説明

スラリの劣化検知方法、スラリ交換方法およびワイヤソー

【課題】 簡易に、かつ安価な構成でスラリの劣化を正確に検知する。
【解決手段】 駆動モータ16等により高速駆動されるワイヤ11と、スラリを循環させながらワイヤ11に供給するスラリ循環装置2と、ワイヤソーを統括的に制御する制御装置40とを有する。制御装置40は、駆動モータ16を制御するサーボアンプ17内に設けられた電流計の検出値に基づき、当該検出値が所定の閾値に達したときにその状態をスラリの劣化として検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料、セラミック、ガラス基板等の硬脆材料を切断するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体インゴット等のワークをスライス状に切り出す手段としてワイヤソーが知られている。ワイヤソーは、複数のガイドローラ間に切断用ワイヤが巻き掛けられることにより該ワイヤが多数本並んだ状態で張設され、ワイヤをその軸方向に高速走行させながら該ワイヤに遊離砥粒を含むスラリを供給し、この状態で、ワイヤの軸方向と直交する方向にワークを切断送りすることにより、ワークをスライス状に多数毎同時に切り出すように構成されている。
【0003】
この種のワイヤソーにおいて、前記スラリは貯溜タンクから給送され、使用後、このタンクに回収されることにより繰り返し使用されるが、分散液の蒸発や切粉の混入等により経時劣化を伴うため、適当な時期に交換することが必要となる。そこで、例えばスラリの循環経路中に粘度計を設置し、分散液の蒸発や切粉の混入等によるスラリの粘度変化を直接監視することによりスラリの交換、あるいは分散剤の補充等の措置を執ることが行われている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−10511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、粘度計を用いる上記特許文献1のワイヤソーでは、粘度計自体が高価なため装置の低廉化を図る上で不利である。また、粘度計により精度良くスラリの粘度測定を行うためには詳細な条件設定が必要となるなど、スラリの交換時期等を正確に検知することは必ずしも容易ではない。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであって、スラリの劣化状態を簡易に、かつ安価な構成で正確に検知できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題に鑑み、本願出願人は、分散液の蒸発、切粉の混入あるいは砥粒の磨耗等によりスラリの劣化が進行した状態では、スラリの粘度上昇や切断能力の低下が生じてワイヤ駆動用のモータの負荷が上昇する点、また、このようなモータ負荷は、モータに供給される制御電流値等を検出することにより比較的簡単に検知することが可能な点に着目した。
【0007】
すなわち、本発明に係るスラリの劣化検知方法は、ワイヤ駆動用モータにより高速駆動される切断用ワイヤにスラリを供給しながらこのワイヤにワークを押付けて切断するとともに、この切断動作において前記スラリを循環させながら繰り返し使用するように構成されたワイヤソーの前記スラリの劣化状態を検知する方法であって、前記ワイヤ駆動用モータの負荷を監視し、その負荷に基づいてスラリの劣化状態を検知するようにしたものである(請求項1)。
【0008】
この方法によれば、上記の通り例えば電流計を使ってモータの制御電流等を検出するといういたって簡易で、しかも安価な構成でスラリの劣化状態を検知することが可能となるため、従来のような粘度計といった高価で、また詳細な条件設定が求められる測定機器を用いることなく、スラリの劣化を正確に検知することが可能となる。
【0009】
具体的には、例えばモータの負荷が予め設定された閾値に達したときに当該状態を前記スラリの劣化状態として検知するようにすればよい(請求項2)。この場合、例えば、交換(入替え)が必要な状態までスラリが劣化したときのモータ負荷を予め試験的に求めておき、これを閾値として設定すれば、簡単な方法で正確にスラリの劣化を検知することが可能となる。
【0010】
なお、上記の検知方法において、ワークとして、ワイヤの切込量に応じてワークに対するワイヤの接触長さが変化するものを切断する場合には、前記切込量に応じて前記閾値を設定するのが好ましい(請求項3)。
【0011】
すなわち、閾値として特定の値を設定しても構わないが、上記のようなワークでは、ワイヤの切込量に応じてモータの負荷が変化するため、スラリの劣化を正確に検知するには、ワイヤの切込量に応じた閾値を設定する方が好ましい。
【0012】
一方、本発明に係るスラリ交換方法は、ワイヤ駆動用モータにより高速駆動される切断用ワイヤにスラリを供給しながらこのワイヤにワークを押付けて切断するとともに、この切断動作において前記スラリを循環させながら繰り返し使用するように構成されたワイヤソーの前記スラリの交換方法であって、前記請求項1〜3の何れかに記載のスラリの劣化検知方法に基づいてスラリの劣化を検知し、この検知に基づき前記スラリを交換するようにしたものである(請求項4)。
【0013】
このようなスラリ交換方法によれば、適切な時期にスラリの交換を行いながらも、その交換時期を簡単な方法で正確に検知することが可能となる。
【0014】
さらに、本発明に係るワイヤソーは、ワイヤ駆動用モータにより高速駆動される切断用ワイヤと、このワイヤにスラリを供給するとともに使用後のスラリを回収することにより前記スラリを循環させながらワイヤに供給するスラリ供給手段とを有したワイヤソーにおいて、前記モータの負荷を検出可能な負荷検出手段と、前記負荷検出手段による検出値が予め設定された閾値に達したときに当該状態を前記スラリの劣化状態として検知する劣化検知手段とを備えているものである(請求項5)。
【0015】
このワイヤソーによれば、上記のような方法に基づいて自動的にスラリの劣化を検知することが可能となる。
【0016】
なお、劣化検知手段によりスラリの劣化が検知された場合、例えばオペレータがマニュアル操作でスラリの交換を行うようにしてもよいが、例えば、スラリの交換を可能とする交換手段を設け、さらに前記劣化検知手段によるスラリの劣化検知に基づいて前記スラリを交換すべく前記交換手段の動作を制御する制御手段を設けるようにすれば(請求項6)、切断動作中、スラリの劣化検知に基づいて自動的にスラリの交換を行うことが可能となるため、ワイヤソーによる一連の切断作業を効率的に進めることが可能となる。
【0017】
なお、上記のワイヤソーにおいては、さらに、前記交換手段によるスラリの交換直後、前記劣化検知手段によるスラリの劣化検知状態が継続している場合に当該状態を装置トラブルとして検知する異常検知手段を備えているのがより好ましい(請求項7)。
【0018】
すなわち、モータの負荷はスラリの劣化(粘度上昇)以外に、例えばモータのベアリング破損等によっても上昇することが考えられ、このような場合には、スラリの交換を行った後も劣化検知手段による検知状態が継続することとなる。そのため、上記のような構成によると、このような装置トラブルを検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るスラリの劣化検知方法によると、ワイヤ駆動用モータの負荷を監視し、その負荷に基づいてスラリの劣化状態を検知するため、例えば電流計を設けてモータの制御電流を検出するなどすることによりスラリの劣化状態を容易に検知することが可能となる。そのため、粘度計を用いてスラリの劣化状態を検知する従来の方法と比べると、簡易で、かつ安価な構成でスラリの劣化状態を検知することができるようになる。
【0020】
また、本発明に係るスラリ交換方法によると、上記のような劣化検知方法に基づいてスラリの劣化状態を検知してスラリの交換を行うので、適切な時期にスラリの交換を行いながらも、その交換時期を簡易で、かつ安価な構成で検知することができるようになる。
【0021】
さらに、本発明に係るワイヤソーは、上記のような劣化検知方法に基づいてスラリの劣化状態を検知するように構成されているので、効果的にワイヤソーの低廉化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の最良の実施形態について図面を用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明に係るワイヤソーの全体構成を模式的に示している。この図に示すワイヤソーは、ワークWを切断する装置本体1と、この装置本体1に対してワーク切断時に使用するスラリを循環させるスラリ循環装置2とを備えている。
【0024】
装置本体1は、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、4つのガイドローラ12A,12B,14A,14Bおよび図外のワイヤ張力調節装置等を備えている。
【0025】
同図に示すように上記4つのガイドローラ12A,12B,14A,14Bのうち一対のガイドローラ12A,12Bは互いに同じ高さ位置に一定の間隔を隔てて配置され、残りの一対のガイドローラ14A,14Bはそれぞれ上記一対のガイドローラ14A,14Bの下方の位置に同じ高さ位置で配置されている。そしてガイドローラ14Aが駆動モータ16によって回転駆動されるようになっている。
【0026】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、それぞれ切断用のワイヤ11が巻かれるボビンとこれを回転駆動するボビン駆動モータとを備えており(詳細図省略)、一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aのボビンから繰出されたワイヤ11がガイドローラ12A,12B,14A,14Bの順に、それらの外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながら多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのボビンに巻き取られ、さらにワイヤ張力調節装置によって適当な張力が与えられることによりワイヤ11が両装置10A,10B間に亘って張設されている。そして、駆動モータ16によるガイドローラ14Aの回転駆動方向と、各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bのボビン駆動モータによるボビンの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10A(10B)からワイヤ11が繰出されて他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10B(10A)に巻き取られる状態と、その逆の状態とに切換わるように構成されている。
【0027】
すなわち、このワイヤソー(装置本体1)においては、ガイドローラ12A,12Bの間、およびガイドローラ14A,14Bの間にそれぞれ多数本のワイヤ11が互いに平行な状態で張られ、かつその軸方向に往復駆動(往復走行)されるようになっている。
【0028】
ガイドローラ12A,12B間、およびガイドローラ14A,14B間にそれぞれ張られたワイヤ11の上方には、ワークW(インゴット)を移動させる図外のワーク送り装置が設けられており、このワーク送り装置により、ワークWをその軸方向とワイヤ並び方向(図1では紙面と直交する方向)とが合致するように保持した状態で、ワイヤ11に対して切断(切込)送りするようになっている。
【0029】
また、ガイドローラ12A,12B間、およびガイドローラ14A,14B間にそれぞれ張られたワイヤ11の上方には複数のノズル18が設けられている。これらノズル18は、水溶性あるいは油性の分散液に加工用砥粒を混合した加工液(スラリ)をワイヤ11に吹き付けるものである。
【0030】
各ノズル18はスラリ循環装置2(スラリ供給手段)にそれぞれ接続されており、これにより装置本体1に対してスラリを循環させながら繰り返し使用するようになっている。
【0031】
すなわち、スラリ循環装置2は、タンク20、供給配管22、ポンプ26、スラリ・パン19、回収配管24等を有し、前記タンク20内に貯溜されたスラリを、ポンプ26の作動により前記供給配管22を通じて各ノズル18に給送する一方で、ワイヤ11への吹き付け後、スラリ・パン19に溜まった使用済みスラリを、前記回収配管24を通じてタンク20に戻すように構成されている。
【0032】
供給配管22には熱交換器27および流量計28が介設され、これにより所定の温度に温調されたスラリが装置本体1に供給されるとともに、その供給量が流量計28により検出されるようになっている。
【0033】
スラリ循環装置2には、さらに循環するスラリの一部又は全部を交換するための交換手段が設けられている。
【0034】
この交換手段は、新たなスラリを貯溜するタンク36(以下、サブタンク36という)、このサブタンク36内のスラリを前記タンク20(以下、メインタンク20という)に供給するための供給配管37およびポンプ35等からなる新スラリの供給手段と、前記回収配管24から分岐する廃液配管32、当該分岐部分に設けられる例えば電磁弁からなる三方弁30および廃液タンク34等からなる廃液の回収手段とから構成されている。すなわち、回収配管24を通じて装置本体1から回収されるスラリを、三方弁30を切換えることによって廃液配管32を通じて廃液タンク34内に導入する一方、前記ポンプ35の作動によりサブタンク36内に貯溜された未使用のスラリを、供給配管37を通じてメインタンク20内に補充するように構成されており、これによって装置本体1に対して循環しているスラリの一部又は全部を交換できるようになっている。なお、図中符号38はレベルセンサであり、稼動中は、この検出値に基づいてメインタンク20内の液面レベルが一定に保たれるようになっている。
【0035】
上記のように構成されたワイヤソーは、その動作を自動制御するための制御装置40(NC装置)を有しており、装置本体1の各駆動モータ16等を制御するサーボアンプ17、スラリ循環装置2のポンプ26,35および三方弁30等が全てこの制御装置40に電気的に接続されている。これにより装置本体1によるワークWの切断動作、およびスラリの供給および交換動作が前記制御装置40により統括的に制御されるように構成されている。
【0036】
特に、ワークWの切断動作中は、ワイヤ11が一定の速度で駆動されるように駆動モータ16等の回転数がフィードバック制御されるとともに、駆動モータ16に供給される制御電流値の検出に基づいてスラリの劣化状態が検知されることによりスラリの交換が行われるようになっている。すなわち、切粉の混入や砥粒の磨耗が進んだスラリの劣化状態では、スラリの粘度上昇や切断能力の低下により駆動モータ16の負荷が上昇するが、上記フィードバック制御によると駆動モータ16の負荷に略比例して駆動モータ16に供給される電流値が制御され、前記負荷と制御電流値との間に相関関係が成り立つ。そこでこのワイヤソーでは、スラリが劣化状態に至ったときの駆動モータ16の負荷に対応する制御電流値が予め閾値として設定されており、稼働中は、前記サーボアンプ17内に設けられた図外の電流計による検出値と上記閾値とに基づいてスラリの劣化が検知されるとともに、この検知に基づきスラリの交換が自動的に行われるようになっている。つまり、当実施形態では、上記電流計により本発明に係る負荷検出手段が構成され、上記制御装置40により本発明に係る劣化検知手段が構成されている。
【0037】
なお、当実施形態では、常に新しいスラリを供給しながら作業を進める場合の駆動モータ16の制御電流値を基準に、これよりも一定の割合だけ高い値が上記閾値として設定されており、例えばスラリの劣化とこれに伴う上記電流値の変化が予め試験的に調べられることにより経験値に基づいて閾値が設定されている。
【0038】
また、閾値はワークWの断面形状に応じて設定されており、例えば正方形断面のワークWについてはワイヤ11の切込量に拘らず一定の値が設定される一方、円形断面のワークWについてはワイヤ11の切込量に応じた値が設定されている。
【0039】
これは、ワイヤ11の切込量とワークWに対するワイヤ11の接触長さとの関係がワークWの断面形状によって異なるためである。すなわち、正方形断面のワークWでは、ワイヤ11の切込量に拘らずワークWに対するワイヤ11の接触長さが一定であり、上記のように常に新しいスラリを使用しながら作業を進める場合を想定すると、駆動モータ16の制御電流値は、図2の実線に示すように、切込直後上昇し、その後は、略一定の値となる。そのため、正方形断面のワークWを対象とする場合の上記閾値は、同図中に一点鎖線で示すように略一定の値に設定されている。これに対して、円形断面のワークWでは、ワイヤ11の切込量に応じてワークWに対するワイヤ11の接触長さが変化するため、上記制御電流値は、図3の実線に示すように切込量に応じて放物線状に変化する。そのため、円形断面のワークWを対象とする場合の上記閾値は、同図中に一点鎖線で示すようにワイヤ11の切込量に応じて放物線状に変化する値が設定されている。
【0040】
次ぎに、上記制御装置40によるスラリの入れ替え動作制御について図4のフローチャートを用いて説明する。なお、以下の説明においては正方形断面のワークWを切断するものとする。
【0041】
ステップS1において切断作業が開始されると、まず、スラリ循環装置2においてポンプ26を作動させることにより供給配管22を介してスラリの供給を開始し、次いでワイヤ11およびワーク送り装置を駆動することによりワークWの切込(切断)送りを開始する。この際、ポンプ35は停止させ、前記三方弁30は、スラリをメインタンク20に導入する状態に切換え制御する。
【0042】
次いで、サーボアンプ17内に設けられた上記電流計による検出値Nが閾値以上、つまりスラリが劣化しているか否かの判断を行う(ステップS2,S3)。
【0043】
ここで、電流値Nが閾値未満であると判断した場合には、ステップS8に移行する。これに対して電流値Nが閾値以上であると判断した場合、つまりスラリが劣化していると判断した場合には、スラリの交換(一部入れ替え)を開始する(ステップS4)。
【0044】
具体的には、ポンプ35を作動させてサブタンク36内の未使用スラリをメインタンク20に導入する一方、三方弁30を切換え、回収配管24を通じて装置本体1から回収されるスラリを廃液タンク34内に導入する。
【0045】
そして、予め設定された時間が経過すると(ステップS5でYES)、ポンプ35を停止させるとともに三方弁30を元の状態に切換え、これによりスラリの入れ替え動作を停止する(ステップS6)。この際、メインタンク20内に一定レベル以上のスラリが貯溜されているようにレベルセンサ38による検出値に基づいてポンプ35の停止タイミングを調整する。
【0046】
スラリの交換が終了すると、再度、上記電流計による検出値Nが閾値以上か否かの判断を行い(ステップS7)、ここで、検出値Nが閾値未満であると判断した場合には、ステップS8に移行して切断作業が終了したか否かを判断する。そして、終了していないと判断した場合にはステップS2に移行して上記の動作を繰り返し、終了したと判断した場合には本フローチャートを終了する。
【0047】
これに対してステップS7でYESと判断した場合には、例えば制御装置40に接続される表示モニター42(図1に示す)に異常表示を行うとともに警報灯を作動させ、オペレータに異常を報知する。すなわち、スラリ交換後は、劣化したスラリの一部が交換されることにより駆動モータ16の負荷も軽減され、これに伴い上記電流値Nも閾値未満に復帰するはずであるが、復帰しない場合には駆動モータ16の負荷上昇がスラリの劣化以外の理由に因るもの、例えば駆動モータ16に内蔵されるベアリングの損傷等に因るものと推測できる。そのため、この場合には、上記のようにオペレータに異常を報知し、オペレータによる所定の入力操作に従い所定の異常処理動作を実行した後に本フローチャートを終了する。
【0048】
なお、以上は正方形断面のワークWの場合であるが、ワークWが断面円形の場合には、上記のフローチャートのステップS3,S7において、ワイヤ11の切込量に応じた閾値を読み出し、検出値Nが当該閾値以上か否かの判断を行う。これ以外の各ステップの処理は正方形断面のワークWの場合と同様である。
【0049】
以上の制御をまとめると、図2,図3の破線に示す通りである。すなわち、切込開始後、スラリの劣化が進行すると、これに伴い駆動モータ16の制御電流値(負荷)が上昇する。そしてこの制御電流値が閾値に達すると、一定量のスラリが交換されることにより前記制御電流値が低下する。そしてさらに切込が進んでスラリの劣化が進行し、これに伴い制御電流値が閾値に達すると、再び一定量のスラリが交換され、これにより制御電流値が低下する。以後、このように駆動モータ16の制御電流値が閾値値に達する毎にスラリの交換が行われながらワークWの切断作業が進行することとなる。
【0050】
以上のように、このワイヤソーでは、駆動モータ16の制御電流値を検出し、その値と閾値を比較することによりスラリの劣化状態を検知してスラリ交換を行うように構成されているので、高価で、しかも詳細な条件設定等が要求される粘度計を使ってスラリの劣化状態を検知する従来のこの種のワイヤソーに比べると、簡易に、かつ安価な構成でスラリの劣化状態を正確に検知してその交換を行うことができる。従って、従来同様に適切なタイミングでスラリの交換を行いながらも、ワイヤソーの低廉化を図ることができるという利点がある。
【0051】
その上、このワイヤソーでは、ワークWの断面形状に応じて上記閾値が設定されており、特に、断面円形のワークWについてはワイヤ11の切込量に応じて閾値が設定されているので(図3参照)、ワークWの断面形状や切込量に拘わらずスラリの劣化状態を適切に検知してスラリの交換を行うことができるという利点もある。つまり、円形断面のワークWについても正方形断面のワークWの場合と同様に、切込量に拘わらず特定の値を閾値として設定することが考えられるが、切込量に対してワイヤ11の接触長さが変化する円形断面のワークWでは、切込初期段階の駆動モータ16の負荷が小さいため、スラリが早期に劣化レベルに達していても駆動モータ16の制御電流値が閾値に達しないケースが考えられる。これに対して、上記のワイヤソーでは、円形断面のワークWについては、ワイヤ11の切込量に応じた閾値を設定しているので、ワイヤ11の切込量に拘わらずスラリの劣化状態を確実に検知してその交換を行うことができる。従って、正方形断面および円形断面の何れのワークWの切断動作においても適切なタイミングでスラリの交換を行うことができる。
【0052】
さらに、このワイヤソーでは、スラリ入れ替え直後の駆動モータ16の検出負荷が通常は閾値未満となることを利用し、上記のように駆動モータ16のトラブル等の異常を検知してオペレータに報知するように構成されているので(図3のステップS9)、スラリの入替えを適切なタイミングで行う一方で、装置トラブルをも検知することが可能であり、機能性を高めることができるという利点もある。
【0053】
なお、以上説明したワイヤソーは、本発明に係るワイヤソー(本発明に係るスラリの劣化検知方法およびスラリ交換方法が適用されるワイヤソー)の一実施形態であって、その具体的な構成(スラリの劣化検知方法、スラリ交換方法)は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0054】
例えば上記実施形態では、サーボアンプ17に電流計を設けて駆動モータ16に供給される制御電流の値を検出し、この電流値に基づいてスラリの劣化状態を検知するようにしているが、勿論、駆動モータ16の負荷と相関関係のある別のパラメータを利用してスラリの劣化状態を検知するようにしてもよい。要は、駆動モータ16の負荷を監視しながらその負荷に基づいてスラリの劣化状態を検知するものであればよい。
【0055】
また、可能な場合には駆動モータ16以外のモータ、例えばワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bのボビン駆動用モータの制御電流値を検出し、その電流値に基づいてスラリの劣化を検知するようにしてもよい。要はワイヤ11を駆動するモータのうちスラリの劣化に伴いその負荷が変化するモータの制御電流値を検出し、その検出値に基づいてスラリの劣化を検知するようにすればよい。
【0056】
なお、上記実施形態では、正方形断面および円形断面のワークWを対象とする場合に説明しているが、上記のワイヤソーは、勿論これら以外の断面形状のワークWを切断する場合にも適用可能である。この場合、スラリの劣化を検知する上記閾値はその断面形状に応じてスラリの劣化を適切に検知できるように適宜設定すればよいが、上記のように切込量に応じて駆動モータ16の負荷が変化するような断面形状のワークWについては、切込量に応じた閾値を設定するのが好ましい。但し、例えばスラリの性状等から見てさほど影響がないような場合等には、円形断面のワークW等についても、切込量に拘わらず閾値を特定の値に設定するようにしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係るワイヤソーの全体構成図である。
【図2】正方形断面のワークを切断する場合のワイヤの切込量と駆動モータの制御電流値との関係、およびスラリの劣化を検知するために設定される閾値との関係を示す図である。
【図3】円形断面のワークを切断する場合のワイヤの切込量と駆動モータの制御電流値との関係、およびスラリの劣化を検知するために設定される閾値との関係を示す図である。
【図4】制御装置によるスラリの交換動作制御の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1 装置本体
2 スラリ循環装置
10A,10B ワイヤ繰出し・巻取り装置
11 ワイヤ
12A,12B,14A,14B ガイドローラ
16 駆動モータ
18 ノズル
20 タンク
22 供給配管
24 回収配管
26 ポンプ
40 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ駆動用モータにより高速駆動される切断用ワイヤにスラリを供給しながらこのワイヤにワークを押付けて切断するとともに、この切断動作において前記スラリを循環させながら繰り返し使用するように構成されたワイヤソーの前記スラリの劣化状態を検知する方法であって、
前記ワイヤ駆動用モータの負荷を監視し、その負荷に基づいてスラリの劣化状態を検知することを特徴とするスラリの劣化検知方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスラリの劣化検知方法において、
前記モータの負荷が予め設定された閾値に達したときに当該状態を前記スラリの劣化状態として検知することを特徴とするスラリの劣化検知方法。
【請求項3】
請求項2に記載のスラリの劣化検知方法において、
前記ワークとして、ワイヤの切込量に応じてワークに対するワイヤの接触長さが変化するものを切断する場合には、前記切込量に応じて前記閾値を設定することを特徴とするスラリの劣化検知方法。
【請求項4】
ワイヤ駆動用モータにより高速駆動される切断用ワイヤにスラリを供給しながらこのワイヤにワークを押付けて切断するとともに、この切断動作において前記スラリを循環させながら繰り返し使用するように構成されたワイヤソーの前記スラリの交換方法であって、
請求項1〜3の何れかに記載のスラリの劣化検知方法に基づいてスラリの劣化を検知し、この検知に基づき前記スラリを交換することを特徴とするスラリ交換方法。
【請求項5】
ワイヤ駆動用モータにより高速駆動される切断用ワイヤと、このワイヤにスラリを供給するとともに使用後のスラリを回収することにより前記スラリを循環させながらワイヤに供給するスラリ供給手段とを有したワイヤソーにおいて、
前記モータの負荷を検出可能な負荷検出手段と、
前記負荷検出手段による検出値が予め設定された閾値に達したときに当該状態を前記スラリの劣化状態として検知する劣化検知手段とを備えていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤソーにおいて、
前記スラリの交換を可能とする交換手段を備え、
さらに前記劣化検知手段によるスラリの劣化検知に基づいて前記スラリを交換すべく前記交換手段の動作を制御する制御手段を備えていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項7】
請求項6に記載のワイヤソーにおいて、
前記交換手段によるスラリの交換直後、前記劣化検知手段によるスラリの劣化検知状態が継続している場合に当該状態を装置トラブルとして検知する異常検知手段を備えていることを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−75939(P2006−75939A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262374(P2004−262374)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】