説明

スルホニルウレア化合物の水和物、その製造方法およびそれを含有する懸濁製剤

【課題】除草活性を有するスルホニルウレア化合物の水和物、その製造方法およびそれを含有する懸濁製剤等の提供。
【解決手段】式(I)


で示されるスルホニルウレア化合物の水和物。式(I)で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)を含有する懸濁製剤中において、当該スルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)からなる固体粒子の成長が生じ難い性質を有する新規な化合物形態、即ち、本化合物の水和物等を提供可能とし、更にこれを利用することにより、その保存期間中に、その保存期間における時間の経過と共に、懸濁製剤中の本化合物からなる固体粒子の成長(即ち、粒径が大きくなること)が殆ど生じず、製剤安定性に優れた前記懸濁製剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除草活性を有するスルホニルウレア化合物の水和物、その製造方法およびそれを含有する懸濁製剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業就労者の高年齢化、減少等の理由から、雑草を防除するために、より簡便な方法で除草活性化合物を散布することができる製剤が求められている。除草活性化合物が固体かつ水難溶性である場合、それを含有する製剤としては例えば湛水下の水田に畦畔から直接散布することができる懸濁製剤が実用化されている。
また、式(I)

で示されるスルホニルウレア化合物が除草活性を有することおよび当該化合物を含有する懸濁製剤が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2004−123690公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
除草活性化合物を含有する懸濁製剤では、通常、当該除草活性化合物が水中に懸濁された状態にある。このような懸濁製剤は、一般的には、微粉砕された固体かつ水難溶性である除草活性化合物、増粘剤、界面活性剤及び水、必要に応じて農薬補助剤、を混合することにより製造することができる。
懸濁製剤中の除草活性化合物からなる固体粒子は、懸濁安定性等の製剤安定性、除草効力、散布操作性等の観点から、懸濁製剤の製造直後だけでなく、保存後の懸濁製剤を施用する際にも、その粒子径が細かい(約10μm以下)ことが有利である。
【0005】
上記の式(I)で示されるスルホニルウレア化合物を含有する懸濁製剤は、通常、
その保存期間中に、その保存期間における時間の経過と共に、懸濁製剤中の前記スルホニルウレア化合物からなる固体粒子の成長(即ち、粒径が大きくなること)が生じ易い。このため、保存後の懸濁製剤を施用する際に、使用される散布機のノズルが前記固体粒子により詰まるトラブルが発生したり、場合によっては、十分な除草効力が発揮されなかったり、更には、長期保存後に多量の沈澱が発生したりすることもあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような状況下鋭意検討した結果、懸濁製剤中の前記スルホニルウレア化合物からなる固体粒子の成長が生じ難い性質を有する新規な化合物形態等を見出し、更にこれを利用することにより、本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明は、
1.式(I)



で示されるスルホニルウレア化合物(以下、本化合物と記すこともある。)の水和物(以下、本発明水和物と記すこともある。);。
2.水和物が半水和物であることを特徴とする前項1記載の水和物(以下、本発明半水和物と記すこともある。);
3.前項1または2のいずれかの前項記載の水和物、増粘剤、界面活性剤及び水を混合して得られることを特徴とする懸濁製剤(以下、本発明懸濁製剤と記すこともある。);
4.前項1または2のいずれかの前項記載の水和物、増粘剤、界面活性剤、農薬補助剤及び水を混合して得られることを特徴とする懸濁製剤;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、式(I)で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)を含有する懸濁製剤中において、当該スルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)からなる固体粒子の成長が生じ難い性質を有する新規な化合物形態、即ち、本化合物の水和物等を提供可能とし、更にこれを利用することにより、その保存期間中に、その保存期間における時間の経過と共に、懸濁製剤中の本化合物からなる固体粒子の成長(即ち、粒径が大きくなること)が殆ど生じず、製剤安定性に優れた前記懸濁製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明水和物は、式(I)



で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)の水和物である。好ましい水和物としては、例えば、半水和物(即ち、1/2水和物)を挙げることができる。
本発明水和物は、式(I)で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)の無水和物と混合状態で存在していてもよい。好ましい混合状態としては、例えば、混合物全量に対して0.2重量%以上の本発明水和物(好ましくは、本発明半水和物のみから実質的になる本発明水和物)を含む混合状態を挙げることができる。より好ましい混合状態としては、例えば、混合物全量に対して0.8重量%以上の本発明水和物(好ましくは、本発明半水和物のみから実質的になる本発明水和物)を含む混合状態が挙げられる。尚、混合物全量に対して本発明水和物の存在割合の上限値には特に制限はなく、100重量%以下である。
このような混合状態で存在する本発明水和物には、本化合物の無水和物と本発明水和物(好ましくは、本発明半水和物)とを構成成分とする結晶も含まれる。
【0010】
本発明水和物は、式(I)で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)の無水和物と水とを混合し、得られた混合物を攪拌することにより製造すること(以下、第1の本発明製造方法と記すこともある。)ができる。
また、本発明水和物は、式(I)で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)の無水和物を、水を含有する有機溶媒に溶解させた後、再結晶化によって結晶を析出させることにより製造すること(以下、第2の本発明製造方法と記すこともある。)もできる。
【0011】
第1の本発明製造方法において、例えば、(a)まず、本化合物の無水和物と水とを混合した後、得られた混合物を攪拌し、(b)次いで、攪拌後、再結晶化によって析出された結晶を濾過操作により回収し、回収された濾過残渣を減圧乾燥することにより、本発明水和物を得ればよい。
【0012】
第1の本発明製造方法における「本化合物の無水和物と水との混合物」を攪拌する際の温度(攪拌温度)としては、例えば、5℃〜95℃の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、20℃〜60℃の範囲が挙げられる。
【0013】
第1の本発明製造方法における「本化合物の無水和物と水との混合物」を攪拌する際の時間(攪拌時間)としては、例えば、7日間以上を挙げることができる。このような製造方法は、例えば、得られる本発明水和物(好ましくは、本発明半水和物)が本化合物の無水和物と混合状態で存在している水和物である場合に適している。尚、攪拌時間が14日間以上に設定された製造方法は、例えば、本化合物の無水和物と混合状態で存在せず、本発明水和物が本発明半水和物のみから実質的になる本発明水和物である場合に適している。
【0014】
第1の本発明製造方法において用いられる「水」の好ましい量としては、得られた混合物を攪拌する操作において支障が生じない量であり、かつ、本化合物の無水和物1gに対して、例えば、10mLから100mLまでの範囲に含まれる量を挙げることができる。より好ましくは、10mLから60mLまでの範囲に含まれる量が挙げられる。
【0015】
第1の本発明製造方法において、別途製造された本発明水和物を種結晶として、本化合物の無水和物と水との混合物に加えて攪拌することにより、より短時間で本発明水和物を製造することができる。尚、種結晶として加える「別途製造された本発明水和物」の量としては、例えば、本化合物の無水和物92重量部に対して8重量部以上を好ましく挙げることができる。
【0016】
次いで、第2の本発明製造方法において、例えば、(a)まず、本化合物の無水和物と、水を含有する有機溶媒とを混合した後、得られた混合物を攪拌して前記無水和物を前記有機溶媒に溶解させた後、(b)次いで、得られた溶解物を氷冷し、(c)氷冷後、再結晶化によって析出された結晶を濾過操作により回収し、回収された結晶を減圧乾燥することにより、本発明水和物を得ればよい。
好ましくは、(a)まず、本化合物の無水和物と、水を含有する有機溶媒とを混合した後、得られた混合物を加温下で攪拌して前記無水和物を前記有機溶媒に溶解させた後、これを室温にて放冷し、(b)次いで、放冷された溶解物を氷冷し、(c)氷冷後、再結晶化によって析出された結晶を濾過操作により回収し、回収された結晶を減圧乾燥するとよい。
【0017】
工程(a)での「本化合物の無水和物と、水を含有する有機溶媒とを混合した後、得られた混合物を攪拌して前記無水和物を前記有機溶媒に溶解させ」る際の温度(攪拌温度)としては、例えば、60℃〜80℃の範囲を挙げることができる。
【0018】
また、工程(a)での「本化合物の無水和物と、水を含有する有機溶媒とを混合した後、得られた混合物を攪拌して前記無水和物を前記有機溶媒に溶解させ」る際の時間(攪拌時間)としては、例えば、1時間〜2時間の範囲を挙げることができる。
【0019】
第2の本発明製造方法において用いられる「有機溶媒」としては、例えば、親水性の有機溶媒等を挙げることができる。好ましくは、例えば、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、t-ブタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。より好ましくは、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等を挙げることができる。
【0020】
第2の本発明製造方法において用いられる「水を含有する有機溶媒」としては、例えば、有機溶媒中の水分含量が有機溶媒99重量部に対して1重量部以上であるものを挙げることができる。具体的には例えば、約1重量%含水テトラヒドロフランや、約15重量%含水アセトニトリル等を挙げることができる。
【0021】
第2の本発明製造方法において用いられる「水を含有する有機溶媒」の量としては、例えば、本化合物を溶解することができる量であり、且つ、再結晶化によって結晶を析出させることができる量であればよい。具体的には、有機溶媒としてテトラヒドロフランや、アセトニトリル等を用いる場合には、本化合物の無水和物1gに対して、例えば、「水を含有する有機溶媒」10mL〜25mLの範囲を挙げることができる。
【0022】
第2の本発明製造方法において、別途製造された本発明水和物を種結晶として、本化合物の無水和物と、水を含有する有機溶媒とを混合することにより得られた混合物に加えて攪拌して前記無水和物を前記有機溶媒に溶解させた後、これを室温にて放冷し、次いで、放冷された溶解物を氷冷することにより、より短時間で本発明水和物を製造することができる。尚、種結晶として加える「別途製造された本発明水和物」の量としては、例えば、本化合物の無水和物92重量部に対して8重量部以上を好ましく挙げることができる。
【0023】
本発明水和物を製造する場合には、本化合物の無水和物から本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)への転移は、例えば、赤外吸収スペクトル分析、水分含量測定分析、熱分析、X線粉末回折分析等の各種分析方法により確認すればよい。
【0024】
具体的には例えば、対照試料として本化合物の無水和物を用いて、供試サンプルの赤外吸収スペクトル分析における「水分子を示すピークに係る大きさの増加」や「前記ピークに係るシフト」や、水分含量測定分析における「水分含量の増加」が確認できれば、本化合物の無水和物から本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)への転移が生じたことを判断できる。
【0025】
また、熱分析においては、例えば、熱重量分析(TG)/示差熱分析(DTA)を用いて分析する場合、136℃付近における吸熱ピーク検出および重量減少が確認できれば、本化合物の無水和物から本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)への転移が生じたことを判断できる。
【0026】
またX線粉末回折(Cu−Kα)分析においては、例えば、2θ=9.6°、11.0°のピーク検出が確認できれば、本化合物の無水和物から本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)への転移が生じたことを判断できる。
【0027】
本発明水和物を製造する際に用いられる式(I)で示されるスルホニルウレア化合物の無水物は、例えば、特開2004−123690号公報の段落番号[0088](化合物No.36)に記載された方法により製造することができる。
【0028】
次に、本発明懸濁製剤について説明する。
【0029】
本発明懸濁製剤は、本発明水和物、増粘剤、界面活性剤及び水、必要により農薬用補助剤、を混合して得られる。つまり、本発明懸濁製剤は、本発明水和物、増粘剤及び界面活性剤、必要により農薬用補助剤、を水中に分散又は溶解して得られる農薬組成物である。そして、懸濁製剤中の本化合物からなる固体粒子は、水中に微粒子の形で分散しており、当該微粒子の平均粒径としては、例えば、10μm以下を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.2μm〜5μmの範囲が挙げられる。
尚、本発明水和物が、本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物である場合には、当該本発明水和物の量としては、本化合物の無水和物の量に対して、例えば、0.2重量%以上100重量%未満の範囲を挙げることができる。即ち、本化合物の無水和物と本発明水和物との存在割合(重量比)としては、例えば、99.8:0.2〜0:100の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、99.2:0.8〜0:100の範囲が挙げられる。
【0030】
本発明懸濁製剤中における本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)の含有量としては、例えば、0.5重量%〜50重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、1重量%〜40重量%の範囲が挙げられる。
【0031】
本発明懸濁製剤中における増粘剤の含有量としては、例えば、0.01重量%〜5重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.1重量%〜3重量%の範囲が挙げられる。
【0032】
本発明懸濁製剤中における界面活性剤の含有量としては、例えば、0.1重量%〜10重量%の範囲を挙げることができる。
【0033】
本発明懸濁製剤中における水の含有量としては、例えば、30重量%〜90重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、50重量%〜80重量%の範囲が挙げられる。
【0034】
本発明懸濁製剤は、本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)に含まれる農薬活性化合物以外に、他の農薬活性化合物を含有していてもよい。このような「他の農薬活性化合物」としては、例えば、シメトリン、ダイムロン、プロパニル、メフェナセット、フェントラザミド、エトベンザニド、スエップ、オキサジクロメフォン、オキサジアゾロン、ピラゾレート、プロジアミン、カフェンストロール、ペントキサゾン、クロメプロップ、ピリフタリド、ベンゾビシクロン、ブロモブチド、ピラクロニル、イマゾスルフロン、スルホスルフロン等を挙げることができる。
【0035】
本発明懸濁製剤中に「他の農薬活性化合物」が含有される場合には、本発明懸濁製剤中における農薬活性化合物全ての含有量(即ち、本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)に含まれる農薬活性化合物と「他の農薬活性化合物」との合計量)としては、例えば、0.5重量%〜50重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、1重量%〜40重量%の範囲が挙げられる。
【0036】
本発明懸濁製剤に用いられる増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、グアガム、アラビアガム、カゼイン、デキストリン、カルボキシメチルセルロースまたはその塩(例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩等)、カルボキシメチルスターチナトリウム塩、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸またはその誘導体、モンモリロナイト、タルク、サポナイト等を挙げることができる。
【0037】
尚、カルボキシメチルセルロースは、通常、塩として用いられる。本発明懸濁製剤に用いられる好ましいカルボキシメチルセルロース塩としては、例えば、水に溶解した際の粘度が比較的小さいもの(具体的には例えば、2重量%水溶液における粘度(B型粘度計、60rpm、25℃)が10mPa・s〜100mPa・sの範囲であるもの)等を挙げることができる。
カルボキシメチルセルロース塩の代表的な例としては、例えば、セロゲン6A(第一工業製薬製)、セロゲン7A(第一工業製薬製)、CMCダイセル1110(ダイセル化学工業製)、CMCダイセル1210(ダイセル化学工業製)等の市販されているものを挙げることができる。
【0038】
本発明懸濁製剤に用いられる界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル燐酸塩(例えば、ニューカルゲンFS−3EG、ニューカルゲンFS−3PG:いずれも竹本油脂製)、アルキル硫酸塩(例えば、モノゲンY−500:第一工業製薬製)、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル硫酸塩(例えば、アグリゾールFL−2017:花王製)、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル硫酸塩(例えば、ニューカルゲンFS−7:竹本油脂製)、ジオクチルスルホコハク酸塩(例えば、ネオコールYSK:第一工業製薬製、サンモリンOT−70:三洋化成工業製)等のアニオン性界面活性剤;蔗糖脂肪酸エステル(例えば、ニューカルゲンFS−100:竹本油脂製)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(例えば、ニューポールPE68:三洋化成工業製)、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン(例えば、ニューカルゲンD−3020:竹本油脂製)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ニューカルゲンD−410:竹本油脂製)、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物(例えば、ニューカルゲンE−300:竹本油脂製)等のノニオン性界面活性剤を挙げることができる。
尚、本発明懸濁製剤にはこれら界面活性剤の2種以上が含有されていてもよい。この場合、少なくとも1種以上のアニオン性界面活性剤と、少なくとも1種以上のノニオン性界面活性剤との組み合わせで用いることが好ましい。
【0039】
本発明懸濁製剤に用いられる水としては、例えば、水道水、井水、イオン交換水等の通常の農薬製剤に用いることができる水等を挙げることができる。
【0040】
本発明懸濁製剤に用いられる農薬補助剤としては、例えば、凍結防止剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤等を挙げることができる。
【0041】
ここで「凍結防止剤」としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等を挙げることができる。
また「pH調整剤」としては、例えば、クエン酸一水和物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム等を挙げることができる。
また「消泡剤」としては、例えば、シリコン系消泡剤等を挙げることができる。
また「防腐剤」としては、例えば、ブチルパラベン(n−ブチルパラヒドロキシベンゾエート)、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム等を挙げることができる。
【0042】
尚、本発明懸濁製剤中における農薬補助剤の含有量は、用いられる本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)の含有量、界面活性剤等の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0043】
本発明懸濁製剤中における凍結防止剤の含有量としては、例えば、1重量%〜20重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、3重量%〜12重量%の範囲が挙げられる。
本発明懸濁製剤中におけるpH調整剤の含有量としては、例えば、0.01重量%〜5重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.5重量%〜3重量%の範囲が挙げられる。
本発明懸濁製剤中における消泡剤の含有量としては、例えば、0.05重量%〜0.5重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.05重量%〜0.3重量%の範囲が挙げられる。
本発明懸濁製剤中における防腐剤の含有量としては、例えば、0.01重量%〜3重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.01重量%〜1.5重量%の範囲が挙げられる。
【0044】
本発明懸濁製剤は、例えば、以下に示す方法に準じて、製剤化処理を施してもよい。
<製法1>
本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)、増粘剤、界面活性剤、所望により前記の「他の農薬活性化合物」、必要に応じて、農薬補助剤、及び水を混合して得られる混合物を、例えば、高速攪拌機により十分に攪拌および混合した後、ダイノミル、マイクロフルイダイザー等の湿式粉砕機を用いて微粉砕および分散する方法。
<製法2>
本発明水和物(本化合物の無水和物と混合状態で存在している本発明水和物を含む)をジェットマイザー等の乾式粉砕機により微粉砕した後、これを他の成分をともに、水に添加して得られる混合物を、例えば、高速攪拌機で約30〜90分程度攪拌および混合した後、分散する方法。
【0045】
本発明懸濁製剤は、公知の方法に従ってそのまま、又は、所望により水で希釈して散布することにより使用することができる。例えば、湛水下水田等へ畦畔より本発明懸濁製剤をそのまま直接散布することもできる。その場合には、本発明懸濁製剤が入った容器を使用前に軽く振り混ぜた後、畦畔に沿って本発明懸濁製剤を少量ずつ散布する。本発明懸濁製剤を水で希釈して散布する場合には、その水希釈液を、水田、畑地、果樹園、芝地、非農耕地等に、公知の散布器等を用いて土壌表面又は茎葉等に対して散布する。また、当該水希釈液は、種子処理、育苗箱処理等にも使用することもできる。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0047】
水分含量測定分析では、CA−07型水分測定装置(三菱化学製)を用いた。
【0048】
赤外吸収スペクトル分析では、フーリエ変換赤外分光光度計 Varian Fast Image 670−IR(バリアン製)を用いた。尚、測定条件を下記する。
・検出器:DTGS
・積算回数:32回
・スキャンスピード:5kHz
【0049】
熱分析では、TG/DTA6200R(エスアイアイ・ナノテクノロジー製)を用いた。
【0050】
X線粉末回折(Cu−Kα)分析では、粉末X線回折装置RINT2500V(Rigaku製)を用いた。尚、測定条件を下記する。
・Target:Cu−Kα
・Voltage:40kV
・Current:300mA
【0051】
プロトン核磁気共鳴スペクトル分析では、DPX300(Bruker製)を用いた。尚、内標準物質としてテトラメチルシランを使用し、全デルタ値をppmで示した。
【0052】
製造例1
特開2004−123690号公報の段落番号[0088](化合物No.36)に記載された方法で調製された式(I)で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物の無水和物)(以下、試料Aと記すこともある。)217.8gに含水率1.0重量%のテトラヒドロフラン(THF)2413mLを加えた。得られた混合物を70℃で1時間攪拌することにより、試料A(即ち、本化合物の無水和物)を前記THFに溶解させた。得られた溶液を室温まで放冷し、次いで、放冷された溶解物を氷冷した。氷冷後、再結晶化によって析出された結晶を濾過操作により回収し、回収された結晶を減圧乾燥することにより、121.8gの乾燥結晶(即ち、本発明半水和物)(以下、試料Bと記すことがある。)を得た。
試料A及び試料Bを供試サンプルとして、プロトン核磁気共鳴スペクトル分析(尚、表1中では「1H−NMR」と記す。)、赤外吸収スペクトル分析(尚、表1中では「IR」と記す。)、水分含量測定分析(尚、表1中では「水分含量」と記す。)、X線粉末回折(Cu−Kα)分析(尚、表1中では「XRD(2θ)」と記す。)、熱分析(尚、表1中では「TG/DTA」と記す。)を実施した。その結果、いくつかの特徴的な物性値を確認した(表1参照)。
試料A及び試料Bのプロトン核磁気共鳴スペクトルは一致していた。一方、試料A及び試料Bの赤外吸収スペクトルにおける水分子を示すピーク及び水分含量測定分析により測定された水分含量は異なっていた。
また、試料A及び試料BのX線粉末回折(Cu−Kα)分析における結晶回折パターンは異なる特徴を有していた。
更に、試料A及び試料Bの熱分析における吸熱ピークは異なっていた。詳細には、試料Bでは、試料Aで確認される208℃の吸熱ピークに加え、136℃付近にも吸熱ピークが観測された。また、TGの1.9%の減少も確認された。この値は、本化合物が半水和物である場合の理論的水分量である1.9%と一致した。このことから、試料Aは無水和物の形態であり、試料Bは半水和物の形態であることが確認された。
【0053】
【表1】

【0054】
製造例2
852mgの試料A(即ち、本化合物の無水和物)を50mLの脱イオン水と混合した。得られた混合物を、スターラーを用いて室温で攪拌開始した。攪拌開始から2日間後、7日間後及び14日間後に、得られた混合物からそれぞれ10mLの混合物を分取した。分取された混合物をそれぞれ濾過操作に供して、再結晶化によって析出された結晶を回収し、回収された結晶を減圧乾燥することにより、攪拌時間に応じた乾燥結晶(上記分取順に従い、107mg(以下、試料Cと記すこともある。)、143mg(以下、試料Dと記すこともある。)、144mg(以下、試料Eと記すこともある。)の全3種類)を得た。
このようにして得られた各試料をX線粉末回折(Cu−Kα)分析したところ、(i)試料Cは無水和物であること、(ii)試料Dは、無水和物と混合状態で存在している本発明半水和物(半水和物を9.1重量%含有した、無水和物と半水和物との混合物)であること、(iii)試料Eは、本発明半水和物(本発明半水和物のみから実質的になる本発明水和物)であること、が確認された。
【0055】
以下、上記(ii)に記載される試料Dとは異なる、無水和物と混合状態で存在している本発明半水和物のいくつかを、「試料記号」及び「混合物中の半水和物の含有量(重量%)」と共に表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
製造例3
製造例1で得られた試料B(即ち、本発明半水和物)1.8重量部、ソルビン酸0.1重量部、シリコン系消泡剤(アンチホームE-20、花王製)0.3重量部、ショ糖脂肪酸エステル(ニューカルゲンFS-100、竹本油脂)0.5重量部、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル燐酸塩(ニューカルゲンFS−3PG、竹本油脂製)1.5重量部、及び、ナトリウムモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)0.35重量部、並びに、イオン交換水30.45重量部を混合して得られる混合物を、高速攪拌機により十分に攪拌および混合した後、湿式粉砕機であるダイノミルKDL(シンマルエンタープライゼス製)を用いて微粉砕および分散することにより、試料Bの水性懸濁液(1)を得た。
一方、カルボキシメチルセルロースナトリウム(セロゲン7A、第一工業製薬製)1.0重量部、ナトリウムモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)0.65重量部、及び、キサンタンガム(ロードポール23、ローディア日華製)0.1重量部を、イオン交換水 56.65重量部に加えて、溶解および分散させることにより、増粘剤液(1)を得た。
このようにして得られた増粘剤液(1)58.4重量部、前記で得られた試料Bの水性懸濁液(1)35重量部、及び、プロピレングリコール6.6重量部を混合して全量を100重量部とした後、得られた混合物を攪拌および混合することにより、試料B(即ち、本発明半水和物)を1.8重量%含有した本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(1)と記すこともある。)を得た。
【0058】
製造例4
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料G(無水和物と表2に示された混合状態で存在している本発明半水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(2)と記すこともある。)を得た。
【0059】
製造例5
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料H(無水和物と表2に示された混合状態で存在している本発明半水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(3)と記すこともある。)を得た。
【0060】
製造例6
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料I(無水和物と表2に示された混合状態で存在している本発明半水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(4)と記すこともある。)を得た。
【0061】
製造例7
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料J(無水和物と表2に示された混合状態で存在している本発明半水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(5)と記すこともある。)を得た。
【0062】
製造例8
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料K(無水和物と表2に示された混合状態で存在している本発明半水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(6)と記すこともある。)を得た。
【0063】
製造例9
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料L(無水和物と表2に示された混合状態で存在している本発明半水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(7)と記すこともある。)を得た。
【0064】
製造例10
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料M(無水和物と表2に示された混合状態で存在している本発明半水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、本発明懸濁製剤(以下、懸濁製剤(8)と記すこともある。)を得た。
【0065】
比較製造例1
試料B(即ち、本発明半水和物)に代えて、試料A(即ち、本化合物の無水和物)を用いたこと以外は製造例3と同様な方法に従い製造することにより、比較懸濁製剤(以下、懸濁製剤(9)と記すこともある。)を得た。
【0066】
試験例1(粒径測定)
懸濁製剤(1)〜(9)について、(i)当該懸濁製剤の製造直後、及び、(ii)一定条件下で保存した後、前記懸濁製剤中の本化合物からなる固体粒子の粒径(体積中位径(μm))を、レーザー回折式粒度分布測定装置(HEROS&RODOS、日本レーザー製、測定条件:焦点距離20mm、分散媒はイオン交換水)を用いて測定した。その結果を表3および表4に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、式(I)で示されるスルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)を含有する懸濁製剤中において、当該スルホニルウレア化合物(即ち、本化合物)からなる固体粒子の成長が生じ難い性質を有する新規な化合物形態、即ち、本化合物の水和物等を提供可能とし、更にこれを利用することにより、その保存期間中に、その保存期間における時間の経過と共に、懸濁製剤中の本化合物からなる固体粒子の成長(即ち、粒径が大きくなること)が殆ど生じず、製剤安定性に優れた前記懸濁製剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)



で示されるスルホニルウレア化合物の水和物。
【請求項2】
水和物が半水和物であることを特徴とする請求項1記載の水和物。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかの請求項記載の水和物、増粘剤、界面活性剤及び水を混合して得られることを特徴とする懸濁製剤。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかの請求項記載の水和物、増粘剤、界面活性剤、農薬補助剤及び水を混合して得られることを特徴とする懸濁製剤。

【公開番号】特開2012−149031(P2012−149031A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233615(P2011−233615)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】