説明

スラブの構築方法、せん断補強筋、及びコンクリート梁構造

【課題】ハーフプレキャストスラブの張り出し部の無支保化施工を可能にする。
【解決手段】本体部41及び張り出し部42と、これら本体部及び張り出し部に埋設されてその上面に露出するトラス筋44と、本体部及び張り出し部間に露出するスラブ下端筋43とを備えるハーフプレキャストスラブ4を用い、平行に設置されて上面に下側のせん断補強筋31が露出する梁3に、本体部41の両側部と張り出し部42の基端部を載せて、その本体部と張り出し部との間において、下側のせん断補強筋31の上部及びトラス筋44の部分に上方からスラブ上端筋46と梁3の主筋32を配筋してから、下側のせん断補強筋31の上部及びスラブ下端筋43の部分に跨る形状をなす上側のせん断補強筋6を配筋した後、下側のせん断補強筋31、トラス筋44、スラブ下端筋43、スラブ上端筋46、梁3の主筋32及び上側のせん断補強筋6が埋設される状態にコンクリートを打設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフプレキャストスラブを用いて行うスラブの構築方法と、それに用いるせん断補強筋と、そのせん断補強筋を用いたコンクリート梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、ラーメン構造のコンクリート構造物の施工に際して、施工中の梁に対して互いに対向する一対の側縁部がそれぞれ載置された状態に設置されるハーフプレキャストスラブと、そのハーフプレキャストスラブを用いて行うスラブの構築方法が提案される。
特許文献1のハーフプレキャストスラブは、上部に突出する状態にトラス筋が予め埋設されて、下端筋が予め埋設されるとともに、一対の側縁部を繋ぐ方向に略沿ってプレストレスが導入され、かつ一対の側縁部にハンチを有さないスラブ本体と、梁に対して載置された状態のスラブ本体の側縁部と梁内部とにそれぞれ所定長さ跨る状態に配筋され、スラブ本体の上部に打設されるコンクリートに埋設される重ね継手筋とを備える。
そして、スラブ本体を、その互いに対向する一対の側縁部が施工中の梁に対してそれぞれ載置される状態に設置し、梁に対して載置された状態のスラブ本体の側縁部と梁内部とにそれぞれ所定長さ跨る状態に重ね継手筋を配筋し、上端筋を配筋後、スラブ本体上部に対し、重ね継手筋が埋設される状態にコンクリートを打設して構築する。
【0003】
また、特許文献2において、上面にずれ止めが設けられた鋼製桁部とコンクリート製の床版とによって形成される合成桁の構築方法が提案される。
特許文献2のハーフプレキャストは、鋼製桁部の上面フランジの両側縁において、ずれ止めより外側の鋼製桁部上に端部が載置されて、両側縁から張り出される張り出し部のみである。
そして、ハーフプレキャスト張り出し部と、そのハーフプレキャスト張り出し部間を連結する部材であって両端部の下部がハーフプレキャスト張り出し部に埋設されて上部が上方に突出するトラス筋と、鋼製桁部上及ハーフプレキャスト張り出し部上に打設されてトラス筋を埋設させる現場打ちコンクリート部とによって床版が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−339867号公報
【特許文献2】特開2010−101072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術は、ハーフプレキャストのスラブ本体の両側縁部を梁にそれぞれ載置して施工するものであり、張り出しスラブの無支保化施工は不可能であった。
【0006】
また、特許文献2の技術は、鋼製桁部とコンクリート製床版による合成桁において、その張り出し部のみハーフプレキャスト製としたものであり、ハーフプレキャスト張り出し部の無支保化施工は可能であるものの、特許文献1のような本体部に張り出し部を備えるハーフプレキャストスラブを用いるものではない。
なお、鋼製桁では、鉄筋コンクリート梁で必要なせん断補強筋は不要である。
【0007】
本発明の課題は、ハーフプレキャストスラブの張り出し部の無支保化施工を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、プレキャストコンクリート製の本体部及び張り出し部と、これら本体部及び張り出し部に埋設されて当該本体部及び張り出し部の上面に露出するトラス筋と、前記本体部及び張り出し部に埋設されて当該本体部及び張り出し部の間に露出するスラブ下端筋とを備えるハーフプレキャストスラブを用い、平行に設置されて上面に下側のせん断補強筋が露出する梁に、前記本体部の両側部と前記張り出し部の基端部を載せて、前記本体部と張り出し部との間において、前記下側のせん断補強筋の上部及び前記トラス筋の部分に上方からスラブ上端筋と前記梁の主筋を配筋し、且つ前記梁の主筋を配筋してから、前記下側のせん断補強筋の上部及び前記スラブ下端筋の部分に跨る形状をなす上側のせん断補強筋を配筋した後、前記下側のせん断補強筋、トラス筋、スラブ下端筋、スラブ上端筋及び上側のせん断補強筋が埋設される状態にコンクリートを打設する、スラブの構築方法を特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスラブの構築方法であって、前記上側のせん断補強筋は、前記下側のせん断補強筋の上部に沿わせる直線部の両側から斜め下方に延びて湾曲する湾曲部が前記梁の上面に重ねられることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のスラブの構築方法に用いるせん断補強筋であって、前記下側のせん断補強筋の上部に対応する部分と、前記スラブ下端筋に対応する部分と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のスラブの構築方法に用いるせん断補強筋であって、前記下側のせん断補強筋の上部に沿わせる前記直線部と、前記直線部の両側から斜め下方に延びて湾曲する前記湾曲部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載のせん断補強筋を用いるコンクリート梁構造であって、コンクリート上面に下側のせん断補強筋が露出する梁と、前記梁の上面に載せたプレキャストコンクリート製のスラブ本体部及びスラブ張り出し部と、前記スラブ本体部及びスラブ張り出し部の間に露出したトラス筋及びスラブ下端筋と、前記下側のせん断補強筋の上部及び前記トラス筋の部分に配筋したスラブ上端筋及び前記梁の主筋と、前記下側のせん断補強筋の上部及び前記スラブ下端筋の部分に跨って配筋した上側のせん断補強筋と、前記下側のせん断補強筋、トラス筋、スラブ下端筋、スラブ上端筋、梁の主筋及び上側のせん断補強筋が埋設される状態に打設したコンクリートと、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハーフプレキャストスラブの張り出し部を無支保化して施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用したスラブの構築方法の一実施形態の構成を示すもので、高架橋へのハーフプレキャストスラブの架設の仕方を示した正面図である。
【図2】図1に続く鉄筋組立を示した図である。
【図3】図2の矢印A部の拡大図である。
【図4】図3と同様の拡大図で、スラブ上端筋の配筋部の図である。
【図5】上側のせん断補強筋の斜視図である。
【図6】梁にハーフプレキャストスラブを載せた状態で梁上の下側のせん断補強筋とトラス筋及びスラブ下端筋の配置を示した側面図(a)、梁の主筋の配置を示した図(b)、上側のせん断補強筋の配置を示した図(c)である。
【図7】図2に続く場所打ちコンクリート打ち込みを示した図である。
【図8】梁の一般的な鉄筋配置例を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
(実施形態)
図1は本発明を適用したスラブの構築方法の一実施形態の構成として高架橋へのハーフプレキャストスラブの架設の仕方を示したもので、1は柱、2は横梁、3は縦梁、4はハーフプレキャストスラブ、5は吊り治具である。
【0016】
図示のように、左右のコンクリート製の柱1の間にコンクリート製の横梁2が架設されて、左右各々の柱1の間にコンクリート製の縦梁3が架設されている。縦梁3は、上面の左右両側に下側のせん断補強筋31が露出している。ハーフプレキャストスラブ4は、図示しないクレーンにより吊り治具5を介して吊り上げられて、平行する左右の縦梁3の上に載置される。
【0017】
ハーフプレキャストスラブ4は、平行する左右の縦梁3に両側部を載せてその間に設置する本体部41と、その左右に離間し、縦梁3に基端部を載せて設置する張り出し部42とならなり、本体部41及び張り出し部42のプレキャストコンクリートにスラブ下端筋43が埋設されるとともに、トラス筋44の下部が埋設されて、左右の張り出し部42の両側端部にスラブ上端筋45が露出している。なお、スラブ下端筋43は、本体部41と張り出し部42との間に露出している。
【0018】
次に、図2は鉄筋組立を示したもので、図示のように、ハーフプレキャストスラブ4の本体部41及び張り出し部42の間において、左右両側の下側のせん断補強筋31の上部の間でトラス筋44の上方部分に、上方から縦梁3の主筋32を配筋してから、左右の張り出し部42上の両側端部のスラブ上端筋45の間にスラブ上端筋46を配筋する。
【0019】
図3は図2の矢印A部を拡大したもので、図4は同様にスラブ上端筋46の配筋部を示している。
【0020】
そして、図示のように、左右両側の下側のせん断補強筋31の上部及びスラブ下端筋43の部分に跨る形状をなす上側のせん断補強筋6を配筋する。
【0021】
すなわち、上側のせん断補強筋6は、図5に示すように、左右方向に延びる直線部61の両側から斜め下方に延びて湾曲する湾曲部62が形成されている。
【0022】
以上の上側のせん断補強筋6を、図3、図4及び図6に示すように、左右両側の下側のせん断補強筋31の上部に直線部61を沿わせて、その直線部61の両側から斜め下方に延びる湾曲部62をスラブ下端筋43の下方に沿わせて縦梁3の上面に重ねて配筋する。
【0023】
ここで、図6は縦梁3にハーフプレキャストスラブ4を載せた状態を示すもので、図6(a)は縦梁3上の下側のせん断補強筋31とトラス筋44及びスラブ下端筋43の配置を示し、図6(b)は縦梁3の主筋32の配置を示し、図6(c)は上側のせん断補強筋6の配置を示している。
【0024】
縦梁3の長手方向において、図6(a)に示すように、下側のせん断補強筋31の間にスラブ下端筋43及びトラス筋44が配置されていて、図6(b)に示すように、下側のせん断補強筋31の上部の間でトラス筋44の上方部分に、縦梁3の主筋32が配置されている。
【0025】
そして、上側のせん断補強筋6は、図6(c)に示すように、下側のせん断補強筋31の上部に沿わせた直線部61の両側から斜め下方に延びる湾曲部62をスラブ下端筋43の下方に沿わせて縦梁3の上面に重ねることで、次工程で行う場所打ちコンクリートの定着長を確保している。
【0026】
次に、図7は場所打ちコンクリート打ち込みを示したもので、縦梁3及びハーフプレキャストスラブ4の上に、斜線範囲で示すように、縦梁3の下側のせん断補強筋31と主筋32、スラブ下端筋43、トラス筋44、スラブ上端筋45・46及び上側のせん断補強筋6が埋設される状態にコンクリートを打設する。
【0027】
コンクリート打設後、所定の乾燥固化及び養生期間を経て高架橋スラブが構築される。
【0028】
以上のとおり、実施形態のハーフプレキャストスラブ4を用いたスラブの構築方法は、
1)平行に設置されて上面に下側のせん断補強筋31が露出する縦梁3に、本体部41の両側部と張り出し部42の基端部を載せる工程、
2)本体部41と張り出し部42との間において、下側のせん断補強筋31の上部及びトラス筋44の部分に上方からスラブ上端筋46と縦梁3の主筋32を配筋する工程、
3)下側のせん断補強筋31の上部及びスラブ下端筋43の部分に跨る形状の上側のせん断補強筋6を配筋する工程、
4)下側のせん断補強筋31、トラス筋44、スラブ下端筋43、スラブ上端筋46、縦梁3の主筋32及び上側のせん断補強筋6が埋設される状態にコンクリートを打設する工程、
からなる。
【0029】
図8は梁の一般的な鉄筋配置例を示したもので、図示のように、梁8には、下側のせん断補強筋81と上側のせん断補強筋82を配置するのが一般的である。
このような配筋構造の梁8をハーフプレキャストスラブの設置に対応させようとすると、ハーフプレキャストスラブ架設時のコンクリート打ち止め位置は、点線で示したように、かぶせ筋82を横断する位置となって、主筋83を配筋した後から上側のせん断補強筋82を配筋できなくなる。
また、仮に上側のせん断補強筋82を配筋した後からは、主筋83を梁軸方向から挿入しなければならない。
【0030】
これに対し、実施形態の縦梁3は、上面に下側のせん断補強筋31が露出しているため、主筋32の配筋後、左右両側の下側のせん断補強筋31の上部に直線部61を沿わせるとともに、その直線部61の両側から斜め下方に延びる湾曲部62をスラブ下端筋43の下方に沿わせて縦梁3の上面に重ねることにより、上側のせん断補強筋6を配筋してせん断補強を行っている。
【0031】
以上、実施形態のスラブの構築方法によれば、ハーフプレキャストスラブ4の張り出し部42を無支保化して施工することができる。
【0032】
(変形例)
以上の実施形態においては、高架橋としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、一般の建築物であってもよい。
また、実施形態では、梁の両側2本の下側のせん断補強筋に上側のせん断補強筋をかぶせたが、その内側に2本の下側のせん断補強筋を設けて、その内側2本の下側のせん断補強筋にも上側のせん断補強筋をかぶせてもよい。
さらに、梁の主筋を配筋してからスラブ上端筋を配筋したり、上側のせん断補強筋を配筋した後でスラブ上端筋を配筋してもよい。
また、せん断補強筋の本数も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 柱
2 横梁
3 縦梁
31 下側のせん断補強筋
32 主筋
4 ハーフプレキャストスラブ
41 本体部
42 張り出し部
43 スラブ下端筋
44 トラス筋
45 スラブ上端筋
46 スラブ上端筋
5 吊り治具
6 上側のせん断補強筋
61 直線部
62 湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート製の本体部及び張り出し部と、これら本体部及び張り出し部に埋設されて当該本体部及び張り出し部の上面に露出するトラス筋と、前記本体部及び張り出し部に埋設されて当該本体部及び張り出し部の間に露出するスラブ下端筋とを備えるハーフプレキャストスラブを用い、
平行に設置されて上面に下側のせん断補強筋が露出する梁に、前記本体部の両側部と前記張り出し部の基端部を載せて、
前記本体部と張り出し部との間において、前記下側のせん断補強筋の上部及び前記トラス筋の部分に上方からスラブ上端筋と前記梁の主筋を配筋し、且つ前記梁の主筋を配筋してから、前記下側のせん断補強筋の上部及び前記スラブ下端筋の部分に跨る形状をなす上側のせん断補強筋を配筋した後、
前記下側のせん断補強筋、トラス筋、スラブ下端筋、スラブ上端筋、梁の主筋及び上側のせん断補強筋が埋設される状態にコンクリートを打設することを特徴とするスラブの構築方法。
【請求項2】
前記上側のせん断補強筋は、前記下側のせん断補強筋の上部に沿わせる直線部の両側から斜め下方に延びて湾曲する湾曲部が前記梁の上面に重ねられることを特徴とする請求項1に記載のスラブの構築方法。
【請求項3】
請求項1に記載のスラブの構築方法に用いるせん断補強筋であって、
前記下側のせん断補強筋の上部に対応する部分と、
前記スラブ下端筋に対応する部分と、を備えることを特徴とするせん断補強筋。
【請求項4】
請求項2に記載のスラブの構築方法に用いるせん断補強筋であって、
前記下側のせん断補強筋の上部に沿わせる前記直線部と、
前記直線部の両側から斜め下方に延びて湾曲する前記湾曲部と、を備えることを特徴とするせん断補強筋。
【請求項5】
請求項3または4に記載のせん断補強筋を用いるコンクリート梁構造であって、
コンクリート上面に下側のせん断補強筋が露出する梁と、
前記梁の上面に載せたプレキャストコンクリート製のスラブ本体部及びスラブ張り出し部と、
前記スラブ本体部及びスラブ張り出し部の間に露出したトラス筋及びスラブ下端筋と、
前記下側のせん断補強筋の上部及び前記トラス筋の部分に配筋したスラブ上端筋及び前記梁の主筋と、
前記下側のせん断補強筋の上部及び前記スラブ下端筋の部分に跨って配筋した上側のせん断補強筋と、
前記下側のせん断補強筋、トラス筋、スラブ下端筋、スラブ上端筋、梁の主筋及び上側のせん断補強筋が埋設される状態に打設したコンクリートと、からなることを特徴とするコンクリート梁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53413(P2013−53413A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190506(P2011−190506)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【出願人】(000228350)日本カイザー株式会社 (14)
【Fターム(参考)】