説明

スリング

【課題】シャフトなどに掛けたスリングのアイ部に張力が加わるときに、アイ部根本の分岐開始部分がその拡開する方向への引裂力を受けて、当該分岐開始部分やその先のスリング本体部分が破損してしまうことを防止する。
【解決手段】アイ部1の分岐開始部分(基端部分1a)の周回範囲4aに、環状で芯材入りの保持体8を縫合して、拡開する方向への引裂力を低減した。スリング本体部分(並列芯材部2)とアイ部1とを構成するカバー体4の中には無端状の芯材3が通してあり、保持体8の前記縫合は、芯材3を避けてカバー体4との間に施した。これにより芯材3がそのカバー体4からいわば独立した形で荷重を受ける形となり、スリングの強度維持を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物に対する吊り荷用などとして用いられるスリングに関し、特にカバー体で覆われ、無端状の芯材の一部が隣り合った状態の並列芯材部とこれに連続する形のループ状のアイ部とからなるスリングに関する。
【0002】
スリング使用時には、このアイ部が荷役・物流などの各種機器のフックやシャフトなどに掛けられる。
【0003】
そして例えば径の大きなシャフトなどにアイ部を掛けた状況で、並列芯材部に保持した重量物を吊り上げる場合などには、アイ部のいわば分岐開始部分がその拡開する方向への引裂力を受けて、(アイ部に続く範囲の)並列芯材部のカバー体の中央縫合部分が破断しやすく、また当該分岐開始部分が裂けやすくなる。
【0004】
本発明は、このようなアイ部に続く範囲の並列芯材部(=並列芯材部の端部分)における縫合状態の破断を確実に防止する、といった要請に応えるものである。
【背景技術】
【0005】
並列芯材部の端部分における縫合状態の破断を防止するため、この端部分を紐で結束した形のスリングがすでに提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
ここでは、本体部(=並列芯材部)から吊輪部(=アイ部)への移行部(=並列芯材部の端部分)に紐体を巻き付けている。なお、本体部および吊輪部は環状集束糸(=芯材)をカバー体で被覆した形のものである。
【特許文献1】実公昭59−2067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この提案のように並列芯材部の端部分に紐体を単に巻き付けたものでは、当該端部分への引裂力に大して十分に耐えることができないという問題点があった。
【0008】
さらにはこの紐体が必然的にカバー体およびその中の環状集束糸(芯材)をいわば締め付けて、当該締付け部分でこれら芯材およびカバー体を一体化するため、例えばもっぱらカバー体をずらすような力が作用した場合にその影響は中の芯材にまで及んでしまうという問題点があった。
【0009】
そこで本発明では、
(11)並列芯材部の端部分に対応するカバー体の周回範囲に(当該端部分の)縫合破断防止用の保持体を縫合し、
(12)さらには並列芯材部における芯材区分け用のカバー体自体同士の縫合箇所および、当該保持体とカバー体との縫合箇所がカバー体内の芯材から外れた態様とする、
構成をとって、
これにより、並列芯材部の端部分の縫合状態の破断を確実に防止し、また芯材がそのカバー体からいわば独立した形で荷重を受けられるようにして、スリングの強度維持を十全なものにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以上の課題を次の構成からなるスリングを用いて解決する。
(1)カバー体(例えば後述のカバー体4,5,6)で覆われ、無端状の芯材(例えば後述の芯材3)の一部が隣り合った状態の並列芯材部(例えば後述の並列芯材部2)とこれに連続する形のループ状のアイ部(例えば後述の一対のアイ部1)とからなるスリングにおいて、
前記並列芯材部のカバー体部分は、その中の一方の側の芯材と他方の側の芯材とを区分けする態様で互いに縫合(例えば後述の中央縫合部分4b,縫合部分7)され、
前記並列芯材部の端側部分における前記縫合状態の破断を防止するための保持体(例えば後述の保持体8)が、当該端側部分に対応した前記カバー体の周回範囲(例えば後述の周回範囲4a,6a)に縫合された、
構成とする。
(2)上記(1)において、
前記カバー体部分および前記保持体は、それぞれ前記芯材から外れた箇所のみで縫合された、
構成とする。
(3)上記(1),(2)において、
前記保持体は、
前記アイ部の側では、少なくとも、前記芯材同士の区分けに対応する中央部分の両側の外端部分が縫合され、
前記並列芯材部の側では、前記中央部分および前記両側の外端部分がともに縫合された、
構成とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、このように、並列芯材部の端部分(アイ部側の部分)に対応するカバー体の周回範囲に当該端部分の縫合破断防止用の保持体を縫合する、ことを基本的特徴としている。
【0012】
また、望ましくは、並列芯材部における芯材区分け用のカバー体自体同士の縫合箇所および、当該保持体とカバー体との縫合箇所がカバー体内の芯材から外れる態様をとっている。
【0013】
そのため、並列芯材部の端部分(アイ部側の部分)の縫合状態の破断を確実に防止し、さらには芯材がそのカバー体からいわば独立した形で荷重を受ける形となり、スリングの強度維持の十全化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1乃至図10を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0015】
ここで、
図1は、アイ部および並列芯材部に対する単一のカバー体を用いるタイプであって、当該並列芯材部の端側のカバー体周回範囲のそれぞれに、そこでのカバー体同士の縫合状態の破断を防止するための環状で芯材入りの保持体がまだ取り付けられていない、第1中間状態のスリングを示し、
図2(a)は、図1の保持体の断面を示し、
図2(b)は、図1の並列芯材部の断面を示し、
図3は、図1の各保持体の折返し前の並列芯材部の端側対応部分のみがそれぞれカバー体周回範囲にその(図示左右方向の)両側の計二箇所で縫合された、第2中間状態のスリングを示し、
図4は、図3の各保持体の折返し後の並列芯材部の非端側対応部分がそれぞれカバー体周回部分にその(図示左右方向の)両側および中央の計三箇所で縫合されたソフトタイプのスリング(その1)を示し、
図5は、図4の並列芯材部の非端側縫合部分の断面を示し、
図6は、図1の各保持体がそれぞれ折り返されることなく、並列芯材部の端側のカバー体周回部分にその(図示左右方向の)両側および中央の計五箇所(二列)で縫合されたソフトタイプのスリング(その2)を示し、
図7は、アイ部に対するカバー体と並列芯材部に対するカバー体とを個々に用いるタイプであって、当該並列芯材部の端側のカバー体周回範囲のそれぞれに環状で芯材入りの保持体がまだ取り付けられていない、中間状態のスリングを示し、
図8は、図7の各保持体がそれぞれ、図3,図4と同様にその折返し前および折返し後を合わせて、カバー体周回部分にその(図示左右方向の)両側,中央の計5箇所で縫合されたソフトタイプのスリング(その3)を示し、
図9は、図4のアイ部のそれぞれに吊り荷作業用などの金具を直接取り付けたソフトタイプのスリング(その4)を示し、
図10は、図8のアイ部のそれぞれに吊り荷作業用などの金具を直接取り付けたソフトタイプのスリング(その5)を示している。
【0016】
以下のアルファベット付き参照番号の構成要素(例えば基端部分1a)は原則として、当該参照番号の数字部分の構成要素(例えば一対のアイ部1)の一部であることを示している。
【0017】
図1〜図10において、
1はスリングをその外観で分けたときのループ状部分であって、使用時に例えば荷役・物流などの各種機器のフックやシャフトなどに掛けられる一対のアイ部,
1aは当該アイ部のいわばループ開始域となる基端部分,
2はスリングを同じくその外観で分けたときのループ状ではない部分、すなわち一対のアイ部1の間の部分からなる並列芯材部(本体部),
3はアイ部1および並列芯材部2の全体にわたって配設され、芯糸やテープなどからなる周知の例えばポリエステル製でエンドレス状の芯材,
4は芯材3を被覆して保護する例えばナイロン製で単一のカバー体,
4aは並列芯材部2の両端側部分(=アイ部1の基端部分1aとの接続側部分)の周回範囲,
4bは並列芯材部2の中の芯材をいわば二列に区分けしている中央縫合部分,
4cは芯材3をカバー体に組み込んでいく作業工程で用いられる開口作用部,
4dはこの芯材組込み後の開口作用部4cに対して形成される縫合部分,
「次の5〜7は図7,図8のみで使用
5は例えばナイロン製でアイ部用の一対のカバー体,
6は例えばナイロン製で並列芯材部用のカバー体,
6aは上記4aと同様の周回範囲,
7はカバー体5,6の各接続範囲の図示左右方向の両側および中央に形成されたそれぞれ計四個の縫合部分,」
8はカバー体4,6の周回範囲4a,6aの所定部分に縫合されて、スリングの使用時にアイ部1の基端部分1aなどに作用する拡開方向への力によってカバー体4の中央縫合部分4bやカバー体5,6の中央の縫合部分7が破断するのを防ぎ、またアイ部1の基端部分1a(カバー体の一部)が裂けるのを防ぐための、環状で芯材入りの例えばナイロン製の保持体,
8aは例えばポリエステル製の芯材が入っている環状の中間部,
8b,8cはこの中間部の両側に続く部分で、芯材が入っていなくて折返し可能な環状の側片部,
8d,8eはこの側片部と中間部8aとの間の縫合部分,
8fは当該保持体の折返し前に、側片部8cの図示左右方向の両側に形成された(並列芯材部2の端側の)それぞれ計二個の縫合部分,
8gは当該保持体の折返し後に、側片部8bの図示左右方向の両側および中央に形成された(並列芯材部2の非端側の)それぞれ計三個の縫合部分,
「次の8h,8jは図6のみで使用
8hは当該保持体を折り返すことなしに、側片部8bの図示左右方向の両側に形成された(並列芯材部2の端側の)それぞれ計二個の縫合部分,
8jは同じく折り返すことなしに、側片部8cの図示左右方向の両側および中央に形成された(並列芯材部2の非端側の)それぞれ計三個の縫合部分,」
「次の9,10は図9,図10のみで使用
9はアイ部1の一方に直接取り付けられた荷吊り用などの金属リング,
10はアイ部1の他方に直接取り付けられた荷吊り用などのフック,」
をそれぞれ示している。
【0018】
図4(図1〜図3,図5)のスリングは、
(21)先ずカバー体4の未縫合の開口作用部4cから芯糸などを入れていくことにより、エンドレス状にまとめた形の周知の芯材3を当該カバー体の内部に配設し(図1参照)、
(22)この開口作用部4cを縫合部分4dで閉じ(図1参照)、
(23)アイ部1の方からカバー体4の外側に通していって折返し前の各保持体8の互いに対向する方の側片部8cを、並列芯材部2の端部分(アイ部1とのいわばインタフェース部分)にそれぞれ二個の縫合部分8fで取り付け(図3参照)、
(24)次に折返し後の各保持体8のもう一つの側片部8bを並列芯材部2の端よりも内側の部分にそれぞれ三個の縫合部分8gで取り付けた(図4参照)、
態様のものである。
【0019】
なお、カバー体4の中央縫合部分4bを設けるのは、芯材3を当該カバー体の内部に配設する前、配設した後のいずれの段階でもよい。
【0020】
図6のスリングは、
(31)先ずカバー体4の未縫合の開口作用部4cから芯糸などを入れていくことにより、エンドレス状にまとめた形の周知の芯材3を当該カバー体の内部に配設し(図1参照)、
(32)この開口作用部4cを縫合部分4dで閉じ(図1参照)、
(33)アイ部1の方からカバー体4の外側に通していった各保持体8を折り返すことなしに、その互いに遠い方の側片部8bを並列芯材部2の端部分(アイ部1とのいわばインタフェース部分)にそれぞれ二個の縫合部分8hで取り付け、かつ、その互いに対向する方の側片部8cを並列芯材部2の端よりも内側の部分にそれぞれ三個の縫合部分8jで取り付けた(図6参照)、
態様のものである。
【0021】
図8(図7)のスリングは、
(41)先ずアイ部用の一対のカバー体5と並列芯材部用のカバー体6とを縫合しない状態でこれらの中に芯糸などを入れていくことにより、エンドレス状にまとめた形の周知の芯材3を当該各カバー体の内部に配設し、
(42)このカバー体5およびカバー体6をそれぞれ四個の縫合部分7で一体化し、
(43)アイ部1の方からカバー体5の外側に通していって折返し前の各保持体8の互いに対向する方の側片部8cを、並列芯材部2の端部分(アイ部1とのいわばインタフェース部分)にそれぞれ二個の縫合部分8fで取り付け(図3参照)、
(44)次に折返し後の各保持体8のもう一つの側片部8bを並列芯材部2の端よりも内側の部分にそれぞれ三個の縫合部分8gで取り付けた(図8参照)、
態様のものである。これら(43),(44)はそれぞれ上記(23),(24)と同様の内容を示している。
【0022】
なお、以上の中央縫合部分4bおよび、各縫合部分4d,7,8d,8e,8f,8g,8h,8jはいずれもカバー体4,5,6や保持体8のみに対するものである。すなわちこれらのカバー体,保持体の中の芯材3は縫合されていない。
【0023】
本発明が、図1〜図10で示した形のスリングに限定されないことは勿論である。
例えば、
(51)縫合部分8f,8hをそれぞれ縫合部分8g,8jと同じ様に両側と中央の3箇所単位とする、
(52)カバー体4,5,6の芯材3や保持体8の芯材を、縫合部分4d,7,8d,8e,8f,8g,8h,8jなどで当該カバー体や当該保持体に縫合する、
(53)芯材なしの保持体8を用いる、
(54)ベルト状の芯材3(保持体8の芯材)を用いる、
ようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】アイ部および並列芯材部に対する単一のカバー体を用いるタイプであって、当該並列芯材部の端側のカバー体周回範囲のそれぞれに、そこでのカバー体同士の縫合状態の破断を防止するための環状で芯材入りの保持体がまだ取り付けられていない、第1中間状態のスリングを示す説明図である。
【図2】(a)は図1の保持体の断面を示す説明図であり、(b)は図1の並列芯材部の断面を示す説明図である。
【図3】図1の各保持体の折返し前の並列芯材部の端側対応部分のみがそれぞれカバー体周回範囲にその(図示左右方向の)両側の計二箇所で縫合された、第2中間状態のスリングを示す説明図である。
【図4】図3の各保持体の折返し後の並列芯材部の非端側対応部分がそれぞれカバー体周回部分にその図示左右方向の両側および中央の計三箇所で縫合されたソフトタイプのスリング(その1)を示す説明図である。
【図5】図4の並列芯材部の非端側縫合部分の断面を示す説明図である。
【図6】図1の各保持体がそれぞれ折り返されることなく、並列芯材部の端側のカバー体周回部分にその図示左右方向の両側および中央の計五箇所(二列)で縫合されたソフトタイプのスリング(その2)を示す説明図である。
【図7】アイ部に対するカバー体と並列芯材部に対するカバー体とを個々に用いるタイプであって、当該並列芯材部の端側のカバー体周回範囲のそれぞれに環状で芯材入りの保持体がまだ取り付けられていない、中間状態のスリングを示す説明図である。
【図8】図7の各保持体がそれぞれ、図3,図4と同様にその折返し前および折返し後を合わせて、カバー体周回部分にその図示左右方向の両側,中央の計5箇所で縫合されたソフトタイプのスリング(その3)を示す説明図である。
【図9】図4のアイ部のそれぞれに吊り荷作業用などの金具を直接取り付けたソフトタイプのスリング(その4)を示す説明図である。
【図10】図8のアイ部のそれぞれに吊り荷作業用などの金具を直接取り付けたソフトタイプのスリング(その5)を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1:一対のアイ部
1a:ループ開始域となる基端部分
2:並列芯材部(本体部)
3:エンドレス状の芯材
4:単一のカバー体
4a:並列芯材部2の両端側部分の周回範囲
4b:中央縫合部分
4c:開口作用部
4d:縫合部分
〔次の5〜7は図7,図8のみで使用〕
5:アイ部用の一対のカバー体
6:並列芯材部用のカバー体
6a:4aと同様の周回範囲
7:縫合部分
8:環状で芯材入りの保持体
8a:芯材が入っている環状の中間部
8b,8c:芯材が入っていなくて折返し可能な環状の側片部
8d,8eはこの側片部と中間部8aとの間の縫合部分,
8f,8g:縫合部分
〔次の8h,8jは図6のみで使用〕
8h,8j:縫合部分
〔次の9,10は図9,図10のみで使用〕
9:荷吊り用などの金属リング
10:荷吊り用などのフック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー体で覆われ、無端状の芯材の一部が隣り合った状態の並列芯材部とこれに連続する形のループ状のアイ部とからなるスリングにおいて、
前記並列芯材部のカバー体部分は、その中の一方の側の芯材と他方の側の芯材とを区分けする態様で互いに縫合され、
前記並列芯材部の端側部分における前記縫合状態の破断を防止するための保持体が、当該端側部分に対応した前記カバー体の周回範囲に縫合されている、
ことを特徴とするスリング。
【請求項2】
前記カバー体部分および前記保持体は、それぞれ前記芯材から外れた箇所のみで縫合されている、
ことを特徴とする請求項1記載のスリング。
【請求項3】
前記保持体は、
前記アイ部の側では、少なくとも、前記芯材同士の区分けに対応する中央部分の両側の外端部分が縫合され、
前記並列芯材部の側では、前記中央部分および前記両側の外端部分がともに縫合されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載のスリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−162779(P2008−162779A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356093(P2006−356093)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(594100322)豊彰繊維工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】