説明

スラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物、粉末物およびこれを用いた表皮体

【課題】 溶融性があってシート成形性に優れるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物、粉末物、および透明性が高く、物性値が高く、折り曲げ白化することなく、柔軟性に優れる表皮体を提供する。
【解決手段】 (1)ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、(2)ビニル芳香族炭化水素化合物単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと水素添加されたブタジエン単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBから構成され、重合体ブロックBの水素添加率が90%以上であり、かつビニル芳香族炭化水素化合物の水素添加ブロック共重合体中に占める割合が5重量%を超え25重量%未満であり、そして水素添加前の重合体ブロックBの1,2結合量の平均が62モル%以上である水素添加ブロック共重合体20〜500重量部を少なくとも配合したスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物、粉末物およびこれを用いた表皮体に係り、詳しくはポリプロピレン樹脂と相溶性の良好な水素添加ブロック共重合体を含み、溶融性があってシート成形性に優れるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物、粉末物、および透明性が高く、物性値が高く、折り曲げ白化することなく、柔軟性に優れる表皮体に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質の粉末材料を用いた粉末成形法として、軟質塩化ビニル樹脂粉末を用いた粉末スラッシュ成形法がインストルメントパネル、コンソールボックス、ドアートリム等の自動車内装品の表皮に広く採用されている。これはソフトな感触であり、皮シボやステッチを設けることができ、また設計自由度が大きいこと等の意匠性が良好なことによる。
【0003】
この成形方法は、他の成形方法である射出成形や圧縮成形と異なり、賦形圧力をかけないので、成形時には粉末材料を複雑な形状の金型に均一付着させるためには粉体流動性に優れることが必要であり、金型に付着した粉体が溶融して無加圧下でも流動して皮膜を形成するために、溶融粘度が低いことも条件になっている。更に、金型を冷却して成形された表皮を金型より容易に離型できることも必要であった。
【0004】
これを改善した一つの方法として、特許文献1には、ポリプロピレン樹脂と特定のスチレン系熱可塑性エラストマーとを質量比70/30〜30/70の割合で混合したものを粉砕して用いることが提案されている。
ここでは、スチレン系熱可塑性エラストマーがスチレン含量20質量%以下のスチレン・エチレンブチレン・スチレンブロック共重合体、スチレン含量20質量%以下のスチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロック共重合体、そしてスチレン含量20質量%以下の水素添加スチレンブタジエンゴムから選ばれたものであり、ポリプロピレン樹脂との相溶性が良好で粉末成形に適した組成物になっている。
【0005】
また、スラッシュ成形に用いる熱可塑性エラストマー組成物としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体、ポリオレフィン樹脂、および共役ジエン重合体またはビニル芳香族化合物単位含有量が25質量%以下である共役ジエン−ビニル芳香族化合物ランダム共重合体が水添され、かつ水添率が70%以上である水添ジエン系重合体を使用することが、特許文献2に記載されている。
【0006】
更には、ポリプロピレン樹脂と水素添加スチレンブタジエンランダム共重合体ゴムに、エチレン・エチレンブチレン・エチレンブロック共重合体、エチレン・オクテン共重合体から選ばれる熱可塑性エラストマーを混合し粉砕したスラッシュ成形に用いる熱可塑性エラストマー組成物も、特許文献3に記載されている。
【0007】
上記スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロック共重合体において、水素添加前のブタジエン単量体単位を主体とするブロックの1,2結合量の平均が62モル%以上の範囲にある水素添加ブロック共重合体を用いた例は記載されていない。
【特許文献1】特開平7−82433号公報
【特許文献2】特開平10−30036号公報
【特許文献3】特許第2973353号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ポリプロピレン樹脂と相溶性の悪いエラストマー、例えばエチレン・プロピレンゴム(EPR)、エチレンオクテン共重合体(EOR)、スチレン含量25%以上のスチレン・エチレンブチレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロック共重合体、水素添加スチレンブタジエンゴム等を配合すると、ポリプロピレン樹脂にエラストマー成分が均一に微分散しないために、成形性が悪くて物性が低くなり、折り曲げ時に白化するといった問題が発生した。また、温度変化による物性の変化が大きい欠点があり、衝突安全装置であるエアバッグ収納蓋の表皮に適用できないこともあった。
【0009】
本発明はこのような問題点を改善するものであり、ポリプロピレン樹脂と相溶性の良好な水素添加ブロック共重合体を用いることで、溶融性があってシート成形性に優れるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物、粉末物、および透明性が高く、物性値が高く、折り曲げ白化することなく、柔軟性に優れる表皮体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本願の請求項1記載の発明では、スラッシュ成形に用いる粉末材料の素材となる熱可塑性エラストマー組成物であり、
(1)ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、
(2)ビニル芳香族炭化水素化合物単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、水素添加されたブタジエン単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBから構成され、重合体ブロックBの水素添加率が90%以上であり、かつビニル芳香族炭化水素化合物の水素添加ブロック共重合体中に占める割合が5質量%を超え25質量%未満であり、そして水素添加前の重合体ブロックBの1,2結合量の平均が62モル%以上である水素添加ブロック共重合体20〜500質量部を少なくとも配合し、
得られた組成物のメルトフローレート(MFR)がJIS K7210に準じて温度230°C、荷重2.16kgfの条件下で測定したところ、10g/10分以上であって、スラッシュ成形に適する熱可塑性エラストマー組成物にある。
【0011】
本願の請求項2記載の発明では、請求項1記載の組成物に(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを水素添加ブロック共重合体100質量部に対して5〜250質量部配合したスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物にあり、請求項1記載の組成物よりMFRが大きく、粉末成形性が良好になる。
【0012】
本願の請求項3記載の発明では、スラッシュ成形に用いる粉末材料の素材となる熱可塑性エラストマー組成物であり、
(1)ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、
(2)ビニル芳香族炭化水素化合物単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、水素添加されたブタジエン単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBから構成され、重合体ブロックBの水素添加率が90%以上であり、かつビニル芳香族炭化水素化合物の水素添加ブロック共重合体中に占める割合が5質量%を超え25質量%未満であり、そして水素添加前の重合体ブロックBの1,2結合量の平均が62モル%以上である水素添加ブロック共重合体を20〜500質量部、
(5)水素添加率が90%以上であり、スチレンの共重合体中に占める割合が5質量%を超え14質量%未満であり、かつ共役ジエンの1,2又は3,4結合量の平均が60モル%以上であるスチレンと共役ジエンのランダム共重合体を20〜300質量部、そして
(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを(2)水素添加ブロック共重合体100質量部に対して5〜250質量部を配合し、
得られた組成物のメルトフローレート(MFR)がJIS K7210に準じて温度230°C、荷重2.16kgfの条件下で測定したところ、10g/10分以上であるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物にある。
【0013】
本願の請求項4記載の発明では、(1)ポリプロピレン樹脂として示差熱量計にて昇温速度5°C/分で測定される融点が120〜145°Cのプロピレン・α−オレフィン共重合体であり、低融点で溶融性が良くてシート成形性に優れるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物になる。
【0014】
本願の請求項5記載の発明では、上記請求項1乃至4の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物に有機過酸化物をポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.02〜5.0質量部配合したものであり、請求項1乃至4の何れかに記載の組成物よりMFRが大きく、粉末成形の成形性が良好になる。
【0015】
本願の請求項6記載の発明では、上記請求項1乃至5のいずれかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物にプロセスオイルを添加したものであり、請求項1乃至5の何れかに記載の組成物よりMFR値がさらに大きくなり、粉末成形において成形性が良好になる。
【0016】
本願の請求項7記載の発明では、上記請求項1乃至6の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物を常温もしくは冷凍粉砕し、最大1.00mmの篩を通過した粒径を有するものであるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー粉末物にあり、スラッシュ成形においてもピンホールのない粉末成形体を得ることができる。
【0017】
本願の請求項8記載の発明では、上記請求項1乃至6の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物を水中ホットカットし、球換算平均粒径が1.00mm以下であるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー粉末物にあり、ピンホールのない粉末成形体を得ることができる。
【0018】
本願の請求項9記載の発明では、上記請求項7もしくは8に記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー粉末物を用いてスラッシュ成形して得られた表皮体あり、この表皮体は透明性が高く、引張伸び、引張強度等の物性値が高く、柔軟性があり、折り曲げ白化することなく,溶融性および成形性に優れ、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアートリム等の自動車内装品の表皮として使用することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本願の各請求項記載の発明では、相溶性が良好なスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物、粉末物を得ることができ、上記組成物や粉末物は、メルトフローレートが10g/10分以上であって溶融流動性に富みスラッシュ成形時のシート成形性が良好であり、またこれを用いてスラッシュ成形して得た表皮体もシート裏面も均一に溶融しており、収縮も見られず、透明性が高く、物性値が高く、折り曲げても白化しにくい外観良好なものになり、そして温度変化による物性変化が少ない効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明で使用する(1)ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレンホモポリマー、α−オレフィンとのブロックあるいはランダム共重合体のいずれでもよいが、特にα−オレフィンとしてエチレンを用いたブロックあるいはランダム共重合体が成形体の柔軟性の面からいって好ましい。また、圧力のかからない粉末スラッシュ成形に用いるためには、ポリプロピレン樹脂の溶融流動性の指数としてJIS K7210により230°C、荷重2.16kgfの条件下で測定したMFRが10g/10分以上であることが必要であり、好ましくは40〜800g/10分である。
【0021】
上記ポリプロピレン樹脂に含まれるプロピレン・α−オレフィン共重合体は、示差熱量計にて昇温速度5°C/分で測定される融点が120〜145°C以下であり、プロピレンとα−オレフィンとのブロックあるいはランダム共重合体のいずれでもよく、α−オレフィンとしてエチレン、ブチレン、ペンテン、オクテンをあげられるが、特に価格面からいってエチレンが好ましい。このプロピレン・α−オレフィン共重合体を使用すると、低融点で溶融性が良くてシート成形性に優れるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物になる。
【0022】
また、MFRが10g/10分未満の溶融流動性に欠けるポリプロピレン樹脂を使用する場合には、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して有機過酸化物を0.02〜5.0質量部配合し、120〜250°Cの温度で混練してMFRを100〜800g/10分になるようにポリプロピレン樹脂の低分子量化を図ることができる。
【0023】
更に、(1)ポリプロピレン樹脂に有機過酸化物を添加して溶融混練した後に、本発明で使用する(2)水素添加ブロック共重合体を溶融混練することができる。水素添加ブロック共重合体と有機過酸化物を同時に溶融混練した場合、水素添加ブロック共重合体が低分子量化して成形シートの表面へ移行し、熱老化後に表面に粘着性や光沢が発生する。
【0024】
上記有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されているジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアリルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2.5−ジメチル−2.5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン−3,1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等があり、熱分解による1分間の半減期が150〜250°Cのものが好ましい。
【0025】
有機過酸化物は120〜250°Cの加熱下で混練する過程で、ポリプロピレン樹脂の主鎖を切断して分子量を低下させ、熱可塑性エラストマー組成物に高い溶融流動性をもたせる。有機過酸化物の添加量は熱可塑性エラストマー組成物中、0.02〜5.0質量%であり、0.02質量%未満の場合にはポリプロピレン樹脂の主鎖を切断する分解能力が少なく、熱可塑性エラストマー組成物に高い溶融流動性を付与できなくなる。一方、5.0質量%を越えると、分解が過剰になり、粉体成形品の引張強度等の機械的特性が低下する。
【0026】
本発明で使用する(2)水素添加ブロック共重合体は、(1)ポリプロピレン樹脂との相溶性に優れており、ポリプロピレン樹脂に混練すると柔軟になり、折曲げや白化しにくいスラッシュ形用熱可塑性エラストマー組成物が得られる。
【0027】
上記(2)水素添加ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素化合物単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと水素添加されたブタジエン単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBから構成され、重合体ブロックBの水素添加率が90%以上であり、末端にある重合体ブロックの少なくとも1個が重合体ブロックBであり、好ましい構造としてはA−B、A−B―A―B、B−A−B−A−B、(B−A−B)n−X(ここでnは2以上の整数、Xはカップリング剤残基を示す)。
【0028】
また、ビニル芳香族炭化水素化合物単量体単位としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−ターシャルブチルスチレン等のアルキルスチレン、パラメトキシスチレン、ビニルナフタレン等のうちから1種、または2種以上から選ばれ、中でもスチレンが好ましい。上記ビニル芳香族炭化水素化合物の水素添加ブロック共重合体中に占める割合は5質量%を超え25質量%未満であり、柔軟性に富む表皮体を得るためには5〜15質量%が適当である。
【0029】
そして、水素添加前のブタジエン単量体単位を主体とするブロックの1,2結合量の平均が62モル%以上であり、62モル%未満の場合には、シートを折り曲げたときに白化しやすくなる。このような(2)水素添加ブロック共重合体の代表的なものとして、国際公開番号WO00/15681に開示されており、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)である旭化成社製の商品「タフテックL−515」がある。
【0030】
(1)ポリプロピレン樹脂と(2)水素添加ブロック共重合体との混合量は、水素添加ブロック共重合体がポリプロピレン樹脂100質量部に対して20〜500質量部であり、ポリプロピレン樹脂が多くなると、成形された表皮が硬くなり、一方少なくなると引張強度が低下する。
【0031】
また、本発明で使用する(2)水素添加ブロック共重合体は(1)ポリプロピレン樹脂と相溶性が非常に良好である。(1)ポリプロピレン樹脂中の(2)水素添加ブロック共重合体が粒子径15〜20nmで微分散していることも透過型電子顕微鏡により確認されている。
【0032】
(1)ポリプロピレン樹脂と(2)水素添加ブロック共重合体を配合すると、(1)ポリプロピレン樹脂に(2)水素添加ブロック共重合体成分が均一に微分散することで,成形性が良好になり、物性値が高く、柔軟でかつ折り曲げ時に白化することのないスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物や表皮体が得られる。
【0033】
(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムは吸油能に優れたエラストマーであり、(2)水素添加ブロック共重合体と同時に配合することにより、(1)ポリプロピレン樹脂の相溶性が良好になる。また、プロセスオイルと組成物中のオリゴマー成分を吸収する性質を有するもので、エチレン・α−オレフィン共重合体と非結晶性のエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体とから選択される少なくとも1種類である。好ましいα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン等の炭素原子数が3〜10のα−オレフィンが挙げられる。特に、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレン・オクテン共重合体(EOR)が好ましい。
【0034】
尚、上記(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムは、本発明に使用する(2)水素添加ブロック共重合体に比べて(1)ポリプロピレン樹脂に対する相溶性が劣っており、ポリプロピレン樹脂に混練、添加すると、μm単位の大きさで分散するので、引張物性が低下する傾向にある。これに上記に示す吸油能に優れたエラストマーである(3)エチレン・α―オレフィン系共重合体を添加した場合には、組成物中のオリゴマー成分とオイルを吸収してブリードをかなり阻止することができる。
【0035】
上記(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムの添加量は、(2)水素添加ブロック共重合体100質量部に対して5〜250質量部である。5質量部未満になると、組成物中のオリゴマー成分とオイルを充分に吸収できなくなり、また250質量部を越えると、ポリプロピレン樹脂との分散が悪くなり、引張物性が低下する傾向にある。
【0036】
また、本発明で使用する(5)水素添加率が90%以上であり、スチレンの共重合体中に占める割合が5質量%を超え14質量%未満であり、かつ共役ジエンの1,2又は3,4結合量の平均が60モル%以上であるスチレンと共役ジエンのランダム共重合体は、水素添加ランダム共重合体と呼ばれるものであり、ポリプロピレン樹脂との相溶性に優れており、(2)水素添加ブロック共重合体と同様にポリプロピレン樹脂に混練すると柔軟になり、折曲げや白化しにくいスラッシュ形用熱可塑性エラストマー組成物が得られる。このため、上記(5)水素添加ランダム共重合体の添加量は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して20〜300質量部が好ましい。
【0037】
また、上記スチレンのランダム共重合体中に占める割合は5質量%を超え14質量%未満であり、5質量%未満或いは14質量%以上の場合は(1)ポリプロピレン樹脂との相溶性が悪くなるため成形シ−トの柔軟性が低下しシートを折り曲げたときに白化しやすくなる。
【0038】
そして、共役ジエンの1,2又は3,4結合量の平均が60モル%以上必要であり、60モル%未満の場合には、相溶性の低下によりシートを折り曲げたときに白化しやすくなる。上記水素添加ランダム共重合体の代表的なものとして、JSR社製の「ダイナロン2320P」、「ダイナロン2321P」が挙げられる。
【0039】
本発明では、プロセスオイルを添加することにより組成物中のエラストマー成分に吸収されて溶融粘度を下げるとともに、表皮体の硬度を下げ、柔軟性をもたせる効果がある。上記プロセスオイルはゴム用に使用されるものであり、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系に分類されるが、エラストマー成分との相溶性によりパラフィン系が好ましい。添加量は(2)水素添加ブロック共重合体100質量部に対して5〜200質量部が好ましい。200質量部を越えると、引張物性が低下し、5質量部未満になると、溶融粘度が下がらず表皮が硬くなる。
【0040】
熱安定剤としては、通常のポリオレフィンに用いられるものが使用できる。一般的には、フェノールとリン系の酸化防止剤を併用して使用するが、特に限定されるものではない。
【0041】
また、光安定剤としては、ラジカル捕捉剤であるヒンダードアミン、ベンゾトリアゾール系のものが使用されることもある。
【0042】
顔料は通常のオレフィン系に適した有機、無機のものが使用される。更に、脂肪酸金属塩等の滑剤や炭酸カルシウム、タルク等の充填剤等が必要に応じて添加される。
【0043】
本発明の組成物の混合は、例えば下記の方法によって溶融混練される。
【0044】
(A)MFRが100〜800g/10分の(1)ポリプロピレン樹脂に、(2)水素添加ブロック共重合体を同時に添加し、これらを120〜250°Cの温度で混練する方法であり、この場合には有機過酸化物を添加しない。
【0045】
(B)MFRが100〜800g/10分の(1)ポリプロピレン樹脂に、(2)水素添加ブロック共重合体、(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを同時に添加し、これらを120〜250°Cの温度で混練する方法であり、この場合には有機過酸化物を添加しない。
【0046】
(C)MFRが100〜800g/10分の(1)ポリプロピレン樹脂に、(2)水素添加ブロック共重合体、プロセスオイル、(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを同時に添加し、これらを120〜250°Cの温度で混練する方法であり、この場合には有機過酸化物を添加しない。
【0047】
(D)予めMFRが100g/10分未満の(1)ポリプロピレン樹脂に有機過酸化物を0.02〜5.0質量部添加し、120〜250°Cの温度で混練してMFRを100〜800g/10分に調整したポリプロピレン樹脂に、(2)水素添加ブロック共重合体、(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを同時に添加し、これらを120〜250°Cの温度で混練する方法がある。
【0048】
(E)MFRが100g/10分未満の(1)ポリプロピレン樹脂と(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを0.02〜5.0質量部添加し、120〜250°Cの温度で混練した後、更にこれに(2)水素添加ブロック共重合体を添加して120〜250°Cの温度で混練する方法がある。
【0049】
(F)MFRが100g/10分未満の(1)ポリプロピレン樹脂と(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとプロセスオイルに有機過酸化物を0.02〜5.0質量部添加し、120〜250°Cの温度で混練した後、更にこれに(2)水素添加ブロック共重合体を添加して120〜250°Cの温度で混練する方法がある。
【0050】
添加混練方法は添加剤をV型ブレンダー、タンブラー、ヘンシェルミキサー等を用いてドライブレンドしたものを原料供給ホッパーより供給し、プロセスオイルはベント口より注入し、120〜250°Cの範囲に温度調節した二軸押出機で溶融混練してペレット化する。
【0051】
また、密閉式混練機であるニーダー、バンバリーミキサー等によってエラストマー成分である水素添加ブロック共重合体とエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムにプロセスオイルを添加して混練してペレット化した後、このペレットとポリプロピレン樹脂とドライブレンドして、120〜250°Cの範囲に温度調節した一軸あるいは二軸押出機で溶融混練してペレット化することもできる。
【0052】
得られたペレットの溶融粘度であるMFRは温度230°C、荷重2.16kgfの条件下で10g/10分以上が好ましい。これ未満になると、組成物の溶融流動性が小さくなって表皮にピンホールが発生する傾向がある。
【0053】
上記の配合から得られたペレットは、ターボミル、ピンミル、ハンマーミル等の衝撃型微粉砕機を用いて微粉砕される。この時通常では液体窒素を用いて冷凍粉砕される。また、配合によっては溶融樹脂をスプレあるいはディスクアトマイザーによって噴霧し冷却することによって粉体化することができる。
【0054】
粉砕されたものは篩い等によって粒径が最大1.00mmの篩を通過したもので、平均一次粒径が100〜800μmのものが多く集められ、これに有機あるいは無機の粉体性改良剤を添加、混合して粉末スラッシュ成形用に使用する。
また、水中ホットカット方式により製造される場合も同様に平均一次粒径が100〜800μmのものが多く集められ、粉末成形に用いることができる。
また、繊維状に細く押出されたストランドを1mm以下にカットしたものも使用できる。
【0055】
次いで、エラストマー組成物を用いて粉末スラッシュ成形を行う。この成形では組成物の融点以上に加熱された型にこれを主として重力で落下させて投入し、一定時間経過後に型を反転し、余分の組成物を回収箱に集める。型表面には組成物が層となって付着しており、時間経過とともに溶融してスキン層が形成される。そして、型を冷却してスキン層を脱型するものであり、これが繰り返し行われる。
【0056】
型の加熱方法としては、オイル循環あるいは熱風炉へ入れる方法が一般的である。オイル循環はパイプ配管配置により型温度調整が容易であるが、型面からのみ加熱される。一方、熱風炉を用いると、型面および成形物裏面の両面からの加熱が可能であるが、生産性を考慮して熱風を300°C以上に設定することが多いため、成形物裏面の熱酸化劣化を起こさないように処方や条件を配慮する必要がある。
【0057】
熱風方式は、粉末スラッシュ成形を多層(2ないし3)に行う時に有効である。即ち、加熱された型に最外層となる1回目の粉末をスラッシュ成形し、半溶融状態で2回目の粉末を付着させ、そして必要なら3回目もスラッシュ成形し、その後加熱溶融する。この場合、型面側のみからの加熱では、熱伝達が不充分なので成形物裏面からの加熱も可能な熱風炉方式が用いられることが多い。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を具体的な実施例により更に詳細に説明する。
【0059】
実施例1、比較例1〜6
実施例1、比較例1〜6では,表1、2に示すポリプロピレン樹脂、水素添加ブロック共重合体、各種エラストマー、安定剤、滑剤をタンブラーでドライブレンドしたものを、二軸押出機(池貝鉄鋼社製、PCM45)の原料供給ホッパーより供給し、220°C、300rpmで混練して押出しペレット化した。
上記で得られたペレットを液体窒素に浸し、ターボミルT250−4J(ターボ工業社製)に投入して粉砕し、1,000μmの篩い通過分のみを集めた。
【0060】
実施例2〜7、比較例7〜10
実施例2〜7、比較例7〜10では、二軸押出機(池貝鉄鋼社製、PCM45)で2回混練りを行っている。1回目の混練りでは表に示すポリプロピレン樹脂、オレフィン樹脂、エチレン・オクテン共重合体(EOR)、有機過酸化物、滑剤をタンブラーでドライブレンドしたものを、二軸押出機(池貝鉄鋼社製、PCM45)の原料供給ホッパーより供給し、プロセスオイルをベント口より注入しながら230°C、100rpmで混練して押出しペレット化した。 続いて、上記1回目の混練りで作製したペレットに、表1〜3に示す水素添加ブロック共重合体、各種エラストマー、ポリエチレン樹脂、安定剤をタンブラーでドライブレンドしたものを、二軸押出機(池貝鉄鋼社製、PCM45)の原料供給ホッパーより供給し、200°C、300rpmで混練して押出しペレット化した。尚、表中の括弧はこの2回目で添加したものを示す。
上記で得られたペレットを液体窒素に浸し、ターボミルT250−4J(ターボ工業社製)に投入して粉砕し、1,000μmの篩い通過分のみを集めた。
【0061】
次に、上記粉体組成物を用いて粉末スラッシュ成形を行った。粉末スラッシュ成形の方法としては、まず皮シボ模様のついた150mm×150mm×3mmの板をオーブン中で250°Cに加熱し、その上に上記粉体組成物を約800gのせて10分間置いて付着させた後、溶融付着しなかった粉体を除いて、300°Cに調節したオーブン中で60秒間加熱し、オーブンより取り出し水冷して、厚さ約0.8mmの表皮を脱型した。
【0062】
上記ペレットの溶融粘度、スラッシュ成形したシート成形性、シートの裏面の溶融状態、表皮の引張物性、折り曲げ白化の評価を下記の方法で行った。得られた結果を表1〜3に示す。
【0063】
溶融粘度はペレットをJIS K7210により230°C、荷重2.16kgfの条件下でメルトフローレートを測定した。
【0064】
シート成形性はスラッシュ成形で得られたシートが均一に溶融するか、収縮していないかを目視で判断し、均一に溶融し収縮せずにシートになるものを「○」、均一なシートにならず、収縮が激しくて物性評価が不可能なものを「××」、また収縮の度合いに応じて「×」、「△」と評価した。
シート裏面の溶融状態においても、ほとんど溶融せずに粉体が残っているものを「××」とし、少し溶融した状態で粉体が残っているものを「×」、かなり溶融しているけれども少し粉体が残っているものを「△」と評価した。
【0065】
引張物性は、スラッシュ成形で得られた表皮をJIS3号ダンベルで打ち抜き、引張速度200mm/分で引張強さと伸びを測定した。
【0066】
シートの折り曲げた際の白化は、スラッシュ成形したシートを折り曲げて白化程度を目視で確認し、白化しないものを「○」、白化の激しいものを「××」、程度に応じて「×」、「△」と評価した。これらの結果を表1〜3に併記する。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
この結果、実施例1〜7では、ペレットのMFRが10g/10分以上で溶融流動性に富み、シート成形性が良好であった。シート裏面も均一に溶融しており、収縮も見られなかった。しかし、比較例1〜10においては、MFRが10g/10分以上であっても、シート成形性が悪かった。シート裏面を確認しても収縮が見られ、均一に溶融していなく凹凸が見られた。また、溶融不足のためシート表面に欠肉、ピンホールが生じていた。
【0071】
実施例8〜10
二軸押出機(池貝鉄鋼社製、PCM45)で2回混練りを行っている。1回目の混練りでは表に示すプロピレン・α−オレフィン共重合体、オレフィン樹脂、エチレン・オクテン共重合体(EOR)、有機過酸化物、滑剤をタンブラーでドライブレンドしたものを、二軸押出機(池貝鉄鋼社製、PCM45)の原料供給ホッパーより供給し、プロセスオイルをベント口より注入しながら230°C、100rpmで混練して押出しペレット化した。 続いて、上記1回目の混練りで作製したペレットに、表4に示すエラストマー、ポリエチレン樹脂、安定剤をタンブラーでドライブレンドしたものを、二軸押出機(池貝鉄鋼社製、PCM45)の原料供給ホッパーより供給し、200°C、300rpmで混練して押出しペレット化した。尚、表中の括弧はこの2回目で添加したものを示す。
上記で得られたペレットを液体窒素に浸し、ターボミルT250−4J(ターボ工業社製)に投入して粉砕し、1,000μmの篩い通過分のみを集めた。
【0072】
次に、実施例1と同様に上記粉体組成物を用いて粉末スラッシュ成形を行い、厚さ約0.8mmの表皮体を脱型した。
【0073】
上記ペレットの溶融粘度、スラッシュ成形したシート表面ピンホ−ル、シートの裏面の溶融状態、表皮の引張物性、折り曲げ白化の評価を実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
【0074】
シート表面ピンホ−ルはスラッシュ成形で得られたシート表面を目視にて観察してピンホ−ルの大きさと数より判断し、良好なものを「○」、均一なシートにならず、収縮が激しくて物性評価が不可能なものを「××」、またピンホ−ルの度合いに応じて「×」、「△」と評価した。
【0075】
【表4】

【0076】
この結果、実施例8〜10は、ペレットのMFRが10g/10分以上で溶融流動性に富み、シート成形性が良好であった。シート裏面も均一に溶融しており、収縮も見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラッシュ成形に用いる粉末材料の素材となる熱可塑性エラストマー組成物であり、
(1)ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、
(2)ビニル芳香族炭化水素化合物単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、水素添加されたブタジエン単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBから構成され、重合体ブロックBの水素添加率が90%以上であり、かつビニル芳香族炭化水素化合物の水素添加ブロック共重合体中に占める割合が5質量%を超え25質量%未満であり、そして水素添加前の重合体ブロックBの1,2結合量の平均が62モル%以上である水素添加ブロック共重合体20〜500質量部を少なくとも配合し、
得られた組成物のメルトフローレート(MFR)がJIS K7210に準じて温度230°C、荷重2.16kgfの条件下で測定したところ、10g/10分以上であることを特徴とするスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物に、(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを水素添加ブロック共重合体100質量部に対して5〜250質量部配合したスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
スラッシュ成形に用いる粉末材料の素材となる熱可塑性エラストマー組成物であり、
(1)ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、
(2)ビニル芳香族炭化水素化合物単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと、水素添加されたブタジエン単量体単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBから構成され、重合体ブロックBの水素添加率が90%以上であり、かつビニル芳香族炭化水素化合物の水素添加ブロック共重合体中に占める割合が5質量%を超え25質量%未満であり、そして水素添加前の重合体ブロックBの1,2結合量の平均が62モル%以上である水素添加ブロック共重合体を20〜500質量部、
(5)水素添加率が90%以上であり、スチレンの共重合体中に占める割合が5質量%を超え14質量%未満であり、かつ共役ジエンの1,2又は3,4結合量の平均が60モル%以上であるスチレンと共役ジエンのランダム共重合体を20〜300質量部、そして
(3)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを(2)水素添加ブロック共重合体100質量部に対して5〜250質量部を配合し、
得られた組成物のメルトフローレート(MFR)がJIS K7210に準じて温度230°C、荷重2.16kgfの条件下で測定したところ、10g/10分以上であることを特徴とするスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
(1)ポリプロピレン樹脂は、示差熱量計にて昇温速度5°C/分で測定される融点が120〜145°Cのプロピレン・α−オレフィン共重合体である請求項1乃至3の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
有機過酸化物をポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.02〜5.0質量部配合した請求項1乃至4の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
プロセスオイルを添加した請求項1乃至5の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物を常温もしくは冷凍粉砕し、最大1.00mmの篩を通過した粒径を有するものであるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー粉末物。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れかに記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー組成物を水中ホットカットし、球換算平均粒径が1.00mm以下であるスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー粉末物。
【請求項9】
請求項7もしくは8に記載のスラッシュ成形用熱可塑性エラストマー粉末物を用いてスラッシュ成形により得られた表皮体。

【公開番号】特開2006−16620(P2006−16620A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228351(P2005−228351)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【分割の表示】特願2001−192147(P2001−192147)の分割
【原出願日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】