説明

スルフィニルオキシラン化合物、その製法およびその応用

【課題】スルフィニルオキシラン化合物、その製造方法、および該スルフィニルオキシラン化合物を出発原料として用いる製造法を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物:


[式(1)中、R1はアルキル基またはアリール基である]。ならびに、式(4)で表される化合物を、式(5)で表されるヒドロキシペルオキシド金属塩と反応させるスルフィニルオキシランの製造方法:



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルフィニルオキシラン化合物、その製法およびその応用に関する。さらに詳しくは、本発明は、ファインケミカル用化合物として有用であり、新規化合物であるスルフィニルオキシラン化合物、その製造方法および該スルフィニルオキシラン化合物を原料に用いる、ジオキソラン化合物などの各種誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成においては、大きく分けて二つの研究が存在する。一つは、ある目的物質の効率的な合成経路の研究であり、もう一つは新しい物質を創出する有機合成反応の研究である。
【0003】
後者の新規合成反応の開発は、新規な分子(物質)を創出することで、この新規分子を出発原料として新規合成試薬を提供できる可能性を秘めているといえる。創出された新分子をベースとして、公知物質の新しい合成反応経路の開発に応用したり、あるいは更なる新規誘導体の合成反応の開発に応用したりすることができ、新しい生理活性、機能を有する化合物の合成に役立つものと期待される。
【0004】
そのような観点より、従来、酸化状態の異なる硫黄化学種であるスルフェニル基またはスルフィニル基を有する化合物について種々検討が行われているが、中でも、スルフィニルオキシラン化合物は基本的な(簡単な)構造でありながら合成が困難とされている。
【0005】
例えば、非特許文献1では、例えば、下記式B、7、8、11および12で示すようなスルフィニルオキシラン化合物とその製造方法が開示されている(下記R’はフェニル基(pH)、メチル基(Me)、n-ブチル基(n−Bu)など。下記R1’はp−トリル基(p−tol)、t-ブチル基(t−Bu)。)。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【0009】
【化4】

また、非特許文献2では、例えば、下記のようなスルフィニルオキシランとその製造方法が開示されている。
【0010】
【化5】

【0011】
【化6】

なお、上記化学式において、非特許文献1および非特許文献2に記載された「R」は、本発明における「R」と区別する目的で「R’」と書き換えた。
【0012】
上記の通り、いずれの文献においても、ビニルスルホキシド化合物をヒドロキシペルオキシド金属塩と反応させてスルフィニルオキシラン化合物を製造する方法などが記載されているが、硫黄原子に結合したエポキシ基の炭素原子に結合した原子が水素であるようなスルフィニルオキシラン化合物(たとえば、非特許文献1のSheme1の化合物BにおいてR1、R2が共に水素であるスルフィニルオキシラン化合物)は開示されておらず、現在までにこのような化合物は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Roberto Fernandez de la Pradilla, et al., J. Org. Chem. 1998, 63, 4954-4966。
【非特許文献2】Roberto Fernandez de la Pradilla, et al., J. Org. Chem. 2003, 68, 4797-4805。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、従来製造し得なかった、新規なスルフィニルオキシラン化合物、その製造方法、および該スルフィニルオキシラン化合物を出発原料として用いるスルフィニルオキシラン化合物誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ビニルスルホキシド化合物と特定のヒドロキシペルオキシド金属塩とを、特定の温度で反応させてビニルスルホキシド化合物のエポキシ化を行うことで、目的とするスルフィニルオキシランを効率よくしかも収率よく提供できることを見出した。
【0016】
さらには、本発明者らは、該スルフィニルオキシラン化合物を出発原料として、スルフェニルアセトアルデヒド化合物やスルフェニル基含有へテロ環化合物を効率よく製造できることをも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
本発明に係るスルフィニルオキシラン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、スルフィニルオキシラン化合物(1)とも言う。)である。
【0018】
【化7】

式(1)中、R1は分岐していてもしていなくてもよいアルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。
【0019】
上記スルフィニルオキシラン化合物(1)は、製造の容易性などの点を考慮すると、上記一般式(1)においてR1がフェニル基である化合物であることが好ましい。
なお、上記一般式(1)の「→」は「二重結合」であるが、通常、硫黄原子上の電子が酸素原子上に吸引されて分布していることを示す目的で該二重結合を矢印で表すことが一般的であるため、本明細書でも該二重結合を矢印で示す。
【0020】
また、本発明に係る上記スルフィニルオキシラン化合物(1)の製造方法は、下記一般式(4)で表されるビニルスルホキシド化合物を、反応温度−20℃以下の条件下で、下記一般式(5)で表されるヒドロキシペルオキシド金属塩と反応させることを特徴とする。
【0021】
【化8】

式(4)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じである。
【0022】
【化9】

式(5)中、R2は、アルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。Mはアルカリ金属原子である。
【0023】
スルフィニルオキシラン化合物(1)を製造する上記反応は、通常常圧条件下で進行するが、収率や使用する溶媒の蒸気圧などの点を考慮して、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で加圧下あるいは減圧下で行なってもよい。また、スルフィニルオキシラン化合物(1)の収率および作業操作の容易性を考慮すると、同じく上記反応は、反応温度−100〜−20℃の温度範囲で行うことが好ましく、−90〜−20℃の温度範囲で行うことがより好ましく、−78℃付近(±5℃前後)が特に好ましい。
【0024】
上記ヒドロキシペルオキシド金属塩のMは、スルフィニルオキシラン化合物(1)の収率を考慮すると、ナトリウム原子またはカリウム原子であることが好ましく、カリウム原子であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明に係る下記一般式(2)で表されるスルフェニルアセトアルデヒド化合物の製造方法は、上記スルフィニルオキシラン化合物(1)と下記一般式(7)で表されるスルフェニル化合物とを反応させることを特徴とする。
【0026】
【化10】

式(2)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じである。
【0027】
【化11】

式(7)中、R3はアルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。
【0028】
収率や使用する溶媒の蒸気圧などの点を考慮すると、スルフィニルオキシラン化合物(1)とスルフェニル化合物との反応は、通常常圧条件下で進行するが、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で加圧下あるいは減圧下で行なってもよい。また、同じく反応温度は、反応が進行する限り特に制限されないが、収率および実験操作の容易性を考慮すると、反応温度25〜100℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0029】
そして、下記一般式(3)で表されるスルフェニル基含有へテロ環化合物の製造方法は、上記スルフィニルオキシラン化合物(1)と上記スルフェニル化合物(7)とを反応させ、次いで、(上記に示したように)得られたスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)と下記一般式(8)で表されるジヘテロ原子置換アルキレン化合物とを反応させることを特徴とする。
【0030】
【化12】

式(3)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じである。R4はアルキレン基であり、置換基を有していてもいなくてもよい。Xは、酸素原子または硫黄原子である。
【0031】
【化13】

式(8)中、R4は上記一般式(3)のR4と同じである。Xは上記一般式(3)のXと同じである。
【0032】
スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)とジヘテロ原子置換アルキレン化合物(8)との反応は、通常常圧条件下で行うことができるが、スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)の収率や使用する溶媒の蒸気圧などの点を考慮して、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で加圧下あるいは減圧下で行ってもよい。また、同じく反応温度は、反応が進行する限り特に制限されないが、収率および作業操作の容易性を考慮すると、反応温度80〜120℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、従来製造できなかった新規なスルフィニルオキシラン化合物を提供することができる。しかも、本発明によれば、複雑な装置や複雑な反応条件を必ずしも必要とせずに、上記スルフィニルオキシラン化合物を僅か一工程の簡便な製造方法で、効率よく高収率を以って提供することができる。
【0034】
そして、本発明によれば、上記スルフィニルオキシラン化合物(1)から,その誘導体であるスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)やスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を効率よく提供することができる。
【0035】
これら化合物(1)、(2)、(3)は、医薬品・染料・香料等に代表されるような、多品種・少量生産で付加価値の高い複雑な化学構造の化学製品を製造するための化合物(ファインケミカル用化合物)として有用である。
【0036】
また、スルフィニルオキシラン化合物(1)は、上記化合物の製造時に、極性の逆転したエタナールα−カチオンシントンとして活用できる点でも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、合成例1で合成したフェニルビニルスルホキシドの1H−NMRのチャート図である。
【図2】図2は、合成例1で合成したフェニルビニルスルホキシドの13C−NMRのチャート図である。
【図3】図3は、実施例1で合成したフェニルスルフィニルオキシランの1H−NMRのチャート図である。
【図4】図4は、実施例1で合成したフェニルスルフィニルオキシランの13C−NMRのチャート図である。
【図5】図5は、実施例5で合成した2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキソラン(2−((Phenyltio)methyl)−1,3−dioxirane)の1H−NMRのチャート図である。
【図6】図6は、実施例5で合成した2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキソラン(2−((Phenyltio)methyl)−1,3−dioxirane)の13C−NMRのチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る新規なスルフィニルオキシラン化合物とその製造方法、および該スルフィニルオキシラン化合物の誘導体であるスルフェニルアセトアルデヒド化合物およびスルフェニル基含有へテロ環化合物の製造方法について、それぞれの最良の形態を具体的に説明する。
【0039】
<スルフィニルオキシラン化合物(1)>
本発明に係る新規な化合物は、下記一般式(1)で表されるスルフィニルオキシラン化合物である。
【0040】
【化14】

式(1)中、R1は分岐していてもしていなくてもよいアルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。置換基としては、アルキル基、ハロゲン基(中でも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい)などが挙げられる。
【0041】
置換基を有さないアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプシル基およびオクチル基などの炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。
【0042】
置換基を有するアルキル基としては、例えば、上記アルキル基のハロゲン化アルキル基(フルオロメチル基、クロロメチル基など)が挙げられる。
置換基を有さないアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
【0043】
置換基を有するアリール基としては、例えば、上記アリール基のアルキル化アリール基(トリル基(すなわちメチルフェニル基)、エチルフェニル基など。アルキル基は先の例示に同じ。)、ハロゲン化アリール基(フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基など。ハロゲン基は先の例示に同じ。)およびニトロ化アリール基(ニトロフェニル基など)が挙げられる。
【0044】
このような化合物(1)としては、具体的には、式(1)中、R1がフェニル基であるフェニルスルフィニルオキシランが好ましい。
上記スルフィニルオキシラン化合物(1)は、スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)、スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)の製造用原料のみならず、エタナール骨格を有する化合物、天然物および工業原料などの製造用原料としても好適に使用できる。また、該化合物(2)および化合物(3)は、アルキル基やアリール基(先に記載したもの)を有する種々の非対称ケトン、エタナール骨格を有する天然化合物などの製造に有用である。
【0045】
また、上記スルフィニルオキシラン化合物(1)は、上記アルキル基やアリール基(先に記載したもの)を有する種々の非対称ケトン、エタナール骨格を有する天然化合物の製造に有用な、極性の逆転したエタナールα−カチオンシントンとして活用できる点でも有用であり、また、ファインケミカル用(原料など)の化合物として有用である。
【0046】
<スルフィニルオキシラン化合物の誘導体(スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)、スルフェニル基含有へテロ環化合物(3))>
上記スルフィニルオキシラン化合物(1)からは、例えば、下記一般式(2)で表されるスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)を製造することができる。
【0047】
【化15】

式(2)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じであり、一般式(2)のR1は上記一般式(1)のR1に対応する。
【0048】
このような化合物(2)としては、具体的には、式(2)中、R1がフェニル基であるフェニルチオアセトアルデヒドが挙げられ、その他にも、R1がメチル基であるメチルチオアセトアルデヒドおよびR1がt−ブチル基であるt−ブチルチオアセトアルデヒドなどのアルキルチオアセトアルデヒドが挙げられる。
【0049】
このスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)は、下記スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を誘導するための(反応)中間体などとしても利用される。
さらに、上記スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)からは、例えば、下記一般式(3)で表されるスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を製造することができる。
【0050】
【化16】

式(3)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じであり、一般式(3)のR1は上記一般式(1)のR1に対応する。R4は、アルキレン基であり、直鎖または分岐状の炭素数2〜8のアルキレン基が好ましく、中でもエチレン基、プロピレン基がより好ましい。Xは、酸素原子または硫黄原子である。
【0051】
なお、式3におけるX−R4−Xをつなぐ円弧の表記は、−C−X−R4−X−の部分が環状であることを示している。例えば、R4がエチレン基、Xが酸素であれば、ジオキソラン環を表し、R4がプロピレン基、Xが酸素であれば、ジオキサン環を表す。また、例えば、R4がエチレン基、Xが硫黄であれば、ジチオラン環を表し、R4がプロピレン基、Xが硫黄であれば、ジチアン環を表す。
【0052】
このようなスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)としては、具体的には、
2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキソラン(R1:フェニル基、R4:エチレン基(Y=Z=水素、n=2)、X:酸素原子)、2−((tert−ブチルチオ)メチル)−1,3−ジオキソラン(R1:t−ブチル基、R4:エチレン基(Y=Z=水素、n=2)、X:酸素原子)、2−((メチルチオ)メチル)−1,3−ジオキソラン(R1:メチル基、R4:エチレン基(Y=Z=水素、n=2)、X:酸素原子)などのスルフェニル基含有ジオキソラン化合物;
2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキサン(R1:フェニル基、R4:プロピレン基(Y=Z=水素、n=3)、X:酸素原子)、2−((tert−ブチルチオ)メチル)−1,3−ジオキサン(R1:t−ブチル基、R4:プロピレン基(Y=Z=水素、n=3)、X:酸素原子)、2−((メチルチオ)メチル)−1,3−ジオキサン(R1:メチル基、R4:プロピレン基(Y=Z=水素、n=3)、X:酸素原子)などのスルフェニル基含有ジオキサン化合物;
2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジチオラン(R1:フェニル基、R4:エチレン基(Y=Z=水素、n=2)、X:硫黄原子)、2−((tert−ブチルチオ)メチル)−1,3−ジチオラン(R1:t−ブチル基、R4:エチレン基(Y=Z=水素、n=2)、X:硫黄原子)および2−((メチルチオ)メチル)−1,3−ジチオラン(R1:メチル基、R4:エチレン基(Y=Z=水素、n=2)、X:硫黄原子)などのスルフェニル基含有ジチオラン化合物;および
2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジチアン(R1:フェニル基、R4:プロピレン基(Y=Z=水素、n=3)、X:硫黄原子)、2−((tert−ブチルチオ)メチル)−1,3−ジチアン(R1:t−ブチル基、R4:プロピレン基(Y=Z=水素、n=3)、X:硫黄原子)および2−((メチルチオ)メチル)−1,3−ジチアン(R1:メチル基、R4:R4:プロピレン基(Y=Z=水素、n=3)、X:硫黄原子)などのスルフェニル基含有ジチアン化合物;
などが挙げられる。
【0053】
上記スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)は、上述のような、ファインケミカル用の化合物(原料など)として有用である。
【0054】
<スルフィニルオキシラン化合物(1)の製造方法>
本発明のスルフィニルオキシラン化合物(1)は、下記のように、下記一般式(4)で表されるビニルスルホキシド化合物(4)と、下記一般式(5)で表されるヒドロキシペルオキシド金属塩(5)とを、特定の温度範囲で反応させて、該ビニルスルホキシド化合物をエポキシ化することで製造することができる。
【0055】
また、スルフィニルオキシラン化合物(1)を製造する上記反応は、通常常圧条件下で行うことが好ましいが、スルフィニルオキシラン化合物(1)の収率や使用する溶媒の蒸気圧などの点を考慮して、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で加圧あるいは減圧してもよい。また、収率および実験操作の容易性を考慮すると、同じく上記反応は、反応温度−100〜−20℃の温度範囲で行うことが好ましく、−90〜−20℃の温度範囲で行うことが特に好ましくは、−78℃付近(±5℃程度)が最も好ましい。
【0056】
さらに、この反応の際には、必要により、触媒及び/又は溶媒(例:トルエン等の有機溶媒)を用いることができる。
【0057】
【化17】

式(4)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じであり、一般式(4)のR1は上記一般式(1)のR1に対応する。
【0058】
式(5)中、R2は、アルキル基、またはアリール基である。これらのアルキル基、アリール基は、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。アルキル基としては好ましくは、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基(具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基など)が挙げられる。アリール基としては、好ましくはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、クミル基などが挙げられる。これらの中では、R2がt−ブチル基またはα−クミル基であるものが、反応性に優れることや入手が容易であること等の点で好ましい。
【0059】
式(5)中、Mはアルカリ金属原子であり、例えば、Li、Na、Kなどが挙げられる。
このようなヒドロキシペルオキシド金属塩(5)として、具体的には、例えば、R2がt−ブチル基でありMがLiである、リチウムt−ブチルヒドロキシペルオキシド、R2がt−ブチル基でありMがNaである、ナトリウムt−ブチルヒドロキシペルオキシド、R2がt−ブチル基でありMがKである、カリウムt−ブチルヒドロキシペルオキシドなどが挙げられる。これらのうちでは、原料入手の容易性、化学的安定性、取扱いの安全性、安価であるなどの観点より、リチウムt−ブチルヒドロキシペルオキシド、ナトリウムt−ブチルヒドロキシペルオキシド、カリウムt−ブチルヒドロキシペルオキシドが好ましく用いられる。さらには、上記に加えてスルフィニルオキシラン化合物(1)の収率の観点より、より好ましくはナトリウムt−ブチルヒドロキシペルオキシドあるいはカリウムt−ブチルヒドロキシペルオキシドが用いられ、特に好ましくはカリウムt−ブチルヒドロキシペルオキシドが用いられる。
【0060】
ビニルスルフィド化合物(6)を出発原料とする場合のスルフィニルオキシラン化合物(1)の製造
なお、上記スルフィニルオキシラン化合物(1)製造用の原料であるビニルスルホキシド化合物(4)は、下記一般式(6)で表されるビニルスルフィド化合物(6)から下記の工程を経て製造することができる。
【0061】
【化18】

式(6)、(4)、(1)中、R1は、前記に同じ。
【0062】
以上の通り、本発明では、必要に応じて行われる第1工程では、ビニルスルフィド化合物(6)を過酸化物(PO)で酸化してビニルスルホキシド化合物(4)を製造し(任意工程)、次いで、
第2工程では、得られた該ビニルスルホキシド化合物(4)とヒドロキシペルオキシド金属塩(5)とを、上記温度で反応させて該ビニルスルホキシド化合物(4)をエポキシ化する(本工程)ことで、目的のスルフィニルオキシラン化合物(1)を製造することができる。
【0063】
これら第1工程(任意工程)、第2工程(本工程)の反応では、それぞれ、必要により触媒及び/又は溶剤(溶媒)を用いてもよい。
なお、スルフィニルオキシラン化合物(1)を製造するにあたり、製造効率の観点から、工程数は少ない方がよいが、本発明の目的を損なわない限り、目的に応じて上記以外の工程を加えてもよい。
以下、任意工程(第1工程)、本工程(第2工程)について、順に、より具体的に説明する。
【0064】
[任意工程]
上記任意工程における出発原料であるビニルスルフィド化合物(6)は、下記一般式(6)で表される化合物である。
【0065】
【化19】

式(6)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じであり、一般式(6)のR1は上記一般式(1)のR1に対応する。
【0066】
ビニルスルフィド化合物(6)
このようなビニルスルフィド化合物(6)としては、例えば、フェニルビニルスルフィド、メチルビニルスルフィド、オクチルビニルスルフィドなどが挙げられ、中でも反応の容易さなどの観点から、フェニルビニルスルフィド、メチルビニルスルフィドが好ましく、フェニルビニルスルフィドがより好ましい。
これらビニルスルフィド化合物(6)は、例えば従来法によって製造してもよいし、市販のものを使用してもよい。
【0067】
過酸化物(PO)
ビニルスルフィド化合物(6)と反応させる過酸化物(PO)としては、例えば、メタクロロ過安息香酸、過安息香酸および過酢酸などの過酸化物などが挙げられ、中でも入手の容易さや反応の容易さなどの観点から、メタクロロ過安息香酸、過酢酸が好ましく、メタクロロ過安息香酸がより好ましい。
【0068】
これら過酸化物(PO)は、例えば、従来法によって製造してもよいし、市販のものを入手することもできる。
上記過酸化物(PO)は、ビニルスルフィド化合物(6)1molに対して、通常1.0〜1.5molの量で用いられ、さらに、高次酸化物であるスルホン誘導体の生成を防ぐなどの観点から、過酸化物(PO)は、ビニルスルフィド化合物(6)1molに対して、ほぼ当mol(1±0.2mol程度)の量で用いられることが好ましい。
【0069】
触媒・溶媒、反応条件など
上記反応においては、反応効率を高めたり、反応速度を制御したりするなどの観点より、触媒や溶媒を用いてもよい。
【0070】
触媒としては、例えば、酢酸、安息香酸などのカルボン酸、メタンスルホン酸、P−トルエンスルホン酸などのスルホン酸などの酸触媒などを使用し得る。
触媒は、ビニルスルフィド化合物(6)100質量部に対して、必要により、触媒量で、例えば、3〜30質量部程度の量で用いてもよい。
【0071】
該溶媒としては、例えば、ジクロロメタン(メチレンクロライド)、クロロホルムなどのハロゲン化アルキル化合物や、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物などが挙げられ、収率の観点からは、ジクロロメタン、クロロホルムが好ましい。
【0072】
該溶媒は、ビニルスルフィド化合物(6)と過酸化物(PO)の合計量(100質量部とする)に対して、通常、3〜60質量部の量で用いられる。これら溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
上記反応は、通常常圧(大気圧に等しい圧力。約1気圧)下で行われるが、必要に応じて、加圧下あるいは減圧下(例えば、常圧(1気圧)±0.3気圧程度)で行なってもよい。
【0074】
上記反応は、通常、0℃以下、好ましくは−50℃〜0℃の温度範囲で行われる。このような温度範囲であると、目的物が高収率で得られるなどの点で好ましい。
上記反応は、目的物が得られる限り特に制限はされないが、好ましくは3分間〜1時間で行われる。このような反応時間であると、優れた収率で目的物を得られるなどの点で好ましい。
【0075】
このようにして、目的とするビニルスルホキシド化合物(4)を得ることができる。
上記方法により得られた製造物(反応混合物)がビニルスルホキシド化合物(4)とその他化合物の混合物であった場合などには、該ビニルスルホキシド化合物(4)は、例えば、次の方法で回収することもできる。
【0076】
反応の際に用いた、過剰の過酸化物(PO)は、チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸金属塩などを加えて除去することが望ましい。
次いで、通常、得られた反応混合物を中和する。
【0077】
中和剤としては、金属炭酸塩(アルカリ金属炭酸塩が好ましい)が挙げられるが、これらの中でも、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどが、中和効率などの観点より好ましい。中和剤をこれらの水溶液として用いる場合は、飽和水溶液であることが中和効率の点から望ましい。上記中和反応の反応条件は、目的に応じた中和が実施される限り特に制限はないが、好ましくは、常圧下(必要に応じて加圧あるいは減圧してもよい)、0〜40℃の温度範囲で行う。
【0078】
上記反応混合物からのビニルスルホキシド化合物(4)の回収は、目的に応じて回収方法を適宜選択して行えばよい。例えば、上記混合物に必要に応じて水を加え、次いでクロロホルムなどのハロゲン化アルキル化合物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、酢酸エチルなどのエステル化合物などの有機溶媒で水層からビニルスルホキシド化合物(4)を抽出するなどの処理をする。このような抽出処理の実施は、得られるビニルスルホキシド化合物(4)の純度が向上するなどの観点から好ましい。
【0079】
上記抽出操作後、得られた有機層は、必要に応じて無水硫酸マグネシウムなどに代表される金属硫酸化物塩などの乾燥剤で乾燥して、乾燥剤をろ過などにより分離、除去し、次いで、クロマトグラフィー(薄層クロマトグラフィー(TLC)、カラムクロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなど)などにより精製することが、得られるビニルスルホキシド化合物(4)の純度などの観点から好ましい。
【0080】
カラムクロマトグラフィーは、例えば、充填剤にはカラムクロマトグラフィー用シリカゲル60N(関東化学社製)などを用いて、展開溶媒には、通常、酢酸エチル、ヘキサンなどの有機溶媒を用いて行えばよい。その他条件(カラム温度、流出速度、pHなど)については従来法を参照して行えばよい。
【0081】
このようにして、ビニルスルホキシド化合物(4)を、好ましくは、純度97〜100%、収率90%以上(例えば90〜95%)で得ることができる。
得られたビニルスルホキシド化合物(4)は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)、赤外吸収分光法(IR)、質量分析法(MS)などの分析方法によって、確認することができる。
【0082】
NMRを例にとれば、その測定は従来法を参照して行えばよく、例えば、通常、室温(通常25℃、特に断りがない限り以下同じ。)で重クロロホルム(CDCl3)などの重水素溶媒を用いて行い、通常、溶媒ピークを基準ピークとする。
【0083】
[本工程]
本工程では、下記一般式(4)で表されるビニルスルホキシド化合物(4)のエポキシ化反応を、下記一般式(5)で表されるヒドロキシペルオキシド金属塩(5)の存在下、特定の温度で行い、目的とするスルフィニルオキシラン化合物(1)を製造する。
一般式(4)で表されるビニルスルホキシド化合物は、具体的には次の通りである。
【0084】
【化20】

式(4)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じであり、一般式(4)のR1は上記一般式(1)のR1に対応する。
【0085】
上記ビニルスルホキシド化合物としては、例えば、R1がフェニル基のフェニルビニルスルホキシド、R1がメチル基のメチルビニルスルホキシド、R1がオクチル基のオクチルフェニルビニルスルホキシドなどが挙げられ、中でも、反応の容易さなどの観点から、フェニルビニルスルホキシド、メチルビニルスルホキシドが好ましく、さらには、反応の容易さばかりでなく入手の容易さなどの観点から、フェニルビニルスルホキシドがより好ましい。
【0086】
これらビニルスルホキシドは、例えば前記した任意工程に記載の製造方法により製造して用いてもよいし、Aldrich Chemical company社製フェニルビニルスルホキシドなどのような市販のものを入手して用いてもよい。
【0087】
一般式(5)で表されるヒドロキシペルオキシド金属塩(5)は、具体的には次の通りである。
【0088】
【化21】

式(5)中、R2は、アルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。置換基としては、アルキル基、ハロゲン基などが上げられる。R2としては、具体的には、t−ブチル基(t−Bu)、α-クミル基(2−フェニルプロパン−2−イル基)などが挙げられる。
【0089】
なお、上記R2は、式(1)のR1と同じ基であってもなくてもよい。
式(5)中、Mはアルカリ金属原子であり、例えば、Li、Na、Kなどが挙げられる。
【0090】
上記ヒドロキシペルオキシド金属塩(5)としては、例えば、ナトリウムtert−ブチルヒドロキシペルオキシド、カリウムtert−ブチルヒドロキシペルオキシド、リチウムtert−ブチルヒドロキシペルオキシド、リチウムクメンヒドロキシペルオキシド、ナトリウムクメンヒドロキシペルオキシド、カリウムクメンヒドロキシペルオキシドなどが挙げられ、中でも、収率や入手の容易さの観点から、ナトリウムtert−ブチルヒドロキシペルオキシド、カリウムtert−ブチルヒドロキシペルオキシドが好ましく、カリウムtert−ブチルヒドロキシペルオキシドがより好ましい。
【0091】
これらヒドロキシペルオキシド金属塩(5)は、例えば、「J.Chem.Sec.,chem.commun,1378−1380(1986).」に記載された製法によって製造することができる。
【0092】
すなわち、上記ヒドロキシペルオキシド金属塩(5)を該文献によって製造する場合は、例えば、R5OOHで表されるヒドロペルオキシド化合物(R5はt−Bu基、クメニル基などであり、式(5)のR2と同じであってもなくてもよい。)と、R2Li、R2ONa、R2OKなどの塩基性化合物(R2は式(5)のR2に対応)とを、通常窒素置換雰囲気下で、上記文献に記載の反応圧力、反応温度、反応時間を適用して反応させることで、R5−O−O−Mで表される所望のヒドロキシペルオキシド金属塩を製造することができる。
【0093】
上記塩基は、上記ペルオキシド化合物1molに対して、通常0.8〜1.5molの量で用いられる。該反応は、シリンジなどを用いて、上記塩基性化合物に上記ヒドロペルオキシド化合物を溶解させた有機溶媒をゆっくり滴下するなどして行うことが望ましい。
【0094】
上記反応は、ビニルスルホキシド化合物(4)とヒドロキシペルオキシド金属塩(5)との反応を行う反応容器(A)とは、別途の容器(B)で行なってもよいが、上記ヒドロペルオキシド化合物と塩基性化合物との反応を反応容器(A)で行い、次いで同じ容器(A)内で得られたヒドロキシペルオキシド金属塩(5)とビニルスルホキシド化合物(4)とを反応させることが、製造効率の観点より好ましい。
【0095】
上記のようにしてヒドロキシペルオキシド金属塩(5)をビニルスルホキシド化合物(4)と反応させて、目的とするスルフィニルオキシラン化合物(1)を製造する。
ヒドロキシペルオキシド金属塩(5)は、ビニルスルホキシド化合物(4)1molに対して、通常1〜1.8molの量で用いられ、さらに、収率の観点から、1〜1.5molの量で用いられることが好ましい。
【0096】
上記反応においては、反応効率を高めたり、反応速度を制御したりするなどの観点より、溶媒(例えば、ジクロロメタン、トルエン、テトラヒドロフランなどの有機溶媒が挙げられ、溶解性の観点からは、ジクロロメタン、テトラヒドロフランが好ましい)を用いてもよい。
【0097】
該本工程の反応(ビニルスルホキシド化合物(4)のエポキシ化反応)は、急激な温度上昇などを避けるなどの観点から、シリンジなどを用いて、ビニルスルホキシド化合物を溶解させた有機溶媒を、ヒドロキシペルオキシド金属塩を含む液にゆっくり滴下するなどして、反応させることが望ましい。
【0098】
上記本工程反応は、通常常圧下で行われるが、必要に応じて、加圧下あるいは減圧下で行なってもよい。
上記本工程反応は、通常、−20℃以下、好ましくは−100〜−20℃、より好ましくは−90〜−20℃、特に好ましくは−78℃付近(±5℃前後)の温度範囲で行われる。このような温度範囲であると、得られるスルフィニルオキシラン化合物(1)の収率が上昇するなどの点で好ましい。
【0099】
温度が−20℃以下であると、スルフィニルオキシラン化合物(1)が高収率で得られる。その理由は定かではないが、(ビニルスルフィド化合物(6)やビニルスルホキシド化合物(4)の)ビニルスルフィド骨格が1、4−付加が可能な構造であるため、温度が規定温度より高いと過酸化物のビニルスルフィド骨格への1、4−付加が優先し、塩基で活性化されたペルオキシラートアニオンがビニル基に付加する反応が生じる傾向にあるためと推察される。
【0100】
上記本工程反応は、目的とするスルフィニルオキシラン化合物(1)が得られる限り特に制限されないが、好ましくは、30分間〜2時間で行われる。
このようにして、目的とするスルフィニルオキシラン化合物(1)を得ることができる。
【0101】
上記方法により得られた製造物(反応物)が、スルフィニルオキシラン化合物(1)とその他化合物の混合物であった場合などには、該スルフィニルオキシラン化合物(1)は、例えば、次のように回収することもできる。
【0102】
過剰のヒドロキシペルオキシド金属塩は、チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸金属塩などを加えて処理することが望ましい。
次いで、ジエチルエーテルなどの有機溶媒を得られた混合物に加え、必要に応じて攪拌などをしながら、通常0.5〜2時間かけて、内温をゆっくりと通常室温付近の温度(通常0〜25℃程度)に戻す。
【0103】
次いで、例えばセライトろ過などにより、液中の固形分を分離、除去し、次いで、得られたろ液を前記したのと同じ条件でクロマトグラフィー(先に例示したものと同じものがここでも例示される)、再結晶などにより精製することが、純度などの観点から好ましい。
【0104】
このようにして、スルフィニルオキシラン化合物(1)を、好ましくは、純度90%以上(例えば95〜99%)、収率40%以上(例えば40〜60%)で得ることができる。なお、反応の処理をより迅速に行い、カラムクロマトグラフィーに用いるシリカゲルの性能を向上する、溶出溶媒をより適切ものを用いるさらにフラッシュカラムクロマトグラフィー法を用いるなど行などすることで、純度や収率をさらに向上させることができることもある(例えば、純度97〜99%、収率60〜70%)。
【0105】
得られたスルフィニルオキシラン化合物(1)は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)、赤外吸収分光法(IR)、質量分析法(MS)などの分析方法によって、確認することができる。
測定条件などは、任意工程の項で説明した条件を採用すればよい。
【0106】
<スルフィニルオキシラン化合物(1)の誘導体としての、スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)やスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)の製造>
上記のようにして得られたスルフィニルオキシラン化合物(1)からは、下記のように、例えば、一般式(2)で表されるスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)や、下記一般式(3)で表されるスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を製造することができる。
【0107】
(イ)スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)の製造
下記は、本発明のスルフィニルオキシラン化合物(1)と、一般式(7)で表されるスルフェニル化合物(7)とを反応させて、スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)を製造する例である。この際には、反応効率等の観点から、触媒や溶媒を用いてもよい。
【0108】
【化22】

一般式(7)で表されるスルフェニル化合物は次の通りである。
【0109】
【化23】

式(7)中、R3はアルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。置換基としては、アルキル基、ハロゲン基などが上げられる。
【0110】
置換基を有さないアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプシル基およびオクチル基などの炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。
【0111】
置換基を有するアルキル基としては、例えば、i-プロピル、sec−ブチル基tert−ブチル基が挙げられる。
置換基を有さないアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、2,4,6-トリメチルフェニル基が挙げられる。
【0112】
置換基を有さないアリール基としては、例えば、フリル基が挙げられる。
上記R3は、式(1)のR1と同じ基であってもなくてもよい。
上記スルフェニル化合物(7)として、具体的には、例えば、プロパンチオール、チオフェノールなどが挙げられ、入手の容易さの点などから、チオフェノールが好ましい。
【0113】
上記反応により対応するスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)が得られるが、このようなスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)として、具体的には、例えば、3-フェニルチオアセタールアルデヒドなどが挙げられる。
【0114】
触媒、溶媒、反応条件など
このスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)の製造方法において、触媒としては、必要により、ピリジン,2,6−ルチジン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基が用いられ、また、上記溶媒としては、一般の有機溶媒、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族化合物が用いられ、必要により、ピリジン(有機塩基兼用)などが用いられる。
【0115】
反応条件は、目的とするスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)が得られる限り特に制限されないが、反応温度は、80〜100℃が好ましく、また、触媒存在下であれば、反応温度は、10〜25℃でも可能である。反応時間はスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)が得られる限り特に制限されず、反応圧力は通常常圧(必要により加圧下あるいは減圧下としてもよい)である。
【0116】
このようにして、前段(イ)で目的とするスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)を製造することができる。
ここで得られた製造物(反応物)が、スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)とその他化合物の混合物であった場合などには、該スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)は、例えば、次のように回収することもできる。
【0117】
例えば、塩化アンモニウムなどの塩基性物質の飽和水溶液などを用いて、前段の反応(イ)にて得られた混合物(反応物)を中和し、ジエチルエーテル、ジクロロメタンなどの有機溶媒を用いて、水層よりスルフェニルアセトアルデヒド化合物を有機溶媒層へ抽出する。
【0118】
次いで、得られた有機層に無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウムなどの無水金属硫酸塩などの乾燥剤を加えて乾燥処理し、次いで、ろ過により固形物を分離、除去する。
次いで、得られたろ液を減圧濃縮して、濃縮残物として目的のスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)を含む製造物を得る。
【0119】
上記のようにして得られた製造物は、スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)以外の成分を含む混合物であるが、該液中にスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)が含まれていることは、NMR測定、IR測定、MS測定などにより確認することができる。
【0120】
上記スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)は、エチレングリコールなどのジヘテロ原子置換アルキレン化合物(8)と反応させることで、スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を製造することができる(後段の反応(ロ))。
【0121】
換言すれば、上記スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)は、次に述べる、その誘導体であるスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)として単離できる。
【0122】
(ロ)スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)の製造
また、下記は、上記反応(イ)(スルフィニルオキシラン化合物(1)とスルフェニル化合物(7)との反応:反応(イ))に次いで、得られた生成物(スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2))に、一般式(8)で表されるジヘテロ原子置換アルキレン化合物(8)を反応(反応(ロ))させてスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を製造する例である。
【0123】
スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)とジヘテロ原子置換アルキレン化合物(8)との反応の際には、必要により、触媒や溶媒を用いてもよい。
【0124】
【化24】

一般式(8)で表されるジヘテロ原子置換アルキレン化合物は次の通りである。
【0125】
【化25】

式(8)中、R4は、上記一般式(3)のR4と同じであり、一般式(4)のR4は上記一般式(1)のR4に対応する。酸素原子または硫黄原子であるXは、上記一般式(3)のXと同じであり、一般式(4)のXは上記一般式(1)のXに対応し、式(8)の化合物がジオールまたはジチオールであることを示している。
【0126】
上記製法について、具体的には次の通りである。
上記前段のスルフィニルオキシラン化合物(1)と上記スルフェニル化合物(7)との反応(イ)は、前述した通りである。
【0127】
上記反応(ロ)においては、必要に応じて、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒などの触媒を触媒量用いてもよい。
ジヘテロ原子置換アルキレン化合物(8)のスルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)1molに対する量は、目的とするスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)が得られる限り特に制限されない。
【0128】
上記反応においては、反応効率を高めたり、反応速度を制御したりするなどの観点より、溶媒を用いてもよい。
該溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族化合物などの有機溶媒が挙げられ、スルフェニルアセトアルデヒド化合物(2)およびジヘテロ置換アルキレン化合物(8)が析出せず、攪拌などに支障のでない粘度になるような量で用いられる。これら溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0129】
上記反応(ロ)は、通常常圧下で行われるが、必要に応じて、加圧下あるいは減圧下で行なってもよい。
上記反応(ロ)は、目的とするスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)が得られる限り特に制限されないが、好ましくは80〜120℃、より好ましくは80〜100℃の温度範囲で行われる。このような温度範囲であると、得られるスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)の収率が向上するなどの点で好ましい。該反応は、Dean−strak装置などを用いて、加熱還流しながら行なうことが、反応を阻害する水を有機溶媒と共沸させて反応系外へ除去できる観点などから好ましい。
【0130】
上記反応(ロ)は、好ましくは60分間〜5時間で行われる。このような反応時間であると、先の方法で水を除去し、平衡を生成物の方へ傾けられるなどの点で好ましい。
このようにして、目的とするスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を製造できる。
【0131】
上記方法により得られた製造物が、スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)とその他化合物の混合物であった場合などには、該スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)は、例えば、次のように回収することもできる。
【0132】
例えば、炭酸水素ナトリウムなどの塩基性物質の飽和水溶液などで、反応(ロ)で得られた混合物を中和し、ジエチルエーテル、ジクロロメタンなどの有機溶媒を用いて、水相よりスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を有機溶媒層へ抽出する。
【0133】
次いで、得られた有機層に無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウムなどの無水金属硫酸塩などの乾燥剤を加えて乾燥処理し、次いで、ろ過により固形物を分離、除去する。次いで、得られたろ液を減圧濃縮して、濃縮液を得る。
【0134】
得られた濃縮液を、例えば、前述した条件でクロマトグラフィー(先の例示に同じ)、再結晶などにより精製することが、純度などの観点から好ましい。
このようにして、スルフェニル基含有へテロ環化合物(3)を、好ましくは、純度90%以上(例えば95〜99%)、収率60%以上(例えば60〜70%)で得ることができる。なお、反応の処理をより迅速に行い、カラムクロマトグラフィーに用いるシリカゲルの性能を向上させる、溶出溶媒をより適切ものを用いるさらにフラッシュカラムクロマトグラフィー法を用いるなどすれば純度や収率をさらに向上させることができることもある(例えば、純度97から99%、収率70〜80%)。
【0135】
得られたスルフェニル基含有へテロ環化合物(3)は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)、赤外吸収分光法(IR)、質量分析法(MS)などの分析方法によって、確認することができる。
測定条件などは、任意工程の項で説明した条件を採用すればよい。
【0136】
[用途]
本発明のスルフィニルオキシラン化合物(1)は、例えば、医薬品、農薬、化粧品などのファインケミカル用化合物として有用である。
【実施例】
【0137】
以下、実施例および比較例を参照しながら本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0138】
[原料]
下記合成例、実施例および比較例で使用した化合物は次の通りである。
【0139】
テトラヒドロフランは、市販のテトラヒドロフランをモレキュラーシーブス4Aで一日乾燥処理し、次いで、乾燥処理したテトラヒドロフランに金属ナトリウムとベンゾフェノンを加えて還流し、次いで、蒸留して得たものを直ちに使用した。
【0140】
ジエチルエーテルは、市販のジエチルエーテルをテトラヒドロフランと同様の処理をして使用した。
ベンゼンは、市販のベンゼンに五酸化二リンを加えて還流し、次いで蒸留して得たものを使用した。
【0141】
トルエン及び塩化メチレンは、市販のトルエンおよび塩化メチレンをそれぞれベンゼンと同様の処理をして使用した。
チオフェノールは、市販のチオフェノールをそのまま蒸留して得られたものを用いた。
【0142】
tert−ブチルヒドロペルオキシドは、東京化成社製の70%tert−ブチルヒドロペルオキシド水溶液をトルエンで抽出処理し、次いで得られた有機層をDean−stark装置に供して、水分を除去しながら4時間還流を行い、溶媒を水からトルエンに溶媒置換したものを使用した。
その他の原料については、市販品を精製せずにそのまま用いた。
【0143】
[各種分析機器測定]
(1)NMRスペクトルの測定
NMRスペクトルの測定は、1H−NMR、13C−NMR共に、BRUKER ADVANCE 500(型番:ADVANCE 500、製造元:Bruker社製)を用いて行い、溶媒は重クロロホルム(CDCl3(Acros社製、純度99.8%)を用い、300Kで測定を行った。
【0144】
1H−NMRでは内部基準として溶媒ピーク(7.26ppm)を用い、シングルパルス法を用いて積算回数8で測定した。
13C−NMRでは内部基準として溶媒ピーク (77.00ppm)を用い、シングルパルス1H完全デカップリング法を用いて積算回数256回で測定した。
【0145】
(2)APCI−MSによる分子量の測定
APCI−MSによる分子量の測定は、JEOL−T100LP装置(左記型番、日本電子社製)を用いて行った。標準物質は、ニコチン酸124.0398(1r)、レセルピン609.2812(1r)とした(「1r」は、「1電子」の意である)。
分析用TLCによる成分分析や精製は、Kiesegel 60F254(商品名、Merck社製)を用いて行った。
【0146】
(3)カラムクロマトグラフィーによる成分分析や精製
カラムクロマトグラフィーによる成分分析や精製は、充填材にカラムクロマトグラフィー用シリカゲル60N(商品名、関東化学製、球状、中性、PH=7.0±0.5、100〜210mesh)用いて、カラム温度:室温(約25℃、以下同じ)の条件下で行った。
【0147】
(4)フラッシュクロマトグラフィーによる成分分析や精製
フラッシュクロマトグラフィーによる成分分析や精製は、カラムクロマトグラフィー用シリカゲル60N(商品名、関東化学製、球状、中性、PH=7.0±0.5、40〜100mesh)を用いて、カラム温度:室温の条件下で行った。
【0148】
<フェニルビニルスルホキシドの合成>
[合成例1]
窒素雰囲気下、フェニルビニルスルフィド0.5494g(4.03mmol)を塩化メチレン10mLに溶解させて得られた液を二口ナスフラスコに仕込んだ。次いで、二口ナスフラスコをアイスバス中に静置して0℃に冷却した。
【0149】
次いで、別途メタクロロ過安息香酸1.074g(6.05mmol。但し、純度77%。ゆえに、純度100%のメタクロロ過安息香酸に換算すると、約0.827g(約4.66mol))を25mLの塩化メチレンに溶解させたメタクロロ過安息香酸の塩化メチレン溶液を、二口フラスコを0℃に冷却しながら二口フラスコ内にゆっくり滴下し、混合物を同温度で2時間攪拌した。
【0150】
次いで、二口フラスコ内にチオ硫酸ナトリウム0.5g(3mmol)を加えて過剰のメタクロロ過安息香酸を分解処理した。
次いで、混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、中和した混合物をクロロホルムで抽出処理し、有機層(クロロホルム層)を分液、分離した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過により無機物(無水硫酸マグネシウムなど)などの固形物を有機層より濾別した。得られた有機層を減圧濃縮し、得られた濃縮物をカラムクロマトグラフィーによって(展開溶媒:酢酸エチル、カラム温度:室温)精製することで、無色のオイル状のフェニルビニルスルホキシド0.56g(3.6mol、収率91%)を得た。
【0151】
得られたフェニルビニルスルホキシドについて、1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを前述の測定条件で測定した。結果は次の通りであった。
1H−NMR(500MHz、CDCl3):δ5.88(1H、d、J=9.55)、6.19(1H、d、J=16.45)、6.59(2H、dd、J=9.65、J=16.45)、7.42−7.62(5H、m、Ph)。
13C−NMR(125MHz、CDCl3):δ120.7、124.7、129.4、131.3、143.0、143.4。
【0152】
なお、1H−NMRにおいて、1H、2H、5Hのような「数字+H」の表記は該ピークに相当する水素の数を示し、dは二重線が一つ検出されたこと、ddは二重線が二つ検出されたこと、tは三重線が検出されたこと、mは多重線が検出されたことを示し、Jはスピン結合定数を示す(以下において同じ)。
【0153】
<フェニルスルフィニルオキシランの合成>
[実施例1]
容量が50mLの二口ナスフラスコに、カリウムt-ブトキシド0.1113g(0.99mmol)を仕込み、窒素置換を行った。次いで、そこにTHF15mLを加えた。
【0154】
次いで、二口ナスフラスコをアセトン−ドライアイス浴に静置して−78℃に冷却しながら、シリンジを用いてt-ブチルヒドロペルオキシド/トルエン(3.3M)溶媒0.4mL(1.32mmol)をゆっくり滴下して二口ナスフラスコ内に加えた。
【0155】
二口ナスフラスコを−78℃に冷却しながら1時間内容物を攪拌し、次いで、シリンジを用いてフェニルビニルスルホキシド0.1044g(0.69mmol)をTHF15mLで溶解したものを二口ナスフラスコ内にゆっくり滴下し、次いで、30分間内容物を同温度で攪拌した。
【0156】
次いで、チオ硫酸ナトリウム0.1g(0.69mmol)を二口ナスフラスコに加え、さらに上述のように処理して蒸留したジエチルエーテル30mLを二口ナスフラスコに加え、内容物を1時間攪拌しながら液温を室温へと戻した。
【0157】
次いで、得られた内容物をセライトでろ過し、ろ液を減圧濃縮した後、直ちにフラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン/酢酸エチル 3/5、カラム温度:室温)を使用して精製することで、1−フェニルスルフィニルオキシラン0.0534g(0.31mmol、収率46%)をオイル状物として得た。
【0158】
下記表1に、使用した塩基の種類、反応温度、収率をまとめた。
得られた1−フェニルスルフィニルオキシランについて、1H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトル、APCI−MSを前述の測定条件で測定した。結果は次の通りであった。
1H NMR(500MHz、CDCl3):δ2.93−3.07(2H、m)、3.98(1H、dd、J=2.35、J=3.72)、7.43−7.59(5H、m、PH)。
13C NMR(125MHz、CDCl3) :δ44.3、 67.3、124.4、129.4、140.0。
APCI−MS M/z C892+(理論値):169.03232、(実測値):169.04013。
【0159】
[実施例2〜4、比較例1]
実施例1において、使用した塩基であるカリウムt−ブトキシドのかわりに下記表1に記載の塩基を用い、−78℃に冷却しながら行った反応を下記表1に記載の温度で反応を行なった以外は、実施例1と同様に1−フェニルスルフィニルオキシランを合成した。
【0160】
下記表1に、使用した塩基の種類、反応温度、得られた1−フェニルスルフィニルオキシランの収率をまとめた。
得られた1−フェニルスルフィニルオキシランについて、1H−NMRスペクトル、13C−NMRスペクトル、APCI−MSを前述の測定条件で測定したところ、実施例1と同様の結果を得た。
【0161】
【表1】

<2−フェニルチオアセトアルデヒドの合成、2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキソランの合成>
[実施例5]
2−フェニルチオアセトアルデヒドの合成]
窒素置換を行った、容量が50mLの二口ナスフラスコに、フェニルスルフィニルオキシラン0.1330g(0.79mmol)をトルエン5mLに溶かした液を仕込んだ。次いで、ピリジン0.0652g(0.8mmol)を5mLトルエンに溶かした液を二口ナスフラスコ内に加えた。
【0162】
さらに、チオフェノール0.0893g(0.8mmol)をトルエン5mLに溶かした液を二口ナスフラスコに加え、内容物を室温にて24時間攪拌を行った。
次いで、内容物を飽和塩化アンモニウム水溶液で中和した。得られた混合物に水10mLを加え、さらにジエチルエーテルを加えて抽出処理を行った。有機層(ジエチルエーテル層)を分液、分離し、得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理した。
【0163】
次いで、乾燥処理した有機層をろ過に供して無機物(無水硫酸マグネシウムなど)などの固形物をろ別した。得られたろ液を減圧濃縮して、濃緑色のオイル状物を得た。
得られた濃緑色のオイルについて、1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを前述の測定条件で測定した結果、次の通りであった。下記測定結果より、得られた濃緑色のオイル状物には、2−フェニルチオアセトアルデヒドが含まれていることが確認された。
1H−NMR(500MHz、CDCl3):δ3.60(2H、d、J=3.15Hz)、7.21−7.67(5H、m、Ph)、9.54(1H、t、3.2Hz)。
【0164】
[2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキソランの合成]
得られたオイルをベンゼン10mLに溶かし、二口ナスフラスコ50mLに仕込んだ。
次いで、エチレングリコール0.24530g(3.56mmol)をベンゼン10mLに溶かした液を二口ナスフラスコ内に加え、さらに触媒量のp-トルエンスルホン酸を二口フラスコ内に加えた。
【0165】
次いで、Dean−strak装置を用いて、水を除去しながら得られた内容物の加熱還流を80℃で4時間行った。反応終了後、内容物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。次いで、得られた混合物に水10mLを加え、さらにジエチルエーテルを加えて抽出を行った。有機層(ジエチルエーテル層)を分液、分離し、得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理した。次いで、乾燥処理した有機層をろ過に供して無機物(無水硫酸マグネシウムなど)などの固形物をろ別した。得られたろ液を減圧濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ベンゼン、カラム温度:室温)を使用して精製した。このようにして、透明なオイル状の2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキソランを0.093g(0.46mmol、収率60%)で得た。
【0166】
得られた2−((フェニルチオ)メチル)−1,3−ジオキソランについて、1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを前述の測定条件で測定した。結果は次の通りであった。
1H−NMR(500MHz、CDCl3):δ3.15(2H、d、J= 9.5Hz)、3.87−3.93(2H、m)、4.00−4.06(2H、m)、5.12(1H、t、J=4.4Hz)。
13C−NMR(125MHz、CDCl3):δ37.77、65.41、102.85、126.23、128.91、129.46、136.14。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、従来製造できなかったスルフィニルオキシラン化合物を提供することができ、またその製造方法を提供することができる。
そして、本発明によれば、上記スルフィニルオキシラン化合物からスルフェニルアセトアルデヒド化合物やスルフェニル基含有へテロ環化合物を効率よく提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるスルフィニルオキシラン化合物:
【化1】

[式(1)中、R1は分岐していてもしていなくてもよいアルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。]。
【請求項2】
上記一般式(1)において、R1がフェニル基である請求項1に記載のスルフィニルオキシラン化合物。
【請求項3】
下記一般式(4)で表されるビニルスルホキシド化合物と、下記一般式(5)で表されるヒドロキシペルオキシド金属塩とを、反応温度−20℃以下の条件下で、反応させることを特徴とする請求項1または2に記載のスルフィニルオキシラン化合物の製造方法:
【化2】

[式(4)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じである。]、
【化3】

[式(5)中、R2は、アルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。Mはアルカリ金属原子である。]。
【請求項4】
上記反応を、反応温度−100〜−20℃で行うことを特徴とする請求項3に記載のスルフィニルオキシラン化合物の製造方法。
【請求項5】
上記ヒドロキシペルオキシド金属塩のMが、ナトリウム原子またはカリウム原子であることを特徴とする請求項3または4に記載のスルフィニルオキシラン化合物の製造方法。
【請求項6】
上記ヒドロキシペルオキシド金属塩のMが、カリウム原子であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のスルフィニルオキシラン化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のスルフィニルオキシラン化合物(1)と下記一般式(7)で表されるスルフェニル化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(2)で表されるスルフェニルアセトアルデヒド化合物の製造方法:
【化4】

[式(7)中、R3はアルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。]。
【化5】

[式(2)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じである。]。
【請求項8】
請求項1または2に記載のスルフィニルオキシラン化合物(1)と下記一般式(7)で表されるスルフェニル化合物とを反応させ、次いで、得られたスルフェニルアセトアルデヒド化合物と下記一般式(8)で表されるジヘテロ原子置換アルキレン化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(3)で表されるスルフェニル基含有へテロ環化合物の製造方法:
【化6】

[式(7)中、R3はアルキル基またはアリール基であり、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。]、
【化7】

[式(8)中、R4は、アルキレン基であり、置換基を有していてもいなくてもよい。Xは、酸素原子または硫黄原子である。]、
【化8】

[式(3)中、R1は上記一般式(1)のR1と同じである。R4はアルキレン基であり、置換基を有していてもいなくてもよい。Xは、酸素原子または硫黄原子である。]。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167073(P2012−167073A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31347(P2011−31347)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】