕を行うことは有効な方法である。しかしながら、工業的な規模での生産を考えた場合、コスト的には不利な面が多い。また、機械的な衝撃作用による粉砕により得られたパウダーは一般的に不定形であり、流動性を重視するパウダースラッシュ成形用途へ適用するためには、粒子径を極めて微細なものにする必要性が生じる。
粉砕パウダーの粒子形状を改善する方法として、パウダーを貧溶媒、もしくは乳化剤水溶液中で樹脂の溶融温度以上に加熱し、球状化する方法が開示されている(例えば特開平8−225654)。しかしながら、乳化剤水溶液の排水処理設備、パウダーの脱水・乾燥処理設備など、設備的には複雑となり、実用化には課題が多い。
その他、樹脂の有機溶媒溶液と乳化剤水溶液の混合溶液を加熱し、溶媒成分と水の共沸現象を利用して樹脂パウダーを製造する方法が開示されている(例えば特開平11−256032)。しかしながら設備的には複雑な方法であり、上記同様にコスト的な課題を抱えている。
粉砕機は目標とする粉砕物粒子径、原料の性状に応じ、種々の形式のものが知られている(例えば化学工学便覧の粉砕の項、平成11年発行、丸善株式会社、842〜852頁、)。粉砕機の形式としては一般的にはターボミル、ピンミル、ハンマーミル等種々の形式の衝撃式粉砕機が用いられている。しかしながら熱可塑性エラストマーは軟質で弾性を有するため、衝撃式粉砕機では粉砕が極めて困難である。衝撃式粉砕機を熱可塑性エラストマーに適用するためには、先に記載したように脆性を増すために液体窒素等を用いた冷凍粉砕の手段を採らなければならない等の課題がある。
【発明の開示】
本発明はパウダースラッシュ成形に好適な熱可塑性エラストマー組成物、特にアクリル系ブロック共重合体組成物からなるパウダーの簡便な製造方法を提供することにある。
本発明者らは熱可塑性エラストマー組成物からなるパウダーの製造方法について鋭意検討した結果、固定刃と回転刃による剪断作用により粉砕する方式が有用であり、更にアクリル系ブロック共重合体組成物を使用する場合、パウダー表面への添加剤種、重合体を構成する単量体組成を選定することにより安定した生産が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、熱可塑性エラストマー組成物を粉砕して得られるスラッシュ成形用パウダーの製造方法であって、固定刃と回転刃による剪断作用により粉砕することを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
好適な実施態様としては、熱可塑性エラストマー組成物がアクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物であることを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
好適な実施態様としては、アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物100重量部に、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、二酸化珪素、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、金属石鹸からなる群から選ばれる少なくとも1種を、2〜20重量部外添して粉砕することを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
好適な実施態様としては、アクリル系ブロック共重合体(A)が50〜90重量%のアクリル系重合体ブロック(a)および50〜10重量%のメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体であることを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
好適な実施態様としては、アクリル系重合体ブロック(a)がアクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−メトキシエチル及びアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、メタアクリル系重合体ブロック(b)がメタアクリル酸メチルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであることを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
好適な実施態様としては、アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物が、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、炭酸カルシウム粉末が10〜100重量部配合されてなることを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
好適な実施態様としては、アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物が、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、シリコーンオイルを0.1〜10重量部配合されてなることを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
好適な実施態様としては、アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物100重量部に対し、2〜20重量部の水を供給しながら粉砕することを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法に関する。
本発明を用いることにより、パウダースラッシュ成形に好適な熱可塑性エラストマー組成物からなるパウダーを簡便に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明に用いた粉砕機の概略図である。第2図は、本発明に用いた粉砕機の概略図である。図中、符号1は、電磁フィーダーを、符号2は、粉砕機を、符号3は、サイクロンを、符号4は、ブロアーを、符号5は、バグフィルターを、符号6は、定量ポンプを、それぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物を粉砕して得られるスラッシュ成形用パウダーの製造方法であって、固定刃と回転刃による剪断作用により粉砕することを特徴とする。本発明に使用される熱可塑性エラストマー組成物として、アクリル系ブロック共重合体(A)単独、及びアクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物が好適に使用されるが、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリアミド系、シリコーン系、及びフッ素ポリマー系の熱可塑性エラスマー、及びそれらの組成物も使用できる。
<アクリル系ブロック共重合体(A)>
ブロック共重合体(A)の構造は、線状ブロック共重合体であってもよく、分岐状(星状)ブロック共重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。ブロック共重合体(A)の構造は、必要とされるブロック共重合体(A)の物性に応じて使いわければよいが、コスト面や重合容易性の点から、線状ブロック共重合体であるのが好ましい。
前記線状ブロック共重合体は、いずれの線状ブロック構造のものであってもかまわないが、その物性または組成物にした場合の物性の点から、アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するアクリル系重合体ブロック(a)(以下、いずれも重合体ブロック(a)またはブロック(a)ともいう)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)(以下、重合体ブロック(b)またはブロック(b)ともいう)が、一般式:(a−b)、−般式:b−(a−b)、−般式:(a−b)−a(nは1〜3の整数)で表わされるブロック共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体であることが好ましい。これらの中でも、加工時の取扱い容易性や、組成物にした場合の物性の点から、a−b型のジブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体またはこれらの混合物が好ましい。
ブロック共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量は特に限定されないが、好ましくは30000〜500000、さらに好ましくは50000〜400000である。数平均分子量が外さいと粘度が低く、また、数平均分子量が大きいと粘度が高くなる傾向があるので、必要とする加工特性に応じて設定される。
ブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)も特に限定されないが、好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下である。Mw/Mnが1.8を超えるとブロック共重合体の均一性が低下する傾向がある。
ブロック共重合体(A)のメタアクリル系重合体ブロック(b)とアクリル系重合体ブロック(a)の組成比は、ブロック(b)が5〜90重量%、ブロック(a)が95〜10重量%である。成型時の形状の保持およびエラストマーとしての弾性の観点から、組成比の好ましい範囲は、(b)が10〜80重量%、(a)が90〜20重量%であり、さらに好ましくは、(b)が10〜50重量%、(a)が90〜50重量%である。(b)の割合が5重量%より少ないと成形時に形状が保持されにくい傾向があり、(a)の割合が10重量%より少ないとエラストマーとしての弾性および成形時の溶融性が低下する傾向がある。
エラストマー組成物の硬度の観点からは、(b)の割合が少ないと硬度が低くなり、また、(b)の割合が多いと硬度が高くなる傾向があるため、エラストマー組成物の必要とされる硬度に応じて設定することができる。また加工の観点からは、(b)の割合が少ないと粘度が低く、また、(b)の割合が多いと粘度が高くなる傾向があるので、必要とする加工特性に応じて設定することができる。
<アクリル系重合体ブロック(a)>
アクリル系重合体ブロック(a)は、アクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、アクリル酸エステル50〜100重量%およびこれと共重合可能なビニル系単量体0〜50重量%とからなることが好ましい。
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸−2−アミノエチル、アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどをあげることができる。
これらは単独でまたはこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ゴム弾性、低温特性およびコストのバランスの点で、アクリル酸−n−ブチルが好ましい。さらに低温特性と機械特性と圧縮永久歪が必要な場合は、アクリル酸−2−エチルヘキシルを共重合させればよい。耐油性と機械特性が必要な場合は、アクリル酸エチルが好ましい。また、低温特性と耐油性の付与、及び樹脂の表面タック性の改善が必要な場合は、アクリル酸−2−メトキシエチルが好ましい。また、耐油性および低温特性のバランスが必要な場合は、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルおよびアクリル酸−2−メトキシエチルの組み合わせが好ましい。そして、耐熱性を上げる為に、酸無水物基を導入する際の前駆体として、アクリル酸−t−ブチルが好ましい。
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などをあげることができる。
メタアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸−n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸−n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸−、メタアクリル酸−n−ペンチル、メタアクリル酸−n−ヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸−n−ヘプチル、メタアクリル酸−n−オクチル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸ドデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸トルイル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸−2−メトキシエチル、メタアクリル酸−3−メトキシブチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸−2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシメチルシラン、メタアクリル酸のエチレンオキサイド付加物、メタアクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチル、メタアクリル酸パーフルオロメチル、メタアクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどをあげることができる。
芳香族アルケニル化合物としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどをあげることができる。シアン化ビニル化合物としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどをあげることができる。共役ジエン系化合物としては、たとえば、ブタジエン、イソプレンなどをあげることができる。ハロゲン含有不飽和化合物としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどをあげることができる。ケイ素含有不飽和化合物としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどをあげることができる。不飽和ジカルボン酸化合物としては、たとえば、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステルなどをあげることができる。ビニルエステル化合物としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどをあげることができる。マレイミド系化合物としては、たとえば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどをあげることができる。
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、アクリル系重合体ブロック(a)に要求されるガラス転移温度および耐油性、メタアクリル系重合体ブロック(b)との相溶性などのバランスの観点から、好ましいものを選択することができる。
アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、エラストマー組成物のゴム弾性の観点から、好ましくは25℃以下、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度が、エラストマー組成物の使用される環境の温度より高いとゴム弾性が発現されにくいので不利である。
<メタアクリル系重合体ブロック(b)>
メタアクリル系重合体ブロック(b)は、メタアクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、メタアクリル酸エステル50〜100重量%およびこれと共重合可能なビニル系単量体0〜50重量%とからなることが好ましい。
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体として例示されたメタアクリル酸エステルと同様の単量体が挙げられる。
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、加工性、コストおよび入手しやすさの点で、メタアクリル酸メチルが好ましい。また、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸シクロヘキシルなどを共重合させることによって、ガラス転移点を高くすることができる。更には、耐熱性を上げる為に、酸無水物を導入する際の前駆体としてメタアクリル酸−t−ブチルが好ましい。
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド化合物などをあげることができる。
アクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルとして例示されたアクリル酸エステルと同様の単量体が挙げられる。
芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物としては、アクリル系重合体ブロック(a)を構成する単量体として例示したものと同様の単量体をあげることができる。
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、メタアクリル系重合体ブロック(b)に要求されるガラス転移温度の調整、アクリル系重合体ブロック(a)との相溶性などの観点から好ましいものを選択することができる。
(b)のガラス転移温度は、エラストマー組成物の熱変形の観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。(b)のガラス転移温度がエラストマー組成物の使用される環境の温度より低いと、凝集力の低下により、熱変形しやすくなる場合がある。
<ブロック共重合体(A)の製造方法>
アクリル系ブロック共重合体(A)の製造方法としては、特に限定されないが、制御重合を用いることが好ましい。制御重合としては、リビングアニオン重合、連鎖移動剤を用いるラジカル重合および近年開発されたリビングラジカル重合をあげることができる。リビングラジカル重合がブロック共重合体の分子量および構造制御の点ならびに架橋性官能基を有する単量体を共重合できる点から好ましい。
リビング重合とは、狭義においては、末端が常に活性を持ち続ける重合のことを示すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれ、本発明におけるリビングラジカル重合は、重合末端が活性化されたものと不活性化されたものが平衡状態で維持されるラジカル重合であり、近年様々なグループで積極的に研究がなされている。
その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(Journal of American Chemical Society,1994,116,7943)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(Macromolecules,1994,27,7228)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さなどから原子移動ラジカル重合が好ましい。
原子移動ラジカル重合は、有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される(例えば、Matyjaszewskiら,Journal of American Chemical Society,1995,117,5614、Macromolecules,1995,28,7901、Science,1996,272,866、またはSawamotoら,Macromolecules,1995,28,1721)。
これらの方法によると一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭いMw/Mn=1.1〜1.5程度の重合体が得られ、分子量はモノマーと開始剤の仕込み時の比率によって自由にコントロールすることができる。
原子移動ラジカル重合法において、開始剤として用いられる有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物としては、一官能性、二官能性、または、多官能性の化合物を使用できる。これらは目的に応じて使い分けることができる。ジブロック共重合体を製造する場合は、一官能性化合物が好ましい。a−b−a型のトリブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体を製造する場合は二官能性化合物を使用することが好ましい。分岐状ブロック共重合体を製造する場合は多官能性化合物を使用することが好ましい。
前記原子移動ラジカル重合の触媒として用いられる遷移金属錯体としてはとくに限定はないが、好ましいものとして、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケルの錯体をあげることができる。これらの中でも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。
前記原子移動ラジカル重合は、無溶媒(塊状重合)または各種溶媒中で行なうことができる。また、溶媒を使用する場合、その使用量は、系全体の粘度と必要とする攪拌効率の関係から適宜決定することができる。
また、前記原子移動ラジカル重合は、好ましくは室温〜200℃、より好ましくは50〜150℃の範囲で行なわせることができる。前記原子移動ラジカル重合温度が室温より低いと粘度が高くなり過ぎて反応速度が遅くなる場合があるし、200℃を超えると安価な重合溶媒を使用できない場合がある。
重合によって得られた反応液は重合体と金属錯体の混合物を含んでおり、例えば有機酸を添加して金属錯体を除去することができる。引き続き、吸着処理により不純物を除去することで、アクリル系ブロック共重合体を含んでなるアクリル系ブロック共重合体溶液を得ることができる。本発明で使用することができる有機酸は、特に限定されないが、カルボン酸基、もしくは、スルホン酸基を含有する有機物であることが好ましい。
アクリル系ブロック共重合体溶液から有機溶剤成分を蒸発分離するに際しては、重合体溶液の液膜を加熱することにより揮発分を除去、すなわち蒸発、脱揮等させる種々の形式の薄膜蒸発機が適用可能である。その他、単軸もしくは2軸スクリューと脱揮口を有する押出機による蒸発も可能である。
樹脂中の残存溶剤量としては、10000ppm以下であることが望ましい。残存溶剤量が10000ppmを超えると、溶剤の臭気の問題により作業環境が悪化するとともに環境への負荷がかかるため望ましくない。
このように有機溶媒を蒸発分離したアクリル系ブロック共重合体(A)は、引き続きペレット化等により、パウダー化行程に適した形状にする。ペレット化方式としては所望の孔径を有するダイスより樹脂をストランド状の溶融状態で押出し、冷却後カットしてペレット形状に加工する方法がとられる。その他、ダイス直近で高速回転する回転刃により重合体をカットするホットカット方式、前述同様の方法を冷却水中で行う水中カット方式などが適用可能である。
これまで述べてきた重合体溶液の蒸発、押出機での溶融時の熱履歴による品質低下抑制手段として、樹脂溶液から脱揮操作を行う際に酸化防止剤を存在させることもできる。これらの酸化防止剤は、ラジカル連鎖禁止剤としての機能を有するものであることが好ましい。このようなものとしては特に限定されず、例えば、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等を挙げることができる。
<パウダーの製造>
熱可塑性エラストマー組成物は、固定刃と回転刃による剪断作用により粉砕する。上記のようにしてペレット等にしたアクリル系ブロック共重合体(A)、及びその組成物は、固定刃と回転刃による剪断作用を用いた粉砕機により粉砕する。以下、この方式による粉砕機について詳細に述べる。
本粉砕機では剪断作用により樹脂を粉砕していくわけであるが、剪断作用を発生させるために固定刃、回転刃の2枚のディスクを使用する。固定刃と回転刃はある間隙(クリアランス)を有した状態で設置されており、固定刃と回転刃の速度差およびクリアランスのサイズにより剪断力が発生する。粉砕原料はディスク中心部より供給され、剪断作用により粉砕されながら遠心力を受けて外周方向へ移動し、ディスク外周部より取り出される。
粉砕においては剪断力が大きいほど、またクリアランスが小さいほど粉砕能力が向上し、微小なサイズの粉砕物を得ることができる。従って、回転刃の回転数、およびクリアランス、特に最終粉砕物の最大径を決定する外周部のクリアランスを調整することにより、様々なサイズの粉砕物を得ることができる。
粉砕物の形状をコントロールする方法として、ディスク表面の刃の形状、配置も重要である。特に刃断面はディスク中心から外周方向に対して平行に配置するよりも、ある程度傾斜をつけることが好ましい。刃断面をディスク中心から外周方向に配置した場合、刃の進行方向と刃断面が垂直になるため粉砕能力が低くなる。
この他、重要な要素として粉砕時に発生する摩擦熱の除去が挙げられる。摩擦熱が蓄積した場合、ディスク表面で粉砕物の温度を上げるため樹脂の軟化が起こる。樹脂の軟化が発生した場合、剪断作用を受けた場合粉砕物が長い糸状に変化するためパウダースラッシュ用途としては流動性の低いパウダーとなる恐れがある。また、さらに温度が上がるとディス表面で樹脂が溶融、滞留することにより粉砕が不可能となる。従って、粉砕時の温度管理はパウダーの品質面、運転の安定性において非常に重要な要素となる。
摩擦熱の除去としては空冷が有効な手段となる。本方式では原料ペレットの粉砕機への供給方式としては、円筒管内の気流に乗せ移送する空気移送方式、その他コンベア方式、スクリューフィーダーなどが適用可能であり特に制限はないが、空気を冷却媒体として使用可能な空気移送方式が最も好ましい。この場合、冷却能力は空気の流量、温度により決定される。空気流量は原料の供給安定性、粉砕物の移送の安定性より決定されるため、実運転での管理は空気温度となる。本発明では空気温度としては10〜50℃が好ましい。10℃未満では冷却能力に全く問題はないものの、高価な冷却システムを必要とする。一方、50℃を超える温度領域では樹脂の溶融を防止できず、摩擦熱の発生を抑えるため大幅に処理量を低下させる必要が発生する。
この他、原料ペレットに少量の水分を添加し、水の蒸発潜熱により温度上昇を防止することもできる。水の供給方法としては、粉砕原料にあらかじめ水を付与しておく方法、あるいは粉砕原料とは別に粉砕機に供給する方法など特に制約はない。あらかじめ水を付与しておく場合、原料ペレットを製造する時に付着残存する水をそのまま使用することができる。粉砕機に供給する場合は、汎用の定量ポンプを用いることができる。供給口の形態は特に制約はないが、均一に水分を付与することと、効率的に静電気の発生を防止することを考慮した場合、ノズルを経由して霧状に供給することが好ましい。
水の添加量は粉砕原料に対する重量部数で規定することができる。水の添加量は粉砕原料100重量部に対し2〜20重量部が好ましい。2重量部未満では水による冷却効果が低く、また静電気抑制効果も低い。一方、20重量部を超えるとパウダーに未蒸発の水分が残ることになり製品品質に悪影響する。また、粉砕パウダーのハンドリングにも悪影響を及ぼす。
添加する水は純水、市水、工業用水などいずれも使用可能である。
なお、水を用いた冷却を実施する場合、残存水分による製品への影響を避けるため水分管理が必要になる。
熱可塑性エラストマーの粉砕物は、粉砕時の発熱による軟質化に伴い互着が発生しやすい傾向がある。また、熱可塑性エラストマーに限らず粉砕物は比表面積が大きいため、一般に互着を招きやすい。互着が発生すると粉砕パウダーとして要求する特性である流動性が大幅に低下するばかりでなく、装置内での樹脂の付着等、安定運転上にも支障を来たすことが予想される。
互着防止対策としては粉砕前のペレット等の表面に各種互着防止用の粉末を添加する方法が考えられる。アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物100重量部に、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、二酸化珪素、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、金属石鹸からなる群から選ばれる少なくとも1種を、2〜20重量部外添することができる。ここでいう外添とは、組成物に練り込むのではなく、ペレット等の表面にまぶすように添加することをいう。2重量部未満では、効果が十分ではなく、また20重量部より多いと、得られるパウダーの機械特性に悪影響を与えてしまう。
また添加方法も特に制約はなく、ブレンダーで混合する方式、移送における気流中で添加する方式などが挙げられる
さらに、粉砕パウダーのハンドリング性の改良、耐ブロッキング性を付与する観点から、粉砕物に上記粉末を添加することも可能である。この場合もペレット表面への外添と同様に、粉砕物とブレンダーで混合する方式、移送における気流中で添加する方式、振動篩内部で添加する方式などが挙げられる。また、前述した粉砕機へ供給する冷却水中に分散、または溶解して使用することも有効である。
炭酸カルシウムの例としては、平均粒子径0.5〜15μmの軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムのような単体の他、これに飽和脂肪酸あるいは界面活性剤により処理を加えたもの、あるいはマグネシウム、シリケート等を配合したものを挙げることができる。
脂肪酸アミドの例としては、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドなどを挙げることができる。
脂肪酸エステルの例としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチルなどを挙げることができる。
金属石鹸の例としてはカリウム、ナトリウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム等を用いた各金属石鹸を挙げることができる。
さらに互着防止だけではなく、組成物の軟化点を上昇させることにより粉砕を容易にする観点から、粉砕前のアクリル系ブロック共重合体(A)に無機充填材を配合し、あらかじめ組成物としておく方法も挙げられる。無機充填材としては酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、カオリン、シリカ、雲母粉、アルミナ、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウィスカー、アスベスト、ウォラストナイト、マイカ、タルク、ガラスフレーク、ミルドファイバー、金属粉末などがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、複数を組合せて用いてもよい。これらの中では、特に炭酸カルシウムが好ましく使用される。
これら無機充填材の添加量としては、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して10〜100重量部が好ましい。10重量部未満では互着防止の為の効果が不十分となる。100重量部を超えた場合は、組成物の機械物性を損なう可能性がある。
この他、シリコーンオイル、牛脂極度硬化油、各種ワックス、カーボンブラック等をあらかじめアクリル系ブロック共重合体にコンパウンドしておくのも有効な手段である。これら添加剤は単独で用いても良く、また複数を混合して用いても良い。これらの中では、特にシリコーンオイルが好ましく使用される。添加量は成形体の物性バランスから選定することができるが、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。0.1重量部未満では互着防止の為の効果が不十分となる。10重量部を超えた場合は、上記無機充填材同様に組成物の機械物性を損なう可能性がある。
粉砕前の原料形状としては前述のペレットが代表的であるが、多くは円柱状、サイズは直径φ1〜10mm、高さ1〜10mmのものを好適に使用できる。これより大きなサイズでは、目標粒子径にもよるが多段粉砕を実施することで対応が可能となる。
以上の方法で得られたパウダーは嵩密度が0.4〜0.8g/mL、安息角が25〜45度であることが好ましい。パウダースラッシュ成形では嵩密度が小さいと成形体内部に気泡の残存が多くなる。また、安息角が大きいと金型内部でのパウダー厚み、及びそれにより発生する加熱面における樹脂圧が変動し、均一な厚みの成形体を得ることが困難になる。パウダーの粒子径としては、粒子が概ね球状である場合、500μm以下であることが好ましい。また、多角形、糸状などの不定形の場合は、粒子の最大長が1000μm以下であることが好ましい。
【実施例】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<分子量測定法>
本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウォーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。
<重合反応の転化率測定法>
本実施例に示す重合反応の転化率は以下に示す分析装置、条件で測定した。
使用機器:島津製作所(株)製ガスクロマトグラフィーGC−14B
分離カラム:J&W SCIENTIFIC INC製、キャピラリーカラムSupelcowax−10、0.35mmφ×30m
分離条件:初期温度60℃、3.5分間保持
昇温速度40℃/min
最終温度140℃、1.5分間保持
インジェクション温度250℃
ディテクター温度250℃
試料調整:サンプルを酢酸エチルにより約3倍に希釈し、酢酸ブチルを内部標準物質とした。
<パウダーの粉体特性評価>
本実施例に示すパウダーの各粉体特性値は以下に示す分析装置で測定した。
使用機器:ホソカワミクロン(株)製パウダテスタPT−R
<パウダーの表面電位測定>
本実施例に示すパウダーの表面電位は以下に示す測定装置で計測した。
使用機器:春日電機株式会社製表面電位計KSD−0103
<パウダーの溶融特性評価>
本実施例に示すパウダーの溶融特性は以下に示す方法で評価した。
使用機器:皮シボ付金属板(板厚4.5mm、シボ深さ80%)
加熱条件:250℃
加熱時間:1分
冷却時間:5分(空気中で空冷)
評価指標:シボ転写性(目視) ○(良好)、×(シボ形成不良個所あり)
表皮厚み均一性(目視) ○(均一)、×(不均一、パウダー残存あり)
ピンホール/気泡の有無(目視) ○(無し)、×(有り)
(製造例1)
窒素置換した500L反応機にアクリル酸ブチル53.7kg、アクリル酸−2−メトキシエチル27.2kg、及び臭化第一銅0.649kgを仕込み、攪拌を開始した。引き続きジャケットに温水を通水し、内溶液を70℃に昇温して30分間保持した。その後、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル0.905kgをアセトニトリル6.82kgに溶解させた溶液を仕込み、75℃に昇温を開始した。内温が75℃に到達した時点でペンタメチルジエチレントリアミン94.5mLを加えて、第一ブロックの重合を開始した。
転化率が95%に到達したところで、トルエン79.1kg、塩化第一銅0.448kg、メタアクリル酸メチル43.5kg、及びペンタメチルジエチレントリアミン94.5mLを加えて、第二ブロックの重合を開始した。転化率が90%に到達したところで、トルエン104kgを加えて反応溶液を希釈すると共に反応機を冷却して重合を停止させた。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが67152、分子量分布Mw/Mnが1.37であった。
得られたブロック共重合体溶液に対しトルエン160kgを加えて重合体濃度を25重量%とした。この溶液にp−トルエンスルホン酸を1.29kg加え、反応機内を窒素置換し、30℃で3時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を2.39kg添加した。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m)を用いて固体分を分離した。
濾過後のブロック共重合体溶液約478kgに対し、キョーワード500SH1.79kgを加え反応機内を窒素置換し、30℃で1時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認して反応終了とした。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m)を用いて固体分を分離し、重合体溶液を得た。
引き続き重合体溶液から溶媒成分を蒸発した。蒸発機は株式会社栗本鐵工所製SCP100(伝熱面積1m)を用いた。蒸発機入口の熱媒オイルを180℃、蒸発機の真空度を90Torr、スクリュー回転数を60rpm、重合体溶液の供給速度を32kg/hに設定し重合体溶液の蒸発を実施した。重合体はφ4mmのダイスを通してストランドとし、水槽で冷却後ペレタイザーにより円柱状のペレットを得た(重合体ペレット1)。本ペレットをカーボンブラック(旭カーボン(株)製、旭#15)によりコンパウンド処理した。押出機として日本製鋼所製LABOTEXを使用した。ペレット100重量部に対し、カーボンブラック0.3重量部の比率で原料を供給し、シリンダー温度80〜100℃、スクリュー回転数100rpmでストランドとして排出し、引き続きペレタイザーにより円柱状のペレットとした(重合体ペレット2)。
(製造例2)
製造例1で得られた重合体ペレット1を重炭酸カルシウム(備北粉化工業製、ソフトン3200)、カーボンブラック(旭カーボン(株)製、旭#15)によりコンパウンド処理した。押出機として日本製鋼所製LABOTEXを使用した。ペレット100重量部に対し、炭酸カルシウム43重量部、カーボンブラック0.3重量部の比率で原料を供給し、シリンダー温度80〜100℃、スクリュー回転数100rpmでストランドとして排出し、引き続きペレタイザーにより円柱状のペレットとした。得られたペレットにはシリカ粉末(株式会社龍森製、マイクロ結晶性ソフトシリカA−10)を0.3重量部ドライブレンドした。
(製造例3)
製造例1で得られた重合体ペレット1を重炭酸カルシウム(備北粉化工業製、ソフトン3200)、カーボンブラック(旭カーボン(株)製、旭#15)、シリコーンオイル(東芝シリコーン(株)製、TSF451−1000)、牛脂極度硬化油(日本油脂(株)製)によりコンパウンド処理した。押出機として日本製鋼所製LABOTEXを使用した。ペレット100重量部に対し、炭酸カルシウム43重量部、カーボンブラック0.3重量部、シリコーンオイル0.43重量部、牛脂極度硬化油2.86重量部の比率で原料を供給し、シリンダー温度80〜100℃、スクリュー回転数100rpmでストランドとして排出し、引き続きペレタイザーにより円柱状のペレットとした。得られたペレット表面にシリカ粉末(株式会社龍森製、マイクロ結晶性ソフトシリカA−10)を0.3重量部添加した。
(製造例4)
窒素置換した500L反応機にアクリル酸ブチル79.6kg、アクリル酸t−ブチル1.75kg、及び臭化第一銅0.692kgを仕込み、攪拌を開始した。引き続きジャケットに温水を通水し、内溶液を70℃に昇温して30分間保持した。その後、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.21kgをアセトニトリル7.14kgに溶解させた溶液を仕込み、75℃に昇温を開始した。内温が75℃に到達した時点でペンタメチルジエチレントリアミン0.101Lを加えて、第一ブロックの重合を開始した。
転化率が98%に到達したところで、トルエン106kg、塩化第一銅0.478kg、メタアクリル酸メチル49.1kg、アクリル酸エチル7.98kg、及びペンタメチルジエチレントリアミン0.101Lを加えて、第二ブロックの重合を開始した。転化率が95%に到達したところで、トルエン250kgを加えて反応溶液を希釈すると共に反応機を冷却して重合を停止させた。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが59500、分子量分布Mw/Mnが1.50であった。
得られたブロック共重合体溶液に対しトルエン30kgを加えて重合体濃度を25重量%とした。この溶液にp−トルエンスルホン酸を2.20kg加え、反応機内を窒素置換し、30℃で3時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を2.65kg添加した。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m)を用いて固体分を分離した。
濾過後のブロック共重合体溶液約530kgに対し、キョーワード500SH1.98kgを加え反応機内を窒素置換し、30℃で1時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を1.98kg添加した。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m)を用いて固体分を分離し、重合体溶液を得た。
引き続き重合体溶液から溶媒成分を蒸発した。蒸発機は株式会社栗本鐵工所製SCP100(伝熱面積1m)を用いた。蒸発機入口の熱媒オイルを180℃、蒸発機の真空度を90Torr、スクリュー回転数を60rpm、重合体溶液の供給速度を32kg/hに設定し重合体溶液の蒸発を実施した。重合体はφ4mmのダイスを通してストランドとし、水槽で冷却後ペレタイザーにより円柱状のペレットを得た。
引き続き得られたペレットを2軸押出機に供給し、250℃、滞留時間3分の条件で再押出処理を実施した。溶融樹脂は水中カットでペレット化した(重合体ペレット3)。
(製造例5)
窒素置換した2000L反応機にアクリル酸ブチル228kg、アクリル酸t−ブチル12.9kg、及び臭化第一銅2.15kgを仕込み、攪拌を開始した。引き続きジャケットに温水を通水し、内溶液を70℃に昇温して30分間保持した。その後、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル3.60kgをアセトニトリル20.5kgに溶解させた溶液を仕込み、75℃に昇温を開始した。内温が75℃に到達した時点でペンタメチルジエチレントリアミン0.313Lを加えて、第一ブロックの重合を開始した。
転化率が98%に到達したところで、トルエン313kg、塩化第一銅1.48kg、メタアクリル酸メチル145kg、アクリル酸エチル23.6kg、及びペンタメチルジエチレントリアミン0.313Lを加えて、第二ブロックの重合を開始した。転化率が95%に到達したところで、トルエン400kgを加えて反応溶液を希釈すると共に反応機を冷却して重合を停止させた。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが61400、分子量分布Mw/Mnが1.48であった。
得られたブロック共重合体溶液に対しトルエン487kgを加えて重合体濃度を25重量%とした。この溶液にp−トルエンスルホン酸を7.70kg加え、反応機内を窒素置換し、30℃で3時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を8.00kg添加した。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m)を用いて固体分を分離した。
濾過後のブロック共重合体溶液約1600kgに対し、キョーワード500SH6.00kgを加え反応機内を窒素置換し、30℃で1時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を6.00kg添加した。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m)を用いて固体分を分離し、重合体溶液を得た。
引き続き重合体溶液から溶媒成分を蒸発した。蒸発機は株式会社栗本鐵工所製SCP100(伝熱面積1m)を用いた。蒸発機入口の熱媒オイルを180℃、蒸発機の真空度を90Torr、スクリュー回転数を60rpm、重合体溶液の供給速度を32kg/hに設定し重合体溶液の蒸発を実施した。重合体はφ4mmのダイスを通してストランドとし、水槽で冷却後ペレタイザーにより円柱状のペレットを得た。
引き続き得られたペレットを2軸押出機に供給し、250℃、滞留時間3分の条件で再押出処理を実施した。溶融樹脂は水中カットでペレット化した(重合体ペレット4)。
(製造例6)
製造例4、5で得られた重合体ペレット3、4を重炭酸カルシウム(備北粉化工業製、ソフトン3200)、カーボンブラック(旭カーボン(株)製、旭#15)、牛脂極度硬化油(日本油脂(株)製)、カネエースFM40((株)カネカ製)、ARUFONUG4010(東亞合成(株)製)によりコンパウンド処理した。コンパウンド処理には2軸押出機を使用した。重合体ペレット3を61.6重量部、重合体ペレット4を13.4重量部、重炭酸カルシウムを15重量部、カーボンブラックを1重量部、牛脂極度硬化油を0.1重量部、カネエースFM40を10重量部、ARUFONUG4010を7.5重量部の比率で原料を供給し、コンパウンド処理した。コンパウンド処理された組成物は、引き続きペレタイザーにより円柱状のペレットとした。
[実施例1]
製造例1で得られた重合体ペレット2を用い粉砕処理を実施した。試験設備の概略を第1図に示す。粉砕機は三井鉱山株式会社製UCM150(ディスク径300mm、モーター出力3.7kW)である。原料ペレットは電磁フィーダー1を経由して、粉砕機2へ供給される。原料ペレット及び粉砕物はブロアー4により発生する気流により移送される。粉砕物はサイクロン3で捕捉され回収される。サイクロンを通過した微粒子はバグフィルター5により回収される。
粉砕機のディスク回転数を10000rpmに設定し回転数が安定した後、所定量のシリカ粉末を表面に付与した原料ペレットの供給を開始する。粉砕中はサイクロン入口の気流温度を測定した。所定時間経過後に原料ペレットの供給を停止し、サイクロンにより捕捉された粉砕パウダーを回収した。得られたパウダーを用いて粒子径測定及び粉体特性評価を実施した。また、パウダーの溶融特性を評価するためにシボ付金属板を用い250℃で表皮を作成し、表皮の欠肉、気泡の有無を観察した。結果を表1にまとめる。
(比較例1)
製造例1で得られた重合体ペレット2を用い凍結粉砕処理を実施した。ペレットを液体窒素で充分に冷却後、粉砕機により粉砕物を得た。粉砕物は室温では若干凝集が発生していた。この粉砕物を実施例1と同様の方法でシボ付金属板を用い250℃で表皮を作成し、表皮の欠肉、気泡の有無を観察した。結果を表1に併記する。

[実施例2〜4]
製造例2で得られたペレットを用い、実施例1と同様に実験を実施した。結果を表2に記載する。

[実施例5〜7]
製造例3で得られたペレットを用い、実施例1と同様に実験を実施した。結果を表3に記載する。

[実施例8〜13]
製造例6で得られたペレットを用い粉砕処理を実施した。試験設備の概略を第2図に示す。粉砕機は三井鉱山株式会社製UCM150(ディスク径300mm、モーター出力3.7kW)である。原料ペレットは電磁フィーダー1を経由して、粉砕機2へ供給される。冷却水は定量ポンプ6を経由して、粉砕機2へ供給される。原料ペレット及び粉砕物はブロアー4により発生する気流により移送される。粉砕物はサイクロン3で捕捉され回収される。サイクロンを通過した微粒子はバグフィルター5により回収される。
粉砕機のディスク回転数を10000rpmに設定し回転数が安定した後、所定量のシリカ粉末を表面に付与した原料ペレット、及び冷却水の供給を開始する。粉砕中はサイクロン入口の気流温度を測定した。所定時間経過後に原料ペレットの供給を停止し、サイクロンにより捕捉された粉砕パウダーを回収し、パウダー温度及び表面電位の測定を行った。また、粉砕ディスク表面温度も測定した。得られたパウダーを用いて粒子径測定及び粉体特性評価を実施した。また、パウダーの溶融特性を評価するためにシボ付金属板を用い250℃で表皮を作成し、表皮の欠肉、気泡の有無を観察した。結果を表4に記載する。

【産業上の利用可能性】
本発明の製造方法によるパウダーはスラッシュ成形による自動車内装部品以外に、家電OA機器の表皮や粉体塗料、ペースト、シーラント等に使用できる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー組成物を粉砕して得られるスラッシュ成形用パウダーの製造方法であって、固定刃と回転刃による剪断作用により粉砕することを特徴とするスラッシュ成形用パウダーの製造方法。
【請求項2】
熱可塑性エラストマー組成物がアクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物であることを特徴とする請求項1に記載のスラッシュ成形用パウダーの製造方法。
【請求項3】
アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物100重量部に、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、二酸化珪素、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、金属石鹸からなる群から選ばれる少なくとも1種を、2〜20重量部外添して粉砕することを特徴とする請求項2に記載のスラッシュ成形用パウダーの製造方法。
【請求項4】
アクリル系ブロック共重合体(A)が50〜90重量%のアクリル系重合体ブロック(a)および50〜10重量%のメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体であることを特徴とする請求項2または3に記載のスラッシュ成形用パウダーの製造方法。
【請求項5】
アクリル系重合体ブロック(a)がアクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−メトキシエチル及びアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、メタアクリル系重合体ブロック(b)がメタアクリル酸メチルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであることを特徴とする請求項2から4の何れかに記載のスラッシュ成形用パウダーの製造方法。
【請求項6】
アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物が、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、炭酸カルシウム粉末が10〜100重量部配合されてなることを特徴とする請求項2から5の何れかに記載のスラッシュ成形用パウダーの製造方法。
【請求項7】
アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物が、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、シリコーンオイルを0.1〜10重量部配合されてなることを特徴とする請求項2から6の何れかに記載のスラッシュ成形用パウダーの製造方法。
【請求項8】
アクリル系ブロック共重合体(A)を含む組成物100重量部に対し、2〜20重量部の水を供給しながら粉砕することを特徴とする請求項2から7の何れかに記載のスラッシュ成形用パウダーの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/040252
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514940(P2005−514940)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015326
【国際出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】