説明

スラッシュ成形用樹脂粉末組成物及び成形品

【課題】耐摩耗性により優れるスラッシュ成形用の樹脂粉末組成物を提供することである。
【解決手段】熱可塑性樹脂粉末(A)を主体とし、ポリ乳酸樹脂(B)を含有することを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。該熱可塑性樹脂粉末(A)がポリウレタン樹脂粉末(A1)であり、該ポリ乳酸樹脂(B)の重量が、熱可塑性樹脂粉末(A)とポリ乳酸樹脂(B)との合計重量に対して5〜50重量%であり、ポリ乳酸樹脂(B)の重量平均分子量が10,000〜500,000であるスラッシュ成形用樹脂粉末組成物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装部品の成形用素材として適する熱可塑性樹脂粉末を主体とするスラッシュ成形用の樹脂粉末組成物であって、耐摩耗性に優れるスラッシュ成形用の樹脂粉末組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性に優れたスラッシュ成形材料としては次のようなものが知られている。熱機械分析針入方式による軟化開始温度と軟化終了温度の差が0〜30℃であり、かつ軟化開始温度が135〜200℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂(A)からなり、前記(A)が、対称構造を有するジイソシアネートと、対称構造を有する低分子ジアミンと非対称構造を有する低分子ジアミンとの混合物である低分子ジアミン混合物、必要により低分子ジオールとから構成されるハードセグメント5〜50重量%と、高分子ジオールからなるソフトセグメントとを有するポリウレタン樹脂であって、ウレア基含量と芳香環含量又はジアミン組成比とが特定範囲にあることを特徴とするスラッシュ成形用材料である(特許文献1参照)。しかしながら、該樹脂粉末組成物からなる樹脂成形品においても、耐摩耗性に関してさらに優れるものが求められている。
【特許文献1】特開2005−113010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、耐摩耗性により優れるスラッシュ成形用の樹脂粉末組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は鋭意研究した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、熱可塑性樹脂粉末(A)を主体とし、ポリ乳酸樹脂(B)を含有することを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末組成物;及び該樹脂粉末組成物をスラッシュ成形して得られる樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物から成形された樹脂成形品は、耐摩耗性により優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、熱可塑性樹脂粉末(A)とは、スラッシュ成形用に使用可能な樹脂粉末であれば特に制限はない。好ましい例としては、(以下、熱可塑性を省略して記載する。)ポリウレタン樹脂粉末、塩化ビニル樹脂粉末、ポリオレフィン樹脂粉末、ビニル芳香族樹脂粉末、アクリレート樹脂粉末、共役ジエン樹脂粉末、およびこれらの2種以上の混合物が挙げられ、特に好ましいものはポリウレタン樹脂粉末(A1)である。
【0007】
ポリウレタン樹脂粉末(A1)におけるポリウレタン樹脂は、高分子ポリオール、ポリイソシアネート、必要に応じて低分子ジオール、低分子ジアミン等からなる樹脂である。
【0008】
ポリウレタン樹脂粉末(A1)としては、例えば以下の製造方法で得られるものが挙げられる。
(1)ウレタン結合およびウレア結合を有し、水および分散安定剤存在下で、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとブロックされた鎖伸長剤(例えばケチミン化合物)とを反応させる方法で製造されるもの。具体的には、例えば、特開平8−120041号公報等に記載されたものを使用することができる。
(2)ウレタン結合およびウレア結合を有するウレタンプレポリマーを、該ウレタンプレポリマーが溶解しない有機溶剤および分散安定剤存在下で、鎖伸長剤(例えばジアミンおよび/またはジオール)と反応させる方法で製造されるもの。具体的には、例えば、特開平4−202331号公報等に記載されたものを使用することができる。
(3)ジイソシアネートと高分子ジオールと必要に応じて鎖伸長剤(低分子ジオール、低分子ジアミン)とを反応させることで熱可塑性ポリウレタン樹脂の塊状物を得る。ついで粉末化(例えば冷凍粉砕、溶融状態下に細孔を通し切断する方法)する方法で製造されるもの。
【0009】
塩化ビニル樹脂粉末は、例えば、懸濁重合法又は塊状重合法によって製造した塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマーとエチレン酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニルモノマーを主成分とする共重合体の樹脂粉末が挙げられる。
【0010】
ポリオレフィン樹脂粉末は、一般的にオレフィン系熱可塑性エラストマーに属する物であればいかなるものも使用でき、さらに、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン−ゴム(EPM、EPDM)とプロピレン系重合体等のポリオレフィン等とを複合したオレフィン系熱可塑性エラストマーを挙げることができる。また、α−オレフィン共重合体よりなるオレフィン熱可塑性エラストマー、α−オレフィン共重合体とプロピレン系樹脂から成るオレフィン熱可塑性エラストマーの微粉末も使用することができる。
【0011】
ビニル芳香族樹脂粉末には、芳香族ビニル化合物単独重合体、芳香族ビニル化合物とビニル系モノマーの共重合体の樹脂粉末等が含まれる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ブロモスチレン、ビニルスチレン、ビニルキシレン、フルオロスチレン、エチルスチレンなどが挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0012】
アクリレート樹脂粉末は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単独重合体、(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーの共重合体の樹脂粉末等が挙げられる。
【0013】
共役ジエン樹脂粉末は、共役ジエン系共重合体中の共役ジエン系部分を水素添加または一部水素添加して得られる共重合体であり、例えば、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ランダム共重合体の水素添加物、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物、共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物の樹脂粉末が含まれる。
【0014】
樹脂粉末(A)の数平均分子量は、好ましくは5,000〜50,000、さらに好ましくは8,000〜40,000である。成形体の破断強度の観点から5,000以上が好ましく、熱溶融時の溶融粘度の観点から50,000以下が好ましい。
【0015】
樹脂粉末(A)の体積平均粒径は、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは70〜300μmの範囲にある。
【0016】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物はポリ乳酸樹脂(B)を含有する。ポリ乳酸樹脂(B)は、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とする高分子であるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。他のモノマー単位としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。このような共重合成分は、全単量体成分中、通常0〜30モル%の含有量とするのが好ましく、0〜10モル%であることが好ましい。
【0017】
樹脂成形品の耐摩耗性の観点から、ポリ乳酸樹脂(B)は重量平均分子量が10,000〜500,000であることが好ましい。さらに好ましくは重量平均分子量が30,000〜400,000であり、特に好ましくは重量平均分子量が50,000〜300,000である。ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の分子量をいう。
【0018】
本発明では、熱可塑性樹脂粉末(A)にポリ乳酸樹脂(B)を含有させる工程は特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂とポリ乳酸樹脂(B)とを溶融混練させる工程、ポリ乳酸樹脂(B)を微粉砕し熱可塑性樹脂中に分散させる工程、及び熱可塑性樹脂の前駆体とポリ乳酸樹脂(B)とを溶融混練させる工程が等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ポリウレタン樹脂粉末(A1)を構成するポリウレタン樹脂(a1)が、主として高分子ポリオール(c)とジイソシアネート(d)からなるものであって、ポリ乳酸樹脂(B)と高分子ポリオール(c)とを溶融混練した後、ジイソシアネート(d)と反応させて、ポリウレタン樹脂(a1)を主体としポリ乳酸樹脂(B)を含有する工程によりイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーが製造されるものである。
【0019】
ポリ乳酸樹脂(B)は、耐摩耗性と樹脂の溶融性の観点から、熱可塑性樹脂粉末(A)とポリ乳酸樹脂(B)の合計重量に対して、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは6〜45重量%、特に好ましくは10〜40重量%含有される。
【0020】
高分子ポリオール(c)としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリシロキサングリコール、ポリブタジエングリコール、アクリルジオール、ポリマージオール(高分子量のジオール中でビニル単量体を重合してなるジオール)及びこれら2種以上の混合物等が挙げられる。これらのうち好ましくは、ポリエーテルジオール及びポリエステルジオールである。以下に説明する。
【0021】
ポリエーテルジオール
ポリエーテルジオールとしては、例えば、2個の活性水素原子を有する化合物(2価アルコール、2価フェノール、1級モノアミン等)にアルキレンオキサイドが付加した構造の化合物及びそれらの混合物等が挙げられる。
【0022】
上記2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−及び1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルキレングリコール、環状基を有するジオール(例えば、特公昭45−1474号公報に記載のもの)等が挙げられる。また、2価フェノールとしてはピロガロール、ハイドロキノン、フロログルシン等の単環多価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等のビスフェノール類等が挙げられる。
上記2個の活性水素原子を有する化合物として好ましいものは2価アルコール、特に1,4−ブタンジオールである。
【0023】
AOとしては、例えば、炭素数2〜8のAO及び置換AO、例えばEO、PO、1,2−、1,3−、及び2,3−ブチレンオキサイド、THF、スチレンオキサイド及びこれらの2種以上の併用(ブロックまたはランダム付加)等が挙げられる。これらのうち好ましいものはPO単独及びEOとPOの併用である。
【0024】
ポリエステルジオール
ポリエステルジオールとしては、例えば、(1)縮合ポリエステルジオール、(2)ポリラクトンジオール、(3)ポリカーボネートジオール、及びこれらの2種以上の併用が挙げられる。
上記(1)は例えばジオール(低分子ジオール及び/又はポリエーテルジオール等)の1種以上とジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体[低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、酸無水物、ハライド(クロライド等)等]との縮合重合、又は、ジオールとジカルボン酸無水物及びAOとの反応により製造することができる。
上記(2)は上記ジオールの1種以上を開始剤としてラクトンを開環重合して得られる。
上記(3)は上記ジオールとアルキレンカーボネート(エチレンカーボネート)との反応により製造することができる。
【0025】
上記(1)、(2)及び(3)のための原料ジオールのうち低分子ジオールとしては、例えば、脂肪族低分子ジオール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等);環状基を有する低分子ジオール類[例えば特公昭45−1474号公報に記載のもの:1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、m−またはp−キシリレングリコール等];ビスフェノール類のアルキレンオキサイド低モル付加物(数平均分子量500未満);及びこれらの2種以上の併用等を挙げることができ、ポリエーテルジオールとしては、例えば、先に説明したポリエーテルジオールの1種以上等を挙げることができる。好ましいのは1,4−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールである。
【0026】
上記(1)のための原料ジカルボン酸としては、例えば、炭素数2〜10の脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸等)、炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸等)及びこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
上記(1)の好ましい例としては、例えば、ポリブチレンアジペートジオール及びポリヘキサメチレンイソフタレートジオール(以下、それぞれPBA及びPHIPと略記)ならびにこれらの併用等を挙げることができる。
上記(2)のための原料ラクトンとしては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン及びこれらの2種以上の併用等が挙げられる。
【0027】
ジイソシアネート(d)としては、例えば、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、及び炭素数4〜15の脂環族ジイソシアネートであり、さらに好ましいものはこれらのうち対称構造を有するもの、例えば、1,2−エチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、m−及び/またはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。特に好ましいものはHDIである。
【0028】
必要に応じて低分子ジオールが添加される。低分子ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−及び1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルキレングリコール、環状基を有するジオール(例えば、特公昭45−1474号公報に記載のもの)等が挙げられる。
【0029】
溶融混練する条件は、通常25〜250℃、好ましくは50〜200℃である。溶融混練時間は通常2分〜10時間、好ましくは5分〜5時間である。ポリ乳酸(B)の加水分解を抑制するために、例えば水分0.05重量%以下の条件下での混練、及びカルボジイミド化合物を添加しての混練が好ましい。
【0030】
溶融混練装置としては、例えば、プラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置、ミキシングヘッド、ミキシングノズル等が装備された二液混合装置、単軸押出機、二軸押出機等のような連続式の溶融混練装置を用いることができる。
【0031】
高分子ポリオール(c)とポリ乳酸(B)との混練後の構造は分子間力顕微鏡等で確認できる。高分子ポリオール(c)が海成分、ポリ乳酸(B)が島成分なるポリマーアロイを形成することが好ましい。
【0032】
上記で製造されたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、例えば、水および分散安定剤存在下でブロックされた鎖伸長剤(例えばケチミン化合物)とを反応させる方法でポリウレタン樹脂粉末(A1)を製造できる。鎖伸長剤としては、例えば、炭素数2〜18の脂肪族ジアミン及び/又は低分子ジオール及び/又は水が挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂粉末(A)には、必要により、無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとは、例えばカオリン、タルク、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、ガラス繊維、黒鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、アルミナ、マグネシア、ウォラストナイト、ゾノトライト、ウィスカー、金属粉末が挙げられる。これらのなかで、熱可塑性樹脂の結晶化促進の観点から、カオリン、タルク、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウムが好ましく、特にカオリン、タルクがさらに好ましい。
無機フィラー(A)の体積平均粒径は、熱可塑性樹脂中への分散性の観点から好ましくは0.1〜30μm、さらに好ましくは1〜20μm、特に好ましくは5〜10μmである。
【0034】
本発明の樹脂粉末(A)には、必要により、安定剤(E)を添加することができる。
【0035】
安定剤(E)とは、分子中に炭素原子間の二重結合(置換基を有していてもよいエチレン結合)(ただし芳香環中の二重結合は除く)、三重結合(置換基を有していてもよいアセチレン結合)を有する化合物である。(E)の具体例としては、(メタ)アクリル酸と多価アルコール類(2〜10価またはそれ以上の多価アルコール。以下同様)とのエステル[例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等];(メタ)アリルアルコールと2〜6価、またはそれ以上の多価カルボン酸類とのエステル[例えばジアリルフタレート、トリメリット酸トリアリルエステル等];多価アルコール類のポリ(メタ)アリルエーテル[例えばペンタエリスリトール(メタ)アリルエーテル等];多価アルコール類のポリビニルエーテル[例えばエチレングリコールジビニルエーテル等];多価アルコール類のポリプロペニルエーテル[例えばエチレングリコールジプロペニルエーテル等];ポリビニルベンゼン類[例えばジビニルベンゼン等]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは、ラジカル重合速度の点で、(メタ)アクリル酸と多価アルコール類とのエステルであり、特に好ましいものはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートである。
【0036】
安定剤(E)は本発明の熱可塑性樹脂粉末(A)の重量に対して、好ましくは0〜8重量%、さらに好ましくは3〜5重量%含有される。
【0037】
また、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物には、必要に応じて、上記の成分以外に、本発明に特有の効果である耐摩耗性を発現できる範囲で、添加助剤(F)を添加することができる。添加助剤(F)としては、公知慣用の顔料、可塑剤、離型剤、有機充填剤、ブロッキング防止剤、分散剤等が添加できる。
【0038】
熱可塑性樹脂粉末(A)がポリウレタン樹脂粉末(A1)である場合は、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物を製造する工程は、
(1)高分子ポリオールとジイソシアネートからウレタンプレポリマーを製造する工程、(2)熱可塑性ポリウレタン系樹脂粉末(A1)の製造工程、
(3)(A1)に必要により安定剤(E)及び添加助剤(F)を添加混合する配合工程
からなる。
【0039】
上記混合に使用する混合装置としては、公知の粉体混合装置を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機、流体運動型混合機のいずれも使用できる。例えば固定容器型混合機としては高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサー(登録商標)等)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)や円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標)等)を使ってドライブレンドする方法が良く知られている。これらの方法の中で、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)、および円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標、以下省略)等)を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物の体積平均粒径は、好ましくは熱可塑性樹脂粉末(A)の体積平均粒径の範囲と同様である。
【0041】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物からなる樹脂成形品はスラッシュ成形法で成形することができる。例えば、本発明の粉末組成物が入ったボックスと加熱した金型を共に振動回転させ、パウダーを型内で溶融流動させた後、冷却後、固化させ、表皮を製造する方法で好適に実施することができる。
上記金型温度は好ましくは200〜300℃、さらに好ましくは210〜280℃である。
【0042】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物で成形された表皮厚さは、0.5〜1.5mmが好ましい。成形表皮は、表面を発泡型に接するようにセットし、ウレタンフォームを流し、裏面に5mm〜15mmの発泡層を形成させて、樹脂成形品とすることができる。
【0043】
本発明の樹脂成形品は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等に好適に使用される。
【0044】
以下、製造例、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0045】
実施例1
プラストミルにポリ乳酸(重量平均分子量190,000)23.4部、ブチレンアジペート(重量平均分子量1,000、水酸基価112)54.5部、安定剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製 イルガノックス1010)0.1部を仕込み、200℃で30分溶融混練し、ポリ乳酸アロイ(A1)を得た。
内容積3Lのリボン型攪拌翼付き反応容器にポリ乳酸アロイ(A1)78.0部を仕込み、次いでカオリン(Engelhard Corporation製、ASP−400P)8.0部、2−エチルヘキサノール0.8部、安定剤(チヌビン571)0.2部を添加し混合した後、50℃まで冷却した。引き続きヘキサメチレンジイソシアネートを13.1部仕込み、90℃で6時間反応させウレタンプレポリマー(UP−1)100部を得た。
続いて可塑剤85%(EB−300三洋化成工業(株)製)とカーボンブラック15%を混練してなるブラック着色剤3部を添加し、着色ウレタンプレポリマー(UP−1’)103部を得た。
得られた着色ウレタンプレポリマー(UP−1’)100部とヘキサメチレンジアミンのジケチミン化物10部を攪拌棒で1分間混合した混合液に分散剤水溶液(三洋化成工業(株)製 サンスパールPS−800(無水マレイン酸ジイソブチレン共重合体のナトリウム塩)10%水溶液)(DS−1)300部を加えてミキサー(ULTRA−TURRAX T50、IKA−Labortechnik製)で混合攪拌し、乳化分散した。
その後、得られた分散スラリーの脱溶剤、遠心脱水後乾燥機で乾燥し、着色樹脂粉末を得た。篩で分級後、得られた樹脂粉末103部に安定剤(三洋化成工業(株)製、ネオマーDA−600)4部、離型剤0.2部、安定剤0.3部、シリカ0.5部を添加し、混合することにより着色スラッシュ成形用材料(U−1)を得た。(U−1)は、ポリ乳酸樹脂(B)の含有量が、ポリウレタン樹脂粉末(A1)とポリ乳酸樹脂(B)との合計重量に対して20.6重量%であった。
【0046】
実施例2
プラストミルにポリ乳酸(重量平均分子量120,000)41.6部、ブチレンアジペート(重量平均分子量1,000、水酸基価112)41.6部、安定剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製 イルガノックス1010)0.1部を仕込み、200℃で30分溶融混練し、ポリ乳酸アロイ(A2)を得た。
内容積3Lのリボン型攪拌翼付き反応容器にポリ乳酸アロイ(A2)83.3部を仕込み、次いでカオリン(Engelhard Corporation製、ASP―400P)6.1部、2−エチルヘキサノール0.6部、安定剤(チヌビン571)0.1部を添加し混合した後、50℃まで冷却した。引き続きヘキサメチレンジイソシアネートを10.0部仕込み、90℃で6時間反応させウレタンプレポリマー(UP−2)100部を得た。
その後、実施例1と同様にして着色ウレタンポリマー(UP−2’)、着色スラッシュ成形用材料(U−2)を得た。(U−2)は、ポリ乳酸樹脂(B)の含有量が、ポリウレタン樹脂粉末(A1)とポリ乳酸樹脂(B)との合計重量に対して36.7重量%であった。
【0047】
実施例3
プラストミルにポリ乳酸(重量平均分子量220,000)7.3部、ブチレンアジペート(重量平均分子量1,000、水酸基価112)65.9部、安定剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製 イルガノックス1010)0.1部を仕込み、200℃で30分溶融混練し、ポリ乳酸アロイ(A3)を得た。
内容積3Lのリボン型攪拌翼付き反応容器にポリ乳酸アロイ(A3)73.3部を仕込み、次いでカオリン(Engelhard Corporation製、ASP−400P)9.6部、2−エチルヘキサノール1.0部、安定剤(チヌビン571)0.2部を添加し混合した後、50℃まで冷却した。引き続きヘキサメチレンジイソシアネートを15.8部仕込み、90℃で6時間反応させウレタンプレポリマー(UP−3)100部を得た。
その後、実施例1と同様にして着色ウレタンポリマー(UP−3’)、着色スラッシュ成形用材料(U−3)を得た。(U−3)は、ポリ乳酸樹脂(B)の含有量が、ポリウレタン樹脂粉末(A1)とポリ乳酸樹脂(B)との合計重量に対して6.5重量%であった。
【0048】
比較例1
内容積3Lのリボン型攪拌翼付き反応容器にブチレンアジペート(重量平均分子量1,000、水酸基価112)71.1部、安定剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製 イルガノックス1010)0.1部、カオリン(Engelhard Corporation製、ASP−400P)10.4部、2−エチルヘキサノール1.1部、安定剤(チヌビン571)0.2部を添加し混合した後、50℃まで冷却した。引き続きヘキサメチレンジイソシアネートを17.1部仕込み、90℃で6時間反応させウレタンプレポリマー(UP−4)100部を得た。
続いて可塑剤85%(EB−300三洋化成工業(株)製)とカーボンブラック15%を混練してなるブラック着色剤3部を添加し、着色ウレタンプレポリマー(UP−4’)103部を得た。
得られた着色ウレタンプレポリマー(UP−4’)100部とヘキサメチレンジアミンのジケチミン化物10部を攪拌棒で1分間混合した混合液に分散剤水溶液(三洋化成工業(株)製 サンスパールPS−800(無水マレイン酸ジイソブチレン共重合体のナトリウム塩)10%水溶液)(DS−1)300部を加えてミキサー(ULTRA−TURRAX T50、IKA−Labortechnik製)で混合攪拌し、乳化分散した。
その後、得られた分散スラリーの脱溶剤、遠心脱水後乾燥機で乾燥し、着色樹脂粉末を得た。篩で分級後、得られた樹脂粉末103部に安定剤(三洋化成工業(株)製、ネオマーDA−600)4部、離型剤0.2部、安定剤0.3部、シリカ0.5部を添加し、混合することにより着色スラッシュ成形用材料(U−4)を得た。
【0049】
実施例1〜3の着色スラッシュ成形用材料(U−1)〜(U−3)、比較例1の着色スラッシュ成形用材料(U−4)を用いて、下記に示す方法で溶融性、耐摩耗性、耐摩擦性、耐傷付性の試験を実施し、結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
評価方法
・溶融性
予め270℃に加熱したシボ付きNi電鋳型に着色スラッシュ成形用材料を流し込み、10秒後余分な着色スラッシュ成形用材料を排出する。室温下で90秒間放置した後、水冷、脱型すると膜厚1mm程度の均一な表皮が得られた。
得られた表皮裏面の状態を目視で確認した。
○・・・均一に溶融し、光沢を有している。
△・・・一部未溶融の部分があるが、光沢を有している。
×・・・未溶融部分が多く、光沢がない。
【0052】
評価方法
・耐摩耗試験
幅約40mm、長さ約200mmの試験片を切り取り、平面摩耗試験機(型番 FR−T、スガ試験機製)に取り付け、白綿布を摩擦子にかぶせて固定する。摩擦子の荷重2.0kgとして試験片を5回往復し、耐摩耗試験を行った。
試験片の表面摩耗状態を観察し、下記判定基準にて評価した。
◎・・・全く異常が認められない。
○・・・わずかに異常が認められるが目立たない。
△・・・わずかに異常が認められるがはっきりと見える。
×・・・著しく異常が認められる。
【0053】
評価方法
・耐摩擦試験
幅約30mm、長さ約200mmの試験片を切り取り、染色物摩擦堅牢度試験機(大栄科学精器製作所製)に取り付け、白綿布を摩擦子にかぶせて固定する。摩擦子の荷重200gとして試験片を100回往復し、耐摩擦試験を行った。
試験片の表面状態を観察し、下記判定基準にて評価した。
◎・・・全く異常が認められない。
○・・・わずかに異常が認められるが目立たない。
△・・・わずかに異常が認められるがはっきりと見える。
×・・・著しく異常が認められる。
【0054】
評価方法
・耐傷付性試験
直径120mmの試験片を切り取り、テーパースクラッチテスター(東洋精機製)のターンテーブルに固定する。200gの荷重で刃を試料上に置き、試験片を2cm以上引っかき、耐傷付性試験を行った。
試験片の表面傷付き状態を観察し、下記判定基準にて評価した。
◎・・・全く異常が認められない。
○・・・わずかに異常が認められるが目立たない。
△・・・わずかに異常が認められるがはっきりと見える。
×・・・著しく異常が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物から成形される表皮は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等の表皮として好適に使用される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂粉末(A)を主体とし、ポリ乳酸樹脂(B)を含有することを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂(B)の重量が、熱可塑性樹脂粉末(A)とポリ乳酸樹脂(B)との合計重量に対して5〜50重量%である請求項1に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂粉末(A)がポリウレタン樹脂粉末(A1)である請求項1又は2に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂(B)の重量平均分子量が10,000〜500,000である請求項1〜3のいずれか1項に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂粉末組成物をスラッシュ成形して得られる樹脂成形品。
【請求項6】
自動車内装材である請求項5に記載の樹脂成形品。
【請求項7】
ポリウレタン樹脂粉末(A1)を構成するポリウレタン樹脂(a1)が、主として高分子ポリオール(c)とジイソシアネート(d)からなるものであって、ポリ乳酸樹脂(B)と高分子ポリオール(c)とを溶融混練した後、ジイソシアネート(d)と反応させて、ポリウレタン樹脂(a1)を主体としポリ乳酸樹脂(B)を含有するスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を得ることを特徴とする請求項3又は4に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−308599(P2008−308599A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158492(P2007−158492)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】