説明

スルホニウムベンゼンスルホネート錯体及び樹脂組成物

【課題】 分子組成にフッ素原子が含まれず、潜在性カチオン重合開始剤として機能することができるスルホニウム塩錯体、及びこれを用いた樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、下記一般式(1)で表されるスルホニウムベンゼンスルホネート錯体を提供する。



式(1)中、Rは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは、アラルキル基、又は−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)を示し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、nは1又は2の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なスルホニウムベンゼンスルホネート錯体及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップなどの電子部品を基板に実装する際に使用する接着剤の一種として、エポキシ樹脂を主成分として含有する潜在性カチオン重合接着剤が用いられている。このような潜在性カチオン重合接着剤には、光或いは熱によりカルボカチオンを発生してカチオン重合を開始させる潜在性カチオン重合開始剤が配合されている。このような潜在性カチオン重合開始剤として、対アニオンがテトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ペンタフルオロアンチモン酸イオンであるスルホニウム塩錯体が知られている。
【0003】
しかし、これらのスルホニウム塩錯体は、対アニオンのフッ素原子がそれぞれホウ素原子、リン原子、アンチモン原子に直接結合しているため、高温または高湿状態に晒されると安定性を失い、フッ素イオンが分離発生しやすい。そのため、上記のスルホニウム塩錯体は、カチオン重合時の高温状態でフッ素イオンが多量に発生して、金属配線、ITO配線や接続パッドを腐食させるという問題があった。
【0004】
一方、対アニオンのフッ素原子がホウ素、リン、又はアンチモン原子に直接結合していないスルホニウム塩錯体が提案されている。例えば、下記特許文献1には対アニオンがトリフルオロメタンスルホン酸イオンであるスルホニウム塩錯体が開示されている。また、下記特許文献2には、対アニオンがテトラキスペンタフルオロフェニルホウ酸イオンであるスルホニウム塩錯体が開示されている。更に、下記特許文献3には、対アニオンが(トリフルオロメタンスルホナト)アルミン酸イオンであるスルホニウム塩錯体が開示されている。また、スルホニウム塩錯体以外の化合物として、下記特許文献4には、ペンタフルオロフェニルスルホン酸イオンを鉄アレーンカチオン錯体の対アニオンとした化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−217551号公報
【特許文献2】特開2008−303167号公報
【特許文献3】特開2006−282633号公報
【特許文献4】特許第2724720号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜4に開示の化合物は、熱カチオン重合時に生じるフッ素イオンが低減されるものの分子組成中にフッ素原子を含んでいるため、ICチップなどの電子部品を実装するときの加熱、さらには実装後の高温高湿条件での暴露等によって電食が発生することがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、分子組成にフッ素原子が含まれず、潜在性カチオン重合開始剤として機能することができるスルホニウム塩錯体、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは種々検討を行った結果、対アニオンがニトロ基を有するベンゼンスルホネートであってフッ素原子が含まれないスルホニウムベンゼンスルホネート錯体が、エポキシ樹脂などのカチオン重合性物質が含まれる樹脂組成物に配合されたときに十分な硬化性と優れた保存安定性を得ることができ、潜在性カチオン重合開始剤として機能することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるスルホニウムベンゼンスルホネート錯体を提供する。
【0010】
【化1】



式(1)中、Rは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは、アラルキル基、又は−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)を示し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、nは1又は2の整数である。
【0011】
本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体は、熱或いは光によって分解し、カチオン重合性物質の重合を開始させる重合開始剤として機能することができる。本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体によれば、カチオン重合性物質が含まれる樹脂組成物に配合したときに十分な硬化性と優れた保存安定性とを両立することができる。
【0012】
硬化性及び錯体の入手容易性の点で、上記一般式(1)におけるベンゼンスルホネートが2,4−ジニトロベンゼンスルホネートであることが好ましい。
【0013】
また、硬化性、錯体の入手容易性及び安定性の点で、Rが4−ヒドロキシフェニル基又はメチル基であり、Rが(1−ナフチル)メチル基、ベンジル基、シンナミル基又は3−メチル−2−ブテニル基あり、Rがメチル基であることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体の製造方法であって、下記一般式(2)で表されるスルホニウム塩と、下記一般式(3)で表されるナトリウムベンゼンスルホネート塩と、を反応させて上記一般式(1)で表されるスルホニウムベンゼンスルホネート錯体を得るスルホニウムベンゼンスルホネート錯体の製造方法を提供する。
【0015】
【化2】



式(2)中、Rは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは、アラルキル基、又は−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)を示し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。
【0016】
【化3】



式(3)中、nは1又は2の整数である。
【0017】
本発明はまた、カチオン重合性物質と、本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体と、を含有する樹脂組成物を提供する。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体を含有することにより、十分な硬化性と優れた保存安定性を有することができる。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、硬化性及び安定性の点で、上記スルホニウムベンゼンスルホネート錯体を、上記カチオン重合性物質100質量部に対して0.01〜20質量部の割合で含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、分子組成にフッ素原子が含まれず、潜在性カチオン重合開始剤として機能することができるスルホニウム塩錯体、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】式(1a)の化合物のH NMRチャートを示す。
【図2】式(1b)の化合物のH NMRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体は、下記一般式(1)で表される新規化合物である。
【0023】
【化4】



式(1)中、Rは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは、アラルキル基、又は−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)を示し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、nは1又は2の整数である。
【0024】
の置換基を有する若しくは無置換のアリール基としては、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシカルボニルオキシフェニル基などが挙げられる。Rの炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中でも、良好な硬化性、入手容易性、及びスルホニウムベンゼンスルホネート錯体の安定性の点で、4−ヒドロキシフェニル基が好ましい。
【0025】
のアラルキル基としては、ベンジル基、o−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、p−クロロベンジル基、(1−ナフチル)メチル基、9−フルオレニル基等が挙げられる。Rの−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)としては、2−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、シンナミル基、3−(4−メチルフェニル)アリル基、3−(4−ヒドロキシフェニル)アリル基、3−(4−メトキシフェニル)アリル基、3−(4−シアノフェニル)アリル基、3−(4−ニトロフェニル)アリル基などが挙げられる。これらの中でも、良好な硬化性、入手容易性、及びスルホニウムベンゼンスルホネート錯体の安定性の点で、(1−ナフチル)メチル基が好ましい。
【0026】
の炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中でも、良好な硬化性及び入手容易性の点で、メチル基が好ましい。
【0027】
上記一般式(1)中の対アニオンであるベンゼンスルホネートに結合するニトロ基の個数を表すnは1〜2の整数である。nが1であるベンゼンスルホネートとしては、2−ニトロベンゼンスルホネート、3−ニトロベンゼンスルホネート、4−ニトロベンゼンスルホネート等が挙げられる。nが2であるベンゼンスルホネートとしては、2,3−ジニトロベンゼンスルホネート、2,4−ジニトロベンゼンスルホネート、2,5−ジニトロベンゼンスルホネート、2,6−ジニトロベンゼンスルホネート、3,4−ジニトロベンゼンスルホネート、3,5−ジニトロベンゼンスルホネート等が挙げられる。これらの中でも、良好な硬化性及び入手容易性の点で、2,4−ジニトロベンゼンスルホネートが好ましい。
【0028】
本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体が潜在性カチオン重合開始剤として用いられる場合、硬化性、錯体の入手容易性及び安定性の観点から、4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウム 2,4−ジニトロベンゼンスルホネート、シンナミル−ジメチルスルホニウム 2,4−ジニトロベンゼンスルホネート、3−メチル−2−ブテニル−ジメチルスルホニウム 2,4−ジニトロベンゼンスルホネートが好ましい。
【0029】
上記一般式(1)で表されるベンゼンスルホネート錯体は、下記一般式(2)で表されるスルホニウム塩と下記一般式(3)で表されるナトリウムベンゼンスルホネート塩とを反応させる以下の反応式に従って製造することができる。
【0030】
【化5】



なお、式(2)中、Rは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは、アラルキル基、又は−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)を示し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。また、式(3)中、nは1又は2の整数である。式(1)中、R、R、R及びnは、上記と同義である。
【0031】
具体的には、例えば、上記一般式(2)で表されるスルホニウム塩を酢酸エチル等の有機溶媒に溶解し、その溶液に1.1当量の上記一般式(3)で表されるナトリウムベンゼンスルホネート塩の水溶液を混合し、得られた2層系混合物を室温で2時間攪拌することにより両者を反応させて上記一般式(1)で表されるベンゼンスルホネート錯体を得ることができる。なお、ベンゼンスルホネート錯体の単離は、例えば、有機層を酢酸エチル等の有機溶媒で分液し乾燥した後、有機溶媒を減圧留去することにより行うことができ、目的物は蒸発残渣として得られる。
【0032】
本発明のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体は、カチオン重合性物質の重合を開始させる熱又は光重合開始剤として用いることができ、特には脂環式エポキシ樹脂用の熱カチオン重合開始剤として好適に用いることができる。
【0033】
次に、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、(A)カチオン重合性物質と、(B)上記一般式(1)で表される本発明に係るスルホニウムベンゼンスルホネート錯体とを含有する。
【0034】
カチオン重合性物質としては、例えば、熱又は光により発生したカチオン種によって重合する官能基を有する化合物であり、エポキシ化合物、ビニルエーテル、オキセタン化合物及び環状エーテル化合物が挙げられる。これらのカチオン重合性化合物は、所望の特性を有する樹脂組成物を得るために、単独あるいは複数種を併用することもできる。
【0035】
エポキシ化合物としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限なく、公知のものを使用することができる。例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールAやビスフェノールF等から誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂や、ポリグリシジルエーテル、ポリグリシジルエステル、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ化合物、グリシジルアミン系エポキシ化合物、グリシジルエステル系エポキシ化合物、ビフェニルジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレートとこれと共重合可能なビニル単量体との共重合体等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用される。これらの中では、硬化性の観点から、脂環式エポキシ化合物が好適に用いられる。
【0036】
脂環式エポキシ樹脂は、(B)上記一般式(1)で表されるスルホニウムベンゼンスルホネート錯体から加熱によって発生したカチオン種によって硬化するものであればよい。中でも、エポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ樹脂は、硬化させた際の架橋密度が高くなるので好ましい。更に、分子中にエポキシ基を2〜6個有する脂環式エポキシ樹脂は、硬化性に優れており特に好ましい。
【0037】
脂環式エポキシ樹脂としては、シクロヘキセンやシクロペンテン環含有化合物を酸化して得られるシクロヘキセンオキシドやシクロペンテンオキシド含有化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−1−メチルヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロエキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
脂環式エポキシ樹脂のエポキシ当量は、43〜1000が好ましく、50〜800がより好ましく、73〜600が特に好ましい。エポキシ当量が43未満又は1000を超えると、接着強度が低下する傾向がある。これらの脂環式エポキシ樹脂は、不純物イオン(Na、Cl等)や、加水分解性塩素等を300ppm以下に低減した高純度品を用いることが、腐食防止の観点から好ましい。
【0039】
ビニルエーテル化合物としては、アルキルビニルエーテル化合物、アルケニルビニルエーテル化合物、アルキニルビニルエーテル化合物、アリールビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0040】
オキセタン化合物としては、オキセタンアルコール、脂肪族オキセタン化合物、芳香族オキセタン化合物等が挙げられる。
【0041】
(A)カチオン重合性物質の含有量は、樹脂組成物全体に対して10〜90質量%とするのが好ましく、25〜75質量%とするのがより好ましい。含有量が10質量%未満の場合、硬化物の物性(ガラス転移温度、弾性率等)が低下する傾向にあり、一方、含有量が90質量%を超えると、硬化収縮が大きくなりすぎて接着力が低下する傾向にある。
【0042】
本発明の樹脂組成物においては、硬化性および保存性の点で、(B)上記スルホニウムベンゼンスルホネート錯体を、(A)カチオン重合性物質100質量部に対して0.01〜20質量部の割合で含有することが好ましく、0.1〜15質量部の割合で含有することがより好ましい。(B)のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体含有量が0.01質量部未満の場合、硬化が不十分となる傾向にあり、一方、含有量が20質量部を超えると、相溶性が低下する傾向にある。
【0043】
本発明の樹脂組成物が脂環式エポキシ化合物を含有する場合、本実施形態の樹脂組成物には、脂環式エポキシ化合物の硬化挙動を制御する目的で、鎖状エーテル化合物又は環状エーテル化合物を添加、混合することができる。鎖状エーテル化合物又は環状エーテル化合物としては、1分子中に2個以上のエーテル基を有するものであれば特に制限なく、公知のものを使用することができる。このような化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のポリエチレングリコール類と、それら末端水酸基をエーテル結合やエステル結合で官能化した誘導体、エチレンオキシドやプロピレンオキシドやシクロヘキセンオキシド等の単官能エポキシ類の重合体、多官能エポキシの架橋体、単官能もしくは多官能のオキセタン類の重合体、単官能もしくは多官能のテトラヒドロフラン類の重合体、12−クラウン−4−エーテル、14−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル、21−クラウン−7−エーテル、24−クラウン−8−エーテル、30−クラウン−7−エーテル、ベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、トリベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ポリエチレングリコール類の環化物、エチレンオキシドやプロピレンオキシドやシクロヘキセンオキシド等の単官能エポキシ類の重合体の環化物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
反応調節能の観点から、特に環状エーテル化合物が好ましく、12−クラウン−4−エーテル、14−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル、21−クラウン−7−エーテル、24−クラウン−8−エーテル、30−クラウン−7−エーテル、ベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、トリベンゾ−18−クラウン−6−エーテルが好適である。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物における鎖状もしくは環状エーテル化合物の含有量は、(B)上記スルホニウムベンゼンスルホネート錯体に対して、0.05〜20化学当量とすることが好ましく、0.1〜10化学当量とすることが特に好ましい。鎖状もしくは環状エーテル化合物の含有量が、0.05化学当量未満の場合、高接着強度が得られにくく、一方、20化学当量を超える場合には、硬化を禁止し、結果として低架橋密度となる恐れがある。
【0046】
本発明の樹脂組成物には、発明の効果を損なわない範囲内であれば、公知の各種添加剤、例えば、無機充填剤、強化材、着色剤、安定剤(熱安定剤、耐候性改良剤等)、増量剤、粘度調節剤、テルペンフェノール共重合体、テルペン樹脂、ロジン誘導体、脂環族系炭化水素樹脂等に代表される粘着付与剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤、離型剤等を添加・混合することができる。上記着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料等の染料、カーボンブラック、マイカ等の無機顔料及びカップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、フタロシアニン系等の有機顔料等が挙げられる。また、上記安定剤としては、ヒンダードフェノール系、ヒドラジン系、リン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、オキザリックアシッドアニリド系等の化合物が挙げられる。更にまた、上記無機充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化珪素繊維、塩基性硫酸マグネシウム繊維、ホウ素繊維、ステンレス鋼繊維、アルミニウム、チタン、銅、真鍮、マグネシウム等の無機質及び金属繊維、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、鉛、ステンレス鋼、アルミニウム、金及び銀等の金属粉末、木粉、珪酸アルミニウム、タルク、クレイ、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ホウ珪酸塩、アルミノ珪酸塩、チタン酸塩、塩基性硫酸塩、塩基性炭酸塩及びその他の塩基性塩、ガラス中空球、ガラスフレーク等のガラス材料、炭化珪素、窒化アルミ、ムライト、コージェライトが挙げられる。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、常温で液状である場合にはペースト状で使用することができる。室温で固体の場合には、加熱して使用する他、溶剤を使用してペースト化してもよい。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、加熱及び加圧を併用して被着体の接着を行うことができる。加熱温度は、好ましくは50〜250℃、更に好ましくは70〜220℃である。圧力は、被着体に損傷を与えない範囲であれば、特に制限は受けないが、0.1〜30MPaが好ましい。これらの加熱及び加圧は、0.5〜120秒間の範囲で行うことが好ましい。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、フィルム状に形成し、フィルム状樹脂組成物として用いることも可能である。このフィルム状樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物に溶剤等を加えた混合液を、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、離型紙等の剥離性基材上に塗布し、又は不織布等の基材に上記混合液を含浸させて剥離性基材上に載置し、溶剤等を除去することによって得ることができる。
【0050】
この場合、本発明の樹脂組成物は、上記の(A)成分及び(B)成分に加えて、(C)高分子量成分を更に含むことが好ましい。
【0051】
高分子量成分としては、含有させたときの取り扱い性がよく硬化時の応力緩和に優れ、カチオン重合性物質との相溶性がある程度備わっている高分子樹脂であるものが好ましく、水酸基等の官能基を有する場合には被着体との接着性が向上するためより好ましい。
【0052】
上記高分子量成分の分子量は大きいほどフィルム形成性が容易に得られ、また接着剤としての流動性に影響する溶融粘度を広範囲に設定できる。高分子量成分の重量平均分子量としては、5000〜150000が好ましく、10000〜80000がより好ましい。高分子量成分の重量平均分子量が5,000未満では、フィルム形成性が劣る傾向があり150,000を超えると、他の成分との相溶性が悪くなる傾向がある。
【0053】
上記高分子量成分としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミイミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンオキサイド、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられ、これらを1種或いは2種類以上を混合して用いることができる。特に、本発明の樹脂組成物との相溶性が良く、接着性も良好である点からフェノキシ樹脂が好適に用いられる。
【0054】
フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂やビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂等の汎用フェノキシ樹脂が挙げられる。
【0055】
(C)高分子量成分の含有量は、(A)カチオン重合性物質100質量部に対して20〜320質量部とすることが好ましい。上記高分子量成分の配合量が、20質量部未満又は320質量部を超える場合は、流動性や接着性が低下する傾向がある。
【0056】
本実施形態に係るフィルム状樹脂組成物は、(A)成分として脂環式エポキシ樹脂、(B)成分、及び(C)成分としてフェノキシ樹脂を含むものであることが好ましい。この場合のフィルム状樹脂組成物は、(A)成分100質量部に対して、(B)成分を0.05〜30質量部、(C)成分を20〜320質量部含有することが好ましい。
【0057】
本実施形態に係るフィルム状樹脂組成物は、50〜250℃に加熱することで、硬化物を与えることができる。また、本実施形態に係るフィルム状樹脂組成物は、40℃にて放置した場合でも、エポキシ樹脂の重合を長期間抑制、具体的には5日以上十分に抑制することができ、保存安定性に優れるものになり得る。
【0058】
本発明の樹脂組成物、及び上述した実施形態に係るフィルム状樹脂組成物は、熱膨張係数の異なる異種の被着体の接着剤として使用することができる。具体的には、異方導電接着剤、銀ペースト、銀フィルム等に代表される回路接続材料、CSP用エラストマー、CSP用アンダーフィル材、LOCテープ等に代表される半導体素子の接着材料として使用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(合成例1)[4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウム 2,4−ジニトロベンゼンスルホネート](1a)の合成
4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムクロライド(3.17g、10.0mmol)を三角フラスコに入れ、さらに酢酸エチル(20mL)を加えて溶解させた。そして、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム水和物(2.97g、11.0mmol)を水(20mL)に溶解させた溶液を、系中にゆっくり滴下した。室温にて2時間攪拌後、酢酸エチル(50mL)で有機層を抽出し、さらに水で洗浄(50mL×3回)、減圧乾燥を行った。こうして、淡黄色固体の下記式(1a)で示される[4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウム 2,4−ジニトロベンゼンスルホネート]を得た(3.06g、収率58%)。
【0061】
(合成例2)[シンナミル−ジメチルスルホニウム 2.4−ジニトロベンゼンスルホネート](1b)の合成
4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムクロライドの代わりにシンナミル−ジメチルスルホニウムブロマイドを使用した以外は、実施例1と同様の操作にて下記式(1b)で示される[シンナミル−(4−ヒドロキシ)フェニル−メチルスルホニウム 2,4−ジニトロベンゼンスルホネート]を合成した(1.69g、収率40%)。
【0062】
【化6】



【0063】
[化合物の同定]
上記で得られたスルホニウムベンゼンスルホネート錯体(1a,1b)の同定は、H NMR、及び13C NMR分析により行った。なお、NMRスペクトルは、ブルカー社製のAV−300を用いて300MHz(H)及び75Hz(13C)の条件で測定した。内部標準0ppmには、テトラメチルシランを用いた。得られたH NMRチャートを図1及び2に示す。図1は式(1a)の化合物のH NMRチャートを、図2は式(1b)の化合物のH NMRチャートを示す。
【0064】
また、NMRスペクトルのケミカルシフトの値を以下に示す。ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。更に、Bio−Rad社製のFTS3000MXにより測定されたIR分析の結果も以下に示す。
【0065】
[4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウム 2,4−ジニトロベンゼンスルホネート](1a)
H NMR(DMSO−d6):δ 3.78(s,3H),5.30(d,J=12.6Hz,1H),5.57(d,J=12.6Hz,1H),6.87−6.90(m,2H),7.26(m,1H),7.34(m,1H),7.56−7.67(m,4H),7.96(m,2H),8.14(d,J=8.4Hz,1H),8.34(m,1H),8.40(dd,J=2.4,8.4Hz,1H),8.56(d,J=2.4Hz,1H)。
【0066】
13C NMR(DMSO−d6):δ 26.48, 48.52, 110.47, 117.16, 118.33, 123.52, 124.34, 125.23, 125.64, 126.48, 127.08, 128.84, 130.43, 130.70, 130.79, 131.02, 133.23, 133.30, 144.67, 147.42, 147.48, 162.66。
【0067】
IR(PS Film):cm−1 558, 636, 665, 748, 780, 806, 834, 898, 984, 1026, 1065, 1087, 1114, 1205, 1248, 1133, 1352, 1534, 1548, 2850, 2929, 3100。
【0068】
[シンナミル−ジメチルスルホニウム 2.4−ジニトロベンゼンスルホネート](1b)
H NMR(DMSO−d6):δ 2.49(s,6H), 4.22(d,J=7.5Hz,2H), 6.35(dt,J=7.5,15.9Hz,1H), 6.88(d,J=15.9Hz,1H), 7.30−7.41(m,3H), 7.52−7.56(m,2H), 8.12(d,J=8.7Hz,1H), 8.41(dd,J=2.4,8.7Hz,1H), 8.56(d,J=2.4Hz,1H)。
【0069】
13C NMR(DMSO−d6):δ 23.16, 43.93, 115.24, 118.32, 125.66, 127.00, 128.66, 128.79, 130.77, 135.22, 140.17, 144.62, 147.43(2C)。
【0070】
IR(PS Film):cm−1 558, 636, 666, 748, 834, 901, 1026, 1064, 1114, 1133, 1227, 1353, 1533, 1546, 2851, 2920, 3024。
【0071】
<他のカチオン重合開始剤の準備>
(開始剤1)[4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート]の合成
4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムクロライド(3.17g、10.0mmol)を三角フラスコに入れ、さらに酢酸エチル(20mL)を加えて溶解させた。そして、ヘキサフルオロアンチモン酸ナトリウムを(2.85g、11.0mmol)を水(20mL)に溶解させた溶液を、系中にゆっくり滴下した。室温にて2時間攪拌後、酢酸エチル(50mL)で有機層を抽出し、さらに水で洗浄(50mL×3回)した。有機層を減圧乾燥することで、4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートを得た。
【0072】
(開始剤2) [4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート]の合成
4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムクロライド(3.17g、10.0mmol)を三角フラスコに入れ、さらに酢酸エチル(20mL)を加えて溶解させた。そして、テトラキスペンタフルオロフェニルホウ酸ナトリウムを(7.72g、11.0mmol)を水(40mL)に溶解させた溶液を、系中にゆっくり滴下した。室温にて2時間攪拌後、酢酸エチル(50mL)で有機層を抽出し、さらに水で洗浄(50mL×3回)した。有機層を減圧乾燥することで、4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートを得た。
【0073】
[フッ素イオン濃度の測定]
合成例1及び2により得られたスルホニウムベンゼンスルホネート錯体(1a又は1b)0.1gを純水10mLに投入し、121℃で15時間加温した後、上澄み液のフッ素イオン濃度(ppm)を、イオンクロマトクラフィ分析により測定した。これと同様にして、上記で準備した開始剤1及び2についてもフッ素イオン濃度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0074】
<フィルム状樹脂組成物の作製>
(実施例1)
合成例1で得られたスルホニウムベンゼンスルホネート錯体(1a)5質量部、脂環式エポキシ樹脂である3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業株式会社製、セロキサイド2021P)50質量部、及びビスフェノールA型フェノキシ樹脂(Inchem社製、PKHC)50質量部をメチルエチルケトンに溶解・混合して、塗布液を得た。この塗布液を、離型処理されたPETフィルム上に塗膜し、70℃にて5分間加熱乾燥することにより、厚さ20μmのフィルム状樹脂組成物を作製した。
【0075】
(実施例2)
錯体(1a)に代えて、合成例2で得られたスルホニウムベンゼンスルホネート錯体(1b)を5質量部用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ20μmのフィルム状樹脂組成物を作製した。
【0076】
(比較例1)
錯体(1a)に代えて、上記の開始剤1を5質量部用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ20μmのフィルム状樹脂組成物を作製した。
【0077】
(比較例2)
錯体(1a)に代えて、上記の開始剤2を5質量部用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ20μmのフィルム状樹脂組成物を作製した。
【0078】
<フィルム状樹脂組成物の発熱挙動の測定>
作製したフィルム状樹脂組成物を、示差熱分析装置(Perkin−Elmer社製DSC7)を用いて窒素雰囲気下、測定温度範囲25〜250℃、昇温速度10℃/分の測定条件で熱分析した。ここで、フィルム状重合組成物の熱挙動に関して、発熱開始温度は硬化開始温度を意味しており、発熱ピーク温度は最も硬化反応が活性となる温度を意味している。得られた結果を表1に示す。
【0079】
<フィルム状樹脂組成物の貯蔵安定性の測定>
作製したフィルム状樹脂組成物について、赤外分光分析装置(Bio−Rad社製、FTS3000MX)を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。次に、フィルム状樹脂組成物を40℃恒温槽中で5日間保管後、上記と同様にして赤外吸収スペクトルを測定した。内標ピークとエポキシ由来ピークとの面積比に基づいて、エポキシ転化率(%)を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0080】
<フィルム状樹脂組成物の硬化性の評価>
作製したフィルム状樹脂組成物について、赤外分光分析装置(Bio−Rad社製、FTS3000MX)を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。次に、フィルム状樹脂組成物を200℃に加熱したホットプレート上で10秒加熱して、硬化フィルムを作製した。得られた硬化フィルムについて、上記と同様にして赤外吸収スペクトルを測定した。内標ピークとエポキシ由来ピークとの面積比に基づいて、エポキシ転化率(%)を算出した。その結果、いずれの樹脂組成物についてもエポキシ転化率が95%以上であり、十分な硬化性を有していることが確認された。
【0081】
【表1】



【0082】
表1に示されるように、分子組成にフッ素原子が含まれない本発明に係るスルホニウムベンゼンスルホネート錯体を含む実施例1及び2のフィルム状樹脂組成物は、脂環式エポキシの発熱が観測され、200℃の加熱によって十分硬化することができ、なおかつ、40℃恒温槽にて5日間保存した場合にはエポキシの転化率は10%未満であるという非常に良好な貯蔵安定性を有していることが分かった。
【0083】
一方、フッ素イオンが多量に検出された4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートが配合された比較例1のフィルム状樹脂組成物は、40℃5日後のエポキシ転化率が著しく上昇し、保存安定性が悪い。フッ素イオン濃度が低減されている4−ヒドロキシフェニル−メチル−1−ナフチルメチルスルホニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートを配合した比較例2のフィルム状樹脂組成物であっても、40℃5日後のエポキシ転化率が上昇し、貯蔵安定性が悪い。
【0084】
本発明によれば、分子組成にフッ素原子が含まれず、潜在性カチオン重合開始剤として機能することができるスルホニウム塩錯体、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるスルホニウムベンゼンスルホネート錯体。
【化1】



[式(1)中、Rは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは、アラルキル基、又は−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)を示し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、nは1又は2の整数である。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるベンゼンスルホネートが2,4−ジニトロベンゼンスルホネートである、請求項1に記載のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体。
【請求項3】
が4−ヒドロキシフェニル基又はメチル基であり、Rが(1−ナフチル)メチル基、ベンジル基、シンナミル基又は3−メチル−2−ブテニル基あり、Rがメチル基である、請求項1又は2に記載のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体。
【請求項4】
請求項1に記載のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体の製造方法であって、
下記一般式(2)で表されるスルホニウム塩と、下記一般式(3)で表されるナトリウムベンゼンスルホネート塩と、を反応させて前記一般式(1)で表されるスルホニウムベンゼンスルホネート錯体を得る、スルホニウムベンゼンスルホネート錯体の製造方法。
【化2】



[式(2)中、Rは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Rは、アラルキル基、又は−CH−CH=CH−R(ただし、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有する若しくは無置換のアリール基である)を示し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。]
【化3】



[式(3)中、nは1又は2の整数である。]
【請求項5】
カチオン重合性物質と、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスルホニウムベンゼンスルホネート錯体と、を含有する、樹脂組成物。
【請求項6】
前記スルホニウムベンゼンスルホネート錯体を、前記カチオン重合性物質100質量部に対して0.01〜20質量部の割合で含有する請求項5に記載の樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−167051(P2012−167051A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28943(P2011−28943)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】