説明

スラッシュ窒素の製造方法及びその製造装置

スラッシュ窒素の製造方法において、減圧下に保持した容器中に、噴射後液滴として維持できるように、ノズル径と噴射圧力を調整して、該ノズルより液体窒素を噴射し、前記容器中に均一微粒径の液
体窒素粒子を形成・分散せしめ、該液滴粒子が前記容器の空間中に滞留中に、前記形成した液滴粒子より窒素を蒸発させて、該蒸発潜熱によって液体窒素粒子を凝固させ、均一な微粒径の固体窒素粒子を形成させ、液体窒素と混合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、液体窒素と粒子状固体窒素との混合物のスラリ、いわゆるスラッシュ窒素の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
液体窒素は不燃性且つ可搬性の冷熱源として各種の産業で利用されているが、更に低温の固体窒素は、固体面を冷却する場合など伝熱性に乏しいこと、流体として利用できないので利用方法が限られることなどの難点がある。
また、最近高温超電導体の発見・実用化により液体窒素温度で冷却可能な超電導システムが浮上してきたが、融点63Kの液体窒素を固化させずに冷却できるのは、せいぜい65Kが限度であり、沸騰直前の上限は75K程であるから、液体窒素の顕熱で冷却可能な温度範囲は10Kの変化分だけである。液体窒素の比熱は2kJ/kgだから、顕熱分で可能な単位液体窒素質量当たりの熱容量は20kJ/kgしかない。更に、当然のことながら、超電導体の冷却は液体窒素の沸点付近の温度より、凝固点付近の低温のほうが特性は安定して高いのが通常である。
即ち、液体窒素を液体状態でその顕熱を利用して冷却可能な温度範囲は狭く、熱容量が小さいので、冷却(除熱)には大量の液体窒素を必要とし、超電導体装置の寸法が大きくなる。また、この方法では、例えば冷却温度が沸点付近まで上がれば、その超電導体の性能の限界がその温度で限定される。
そこで、固体窒素の相変化の伴う潜熱(25kJ/kg)も合わせて利用可能な固体窒素粒子と液体窒素の混合物のスラリ、いわゆるスラッシュ窒素を用いれば、窒素の三重点付近の低温(63K)を維持できるとともに、前記の難点を克服できる。
一方、スラッシュ水素については、宇宙産業に用いられる液体燃料などの用途に需要があるので、各種の技術が開示されている。例えば特開平6−241647号公報では、液化ヘリウムの冷熱を用いて熱交換器により水素を液化し、更に該液化水素中で、液化ヘリウムの冷熱を用いて冷却した固体表面上で液化水素を凝固するとともに、掻き取ることによりスラッシュ水素を製造する装置を開示している。
特開平6−281321号公報では、低温容器(クライオスタット)内の液化水素中で、液化ヘリウムの冷熱を用いて冷却した固体表面上で液化水素を凝固するとともに、掻き取ってスラッシュ水素を製造する方法および装置で、過冷却した液体水素を低温容器内に吹き込むことにより、連続して大量のスラッシュ水素を製造する技術を開示している。
特開平8−283001号公報では、液化ヘリウム中に水素ガスを吹き込んで固体水素を生成させ、生成された固体水素に3重点液化水素を混合してスラッシュ水素を得る方法及び装置を開示している。
前記いずれの従来技術も水素を対象としており、しかも、対称物質以外の冷媒(ヘリウム)を用いている。例えば、この技術をスラッシュ窒素の製法に応用するとしても、冷媒として使用したヘリウムを再凝縮して繰り返し利用するとすれば、液化機が必要でありかつその温度は窒素や水素の液化より低温が必要であるなど、設備が大型化し、高コストとなる不利がある。
そこで、本出願人は、未公開先願技術特願平2003−065571号及び特願平2003−391508号でスラッシュ窒素の製造方法を提案した。前者は液体窒素を充填した低温容器内に備えられたエジェクタにより、作動流体に、固体窒素を生成可能なほどの低温媒体を用いて、液体窒素を容器内に吸い出して、スラッシュ窒素を製造するというものであるが、固体窒素を生成可能なほどの低温媒体といえば依然としてヘリウムを用いるしかなく、また、エジェクタノズルが固体窒素で閉塞するのを防止する特別の手段を必要とした。更に固体窒素粒径の制御では、エジェクタノズル径や流体圧力の調整である程度可能とはいうものの、制御要因が多く、安定して細かな均一粒径を得るのが困難である。また後者は、容器中に液体窒素の気相部を減圧にし、液相部の窒素を蒸発させて、温度を低下させることにより、窒素の三重点に到達せしめ、三重点温度を維持して固体窒素を生成し、攪拌により細かく砕いて、スラッシュ窒素を製造するというものであるが、この方法の特性として、固体窒素粒径の制御が困難である。
一方、工業的にスラッシュ窒素の実用化が進むに伴い、流体としての流動特性が重要な要素になってきた。即ち、スラッシュ窒素中の固体窒素粒子の微細化と粒径の均一化を図って、圧力損失の少ない良好な流動性を持つスラッシュ窒素が望まれる。これにより、例えば大型長尺物をスラッシュ窒素の流動下に冷却するような場合やスラッシュ窒素を長距離間搬送するような場合、高性能・高効率な冷却や搬送が可能となる。
【発明の開示】
本発明は上記従来の技術の問題点及び作今のニーズに鑑みなされたもので、高価な冷媒や付帯機器を必要とせず、粒径が調節された微細な固体窒素粒子を含むスラッシュ窒素の製造方法及びその装置の提供を目的とする。
本発明のスラッシュ窒素の製造方法は、減圧下に保持した容器中に、噴射後液滴として維持できるように、ノズル径と噴射圧力を調整して、該ノズルより液体窒素を噴射し、前記容器中に均一微粒径の液体窒素粒子を形成・分散せしめ、該液滴粒子が前記容器の空間中に滞留中に、前記形成した液滴粒子より窒素を蒸発させて、該蒸発潜熱によって液体窒素粒子を凝固させ、均一な微粒径の固体窒素粒子を形成させ、液体窒素と混合することを特徴とする。
ここで、噴出する液体窒素の粒径はノズル径と噴出圧力によってもたらされる流速により決まる。そして、空中に噴射される液滴は球形となる。噴射された球形の液体窒素では、その全球面から蒸発が起こり、蒸発潜熱を奪われて、凝固温度以下となり球形を保った状態で固化する。該固体窒素の粒径は、噴射液滴窒素の質量より、液滴窒素の温度(既知)を窒素の凝固点(63K)まで下げるのに必要な蒸発潜熱量分の蒸発窒素質量を差し引くことにより、固体窒素粒子の質量を求めることができるので、固体窒素の比重および幾何学的計算より、その粒径が得られる。また生成固体窒素量は供給液体窒素量から、窒素ガスとして蒸発する窒素量を計測して容易に、知ることができる。
かくして得られた固体窒素は真空容器の底部から堆積していくので、三重点温度の液体窒素を槽内に注入して攪拌し、任意(固体)濃度のスラッシュ窒素を製造することができる。
更に、本発明の他の側面であるスラッシュ窒素の製造装置は、容器中を減圧する真空ポンプと、該ポンプによって減圧下に保持される容器と、液体窒素を該容器中に噴射可能に配置したノズルと、該ノズルに液体窒素を圧送するポンプと、容器中内容物を攪拌可能な攪拌機を有してなり、該ノズルが各種口径のものに交換可能とし、液体窒素を圧送する圧力を調節可能として、減圧下に保持した容器中に前記選定したノズルより噴射圧力を調整して液体窒素を噴射し、前記容器中に均一微粒径の液体窒素粒子を形成・分散せしめ、該液滴粒子が前記容器の空間中に滞留中に、前記形成した液滴粒子より窒素を蒸発させて、該蒸発潜熱によって液体窒素粒子を凝固させ、均一微粒径の固体窒素粒子を形成させ、液体窒素と混合可能なように構成したことを特徴とする。
このような構成により、特に高価な冷凍機や冷媒を必要とせず、主要な部品として真空ポンプ、噴射孔を調整可能な噴射手段(各種噴射孔のノズルに交換可能な噴射手段)、真空容器、液体窒素の供給手段があれば、容易に装置を構成可能である。また、ノズルの径は直径0.1mm〜0.2mmの範囲が好ましい。更に、ノズル噴射圧力は7kg/cm〜10kg/cmの範囲が好ましい。
更に本発明のスラッシュ窒素の製造装置は、前記ノズルを一つの容器に複数備えたことを特徴とする。
更に本発明のスラッシュ窒素の製造装置は、前記ノズルが一つに複数の孔を有する多孔式であることを特徴とする。
更に本発明のスラッシュ窒素の製造装置は、前記スラッシュ窒素の製造装置を複数基並列に接続し、固体窒素粒子と形成プロセスと該形成固体窒素粒子と三重点近傍温度の液体窒素を注入して混合するプロセスとを別々の製造装置で同時実施可能とし、個々の製造装置では前記二つのプロセスをシークエンシャルに行って、全体プロセスを連続的に行えるようにしたことを特徴とする。
以上説明した、本発明の効果を纏めると次のように表すことができる。即ち、減圧下に保持した容器中に、噴射後液滴として維持できるように、ノズル径と噴射圧力を調整して、該ノズルより液体窒素を噴射し、前記容器中に均一微粒径の液体窒素粒子を形成・分散せしめ、該液滴粒子が前記容器の空間中に滞留中に、前記形成した液滴粒子より窒素を蒸発させて、該蒸発潜熱によって液体窒素粒子を凝固させ、次いで液体窒素と混合することにより、高価な冷媒や付帯機器を必要とせず、粒径が調節された微細な固体窒素粒子を含むスラッシュ窒素の製造を可能にした。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のスラッシュ窒素の製造装置の一例を表す略図である。
第2図は本発明のスラッシュ窒素の製造装置を複数接続した連続製造装置の一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
第1図は本発明のスラッシュ窒素の製造装置の一例を表す略図である。第1図において、1は容器、2は液体窒素を噴射して液滴を形成可能にするノズル、3は液体窒素タンク、4は容器内を真空に保持する真空ポンプ、5は容器底部に設けた、液体窒素と固体窒素粒子を混合するための攪拌機、6は液体窒素、7は液体窒素供給配管、8はスラッシュ窒素製品取出し配管、9はノズルによって形成された液体窒素粒子、10は該液体窒素より凝固した固体窒素粒子、11は液体窒素をノズルに圧送するためのポンプである。
第1図を参照して、以下に本発明の実施例1における装置の構成及びこれによる製造プロセスの動作を説明する。液体窒素タンク3には液体窒素供給配管を接続し、一つはポンプ11を介して、ノズル2に接続する。ノズルはその噴出孔の口径が各種のものが用意されており、その範囲の各種径のものと交換可能になっている。ポンプ11の回転数若しくは、ポンプ11の吐出側に設けられている不図示の圧力調節手段により圧力をノズル内の圧力を調節可能となっている。液体窒素供給配管経路のもう一つは容器1に接続する。容器1の天井部からは真空配管が接続され真空ポンプ4によって、減圧することができるようになっている。更に容器底部には攪拌機5が設けられ、内容物を攪拌可能になっている。また容器1の側壁の底部付近には製品取り出し配管を設けてある。
窒素タンク3には、液体窒素6があらかじめ保留され、若しくは適宜な液面を維持するように、補給され、該保留窒素は供給配管7を通じて、圧力範囲7kg/cm〜10kg/cmでノズル2に供給する。ノズル2はその噴出孔のサイズを直径0.1mm〜0.2mmの範囲で変化して、容器の内部圧力が約93Torr(三重点)の範囲の減圧度になるよう真空ポンプ4で減圧しながら、噴出させた。その結果、0.05mm〜0.1mmの任意の直径の固体窒素粒子が得られた。決まったノズル径を使用し、供給圧力を一定に保ち、減圧度を一定に保つと、粒度分布のシャープな固体窒素粉末が得られた。
形成した窒素固体粉末は容器底部に堆積するので、液体窒素の供給配管7経由で、液体窒素を容器内に送入し、攪拌機5で攪拌して、均一な微粒状スラッシュ窒素とした。該スラッシュ窒素は製品抜き出し配管8より抜き出して、1バッチのプロセスを終了とした。
【実施例2】
第2図は本発明のスラッシュ窒素の製造装置を複数接続した連続製造装置の一例である。第1図と共通な部品などの要素は共通の符号で表したので、個々の説明は省略する。第1図を参照して、以下に本発明の実施例2における装置の構成及びこれによる製造プロセスの動作を説明する。
実施例1で説明したのと同様なスラッシュ窒素製造装置100及び200が並列に配置され、その原料径路は共通な液体窒素タンク3に接続され、その製品取り出し経路は共通な製品取り出し経路80に接続されている。
スラッシュ窒素製造装置100において、真空ポンプ4を稼動して減圧に保たれた、容器1に配置されたノズル2にポンプ11で液体窒素6を圧送して、液体窒素粒子9の形成を経由して、固体窒素粒子10からなる粉末固体窒素の製造を行う。一方、前バッチで製造した粉末固体窒素がスラッシュ窒素製造装置200内に滞留しているので、窒素タンク3より液体窒素6をスラッシュ窒素製造装置200の容器1内に送入して、スラッシュ窒素製造装置200の攪拌機5を稼動して、混合を行い、均一な微粒径固体窒素を含むスラッシュ窒素を製造した。しかる後、製品抜き出し経路80により製品を抜き出した。スラッシュ窒素製造装置200の抜き出しが終了するときに、スラッシュ窒素製造装置100のプロセスが終了するように計画し、次にシークエンスで、固体窒素粒子製造プロセスと混合抜き出しプロセスを入れ替えて、200で固体窒素粒子製造プロセスを行い、100で混合抜き出しプロセスをおこなって、以後交互に連続して行った。
【産業上の利用可能性】
本発明により、流動特性の良好なスラッシュ窒素が、コストのかからない装置・方法で可能となり、大型、長尺物の低温冷却が効率よく行え、特に超電導機器産業、その他産業の用途は広い。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下に保持した容器中に、噴射後液滴として維持できるように、ノズル径と噴射圧力を調整して、該ノズルより液体窒素を噴射し、前記容器中に均一微粒径の液体窒素粒子を形成・分散せしめ、該液滴粒子が前記容器の空間中に滞留中に、前記形成した液滴粒子より窒素を蒸発させて、該蒸発潜熱によって液体窒素粒子を凝固させ、均一な微粒径の固体窒素粒子を形成させ、液体窒素と混合することを特徴とするスラッシュ窒素の製造方法。
【請求項2】
容器中を減圧する真空ポンプと、該ポンプによって減圧下に保持される容器と、液体窒素を該容器中に噴射可能に配置したノズルと、該ノズルに液体窒素を圧送するポンプと、容器中内容物を攪拌可能な攪拌機を有してなり、該ノズルが各種口径のものに交換可能とし、液体窒素を圧送する圧力を調節可能として、減圧下に保持した容器中に前記選定したノズルより噴射圧力を調整して液体窒素を噴射し、前記容器中に均一微粒径の液体窒素粒子を形成・分散せしめ、該液滴粒子が前記容器の空間中に滞留中に、前記形成した液滴粒子より窒素を蒸発させて、該蒸発潜熱によって液体窒素粒子を凝固させ、均一微粒径の固体窒素粒子を形成させ、液体窒素と混合可能なように構成したことを特徴とするスラッシュ窒素の製造装置。
【請求項3】
前記ノズルを一つの容器に複数備えたことを特徴とする請求の範囲第2項記載のスラッシュ窒素の製造装置。
【請求項4】
前記ノズルが一つに複数の孔を有する多孔式であることを特徴とする請求の範囲第2項記載のスラッシュ窒素の製造装置。
【請求項5】
前記スラッシュ窒素の製造装置を複数基並列に接続し、固体窒素粒子と形成プロセスと該形成固体窒素粒子と三重点近傍温度の液体窒素を注入して混合するプロセスとを別々の容器で同時実施可能とし、個々の容器では前記二つのプロセスをシークエンシャルに行って、全体プロセスを連続的に行えるようにしたことを特徴とする請求の範囲第2項記載のスラッシュ窒素の製造装置。

【国際公開番号】WO2005/075352
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517596(P2005−517596)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001249
【国際出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】