説明

スリットコータ及び該スリットコータを用いたコーティングシステム

【課題】 粘度の高い塗布液を、間歇的に、基板の両面に厚塗りするスリットコータと、乾燥設備を備えた基板のコーティングシステムを提供する。
【解決手段】 基板1を垂直に搬送する基板搬送手段と、搬送される基板1の両側に配置され、塗布液を基板1の両面に同時に塗布するスリット状の吐出口を有する塗布ヘッド3と、塗布ヘッド3に塗布液2を供給する塗布液供給手段と、塗布ヘッド3を移動させて、吐出口4と塗布面との間の距離を所望の距離に変更するヘッド移動手段と、吐出口4から吐出した塗布液2を塗布液供給手段へ戻す塗布液戻し手段と、を含み、塗布ヘッド3が、塗布位置と待機位置との間を移動することによって、塗布を間歇的に行なう。また待機位置において、吐出口4から吐出した塗布液を塗布液供給手段へ戻すことによって、基板の塗布を間歇的に行なう場合でも、塗布ヘッド3内で塗布液を連続的に流動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板にソルダーレジストを始めとする様々な塗布液を塗布することができるスリットコータ、及びこのスリットコータに乾燥設備も加えた基板のコーティングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プリント基板を製造するため、ソルダーレジストを始めとする様々な塗布液を基板に塗布する処理が行なわれている。この塗布液を塗布する方法として、例えば、スクリーン印刷、ローラコータを用いた塗布、静電塗装、及びスリットコータを用いた塗布が知られている。
【0003】
スクリーン印刷やローラコータを用いた塗布の場合には、一度に塗布厚20μm以上の厚塗りを行なうことは不可能であるため、所定のコーティング厚を得るためには、塗布と加熱乾燥を複数回数繰り返す必要があり、製造時間と製造コストが増大し、熱によるコーティング層への影響も問題となる。特に、スクリーン印刷の場合には、片面づつの薄塗りしかできないため、両面にコーティングを行なう場合には、塗布と加熱乾燥を更に多く繰り返す必要がある。
【0004】
また、スクリーン印刷もローラコータを用いた塗布も、基板に圧力をかけて塗布するため、特に配線パターンの表面角部の膜厚が薄くなるという問題が生じる。また、熱を加えて乾燥させると、角の薄いコーティング層が更に薄くなるという問題が生じる。静電塗装の場合には、一度に厚塗りをすることは可能であるが、コーティングがだれて、同様に、配線パターンの表面角部の膜厚が薄くなるという問題が生じる。
【0005】
一方、スリット状の吐出口から塗布液を吐出させて基板に塗布液を塗布させるスリットコータは、基板に圧力をかけて塗布を行なうことがないので、配線パターンの表面角部の膜厚が薄くなるという問題は生じない。更に、水平に配置された基板の上下から、または、垂直に配置された基板の左右から同時に両面を塗布することもできる。
【0006】
しかし、塗布液としてソルダーレジストを用い、更に、一度に塗布厚20μm以上の厚塗りを行なう場合には、塗布液の粘度は20Pa・s以上の高粘度となる。従って、塗布液の温度低下やチキソ(Thixotropy)性により、更に粘度が高まって、吐出口から塗布液が吐出できなくなったり、吐出できたとしても均一に塗布ができなくなったりする問題が生じる。特に、この問題は、塗布液の塗布を間歇的に行なう場合に顕著となる。
【0007】
この問題に対処するため、塗布液を塗布ヘッドへ供給するための流路を加熱して、塗布液の粘度を所定値に保つようにするスリットコータ(例えば、特許文献1参照)や、塗布液の循環経路を設けて、塗布を行なわないときでも塗布液を流動させて、塗布液の粘度が高まることを防ぐスリットコータ(例えば、特許文献2参照)等が、提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−170098号
【特許文献2】特開平11−319675号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に提案されたスリットコータは、塗布液が塗布ヘッドへ達する前の流路を加熱するものであり、例えば、間歇的に塗布を行なう場合には、塗布ヘッド内の塗布液の温度が低下して粘度が高まり、塗布に支障をきたす恐れがある。
【0010】
また、特許文献2に提案されたスリットコータは、常に塗布液の循環を行なえる循環経路が設けられているが、塗布ヘッドのノズル先端部(吐出口近傍)は、この循環経路に含まれていないので、間歇的に塗布を行なう場合には、塗布ヘッドのノズル先端部に滞留した塗布液の粘度が高まって、塗布に支障をきたす恐れがある。
【0011】
従って、本発明の目的は、上述の問題を解決して、粘度の高い塗布液を、間歇的に基板の両面に厚塗りすることができるスリットコータを提供し、更に、このスリットコータに乾燥設備も加えた基板のコーティングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のスリットコータの第1の実施態様は、基板を垂直に搬送する基板搬送手段と、垂直に搬送される前記基板の両側に配置され、塗布液を前記基板の両面(塗布面)に同時に塗布することができるスリット状の吐出口を有する塗布ヘッドと、
前記塗布ヘッドに前記塗布液を供給するための塗布液供給手段と、前記塗布ヘッドを移動させて、前記吐出口と前記塗布面との間の距離を所望の値に変更することができるヘッド移動手段と、前記吐出口から吐出した前記塗布液を前記塗布液供給手段へ戻すことができる塗布液戻し手段と、を含み、前記塗布ヘッドが、前記ヘッド移動手段により、前記基板に前記塗布液を塗布する塗布位置と該塗布位置よりも前記基板から離れた待機位置との間を移動することによって、前記基板の塗布を間歇的に行なうことができ、前記待機位置において、前記塗布液戻し手段が前記吐出口から吐出した前記塗布液を前記塗布液供給手段へ戻すことによって、前記基板の塗布を間歇的に行なう場合でも、前記塗布ヘッド内で前記塗布液を連続的に流動させることができることを特徴とする。
【0013】
ここで、「基板を垂直に搬送する」とは、重力のかかる方向と概略平行な方向に搬送することであり、下方から上方へ搬送する場合も、上方から下方へ搬送する場合も含まれる。また、基板を搬送する「基板搬送手段」としては、搬送ローラを用いる搬送手段、吊り上げ装置を用いる搬送手段、電磁気的に移動させる搬送手段を始めとするあらゆる搬送手段を用いることができる。
【0014】
「基板の両側に配置」とは、平板状の基板の相対する2つの広面の脇にそれぞれ配置することを意味し、この塗布液が塗布される両広面を「塗布面」と称する。また、「スリット状」とは、原則として、基板の搬送方向の寸法(スリットの高さ)が、基板の幅方向(搬送方向に直行する方向)の寸法(スリットの幅)に比べて非常に小さな略矩形形状を有することを意味するが、例えば、スリットの高さが幅方向において変化する曲線形状を有するようなものも含まれる。この塗布ヘッドは、少なくとも基板の両側に1つづつ配置される必要があるが、基板の搬送方向においても1つとは限らず、複数の塗布ヘッドを配置することも考えられる。
【0015】
「ヘッド移動手段」による塗布ヘッドの移動の態様については、例えば、水平方向、垂直方向を始めとする任意の方向に塗布ヘッドを平行移動させることも考えられるし、所定の位置を回転中心として塗布ヘッド回転させる(傾ける)ことも考えられる。この塗布ヘッド移動手段については、塗布ヘッドを移動させることができるものであれば、アクチエータとして、例えば、油圧シリンダ、空圧シリンダ、電動シリンダ、電動機を用いた駆動装置を始めとするあらゆる移動装置を用いることができる。
【0016】
「塗布液供給手段」は、塗布液を貯蔵する塗布液貯蔵装置、塗布液を流動させるための塗布液流動措置、各機器を接続する配管、及びホース類を含むことができる。塗布液流動装置としては、例えば、あらゆる種類のポンプを用いることが可能であるし、圧縮空気を送り込んで塗布液を流動、吐出させることも可能である。
【0017】
「塗布液戻し手段」としては、吐出口から吐出した塗布液を重力を用いて、塗布液供給手段へ流下させて戻すことも考えられるし、ポンプ等の塗布液流動措置を用いて塗布液供給手段へ戻すことも考えられる。この塗布液戻し手段は、塗布ヘッドが塗布位置にいるときも待機位置にいるときも機能するように配置することもできるし、塗布ヘッドが待機位置にいるときにのみ機能するように配置することもできる。
【0018】
本実施態様によれば、粘度が高い塗布液やチキソ性を有する塗布液を、基板に間歇的に厚く塗布する場合でも、最も塗布液が固まる恐れの高い塗布ヘッド内において、塗布液を常に流動させることによって、塗布液の粘度が更に高まって、均一な塗布ができなくなったり、塗布液が詰まったりすることを防ぐことができる。従って、従来不可能であった、ソルダーレジストのような粘度の高い塗布液を、基板の両面に間歇的に厚塗りすることができる。
【0019】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、搬送方向において前記基板の先端が前記吐出口の位置に達した後、前記塗布ヘッドを前記待機位置から前記塗布位置へ移動させ、搬送方向において前記基板の後端が前記吐出口の位置に達する前に、前記塗布ヘッドを前記塗布位置から前記待機位置へ移動させることによって、前記基板の搬送方向における両端に未塗布部分を設けることを特徴とする。
【0020】
本実施態様によれば、容易に基板の搬送方向における両端に未塗布部分を設けることができるので、搬送するときに搬送装置が基板を掴む部分として用いることもできるし、他の工程における処理を容易に行なえるようにすることができる。
【0021】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布液が前記塗布ヘッドへ注入される注入口が、前記スリットの幅方向(前記基板の搬送方向と直行方向)に複数設けられていることを特徴とする。
【0022】
塗布液は、塗布液供給手段から注入口を通って塗布ヘッド内へ注入されるが、スリットの高さが小さいので、仮に注入口が1箇所だけであると、スリットの幅方向において、注入口に近い位置と、注入口から離れた位置での塗布液の流れが一様でなくなり、均一な塗布ができなくなる恐れがある。また、注入口から離れた場所で塗布液が固まって、スリットの詰まりを生じる恐れもある。
一方、本実施態様によれば、注入口が、スリットの幅方向において複数設けられているので、均一な塗布液の流れを確保し、スリットの詰まりの恐れも大幅に減少させることができる。なお、注入口の数は、スリットの幅や、塗布液の種類等によって任意の数を設定することができる。
【0023】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布ヘッドの先端部の形状が、前記吐出口の搬送方向出側には、所定の搬送距離分だけ前記塗布面と略平行な平面部を有し、前記吐出口の搬送方向入側には、前記塗布面から離れるように配置された面を有することを特徴とする。
【0024】
本実施態様によれば、基板に塗布された塗布液は、搬送方向出側の平面部によって基板に押し付けられて、十分な密着性を有するようになる。また、仮に、吐出口から吐出された塗布液の一部が基板に塗布されなかったとしても、搬送方向入側の面が基板から離れるように配置されているので、まだ吐出口の位置に達していない未塗布の基板の面に、この塗布液が付着することを防ぐことができる。
【0025】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布ヘッドが、ヘッド内部に供給された前記塗布液を攪拌するための攪拌装置を有することを特徴とする。
【0026】
本実施態様によれば、攪拌装置よって、塗布ヘッド内の塗布液を攪拌して流動性を確保することができる。特に、チキソ性を有する塗布液においては有効である。
【0027】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布ヘッドが、ヘッド内部に供給された前記塗布液を加熱するための加熱装置を有することを特徴とする。
【0028】
本実施態様によれば、塗布ヘッドに加熱装置を有することによって、塗布ヘッド内の塗布液の温度を一定温度以上に保って、塗布液の流動性を確保することができる。特に、スリットの中を流れる塗布液については、その熱容量に比べてスリットとの接触面積が大きいので、塗布液は急速に抜熱されて温度が下がり流動性を失う恐れがあるので、本実施態様は有効である。
【0029】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布ヘッドが、ヘッド内部に供給された前記塗布液に振動を加えるための超音波振動子を有することを特徴とする。
【0030】
本実施態様によれば、塗布ヘッドの中の全ての塗布液に振動を与えることができるので、塗布液の粘度が高まって、均一な塗布が困難になったり、塗布液が詰まったりすることを防ぐことができる。特に、チキソ性を有する塗布液について有効である。
【0031】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布ヘッドの前記塗布液と接触する面にテフロン(登録商標)加工が施されていることを特徴とする。
【0032】
本実施態様によれば、塗布ヘッドの塗布液と接する面にテフロン(登録商標)加工を施すことによって、塗布液の流動抵抗を低減させ、不均一な塗布や塗布液の付着等を防止することができる。特に、塗布ヘッドの先端部にテフロン(登録商標)加工を施すことによって、基板に塗布される塗布液が塗布ヘッドに付着することを防いで、均一な塗布を行なうことができる。
【0033】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、搬送方向において前記塗布面が前記吐出口の位置に達する前に、前記塗布面を冷却するための冷却装置を更に含むことを特徴とする。
【0034】
本実施態様によれば、塗布がなされる基板の方を冷却することによって、塗布された塗布液の温度を塗布直後に下げて粘度を高め、塗布液のたれを防ぐことができるので、上述のような塗布ヘッド内での塗布液の粘度の上昇による問題を起すことなく、塗布液の厚塗りを実現することができる。
【0035】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記基板搬送手段が、中間部分がローラ両端部よりも50〜200μmへこんだ凹部を有する搬送ローラを有し、前記吐出口の幅を前記基板の幅よりも小さくすることにより、前記基板の幅方向における両端に未塗布部分を設け、前記ローラ両端部と該未塗布部分とが圧接して、前記基板を搬送することを特徴とする。
【0036】
本実施態様によれば、仮に基板の塗布面や搬送ローラの表面に異物が付着していたとしても、塗布面にこれらの異物が圧着することを防ぐことができる。また、凹部の深さが50〜200μmであるので、異物を圧着する問題を解決すると共に、塗布面と吐出口との距離の変化により塗布厚が変わってしまうような基板の変形に対しては、その変形を防ぐ適切なガイドとして働かせることができる。
【0037】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布ヘッドに最も近接して配置された前記搬送ローラと前記塗布ヘッドの位置を調整して、前記塗布面と前記吐出口との距離を設定値プラスマイナス3μmの範囲で調整することを特徴とする。
【0038】
塗布ヘッドに最も近接して配置された搬送ローラの基板との接触面の位置により、基板の塗布面の位置が決定されるので、この搬送ローラと塗布ヘッドの位置の微調整により、基板の塗布面と塗布ヘッドの吐出口との間の距離を正確に調整することができる。よって、塗布される塗布液の膜厚を一定に制御することができる。
【0039】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布液はソルダーレジストであり、粘度が20ps〜65psの感光性樹脂組成物であることを特徴とする。
【0040】
本発明のスリットコータのその他の実施態様は、前記塗布面に20μm以上の厚みの前記塗布液を塗布することを特徴とする。
【0041】
本発明の基板コーティングシステムの第1の実施態様は、上記記載のスリットコータと、
前記スリットコータにより前記塗布液が塗布された前記基板を減圧または真空にされた炉内において乾燥を行なう乾燥炉と、前記基板を前記スリットコータから前記乾燥炉へ搬送するためのシステム用搬送手段と、を含むことを特徴とする。
【0042】
本実施態様によれば、ソルダーレジストを始めとする様々な塗布液を基板に塗布し、その基板を気泡等を生じさせずに乾燥させる一連のコーティング処理を、確実に効率よく行なうことができる。
【0043】
本発明の基板コーティングシステムのその他の実施態様は、前記システム用搬送手段が、前記基板の未塗布部分を把持することにより前記基板の搬送を行なうことを特徴とする。
【0044】
本実施態様によれば、基板の塗布部分を損傷させる恐れ無く、確実に塗布の施された基板を搬送することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明のスリットコータによれば、粘度が高い塗布液やチキソ性を有する塗布液を用いて、基板を間歇的に塗布する場合であっても、塗布ヘッド内の塗布液を常に流動させることによって、塗布液の粘度が更に高まって、均一な塗布ができなくなったり、塗布液が詰まったりすることを防ぐことができるので、ソルダーレジストのような粘度の高い塗布液を基板の両面に間歇的に厚塗りすることができる。
【0046】
また、注入口をスリットの幅方向に複数設けることによって、塗布ヘッドのスリット全体で均一な塗布液の流れを確保し、スリットの詰まりの恐れを大幅に減少させることができる。
【0047】
また、塗布ヘッドの吐出口の搬送方向出側に、所定距離分だけ塗布面と略平行な平面部を設け、吐出口の搬送方向入側に、塗布面から離れるように配置された面を設けることによって、基板に塗布された塗布液は、搬送方向出側の平面部によって十分な密着性を有するようになり、吐出された塗布液の一部が基板に塗布されなかったとしても、搬送方向入側の面が基板から離れるように配置されているため、未塗布の基板の面に塗布液が付着することを防ぐことができる。
【0048】
また、本発明のスリットコータを用いた基板のコーティングシステムによれば、ソルダーレジストを始めとする様々な塗布液を基板に塗布し、その基板を気泡等を生じさせずに乾燥させる一連のコーティング処理を、確実に効率よく行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明のスリットコータ及びスリットコータを用いたコーティングシステムの実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
(本発明にスリットコータの説明)
<スリットコータの全体構造の説明>
【0050】
図1に、本発明のスリットコータの実施形態の全体構造を模式的に表した図を示す。まず、図1(a)を用いて、本スリットコータの各構成機器の説明を行なう。
本スリットコータでは、搬送ローラ20により下方から上方へ搬送される基板1の両広面を挟み込むようにして、1対の塗布ヘッド3が配置されている。この塗布ヘッド3のノズル部の先端にある吐出口4から塗布液2を吐出させて、基板1の両面に塗布液2を同時に塗布することができるようになっている。
【0051】
塗布ヘッド3について更に詳しく説明すると、塗布ヘッド3は、上部ヘッド3aと下部ヘッド3bとシム3cとから構成されている。上部ヘッド3aには、上面に塗布液2が注ぎ込まれる注入口8と、この注入口8に接続されたヘッダ室6とが設けられている。上部ヘッド3aと下部ヘッド3bとの間には、シム3cが挿入されて組み立てられており、このシム3cの厚みによって、上部ヘッド3と下部ヘッド3bの間に、所望の隙間(スリットの高さ)のスリット5を形成することができる。このスリット5の出口が、吐出口4となっている。従って、注入口8から供給された塗布液2は、ヘッダ室6へ入り、そこからスリット5を通って吐出口4から吐出され、基板1へ塗布される。
【0052】
なお、本実施形態では、基板1として、幅500mm、長さ600mm、厚さ0.1〜1mmのエポキシ樹脂基材の両面に銅箔回路を形成した薄板を用いている。また、塗布液2として、ソルダーレジストを用いている。
また、本実施形態では、図3に示すように、吐出口4の幅B1(図1の紙面に対して垂直方向の長さ)は、基板1の幅B2よりも短くなっており、塗布液2が塗布された基板1では、その左右の端部に未塗布部分が設けられ、その後のハンドリングを容易に行なうことができるようになっている。なお、本実施形態では、左右に各々約5mmの未塗布部分を設けている。なお、後述するように、塗布ヘッド3を移動させて間歇的に塗布を行なうことにより、基板1の上下の端部にも未塗布部分を設けることができる。
【0053】
図1(a)には、塗布ヘッド3が基板1に近接した塗布位置にある状態を示し、図1(b)には、塗布ヘッド3が塗布位置よりも基板1から離れた待機位置にある状態を示す。本実施形態では、塗布位置においては、塗布ヘッド3の吐出口4と基板1の広面(塗布面)との間の距離が2〜3mmに設定されている。ただし、塗布液2の粘度や基板1の搬送速度を始めとする様々な条件に応じて、任意の距離を設定することができる。
【0054】
この塗布ヘッド3は後端でアクチュエータ7と接続されており、このアクチエータ7により、図1(a)、(b)に示すように、塗布ヘッド3を、塗布位置と、塗布位置よりも基板1から離れた待機位置との間で、移動させることができる。本実施形態では、このアクチュエータ7として油圧シリンダが用いられており、図示されていない油圧装置、制御装置により油圧シリンダのロッドが伸縮して、塗布ヘッド3を塗布位置と待機位置の間で任意に移動させることができる。更に、塗布位置において、塗布ヘッド3の位置を僅かに動かして、塗布する厚み等を調整することもできる。例えば、塗布厚みの計測値をフィードバック制御することによって、塗布する厚みを自動制御することも考えられる。
このアクチュエータ7としては、油圧シリンダには限らず、エアシリンダ、電動シリンダを始めとするその他のあらゆるアクチエータを用いることができる。
【0055】
吐出口4から基板1へ塗布される塗布液2は、タンク10に貯蔵されている。タンク10には、攪拌装置10aが設置されており、攪拌装置10aによりタンク10内の塗布液2が流動し、粘度が高くなることを防いでいる。特に、チキソ性を有する非ニュートン流体には有効である。
【0056】
タンク2には、配管13aを介して、ポンプ11が接続されており、ポンプ11は図示されていない電動モータで駆動される。タンク2の中の塗布液2は、矢印に示すように、ポンプ11の吸引力によって配管13a中に吸い込まれ、ポンプ11を通過してその吐出力で、配管13b中を上方へ進み、制御バルブ12へ達する。この制御バルブ12によって、常に所望の流量の塗布液2が流れるように制御される。制御バルブ12を通過した塗布液2はホース14を経て、注入口8から塗布ヘッド3内のヘッダ室5へ流入する。そして、塗布液2はヘッダ室5からスリット部5へ流れ、吐出口4から吐出して基板1に塗布される。ここで、ヘッダ室5によって、ヘッダ室5の内部に均一な圧力を作りだし、スリット5全体において、特にスリット5の幅方向において、塗布液2の均一な圧力分布を作り出して、全体として一様な塗布を行なうことができる。
【0057】
なお、制御バルブ12によって、基板の両面の塗布ヘッド3からの塗布液2の吐出量を同一に制御することが可能であり、また、意図的に左右の塗布ヘッド3の吐出量を異ならせて、左右の面で塗布厚を変えることも可能である。また、上述のアクチュエータ7を用いた塗布ヘッド7の移動制御と組み合わせて、基板1と吐出口4との間の距離と、吐出口4からの塗布液2の吐出量を任意に組み合わせることによって、あらゆるタイプの塗布液について、様々な塗布厚で塗布を行なうことができる。また、ポンプ11についても、常に塗布液を送るタイプでだけでなく、チキソ性の低い塗布液を用いる場合には、定量を送るタイプのポンプを用いることも考えられる。
以上のように、本実施形態では、ソルダーレジストを始めとする塗布液2を用いて、基板1の両面に塗布厚20〜30μmといった厚塗りを行なうことができる。
【0058】
図1(a)に示すように、基板1は、搬送ローラ20によって上方へ搬送され、塗布ヘッド3の吐出口4の位置を通過するときに塗布液2が塗布される。その後、基板1は更に上方へ搬送され、上部に設置された開閉可能なグリップ21に上端を把持される。後述するように、間歇的に塗布を行なうことによって設けられた基板1の上端の未塗布部分を、グリップ21は掴むようになっている。
【0059】
このグリップ21はウインチ22に吊り下げられており、搬送ローラ20の搬送速度に合わせて、ウインチ22を巻き上げることにより、基板1を上方へ搬送することができる。また、このウインチ22を横方向へ移動させることによって(図1(b)参照)、塗布の終了した基板1を、乾燥炉等の他の設備へ搬送することも可能である。
なお、搬送装置の配置は本実施形態に限られるものではなく、搬送ローラ20を塗布ヘッド3の上方にも配置して、更に上方へ搬送する実施形態も考えられる。
【0060】
次に、図1(b)に示すような、塗布ヘッド3が待機状態にある場合について説明する。図1(a)に示す塗布位置の状態から、アクチュエータ(油圧シリンダ)7のロッドを縮めることによって、塗布ヘッド3を待機位置へ移動させることができる。また、この待機位置の状態で、アクチュエータ(油圧シリンダ)7のロッドを伸ばすことによって、再び、塗布ヘッド3を塗布位置へ移動させることができる。
【0061】
待機位置における塗布ヘッド3の位置は、吐出口4から吐出した塗布液2が、基板1に付着する恐れのない距離が確保できれば、任意の位置を設定することができる。例えば、塗布液2がソルダーレジストのような高粘度を有する場合には、基板1と吐出口4の距離を5mm程度あければ十分であると考えられるが、搬送ローラ20やその他の機器との取り合い等も考慮して、最適な位置を設定することができる。
【0062】
本実施形態では、塗布ヘッド3が待機位置にいて基板1の塗布を行なわない場合であっても、常に、塗布液2がヘッダ室6からスリット部5内を流れ、吐出口4から吐出している。そして、吐出口4から吐出した塗布液2は、リターンルート15の受口15aからリターンルート15内を流下して、再び上方からタンク10へ戻る。
【0063】
タンク10へ戻った塗布液2は、攪拌装置10aで攪拌されて流動性が加えられ、図1(a)の説明と同様に、ポンプ11によって、配管13a、13b、制御バルブ12、及びホース14を経由して、塗布ヘッド3内に供給され、再び吐出口4から吐出されて、タンク10へ戻る。
【0064】
以上のように、本実施形態では、間歇的に基板1の塗布を行なったとしても、塗布ヘッド3内のスリット部5や吐出口4で、常に塗布液2が流動しているので、塗布液2の粘度が増して、均一な塗布が行なえなくなったり、スリット部5で塗布液2が詰まったり、吐出口4から塗布液2が吐出できなくなったりする恐れがない。
このことは、ソルダーレジストのような高粘度の塗布液2を厚塗りする場合、特に、間歇的に塗布する場合には有効であり、また、塗布液3がチキソ性を有する非ニュートン流体である場合に特に有効である。
【0065】
なお、搬送ローラ20、グリップ21、ウインチ22等を含んで、基板1を上方へ搬送する手段を、基板搬送手段と称する。また、タンク10、攪拌装置10a、ポンプ11、制御バルブ12、配管13a、b、ホース14等を含んで、塗布液2を塗布ヘッド3へ供給する手段を、塗布液供給手段と称する。また、アクチュエータ7、このアクチュエータ7の駆動源、制御装置等を含んで、塗布ヘッド3を移動させる手段を、ヘッド移動手段と称する。更に、受口15a、リターンルート15等を含んで、塗布ヘッド3の吐出口4から吐出した塗布液2を塗布液供給手段(本実施形態ではタンク10)へ戻す手段を、塗布液戻し手段と称する。
また、本実施形態では、基板1の両側に配置された各々の塗布ヘッド3ごとに、2つの塗布液供給手段を有しているが、1つの塗布液供給手段から複数の塗布ヘッド3へ塗布液2を供給することも可能である。
【0066】
<塗布方法の説明>
次に、図2に示すフローチャートと図1を参照しながら、本発明のスリットコータを用いて基板1に塗布液2を間歇的に塗布する方法を説明する。
まず、初期状態設定のため、塗布ヘッド3を待機位置へ移動させる(ステップS12)。つまりアクチュエータ(油圧シリンダ)7のロッドを縮めて、塗布ヘッド3を図1(b)に示す位置に置く。次に、ポンプ11を起動して、塗布液2を循環させる(ステップS14、図1(b)参照)。そして、搬送ローラ20を回転させて、基板1の搬送を開始する(ステップS16、図1(b)参照)。
【0067】
次に、基板1の上端が塗布ヘッド3の位置に達した否か、より具体的には、基板1の上端が吐出口4の下端の位置に達したか否かを判断する(ステップS18)。この判断においては、例えば、センサとして所定位置に設置したフォトセンサを用いることができる。この判断で、もし、基板1の上端が塗布ヘッド3の位置に達していない(NO)と判別したときには、この判断処理を繰り返す。この判断で、もし、基板1の上端が塗布ヘッド3の位置に達した(YES)と判別したときには、次に、タイマーをスタートさせる(ステップS20)。
【0068】
そして、このタイマーによる計測時間が、予め算出された値TIME1に達したか否かを判断する(ステップS22)。値TIME1は、設定された基板1の搬送速度に基づいて算出される値であり、基板1の上端が塗布ヘッド3を通過した後、未塗布にする部分の長さL1に達するまでの時間である。この判断で、もし、経過時間がTIME1に達していない(NO)と判別したときには、この判断処理を繰り返す。この判断で、もし、TIME1に達した(YES)と判別したときには、アクチュエータ(油圧シリンダ)7のロッドを伸ばして、塗布ヘッド3を塗布位置に移動させ、基板1の塗布を開始する(ステップS24)。
【0069】
以上により、基板1は搬送ローラ20により上方へ搬送されながら塗布されていくが、次に、基板1の上端が、グリップ21の位置に達したか否かを判断する(ステップS26)。この判断においては、同様に、センサとして、所定位置に設置したフォトセンサを用いることができる。この判断で、もし、基板1の上端がグリップ21の位置に達していない(NO)と判別したときには、この判断処理を繰り返す。この判断で、もし、基板1の上端がグリップ21の位置に達した(YES)と判別したときには、予め開いた状態にあったグリップ21を閉じて、未塗布である基板1の上端を把持する。そして、ウインチ22を搬送速度に合わせて巻き上げを開始する(ステップS28)。このことによって、基板1を継続して上方へ搬送することができる。
【0070】
次に、タイマーによる計測時間が、予め算出された値TIME2に達したか否かを判断する(ステップS30)。値TIME2は、設定された基板1の搬送速度に基づいて算出される値であり、基板1の上端が塗布ヘッド3を通過した後、基板1の下側の塗布終了地点が塗布ヘッド3に達するまでの時間である。この判断で、もし、経過時間がTIME2に達していない(NO)と判別したときには、この判断処理を繰り返す。この判断で、もし、TIME2に達した(YES)と判別したときには、アクチュエータ(油圧シリンダ)7のロッドを再び収縮させて、塗布ヘッド3を待機位置に移動させ、基板1の塗布を終了する(ステップS32)。
【0071】
そして、基板1の下端が塗布ヘッド3の位置に達したか否かを判断する(ステップS34)。この判断では、ステップS18の判断処理で用いたセンサを用いることができる。この判断で、もし、基板1の下端が塗布ヘッド3の位置に達していない(NO)と判別したときには、この判断処理を繰り返す。この判断で、もし、基板1の下端が塗布ヘッド3の位置に達した(YES)と判別したときには、その後、所定時間を経過するまで、つまり、スリットコータとの干渉の恐れなく他の場所へ基板1を搬送できる高さに達すまで、ウインチ22の巻き上げによる搬送を続ける。その後ウインチ22を載せたキャリッジを水平方向に移動させて、基板1を次の処理装置へ搬送することができる(ステップS36)。
【0072】
次に、全ての基板1の塗布作業が終了したか否かを判断する(ステップ38)。もし、塗布すべき他の基板1がまだ存在する(NO)と判別したときには、ステップS18の判断処理に戻り、上述したステップS18からステップS36めでの処理を繰り返す。この処理を全ての基板1について繰り返し、全ての基板1の塗布が終了した(YES)と判別したときに全ての塗布処理を終了させる。以上により、全ての基板1について、図3に示すような塗布液2の塗布を行なうことができる。
【0073】
(塗布ヘッドの説明)
次に、本発明に係る塗布ヘッドに関する実施形態であって、高い粘性やチキソ性を有する塗布液を基板に間歇的に厚塗りするための実施形態を下記に示す。
【0074】
<図4に示す実施形態>
図4は、塗布ヘッド3を模式的に表した平面図と側面断面図である。塗布液供給手段により供給される塗布液2は、塗布ヘッド3に設けられた注入口8から、塗布ヘッド3のヘッダ室6へ流入するが、図4に示す塗布ヘッドの実施形態においては、3個の注入口8が吐出口4の幅方向に並んで設けられている。
この3個の注入口8によって、粘性の高い塗布液を用いる場合であっても、吐出口4の全体で塗布液2を均等に吐出することができ、基板1全体に均一な塗布層を設けることができる。また、同様に、注入口8が1つのみ設けられた場合に比べて、スリット5や吐出口4における塗布液2の詰まりを防ぐこともできる。なお、本実施形態では3個の注入口8が設けられているが、任意の個数の注入口8を設けることができる。
【0075】
<図5に示す実施形態>
また、図5には、本発明に係る塗布ヘッド3の先端部の詳細な形状を示す。本実施形態では、上部ヘッド3aの先端部である吐出口4の上側、つまり、基板1の搬送方向における出側は、基板1の搬送方向に沿って所定の搬送長さ分(本実施形態では5mm)だけ、搬送される基板1の広面と略平行な平面部9aを備えている。
一方、下部ヘッド3bの先端部である吐出口4の下側、つまり、基板1の搬送方向における入側は、先の尖った鋭角的な形状となっている。つまり、吐出口4の下側では、基板1から離れるように配置された面9bで構成されている。この面9bは、広面から離れるように配置されていれば、平面である場合も曲面である場合も全て場合が含まれる。
【0076】
このような塗布ヘッド3の先端部の形状により、基板1に塗布された塗布液2は、平面部9aによって基板1に押し付けられて、十分な密着性を有するようになる。また、仮に、吐出口4から吐出された塗布液2の一部が基板1に塗布されなかったとしても、面9bが基板1から離れるように配置されているので、まだ吐出口4の位置に達していない未塗布の基板1の面(図5の矢印Aで示す部分)に、この塗布液2が付着する問題を防ぐことができる。
【0077】
<図6に示す実施形態>
図6には、塗布ヘッド3の中で塗布液2の粘度が高まって、均一な塗布が困難になったり、塗布液の詰まりが生じたりするのを防ぐための手段を更に加えた塗布ヘッド3の実施形態を示す側面断面図である。図6(a)に示す実施形態では、ヘッダ室6の中に攪拌装置30が設置されており、攪拌装置30によって、ヘッダ室6内の塗布液2を攪拌して流動性を確保することができる。特に、チキソ性を有する塗布液2においては、攪拌装置30の攪拌力により流動性を確保するのに有効である。
【0078】
また、図6(b)に示す実施形態では、塗布ヘッド3の内部に複数の加熱ヒータ32を備えることによって、塗布ヘッド3内の塗布液2の温度を一定温度以上に保って、塗布液2の流動性を確保するものである。特に、スリット5においては、流れる塗布液2の熱容量に比べて、スリット5の接触面積(塗布液2の上下の面の面積)が大きいので、塗布液2が急速に抜熱されて流動性を失う恐れがあるので、このヒータ32の設置は有効である。
【0079】
また、図6(c)に示す実施形態では、塗布ヘッド3に超音波振動子34を設置することによって、塗布ヘッド3内の塗布液2に超音波振動を与えて、塗布液2に流動性を与えるものである。本実施形態では、ヘッダ室6だけでなく、スリット5においても、塗布液2に振動を与えることができるので、塗布液2の粘度が高まって、均一な塗布が困難になったり、塗布液2が詰まったりすることを防ぐことができる。特に、チキソ性を有する塗布液2について有効である。
【0080】
また、塗布ヘッド3内の塗布液2と接する面にテフロン(登録商標)加工を施すことによって、塗布液2の流動抵抗を低減させ、不均一な塗布や塗布液の付着等を防止することができる。また、また、図5に示す塗布ヘッド3の先端部にテフロン(登録商標)加工を施すことによって、基板1に塗布される塗布液2が塗布ヘッド3に付着することを防止して、均一な塗布を行なうことができる。
【0081】
(基板冷却装置の説明)
図7は、塗布液2を一度に厚く塗布することを可能にするための更なる手段を示す斜視図である。塗布液2を一度に厚塗りするときに生じる問題は、塗布された塗布液2がたれてしまうことである。特に、基板1を垂直に搬送しながら塗布する場合には、この塗布液の“たれ”の問題は重要である。従って、塗布後の“たれ”を考慮すれば、塗布される塗布液2の粘度を極力高めておく方がよい。一方、上述のように塗布液2の粘度を高めれば、均一な塗布が困難になったり、塗布液2が詰まったりする問題が生じるので、予め塗布される塗布液2の粘度を高めておくことにも限界があり、従来の塗布方法では、一度に塗布できる厚みにはおのずと限界があった。
【0082】
そこで、本実施形態では、塗布される基板1の方を冷却することによって、塗布された塗布液2の温度を塗布直後に下げて粘度を高め、塗布液2の“たれ”を防ぐことができる。
本実施形態では、図7に示すように、搬送ローラ20が中空構造になっており、円筒形状の中空部20bが設けられ、その中に冷却水管20aが挿入された二重管構造となっている。この冷却水配管20aと中空部20bとは、ロータリージョイント20cを介して冷却水供給システムに接続されている。
【0083】
この冷却水供給システムは、チラーユニット36、水ポンプ38、接続配管40a、b、c等を備えている。この水ポンプ38の吐出力により冷却水が流動し、チラーユニット36で冷却された冷却水は、接続配管40a、水ポンプ38、接続配管40bを通って、搬送ローラ20に供給される。供給された冷却水は、搬送ローラ20内を流れる間に、搬送ローラ20を冷却し、その後、再びチラーユニット36へ戻る。以上の冷却水循環システムにより、連続的に搬送ローラ20を冷却し、搬送ローラ20に接触する基板1を冷却することができる。なお、循環する冷却水を所望の温度に冷却するチラーユニットとしては、あらゆるタイプの冷却装置を用いることができる。
【0084】
内部が中空になった搬送ローラ20の中の冷却水の流れを更に詳しく説明すると、チラーユニット36で冷却された水は、図7の矢印に示すように、接続配管40bからロータリージョイント20cを通って中空部20b内に挿入された冷却水配管20aの中を流れ、その先端部から中空部20bの中に吹き出される。吹き出された冷却水は、中空部20bの中を冷却水配管20a中の流れとは逆向きに流れて、ロータリージョイント20cから接続配管40cを通ってチラーユニット36へ戻る。冷却水が中空部20bの中を流れる間に、搬送ローラ20を冷却する。
【0085】
以上のようにして冷却された搬送ローラ20が、基板1と接触することによって、基板1を冷却することができる。従って、基板1に塗布された塗布液2は、冷却された基板1から抜熱されて粘度を高め、塗布液の“だれ”の問題を防止する。
なお、基板冷却装置は、本実施形態のようなロール冷却に限られず、例えば、冷気を直接基板1に当てて冷却する方法や、冷却板を基板1に接触させて冷却する方法を始めとして、その他のあらゆる冷却方法を用いることができる。
【0086】
(搬送ローラの説明)
次に、図8に搬送ローラ20の1つの実施形態を示す。本実施形態では、ローラの中間部分がローラ両端部よりも、僅かにへこんだ凹部を有する形状となっている。搬送ローラ20は、ローラ両端部で基板1を圧接し、凹部により、塗布液2が塗布される部分とローラが接しないようになっている。
【0087】
このことによって、仮に基板1の塗布面や、搬送ローラ20の表面に異物が付着していたとしても、塗布面にこれらの異物が圧着することを防ぐことができる。なお、この凹部の深さは50〜200μmが適切と考えられる。この程度の深さであれば、異物を圧着する問題を解決すると共に、吐出口4との距離が変わって塗布厚が変化するような基板の変形に対しては、それ以上の変形を防ぐ適切なガイドとして働くことができる。
ただし、基板1や搬送ローラ20への異物の混入の恐れが少ない場合や、異物の圧着が大きな影響を与えない場合には、このような凹部を有さない通常の筒状の搬送ローラを用いることもできる。
【0088】
また、上述の搬送ローラ20のローラ両端部にて、基板1の未塗装部分を確実に挟み込んでいるので、搬送ローラ20により、基板1の塗布面の位置を正確に設定することができる。このことは、凹部を有さない搬送ローラ20においても同様である。従って、塗布ヘッド3に最も近接した搬送ローラ20、例えば、図1における3対の搬送ローラ20のうち最も上に位置する搬送ローラ20と塗布ヘッド3の相対位置を微調整することによって、塗布される塗布液2の膜厚を一定に制御することができる。例えば、この微調整により、基板1の塗布面と吐出口4との間の距離を、所定値プラスマイナス3μmの精度で制御できれば、塗布厚の正確な制御が可能である。
【0089】
なお、搬送ローラ20と塗布ヘッド3の相対位置の精度を確保するため、ヘッド移動手段により塗布ヘッド3が移動するときに、近接する搬送ローラ20も塗布ヘッド3と同調して移動するようにすることも考えられる。
【0090】
(スリットコータのその他の実施形態)
<ヘッド移動手段の説明>
上述のスリットコータにおいては、アクチュエータ8により塗布ヘッド3を水平に移動させるヘッド移動手段の構造を説明したが、本発明に係るヘッド移動手段としては、それに限られるものではなく、例えば図9示すように、塗布ヘッド3をチルトさせる(傾ける)ことによって、吐出口4の位置を基板1から離隔させる実施形態も考えられる。
【0091】
本実施形態では、塗布ヘッド3は後端でヒンジ42により回転可能な状態で接続されており、下部に接続されたアクチュエータ(本実施形態では空圧シリンダ)8のロッドの伸縮によって、塗布ヘッド3が水平に配置された塗布位置(図9(a)参照)と、塗布ヘッド3が傾いて、吐出口4が基板1の位置から離れた待機位置(図9(b)参照)とを取ることができる。
また、本発明のスリットコータは、上述の実施態様に限られず、その他様々な実施態様が含まれる。
【0092】
(本発明のスリットコータを用いたコーティングシステムの説明)
本発明のスリットコータの実施形態の説明に引き続いて、本発明のスリットコータを用いた基板のコーティングシステムの説明を行なう。このコーティングシステムは、上述のスリットコータと、スリットコータにより塗布液が塗布された基板を減圧、または真空にして乾燥する乾燥炉と、基板をスリットコータから乾燥炉へ搬送するシステム用搬送手段を備えている。
【0093】
本コーティングシステム全体の構成を模式的に表した図を図10に示す。
スリットコータに関しては、上述のスリットコータのうちあらゆるものを適用することが可能である。このスリットコータにより、下方から上方へ搬送される基板1に塗布液2を塗布し、グリップ21で基板1の上端の未塗布部分を掴み、グリップ21を吊り下げたウインチ22を巻き上げることによって、塗布の終わった基板1をスリットコータの上方へ引き上げることができる。その状態を図10に示す。
【0094】
ウインチ22はキャリッジ23に載せられており、キャリッジ23は搬送路50a、b、c上を水平方向に移動することができる。このキャリッジ23と搬送路50a、b、cを含み、基板1をスリットコータから乾燥炉へ搬送する手段をシステム用搬送手段と称する。また、乾燥炉は、本実施形態では、入口扉52aと出口扉52bとを備えたチャンバ52と、排気装置54と、加熱装置56と、プレートヒータ58とを含む。
【0095】
スリットコータにより塗布された基板1は、キャリッジ23により搬送路50a上を紙面左側へ搬送され、乾燥炉のチャンバ52内へ搬送される。チャンバ52には、入口扉52aと出口扉52bとが備えられており、これらの入口扉52a、出口扉52bは紙面に対して垂直方向にスライドして開閉するようになっている。入口扉52aが開き、出口扉52bが閉じている状態で、基板1を吊り下げたキャリッジ23は、搬送路50aから搬送路50bへ乗り移ってチャンバ52の中へ入っていく。そして、キャリッジ23による基板1の搬送が繰り返し行なって、図10に示すように、所定枚数の基板1が等間隔で並んでチャンバ52内に収まるようにする。
なお、本実施形態では、各々のキャリッジ23が個別に走行するようになっているが、走行路50に備えられたチェーンを駆動することにより、一体的に搬送することも考えられる。
【0096】
所定枚数の基板1がチャンバ52内に収められると、入口扉52aが閉じられて、減圧、または真空状態における塗布液2の乾燥が行なわれる。真空ポンプ54aを備えた排気装置を起動することによって、チャンバ52内の空気を排気し減圧していき、必要に応じて真空状態、または真空に近い状態まで減圧することができる。
【0097】
また、必要に応じて、ファン56aとガスヒータ56bとを備えた加熱装置によって、熱風をチャンバ52内へ送り込んで加熱を行い、基板1の乾燥を促進することもできる。チャンバ52内へ送り込む熱風は大気を加熱することも可能であるし、窒素や不活性ガスを加熱してチャンバ52へ供給することも可能である。この場合には、ガスを循環させるシステムを用いることが望ましい。
【0098】
更に、各々の基板1の乾燥を十分に行なうために、チャンバ52内に配置された基板1と基板1の間にプレートヒータ58を挿入して、遠赤外線加熱により加熱することも考えられる。この加熱により、塗布膜表面の状態を改善することができる。このプレートヒータ58は、キャリッジ23によって基板1が所定の位置に配置された後、紙面に対して垂直方向に動いて、基板1と基板1との間に挿入されるようになっている。
【0099】
上述の真空乾燥炉を用いた塗布液2の減圧乾燥において、塗布液2がたれることなく、また気泡が生じることなく乾燥を行なうため、例えば、下記のような減圧パターンを用いることができる。
減圧パターン1
乾燥開始後、5秒以内に200torrまで真空度を高め、その後、約1分間で1torrまで真空度を高める減圧パターン。
減圧パターン2
乾燥開始後、一気に360torrまで真空度を高めた後、360torr〜50torrの間で真空度を上下させながら乾燥させ、その後、真空度を1torrまで上昇させる減圧パターン。
【0100】
以上のようにして、真空乾燥炉で基板1の乾燥を行なった後、真空乾燥炉のチャンバ52の出口扉52aを開いて、キャリッジ23が紙面左側に走行することによって、乾燥の終了した基板1を乾燥路から搬送路50cを経て次の工程の処理装置へ搬送することができる。
【0101】
<コーティングシステムのその他の実施形態>
本発明のスリットコータを用いたコーティングシステムは、上述の実施形態に限られることはなく、例えば、図11に示すようにスリットコータの出側にも搬送ローラ20を配置して、乾燥炉へ連続挿入して乾燥させるコーティングシステムも考えられる。この場合には、真空度を徐々に高めていくため、主乾燥炉へ到達する前に、複数の予備室(図11では第1、第2予備室)が設けられている。また、予備室や主乾燥炉の基板1の出入口においては、ラビリンスシールのような非接触のシール機構にて、外気の進入を防ぐようになっている。
本実施形態では、基板1を連続的に乾燥できるので、処理効率が高く、また、コイル状に巻かれた基板を用いた連続基板の塗布に対しても容易に対応することができる。
【0102】
また、本発明のスリットコータを用いたコーティングシステムにおいては、スリットコータが、塗布液2が塗布された基板1を密閉状態で囲うことができる可動チャンバを有して、スリットコータの場所で、減圧、真空乾燥を行なうシステムも考えられる。本システムでは、省スペースを図ることができる。
また、本発明のスリットコータを用いたコーティングシステムは、上述の実施形態だけでなく、その他様々な実施形態が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明のスリットコータの実施形態を模式的に表した図。
【図2】本発明のスリットコータを用いて基板に塗布液の塗布を行なう場合の手順を示したフローチャート。
【図3】本発明に係る基板1に塗布液2が塗布された状態を示す斜視図。
【図4】本発明に係る塗布ヘッド3の1つの実施形態を示す平面図と側面断面図。
【図5】本発明に係る塗布ヘッド3の1つの実施形態の詳細な先端形状を示す側面図。
【図6】本発明に係る塗布ヘッドの様々な実施形態を模式的に表した側面断面図であり、(a)は攪拌装置30を備えた場合を示し、(b)は加熱ヒータ32を備えた場合を示し、(c)は、超音波振動子34を備えた場合を示す。
【図7】本発明に係る基板冷却装置の1つの実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図8】本発明に係る搬送ローラ20の1つの実施形態を示す平面図である。
【図9】本発明に係るヘッド移動手段のその他の実施形態を模式的に示す側面図である。
【図10】本発明のスリットコータを用いたコーティングシステムの1つの実施形態を模式的に示す図である。
【図11】本発明のスリットコータを用いたコーティングシステムのその他の実施形態を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0104】
1 基板
2 塗布液
3 塗布ヘッド
3a 上部ヘッド
3b 下部ヘッド
3c シム
4 吐出口
5 スリット
6 ヘッダ室
7 アクチュエータ
8 注入口
9a 平面部
9b 面
10 タンク
10a 攪拌装置
11 ポンプ
12 制御バルブ
13 配管
14 ホース
15 リターンルート
15a 受口
20 搬送ローラ
20a 冷却水配管
20b 中空部
21 グリップ
22 ウインチ
23 キャリッジ
30 攪拌装置
32 加熱ヒータ
34 超音波振動子
36 チラーユニット
38 水ポンプ
40 接続配管
42 ヒンジ
50 搬送路
52 チャンバ
52a 入口扉
52b 出口扉
54 排気装置
54a 真空ポンプ
56 加熱装置
56a ファン
56b ガスヒータ
58 プレートヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を垂直に搬送する基板搬送手段と、
垂直に搬送される前記基板の両側に配置され、塗布液を前記基板の両面(塗布面)に同時に塗布することができるスリット状の吐出口を有する塗布ヘッドと、
前記塗布ヘッドに前記塗布液を供給するための塗布液供給手段と、
前記塗布ヘッドを移動させて、前記吐出口と前記塗布面との間の距離を所望の距離に変更することができるヘッド移動手段と、
前記吐出口から吐出した前記塗布液を前記塗布液供給手段へ戻すことができる塗布液戻し手段と、
を含み、
前記塗布ヘッドが、前記ヘッド移動手段により、前記基板に前記塗布液を塗布する塗布位置と該塗布位置よりも前記基板から離れた待機位置との間を移動することによって、前記基板の塗布を間歇的に行なうことができ、
前記待機位置において、前記塗布液戻し手段が前記吐出口から吐出した前記塗布液を前記塗布液供給手段へ戻すことによって、前記基板の塗布を間歇的に行なう場合でも、前記塗布ヘッド内で前記塗布液を連続的に流動させることができることを特徴とするスリットコータ。
【請求項2】
搬送方向において前記基板の先端が前記吐出口の位置に達した後、前記塗布ヘッドを前記待機位置から前記塗布位置へ移動させ、搬送方向において前記基板の後端が前記吐出口の位置に達する前に、前記塗布ヘッドを前記塗布位置から前記待機位置へ移動させることによって、前記基板の搬送方向における両端に未塗布部分を設けることを特徴とする請求項1に記載のスリットコータ。
【請求項3】
前記塗布液が前記塗布ヘッドへ注入される注入口が、前記スリットの幅方向(前記基板の搬送方向と直行方向)に複数設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のスリットコータ。
【請求項4】
前記塗布ヘッドの先端部の形状が、前記吐出口の搬送方向出側には、所定の搬送距離分だけ前記塗布面と略平行な平面部を有し、前記吐出口の搬送方向入側には、前記塗布面から離れるように配置された面を有することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項5】
前記塗布ヘッドが、ヘッド内部に供給された前記塗布液を攪拌するための攪拌装置を有することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項6】
前記塗布ヘッドが、ヘッド内部に供給された前記塗布液を加熱するための加熱装置を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項7】
前記塗布ヘッドが、ヘッド内部に供給された前記塗布液に振動を加えるための超音波振動子を有することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項8】
前記塗布ヘッドの前記塗布液と接触する面にテフロン(登録商標)加工が施されていることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項9】
搬送方向において前記塗布面が前記吐出口の位置に達する前に、前記塗布面を冷却するための冷却装置を更に含むことを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載のスリットローラ。
【請求項10】
前記基板搬送手段が、中間部分がローラ両端部よりも50〜200μmへこんだ凹部を有する搬送ローラを有し、
前記吐出口の幅を前記基板の幅よりも小さくすることにより、前記基板の幅方向における両端に未塗布部分を設け、
前記ローラ両端部と該未塗布部分とが圧接して、前記基板を搬送することを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項11】
前記塗布ヘッドに最も近接して配置された前記搬送ローラと前記塗布ヘッドの位置を調整して、前記塗布面と前記吐出口との距離を設定値プラスマイナス3μmの範囲で調整することを特徴とする請求項10に記載のスリットローラ。
【請求項12】
前記塗布液はソルダーレジストであり、粘度が20ps〜65psの感光性樹脂組成物であることを特徴とする請求項1から11の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項13】
前記塗布面に20μm以上の厚みの前記塗布液を塗布することを特徴とする請求項1から12の何れか1項に記載のスリットコータ。
【請求項14】
請求項1から13の何れか1項に記載のスリットコータと、
前記スリットコータにより前記塗布液が塗布された前記基板を減圧または真空にされた炉内において乾燥を行なう乾燥炉と、
前記基板を前記スリットコータから前記乾燥炉へ搬送するためのシステム用搬送手段と、
を含むことを特徴とする基板コーティングシステム。
【請求項15】
前記システム用搬送手段が、前記基板の未塗布部分を把持することにより前記基板の搬送を行なうことを特徴とする請求項15に記載の基板コーティングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−297241(P2006−297241A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120522(P2005−120522)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(501466938)株式会社目白プレシジョン (31)
【Fターム(参考)】