説明

スラブ糸及びその製造装置とそのスラブ糸を用いた織編物

【課題】 本発明は、特別な精紡機を必要とせず、通常の紡績機械で製造でき、自然な感じのムラを持ったスラブ糸、その製造方法及びその糸を用いた織編物を提供しようとするものである。
【解決手段】 本発明者は、精紡機のフロントローラの粗糸側にあるコレクタに遮蔽部材を取り付け、粗糸の繊維の一部の先端を止めて屈曲させることにより、この屈曲した繊維が節となり、また、この節がランダムに発生することにより、自然な感じのスラブ糸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精紡糸に関し、特に、スラブ糸を製造する装置及びそのスラブ糸を用いた織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にリング精紡機では、供給される短繊維の粗糸にドラフトをかけ、できたフリースをフロントローラから送り出し、高速で回転しているスピンドルの回転によってこのフリースに撚りをかけ、スネルワイヤ、リング上のトラベラを経てスピンドルに差し込んだ木管に巻き取り紡績糸としている。
【0003】
一方、自然な太細ムラのある糸は、手作りの風合と外観とを持つ糸として市場で人気がある。従来、このムラのある糸は様々な製造方法が検討されてきた。例えば、精紡機のドラフトパートにおけるバックローラを変速自在なサーボモータと直結させ、コンピュータ等の出力によってバックローラの回転運動を紡出中に適宜変化させる方法がある。これによりドラフト倍率を変化させ、太糸部分と細糸部分がランダムに混在する精紡糸を製造することができる。
【0004】
また、自然なムラを与えるものとして、特許文献1(特開平7−268728号)では、1/fゆらぎのムラを与える精紡機を開示している。ムラを与える方法としては、ドラフトパートを構成するフロントローラ、ミドルローラ、バックローラのいずれかの表面速度を変化させている。
【0005】
これに対し、特許文献2(特開平11−350265号)では、多種原料糸を保持し、1本のみを通過させて多種原料がそれぞれ連続して紡出されるようにする多種原料糸を連続紡出する紡機が開示されている。
【0006】
特許文献3(特開2006−225814号)では、短い繊維を多く含むカードスライバから粗糸とし、該粗糸を精紡機に供給して精紡糸としており、通常の繊維の粗糸と合わせるという発明が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−268728号
【特許文献2】特開平11−350265号
【特許文献3】特開2006−225814号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法は、自然な感じに近いが、精紡装置の構成が複雑になる。また、フロントローラの速度を変化させる場合は、精紡糸の紡出速度が変化するので、スピンドル回転も併せて変化させることになる。そのため、さらに機構が複雑になる。
また、特許文献2の装置は、多種原料糸から連続して紡出しているが、スラブ糸を作成するという思想のものではなく、異なった糸の原料を順次連続的に接続して1本の糸にするものである。
また、特許文献3の方法は、短繊維をムラの原料とするため、2種類以上の粗糸を必要とするなどの制限がある。
【0009】
本発明は、このような実情から考えられたもので、特別な精紡機を必要とせず、通常の紡績機械で製造でき、自然な感じのムラを持ったスラブ糸、その製造方法及びその糸を用いた織編物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、精紡機のフロントローラの粗糸側にあるコレクタに遮蔽部材を取り付け、粗糸の繊維の一部の先端を止めて屈曲させることにより、この屈曲した繊維が節となり、また、この節がランダムに発生することにより、自然な感じのスラブ糸ができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
<1>屈曲した繊維が、糸の長さ方向に揃えられた短繊維と一緒に撚られ、糸の太さがランダムに糸の長さ方向で変化することを特徴とするスラブ糸、
<2>精紡機のフロントトップローラとボトムローラの粗糸側に配置するコレクタに、前記コレクタの開口部に遮蔽部材を具えたことを特徴とするスラブ糸の製造装置、
<3>前記遮蔽部材が、前記コレクタの下面から数mmの位置に前記遮蔽部材の下端がなるように取り付けたことを特徴とする請求項2に記載のスラブ糸の製造装置、
<4>前記遮蔽部材の粗糸側に複数の突起を設けたことを特徴とする<3>に記載のスラブ糸の製造装置、
<5><1>記載のスラブ糸を用いたことを特徴とする織編物、
を提供する。
【0012】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0013】
精紡糸は、スライバや粗糸に繰り返しダブリングやドラフトを加えることで作られる。ドラフトとは、表面速度が異なる2対のローラ対の速度の低い方からスライバや粗糸を入れて速度の早い方で引っ張ることをいう。スライバや粗糸がローラ対間を通過することで引っ張られて細くなり、同時に繊維の向きが揃えられていく。このドラフトを繰り返すことで繊維の平行度を上げ、糸にできる太さムラ(以後「糸ムラ」という)を少なくすることができる。また、ドラフトする際に供給側のスライバや粗糸を複数本にして排出側で1本にまとめる、いわゆるダブリングをすることで糸の番手の均一化を図ることができる。
【0014】
本件発明では、向きや太さが揃えられた単繊維の一部を屈曲させることにより、均一化された粗糸をばらつかせると共に、糸に節状の太い部分をつくり、かつ細い部分もつくることができ、自然な感じのスラブ糸とするのである。
【0015】
なお、本発明における屈曲とは、単繊維が遮蔽部材により進行を妨げられることにより進行方向とは逆方向に折り曲がった状態や、ほぼ真っ直ぐな単繊維が挫屈したような状態になることをいう。また、本発明における節状とは、屈曲した繊維及びその繊維の周りに集まった単繊維により太くなった部分をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ローラの表面速度(回転速度)を変更できるようにした特殊な精紡機が不要となり、コレクタを交換するだけで通常の精紡機で紡出できる。
また、通常の精紡機にコレクタを交換するだけなので、通常の糸とスラブ糸の生産のための段取り換えが簡単に行える。
本発明でできる糸ムラは、太さや周期がランダムで自然な感じの手作り風になる。
また、このスラブ糸を用いた織物を染色すると、織物に濃淡ができ、織物は自然な感じの絣調となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本件発明のスラブ糸であり、糸の太さが英式綿番手=23の糸で、遮蔽部材の取り付けがコレクタ下面より(h=)3.0mm、フロントローラとエプロンの距離を通常より約2.2mmフロントローラから離したものである。図2は、本件発明のスラブ糸であり、糸の太さが英式綿番手=23の糸で、遮蔽部材の取り付けがコレクタ下面より(h=)3.5mm、フロントローラとエプロンの距離を通常より約1.5mmフロントローラから離したものである。
図3は、本件発明のコレクタ、フロントローラ、粗糸、スラブ糸の関係を示したものである。
図4は、本件発明のコレクタの詳細である。符号1はコレクタ、符号2は遮蔽部材、符号3は粗糸、符号4は精紡糸、符号5はフロントトップローラ、符号6はフロントボトムローラである。なお、フロントトップローラ5とフロントボトムローラ6の一対をフロントローラと呼ぶ。
【0019】
まず、図3(a)、(b)を用いて、スラブ糸の製造過程を説明する。
図3(a)は、粗糸3側からコレクタ1とフロントローラを見た図である。粗糸3は、コレクタ1の間隙1bを通りニップ点Nに達する。ニップ点Nの摩耗対策として、フロントローラは軸方向に左右に移動しており、コレクタ1もこの左右の動きに同調できるように軸1c上を左右に移動できるようになっている。
図3(b)は、粗糸及びスラブ糸の長手方向の横方向から見たものである。図中左側には、篠から取り出された粗糸、バックローラ等(図示せず)があり、粗糸がドラフトされながらフロントローラ間に導かれる。フロントローラを出た粗糸は、撚りを加えられながらスネルワイヤ、リング、回転している管糸(図示せず)に巻き取られる。
【0020】
単繊維の方向及び太さを揃えられた粗糸は、ドラフトされながら図3(b)の左側より右側に引っ張られている。粗糸3は、フロントローラ間のニップ点Nを経て精紡糸4となる。粗糸3がニップ点Nに進入する前に、コレクタ1で粗糸3が幅方向に広がらないようにされている。
単繊維の先端が図中上方向のものの一部が、遮蔽部材に衝突し進行を妨げられる。この進行を妨げられた単繊維が、屈曲するとともに回りの単繊維の進行を妨げることで、単繊維が少なくなった部分は細い糸となり、また、妨げられた単繊維の塊が進行した部分が節状の太い糸となる。
【0021】
図4は、本発明に用いるコレクタである。通常の精紡に用いるコレクタ1に、遮蔽部材を取り付け、上記したように、一部の単繊維の進行を止めるようにしている。コレクタ1の下面から遮蔽部材2の下面までの高さ(h)は、精紡糸の太さにより、又は粗糸の太さにより、変えるのが好ましい。
遮蔽部材2を、低い位置に取り付けた場合、単繊維の先端が遮蔽部材2に遮られる率が高くなり、糸切れが多発する、また、高い場合は、単繊維の先端が遮蔽部材2に遮られる率が低くなりスラブ糸とならなくなる。
【0022】
また、遮蔽部材2の表面には、細い針状の複数の突起を設けると、より単繊維を止め易くなるため、平坦な面よりも好ましい。
遮蔽部材2の厚みは、フロントローラとエプロン7(又はセカンドローラ)の隙間に取り付けられるものであれば良く、突起部を含め2mm程度のものが良い。
【0023】
また、フロントローラとエプロンの距離を前後することにより、節状のムラの発生頻度及び大きさをコントロールすることもできる。
図5は、精紡機のローラ部の斜視図である。エプロン7をバックローラ8側に移動させると、エプロン7とフロントローラ間で粗糸3がよりフリーになり遮蔽部材2に接触する単繊維数が増える。
【実施例】
【0024】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0025】
[実施例1]
粗糸195ゲレン/5ヤードのものを下記条件で紡糸した。
紡出番手:英式綿番手23
撚り数:30(T/in)
スピンドル回転数:6600rpm
トータルドラフト:20.34
また、エプロンをフロントローラ側より2.2mm離した。
(1)遮蔽部材の下面:4.0mm
(2)遮蔽部材の下面:4.5mm
(3)遮蔽部材の下面:3.0mm
(4)遮蔽部材の下面:3.5mm
(5)遮蔽部材の下面:2.5mm
遮蔽部材が2.5mm以下のものでは、糸切れが多くなるという問題が発生し、4.0mmを超えるとムラがおとなしくなり、ムラ糸としての価値が低くなった。
【0026】
[実施例2]
粗糸195ゲレン/5ヤードのものを下記条件で紡糸した。
紡出番手:英式綿番手23
撚り数:20(T/in)
スピンドル回転数:7800rpm
トータルドラフト:20.34
また、エプロンをフロントローラ側より2.2mm離した。
(1)遮蔽部材の下面:3.0mm
(2)遮蔽部材の下面:3.5mm
(3)遮蔽部材の下面:4.0mm
(4)遮蔽部材の下面:4.5mm
【0027】
粗糸450ゲレン/5ヤードのものも実施例1,2と同様に実施したところ、実施例1,2と同様のムラ糸が製造できた。

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本件発明のスラブ糸の第一例。
【図2】図2は本件発明のスラブ糸の第二例。
【図3】図3は本件発明のコレクタとフロントローラの概略図。 (a)コレクタ側から見た図。 (b)フロントローラの軸側から見た図。
【図4】図4は本件発明のコレクタの例。
【図5】図5は精紡機のローラ部の斜視図。
【符号の説明】
【0029】
1 コレクタ
2 遮蔽部材
3 粗糸
4 精紡糸
5 フロントトップローラ
6 フロントボトムローラ
7 エプロン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲した繊維が、糸の長さ方向に揃えられた短繊維と一緒に撚られ、糸の太さがランダムに糸の長さ方向で変化することを特徴とするスラブ糸。
【請求項2】
精紡機のフロントトップローラとボトムローラの粗糸側に配置するコレクタに、前記コレクタの開口部に遮蔽部材を具えたことを特徴とするスラブ糸の製造装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材が、前記コレクタの下面から数mmの位置に前記遮蔽部材の下端がなるように取り付けたことを特徴とする請求項2に記載のスラブ糸の製造装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材の粗糸側に複数の突起を設けたことを特徴とする請求項3に記載のスラブ糸の製造装置。
【請求項5】
請求項1記載のスラブ糸を用いたことを特徴とする織編物。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−202184(P2008−202184A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41629(P2007−41629)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】