説明

スルホンアミド化合物の製造方法

【課題】環状化合物の生成を抑制でき、収率を上げることができ、併せて、低コストでスルホンアミド化合物を得ることができるスルホンアミド化合物の製造方法の提供。
【解決手段】スルホニルハライド基を有する有機化合物にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させる工程を備えるスルホンアミド化合物の製造方法。この場合、スルホニルハライド基を有する有機化合物の炭素数は1以上3以下が好ましく、反応温度は−100℃以上0℃以下が好ましい。これにより、高収率でスルホンアミド化合物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホンアミド化合物の製造方法に関し、更に詳しくは、固体高分子電解質膜の材料として適用しうるスルホンアミド化合物を高収率で合成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、膜電極接合体(MEA)を基本単位としており、膜電極接合体は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合されたものである。スルホンアミド化合物は、その固体高分子電解質膜の材料(モノマー)として用いることが検討されている。
スルホンアミド化合物の製造方法として、スルホニルハライド基(−SOX、Xはハロゲン)を含む化合物を出発原料として用いて、これにアンモニア(NH、NHOH)やアジ化ナトリウム(NaN)等を反応させることにより合成する方法が知られている。
その他にも種々のスルホンアミド化合物の製造方法が提案されている。例えば、特許文献1,2には、スルホニルハライド基を含む化合物を出発原料として用いて、これにヘキサメチルジシラザン(HMDS、Hexamethyldisilazane)を反応させることにより、スルホンアミド化合物を合成する方法が開示されている。
後述するように特許文献3〜5の報告もある。
【0003】
【特許文献1】Y. L. Yagupol'skii et al., Z. Org. Farm. Khimii, 2003, 1(3-4), 65.
【特許文献2】S. F. Britcher et al., J. Org. Chem., 1983, 48(6), 763.
【特許文献3】R. Juschke et al., Z. Naturforsch. B, 1997, 52, 359.
【特許文献4】特開平10−168194号公報
【特許文献5】D. D. DesMateau et al., J. Fluorine Chem., 1995, 72, 203.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スルホニルハライド基を含む化合物として、XOS(CFSOX(但し、Xはハロゲン、n=1,2)を出発原料として用いて、これに上記のようにアンモニアを作用させると環状化合物のみが生成するという報告がある(特許文献3参照)。その理由は次のように考えられる。すなわち、炭素数が少ない場合(上記のようにn=1,2の場合)には、スルホニルハライド基(−SOX)が近接しているため、同一分子内のスルホニルハライド基どうしが反応し、スルホンイミド基が形成されると考えられるためである。従って、XOS(CFSOX(但し、Xはハロゲン、n=1,2)を出発原料として用いて、アンモニアを作用させて、「環状化合物ではない所望のスルホンアミド化合物」、例えば、直鎖状のスルホンアミド化合物を合成しようとする場合には、環状化合物が副生成物となり、収率が悪いという問題がある。このような場合には、カラム精製等のプロセスが必要になるため、高コストになるという問題もある。
【0005】
また、XOS(CFSOX(但し、Xはハロゲン)において、n=3とした場合、すなわち、XOS(CFSOXをアンモニアと反応させても、環状化合物が生成したとの報告はされていないが(特許文献4参照)、n=3の場合においてアンモニアと反応させる合成法は知られていない。従って、XOS(CFSOX(但し、Xはハロゲン)において、n=3とした場合、すなわち、XOS(CFSOXを出発原料とした場合においても、n=1,2の場合と同様の問題が存在することが推測される。
【0006】
更に、XOS(CFSOX(但し、Xはハロゲン)において、n=4とした場合、すなわち、XOS(CFSOXを出発原料として用いて、アンモニアを作用させても環状化合物が生成せず、収率良くスルホンアミド化合物が得られることは知られている(特許文献5参照)。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、環状化合物の生成を抑制でき、収率を上げることができるスルホンアミド化合物の製造方法を提供することにある。併せて、低コストでスルホンアミド化合物を得ることができるスルホンアミド化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者等は、スルホニルハライド基を備えた有機化合物として、例えば、XOS(CFSOXにおいて、n=3,X=F(フッ素)としたFOS(CFSOFを出発原料として、環状化合物を生成させることなく、高収率でスルホンアミド化合物を得る合成法を鋭意研究した。本発明者等は、その研究過程において、その出発原料(すなわち、FOS(CFSOF)にアンモニアを作用させて、スルホンアミド化合物を合成しようとすると、環状化合物が副生成物となることを確認した。
【0009】
一方、本発明者等は、その出発原料(すなわち、FOS(CFSOF)にリチウムヘキサメチルジシラザンを反応させると環状化合物を生成させることなく、高収率でスルホンアミド化合物を得ることができるとの知見を得た。かかる知見に基づいて更に研究を重ねた結果、本発明者等は、スルホニルハライド基を備えた有機化合物にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させるとスルホンイミド化合物を得ることができるとの知見を得るに至った。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0010】
本発明に係るスルホンアミド化合物の製造方法は、スルホニルハライド基を備えた有機化合物にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させる工程を備えたことを要旨とする。
この場合に、前記スルホニルハライド基を備えた有機化合物は、炭素数が1以上3以下であるとよい。
この場合に、反応温度は−100℃以上0℃以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るスルホンアミド化合物の製造方法によれば、スルホニルハライド基を備えた有機化合物は、アルカリ金属ヘキサメチルジシラザンと反応させる。アルカリ金属ヘキサメチルジシラザンは、嵩高く反応性が高い。従って、同一分子内のスルホニルハライド基どうしによるスルホンイミド基生成反応が抑制され、環状化合物やオリゴマーは生成せず、高収率でスルホンアミド化合物が得られる。従って、スルホンアミド化合物の精製プロセスを簡単にすることができ、製造コストを下げることができる。
【0012】
本発明によれば、アルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを試薬として用いるため、前記スルホニルハライド基を備えた有機化合物は、炭素数が1以上3以下でも適用できる。アルカリ金属ヘキサメチルジシラザンは、嵩高く反応性が高いため、同一分子内のスルホニルハライド基どうしによるスルホンイミド基生成反応が抑制され、環状化合物やオリゴマーは生成せず、高収率でスルホンアミド化合物が得られるからである。従来周知のアンモニアを試薬として用いると環状化合物が生成するが、本発明はその生成が抑制される点で利用価値が高い。
この場合に、反応温度は−100℃以上0℃以下であることが望ましい。すなわち、温度管理が重要であり、反応時間の管理は反応終了まで待機する点に注力すれば済む。従って、温度管理を適切に行えば、高収率でスルホンアミドが得られる点で、本発明は利用価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の一実施形態について詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係るスルホンアミド化合物の製造方法は、スルホニルハライド基を備えた有機化合物にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させる工程(化1の(1)式参照)を備える。
【0014】
【化1】

【0015】
本発明の一実施形態において、「スルホニルハライド基」とは、−SOX(Xはハロゲン)で表される官能基をいう。
「スルホニルハライド基を備えた有機化合物」とは、一般式:A−(SOX)(mはスルホニルハライド基の数で任意)で表され、炭素原子を構造の基本骨格に持つ化合物をいう。ここで、Aは、
(1)C−F結合を含み、C−H結合を含まないパーフルオロ化合物、
(2)パーフルオロ化合物のフッ素の一部を水素に置換したフッ化炭化水素化合物、
(3)C−H結合を含み、C−F結合を含まない炭化水素化合物のいずれであってもよい。
Aは、直鎖状又は分岐状の脂肪族骨格を備えたものでもよく、あるいは、芳香族骨格を備えたものでもよい。
【0016】
「スルホニルハライド基を備えたパーフルオロ化合物」として、例えば、一般式:XOS(CFSOX(但し、Xはハロゲン、n=1〜10)で表されるものがあげられ、その具体的として、FOS(CFSOF(以下単に、「PPDSF」ともいう)、FOS(CFSOF(以下単に、「PBDSF」ともいう)、FOS(CFSOF(以下単に、「PODSF」ともいう)の他、XOS(CFO(CFSOX(但し、Xはハロゲン),CF(CFSOX(但し、Xはハロゲン),FC(SOX)(但し、Xはハロゲン),CF(SOX)(但し、Xはハロゲン)等がある。
また、「スルホニルハライド基を備えたフッ化炭化水素化合物」として、例えば、CHF(SOX)(但し、Xはハロゲン)等がある。
更に、「スルホニルハライド基を備えた炭化水素化合物」として、ベンゼン環を備えたBTSC(化2の(2)式参照)、CH(SOX)(但し、Xはハロゲン),CH(SOX)(但し、Xはハロゲン),XOS(CHSOX(但し、Xはハロゲン、n=1〜10)等が挙げられる。
【0017】
【化2】

【0018】
「アルカリ金属ヘキサメチルジシラザン」は、一般式:M−N(SiMe(M:アルカリ金属、すなわち、Li,Na,K,Rb,Cs)で表される化合物をいう。アルカリ金属ヘキサメチルジシラザンは、出発原料と反応させる試薬であり、特に、LiHMDS(リチウムヘキサメチルジシラザン(LiN(SiMe))が好ましいが、Liの全部又は一部を他のアルカリ金属(Na,K)に置換したものでもよい。LiHMDSは、一般的にはテトラヒドロフラン(THF)溶液に溶かしたものが用いられるが、その濃度は適宜調整するとよい。
【0019】
ここで、「スルホニルハライド基を備えた有機化合物」の炭素数は、1以上3以下が好ましい。炭素数が3以下の場合には、試薬としてアンモニア等を用いると環状化合物が生成するのに対して、炭素数が4以上の場合には、試薬としてアンモニアを用いても環状化合物が生成されないため、炭素数が1以上3以下の場合に特に利用価値が高いからである。
すなわち、本発明のように試薬としてアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを用いると、これが嵩高く反応性が高いため、出発原料の炭素数を1以上3以下としても、環化反応が生じることなく所望のスルホンアミド化合物が得られる。
【0020】
反応条件は特に限定されないが、反応温度は−100℃以上0℃以下であることが望ましい。−100℃を下限温度としたのは、溶媒としてTHFを用いた場合には、その凝固点が−108℃であるため、−100℃がアイスバスが作製できる限界だからである。0℃を上限温度としたのは、0℃を超えると試薬が分解するからである。
本発明の一実施形態に係るスルホンアミド化合物の製造方法を実施する場合には、上記(1)式で示した反応を完了させるまで−100℃以上0℃以下を保ち、後は室温に戻るのを待機すればよい。尚、室温に戻すのは、合成されたスルホンアミド化合物の精製処理のためである。この精製プロセスは、合成されたスルホンアミド化合物の収率が高いため従来に比べて簡単となり、生産コストが下がる。
【0021】
本発明を実施することによって合成される「スルホンアミド化合物」とは、一般式:A−(SONH(mはスルホニルハライド基の数で任意)で表される化合物をいう。ここで、スルホンアミド基(−SONH)は、合成条件や後処理により、その水素の全部又は一部が他の基(例えば、−SONHM(M:アルカリ金属),−SONHR(R=COCH,COCF,COPh,SOPh,SO(CFCF)等に置換されることもある。スルホンアミド化合物を構成する「A」の詳細については、上述した通りであるため説明を省略する。
「スルホンアミド化合物」の具体例として、上記PPDSFを出発原料とするHNOS(CFSONH(以下単に「PPDSA」ともいう)、上記PBDSFを出発原料とするHNOS(CFSONH(以下単に「PBDSA」ともいう)、上記PODSFを出発原料とするHNOS(CFSONH(以下単に「PODSA」ともいう)の他、HNOS(CFO(CFSONH,CF(CFSONH,FHC(SONH,CH(SONH,CH(SONH等が挙げられ、更に、上記BTSCを出発原料とするベンゼン環を備えたBTSA(化3の(3)式参照)が挙げられる。
【0022】
【化3】

【実施例】
【0023】
以下に本発明の実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)LiHMDSを用いたPPDSAの合成
100mlの反応容器に窒素雰囲気下、LiHMDS 1M THF溶液 66ml(66mmol)を入れ、−80℃でPPDSF9.48g(30mmol)を注射器でゆっくり加え、同温で1時間攪拌した後、徐々に室温に戻しながら12時間攪拌した(化4の(4)式参照)。薄茶色のサスペンジョンになった。揮発分を除き、1N塩酸300mlを加えて300mlのジエチルエーテルで抽出した。無水硫酸マグネシウムにより乾燥、濾過した後、活性炭を20g加え、溶液が無色になるまで約20分攪拌した。活性炭を濾過して溶液留去することで、7.6gのPPDSAを得た(白色粉末、純度>99%、収率82%)。純度はNMRにより確認した。図1は、反応混合物の19F NMRスペクトル(400MHz、CDCN中)を示す。同図から、PPDSAと環状化合物の生成比は98:2と確認できた。
【0024】
【化4】

【0025】
(実施例2)LiHMDSを用いたPPDSAの合成
−100℃でPPDSFを注射器でゆっくり加えた以外は、実施例1と同様にしてPPDSAを合成した。その結果、7.4gのPPDSAを得た(白色粉末、純度99%、収率80%)。純度はNMRにより確認した。尚、PPDSAと環状化合物の生成比は、99:1と確認できた。
【0026】
(実施例3)LiHMDSを用いたPPDSAの合成
−50℃でPPDSFを注射器でゆっくり加えた以外は、実施例1と同様にしてPPDSAを合成した。その結果、6.9gのPPDSAを得た(白色粉末、純度95%、収率74%)。純度はNMRにより確認した。尚、PPDSAと環状化合物の生成比は、90:10と確認できた。
【0027】
(実施例4)LiHMDSを用いたPPDSAの合成
0℃でPPDSFを注射器でゆっくり加えた以外は、実施例1と同様にしてPPDSAを合成した。その結果、5.6gのPPDSAを得た(白色粉末、純度85%、収率60%)。純度はNMRにより確認した。尚、PPDSAと環状化合物の生成比は、78:22と確認できた。
【0028】
(実施例5)LiHMDSを用いたPPDSAの合成
PPDSF 0.12M THF溶液を滴下漏斗でLiHMDS 1M THF溶液にゆっくり加え、温度を0℃で3時間反応させた以外は、実施例1と同様にしてPPDSAを合成した。その結果、6.2gのPPDSAを得た(白色粉末、純度90%、収率68%)。反応混合物の19F NMRスペクトルより、PPDSAと環状化合物の生成比は85:15と確認できた。
【0029】
(実施例6)LiHMDSを用いたPPDSAの合成
温度を0℃で3時間反応させた以外は、実施例1と同様にしてPPDSAを合成した。その結果、5.5gのPPDSAを得た(白色粉末、純度85%、収率60%)。反応混合物の19F NMRスペクトルより、PPDSAと環状化合物の生成比は78:22と確認できた。
【0030】
(実施例7)LiHMDSを用いたBTSAの合成
300mlの反応容器に窒素雰囲気下、LiHMDS 1M THF溶液 100mlを入れ、−80℃以下でBTSC1.12g(3mmol)を注射器でゆっくり加え、同温で1時間攪拌した後、徐々に室温に戻しながら12時間攪拌した。薄茶色のサスペンジョンになった。揮発分を除き、1N塩酸を加えて固体を濾過することにより、718mgのBTSAを得た(白色粉末、純度>99%、収率76%)。純度はNMRにより確認した。
【0031】
(比較例1)NHを用いたPPDSAの合成
5Lの反応容器にアルゴン気流下、液体アンモニア2.4Lに、−80℃以下でPPDSF300g(0.949mol)を滴下した。その後、同温にて4時間攪拌した後、徐々に室温に戻しながら16時間攪拌した(化5の(5)式参照)。これに濃塩酸1Lを加え、1時間室温にて攪拌した後、酢酸エチルで抽出した。溶媒留去してn−ヘキサン:酢酸エチルを2:1の割合でシリカゲルカラム精製し、145gのPPDSAを得た(白色粉末、純度>99%、収率49%)。純度はNMRにより確認した。図2は、反応混合物の19F NMRスペクトル(500MHz、CDCN中)を示す。同図から、PPDSAと環状化合物の生成比は1:1と確認できた。
【0032】
【化5】

【0033】
(比較例2)HMDSを用いたPPDSAの合成
LiHMDSに代えて1M HMDS THF溶液を用いた以外は、実施例1と同様の手順で反応させた。反応混合物の19F NMRスペクトルより、PPDSAと環状化合物の生成比は0:100と確認できた。すなわち、環状化合物しか確認されなかった。
【0034】
(比較例3)NHを用いたPBDSAの合成
比較例1と同様にアルゴン気流下、液体アンモニア250mlとPBDSF14.6g(40mmol)を反応させた後、揮発分を除去し、1N塩酸を加えて固体を濾過することで、14gのPBDSAを得た(白色粉末、純度>99%、収率97%)。純度はNMRにより確認した。反応混合物の19F NMRスペクトル(400MHz、CDCN中)から環状化合物の生成は観測されなかった。
【0035】
(比較例4)NHを用いたPODSAの合成
比較例1と同様にアルゴン気流下、液体アンモニア225mlとPODSF47g(83mmol)を反応させた後、揮発分を除去し、1N塩酸を加えて固体を濾過することで、40gのPODSAを得た(白色粉末、純度>99%、収率86%)。純度はNMRにより確認した。反応混合物の19F NMRスペクトル(400MHz、CDCN中)から環状化合物の生成は観測されなかった。
【0036】
(比較例5)NHを用いたBTSAの合成
比較例1と同様に、アルゴン気流下、液体アンモニア150mlとBTSC7.48g(20mmol)の80mL THF溶液を反応させた後、揮発分を除去し、1N塩酸を加えて固体を濾過することで、5.2gのBTSAを得た(白色粉末、純度>99%、収率83%)。純度はNMRにより確認した。
【0037】
(反応温度依存性)
図3は、実施例1〜4に基づいてPPDSAの収率の反応温度依存性を示したグラフである。同図に示したように、−100℃以上0℃以下の温度域では良好な収率を示すことが確認できた。特に、−80℃以下では環状化合物が殆ど生成しないことから、−80℃以下が特に好ましいことが分かった。尚、溶媒THFの凝固点が−108℃であるため、−100℃がアイスバス作製の下限温度である。また、0℃を超えると試薬(LiHMDS)が分解する。
【0038】
(評価)
実施例1〜6は、環状化合物の副生が抑制され、高収率でスルホンアミド化合物が得られた。従って、実施例1〜6から、スルホニルハライド基を備えたパーフルオロ化合物にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させると、スルホンアミド化合物(HNOS(CFSONH)(炭素数nは任意)が高収率で得られることが判明した。実施例7も同様に、高収率でスルホンアミド化合物が得られた。従って、実施例7から、スルホニルハライド基を備えた炭化水素化合物にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させてもスルホンアミド化合物が高収率で得られることが判明した。
【0039】
特に、実施例1〜6は、出発原料として「スルホニルハライド基(SOF)を備えたパーフルオロ化合物(炭素数は3)」にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させたものである。従来知られた比較例1,2のように、液体アンモニアやHMDSを「スルホニルハライド基(SOF)を備えたパーフルオロ化合物(炭素数は3)」に反応させると環状化合物が生成し、低収率であったことを踏まえると、実施例1〜6のようにアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させることは、環状化合物生成が抑制され高収率で目的物質を得ることができるため、利用価値が高いことがわかる。また、実施例1の試薬(LiHMDS)は、比較例2で用いた試薬(HMDS)よりも反応性が高いことから、反応に用いる試薬は、LiHMDSのように高い反応性を備えることを要することがわかった。
【0040】
比較例3,4は、出発原料として「スルホニルハライド基を備えたパーフルオロ化合物(それぞれ、炭素数は4、炭素数は8)」に液体アンモニアを反応させたものであるが、炭素数が4以上である場合には、液体アンモニアでも収率良くスルホンアミド化合物が得られることがわかった。このことから、「スルホニルハライド基を備えたパーフルオロ化合物」のうち特に炭素数が3以下のものを出発原料として用いる場合において、本発明の利用価値が高いことがわかった。
【0041】
反応温度依存性については上記の通りであるが、その他の反応条件について考察する。実施例5と実施例6とを比べると、実施例6の方が実施例5よりも環状化合物の生成比が少なかったが、実施例5,6の相違は、出発原料として用いるPPDSFの濃度が異なるのみである。従って、この結果によれば、PPDSFの濃度を低くした方が環状化合物の生成を抑制できると解される。一方、実施例1と実施例5とを比べると、実施例1は実施例5よりも高収率だったが、これらは、出発原料の濃度並びに反応温度及び反応時間等、複数条件が異なっている。従って、出発原料の濃度に応じて反応温度や反応時間を調整することによって、環状化合物の生成を抑制できるものと判断される。
【0042】
ところで、炭素数が3を超える「スルホニルハライド基を備えた炭化水素化合物」を出発原料として用いる場合にも本発明は効果的である。実施例7と比較例5とを比較すると、実施例7は試薬としてLiHMDSを用い、比較例5は試薬として液体アンモニアを用いた点が異なるが、いずれも高収率でスルホンアミド化合物が得られているためである。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るスルホンアミド化合物の製造方法は、固体高分子電解質膜の材料(モノマー)として適用しうるスルホンアミド化合物の製造に好適であるため、燃料電池関連産業、自動車産業をはじめ各種産業において極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の反応混合物の19F NMRスペクトル(400MHz、CDCN中)を示す。
【図2】比較例1の反応混合物の19F NMRスペクトル(400MHz、CDCN中)を示す。
【図3】実施例1〜実施例4の反応温度依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホニルハライド基を備えた有機化合物にアルカリ金属ヘキサメチルジシラザンを反応させる工程を備えたことを特徴とするスルホンアミド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記スルホニルハライド基を備えた有機化合物は、炭素数が1以上3以下であることを特徴とする請求項1に記載のスルホンアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記工程の反応温度が−100℃以上0℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスルホンアミド化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126468(P2010−126468A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301595(P2008−301595)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】