スルホンアミド化合物塩の製造方法
【課題】(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン塩の製造方法を提供する。
【解決手段】粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶の製造方法であって、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の塩酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む方法。
【解決手段】粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶の製造方法であって、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の塩酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なスルホンアミド化合物塩の製造方法に関する。より詳しくは医薬の有効成分として有用な(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン並びにその1塩酸塩及び1臭化水素酸塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミオシン制御軽鎖のリン酸化を阻害し、眼圧降下作用及び好中球の遊走阻害作用等を有するスルホンアミド誘導体が知られており(国際公開WO2007/026664号パンフレット)、このスルホンアミド誘導体は緑内障などの予防及び/又は治療のための医薬の有効成分として有用であることが明らかにされている。
【0003】
しかしながら、国際公開WO2007/026664号パンフレットには、下記の式(1)で表される遊離形態の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンは開示されていない(以下、本明細書においてこの遊離形態の化合物を「化合物1」と呼ぶ場合がある)。
【化1】
【0004】
国際公開WO2007/026664号パンフレットには上記化合物1の塩酸塩が開示されており、該塩酸塩はtert−ブトキシカルボニル化された上記化合物1を過剰の塩酸で処理してtert−ブトキシカルボニル基を除去することにより製造されているが(実施例19−3)、上記刊行物には単に製造方法が記載されているにすぎず、得られた(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン塩酸塩に付加している塩酸の数、又は得られた塩酸塩の物理化学的性状などについては何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/026664号公報パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを医薬の有効成分として利用するにあたり、より好ましい性質を有する新規な形態の塩の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記国際公開WO2007/026664号パンフレットの実施例19−3記載の方法を忠実に追試することにより上記刊行物に記載された(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの塩酸塩を製造して、その物質の構造及び性状に関して研究を行った。その結果、当該塩酸塩は2つの塩酸が付加した塩、すなわち(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・2塩酸塩(以下、本明細書においてこの物質を「2塩酸塩」と呼ぶ場合がある)であることを確認した。そして、この2塩酸塩は60℃で2週間の安定性試験において性状に変化が認められること、及び25℃/84%RHの条件下における2週間の保存では性状の変化及び著しい吸湿性を示すことを確認した。
【0008】
一般に医薬の有効成分である物質に関しては、その物質の化学的又は物理的な安定性が医薬の有効性及び安全性に大きな影響を与えることが知られている。それゆえ、特に工業的規模の生産においては、温度や湿度に対してより安定な物質を医薬の有効成分として利用することが望ましい。また、そのような安定な物質を利用することにより、医薬の保存や流通段階における有効成分含有量の低下を防止し、有効性及び安全性を長期にわたって保証可能な医薬を安定に供給できる。
【0009】
このような観点から、本発明者らは、上記化合物1を医薬として利用するに際して、より好ましい性質、特に安定性及び吸湿性において上記2塩酸塩よりも改善された性質を有する塩の形態の物質を提供すべく研究を行った。その結果、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩(以下、本明細書においてこの物質を「1塩酸塩」と呼ぶ場合がある)及び(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩(以下、本明細書においてこの物質を「1臭化水素酸塩」と呼ぶ場合がある)がともに高い安定性を有しており、かつ吸湿性が低いことを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明により以下の物質が提供される。
(1)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩。
(2)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩。
(3)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(4)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(5)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
【0011】
(6)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約9.1°、13.8°、21.0°、21.7°及び23.6°からなる群から選ばれる1以上の位置に主たるピークを有する前記(3)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(7)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約9.1°、13.8°、21.0°、21.7°及び23.6°の位置に主たるピークを有する前記(3)又は(6)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(8)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約1335、1146、1139、1096、及び609cm-1の位置に主たるピークを有する前記(3)、(6)、又は(7)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(9)示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約106℃に融解ピークを有する前記(3)、(6)、(7)、又は(8)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
【0012】
(10)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°からなる群から選ばれる1以上の位置に主たるピークを有する前記(4)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(11)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に主たるピークを有する前記(4)又は(10)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(12)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約1330、1150、1140、及び613cm-1の位置に主たるピークを有する前記(4)、(10)、又は(11)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(13)示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約290℃に分解ピークを有する前記(4)、(10)、(11)、又は(12)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
【0013】
(14)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約21.3°、22.4°、24.1°、30.7°、及び34.8°からなる群から選ばれる1以上の位置に主たるピークを有する前記(5)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
(15)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約21.3°、22.4°、24.1°、30.7°、及び34.8°の位置に主たるピークを有する前記(5)又は(14)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
(16)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約2695、1307、1149、1139、及び612cm-1の位置に主たるピークを有する前記(5)、(14)、又は(15)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
(17)示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約270℃に分解ピークを有する前記(5)、(14)、(15)、又は(16)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
【0014】
(18)(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジンを溶媒中で酸と反応させることにより調製した、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを含む酸性条件下の溶液に、塩基を添加して中和することにより析出する固体を単離する工程を含む前記(3)又は(6)〜(9)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶の製造方法。
(19)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの2ハロゲン化水素酸塩の溶液に塩基を添加して中和することにより(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを調製し、該化合物が溶解しにくい貧溶媒中で析出させた該化合物の固体を単離する工程を含む前記(3)又は(6)〜(9)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶の製造方法。
【0015】
(20)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の塩酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む前記(4)又は(10)〜(13)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶の製造方法。
(21)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の臭化水素酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む前記(5)又は(14)〜(17)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶の製造方法。
(22)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩、又は(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩を有効成分として含む医薬組成物。
(23)前記(4)又は(10)〜(13)のいずれかに記載の結晶を有効成分として含む医薬組成物。
(24)前記(5)又は(14)〜(17)のいずれかに記載の結晶を有効成分として含む医薬組成物。
(25)1塩酸塩を含有する組成物において、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン、及びその塩、並びにそれらの溶媒和物の総質量を100%とし、その中に占める1塩酸塩の質量割合が、約20%若しくはそれ以上である組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法により提供される(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩及び(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩は、国際公開WO2007/026664号パンフレットの実施例19−3記載の方法により製造される2塩酸塩に比べて高い安定性を有しており、かつ吸湿性が低いという特徴を有する。従って、これらの物質を医薬の有効成分として利用することにより、保存や流通段階における有効成分含有量の低下が抑制された医薬を提供することができ、有効性及び安全性を長期にわたって保証可能な医薬を安定に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の記載に準ずる方法で得られた化合物1の示差走査熱分析のスペクトルを示した図である。
【図2】実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の示差走査熱分析のスペクトルを示した図である。
【図3】実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の示差走査熱分析のスペクトルを示した図である。
【図4】実施例1記載の方法で得られた化合物1の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図5】実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図6】実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図7】2塩酸塩の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図8】実施例1に記載の方法で得られた化合物1の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図9】実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図10】実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図11】2塩酸塩の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この出願は、2007年7月2日に日本国に出願された特願2007−174323号及び2008年3月6日に米国に仮出願された61/034,222号に優先権を主張してなされた特許出願である。これらの出願の明細書、請求の範囲、及び図面の全ての開示を参照により本明細書の開示として含める。
【0019】
化合物1は、例えば、WO2007/026664号パンフレットに記載の方法に従って得られる(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジンを溶媒中で大過剰の酸と反応させてtert−ブトキシカルボニル基を脱離した後、当該溶液に塩基を添加することにより析出した固体を単離することにより製造することができる。
【0020】
tert−ブトキシカルボニル基の脱離に用いる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、若しくは2−プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトニトリル、又はジクロロメタンなどが好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、メタノール、エタノール、又は2−プロパノールがより好ましい。また、水と2−プロパノールとを混合して使用することが特に好ましい。水と2−プロパノールの混合割合としては1:10〜10:1程度が例示されるが、1:1〜10:1がより好ましく、2:1〜6:1が特に好ましい。
【0021】
tert−ブトキシカルボニル基を脱離するために用いる酸の種類は特に限定されず、通常用いられる鉱酸又は有機酸等を使用することができるが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、リン酸、又はトリフルオロ酢酸等が好ましく、塩酸又はトリフルオロ酢酸がより好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0022】
tert−ブトキシカルボニル基を脱離するために用いる酸の量は特に限定されず、脱離反応が十分に進行する程度まで添加すればよい。例えば、化合物1に対して2当量以上が例示され、2.0〜10.0当量がより好ましく、2.0〜5.0当量が特に好ましい例として挙げられる。
反応温度は、例えば10℃〜溶媒の還流温度までの適当な温度が選択され、30〜70℃がより好ましい例として挙げられる。反応時間は、通常は0.1〜24時間程度が例示され、0.5〜10時間がより好ましく、1〜5時間が特に好ましい例として挙げられるが、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により反応経過を追跡することが可能であり、通常は化合物1の収量が最大となるところで適宜反応を終了させることにより、化合物1の酸性溶液を調製することができる。
【0023】
生成した化合物1を析出させる目的で化合物1の酸性溶液に添加する塩基の種類は特に限定されないが、例えば、無機塩基が好ましい。無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、又はカリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属塩基などが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがより好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。これらは固体としてそのまま用いることもできるが、あらかじめ水あるいはメタノール、エタノール、又は2−プロパノールなどのアルコール類に溶解して用いることもできる。あらかじめ一定の濃度の塩基を含む水溶液を調製して用いることにより、塩基の添加量を調節しやすいという利点がある。
【0024】
化合物1を析出させる際に用いる晶析溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール、若しくは2−プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトニトリル、又はジクロロメタンなどが好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、水、メタノール、エタノール、又は2−プロパノールがより好ましい。また、水と2−プロパノールとを混合して使用することが特に好ましい。水と2−プロパノールの混合割合としては1:10〜10:1程度が例示されるが、1:1〜10:1がより好ましく、2:1〜6:1が特に好ましい。tert−ブトキシカルボニル基を脱離する際に用いる反応溶媒と異なる溶媒を晶析溶媒として使用する場合は、濃縮などの方法で溶媒を置換することも可能である。
【0025】
添加する塩基の量は特に限定されず、化合物1の固体の収量が好適となる量を添加すればよいが、通常は加えた酸1当量に対して約1当量以上が例示される。添加する塩基の量は溶液のpHによって選択することも可能である。通常は、溶液のpHを7以上に調節することが好ましく、pH8〜12がより好ましい例として挙げられる。
塩基を添加する際の温度としては、0℃〜溶液の沸点以下の適当な温度であれば特に限定されないが、10〜40℃の範囲がより好ましい。
【0026】
塩基を加えた後の化合物1の析出濃度は、用いる溶媒の種類や混合溶媒の場合にはその比率によっても異なるが、下限としては一般的に1w/v%以上、好ましくは5w/v%以上が挙げられる。上限としては、30w/v%以下が好ましく、15w/v%以下がより好ましい例として挙げられる。例えば、溶媒として水と2−プロパノールとの混合溶媒を用いる場合には、それらの比率が4:1〜6:1、析出濃度は5w/v%〜10w/v%が好ましく、約8w/v%がさらに好ましい例として挙げられる。
なお、化合物1の固体を析出させるに際して、塩基を加えた後の溶液に、少量の化合物1を種晶として添加することも好ましい態様として挙げられる。
【0027】
析出した化合物1を単離する方法としては、ろ過やデカンテーション等の公知の方法が挙げられるが、通常はろ過により単離することが好ましい。化合物1のろ過による単離は、塩基を添加した直後に行うことも可能であるが、固体の析出が定常状態となった以降に行うことが好ましく、例えば、塩基の添加後1時間以降に行うことが好適であり、添加後3時間以降に行うことがさらに好適である。
【0028】
析出した化合物1を単離する際に、塩基を加えた溶液を冷却してから単離することも可能である。冷却する方法としては、急激に冷却する方法、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、又は放冷する方法などが挙げられるが、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、又は放冷する方法などがより好ましい。冷却する温度は、通常0〜20℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
単離した化合物1は通常行われる乾燥方法、例えば減圧乾燥、減圧加温乾燥、送風加温乾燥、又は風乾などにより乾燥することができるが、減圧加温乾燥又は送風加温乾燥が特に好ましい。乾燥に際して、加温する場合には、通常は室温以上の温度が選択されるが、40〜60℃がより好ましい。また、乾燥にかける時間は、溶媒の残留が好適となるまで行えばよいが、例えば、10時間以上が好ましい。
【0029】
上記の製造方法のうち、好ましい態様として以下の方法が挙げられる。
水と2−プロパノールとの割合が2:1〜6:1である混合溶媒に、(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジンと該化合物に対して3.0当量の塩酸とを加えて、攪拌下50〜65℃の温度で1〜3時間反応することにより、化合物1の酸性溶液を調製する。この酸性溶液に、攪拌下、20〜35℃の温度で水酸化ナトリウムを添加することによりpHを8〜10に調整した後、さらに1〜20時間攪拌し、析出した固体を単離する。この単離した固体を、50℃で10時間以上減圧乾燥することにより、化合物1の結晶を得る。
【0030】
また、化合物1は、WO2007/026664号パンフレットの実施例19−3記載の方法に従って得られた2塩酸塩を適当な溶媒中で塩基と反応させて付加している塩酸を解離させ化合物1を含む溶液を調製した後、溶媒を濃縮によって除去し、残渣に化合物1が溶解し難い貧溶媒を添加することにより化合物1を析出させて単離することもできる。
【0031】
2塩酸塩からの塩酸の解離に用いる反応溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、若しくは2−プロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトニトリル、又はジクロロメタンなどが好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、水、メタノール、エタノール、又は2−プロパノールがより好ましく、水が特に好ましい。
【0032】
2塩酸塩から塩酸を解離する目的で添加する塩基としては、前述の化合物1の酸性溶液に添加する塩基を用いることができる。添加する塩基の量としては、通常は、2塩酸塩1当量に対して1.6当量以上が好ましく、2〜4当量がより好ましい。塩基を添加する際の温度としては、0℃〜溶媒の沸点以下の適当な温度であれば特に限定されないが、5〜25℃の範囲がより好ましい。塩基を添加する方法としては、通常、溶液を攪拌しながら一度に加えることができるが、数回に分けて加えてもよく、滴下などの方法で時間をかけて連続的に加えても良い。
【0033】
濃縮による溶媒の除去に際しては、あらかじめ、抽出などにより沸点の低い溶媒に置換してから濃縮することも可能である。例えば、上述の方法で調製した化合物1を含む水溶液からジクロロメタン等の有機溶媒を用いて化合物1を抽出し、減圧下でジクロロメタンを留去する方法を好ましい例として挙げることができる。
【0034】
残渣から化合物1を析出させるために添加する貧溶媒(化合物1が溶解し難い溶媒)としては、水、酢酸エチル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、又はジイソプロピルエーテル等が挙げられ、酢酸エチル又はn−ヘキサンがより好ましい。また、必要に応じてこれらを混合して用いることもできる。
析出した化合物1は上記に説明した方法により単離して、必要に応じて乾燥することができる。
化合物1の構造は核磁気共鳴スペクトルにおける1H−1H相関、13C−13C相関及び1H−13C相関等及び/又は質量スペクトルの解析により確認可能である。例えば、核磁気共鳴スペクトルにおける1H−1H相関、及び質量スペクトルのプロトン化体の(m/Z)値(326)によりその構造を確認することができる。
【0035】
1塩酸塩は化合物1を溶解した溶液に塩酸を添加し、析出する結晶を単離することにより製造することができる。化合物1は結晶又は非晶(アモルファス)、あるいはそれらの混合物のいずれの形態であってもよい。化合物1を溶解するための溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、若しくは2−プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、又はアセトニトリル等が好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、メタノール、エタノール、1−プロパノール、又は2−プロパノールなどがより好ましく、エタノール又は2−プロパノールは特に好ましい。また、これらの溶媒は容量比率として約30%以下の割合で水を含んでいてもよい。
【0036】
上述の溶媒を用いて化合物1を溶解する際に加える溶媒の量は、用いる溶媒の種類、混合溶媒の場合はその比率によっても異なるが、用いた溶媒の沸点以下の温度で化合物1が溶解する量が好ましく、さらには、得られる結晶の収量の点などから溶媒の沸点付近で化合物1が溶解し飽和濃度となる量を用いるのが特に好ましい。より具体的には、例えば溶媒として2−プロパノールを用いる場合には、10gの化合物1に対して100〜200mlの2−プロパノールを加えて60℃以上に加温する方法が好ましく、エタノールを用いる場合には10gの化合物1に対して70〜150mlのエタノールを加えて60℃以上に加温する方法が好ましい例として挙げられる。また不溶物が存在する場合、ろ過などの操作により溶液から不溶物を取り除くことが好ましい。
【0037】
1塩酸塩の結晶を析出させる目的で上述の溶液に加える塩酸の量は、通常は、化合物1に対して0.5〜2当量の範囲が好ましく、0.8〜1.5当量がより好ましく、0.9〜1.2当量が特に好ましく、0.95〜1.05当量が非常に好ましい例として挙げられる。1塩酸塩が優先的に析出する溶媒を選択する場合には、2当量以上の塩酸を加えることも可能である。例えば、エタノール又は2−プロパノールを溶媒として選択する場合には、塩酸の量として0.5〜10当量の範囲が好ましい例として挙げられ、0.5〜5当量の範囲がさらに好ましい例として挙げられる。加える塩酸は水又は上述の溶媒に溶解させて用いることもできる。あらかじめ一定の濃度に調製した塩酸水溶液を用いる場合は加える量を調節しやすい点から好ましい。
【0038】
塩酸を加える際の温度としては、0℃〜溶媒の沸点以下の適当な温度であれば特に限定されないが、化合物1が飽和濃度になる温度以上の温度が好ましい。具体的には、例えば10gの化合物を100〜200mlの2−プロパノールに溶解させる場合には、5規定の塩酸水溶液を40〜60℃で添加することが好ましい。
塩酸を加える方法は特に限定されず、通常は溶液を攪拌しながら一度に加えることができるが、数回に分けて加えてもよく、滴下などの方法で時間をかけて連続的に加えてもよい。
【0039】
結晶を析出させるに際して、塩酸を加えた後の溶液に少量の1塩酸塩の結晶を種晶として添加する方法、さらには塩酸を加えた後の溶液を冷却する方法も好ましい態様と挙げられる。冷却する方法としては、急激に冷却する方法、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などが挙げられるが、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などがより好ましい例として挙げられる。
【0040】
塩酸を加えた後の結晶が析出する際の最終的な1塩酸塩の濃度は、用いる溶媒の種類、混合溶媒の場合はその比率によっても異なるが、下限としては一般的に0.5w/v%以上、好ましくは1w/v%以上が挙げられる。上限としては、20w/v%以下が好ましく、10w/v%以下がより好ましい例として挙げられる。具体的には、例えば、晶析溶媒として水と2−プロパノールとの混合溶媒(比率が1:9〜0.5:9.5)を用いる場合には、最終的な濃度が2.5w/v%〜10w/v%であることが好ましく、5w/v%〜7.5w/v%であることがさらに好ましい例として挙げられる。
【0041】
析出した結晶を単離する方法としては、ろ過やデカンテーション等の公知の方法が挙げられるが、通常は、ろ過により単離することが好ましい。結晶の単離は、塩酸を添加した直後に行うことも可能であるが、結晶の析出が定常状態となった以降に行うことが好ましく、例えば、添加後1時間以降に行うことが好適であり、添加後3時間以降に行うことがさらに好適である。
【0042】
析出した結晶を採取する際に、結晶の析出が定常状態となった溶液を冷却してから結晶を採取することは得られる結晶の収量の点などから好ましい。冷却する方法としては、急激に冷却する方法、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などが挙げられるが、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などがより好ましい。冷却する温度は、通常0〜20℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
【0043】
ろ過により結晶を単離した後、化合物1の溶解に使用した溶媒、例えばエタノール、2−プロパノール、又は水とそれらの混合液により結晶を洗浄することができ、これは不純物を取り除く操作として有効である。洗浄方法としては、濾過器上の結晶を溶媒ですすぐ方法、あるいは溶媒に結晶を投入して懸濁液とし、これを十分攪拌した後再度結晶を濾過により取得する方法が例示される。さらに、上記の2つの洗浄を両方行うことも有効である。
採取した結晶は通常行われる乾燥方法、例えば減圧乾燥、減圧加温乾燥、送風加温乾燥、風乾などにより乾燥することができる。
【0044】
上記製造方法のうち、好ましい例として、化合物1の2−プロパノール懸濁液を50〜60℃に加温して化合物1を溶解させ、この溶液に、攪拌下、20〜60℃で化合物1に対して1当量の塩酸を滴下し、さらに1〜20時間攪拌して結晶を得る方法を挙げることができる。
1臭化水素酸塩は化合物1を溶解した溶液に、臭化水素酸を添加することにより析出する結晶を単離することにより製造することができ、この方法は前記の1塩酸塩の製造方法において塩酸の代わりに臭化水素酸を用いることにより同様に行うことができる。
【0045】
化合物1と塩を形成している酸の種類及び付加した酸の個数を評価するには、イオン交換クロマトグラフィーで化合物1当たりに付加した酸の個数を計算すればよい。例えば、DIONEX IonPacAS14、内径4mm 長さ25cmのようなイオン交換クロマトグラフィー用カラムを用いてイオン交換により付加酸を解離し、電気伝導度検出器を用いて既知のイオン標準溶液のピーク面積と比較することにより酸を定量し、化合物1当たりの付加酸の個数を計算する方法である。
また、元素分析による元素量の定量等の手法によっても化合物1と塩を形成している酸の種類及び付加した酸の個数を評価することができる。また、単一結晶であるならば、X線構造解析においても化合物1と塩を形成している酸の種類、酸の個数を評価することができる。
【0046】
イオンクロマトグラフィーにより測定される付加した酸の個数が各種の要因により若干の測定誤差を生じる場合があることは当業者に周知である。化合物1当たりの付加酸の個数は通常は±0.2個、より好ましい測定においては±0.1個の測定誤差が許容される。
【0047】
1塩酸塩又は1臭化水素酸塩(以下、これらを「塩の形態の物質」と呼ぶ場合がある)の確認試験としては、粉末X線回折法を用いてもよい。さらに赤外吸収スペクトルを測定してもよく、より具体的には粉末を用いて赤外吸収スペクトルを測定する方法が挙げられ、例えば、日本薬局方の一般試験法「赤外吸収スペクトル測定法」記載の臭化カリウム錠剤法を選択することができる。
【0048】
化合物1又は塩の形態の物質の純度を評価するときは、HPLC法における面積百分率法が簡便である。化合物1又は塩の形態の物質の水分を評価する場合は、日本薬局方の一般試験法「水分測定法」記載の容量滴定法、電量滴定法、又は乾燥減量測定法などを用いることができるが、試料重量が少ない場合には電量滴定法を選択することが好ましい。
【0049】
製剤中に含まれる化合物1又は塩の形態の物質の存在量を測定する必要がある場合には、通常はHPLCを用いることが簡便であり好ましい。例えば、化合物1について化学的純度既知の化合物1の標準品を用いてHPLC法により検量線を作成し、この検量線に基づき試料中の化合物1の存在量を定量することができる。
【0050】
粉末X線回折スペクトル測定に用いる光学系としては、一般的な集中法光学系又は平行ビーム法光学系が例示される。用いる光学系としては特に限定されることはないが、分解能や強度を確保したい場合には集中法光学系を用いて測定することが好ましい。また、結晶の形状(針状、板状等)によって一定の方向を向いてしまう現象である配向を抑えたい場合には平行ビーム法光学系を用いて測定することが好ましい。集中法光学系の測定装置としては、XRD−6000(島津製作所社製)又はMultiFlex(リガク社製)等が例示される。また、平行ビーム法光学系の測定装置としてはXRD−7700(島津製作所社製)又はRINT2200Ultima+/PC(リガク社製)等が例示される。
【0051】
粉末X線回折スペクトルにおける2θ値が各種の要因により若干の測定誤差を生じる場合があることは当業者に周知である。通常は±0.3°、典型的には±0.2°、より好ましい測定においては±0.1°程度の測定誤差が許容される。従って、本明細書において2θ値について「約」を付加して表現した数値については、許容し得る測定誤差を包含しうるものであることが当業者に理解されよう。
【0052】
示差走査熱量分析により得られる測定値は測定対象の結晶について固有の数値であることは当業者に周知であるが、実際の測定においては測定誤差の他、場合によって許容し得る量の不純物の混入等の原因による融点の変動が生じる可能性があることも当業者に周知である。従って、当業者は、本明細書に記載された示差走査熱量分析のピーク温度の実測値が場合によって変動し得ることを理解することができ、その変動幅が、例えば±5℃程度、典型的には±3℃程度、好ましい測定においては±2℃程度であることも理解することができる。示差走査熱量分析に用いる測定装置としては、PYRIS Diamond DSC(パーキンエルマー社製)、又はDSC3200(ブルカー・エイエックスエス社製)等が例示される。
【0053】
赤外吸収スペクトル波数においても若干の測定誤差が許容されており、本明細書に記載された数値についてこのような測定誤差を含むことが許容されることは当業者に容易に理解されることである。例えば、ヨーロッパ薬局方第4版によれば、赤外吸収スペクトルによる確認試験における参照スペクトルとの比較において、波数スケールの±0.5%以内での一致を許容している。本明細書において上記判断基準に拘泥するものではないが、例えば一つの判断基準として波数スケールに対して±0.8%程度、好ましくは±0.5%程度、特に好ましくは±0.2%程度の測定誤差が許容される。
【0054】
化合物1又は塩の形態の物質の熱安定性は、例えば、ガラスバイアル等に試料を密閉し、暗所において例えば40〜80℃程度の苛酷な温度下で一定期間保存した後に、化合物1又は塩の形態の物質の性状、純度、及び水分等を測定することにより評価できる。特に保存前後における純度の変化は熱安定性の重要な指標となる。例えば、保存条件を60℃として評価することが好ましい。
【0055】
化合物1又は塩の形態の物質の吸湿性は、試料をガラス製の秤量皿に入れ、開放状態で暗所において例えば温度25〜40℃、湿度75〜94%程度の加湿条件下で一定期間保存した後に、化合物1又は塩の形態の物質の性状、純度、及び水分等を測定することにより評価できる。特に保存前後における水分の増加量は吸湿性の重要な指標となる。例えば、保存条件を25℃/84%RHとして評価することが好ましい。
【0056】
1塩酸塩を含有する組成物において、1)1塩酸塩の割合が0%を越えていること、2)1塩酸塩の割合が0%である以外は同等の組成物に対して1塩酸塩の効果が少しでも確認されること、の条件を満たす組成物であれば、いずれの組成物も本発明の範囲内であることは言うまでもないが、1塩酸塩が極微量でも検出される組成物は本発明の範囲内である。
【0057】
1塩酸塩を含有する組成物において、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン、及びその塩、並びにそれらの溶媒和物に着目し、それらの総質量を100%とした場合に、その中に占める1塩酸塩の質量割合としては、通常、約90%若しくはそれ以上が好ましく、100%付近がより好ましい。
【0058】
2塩酸塩との組成物における吸湿性の制御の観点からは、少なくとも1塩酸塩が20%含有されていれば吸湿性の制御の効果が認められることから、少なくとも約20%若しくはそれ以上の割合が好ましい態様として挙げられる。
また、2塩酸塩との組成物における経時的な着色の抑制の観点からは、1塩酸塩が約60%あるいはそれ以上含有されていることが好ましく、約80%あるいはそれ以上含有されていることがより好ましいという態様が挙げられる。
1臭化水素酸塩を含有する組成物についても1塩酸塩と同様である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[実施例1](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン
WO2007/026664号パンフレットに記載の方法に従って得られた(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジン(370g)を、2−プロパノール(740ml)及び水(1261ml)の混合溶液に懸濁させた。この懸濁液を23℃で攪拌しながら塩酸(35%、比重1.18)(271g、金森産業)を加えた後、59.5℃まで加温し、攪拌下、2時間反応させた。反応終了後、反応液を26〜28℃に保温し、攪拌下、2mol/l水酸化ナトリウム水溶液(1350ml)を滴下してpHを8.47に調整した後、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(1.42g)を種晶として26.0℃で添加した。さらに、20時間40分間攪拌しながら、18.0℃まで自然に冷却した。放置後のpHは8.18であり、2mol/l水酸化ナトリウム水溶液(150ml)を添加してpHを9.67に調整した。1時間攪拌した後、1.0℃まで4時間22分かけて冷却し、ヌッチェ(内径240mm、ろ紙No.131)を用いて析出した固体を吸引ろ過した。得られた淡褐色の湿固体を50℃で18時間減圧乾燥することにより、微褐色の標記化合物の結晶(259.3g)を得た。
【0060】
[実施例2](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン
WO2007/026664号パンフレットに記載の方法に従って得られた(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン2塩酸塩(1.50g)を水(32ml)に溶解した。この溶液を激しく撹拌し、氷冷下、2規定水酸化ナトリウム水溶液(4.13ml、和光純薬社製)をゆっくり滴下した。得られた懸濁液を室温でさらに1時間撹拌した後、塩化メチレン(30ml)を加え、有機層を分離した。さらに水層を塩化メチレン(30ml)で抽出し、併せた有機層を水(50ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、残渣に酢酸エチル(10ml)とn−ヘキサン(20ml)を加えた。析出した固体をろ取し、減圧下、50℃で20時間加熱乾燥することにより、標記化合物(1.07g)を得た。
【0061】
[実施例3](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩
実施例1で得た(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(150g)を2−プロパノール(2400ml)に懸濁し、61.5℃まで加温して溶解させた。メンブランフィルター(内径90mm、ADVANTEC PTFE 0.2μm)を用いて、この溶液をろ過し、ろ液を55℃に保温しながら塩酸(35%、比重1.18)(48.0g、金森産業)および精製水(261.4ml、福寿製薬)の混合溶液を300ml滴下した。55℃で44分間攪拌した後、2時間11分かけて、2.0℃まで冷却し、さらに1時間28分間攪拌した後、ヌッチェ(内径150mm、ろ紙No.5C)を用いて析出した結晶を吸引ろ過した。得られた淡褐色の湿結晶を50℃で14時間35分間減圧乾燥することにより、標記化合物(152g)を得た。
【0062】
[実施例4](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩
実施例1で得た(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(100mg)をエタノール(2.5ml)に溶解し、48%臭化水素酸(33.2μL、和光純薬社製)を加え、室温で17時間撹拌した。さらにエタノール(4ml)を加え、析出した固体をろ取し、減圧下、60℃で24時間加熱乾燥することにより、標記化合物を得た(93.5mg)。
【0063】
[試験例1]核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)
実施例1に記載の方法で得られた化合物0.02gをとり、内部基準物質としてテトラメチルシランを0.05%含むジメチルスルホキシド−d6(重水素化溶媒)0.6mlに溶かし、下記の条件にて核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ(ppm):1.95(1H,m)、2.13−2.19(2H,m)、2.33(3H,s)、3.31−3.33(2H,m)、3.49−3.53(3H,m)、7.84−7.88(1H,dd)8.48−8.50(1H,d)、8.63−8.65(1H,d)、8.76(1H,s)、9.41(1H,s)にピークを示し、それらピークの1H−1H相関は化合物1の構造を支持した。
【0064】
実施例3に記載の方法で得られた化合物 0.02gをとり、内部基準物質として3−トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム−d4を0.05%含む重水(重水素化溶媒)0.6mlに溶かし、下記の条件にて核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ(ppm):2.40−2.45(1H,m)、2.70−2.75(1H,m)、2.90(3H,s)、3.65−3.71(1H,m)、3.78−3.85(2H,m)、3.96−4.01(1H,m)、4.16−4.19(1H,m)、4.33(3H,s)、7.62−7.66(1H,dd)、8.05−8.09(2H,dd)、8.40(1H,s)、8.83(1H,s)にピークを示し、それらピークの1H−1H相関は1塩酸塩の構造を支持した。
条件
核磁気共鳴装置:JNM LA400(日本電子製)
発振周波数:400MHz
核種:1H
【0065】
[試験例2]質量スペクトル
実施例1に記載の方法で得られた化合物を下記の条件により質量スペクトルを測定したところ、(m/z)=326にプロトン化分子を検出し、その結果は化合物1の構造を支持した。
実施例3に記載の方法で得られた化合物を下記の条件により質量スペクトルを測定したところ、(m/z)=326にプロトン化分子を検出し、その結果は1塩酸塩の構造を支持した。
条件
質量分析装置:JMS−SX102(日本電子製)
イオン化法:FAB
検出イオン:正イオン
溶解溶媒:ジメチルスルホキシド
マトリックス:m−ニトロベンジルアルコール
【0066】
[試験例3]示差走査熱量分析
実施例1の記載に準ずる方法で得られた化合物について下記の条件により示差走査熱量分析を実施したところ、図1に示すスペクトルが得られ、107℃に融解ピークと思われる吸熱ピークが認められた。
条件
熱量分析計:PYRIS Diamond DSC
昇温条件:50℃より毎分10℃で250℃まで昇温する。
実施例3に記載の方法で得られた化合物について下記の条件により示差走査熱量分析を実施したところ、図2に示すスペクトルが得られ、290℃に分解ピークと思われる吸熱ピークが認められた。
条件
熱量分析計:PYRIS Diamond DSC
昇温条件:50℃より毎分10℃で350℃まで昇温する。
実施例4に記載の方法で得られた化合物について下記の条件により示差走査熱量分析を実施したところ、図3に示すスペクトルが得られ、270℃に分解ピークと思われる吸熱ピークが認められた。
条件
熱量分析計:PYRIS Diamond DSC
昇温条件:50℃より毎分10℃で350℃まで昇温する。
【0067】
[試験例4]イオン交換クロマトグラフィー
実施例1に記載の方法で得られた化合物を以下のイオン交換クロマトグラフィー条件で測定したところ、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン及びその他の陰イオンを認めず、実施例1に記載の方法で得られた化合物が(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(化合物1)であることが確認された。
実施例3に記載の方法で得られた化合物について以下のイオン交換クロマトグラフィー条件で塩化物の塩数を確認したところ、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1分子当たり1.0個の塩化物イオンを認め、この物質が(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(化合物1)に1個の塩酸が付加した塩(1塩酸塩)であることが確認された。
実施例4に記載の方法で得られた化合物について以下のイオン交換クロマトグラフィー条件で臭化物イオンの塩数を確認したところ、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1分子当たり1.0個の臭化物イオンを認め、この物質が(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(化合物1)に1個の臭化水素酸が付加した塩(1臭化水素酸塩)であることが確認された。
【0068】
条件
試料濃度100μg/ml
イオンクロマトグラフ:ダイオネクスICS−1000(日本ダイオネクス製)
検出器:電気伝導度検出器
カラム:DIONEX IonPacAS14、内径4mm 長さ25cm
ガードカラム:DIONEX IonPacAG14、内径4mm、長さ5cm
カラム温度:30℃
移動相:3.5mmol/l炭酸ナトリウムを含む1.0mmol/l炭酸水素ナトリウム水溶液
流量:約1.2ml/min
注入量:10μl
サプレッサー:ASRS−ULTRA(リサイクルモード:SRS 24mA)
【0069】
[試験例5]粉末X線測定
実施例1に記載の方法で得られた化合物1について以下の条件で粉末X線を測定したところ、図4に示す回折スペクトルを得た。この粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが9.1°、13.8°、21.0°、21.7°、及び23.6°の位置に特徴的な主たるピークを認めた。また、17.4°、20.5°、26.3°、28.0°、及び30.2°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも化合物1に特徴的なピークと判断された。さらに、24.1°、25.7°、28.7°、32.7°、38.3°、及び42.0°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも化合物1に特徴的なピークと考えることができる。
【0070】
実施例3に記載方法で得られた1塩酸塩について以下の条件で粉末X線を測定したところ、図5に示す回折スペクトルを得た。この粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に特徴的な主たるピークを認めた。また、14.3°、28.2°、29.3°、30.8°、及び36.0°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1塩酸塩に特徴的なピークと考えることができる。さらに、8.9°、18.4°、36.4°、及び39.1°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1塩酸塩に特徴的なピークと考えることができる。
【0071】
実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩を以下の条件で粉末X線を測定したところ、図6に示す回折スペクトルを得た。この粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが21.3°、22.4°、24.1°、30.7°及び34.8°の位置に特徴的な主たるピークを認めた。また、13.8°、21.7°、27.3°、28.6°、及び29.1°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1臭化水素酸塩に特徴的なピークと考えることができる。さらに、16.8°、19.4°、25.6°、27.1°、及び36.0°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1臭化水素酸塩に特徴的なピークと考えることができる。
【0072】
化合物1、1塩酸塩、及び1臭化水素酸塩は肉眼による形状観察からも結晶と判断されたが、上記粉末X線回折分析によって結晶であることが確認された。また、化合物1、1塩酸塩、及び1臭化水素酸塩は図7に示した2塩酸塩の粉末X線回折スペクトルと比較して異なるスペクトルを与えることも確認された。
測定条件
X線解析装置:XRD−6000(島津製作所製)又はRINT2200Ultima+/PC(リガク社製)
X線源:CuKα(40kV30mA)
操作モード:連続
スキャン速度:2°/分
走査駆動軸:θ−2θ
走査範囲:5°−60°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.30mm
【0073】
[試験例6]赤外吸収スペクトル
実施例1に記載の方法で得られた化合物1について以下の条件で赤外吸収スペクトルを測定したところ、図8に示すスペクトルを得た。この赤外吸収スペクトルにおいて、波数1335、1146、1139、1096、及び609cm-1の位置に特徴的な吸収を認めた。また、1219、1156、1130、1033、1027、1000、766、742、及び584cm-1の位置にも吸収を認め、これらのうちのいずれか1以上の吸収は化合物1の特徴的な吸収と考えることができる。
【0074】
実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩について以下の条件で赤外吸収スペクトルを測定したところ、図9に示すスペクトルを得た。この赤外吸収スペクトルにおいて、波数1330、1150、1140、及び613cm-1の位置に特徴的な吸収を認めた。また、2747、2695、2690、1487、1091、1046cm-1の位置にも吸収を認め、これらのうちのいずれか1以上の吸収は1塩酸塩に特徴的な吸収と考えることができる。
【0075】
実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩について以下の条件で赤外吸収スペクトルを測定したところ、図10に示すスペクトルを得た。この赤外吸収スペクトルにおいて、波数2695、1307、1149、1139、612cm-1の位置に特徴的な吸収を認めた。また、2963、2932、2916、2909、2880、2807、2795、2751、1466、1222、1219、1089、及び1044cm-1の位置にも吸収を認め、これらのうちのいずれか1以上の吸収は1臭化水素酸塩に特徴的な吸収と考えることができる。
化合物1、1塩酸塩、及び1臭化水素酸塩は図11に示した2塩酸塩の赤外吸収スペクトルと比較して異なるスペクトルを与えることも確認された。
【0076】
測定条件
赤外分光光度計:FTIR−8300(島津製作所製)
測定法:臭化カリウム錠剤法
対照:臭化カリウム錠剤
ゲイン:auto
アパチャー:auto
最小波数:400cm-1
最大波数:4000cm-1
積算回数:45回
検出器:standard
アポダイズ関数:Happ−Genzel
分解:2cm-1
ミラー速度:2.8
【0077】
[試験例7]純度試験
以下の条件で高速液体クロマトグラフィーにより実施例1に記載の方法で得られた化合物1の純度を測定したところ、12〜13分に(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンのピークを認め、その純度は99.9%であった。
同様に実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の純度を測定したところ、12〜13分に(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンのピークを認め、その化合物の純度は99.4%であった。
同様に実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の純度を測定したところ、12〜13分に(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンのピークを認め、その純度は99.7%であった。
【0078】
高速液体クロマトグラフィー条件
高速液体クロマトグラフ装置:LC−10Aシリーズ(島津製作所製)またはAgilent1100シリーズ(アジレントテクノロジーズ製)
溶液濃度:500μg/ml
注入量:10μl
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:245nm)
カラム:XBridge Shield RP18 5μm 内径4.6mm、長さ15cm(Waters製)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:20mmol/lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
移動相B:アセトニトリル
送液プログラム:移動相Aおよび移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
流量:1.0ml/分
【0079】
【表1】
【0080】
[試験例8]水分測定
日本薬局方の一般試験法「水分測定法」に規定された「電量滴定法」に従い、以下の条件にて実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩及び実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の水分を測定したところ、1塩酸塩の水分は0.20%、1臭化水素酸塩の水分は0.14%であった。
条件
水分測定装置:AQ−7(平沼産業製)
試料量:5mg
陽極液:アクアライトRS(シグマ−アルドリッチ社製)
陰極液:アクアライトCN(シグマ−アルドリッチ社製)
【0081】
[試験例9]熱安定性試験
実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩、実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩、及び対照として2塩酸塩のそれぞれ40mgをガラスバイアルに量り、ガラスアンプルを密閉した。この試料を60℃の暗所で2週間〜4週間保存し、保存後に性状を肉眼で判定した。また、試験例7の条件で純度を測定し、試験例8の条件で水分を測定した。
2塩酸塩では60℃、2週間の保存において性状の変化が認められた。一方、1塩酸塩及び1臭化水素酸塩では60℃、4週間の保存においても性状変化及び純度低下は認められなかった。
【0082】
【表2】
【0083】
[試験例10]吸湿性試験1
実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩、実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩、及び対照として2塩酸塩のそれぞれ40mgをガラスの秤量皿に量り、この試料を25℃/84%RHの暗所で2週間〜4週間保存した。保存後、性状を肉眼で判定した。また、試験例7の条件で純度を測定し、試験例8の条件で水分を測定した。
2塩酸塩では25℃/84%RH、2週間の保存において明確な性状の変化が認められ、著しい吸湿も認められた。一方、1塩酸塩及び1臭化水素酸塩は、25℃/84%RH、4週間の保存においても性状の変化は認められず、実質的な水分上昇及び純度低下は認められなかった。
試験例9及び試験例10により1塩酸塩及び1臭化水素酸塩は2塩酸塩に比べて熱安定性が良好であり、且つ吸湿性も顕著に低いことが確認された。
【0084】
【表3】
【0085】
[試験例11]吸湿性試験2
実施例1の記載に準ずる方法で得られた化合物1(2種のロット)、実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩、2塩酸塩、及び1塩酸塩と2塩酸塩とを9:1、8:2、6:4、4:6、2:8の比率で混合したもの、それぞれ40mgずつを個別のガラスの秤量皿に量り、この試料を25℃/84%RHの暗所で2週間〜4週間保存した。保存後、性状を肉眼で判定した。また、試験例7の条件で純度を測定し、試験例8の条件で水分を測定した。
化合物1は2ロットとも25℃/84%RH、2週間の保存において、吸湿が認められ、25℃/84%RH、4週間の保存によりさらなる吸湿が認められた。
1塩酸塩と2塩酸塩とを混合したものは、25℃/84%RH、2週間の保存において、2塩酸塩の比率が40%以上で明確な性状の変化が認められた。また、2塩酸塩の比率の増加に従って吸湿が高くなることが認められた。
試験例11の結果より、1塩酸塩は化合物1(遊離状物)、及び1塩酸塩と2塩酸塩との混合物のいずれよりも吸湿性が低いことが確認された。また、2塩酸塩と1塩酸塩とを混合したものにおいて、1塩酸塩の混合比率が増えるに従って、該混合したものの吸湿性を下げることが確認された。
【0086】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の方法により提供される(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩及び(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩は高い安定性を有しており、かつ吸湿性が低いという特徴を有する。従って、これらの物質は保存や流通段階における有効成分含有量の低下が抑制された医薬の有効成分として有用であり、有効性及び安全性を長期にわたって保証可能な医薬の安定供給に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なスルホンアミド化合物塩の製造方法に関する。より詳しくは医薬の有効成分として有用な(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン並びにその1塩酸塩及び1臭化水素酸塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミオシン制御軽鎖のリン酸化を阻害し、眼圧降下作用及び好中球の遊走阻害作用等を有するスルホンアミド誘導体が知られており(国際公開WO2007/026664号パンフレット)、このスルホンアミド誘導体は緑内障などの予防及び/又は治療のための医薬の有効成分として有用であることが明らかにされている。
【0003】
しかしながら、国際公開WO2007/026664号パンフレットには、下記の式(1)で表される遊離形態の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンは開示されていない(以下、本明細書においてこの遊離形態の化合物を「化合物1」と呼ぶ場合がある)。
【化1】
【0004】
国際公開WO2007/026664号パンフレットには上記化合物1の塩酸塩が開示されており、該塩酸塩はtert−ブトキシカルボニル化された上記化合物1を過剰の塩酸で処理してtert−ブトキシカルボニル基を除去することにより製造されているが(実施例19−3)、上記刊行物には単に製造方法が記載されているにすぎず、得られた(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン塩酸塩に付加している塩酸の数、又は得られた塩酸塩の物理化学的性状などについては何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/026664号公報パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを医薬の有効成分として利用するにあたり、より好ましい性質を有する新規な形態の塩の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記国際公開WO2007/026664号パンフレットの実施例19−3記載の方法を忠実に追試することにより上記刊行物に記載された(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの塩酸塩を製造して、その物質の構造及び性状に関して研究を行った。その結果、当該塩酸塩は2つの塩酸が付加した塩、すなわち(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・2塩酸塩(以下、本明細書においてこの物質を「2塩酸塩」と呼ぶ場合がある)であることを確認した。そして、この2塩酸塩は60℃で2週間の安定性試験において性状に変化が認められること、及び25℃/84%RHの条件下における2週間の保存では性状の変化及び著しい吸湿性を示すことを確認した。
【0008】
一般に医薬の有効成分である物質に関しては、その物質の化学的又は物理的な安定性が医薬の有効性及び安全性に大きな影響を与えることが知られている。それゆえ、特に工業的規模の生産においては、温度や湿度に対してより安定な物質を医薬の有効成分として利用することが望ましい。また、そのような安定な物質を利用することにより、医薬の保存や流通段階における有効成分含有量の低下を防止し、有効性及び安全性を長期にわたって保証可能な医薬を安定に供給できる。
【0009】
このような観点から、本発明者らは、上記化合物1を医薬として利用するに際して、より好ましい性質、特に安定性及び吸湿性において上記2塩酸塩よりも改善された性質を有する塩の形態の物質を提供すべく研究を行った。その結果、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩(以下、本明細書においてこの物質を「1塩酸塩」と呼ぶ場合がある)及び(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩(以下、本明細書においてこの物質を「1臭化水素酸塩」と呼ぶ場合がある)がともに高い安定性を有しており、かつ吸湿性が低いことを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明により以下の物質が提供される。
(1)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩。
(2)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩。
(3)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(4)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(5)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
【0011】
(6)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約9.1°、13.8°、21.0°、21.7°及び23.6°からなる群から選ばれる1以上の位置に主たるピークを有する前記(3)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(7)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約9.1°、13.8°、21.0°、21.7°及び23.6°の位置に主たるピークを有する前記(3)又は(6)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(8)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約1335、1146、1139、1096、及び609cm-1の位置に主たるピークを有する前記(3)、(6)、又は(7)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
(9)示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約106℃に融解ピークを有する前記(3)、(6)、(7)、又は(8)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶。
【0012】
(10)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°からなる群から選ばれる1以上の位置に主たるピークを有する前記(4)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(11)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に主たるピークを有する前記(4)又は(10)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(12)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約1330、1150、1140、及び613cm-1の位置に主たるピークを有する前記(4)、(10)、又は(11)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
(13)示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約290℃に分解ピークを有する前記(4)、(10)、(11)、又は(12)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶。
【0013】
(14)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約21.3°、22.4°、24.1°、30.7°、及び34.8°からなる群から選ばれる1以上の位置に主たるピークを有する前記(5)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
(15)粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約21.3°、22.4°、24.1°、30.7°、及び34.8°の位置に主たるピークを有する前記(5)又は(14)に記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
(16)赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約2695、1307、1149、1139、及び612cm-1の位置に主たるピークを有する前記(5)、(14)、又は(15)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
(17)示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約270℃に分解ピークを有する前記(5)、(14)、(15)、又は(16)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶。
【0014】
(18)(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジンを溶媒中で酸と反応させることにより調製した、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを含む酸性条件下の溶液に、塩基を添加して中和することにより析出する固体を単離する工程を含む前記(3)又は(6)〜(9)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶の製造方法。
(19)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの2ハロゲン化水素酸塩の溶液に塩基を添加して中和することにより(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを調製し、該化合物が溶解しにくい貧溶媒中で析出させた該化合物の固体を単離する工程を含む前記(3)又は(6)〜(9)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンの結晶の製造方法。
【0015】
(20)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の塩酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む前記(4)又は(10)〜(13)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶の製造方法。
(21)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の臭化水素酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む前記(5)又は(14)〜(17)のいずれかに記載の(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶の製造方法。
(22)(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩、又は(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩を有効成分として含む医薬組成物。
(23)前記(4)又は(10)〜(13)のいずれかに記載の結晶を有効成分として含む医薬組成物。
(24)前記(5)又は(14)〜(17)のいずれかに記載の結晶を有効成分として含む医薬組成物。
(25)1塩酸塩を含有する組成物において、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン、及びその塩、並びにそれらの溶媒和物の総質量を100%とし、その中に占める1塩酸塩の質量割合が、約20%若しくはそれ以上である組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法により提供される(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩及び(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩は、国際公開WO2007/026664号パンフレットの実施例19−3記載の方法により製造される2塩酸塩に比べて高い安定性を有しており、かつ吸湿性が低いという特徴を有する。従って、これらの物質を医薬の有効成分として利用することにより、保存や流通段階における有効成分含有量の低下が抑制された医薬を提供することができ、有効性及び安全性を長期にわたって保証可能な医薬を安定に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の記載に準ずる方法で得られた化合物1の示差走査熱分析のスペクトルを示した図である。
【図2】実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の示差走査熱分析のスペクトルを示した図である。
【図3】実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の示差走査熱分析のスペクトルを示した図である。
【図4】実施例1記載の方法で得られた化合物1の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図5】実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図6】実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図7】2塩酸塩の粉末X線回折スペクトルを示した図である。
【図8】実施例1に記載の方法で得られた化合物1の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図9】実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図10】実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【図11】2塩酸塩の赤外吸収スペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この出願は、2007年7月2日に日本国に出願された特願2007−174323号及び2008年3月6日に米国に仮出願された61/034,222号に優先権を主張してなされた特許出願である。これらの出願の明細書、請求の範囲、及び図面の全ての開示を参照により本明細書の開示として含める。
【0019】
化合物1は、例えば、WO2007/026664号パンフレットに記載の方法に従って得られる(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジンを溶媒中で大過剰の酸と反応させてtert−ブトキシカルボニル基を脱離した後、当該溶液に塩基を添加することにより析出した固体を単離することにより製造することができる。
【0020】
tert−ブトキシカルボニル基の脱離に用いる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、若しくは2−プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトニトリル、又はジクロロメタンなどが好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、メタノール、エタノール、又は2−プロパノールがより好ましい。また、水と2−プロパノールとを混合して使用することが特に好ましい。水と2−プロパノールの混合割合としては1:10〜10:1程度が例示されるが、1:1〜10:1がより好ましく、2:1〜6:1が特に好ましい。
【0021】
tert−ブトキシカルボニル基を脱離するために用いる酸の種類は特に限定されず、通常用いられる鉱酸又は有機酸等を使用することができるが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、リン酸、又はトリフルオロ酢酸等が好ましく、塩酸又はトリフルオロ酢酸がより好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0022】
tert−ブトキシカルボニル基を脱離するために用いる酸の量は特に限定されず、脱離反応が十分に進行する程度まで添加すればよい。例えば、化合物1に対して2当量以上が例示され、2.0〜10.0当量がより好ましく、2.0〜5.0当量が特に好ましい例として挙げられる。
反応温度は、例えば10℃〜溶媒の還流温度までの適当な温度が選択され、30〜70℃がより好ましい例として挙げられる。反応時間は、通常は0.1〜24時間程度が例示され、0.5〜10時間がより好ましく、1〜5時間が特に好ましい例として挙げられるが、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により反応経過を追跡することが可能であり、通常は化合物1の収量が最大となるところで適宜反応を終了させることにより、化合物1の酸性溶液を調製することができる。
【0023】
生成した化合物1を析出させる目的で化合物1の酸性溶液に添加する塩基の種類は特に限定されないが、例えば、無機塩基が好ましい。無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、又はカリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属塩基などが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがより好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。これらは固体としてそのまま用いることもできるが、あらかじめ水あるいはメタノール、エタノール、又は2−プロパノールなどのアルコール類に溶解して用いることもできる。あらかじめ一定の濃度の塩基を含む水溶液を調製して用いることにより、塩基の添加量を調節しやすいという利点がある。
【0024】
化合物1を析出させる際に用いる晶析溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール、若しくは2−プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトニトリル、又はジクロロメタンなどが好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、水、メタノール、エタノール、又は2−プロパノールがより好ましい。また、水と2−プロパノールとを混合して使用することが特に好ましい。水と2−プロパノールの混合割合としては1:10〜10:1程度が例示されるが、1:1〜10:1がより好ましく、2:1〜6:1が特に好ましい。tert−ブトキシカルボニル基を脱離する際に用いる反応溶媒と異なる溶媒を晶析溶媒として使用する場合は、濃縮などの方法で溶媒を置換することも可能である。
【0025】
添加する塩基の量は特に限定されず、化合物1の固体の収量が好適となる量を添加すればよいが、通常は加えた酸1当量に対して約1当量以上が例示される。添加する塩基の量は溶液のpHによって選択することも可能である。通常は、溶液のpHを7以上に調節することが好ましく、pH8〜12がより好ましい例として挙げられる。
塩基を添加する際の温度としては、0℃〜溶液の沸点以下の適当な温度であれば特に限定されないが、10〜40℃の範囲がより好ましい。
【0026】
塩基を加えた後の化合物1の析出濃度は、用いる溶媒の種類や混合溶媒の場合にはその比率によっても異なるが、下限としては一般的に1w/v%以上、好ましくは5w/v%以上が挙げられる。上限としては、30w/v%以下が好ましく、15w/v%以下がより好ましい例として挙げられる。例えば、溶媒として水と2−プロパノールとの混合溶媒を用いる場合には、それらの比率が4:1〜6:1、析出濃度は5w/v%〜10w/v%が好ましく、約8w/v%がさらに好ましい例として挙げられる。
なお、化合物1の固体を析出させるに際して、塩基を加えた後の溶液に、少量の化合物1を種晶として添加することも好ましい態様として挙げられる。
【0027】
析出した化合物1を単離する方法としては、ろ過やデカンテーション等の公知の方法が挙げられるが、通常はろ過により単離することが好ましい。化合物1のろ過による単離は、塩基を添加した直後に行うことも可能であるが、固体の析出が定常状態となった以降に行うことが好ましく、例えば、塩基の添加後1時間以降に行うことが好適であり、添加後3時間以降に行うことがさらに好適である。
【0028】
析出した化合物1を単離する際に、塩基を加えた溶液を冷却してから単離することも可能である。冷却する方法としては、急激に冷却する方法、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、又は放冷する方法などが挙げられるが、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、又は放冷する方法などがより好ましい。冷却する温度は、通常0〜20℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
単離した化合物1は通常行われる乾燥方法、例えば減圧乾燥、減圧加温乾燥、送風加温乾燥、又は風乾などにより乾燥することができるが、減圧加温乾燥又は送風加温乾燥が特に好ましい。乾燥に際して、加温する場合には、通常は室温以上の温度が選択されるが、40〜60℃がより好ましい。また、乾燥にかける時間は、溶媒の残留が好適となるまで行えばよいが、例えば、10時間以上が好ましい。
【0029】
上記の製造方法のうち、好ましい態様として以下の方法が挙げられる。
水と2−プロパノールとの割合が2:1〜6:1である混合溶媒に、(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジンと該化合物に対して3.0当量の塩酸とを加えて、攪拌下50〜65℃の温度で1〜3時間反応することにより、化合物1の酸性溶液を調製する。この酸性溶液に、攪拌下、20〜35℃の温度で水酸化ナトリウムを添加することによりpHを8〜10に調整した後、さらに1〜20時間攪拌し、析出した固体を単離する。この単離した固体を、50℃で10時間以上減圧乾燥することにより、化合物1の結晶を得る。
【0030】
また、化合物1は、WO2007/026664号パンフレットの実施例19−3記載の方法に従って得られた2塩酸塩を適当な溶媒中で塩基と反応させて付加している塩酸を解離させ化合物1を含む溶液を調製した後、溶媒を濃縮によって除去し、残渣に化合物1が溶解し難い貧溶媒を添加することにより化合物1を析出させて単離することもできる。
【0031】
2塩酸塩からの塩酸の解離に用いる反応溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、若しくは2−プロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトニトリル、又はジクロロメタンなどが好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、水、メタノール、エタノール、又は2−プロパノールがより好ましく、水が特に好ましい。
【0032】
2塩酸塩から塩酸を解離する目的で添加する塩基としては、前述の化合物1の酸性溶液に添加する塩基を用いることができる。添加する塩基の量としては、通常は、2塩酸塩1当量に対して1.6当量以上が好ましく、2〜4当量がより好ましい。塩基を添加する際の温度としては、0℃〜溶媒の沸点以下の適当な温度であれば特に限定されないが、5〜25℃の範囲がより好ましい。塩基を添加する方法としては、通常、溶液を攪拌しながら一度に加えることができるが、数回に分けて加えてもよく、滴下などの方法で時間をかけて連続的に加えても良い。
【0033】
濃縮による溶媒の除去に際しては、あらかじめ、抽出などにより沸点の低い溶媒に置換してから濃縮することも可能である。例えば、上述の方法で調製した化合物1を含む水溶液からジクロロメタン等の有機溶媒を用いて化合物1を抽出し、減圧下でジクロロメタンを留去する方法を好ましい例として挙げることができる。
【0034】
残渣から化合物1を析出させるために添加する貧溶媒(化合物1が溶解し難い溶媒)としては、水、酢酸エチル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、又はジイソプロピルエーテル等が挙げられ、酢酸エチル又はn−ヘキサンがより好ましい。また、必要に応じてこれらを混合して用いることもできる。
析出した化合物1は上記に説明した方法により単離して、必要に応じて乾燥することができる。
化合物1の構造は核磁気共鳴スペクトルにおける1H−1H相関、13C−13C相関及び1H−13C相関等及び/又は質量スペクトルの解析により確認可能である。例えば、核磁気共鳴スペクトルにおける1H−1H相関、及び質量スペクトルのプロトン化体の(m/Z)値(326)によりその構造を確認することができる。
【0035】
1塩酸塩は化合物1を溶解した溶液に塩酸を添加し、析出する結晶を単離することにより製造することができる。化合物1は結晶又は非晶(アモルファス)、あるいはそれらの混合物のいずれの形態であってもよい。化合物1を溶解するための溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、若しくは2−プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル若しくは酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、又はアセトニトリル等が好ましく、必要に応じてこれらを混合して用いることができる。これらのうち、メタノール、エタノール、1−プロパノール、又は2−プロパノールなどがより好ましく、エタノール又は2−プロパノールは特に好ましい。また、これらの溶媒は容量比率として約30%以下の割合で水を含んでいてもよい。
【0036】
上述の溶媒を用いて化合物1を溶解する際に加える溶媒の量は、用いる溶媒の種類、混合溶媒の場合はその比率によっても異なるが、用いた溶媒の沸点以下の温度で化合物1が溶解する量が好ましく、さらには、得られる結晶の収量の点などから溶媒の沸点付近で化合物1が溶解し飽和濃度となる量を用いるのが特に好ましい。より具体的には、例えば溶媒として2−プロパノールを用いる場合には、10gの化合物1に対して100〜200mlの2−プロパノールを加えて60℃以上に加温する方法が好ましく、エタノールを用いる場合には10gの化合物1に対して70〜150mlのエタノールを加えて60℃以上に加温する方法が好ましい例として挙げられる。また不溶物が存在する場合、ろ過などの操作により溶液から不溶物を取り除くことが好ましい。
【0037】
1塩酸塩の結晶を析出させる目的で上述の溶液に加える塩酸の量は、通常は、化合物1に対して0.5〜2当量の範囲が好ましく、0.8〜1.5当量がより好ましく、0.9〜1.2当量が特に好ましく、0.95〜1.05当量が非常に好ましい例として挙げられる。1塩酸塩が優先的に析出する溶媒を選択する場合には、2当量以上の塩酸を加えることも可能である。例えば、エタノール又は2−プロパノールを溶媒として選択する場合には、塩酸の量として0.5〜10当量の範囲が好ましい例として挙げられ、0.5〜5当量の範囲がさらに好ましい例として挙げられる。加える塩酸は水又は上述の溶媒に溶解させて用いることもできる。あらかじめ一定の濃度に調製した塩酸水溶液を用いる場合は加える量を調節しやすい点から好ましい。
【0038】
塩酸を加える際の温度としては、0℃〜溶媒の沸点以下の適当な温度であれば特に限定されないが、化合物1が飽和濃度になる温度以上の温度が好ましい。具体的には、例えば10gの化合物を100〜200mlの2−プロパノールに溶解させる場合には、5規定の塩酸水溶液を40〜60℃で添加することが好ましい。
塩酸を加える方法は特に限定されず、通常は溶液を攪拌しながら一度に加えることができるが、数回に分けて加えてもよく、滴下などの方法で時間をかけて連続的に加えてもよい。
【0039】
結晶を析出させるに際して、塩酸を加えた後の溶液に少量の1塩酸塩の結晶を種晶として添加する方法、さらには塩酸を加えた後の溶液を冷却する方法も好ましい態様と挙げられる。冷却する方法としては、急激に冷却する方法、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などが挙げられるが、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などがより好ましい例として挙げられる。
【0040】
塩酸を加えた後の結晶が析出する際の最終的な1塩酸塩の濃度は、用いる溶媒の種類、混合溶媒の場合はその比率によっても異なるが、下限としては一般的に0.5w/v%以上、好ましくは1w/v%以上が挙げられる。上限としては、20w/v%以下が好ましく、10w/v%以下がより好ましい例として挙げられる。具体的には、例えば、晶析溶媒として水と2−プロパノールとの混合溶媒(比率が1:9〜0.5:9.5)を用いる場合には、最終的な濃度が2.5w/v%〜10w/v%であることが好ましく、5w/v%〜7.5w/v%であることがさらに好ましい例として挙げられる。
【0041】
析出した結晶を単離する方法としては、ろ過やデカンテーション等の公知の方法が挙げられるが、通常は、ろ過により単離することが好ましい。結晶の単離は、塩酸を添加した直後に行うことも可能であるが、結晶の析出が定常状態となった以降に行うことが好ましく、例えば、添加後1時間以降に行うことが好適であり、添加後3時間以降に行うことがさらに好適である。
【0042】
析出した結晶を採取する際に、結晶の析出が定常状態となった溶液を冷却してから結晶を採取することは得られる結晶の収量の点などから好ましい。冷却する方法としては、急激に冷却する方法、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などが挙げられるが、段階的に冷却する方法、時間をかけて徐々に冷却する方法、放冷する方法などがより好ましい。冷却する温度は、通常0〜20℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
【0043】
ろ過により結晶を単離した後、化合物1の溶解に使用した溶媒、例えばエタノール、2−プロパノール、又は水とそれらの混合液により結晶を洗浄することができ、これは不純物を取り除く操作として有効である。洗浄方法としては、濾過器上の結晶を溶媒ですすぐ方法、あるいは溶媒に結晶を投入して懸濁液とし、これを十分攪拌した後再度結晶を濾過により取得する方法が例示される。さらに、上記の2つの洗浄を両方行うことも有効である。
採取した結晶は通常行われる乾燥方法、例えば減圧乾燥、減圧加温乾燥、送風加温乾燥、風乾などにより乾燥することができる。
【0044】
上記製造方法のうち、好ましい例として、化合物1の2−プロパノール懸濁液を50〜60℃に加温して化合物1を溶解させ、この溶液に、攪拌下、20〜60℃で化合物1に対して1当量の塩酸を滴下し、さらに1〜20時間攪拌して結晶を得る方法を挙げることができる。
1臭化水素酸塩は化合物1を溶解した溶液に、臭化水素酸を添加することにより析出する結晶を単離することにより製造することができ、この方法は前記の1塩酸塩の製造方法において塩酸の代わりに臭化水素酸を用いることにより同様に行うことができる。
【0045】
化合物1と塩を形成している酸の種類及び付加した酸の個数を評価するには、イオン交換クロマトグラフィーで化合物1当たりに付加した酸の個数を計算すればよい。例えば、DIONEX IonPacAS14、内径4mm 長さ25cmのようなイオン交換クロマトグラフィー用カラムを用いてイオン交換により付加酸を解離し、電気伝導度検出器を用いて既知のイオン標準溶液のピーク面積と比較することにより酸を定量し、化合物1当たりの付加酸の個数を計算する方法である。
また、元素分析による元素量の定量等の手法によっても化合物1と塩を形成している酸の種類及び付加した酸の個数を評価することができる。また、単一結晶であるならば、X線構造解析においても化合物1と塩を形成している酸の種類、酸の個数を評価することができる。
【0046】
イオンクロマトグラフィーにより測定される付加した酸の個数が各種の要因により若干の測定誤差を生じる場合があることは当業者に周知である。化合物1当たりの付加酸の個数は通常は±0.2個、より好ましい測定においては±0.1個の測定誤差が許容される。
【0047】
1塩酸塩又は1臭化水素酸塩(以下、これらを「塩の形態の物質」と呼ぶ場合がある)の確認試験としては、粉末X線回折法を用いてもよい。さらに赤外吸収スペクトルを測定してもよく、より具体的には粉末を用いて赤外吸収スペクトルを測定する方法が挙げられ、例えば、日本薬局方の一般試験法「赤外吸収スペクトル測定法」記載の臭化カリウム錠剤法を選択することができる。
【0048】
化合物1又は塩の形態の物質の純度を評価するときは、HPLC法における面積百分率法が簡便である。化合物1又は塩の形態の物質の水分を評価する場合は、日本薬局方の一般試験法「水分測定法」記載の容量滴定法、電量滴定法、又は乾燥減量測定法などを用いることができるが、試料重量が少ない場合には電量滴定法を選択することが好ましい。
【0049】
製剤中に含まれる化合物1又は塩の形態の物質の存在量を測定する必要がある場合には、通常はHPLCを用いることが簡便であり好ましい。例えば、化合物1について化学的純度既知の化合物1の標準品を用いてHPLC法により検量線を作成し、この検量線に基づき試料中の化合物1の存在量を定量することができる。
【0050】
粉末X線回折スペクトル測定に用いる光学系としては、一般的な集中法光学系又は平行ビーム法光学系が例示される。用いる光学系としては特に限定されることはないが、分解能や強度を確保したい場合には集中法光学系を用いて測定することが好ましい。また、結晶の形状(針状、板状等)によって一定の方向を向いてしまう現象である配向を抑えたい場合には平行ビーム法光学系を用いて測定することが好ましい。集中法光学系の測定装置としては、XRD−6000(島津製作所社製)又はMultiFlex(リガク社製)等が例示される。また、平行ビーム法光学系の測定装置としてはXRD−7700(島津製作所社製)又はRINT2200Ultima+/PC(リガク社製)等が例示される。
【0051】
粉末X線回折スペクトルにおける2θ値が各種の要因により若干の測定誤差を生じる場合があることは当業者に周知である。通常は±0.3°、典型的には±0.2°、より好ましい測定においては±0.1°程度の測定誤差が許容される。従って、本明細書において2θ値について「約」を付加して表現した数値については、許容し得る測定誤差を包含しうるものであることが当業者に理解されよう。
【0052】
示差走査熱量分析により得られる測定値は測定対象の結晶について固有の数値であることは当業者に周知であるが、実際の測定においては測定誤差の他、場合によって許容し得る量の不純物の混入等の原因による融点の変動が生じる可能性があることも当業者に周知である。従って、当業者は、本明細書に記載された示差走査熱量分析のピーク温度の実測値が場合によって変動し得ることを理解することができ、その変動幅が、例えば±5℃程度、典型的には±3℃程度、好ましい測定においては±2℃程度であることも理解することができる。示差走査熱量分析に用いる測定装置としては、PYRIS Diamond DSC(パーキンエルマー社製)、又はDSC3200(ブルカー・エイエックスエス社製)等が例示される。
【0053】
赤外吸収スペクトル波数においても若干の測定誤差が許容されており、本明細書に記載された数値についてこのような測定誤差を含むことが許容されることは当業者に容易に理解されることである。例えば、ヨーロッパ薬局方第4版によれば、赤外吸収スペクトルによる確認試験における参照スペクトルとの比較において、波数スケールの±0.5%以内での一致を許容している。本明細書において上記判断基準に拘泥するものではないが、例えば一つの判断基準として波数スケールに対して±0.8%程度、好ましくは±0.5%程度、特に好ましくは±0.2%程度の測定誤差が許容される。
【0054】
化合物1又は塩の形態の物質の熱安定性は、例えば、ガラスバイアル等に試料を密閉し、暗所において例えば40〜80℃程度の苛酷な温度下で一定期間保存した後に、化合物1又は塩の形態の物質の性状、純度、及び水分等を測定することにより評価できる。特に保存前後における純度の変化は熱安定性の重要な指標となる。例えば、保存条件を60℃として評価することが好ましい。
【0055】
化合物1又は塩の形態の物質の吸湿性は、試料をガラス製の秤量皿に入れ、開放状態で暗所において例えば温度25〜40℃、湿度75〜94%程度の加湿条件下で一定期間保存した後に、化合物1又は塩の形態の物質の性状、純度、及び水分等を測定することにより評価できる。特に保存前後における水分の増加量は吸湿性の重要な指標となる。例えば、保存条件を25℃/84%RHとして評価することが好ましい。
【0056】
1塩酸塩を含有する組成物において、1)1塩酸塩の割合が0%を越えていること、2)1塩酸塩の割合が0%である以外は同等の組成物に対して1塩酸塩の効果が少しでも確認されること、の条件を満たす組成物であれば、いずれの組成物も本発明の範囲内であることは言うまでもないが、1塩酸塩が極微量でも検出される組成物は本発明の範囲内である。
【0057】
1塩酸塩を含有する組成物において、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン、及びその塩、並びにそれらの溶媒和物に着目し、それらの総質量を100%とした場合に、その中に占める1塩酸塩の質量割合としては、通常、約90%若しくはそれ以上が好ましく、100%付近がより好ましい。
【0058】
2塩酸塩との組成物における吸湿性の制御の観点からは、少なくとも1塩酸塩が20%含有されていれば吸湿性の制御の効果が認められることから、少なくとも約20%若しくはそれ以上の割合が好ましい態様として挙げられる。
また、2塩酸塩との組成物における経時的な着色の抑制の観点からは、1塩酸塩が約60%あるいはそれ以上含有されていることが好ましく、約80%あるいはそれ以上含有されていることがより好ましいという態様が挙げられる。
1臭化水素酸塩を含有する組成物についても1塩酸塩と同様である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[実施例1](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン
WO2007/026664号パンフレットに記載の方法に従って得られた(S)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)ピロリジン(370g)を、2−プロパノール(740ml)及び水(1261ml)の混合溶液に懸濁させた。この懸濁液を23℃で攪拌しながら塩酸(35%、比重1.18)(271g、金森産業)を加えた後、59.5℃まで加温し、攪拌下、2時間反応させた。反応終了後、反応液を26〜28℃に保温し、攪拌下、2mol/l水酸化ナトリウム水溶液(1350ml)を滴下してpHを8.47に調整した後、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(1.42g)を種晶として26.0℃で添加した。さらに、20時間40分間攪拌しながら、18.0℃まで自然に冷却した。放置後のpHは8.18であり、2mol/l水酸化ナトリウム水溶液(150ml)を添加してpHを9.67に調整した。1時間攪拌した後、1.0℃まで4時間22分かけて冷却し、ヌッチェ(内径240mm、ろ紙No.131)を用いて析出した固体を吸引ろ過した。得られた淡褐色の湿固体を50℃で18時間減圧乾燥することにより、微褐色の標記化合物の結晶(259.3g)を得た。
【0060】
[実施例2](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン
WO2007/026664号パンフレットに記載の方法に従って得られた(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン2塩酸塩(1.50g)を水(32ml)に溶解した。この溶液を激しく撹拌し、氷冷下、2規定水酸化ナトリウム水溶液(4.13ml、和光純薬社製)をゆっくり滴下した。得られた懸濁液を室温でさらに1時間撹拌した後、塩化メチレン(30ml)を加え、有機層を分離した。さらに水層を塩化メチレン(30ml)で抽出し、併せた有機層を水(50ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、残渣に酢酸エチル(10ml)とn−ヘキサン(20ml)を加えた。析出した固体をろ取し、減圧下、50℃で20時間加熱乾燥することにより、標記化合物(1.07g)を得た。
【0061】
[実施例3](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩
実施例1で得た(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(150g)を2−プロパノール(2400ml)に懸濁し、61.5℃まで加温して溶解させた。メンブランフィルター(内径90mm、ADVANTEC PTFE 0.2μm)を用いて、この溶液をろ過し、ろ液を55℃に保温しながら塩酸(35%、比重1.18)(48.0g、金森産業)および精製水(261.4ml、福寿製薬)の混合溶液を300ml滴下した。55℃で44分間攪拌した後、2時間11分かけて、2.0℃まで冷却し、さらに1時間28分間攪拌した後、ヌッチェ(内径150mm、ろ紙No.5C)を用いて析出した結晶を吸引ろ過した。得られた淡褐色の湿結晶を50℃で14時間35分間減圧乾燥することにより、標記化合物(152g)を得た。
【0062】
[実施例4](S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩
実施例1で得た(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(100mg)をエタノール(2.5ml)に溶解し、48%臭化水素酸(33.2μL、和光純薬社製)を加え、室温で17時間撹拌した。さらにエタノール(4ml)を加え、析出した固体をろ取し、減圧下、60℃で24時間加熱乾燥することにより、標記化合物を得た(93.5mg)。
【0063】
[試験例1]核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)
実施例1に記載の方法で得られた化合物0.02gをとり、内部基準物質としてテトラメチルシランを0.05%含むジメチルスルホキシド−d6(重水素化溶媒)0.6mlに溶かし、下記の条件にて核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ(ppm):1.95(1H,m)、2.13−2.19(2H,m)、2.33(3H,s)、3.31−3.33(2H,m)、3.49−3.53(3H,m)、7.84−7.88(1H,dd)8.48−8.50(1H,d)、8.63−8.65(1H,d)、8.76(1H,s)、9.41(1H,s)にピークを示し、それらピークの1H−1H相関は化合物1の構造を支持した。
【0064】
実施例3に記載の方法で得られた化合物 0.02gをとり、内部基準物質として3−トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム−d4を0.05%含む重水(重水素化溶媒)0.6mlに溶かし、下記の条件にて核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ(ppm):2.40−2.45(1H,m)、2.70−2.75(1H,m)、2.90(3H,s)、3.65−3.71(1H,m)、3.78−3.85(2H,m)、3.96−4.01(1H,m)、4.16−4.19(1H,m)、4.33(3H,s)、7.62−7.66(1H,dd)、8.05−8.09(2H,dd)、8.40(1H,s)、8.83(1H,s)にピークを示し、それらピークの1H−1H相関は1塩酸塩の構造を支持した。
条件
核磁気共鳴装置:JNM LA400(日本電子製)
発振周波数:400MHz
核種:1H
【0065】
[試験例2]質量スペクトル
実施例1に記載の方法で得られた化合物を下記の条件により質量スペクトルを測定したところ、(m/z)=326にプロトン化分子を検出し、その結果は化合物1の構造を支持した。
実施例3に記載の方法で得られた化合物を下記の条件により質量スペクトルを測定したところ、(m/z)=326にプロトン化分子を検出し、その結果は1塩酸塩の構造を支持した。
条件
質量分析装置:JMS−SX102(日本電子製)
イオン化法:FAB
検出イオン:正イオン
溶解溶媒:ジメチルスルホキシド
マトリックス:m−ニトロベンジルアルコール
【0066】
[試験例3]示差走査熱量分析
実施例1の記載に準ずる方法で得られた化合物について下記の条件により示差走査熱量分析を実施したところ、図1に示すスペクトルが得られ、107℃に融解ピークと思われる吸熱ピークが認められた。
条件
熱量分析計:PYRIS Diamond DSC
昇温条件:50℃より毎分10℃で250℃まで昇温する。
実施例3に記載の方法で得られた化合物について下記の条件により示差走査熱量分析を実施したところ、図2に示すスペクトルが得られ、290℃に分解ピークと思われる吸熱ピークが認められた。
条件
熱量分析計:PYRIS Diamond DSC
昇温条件:50℃より毎分10℃で350℃まで昇温する。
実施例4に記載の方法で得られた化合物について下記の条件により示差走査熱量分析を実施したところ、図3に示すスペクトルが得られ、270℃に分解ピークと思われる吸熱ピークが認められた。
条件
熱量分析計:PYRIS Diamond DSC
昇温条件:50℃より毎分10℃で350℃まで昇温する。
【0067】
[試験例4]イオン交換クロマトグラフィー
実施例1に記載の方法で得られた化合物を以下のイオン交換クロマトグラフィー条件で測定したところ、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン及びその他の陰イオンを認めず、実施例1に記載の方法で得られた化合物が(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(化合物1)であることが確認された。
実施例3に記載の方法で得られた化合物について以下のイオン交換クロマトグラフィー条件で塩化物の塩数を確認したところ、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1分子当たり1.0個の塩化物イオンを認め、この物質が(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(化合物1)に1個の塩酸が付加した塩(1塩酸塩)であることが確認された。
実施例4に記載の方法で得られた化合物について以下のイオン交換クロマトグラフィー条件で臭化物イオンの塩数を確認したところ、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1分子当たり1.0個の臭化物イオンを認め、この物質が(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン(化合物1)に1個の臭化水素酸が付加した塩(1臭化水素酸塩)であることが確認された。
【0068】
条件
試料濃度100μg/ml
イオンクロマトグラフ:ダイオネクスICS−1000(日本ダイオネクス製)
検出器:電気伝導度検出器
カラム:DIONEX IonPacAS14、内径4mm 長さ25cm
ガードカラム:DIONEX IonPacAG14、内径4mm、長さ5cm
カラム温度:30℃
移動相:3.5mmol/l炭酸ナトリウムを含む1.0mmol/l炭酸水素ナトリウム水溶液
流量:約1.2ml/min
注入量:10μl
サプレッサー:ASRS−ULTRA(リサイクルモード:SRS 24mA)
【0069】
[試験例5]粉末X線測定
実施例1に記載の方法で得られた化合物1について以下の条件で粉末X線を測定したところ、図4に示す回折スペクトルを得た。この粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが9.1°、13.8°、21.0°、21.7°、及び23.6°の位置に特徴的な主たるピークを認めた。また、17.4°、20.5°、26.3°、28.0°、及び30.2°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも化合物1に特徴的なピークと判断された。さらに、24.1°、25.7°、28.7°、32.7°、38.3°、及び42.0°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも化合物1に特徴的なピークと考えることができる。
【0070】
実施例3に記載方法で得られた1塩酸塩について以下の条件で粉末X線を測定したところ、図5に示す回折スペクトルを得た。この粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に特徴的な主たるピークを認めた。また、14.3°、28.2°、29.3°、30.8°、及び36.0°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1塩酸塩に特徴的なピークと考えることができる。さらに、8.9°、18.4°、36.4°、及び39.1°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1塩酸塩に特徴的なピークと考えることができる。
【0071】
実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩を以下の条件で粉末X線を測定したところ、図6に示す回折スペクトルを得た。この粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが21.3°、22.4°、24.1°、30.7°及び34.8°の位置に特徴的な主たるピークを認めた。また、13.8°、21.7°、27.3°、28.6°、及び29.1°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1臭化水素酸塩に特徴的なピークと考えることができる。さらに、16.8°、19.4°、25.6°、27.1°、及び36.0°の位置にもピークを認め、これらのうちいずれか1以上のピークも1臭化水素酸塩に特徴的なピークと考えることができる。
【0072】
化合物1、1塩酸塩、及び1臭化水素酸塩は肉眼による形状観察からも結晶と判断されたが、上記粉末X線回折分析によって結晶であることが確認された。また、化合物1、1塩酸塩、及び1臭化水素酸塩は図7に示した2塩酸塩の粉末X線回折スペクトルと比較して異なるスペクトルを与えることも確認された。
測定条件
X線解析装置:XRD−6000(島津製作所製)又はRINT2200Ultima+/PC(リガク社製)
X線源:CuKα(40kV30mA)
操作モード:連続
スキャン速度:2°/分
走査駆動軸:θ−2θ
走査範囲:5°−60°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.30mm
【0073】
[試験例6]赤外吸収スペクトル
実施例1に記載の方法で得られた化合物1について以下の条件で赤外吸収スペクトルを測定したところ、図8に示すスペクトルを得た。この赤外吸収スペクトルにおいて、波数1335、1146、1139、1096、及び609cm-1の位置に特徴的な吸収を認めた。また、1219、1156、1130、1033、1027、1000、766、742、及び584cm-1の位置にも吸収を認め、これらのうちのいずれか1以上の吸収は化合物1の特徴的な吸収と考えることができる。
【0074】
実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩について以下の条件で赤外吸収スペクトルを測定したところ、図9に示すスペクトルを得た。この赤外吸収スペクトルにおいて、波数1330、1150、1140、及び613cm-1の位置に特徴的な吸収を認めた。また、2747、2695、2690、1487、1091、1046cm-1の位置にも吸収を認め、これらのうちのいずれか1以上の吸収は1塩酸塩に特徴的な吸収と考えることができる。
【0075】
実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩について以下の条件で赤外吸収スペクトルを測定したところ、図10に示すスペクトルを得た。この赤外吸収スペクトルにおいて、波数2695、1307、1149、1139、612cm-1の位置に特徴的な吸収を認めた。また、2963、2932、2916、2909、2880、2807、2795、2751、1466、1222、1219、1089、及び1044cm-1の位置にも吸収を認め、これらのうちのいずれか1以上の吸収は1臭化水素酸塩に特徴的な吸収と考えることができる。
化合物1、1塩酸塩、及び1臭化水素酸塩は図11に示した2塩酸塩の赤外吸収スペクトルと比較して異なるスペクトルを与えることも確認された。
【0076】
測定条件
赤外分光光度計:FTIR−8300(島津製作所製)
測定法:臭化カリウム錠剤法
対照:臭化カリウム錠剤
ゲイン:auto
アパチャー:auto
最小波数:400cm-1
最大波数:4000cm-1
積算回数:45回
検出器:standard
アポダイズ関数:Happ−Genzel
分解:2cm-1
ミラー速度:2.8
【0077】
[試験例7]純度試験
以下の条件で高速液体クロマトグラフィーにより実施例1に記載の方法で得られた化合物1の純度を測定したところ、12〜13分に(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンのピークを認め、その純度は99.9%であった。
同様に実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩の純度を測定したところ、12〜13分に(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンのピークを認め、その化合物の純度は99.4%であった。
同様に実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の純度を測定したところ、12〜13分に(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンのピークを認め、その純度は99.7%であった。
【0078】
高速液体クロマトグラフィー条件
高速液体クロマトグラフ装置:LC−10Aシリーズ(島津製作所製)またはAgilent1100シリーズ(アジレントテクノロジーズ製)
溶液濃度:500μg/ml
注入量:10μl
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:245nm)
カラム:XBridge Shield RP18 5μm 内径4.6mm、長さ15cm(Waters製)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:20mmol/lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
移動相B:アセトニトリル
送液プログラム:移動相Aおよび移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
流量:1.0ml/分
【0079】
【表1】
【0080】
[試験例8]水分測定
日本薬局方の一般試験法「水分測定法」に規定された「電量滴定法」に従い、以下の条件にて実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩及び実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩の水分を測定したところ、1塩酸塩の水分は0.20%、1臭化水素酸塩の水分は0.14%であった。
条件
水分測定装置:AQ−7(平沼産業製)
試料量:5mg
陽極液:アクアライトRS(シグマ−アルドリッチ社製)
陰極液:アクアライトCN(シグマ−アルドリッチ社製)
【0081】
[試験例9]熱安定性試験
実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩、実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩、及び対照として2塩酸塩のそれぞれ40mgをガラスバイアルに量り、ガラスアンプルを密閉した。この試料を60℃の暗所で2週間〜4週間保存し、保存後に性状を肉眼で判定した。また、試験例7の条件で純度を測定し、試験例8の条件で水分を測定した。
2塩酸塩では60℃、2週間の保存において性状の変化が認められた。一方、1塩酸塩及び1臭化水素酸塩では60℃、4週間の保存においても性状変化及び純度低下は認められなかった。
【0082】
【表2】
【0083】
[試験例10]吸湿性試験1
実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩、実施例4に記載の方法で得られた1臭化水素酸塩、及び対照として2塩酸塩のそれぞれ40mgをガラスの秤量皿に量り、この試料を25℃/84%RHの暗所で2週間〜4週間保存した。保存後、性状を肉眼で判定した。また、試験例7の条件で純度を測定し、試験例8の条件で水分を測定した。
2塩酸塩では25℃/84%RH、2週間の保存において明確な性状の変化が認められ、著しい吸湿も認められた。一方、1塩酸塩及び1臭化水素酸塩は、25℃/84%RH、4週間の保存においても性状の変化は認められず、実質的な水分上昇及び純度低下は認められなかった。
試験例9及び試験例10により1塩酸塩及び1臭化水素酸塩は2塩酸塩に比べて熱安定性が良好であり、且つ吸湿性も顕著に低いことが確認された。
【0084】
【表3】
【0085】
[試験例11]吸湿性試験2
実施例1の記載に準ずる方法で得られた化合物1(2種のロット)、実施例3に記載の方法で得られた1塩酸塩、2塩酸塩、及び1塩酸塩と2塩酸塩とを9:1、8:2、6:4、4:6、2:8の比率で混合したもの、それぞれ40mgずつを個別のガラスの秤量皿に量り、この試料を25℃/84%RHの暗所で2週間〜4週間保存した。保存後、性状を肉眼で判定した。また、試験例7の条件で純度を測定し、試験例8の条件で水分を測定した。
化合物1は2ロットとも25℃/84%RH、2週間の保存において、吸湿が認められ、25℃/84%RH、4週間の保存によりさらなる吸湿が認められた。
1塩酸塩と2塩酸塩とを混合したものは、25℃/84%RH、2週間の保存において、2塩酸塩の比率が40%以上で明確な性状の変化が認められた。また、2塩酸塩の比率の増加に従って吸湿が高くなることが認められた。
試験例11の結果より、1塩酸塩は化合物1(遊離状物)、及び1塩酸塩と2塩酸塩との混合物のいずれよりも吸湿性が低いことが確認された。また、2塩酸塩と1塩酸塩とを混合したものにおいて、1塩酸塩の混合比率が増えるに従って、該混合したものの吸湿性を下げることが確認された。
【0086】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の方法により提供される(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩及び(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩は高い安定性を有しており、かつ吸湿性が低いという特徴を有する。従って、これらの物質は保存や流通段階における有効成分含有量の低下が抑制された医薬の有効成分として有用であり、有効性及び安全性を長期にわたって保証可能な医薬の安定供給に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶の製造方法であって、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の塩酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む方法。
【請求項2】
該結晶が赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約1330、1150、1140、及び613cm-1の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該結晶が示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約290℃に分解ピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1塩酸塩の結晶である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約21.3°、22.4°、24.1°、30.7°、及び34.8°の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶の製造方法であって、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の臭化水素酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む方法。
【請求項5】
該結晶が赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約2695、1307、1149、1139、及び612cm-1の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該結晶が示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約270℃に分解ピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1臭化水素酸塩の結晶である請求項4又は5に記載の方法。
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約13.9°、21.5°、21.7°、22.4°、22.8°、24.5°、及び35.0°の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶の製造方法であって、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の塩酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む方法。
【請求項2】
該結晶が赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約1330、1150、1140、及び613cm-1の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1塩酸塩の結晶である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該結晶が示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約290℃に分解ピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1塩酸塩の結晶である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
粉末X線回折スペクトルにおいて、2θが約21.3°、22.4°、24.1°、30.7°、及び34.8°の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶の製造方法であって、(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジンを溶解した溶液に0.5〜2当量の臭化水素酸を添加することにより析出した結晶を単離する工程を含む方法。
【請求項5】
該結晶が赤外吸収スペクトルにおいて、波数が約2695、1307、1149、1139、及び612cm-1の位置に主たるピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン・1臭化水素酸塩の結晶である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該結晶が示差走査熱量分析(昇温速度10℃/分)において約270℃に分解ピークを有する(S)−1−(4−クロロ−5−イソキノリンスルホニル)−3−(メチルアミノ)ピロリジン1臭化水素酸塩の結晶である請求項4又は5に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−236858(P2012−236858A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196492(P2012−196492)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2009−521521(P2009−521521)の分割
【原出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2009−521521(P2009−521521)の分割
【原出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
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