説明

スラッシュ成形用樹脂粉末組成物

【課題】本発明の目的は、成形時に良好な溶融流動性を改善しながら強度に優れた成形体を与える、アクリル系ブロック共重合体組成物を得ることである。
【解決手段】金属イオンで中和されたカルボキシル基を分子内に有するメタクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)を有するブロック共重合体(A)であって、単位重量あたりのブロック共重合体(A)中の金属イオンにより中和されているカルボキシル基のモル濃度[M]とブロック共重合体(A)中のカルボキシル基のモル濃度[C]の比[M]/[C]が、0.2〜0.6であるブロック共重合体(A)および添加剤(B)を含有するスラッシュ成形用樹脂粉末組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度を有するスラッシュ成形用樹脂粉末組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スラッシュ成形用樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂やポリウレタン樹脂などが広く使用されているが、環境に対する負荷やコストの観点で代替材料が検討されている。
アクリル樹脂は、ブロック体を構成する成分を適宜選択することで、表皮材として要求される物性を満足させることが可能である。特許文献1では、不飽和カルボン酸エステルを共重合成分として含有するアイオノマーによる代替が考えられている。また、特許文献2では、アクリル系ブロック共重合体と架橋剤からなる組成物とすることで成形時に良好な溶融流動性を改善しながら耐熱性に優れた成形体が得られることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−226763号公報
【特許文献2】特開2010−265339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、アイオノマー成分により樹脂強度の向上は期待できるもののポリエチレングリコールなどの低分子化合物の添加により柔軟性を向上させているため、高温下でのべたつきに問題があった。特許文献2では、エポキシ結合により架橋させることで高強度化を図ることができるが、成形性が十分ではなかった。
本発明の目的は、成形時に良好な溶融流動性を改善しながら強度に優れた成形体を与える、アクリル系ブロック共重合体組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
金属イオンで中和されたカルボキシル基を分子内に有するメタクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)を有するブロック共重合体(A)であって、単位重量あたりのブロック共重合体(A)中の金属イオンにより中和されているカルボキシル基のモル濃度[M]とブロック共重合体(A)中のカルボキシル基の総モル濃度[C]の比[M]/[C]が、0.2〜0.6であるブロック共重合体(A)および添加剤(B)を含有するスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明のブロック共重合体(A)の構造は、いずれの構造のものであってもかまわない。ブロック共重合体の物性、または組成物の物性の点から、メタクリル系重合体ブロック(a)をa、アクリル系重合体ブロック(b)をbと表現したとき、(a−b)n型、b−(a−b)n型および(a−b)n−a型(nは1以上の整数であり、好ましくは1〜3の整数)からなる群より選択される少なくとも1種のブロック共重合体からなることが好ましい。特に限定されないが、これらの中でも、加工時の取り扱い容易性や、組成物の物性の点からa−b型のジブロック共重合体、a−b−a型のトリブロック共重合体、またはこれらの混合物が好ましい。
【0007】
本発明の金属イオンで中和されたカルボキシル基を分子内に有するメタクリル系重合体ブロック(a)は、カルボキシル基を有する単量体(a1)とカルボキシル基を有さないメタクリル酸エステル(a2)を主成分とする単量体とを共重合してなる重合体ブロック(a’)が金属イオンにより中和された重合体ブロックであることが好ましい。
【0008】
本発明のブロック共重合体(A)の構成部位であるメタクリル系重合体ブロック(a)は金属イオンによって中和されたカルボキシル基を有することで樹脂強度が向上し、スラッシュ成形用樹脂として有用となる。
【0009】
メタクリル酸エステル(a2)は、樹脂強度の観点からメタクリル系重合体ブロック(a)の重量に基づいて50〜95重量%であることが好ましく、55〜90重量%含有することが更に好ましい。
【0010】
カルボキシル基含有単量体(a1)としては、カルボキシル基と重合性不飽和基を有する単量体であり、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及び2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸等が挙げられる。反応性の観点から好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸である。
【0011】
メタクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタクリル酸エステル(a2)としては、メタクリル酸脂肪族炭化水素(たとえば炭素数1〜18のアルキル)エステル[メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘプチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリルなど];メタクリル酸脂環式炭化水素エステル[メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなど];メタクリル酸芳香族炭化水素エステル[メタクリル酸フェニル、メタクリル酸トリルなど];メタクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル[メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸3−メトキシブチルなど]などがあげられる。これらは少なくとも1種用いられる。これらの中でも、加工性、コストおよび入手しやすさの点で、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0012】
メタクリル系重合体ブロック(a)は金属イオンにより中和されたカルボキシル基を有している。金属イオンとしては、Na、K、Li、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Cu2+、Co2+、Ni2+、Mn2+、Al3+などの1価から3価の金属の金属イオンを挙げることができる。金属イオン源は、重合体ブロック(a’)中の未中和のカルボキシル基を中和することができる塩基性金属化合物であれば、特に限定されない。塩基性金属化合物としては、金属水酸化物[水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅など];金属酸化物[酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅など];金属炭酸化物[炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなど];酢酸亜鉛などが挙げられる。これらの塩基性金属化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
重合体ブロック(a’)の中和方法としては、特に限定されず、例えば、重合体ブロック(a’)を有するブロック重合体(A’)および塩基性金属化合物とを、押出機を用いて、150℃〜230℃で溶融混合する方法等が挙げられる。
【0014】
メタクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、50℃〜130℃となるように設計するのが好ましい。これは、パウダースラッシュ成形材料は、無加圧下でも流動する必要があり、メタクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度が130℃を越えると、溶融粘度が高くなり成形性が悪くなる傾向にある一方で、ガラス転移温度が50℃未満では、樹脂組成物が常温でも流動性を有し、粒子としての性状を保持することが出来なくなるためである。
【0015】
メタアクリル系重合体ブロック(a)および後述のアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度(Tg)の設定は、下記のFox式に従い、各重合体部分の単量体の重量比率を設定することにより行うことができる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wm/Tgm
1+W2+…+Wm=1
(式中、Tgは重合体部分のガラス転移温度を表わし、Tg1,Tg2,…,Tgmは各重合体ホモポリマーのガラス転移温度を表わす。また、W1,W2,…,Wmは各重合単量体の重量比率を表わす。)
【0016】
前記Fox式における各重合単量体のガラス転移温度は、たとえば、Polymer HandbookThird Edition(Wiley−Interscience 1989)記載の値を用いればよい。
【0017】
アクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル酸エステルを主成分とする単量体成分を重合してなるブロックである。
【0018】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エステルとしては、アクリル酸脂肪族炭化水素(たとえば炭素数1〜18のアルキル)エステル[アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリルなど];アクリル酸脂環式炭化水素エステル[アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニルなど];アクリル酸芳香族炭化水素エステル[アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイルなど];アクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル[アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチルなど]等が挙げられる。
【0019】
アクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルおよびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアクリル酸エステル(b1)50〜100重量%と、これと共重合可能な異種のアクリル酸エステル及び/又はビニル系単量体0〜50重量%とからなるのが引張強度等の機械特性の観点から好ましい。なお、これらのアクリル酸エステル(b1)の割合が50重量%未満であると、柔軟性が損なわれる場合がある。
【0020】
アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度は、スラッシュ成形材料のゴム弾性の観点から、25℃以下であるのが好ましく、0℃以下であるのが更に好ましく、−20℃以下であるのが特に好ましい。アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度が、スラッシュ成形材料の使用される環境の温度より高いと、柔軟性や、ゴム弾性が発現されにくくなる。
【0021】
メタクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)を有するブロック共重合体(A)を製造する方法は、とくに限定するものではないが、開始剤を用いた制御重合法を用い、メタクリル系重合体ブロック(a’)及びアクリル系重合体ブロック(b)を有するアクリル系ブロック共重合体(A’)を製造した後、金属イオンにより重合体ブロック(A’)が有するカルボキシル基を中和することで製造することが好ましい。制御重合法としては、リビングアニオン重合法や連鎖移動剤を用いるラジカル重合法、リビングラジカル重合法があげられる。なかでも、ブロック共重合体の分子量および構造の制御の点から、リビングラジカル重合法により製造するのが好ましい。
ブロック共重合体(A)は、ブロック重合体(A’)および塩基性金属化合物とを、押出機を用いて、150℃〜230℃で溶融混合する方法等で得ることができる。
【0022】
リビングラジカル重合法は、重合末端の活性が失われることなく維持されるラジカル重合法である。リビング重合とは狭義においては、末端が常に活性をもち続ける重合のことを指すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれる。ここでの定義も後者である。
【0023】
リビングラジカル重合法としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)、1994年、第116巻、7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1994年、第27巻、7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちいずれの方法を使用するかはとくに制約はないが、制御の容易さの点などから国際公開第2004/13192号パンフレットなどに記載された原子移動ラジカル重合法を用いる方法が好ましい。
【0024】
ブロック共重合体(A)を構成するメタクリル系ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、成形時の形状の保持性の観点から、組成比の好ましい範囲は、(a)が10〜60重量%、(b)が40〜90重量%であり、さらに好ましくは、(a)が15〜50重量%、(b)が50〜85重量%である。
【0025】
金属イオンによる中和度は、樹脂強度の観点から、単位重量あたりのブロック共重合体(A)中の金属イオンにより中和されているカルボキシル基のモル濃度[M]とブロック共重合体(A)の総カルボキシル基のモル濃度[C]の比[M]/[C]が、0.2〜0.6であることが好ましく、0.3〜0.5であることが更に好ましい。
【0026】
ブロック共重合体(A)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)で測定した数平均分子量(以下、Mnと略記)が20,000〜100,000となるように調整するのが好ましい。Mnが20,000より小さいと、スラッシュ成形用樹脂として充分な機械特性を発現出来ない場合があり、逆にMnが100,000より大きいと、加工特性が低下する場合がある。
【0027】
本発明において、ブロック共重合体のMnは、GPCを用いて以下の条件で測定される。
装置(一例) : 東ソー(株)製 HLC−8120
カラム(一例) : TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量 : 100μl
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 東ソー(株)製 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点(分子量 500 1050 2800 5970 9100 18100 37900 96400 190000 355000 1090000 2890000)
また、Mnの測定は、試料をテトラヒドロフランに溶解し、不溶解分をグラスフィルターでろ別したものを試料溶液とする。
【0028】
ブロック共重合体(A)は、その他の樹脂(D)を含有してもよい。そのような他の樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル‐ブタジエン系樹脂(例えばABS系樹脂)、塩化ビニル‐酢酸ビニル系共重合体等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
その他の樹脂(D)としては、生産性の観点からアクリル系樹脂、ブタジエン樹脂、酢酸ビニル系樹脂が好ましい。
【0029】
その他の樹脂(D)の重量は、生産性の観点から(A)と(D)の合計重量に基づいて、0〜40重量%含まれるのが好ましい。
【0030】
ブロック共重合体(A)とその他の樹脂(D)との混合方法は特に限定されず、通常行われる公知の方法等でよく、粉体混合、溶融混合のいずれでもよい。
【0031】
溶融混合する場合の混合装置としては、反応槽等のバッチ式混合装置および連続式混合装置が挙げられる。適正な温度で短時間で均一に混合するためには、連続式混合装置が好ましい。連続混合装置としては、エクストルーダー、コンティニアスニーダーおよび3本ロール等が挙げられる。
粉体混合する場合の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサーおよびバンバリーミキサー等が挙げられる。好ましくはヘンシェルミキサーである。
【0032】
本発明で用いられるスラッシュ成形用樹脂粉末の製造方法としては特に限定されないが、例えば懸濁重合により樹脂粉末を得る方法やブロック状またはペレット状のスラッシュ成形用樹脂組成物を冷凍粉砕法、常温粉砕法の方法で粉砕し、樹脂粉末を得る方法がある。
【0033】
これらの結果得られた粉体は、ふるい等を用いて、粒径100〜500μmのものだけを分取するのが好ましく、150〜300μmのものだけを分取するのが最も好ましい。100μmより粒径の小さいものを含んだ粉体は、粉体同士の凝集を促進させる原因となり、ハンドリング性が低下すると共に粉体流動性が悪化する。このため、パウダースラッシュ成形に用いたときに、金型の端部まで粉体が十分に届かず、成形体の意匠性が損なわれる。また、500μmより大きな粒径のものを含んだ粉体は、パウダースラッシュ成形に用いたときに、粒径の大きな粉体が十分に溶融しないため、成形体の意匠性が損なわれることとなる。
【0034】
また、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物とは、上記のブロック共重合体(A)に、成形性の観点から添加剤(B)を添加する。添加剤(B)としてはフィラー、安定剤、顔料、離型剤、ブロッキング防止剤及び分散剤等が挙げられる。
添加剤(B)の添加量は(A)と(B)の合計重量に基づいて、0.05〜50重量%であり、好ましくは0.1〜30重量%、更に好ましくは0.5〜20重量%である。
【0035】
フィラーとは、カオリン、タルク、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、ガラス繊維、黒鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、アルミナ、マグネシア、ウォラストナイト、ゾノトライト、ウィスカー及び金属粉末等の無機フィラーが挙げられる。これらのなかで、結晶化促進の観点から、カオリン、タルク、シリカ、酸化チタン及び炭酸カルシウムが好ましく、カオリン及びタルクが更に好ましい。
【0036】
無機フィラーの体積平均粒径は、分散性の観点から好ましくは0.1〜30μm、更に好ましくは1〜20μm、特に好ましくは5〜10μmである。
【0037】
安定剤とは、例えば公知の酸化防止剤及び/または光安定剤である。
酸化防止剤とは、例えばフェノール系(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール等)、ビスフェノール系(2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等)、リン系(トリフェニルフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト等)等が挙げられる。
光安定剤とは、紫外線吸収剤[ベンゾフェノン系(2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等)、ベンゾトリアゾール系(2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等)等]、クエンチャー[ニッケルキレート系等]、サリチル酸系[フェニルサリシレート等]、ラジカル補足剤[ヒンダードアミン系((ビス2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等)等が挙げられる。
【0038】
顔料としては、例えば公知の有機顔料及び/または無機顔料を使用することができる。有機顔料としては不溶性アゾ顔料、可溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料及びキナクリドン系顔料等が挙げられ、無機顔料としてはカーボンブラック、クロム酸塩、フェロシアン化合物、金属酸化物、硫化セレン化合物及び金属塩類(硫酸塩、硅酸塩、炭酸塩、リン酸塩等)金属粉末等が挙げられる。
【0039】
離型剤としては、公知の離型剤が使用でき、フッ素系離型剤(リン酸フルオロアルキルエステル等)、シリコン系離型剤(ジメチルポリシロキサン、アミノ変性ジメチルポリシロキサン、カルボキシル変性ジメチルポリシロキサン及びエーテル変性ジメチルポリシロキサン等)、脂肪酸エステル系離型剤[アルカン(炭素数11〜24)酸アルケニル(炭素数6〜24)エステル等]、リン酸エステル系離型剤(リン酸トリブチルエステル等)等が挙げられる。
【0040】
ブロッキング防止剤としては、例えば公知の無機系ブロッキング防止剤及び/または有機系ブロッキング防止剤等を使用することができる。無機系ブロッキング防止剤としては、例えばシリカ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム等が挙げられ、有機系ブロッキング防止剤としては、例えば粒子径10μm以下の熱硬化性樹脂(熱硬化性ポリウレタン樹脂、グアナミン系樹脂、エポキシ系樹脂等)及び粒子径10μm以下の熱可塑性樹脂(熱可塑性ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート樹脂等)及びマレイミド樹脂粉末等が挙げられる。
【0041】
上記添加剤(B)をブロック共重合体(A)に添加、混合するときに使用する混合装置としては、公知の粉体混合装置等を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機、流体運動型混合機のいずれも使用できる。例えば固定容器型混合機としては高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサー(登録商標)等)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)や円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標)等)を使ってドライブレンドする方法が良く知られている。これらの方法の中で、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)、および円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標、以下省略)等)を使用するのが好ましい。
【0042】
本発明のスラッシュ成形用樹脂組成物をスラッシュ成形法で成形するには、例えば、本発明の粉末組成物が入ったボックスと200〜280℃に加熱した金型を共に振動回転させ、パウダーを型内で溶融流動させた後冷却後固化させ、シートを製造する方法で好適に実施することができる。
本発明の成形用材料で成形されたシート厚さは、0.5〜1.5mmが好ましい。
これらの成形シートは金型形状により様々な形状に対応する事ができ、例えばインスツルメントパネルやドアトリム等の自動車内装部品、家電部品、玩具、雑貨品等のスラッシュ成形用材料として適する。
【0043】
以下、製造例、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0044】
<重合反応の転化率測定法>
本実施例に示す重合反応の転化率は以下に示すガスクロマトグラフィー分析装置で測定した。
使用機器:(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−14B
試料調整:サンプルを酢酸エチルにより約3倍に希釈した。
【0045】
製造例1
15Lオートクレーブに、反応器内を減圧にした状態でアクリル酸−n−ブチル(BA)168.0部、アクリル酸エチル(EA)45.0部を仕込んだ。次に臭化第一銅0.32部、臭化第二銅0.024部を仕込み、30℃で15分間攪拌した。その後、ペンタメチルジエチレントリアミン0.11部を仕込み、75℃に昇温しながら、さらに30分間攪拌を行い、第一ブロックとなるアクリル系重合体ブロック(b)の重合を開始した。BA転化率が99.0%に到達したところで、トルエン142.0部、塩化第一銅0.63部、メタクリル酸メチル(MMA)63.0部、アクリル酸(AA)8.6部を仕込み、ペンタメチルジエチレントリアミン0.11部を加えて、第二ブロックとなるメタクリル系重合体ブロック(a’)の重合を開始した。45分ごとにペンタメチルジエチレントリアミン1.1部を加えていき、MMA転化率が94.8%に到達したところで、トルエン212.77部を加え、反応器を冷却して反応を終了させた。得られたa’−b−a’型のブロック共重合体は、(b)は、BAとEAのモル比はBA/EA=3.3、(a’)では、MMA/AA=5.3、ブロック(a’)とブロック(b)の重量比は、(b)/(a’)=3.0である。
【0046】
上記のブロック共重合体を含有する反応溶液にトルエンを加えて、重合体濃度が25%の重合体トルエン溶液を得た。この溶液100部にp−トルエンスルホン酸を0.41部加え、反応器内を窒素置換し、30℃で3時間撹拌した。
【0047】
更に酸化防止剤としてイルガノックス1010を0.15部添加した後、反応器内を窒素置換し、耐圧反応器中で、150℃で4時間攪拌した。30℃に冷却した反応液に固体塩基としてキョーワード500SH(協和化学製)1.75部を加えた後、反応器内を窒素置換して、2時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認して反応終了とした。その後反応器を窒素により0.1〜0.4MPaに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた上に示した加圧濾過機を用いて固体分を分離し、ブロック共重合体を含有する重合体溶液を得た。
【0048】
ブロック共重合体を含有する重合体溶液100部に塩基性金属化合物として水酸化マグネシウムを1.1部加え、重合体溶液から溶媒成分を蒸発した。蒸発機は株式会社栗本鐵工所製SCP100を用いた。蒸発機入口の熱媒オイルを180℃、蒸発機の真空度を5kPa、スクリュー回転数を60rpm、重合体溶液の供給速度を32kg/hに設定し重合体溶液の蒸発を実施した。重合体は排出機を通じ、φ4mmのダイスにてストランドとし、アルフローH50ES(主成分:エチレンビスステアリン酸アミド、日本油脂(株)製)の3%懸濁液で満たした水槽で冷却後、ペレタイザーによりペレット状のブロック共重合体(A−1)を得た。ブロック共重合体(A−1)のGPC分析を行ったところ、Mnは72,000であった。得られたブロック共重合体(A−1)中の金属イオンにより中和されているカルボキシル基のモル濃度[M]とカルボキシル基のモル濃度[C]の比[M]/[C]=0.5であった。
【0049】
製造例2
製造例1において、アクリル酸エチル45.0部をアクリル酸−2−メトキシエチル(MEA)141.30部、アクリル酸8.6部をメタクリル酸(MA)20.5部、水酸化マグネシウムを7.1部に変更する以外は、製造例1と同様にしてブロック共重合体(A−2)を製造した。重合後のMnは95,200であった。a’−b−a’型のアクリル系ブロック共重合体(A−2)中のモル比は、(b)は、BAとMEAのモル比はBA/MEA=1.2、(a’)では、MMA/MA=2.6、ブロック(a’)とブロック(b)の重量比は、(b)/(a’)=3.7である。得られたブロック共重合体(A−2)中の金属イオンにより中和されているカルボキシル基のモル濃度[M]とカルボキシル基のモル濃度[C]の比[M]/[C]=0.5であった。
【0050】
比較製造例1
製造例1において、塩基性金属化合物として水酸化マグネシウムを使用しない以外は、製造例1と同様にしてペレット状のブロック共重合体(A’−1)を製造した。
【0051】
比較製造例2
エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー(メタクリル酸含量15重量%、Na中和度20モル%、MFR60dg/min)に添加剤として、離型剤[商品名:SH2000、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製、低分子量ジメチルシリコーンオイル 1000cs]を、30nmφ2軸押出機(池貝鉄工(株)製PCM30)を使用し、樹脂と添加剤を樹脂温210℃、押出量4.0kg/hrで押出し、ペレット状のブロック共重合体(A’−2)を製造した。
【0052】
比較製造例3
アクリル系重合体粒子(i)を含有するスラリーの作製
(比較製造例3−1)
50L耐圧攪拌装置に純水200重量部及びポリビニルアルコール[商品名:KH−17、日本合成化学工業(株)製]を0.7重量部(3%水溶液として23.3重量部)仕込み、製造例1で得られた25%の重合体トルエン溶液400重量部(固形分濃度25%)、エポキシ基を持つアクリル系重合体[商品名:ARUFON UG4012、東亞合成(株)製]10重量部、トリメリット酸エステル系可塑剤[C−810PS、旭電化工業(株)製]14部、架橋促進剤である酸化亜鉛0.088重量部、エステル系滑材である牛脂極度硬化油(融点60℃:日本油脂(株)製)0.01重量部、安定剤(イルガノックス1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)1重量部とチヌビン234(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)1重量部を添加した。撹拌翼には2段4枚傾斜パドルを用いて600rpmで攪拌して撹拌槽の底部より蒸気を導入した。撹拌槽上部に接続したコンデンサで溶剤ガス及び蒸気を凝縮し、系外で逐次溶剤及び水を回収した。発泡に注意しながら蒸気流量を加減し、100℃到達後5分後に蒸気を停止し、撹拌槽のジャケットを用いて冷却を行ない、ブロック共重合体を含有するスラリー(i−1)を得た。得られた共重量体粒子の平均粒径は約175μmであった。
【0053】
アクリル系重合体ラテックス(ii)の合成
(比較製造例3−2)
水200重量部、乳化剤としてアルカンスルホン酸ナトリウム 0.34重量部、重合開始剤として過硫酸カリウム 0.2重量部を、撹拌装置付反応器に仕込み、窒素置換後、70℃まで昇温した。これにメチルメタアクリレート 95重量部、ブチルアクリレート 5重量部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2エチルヘキシル 0.65重量部の混合液を6時間かけて追加し、追加開始から2時間後に乳化剤であるアルカンスルホン酸ナトリウム 0.40重量部を、4時間後に0.43重量部を加えた。追加終了後、重合開始剤である過硫酸カリウム 0.05重量部添加して、1時間重合を行ない、重合転化
率99%、ガラス転移温度92℃、ラテックス平均粒子径59.4nm、数平均分子量65,000、固形分濃度33%の重合体ラテックス(ii−1)を得た。
【0054】
実施例1
ナウターミキサー内にブロック共重合体(A−1)103部、可塑剤(大八化学工業(株)、CR−741)18部、離型剤[ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング株式会社、SH−200)52部及び変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社、X−22−3710)48部の混合物、以下、同じである。]0.2部、安定剤(サノールLS−765、第一三共株式会社、以下、同じである。)0.3部及びポリメチルメタクリレート(PMMA)粉末(ガンツパールPM−030S、ガンツ化成株式会社、以下、同じである。)0.5部を投入し、70℃で混合することにより、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(X−1)を得た。
【0055】
実施例2
ブロック共重合体(A−2)103部に、可塑剤(大八化学工業(株)、CR−741)18部、離型剤0.2部、安定剤0.3部及びPMMA粉末0.5部を添加し、混合することにより、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(X−2)を得た。
【0056】
比較例1
ブロック共重合体(A−1)をブロック共重合体(A’−1)に変更する以外は実施例1と同様にして比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(X’−1)を得た。
【0057】
比較例2
ブロック共重合体(A’−2)にポリメチルメタクリレート(PMMA)粉末(ガンツパールPM−030S、ガンツ化成株式会社)0.5部を添加し、混合することにより、比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(X’−2)を得た。
【0058】
比較例3
比較製造例3−1で作成したブロック共重合体粒子を含有するスラリー(i−1)を撹拌機付反応器に仕込み、70℃に加熱し重合体ラテックス(ii−1)をブロック共重合体粒子100重量部に対して固形分基準で3.7重量部添加し、添加終了から5分後70℃に加熱し、電解質水溶液として15%硫酸ナトリウム溶液をブロック共重合体粒子100重量部に対して固形分基準で5.6重量部を5分間かけて連続的に添加した。
添加終了から5分後、90℃まで加熱し、5分間温度を保持し、その後冷却してラテックスがブロック共重合体粒子の表面に付着した重合体スラリーを得た。そのスラリーをバッチ式遠心濾過機で脱水し、バッチ式流動乾燥機で樹脂温度最大50℃の条件で乾燥し、水分が0.4%の比較用のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(X’−3)を得た。
【0059】
得られた樹脂粉末組成物の溶融性を評価するために、190℃の溶融粘度を測定した。また、樹脂粉末組成物をスラッシュ成形して得られたシートについて、裏面溶融性、引張強度、伸び測定、耐熱性試験、ブリード性を実施した。結果を表1に示した。
【0060】
<190℃溶融粘度測定方法>
島津(株)製フローテスターCFT−500を用いて、以下の条件で等速昇温し、190℃の溶融粘度を測定した。
荷重 : 5kg
ダイ : 穴径0.5mm、長さ1.0mm
昇温速度 : 5℃/min.
【0061】
<表皮の作成>
低温成形を目的に、予め210℃に加熱されたしぼ模様の入ったNi電鋳型にスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(X−1)〜(X−2)、(X’−1)〜(X’−3)を充填し、10秒後余分な樹脂粉末組成物を排出した。60秒後水冷して表皮(厚さ1.0mm)を作成した。
【0062】
<裏面溶融性>
成形表皮裏面中央部を目視で観察し、以下の判定基準で溶融性を評価する。
1級:パウダーが溶融せず、成形品にならない。
2級:裏面全面にパウダーの形状の凹凸があり、かつ表面に貫通するピンホールがある。
3級:裏面全面に凹凸があり、光沢はない。表面に貫通するピンホールはない。
4級:一部未溶融のパウダーが有るが、光沢がある。
5級:均一で光沢がある。
【0063】
<引張強度、伸び測定>
成形表皮からJIS K 6301の引張試験片ダンベル1号形を3枚打ち抜き、その中心に40mm間隔で標線をした。板厚は標線間5カ所の最小値を採用した。これを25℃雰囲気下にてオートグラフに取り付け、200mm/minの速さで引っ張り、試験片が破断にいたるまでの破断強度、最大伸びを算出した。
【0064】
<耐熱性試験後の25℃引張強度、伸び測定>
成形表皮を、循風乾燥機中に、130℃、600時間処理した。続いて、処理後の表皮を25℃24時間静置した。続いて、これからJIS K 6301の引張試験片ダンベル1号形を3枚打ち抜き、その中心に40mm間隔で標線をした。板厚は標線間5カ所の最小値を採用した。これを25℃雰囲気下にてオートグラフに取り付け、200mm/minの速さで引っ張り、試験片が破断にいたるまでの破断強度、最大伸びを算出した。
【0065】
<ブリード性評価>
成形表皮をポリエチレンの袋に入れて室温(23℃)下にて保管し、経日変化を目視、触感により以下の記載の級数にてブリード性を判断した。
0級:ブリードは観測されない
1級:成形品裏面にのみわずかにブリードが見られる。
2級:成形品シボ面・裏面ともわずかにブリードが見られる。
3級:一部分にはっきりブリードが見られる。
4級:全面にはっきりブリードが見られる。ブリード部にわずかなヌメリ・湿り気が感じられる。
5級:成形品の色やシボ模様が判断しにくい程度までブリードが見られる。ブリード部にはっきりとヌメリ・湿り気が感じられる。
【0066】
【表1】

【0067】
表1からわかるように、実施例1〜2の本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物は成形時に良好な溶融流動性を改善しながらブリード、強度に優れた成形体を与える。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の樹脂粉末成形用材料から成形される表皮は、自動車部品や家電部品、玩具、雑貨品等のスラッシュ成形用材料として、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等のスラッシュ成形用材料として好適に使用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンで中和されたカルボキシル基を分子内に有するメタクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)を有するブロック共重合体(A)であって、単位重量あたりのブロック共重合体(A)中の金属イオンにより中和されているカルボキシル基のモル濃度[M]とブロック共重合体(A)中のカルボキシル基の総モル濃度[C]の比[M]/[C]が、0.2〜0.6であるブロック共重合体(A)および添加剤(B)を含有するスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【請求項2】
ブロック共重合体(A)の数平均分子量が20,000〜100,000である請求項1に記載のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。



【公開番号】特開2013−23540(P2013−23540A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158342(P2011−158342)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】