説明

スリップ歯車構造体及びこれを備えた時計

【課題】分解組立の際に取扱いが容易で分解組立が繰返されても破損され難いスリップ歯車構造体及びこれを備えた時計の提供。
【解決手段】時計のスリップ歯車構造体1は、歯部が外周に形成され内側開口部14を横切って延びたばね部20A,20Bを備えた環状板状の歯車本体部2と、軸4が回転可能に嵌合される中央孔32を有する小径板状部30及び該孔の両側で一方の面から突出した支持壁部40A,40Bを備えた位置決め部材3とを有し、該スリップ歯車構造体が軸に非嵌合の場合、歯車本体部のばね部が支持壁部の側縁部26aA,26bA,26aB,26bBに弾性的に押付けられ該側縁部間の中央ばね部分21aA,21aBが中央孔32内に突出し、該スリップ歯車構造体の中央孔に軸が嵌合状態の場合、歯車本体部の各ばね部が中央ばね部分21aA,21aBで軸4に弾性的に押付けられて該軸に対してスリップ係合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ歯車構造体及びこれを備えた時計に係る。
【背景技術】
【0002】
通常動作の際には軸と歯車本体とが一体的に回転し、軸と歯車との間にかかる負荷がある程度以上大きくなると軸と歯車との間にスリップが生じるように軸と歯車とがスリップ係合したスリップ歯車は、従来から知られており、例えば、パワーリザーブ機構(巻印機構)の巻印伝え車やクロノグラフ時計等の時刻修正等に係る車等に用いられている。
【0003】
これらのスリップ歯車には、典型的には、筒かな潰しと呼ばれるカシメ構造が用いられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、このカシメ構造では、カシメられるべき肉厚を要するだけでなく、分解組立が繰返されるとガタが生じてスリップ係合が失われる。
【0005】
また、スリップ歯車として、アーム状ばねによって歯車本体を軸に係合させたものも知られている(例えば、特許文献2)。
【0006】
しかしながら、このアーム状ばねを用いるタイプのスリップ歯車では、分解組立の際に保持する(つまむ)に適切な箇所がないので、分解組立の際に破損する虞れがあり、分解組立が行われるべき箇所(例えば、地板の如き支持基板の両方の主面側に同軸に歯車を配置するとき)への適用には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−98056号公報
【特許文献2】特開平11−183652号公報(図12等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記諸点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、分解組立の際に取扱いが容易で分解組立が繰返されても破損され難いスリップ歯車構造体及びこれを備えた時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスリップ歯車構造体は、前記目的を達成すべく、歯車を構成する歯部が外周に沿って形成された環状板状の歯車本体部であって、相互に向き合う状態で並ぶように該環の内側開口部の周壁間において該開口部を横切って延びた一対のばね部を備えたものと、軸が回転可能に嵌合される中央孔を有する小径板状部及び該中央孔の両側において該板状部の一方の面から突出した一対の支持壁部を備えた位置決め部材とを有するスリップ歯車構造体であって、該スリップ歯車構造体が軸に対して非嵌合状態にある場合には、歯車本体部の各ばね部が、位置決め部材の一対の支持壁部の対応する側縁部に弾性的に押付けられた状態を採ると共に、一対の支持壁部の対応する側縁部間に位置する中央ばね部分において中央孔内に突出し、該スリップ歯車構造体が前記中央孔において軸に対して嵌合状態にある場合には、歯車本体部の各ばね部が、前記中央ばね部分において軸に弾性的に押付けられて該軸に対してスリップ係合するように構成されている。
【0010】
本発明のスリップ歯車構造体では、「該スリップ歯車構造体が軸に対して非嵌合状態にある場合には、歯車本体部の各ばね部が、位置決め部材の一対の支持壁部の対応する側縁部に弾性的に押付けられた状態を採ると共に、一対の支持壁部の対応する側縁部間に位置する中央ばね部分において中央孔内に突出し、該スリップ歯車構造体が前記中央孔において軸に対して嵌合状態にある場合には、歯車本体部の各ばね部が、前記中央ばね部分において軸に弾性的に押付けられて該軸に対してスリップ係合するように構成されている」ので、スリップ歯車構造体を軸に取付けたり該軸から取外す場合には、位置決め部材を保持して(例えば指でつまんで)、本発明のスリップ歯車構造体を軸に対して変位させればよいから、分解や組立が容易に行われ得る。また、本発明のスリップ歯車構造体では、分解組立の際にばね部のある歯車本体部を直接保持する(例えば指でつまむ)必要がないから、分解組立に際して破損される虞れが少ない。
【0011】
更に、本発明のスリップ歯車構造体では、軸が回転自在に嵌合される中央孔を有する小径板状部及び該中央孔の両側において該板状部の一方の面から突出した一対の支持壁部を備えた位置決め部材を有し、該位置決め部材が板状部や支持壁部で歯車本体部を支えるので、歯車本体部が安定に支持され易い。
【0012】
本発明のスリップ歯車構造体では、典型的には、位置決め部材の前記一対の支持壁部が突出端部のうち前記中央孔に対面する側とは異なる側に拡がったフランジ状部を備え、該フランジ状部と小径板状部とによって歯車本体部の一対のばね部を厚さ方向に挟んでいる。
【0013】
その場合、該位置決め部材が板状部やフランジ状部で歯車本体部のばね部を広い範囲で平面的に支え得るように挟むので、ばね部が歯車本体部の拡がる平面からずれるような変形がばね部に生じるのを確実に規制し得るから、歯車本体部が確実に安定に支持され得る。従って、スリップ歯車構造体を軸に取付けたり該軸から取外す際にもばね部が歯車本体部の拡がる平面内で確実に変形され得るから、軸に対する着脱が容易且つ確実に行われ得る。
【0014】
本発明のスリップ歯車構造体では、典型的には、フランジ状部が外周近傍に錘台状に傾斜した部分を備える。
【0015】
その場合、最初の組立の際に、歯車本体部を位置決め部材に取付け易い。
【0016】
本発明のスリップ歯車構造体では、典型的には、前記一対の支持壁部が中央孔の中心軸線を中心とする共通の円柱の一部をなし、前記位置決め部材は、前記小径板状部のうち一対の支持壁部のある側において、支持壁部を結ぶ方向に対して直交する方向に延びた被さらい部を備える。
【0017】
その場合、スリップ歯車構造体の所望構造の位置決め部材が高い寸法精度で且つ容易に形成され易い。但し、位置決め部材の一対の支持壁部の側縁部の位置を正確に規定し易い限り、さらい部はなくてもよい。
【0018】
本発明のスリップ歯車構造体では、典型的には、環状板状の歯車本体部の一対のばね部が平行に延びている。
【0019】
その場合、スリップ歯車構造体の所望構造の歯車本体が高い寸法精度で且つ容易に形成され易い。但し、歯車本体部の一対のばね部がある程度の精度で形成され得る限り、両ばね部は平行でなくても、例えば、いずれも軽く曲がった「く」の字状や円弧状であってもよい。
【0020】
本発明のスリップ歯車構造体では、典型的には、環状板状の歯車本体部の一対のばね部の前記中央ばね部分が前記中央孔内に突出するように該一対のばね部の対応側縁から突出した突出壁部を備える。
【0021】
その場合、スリップ歯車構造体の所望構造の歯車本体が高い寸法精度で且つ容易に形成され易く、スリップ係合の大きさを所望レベルに設定し易い。
【0022】
本発明のスリップ歯車構造体では、典型的には、中央ばね部分の突出壁部が、軸の外周に係合される凹状部を先端に備える。
【0023】
その場合、スリップ係合の大きさを比較的大きく又は長期間安定になるようにし易い。
【0024】
本発明の時計は、上記目体を達成すべく、上述のようなスリップ歯車構造体を備える。
【0025】
ここで、本発明の時計において、典型的には、前記スリップ歯車構造体が、支持基板の文字板側に位置しパワーリザーブ表示機構の一部をなす車を構成したり、支持基板の文字板側に位置しクロノグラフ機構の時刻修正機構の一部をなす車を構成する。
【0026】
これらの場合、スリップ機構が求められる一方で支持基板の文字板側に配置されていることから軸に対して分解組立可能であることが期待される部分において、時計の分解組立を容易にし得る。
【0027】
但し、時計の他の部分にスリップ歯車構造体が用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好ましい一実施例のスリップ歯車構造体を示したもので、(a)は位置決め部材の支持壁部のある側から見た斜視説明図、(b)は位置決め部材の小径板状部のある側から見た斜視説明図。
【図2】図1のスリップ歯車構造体を示したもので、(a)は位置決め部材の支持壁部のある側から見た平面説明図、(b)は(a)のIIB−IIB線断面説明図、(c)は(a)のIIC−IIC線断面説明図。
【図3】図1のスリップ歯車構造体を示したもので、(a)は位置決め部材の小径板状部のある側から見た平面説明図、(b)は(a)のIIIB−IIIB線断面説明図。
【図4】図1のスリップ歯車構造体についての図3の(b)のIV−IV線断面説明図。
【図5】図1のスリップ歯車構造体を軸にスリップ係合させた状態をしめした図4と同様な断面説明図。
【図6】図1のスリップ歯車構造体を構成する位置決め部材を示したもので、(a)は支持壁部のある側から見た平面説明図、(b)は(a)のVIB−VIB線断面説明図、(c)は(a)のスリップ歯車構造体について小径板状部のある側から見た平面説明図、(d)は(c)のVID−VID線断面説明図、(e)は(a)の位置決め部材について支持壁部のある側から見た斜視説明図。
【図7】図1のスリップ歯車構造体を構成する板状歯車本体部を示したもので、(a)は斜視説明図、(b)は平面説明図。
【図8】図1のスリップ歯車構造体を分伝え車として備えた本発明の好ましい一実施例のクロノグラフ時計の断面説明図。
【図9】図1のスリップ歯車構造体を巻印伝え車として備えた本発明の好ましい一実施例のパワーリザーブ表示式時計の断面説明図。
【図10】図9の時計のパワーリザーブ機構の部分を示した平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の好ましい実施の形態のいくつかを添付図面に示した好ましい実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0030】
本発明の好ましい一実施例のスリップ歯車構造体1は、図1の(a)及び(b)、図2の(a)、(b)及び(c)、並びに図3の(a)及び(b)に示したように、歯車本体部2と、位置決め部材としての支持部材ないし補助部材3とを有する。
【0031】
このスリップ歯車構造体1は、軸4にスリップ係合された状態では、図5の平面断面図で示したような形態を採り、該軸4にスリップ係合される前の図1〜図3に示した状態では、図4の平面断面図で示したような形態を採る。
【0032】
なお、スリップ歯車構造体1を構成する歯車本体部2は図7の(a)及び(b)に示したような形態を有し、スリップ歯車構造体1の位置決め部材としての支持部材ないし補助部材3は図6の(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)に示したような形態を有する。
【0033】
スリップ歯車構造体1の歯車本体部2は、概ね「円環」の形態で全域において厚さT1が実際上一定の環状板状部11である。環状板状部11は、円形の外周縁部12にそって、歯車10を構成する歯部13を有する。環状板状部11は、また、中央部に概ね円形の開口部14を有し、開口部14の周壁15のうち直径方向に対向する周壁部16,17を結ぶように、開口部14を横切って相互に平行に延びた一対のばね部20A,20B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号20で表す)を備える。従って、開口部14は、かまぼこ形の両側の開口部分14a,14bとその間の概ね長方形状の中央の開口部分14cとからなる。なお、開口部分14cの両端は応力集中を避けるように円弧状になっており、開口部分14cは概ね長円形状である。
【0034】
より詳しくは、ばね部20A,20Bは、概ね細長い片状板部21A,21B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号21で表す)の形態であって、各片状板部21A,21Bは、中央ばね部分としての中央ばね部21aA,21aBのうち相互に対面する側縁部22A,22Bに係合突起部23A,23B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号23で表す)を備える。各係合突起部23A,23Bは、先端部に円弧状係合凹部25A,25B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号25で表す)を備える。
【0035】
図4及び図5を参照して後で詳述するように、ばね部20A,20Bに外力がかかっていない状態SP0では、ばね部20A,20Bは直線状に延び、ばね部20A,20Bの係合突起部23A,23Bは相互に近接した突出位置P0A,P0Bを採る。一方、ばね部20A,20Bの係合突起部23A,23Bが該両持ちばね部20A,20Bの弾性力に抗して相互に離間する後退位置P1A,P1Bを採る状態SP1では、係合突起部23A,23Bの円弧状係合凹部25A,25Bが、全体として実際上一つの円を形成する。
【0036】
なお、ばね部20A,20Bが係合突起部23A,23Bを備える限り、該ばね部20A,20Bを構成する細長い片状板部21A,21Bは、相互に平行である代わりに、夫々が概ね「く」の字状の如く非平行な部分を有していてもよい。
【0037】
スリップ歯車構造体1の位置決め部材としての支持部材ないし補助部材3は、小径板状部30と、一対の支持壁部40A,40B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号40で表す)とを有する。
【0038】
小径板状部30は、厚さT2の小径の円環状体31からなる。円環状体31は、内径D1の円形の中央開口部32を有する。この円形開口部32の内径D1は、歯車構造体1がスリップ係合される軸4の外径D2(図5)と概ね一致する(厳密には、スリップ係合を許容するように、僅かに大きい)。
【0039】
支持壁部40A,40B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号40で表す)は、中央開口部32の直径方向に対向する両側において該板状部30の一方の面33から突出した一対の柱状の壁部本体部41A,41B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号41で表す)と、該壁部本体部41A,41Bの突出端部41aA,41aBにおいて開口部32に対面する側面42A,42Bとは異なる側に拡がったフランジ状部43A,43B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号43で表す)とを備える。
【0040】
小径板状部30の面33とフランジ状部43A,43Bの対向面44A,44B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号44で表す)との距離ないし間隔T3は、歯車本体部2の環状板状部11の厚さT1と実際上一致する(厳密には、スリップ係合を許容すべくばね部20A,20Bが弾性変形され得るように、間隔T3は厚さT1よりも僅かに大きい)。
【0041】
支持壁部40A,40Bの柱状壁部本体部41A,41Bの外周面45A,45Bは小径板状部30の中心軸線C2を中心とする共通の円筒状面E1の一部をなす。フランジ状部43A,43Bは、部分円錐台状周面部46A,46Bを備え、該部分円錐台状周面部46A,46Bは、中心軸線C2を中心とする共通の円錐台状面E2の一部をなす。
【0042】
支持壁部40A,40Bの間で且つ小径板状部30の表面31側には、支持壁部40A,40Bを結ぶ方向Yに対して直交する方向Xに延びた被さらい部としてのさらい凹部50が形成されている。凹部50は、一定の幅Wで小径板状部30の直径方向に延びている。凹部50は、側面51A,51B(両者を相互に区別しないとき又は総称するときは符号51で表す)及び底面52によって規定される。
【0043】
凹部50の側面51Aは、小径板状部30の表面31側に形成された側面53Aと、支持壁部40Aの内面42Aとからなる。小径板状部30の側面53Aは、支持壁部40Aの内面42Aと面一で軸線C2の延在方向に繋がった面部分54A、及びその両側において面部分54Aに面一に繋がった面部分55aA,55bAからなる。同様に、小径板状部30の側面53Bは、支持壁部40Bの内面42Bと面一で軸線C2の延在方向に繋がった面部分54B、及びその両側において面部分54Bに面一に繋がった面部分55aB,55bBからなる。側面51A,51Bを相互に区別しないとき又は総称するときは符号51で表し、側面53A,53Bを相互に区別しないとき又は総称するときは符号53で表し、面部分54A,54Bを相互に区別しないとき又は総称するときは符号54で表す。
【0044】
図6に加えて図4からわかるように、支持壁部40Aの側縁47A,48Aは外周面45Aと内面(さらい面)42Aによって規定され、支持壁部40Bの側縁47B,48Bは外周面45Bと内面(さらい面)42Bによって規定される。支持壁部40Aの側縁47A,48A間の間隔及び支持壁部40Bの側縁47B,48B間の間隔は、さらい凹部50の幅Wと一致し、小径板状部30の中央開口部32の径D1よりも少し大きい。
【0045】
スリップ歯車構造体1が軸に対して非嵌合状態Siにある場合おける歯車本体部2と位置決め部材(すなわち支持部材ないし補助部材)3との係合状態は、図1〜図3のうち特に図2の(c)、及び図4に示すとおりである。
【0046】
すなわち、さらい凹部50が位置決め部材3のX方向に延びた支持壁部40A,40Bの側縁(X方向端縁)47A,47Bに歯車本体部2のY方向に延びたばね部20Aが片状板部21Aの突起部23Aの両側の内縁部26aA,26bAで概ね当接し、位置決め部材3のX方向に延びた支持壁部40A,40Bの側縁(X方向端縁)48A,48Bに歯車本体部2のばね部20Bが片状板部21Bの突起部23Bの両側の内縁部26aB,26bBで当接している。すなわち、歯車本体部2の概ねY方向に延びたたばね部20A及び20Bは、位置決め部材3のX方向に延びた支持壁部40A,40Bの側縁(X方向端縁)47A,47Bによって多少X方向に押し拡げられた状態で、突起部23A及び23Bの両側の内縁部26aA,26bA及び26aB,26bBに弾性的に押付けられ(当接し)ている。但し、当接ないし接触していなくてもよい。図2の(c)及び図4からわかるように、このとき、歯車本体部2のばね部20A,20Bの係合突起部23A,23Bが、位置決め部材3の小径板状部30の中央開口部32内にX方向,−X方向に突出している。
【0047】
一方、このスリップ歯車構造体1の中央開口部32に軸4を嵌合した嵌合状態Sfでは、図5に示したように、スリップ歯車構造体1の歯車本体部2の各ばね部20A,20Bが、中央の突起部23A,23Bにおいて軸4に弾性的に押付けられて、該突起部23A,23Bの先端の円弧状係合凹部ないし該凹部形成面25A,25Bにおいて軸4の外周面4aに対して弾性的に押付けられている。
【0048】
この状態では、軸4の回転中心軸線C2のまわりにおいてスリップ歯車構造体1にかかるトルクが所定レベルより小さい場合、ばね部20A,20Bの突起部23A,23Bの円弧状係合凹部25A,25Bが軸4の外周面4aに対して摩擦係合した状態に保たれるので、スリップ歯車構造体1が軸4と一体的に回転する。一方、スリップ歯車構造体1にある程度以上大きいトルクがかかると、スリップ歯車構造体1がばね部20A,20Bの突起部23A,23Bの円弧状係合凹部25A,25Bにおいて軸4の外周面4aに対してすべりが生じ、スリップして回転する。以上のような意味において、このスリップ歯車構造体1は、軸4に対してスリップ係合している。
【0049】
図5に示したようにスリップ歯車構造体1が軸4にスリップ係合した状態Sfでは、スリップ歯車構造体1の平板状歯車本体部2のばね部20A,20Bが、突起部23A,23Bの円弧状係合凹部25A,25Bで軸4の外周面4aに係合するので、ばね部20A,20Bが中央部において軸4によりF1A,F1B方向に押されて、図5において破線で示した位置(図4の実線で示した初期位置)P0A,P0Bから図5において実線で示した変位位置P1A,P1Bに変形される。力F1A,F1Bの方向は、夫々、−X方向,+X方向に実際上一致する。すなわち、スリップ歯車構造体1が中央開口部32において軸4に対して嵌合状態にある場合には、歯車本体部2の各ばね部20A,20Bが、突起部23A,23BにおいてX,−X方向に軸4に力F1,F2で弾性的に押付けられて該軸4に対してスリップ係合する。
【0050】
この変位位置P1Aにおいては、ばね部20Aの内縁部26aA,26bAが支持壁部40A,40Bの側縁部47A,47Bに対して非当接状態になってばね部20Aの内縁部26aA,26bAと支持壁部40A,40Bの側縁部47A,47Bとの間には間隙GaA,GbAが形成される。同様に、この変位位置P1Bにおいては、ばね部20Bの内縁部26aB,26bBが支持壁部40A,40Bの側縁部48A,48Bに対して非当接状態になってばね部20Bの内縁部26aB,26bBと支持壁部40A,40Bの側縁部48A,48Bとの間には間隙GaB,GbBが形成される。
【0051】
このスリップ歯車構造体1では、板状歯車本体部2のばね部20A,20Bが、位置決め部材3の小径板状部30とフランジ状部43A,43Bとの間にZ方向に挟まれることにより広い範囲で平面的に支えられるので、ばね部20A,20Bが変形される際にばね部20A,20BはX,Y面内においてY方向に変位されるだけで部分的にZ方向に変位するような捩れが生じる虞れが実際上ないから、スリップ係合が確実に維持され得る。
【0052】
なお、このスリップ歯車構造体1の組立の際には、板状歯車本体部2のばね部20A,20Bを、位置決め部材3の小径板状部30とフランジ状部43A,43Bとの間に挟めればよい。ここで、このスリップ歯車構造体1では位置決め部材3のフランジ状部43A,43Bが部分円錐台状周面部46A,46Bを備えるので、この組付けに際して、板状歯車本体部2のばね部20A,20Bを位置決め部材3のフランジ状部43A,43Bが部分円錐台状周面部46A,46Bに載せて押えるだけで、板状歯車本体部2のばね部20A,20Bを、位置決め部材3の小径板状部30とフランジ状部43A,43Bとの間に嵌め得る。
【0053】
以上のようなスリップ歯車構造体1は、歯車を軸に対してスリップ係合させることが求められる時計輪列に適用され、特に、地板の如き主たる支持基板の裏側(文字板側)に配置されるスリップ歯車に適用されるに適する。
【0054】
図8は、スリップ歯車構造体1を備えたクロノグラフ機構60を有する時計5を示す。時計5は、ベースユニット70とクロノグラフ機構ないしクロノグラフユニット60とを有する。
【0055】
ムーブメント本体71の形態のベースユニット70を備えた時計5は、図1並びに図8からわかるように、短い筒状部72aを備えた変形二番車ないし分車72と、分伝え車73と、第二分車74とを有する。また、ベースユニット71を備えたクロノグラフ機能付き時計5は、第一日の裏車75及び第二日の裏車76を有する。ここで、第一日の裏車75は巻真7の回転を伝える時刻修正伝え車として働く。分伝え車73は、変形二番車72の短い筒状部72aの文字板側端部に形成された小径部72bに摩擦係合ないしスリップ係合されている。この分伝え車73が、図1〜図7に示したスリップ歯車構造体1からなる。
【0056】
すなわち、図5に示した板状歯車本体部2がばね部20A,20Bで軸4に係合したように、分伝え車73では、その板状歯車本体部がばね部で軸に相当する変形二番車72の小径部72bに摩擦係合ないしスリップ係合している。従って、香箱77の香箱歯車77aから変形二番車72のかな部72cにトルクが与えられると、分伝え車73は変形二番車72と一体に回転され、第一日の裏車75から分伝え車73にトルクが与えられると、分伝え車73は増速側につながった変形二番車72に対してスリップ回転される。
【0057】
第二分車74は、分伝え車73と同心で、クロノグラフユニット60の文字板側に位置する。第二分車74は、第二分かな74aと、筒状部74bとを有する。筒状部74bは、中心パイプ9のまわりに摺動回転可能に嵌合されている。
【0058】
第二日の裏車76は、同一径で軸76aに同心に装着された歯車部76b,76cを備え、分伝え車73及び第二分かな74aに噛合して二つの歯車部73,74aを連結すると共に、歯車部76cの文字板側にある日の裏かな76dで筒歯車79aを介して筒車79を回転させる。
【0059】
四番真78は、秒伝え車61及び秒クロノグラフ中間車62を介して秒車63につながっている。一方、第二日の裏車76は、歯車部76cから第一及び第二の分クロノグラフ中間車64a,64bを介して分クロノグラフ車65を回転させる。また、筒車79及び第二分車74と同心に秒クロノグラフ車66が配置され、クロノグラフの動作時には、秒クロノグラフ中間車62を介して回転される。
【0060】
これにより、秒針J1,分針J2,時針J3,クロノグラフ秒針K1,クロノグラフ分針K2,クロノグラフ時針(図示せず)を備えたクロノグラフ時計5が得られる。なお、図1において、8aは地板、8cは二番受、8dはクロノグラフ地板、8eはクロノグラフ受である。
【0061】
以上の如き構成を有するクロノグラフ時計5では、針合せ(時刻修正)の際にスリップ動作が求められる変形二番車72が前述のスリップ歯車構造体1からなるので、時計5の分解などの際に、ベースユニット70とクロノグラフユニット60とが分解されると、地板8aの文字板側にあるスリップ歯車構造体1の形態の分伝え車73を軸4として働いている変形二番車72の短い筒状部72aから取り外すだけで、ムーブメント本体71の主たる部分71aを裏蓋側に向かって(図1においてZ1方向に)取外すことが可能になる。
【0062】
スリップ歯車構造体1では、小径板状部30を指先等で容易につまみ得るから、小径板状部30をつまんでZ2方向に引出すだけで小径板状部30を含む位置決め部材3及びこれと結合された板状歯車本体部2を軸すなわち変形二番車72の短い筒状部72aから容易に取外し得る。従って、分解が容易に行われ得る。
【0063】
なお、組立の際には、逆に、小径板状部30をつまみ中央開口部32を軸となる変形二番車72の短い筒状部72aに嵌め合せてZ1方向に押し込むだけで小径板状部30を含む位置決め部材3及びこれと結合された板状歯車本体部2を軸すなわち変形二番車72の短い筒状部72aに容易に嵌め合わせ得る。
【0064】
このスリップ式の分伝え車73すなわちスリップ歯車構造体1では、軸4となる変形二番車72の短い筒状部72aに対する該スリップ歯車構造体1の嵌合・該嵌合の解除に際して、スリップ歯車構造体1の小径板状部30をつまむだけでよく、スリップ歯車構造体1のばね部20A,20Bを構成する機能部分を指でつまむ必要がないから、スリップ歯車構造体1の組み込みないしその取り外しが容易且つ確実に行われ得る。従って、スリップ式の分伝え車73すなわちスリップ歯車構造体1の軸4への着脱、即ちクロノグラフ時計5の分解組立を何回も行い得る。
【0065】
図9及び図10は、スリップ歯車構造体1を備えたパワーリザーブ表示機構(ぜんまい動力蓄積量表示機構、ぜんまい巻き状態表示機構又はぜんまい動力表示機構等ともいう)80を有する時計6を示す。
【0066】
時計6のパワーリザーブ表示機構80は、図10からわかるように、遊星歯車機構81と、巻印表示輪列83とを有する。なお、巻印表示輪列83は、巻印車82と、遊星歯車機構81を巻印車82に結合する巻印中間車83aとからなる。
【0067】
遊星歯車機構81は、第一太陽歯車84aと第一太陽かなとこれらと一体的な太陽真とを備えた第一太陽車84、第二太陽歯車85aと第二太陽かなとを備え前記太陽真に回転自在に嵌合された第二太陽車85、遊星中間歯車86aを備え太陽真に回転自在に嵌合された遊星中間車86、偏心位置において遊星中間車86に回転自在に支持された偏心軸87cと該偏心軸87cに一体的で第一太陽かなに噛合した第一遊星車87aと該偏心軸87cに一体的で第二太陽かなに噛合した第二遊星車87bとを備えた遊星車87、並びに遊星伝え歯車88aと遊星伝えかな88bとを一体的に備え遊星伝えかな88bで遊星中間車86の歯車部86aに噛合した遊星伝え車88を有する。
【0068】
香箱90のかな部すなわち香箱かな91が遊星伝え車88の歯車部88aに噛合され、香箱真92のかな部すなわち香箱真かな92aが第二太陽車85の歯車部85aに噛合している。
【0069】
遊星歯車機構81の出力側には、巻印表示輪列83の巻印中間車83aに結合された巻印伝え車89が設けられ、図9に示したように、該巻印伝え車89が、図1〜図4に示したスリップ歯車構造体1で形成されている。
【0070】
巻印車82の真82aの突出端には文字板上の扇形の目盛の範囲で回動する巻印(パワーリザーブ表示)針82bが取付けられる。巻印中間車86には、扇形の窓86bが設けられ、該窓86bには度決めピン86cが遊嵌されて、巻印中間車86の回動範囲を規定し、これにより、巻印車82の回動範囲(従って、巻印(パワーリザーブ表示)針の回動範囲)が規定される。
【0071】
香箱90内のぜんまい93の巻上げの際には、香箱かな91及びこれに噛合した遊星伝え車88並びに該遊星伝え車88に噛合した遊星中間車86が実際上固定車になっていて、香箱真92の回転に応じて香箱真かな92aに歯車部85aで噛合した第二太陽車85が回転され、該第二太陽車85の回転に応じて第二遊星車87bで第二太陽かなに噛合された遊星車87が回転され、該遊星車87の回転に応じて歯車部84aで第一遊星車87aに噛合された第一太陽車84が回転され、該第一太陽車84の回転に応じて第一太陽真84cにスリップ係合された巻印伝え車89が回転され、該巻印伝え車89の回転に応じて該巻印伝え車89の歯車部(スリップ歯車構造体1の板状歯車本体部2の歯車部10)に噛合した巻印中間車83aが回転され、該巻印中間車83aの回転に応じて巻印車82が回転される。
【0072】
従って、香箱真92の回転に伴うぜんまい93の巻上げに応じて、巻印車82が回転されて、巻印(パワーリザーブ表示)針が回動され、ぜんまい93の巻上げが進行したことが表示される。
【0073】
ぜんまい93が完全に巻き上げられるとその後の香箱真92の回転に対しては香箱90内でのぜんまい93のすべりが生じ、ぜんまい93が過度に巻き上げられるのが防止される。
【0074】
一方、このパワーリザーブ機構80では、巻印中間車83aを介して巻印車82を直接回転させる巻印伝え車89がスリップ歯車構造体1からなるので、巻印車82がフル巻上位置まで回動され巻印中間車83a円板状歯車部の円弧状窓86bのフル巻上側の端に度決めピン86cが当ると、巻印車82及び巻印中間車83aのそれ以上の回動は禁止され、巻印伝え車89が太陽真に対してスリップする。すなわち、表示針もフル巻上以上に過度に回動される虞れがない。
【0075】
特に、このこのパワーリザーブ機構80では、遊星車機構81のうち巻印車82の直前に位置する部分にスリップ歯車構造体1の形態の巻印伝え車89が配置され該巻印伝え車89においてスリップが生じるようにしているので、その他の部分におけるトルクの伝達がスリップによって妨げられることがなく、過度な回動を強いるのを確実に防ぎ得る。
【0076】
香箱90内のぜんまい93がほどけて該ぜんまいのエネルギにより運針が行われる際には、香箱真かな92a及びこれに歯車部85aで噛合した第二太陽車85が固定車になっていて、香箱90の回転に応じて香箱かな91に歯車部88aで噛合した遊星伝え車88が回転され、該遊星伝え車88の回転に応じて歯車部で遊星伝え車88に噛合された遊星中間車86が回転され、該遊星中間車86の回転に応じて第二遊星車87bで第二太陽車85に噛合された遊星車87が回転され、該遊星車87の回転に応じてかな部で第一遊星車87aに噛合された第一太陽車84が回転され、該第一太陽車84の回転に応じて第一太陽真84cにスリップ係合された巻印伝え車89が回転され、該巻印伝え車89の回転に応じて該巻印伝え車89の歯車部(スリップ歯車構造体1の板状歯車本体部2の歯車部10)に噛合した巻印中間車83aが回転され、該巻印中間車83aの回転に応じて巻印車82が回転される。
【0077】
従って、香箱90の回転に伴うぜんまい93のほどけに応じて、巻印車82が回転されて、巻印(パワーリザーブ表示)針が回動され、ぜんまい93のほどけが進行したことが表示される。
【0078】
以上の如きパワーリザーブ機構80を構成する輪列の大半が地板8fの文字板側にある遊星中間車86、第一及び第二太陽車84,85並びに巻印伝え車89は同軸に位置している。従って、Z方向の厚さが大きくなり、この例では、巻印伝え車89は最も文字板側に位置する。ところが、このパワーリザーブ機構80の遊星車機構81では、巻印伝え車89が指等でつまみ易い位置決め部材3及び板状歯車本体部2からなるスリップ歯車構造体1によって構成されているので、太陽真84cから容易に取外し得る。その結果、遊星車機構81の分解も比較的容易に行われ得る。
【0079】
なお、図9及び図10において、18は日の裏車、19は筒車である。また、巻印表示輪列83と結合されるべき遊星歯車機構の出力側の車の軸にスリップ歯車構造体1がスリップ係合される限り、遊星歯車機構の構造や香箱かな91及び香箱真かな92aとの結合の仕方は図9及び図10に示した遊星歯車機構81とは異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 スリップ歯車構造体
2 歯車本体部
3 位置決め部材
4 軸
4a 外周面
5 時計
6 時計
8a 地板
8c 二番受
8d クロノグラフ地板
8e クロノグラフ受
8f 地板
9 中心パイプ
10 歯車
11 環状板状部
12 外周縁部
13 歯部
14 開口部
14a,14b 開口部分
14c 開口部分
15 周壁
16,17 周壁部
18 日の裏車
19 筒車
20,20A,20B ばね部
21,21A,21B 片状板部
21aA,21aB 中央ばね部
22A,22B 側縁部
23,23A,23B 係合突起部
25,25A,25B 円弧状係合凹部(凹部形成面)
26aA,26aB,26bA,26bB 内縁部
30 小径板状部
31 円環状体
32 中央開口部
33 面
40,40A,40B 支持壁部
41,41A,41B 柱状の壁部本体部
41aA,41aB 突出端部
42,42A,42B 側面(さらい面)
43,43A,43B フランジ状部
44,44A,44B 対向面
45,45A,45B 外周面
46,46A,46B 部分円錐台状周面部
47,47A,47B 側縁
48,48A,48B 側縁
50 さらい凹部(被さらい部)
51,51A,51B 側面
52 底面
53,53A,53B 側面
54,54A,54B 面部分
55aA,55aB,55bA,55bB 面部分
60 クロノグラフ機構(クロノグラフユニット)
61 秒伝え車
62 クロノグラフ中間車
63 秒車
64a,64b 分クロノグラフ中間車
65 分クロノグラフ車
66 秒クロノグラフ車
70 ベースユニット
71 ムーブメント本体
71a ムーブメント本体の主たる部分
72 変形二番車(分車)
72a 短い筒状部
72b 小径部
72c かな部
73 分伝え車
74 第二分車
74a 第二分かな
74b 筒状部
75 第一日の裏車
76 第二日の裏車
76a 軸
76b,76c 歯車部
76d 日の裏かな
77 香箱
77a 香箱歯車
78 四番真
79 筒車
79a 筒歯車
80 パワーリザーブ機構
81 遊星歯車機構
82 巻印車
83 巻印表示輪列
83a 巻印中間車
84 第一太陽車
85 第二太陽車
86 遊星中間車
87 遊星車
88 遊星伝え車
89 巻印伝え車
90 香箱
91 香箱かな
92 香箱真
92a 香箱真かな
C2 回転中心軸線
D1 内径(開口部)
D2 外径(軸)
E1 共通円筒状面
E2 共通の円錐台状面
F1A,F1B 押す方向
GaA,GaB,GbA,GbB 間隙
J1 秒針
J2 分針
J3 時針
K1 クロノグラフ秒針
K2 クロノグラフ分針
P0A,P0B 初期位置(突出位置)
P1A,P1B 変位位置(後退位置)
SP0 突出位置を採る状態
SP1 後退位置を採る状態
Si 非嵌合状態
Sf 嵌合状態
T1 厚さ
T2 厚さ(小径板状部)
T3 間隔(距離)
W 幅(さらい凹部の幅)
X,Y,Z 方向
Z1,Z2 方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を構成する歯部が外周に沿って形成された環状板状の歯車本体部であって、相互に向き合う状態で並ぶように該環の内側開口部の周壁間において該開口部を横切って延びた一対のばね部を備えたものと、
軸が回転可能に嵌合される中央孔を有する小径板状部及び該中央孔の両側において該板状部の一方の面から突出した一対の支持壁部を備えた位置決め部材と
を有するスリップ歯車構造体であって、
該スリップ歯車構造体が軸に対して非嵌合状態にある場合には、歯車本体部の各ばね部が、位置決め部材の一対の支持壁部の対応する側縁部に弾性的に押付けられた状態を採ると共に、一対の支持壁部の対応する側縁部間に位置する中央ばね部分において中央孔内に突出し、
該スリップ歯車構造体が前記中央孔において軸に対して嵌合状態にある場合には、歯車本体部の各ばね部が、前記中央ばね部分において軸に弾性的に押付けられて該軸に対してスリップ係合するように構成されたスリップ歯車構造体。
【請求項2】
位置決め部材の前記一対の支持壁部が突出端部のうち前記中央孔に対面する側とは異なる側に拡がったフランジ状部を備え、該フランジ状部と小径板状部とによって歯車本体部の一対のばね部を厚さ方向に挟んでいる請求項1に記載のスリップ歯車構造体。
【請求項3】
フランジ状部が外周近傍に錘台状に傾斜した部分を備える請求項2に記載のスリップ歯車構造体。
【請求項4】
前記一対の支持壁部が中央孔の中心軸線を中心とする共通の円柱の一部をなし、前記位置決め部材は、前記小径板状部のうち一対の支持壁部のある側において、支持壁部を結ぶ方向に対して直交する方向に延びた被さらい部を備える請求項1から3までのいずれか一つの項に記載のスリップ歯車構造体。
【請求項5】
環状板状の歯車本体部の一対のばね部が平行に延びている請求項1から4までのいずれか一つの項に記載のスリップ歯車構造体。
【請求項6】
環状板状の歯車本体部の一対のばね部の前記中央ばね部分が前記中央孔内に突出するように該一対のばね部の対応側縁から突出した突出壁部を備える請求項1から5までのいずれか一つの項に記載のスリップ歯車構造体。
【請求項7】
中央ばね部分の突出壁部が、軸の外周に係合される凹状部を先端に備える請求項6に記載のスリップ歯車構造体。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一つの項に記載のスリップ歯車構造体を備えた時計。
【請求項9】
前記スリップ歯車構造体が、支持基板の文字板側に位置しパワーリザーブ表示機構の一部をなす車を構成している請求項8に記載の時計。
【請求項10】
前記スリップ歯車構造体が、支持基板の文字板側に位置しクロノグラフ機構の時刻修正機構の一部をなす車を構成している請求項8に記載の時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−53019(P2011−53019A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200494(P2009−200494)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)