説明

スルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物、それらの製造方法、およびそれらを用いたイオン交換体、電解質膜、医薬品、触媒、膜電極接合体、燃料電池

【課題】耐OHラジカル性が高く、プロトン伝導性に優れ、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物の提供、その製造方法の提供およびそれを用いたイオン交換体、電解質膜、医薬品、触媒、膜電極接合体、燃料電池の提供。
【解決手段】スルホン化含窒素複素環を有することを特徴とする高分子有機化合物および、含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成した前記有機化合物あるいは前記高分子有機化合物を作り、これをスルホン化した後、前記錯形成する物質を除去することにより製造することを特徴とするスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物の製造方法により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物、それらの製造方法、および、それらを用いたイオン交換体、電解質膜、医薬品、触媒、膜電極接合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含窒素複素環を有する有機化合物は、天然物として多く存在し、医薬的に重要な化合物が数多く存在する。例えば、含窒素複素環を持つβ−ピコリン酸は抗皮膚病ビタミンである。また、ビタミンB6も含窒素複素環を持つ有機化合物である。そのため、種々の用途に応じた官能基を備えた含窒素複素環を有する有機化合物は昔から様々な合成法が検討されてきたが、一般に合成は困難を伴った。
【0003】
例えば、含窒素複素環を有する有機化合物の一種であるピリジンは、親電子置換反応では溶媒として用いられ、それ自身の親電子置換反応がほとんど進まない物質として知られる。
親電子置換反応の例としては、ニトロ化、スルホン化、ハロゲン化およびFriedel−Crafts反応などが挙げられ、非常に激しい条件でのみ(Friedel−Crafts反応は反応が進行しない)行われることが知られている(非特許文献1)。
また、東京工業大学の辻らはベンゼン環に二つの水酸基を持つカテコールを、ピリジン溶媒下、銅触媒により開環反応を行っている。これはすなわち、反応過程で発生するラジカルとも反応せず、ベンゼン環に比べ格段にラジカルに安定であることを意味している(非特許文献2)。これらから示されるように含窒素複素環を有する有機化合物は化学的に安定な物質である。
【0004】
このような中、化学者はピリジン環への親電子置換反応であるスルホン化反応に長年、挑んできた。
例えば、19世紀にO.Fischerらによりピリジンと濃硫酸とを反応させることによってスルホン化ピリジンが得られることが報告されている。このときの反応温度は、300℃から350℃という高温である。その後1943年に、硫酸水銀の添加により、反応温度を230℃に低下させる方法を、S.M.MC.ElvainとM.A.Goeseは見出している。この反応は工業的に現在、利用されている方法であるが、以下の3点から問題となっている。
すなわち、先ず(1)長時間高温反応であることにより高エネルギーコストがかかること、(2)高温時に生じる腐食性SO3 蒸気により、高価な耐腐食性生産施設が必要なこと、(3)硫酸水銀の環境負荷が高く、廃棄物処理が大変なこと、の3点である。
【0005】
この3点の改善を行うため、特許文献1では、以下の方法によりスルホン化ピリジンを得ることに成功している。
すなわち、ピリジン自体の出発物質を用いずにクロル化されたピリジンを用いて、これをまずN−オキシドに化学反応を行うことによって変化させ、その後、公知の方法によりスルホン化を行う。次に、得られた3−クロルピリジン−3−スルホン酸−N−オキシドに亜硫酸ナトリウムを加え、145℃と中程度の温度領域で反応させた後、濃塩酸で酸性化して単離し、ピリジン−3−スルホン酸−N−オキシドを得る。最後に、水素雰囲気下ニッケル触媒を用いて、水素添加を行い、目的のスルホン化ピリジンを得ている。
【0006】
この反応は230℃から145℃にまで反応温度を下げ、硫酸水銀を使用しない点で優れている。
しかし、(1)反応のステップ数が多いこと、(2)出発物質が3−クロルピリジンでありピリジンではないこと、(3)ニッケル触媒を使用し環境負荷が高いこと、(4)水素雰囲気下にしなければならず、工業上、危険であること、(5)145℃と比較的高い温度であること、の5点により、更なる改善が求められている。
【0007】
また、ピリジンなどの含窒素複素環から成る高分子(以下、ポリマーと称する場合がある)も多種多様なものがある。
主鎖がピリジンのみから成るポリピリジンは、ピリジンの化学的性質を反映し、化学的に非常に安定である。また、高分子にすることによって高い耐熱性を有するようになる。高分子の長所である軽量性・加工性などの特徴も併せ持つため、期待される用途は多岐に亘る。
ポリピリジンを機能性材料として実用化するには、その用途に応じた機能を発現するための官能基を導入する、すなわちポリピリジンを化学修飾することが必要となる。しかし、構成要素であるピリジンが化学的に安定で特にスルホン化を始めとする多くの親電子置換反応に対し不活性であるのと同様、ポリピリジンを直接化学修飾することは非常に困難である。加えて、ピリジンとは違い、ポリピリジンが溶媒にほとんど溶けず反応が進みづらいことも化学修飾を困難にしている一因である。ピリジンをスルホン化するためには、先に述べた通り、高い反応温度が必要であったり環境負荷の大きな触媒を使用したりと、様々な問題点があるが、ポリピリジンをスルホン化する場合、著しく溶媒に溶け難い為、それ以上に過酷な反応条件を必要となる可能性が高い。そのため、我々の調査では、ポリピリジンのスルホン化の例は学会でも、一件も見出されなかった。
スルホン酸基のような官能基を有するポリピリジンを合成するには、ポリピリジンを直接反応させる以外にも、目的の官能基を有するピリジンのモノマーを合成し、これを重合させる方法がある。しかし、モノマー合成もピリジンの化学的安定性の高さから容易ではない。また、合成のステップ数は大幅に増える。そのため、ポリピリジンを少ないステップ数で、かつ環境的負荷の小さい方法で直接化学修飾する技術は非常に大きなメリットを持つ。
【0008】
ところで、近年、環境問題がクローズアップされ、高効率な触媒開発および、燃料電池の開発が注目されている。前者は、反応時、使用するエネルギーを低減させることで環境負荷を低減させ、後者は、高いエネルギー効率を生み出す電池として期待されている。
ここで燃料電池とは、水素やメタノールなどの燃料を酸素または空気を用いて電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すものである。
【0009】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、アルカリ型などに分類される。
このうち、陽イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は、用いる電解質膜を薄くすることにより燃料電池内の内部抵抗を低減できるため高電流で操作でき、小型化が可能である。このような利点から固体高分子型燃料電池の研究が盛んである。
【0010】
このような固体高分子型燃料電池に用いる電解質膜には、高い化学的安定性が要求される。このようなプロトン伝導性高分子電解質膜材料としては、商品名Nafion(登録商標、デュポン社製)などのスルホン酸基含有フッ素樹脂が知られている。
しかしこれらの高分子電解質材料は合成経路が複雑であり、高価であるという問題を抱えている。また、スルホン酸基含有フッ素樹脂は、ガラス転移温度が低く、耐熱性が低いため、動作温度が80℃以下と低くなってしまうという問題点も抱えている。さらに、フッ素というハロゲン系の樹脂であるため、環境負荷が大きく、触媒として用いられる白金のリサイクル性が悪いという欠点がある。
そのため、フッ素を含まないスルホン酸基含有炭化水素系樹脂を原料とする、高温安定性の高い、プロトン伝導性高分子電解質膜が開発されてきているが、耐OHラジカル性に劣っており、化学的安定性がスルホン酸基含有フッ素樹脂には及ばず、耐OHラジカル性に優れている材料開発が急務となっている。
【0011】
次に固体高分子電解質膜のOHラジカルによる劣化について説明する。
図1および図2に示したように、従来の固体高分子型燃料電池(PEFC)の単セル11は、固体高分子電解質膜1(パーフルオロカーボンスルホン酸膜)をそれぞれカーボンブラック粒子に触媒物質[主として白金(Pt)あるいは白金族金属(Ru、Rh、Pd、Os、Ir)]を担持した空気極側触媒層2と燃料極側触媒層3とで挟持したセルの空気極側触媒層2と燃料極側触媒層3とをそれぞれ空気極側ガス拡散層4と燃料極側ガス拡散層5で挟持して空気極6および燃料極7を構成した膜電極接合体12を備えている。
そして、空気極側ガス拡散層4と燃料極側ガス拡散層5に面して反応ガス流通用のガス流路8を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路9を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ10により挟持して単セル11が構成される。
そして、空気などの酸化剤を空気極6に供給し、水素を含む燃料ガスもしくは有機物燃料を燃料極7に供給して発電するようになっている。
【0012】
すなわち、燃料極7、空気極6のそれぞれに反応ガスが供給されると、下記の電気化学反応が生じ直流電力を発生する。
燃料極側:2H2 →4H+ +4e-
空気極側:O2 +4H+ +4e- →2H2
燃料極側では水素分子(H2 )の酸化反応が起こり、空気極側では酸素分子(O2 )の還元反応が起こることで、燃料極7側で生成されたH+ イオンは固体高分子電解質膜1中を空気極6側に向かって移動し、e- (電子)は外部の負荷を通って空気極6側に移動する。
一方、空気極6側では酸化剤ガスに含まれる酸素と、燃料極7側から移動してきたH+ イオンおよびe- とが反応して水が生成される。かくして、固体高分子形燃料電池は、水素と酸素から直流電流を発生し、水を生成することになる。
【0013】
しかし、前記空気極側の還元反応(酸素分子(O2 )の4電子還元)は難しく、空気極側において副反応として下記の電気化学反応(酸素分子(O2 )の2電子還元)が生じて多くのH22 が発生する。そして不純物としてFe(II)などが存在するとその触媒作用でH22 が分解され、OH・(OHラジカル)とOH- が生成する。
【0014】
空気極側:O2 +2H+ +2e- →H22
22 +Fe(II)→OH・+OH- +Fe(III )
生成したOH・(OHラジカル)は酸化力が大きく、固体高分子電解質膜1を酸化し分解し劣化する。
【非特許文献1】モリソン・ボイド 有機化学 下巻
【非特許文献2】J.Tsuji,J.Am.Chem.Soc.,96,7349(1974)
【特許文献1】特許2857489号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の第1の目的は、耐OHラジカル性が高く、プロトン伝導性に優れ、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できる他に医薬品としても利用可能なスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物を提供することであり、
本発明の第2の目的は、低温度で、かつ環境に負荷を与えない製造方法で、含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物を容易に経済的にスルホン化してスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物を製造するための方法を提供することであり、
本発明の他の目的は、スルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物または有機化合物を用いたイオン交換体、電解質膜、医薬品、触媒、膜電極接合体、燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、含窒素複素環を有する高分子有機化合物あるいは有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成した含窒素芳香族化合物を作り、これをスルホン化した後、前記錯形成する物質を除去することにより、化学的に安定な含窒素複素環を、低温度で、かつ環境に負荷を与えず(重金属触媒を使用せずに)にスルホン化できることを見出し、また、得られるスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物あるいは有機化合物は、耐OHラジカル性が高く、プロトン伝導性に優れ、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高く、医薬活性の高い医薬品に利用できるので、医薬品、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として使用できることも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
本発明の請求項1記載の発明は、スルホン化含窒素複素環を有することを特徴とする高分子有機化合物である。ここでスルホン化含窒素複素環とは、スルホン酸基が直接、含窒素複素環と結合しているものを言う。
【0018】
本発明の請求項2記載の含窒素複素環は、請求項1記載の含窒素複素環がピリジン環であることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項3記載の高分子有機化合物は、請求項2記載の高分子有機化合物において、スルホン化ピリジン環と、ピリジン環誘導体のみで構成されることを特徴とする。
すなわち、本発明の請求項3記載の高分子有機化合物に存在する芳香族環は、ピリジン環のみである。ここで、ピリジン環誘導体とは、無置換のピリジン環もしくは、化学修飾されたピリジン環をいう。
【0020】
本発明の請求項4記載の高分子有機化合物は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高分子有機化合物において、
スルホン酸密度が、0.1〜8ミリ当量/gであることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項5記載の発明は、含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成した前記有機化合物あるいは前記高分子有機化合物を作り、これをスルホン化した後、前記錯形成する物質を除去することにより製造することを特徴とするスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物の製造方法である。
【0022】
本発明の請求項6記載の製造方法は、請求項5記載の製造方法において、
前記錯形成する物質が、カンファースルホン酸であることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項7記載の製造方法は、請求項5あるいは請求項6に記載の製造方法において、
前記含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物がピリジン環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物であることを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項8記載の製造方法は、請求項7記載の製造方法において、
前記含窒素複素環を有する有機化合物がピリジン環を1つ有する有機化合物であることを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項9記載の発明は、請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物である。
【0026】
本発明の請求項10記載の有機化合物は、請求項9記載の有機化合物において、
前記含窒素複素環を有する有機化合物がピリジン環を有する有機化合物であることを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項11記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とするイオン交換体である。
【0028】
本発明の請求項12記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とする電解質膜である。
【0029】
本発明の請求項13記載の発明は、請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を利用して構成されることを特徴とする医薬品である。
【0030】
本発明の請求項14記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とする触媒である。
【0031】
本発明の請求項15記載の発明は、請求項12記載の電解質膜を用いて構成されることを特徴とする膜電極接合体である。
【0032】
本発明の請求項16記載の発明は、請求項12に記載の電解質膜を用いて構成されることを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の請求項1記載の発明は、スルホン化含窒素複素環を有することを特徴とする高分子有機化合物であり、
本発明の高分子有機化合物は、製膜が容易であり、従来の炭化水素系樹脂では得られなかった高い耐OHラジカル性を有し、かつ優れたプロトン伝導性、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるという顕著な効果を奏する。
【0034】
本発明の請求項2記載の高分子有機化合物は、請求項1記載の含窒素複素環がピリジン環であることを特徴とするものであり、
化学的安定性が高いというさらなる顕著な効果を奏する。
【0035】
本発明の請求項3記載の高分子有機化合物は、請求項2記載の高分子有機化合物において、スルホン化ピリジン環と、ピリジン環誘導体のみで構成されることを特徴とするものであり、
化学的安定性が特に高いというさらなる顕著な効果を奏する。
【0036】
本発明の請求項4記載の高分子有機化合物は、請求項1から請求項3記載の高分子有機化合物において、スルホン酸密度が、0.1〜8ミリ当量/gであることを特徴とするものであり、
燃料電池用に適する確実に優れた高いプロトン伝導性を有するというさらなる顕著な効果を奏する。
【0037】
本発明の請求項5記載の発明は、含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成した前記有機化合物あるいは前記高分子有機化合物を作り、これをスルホン化した後、前記錯形成する物質を除去することにより製造することを特徴とするスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物の製造方法であり、
低温度で、かつ環境に負荷を与えず(重金属触媒を使用せずに)に、化学的に安定な含窒素複素環を容易にスルホン化してスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物を製造することができる上、合成のステップ数も、2段階と少なく、合成にかかるエネルギーも少なく経済的であるという顕著な効果を奏する。
【0038】
本発明の請求項6記載の製造方法は、請求項5記載の製造方法において、前記錯形成する物質がカンファースルホン酸であることを特徴とするものであり、
スルホン化率を上げることができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0039】
本発明の請求項7記載の製造方法は、請求項5あるいは請求項6に記載の製造方法において、
前記含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物がピリジン環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物であることを特徴とするものであり、
ピリジン環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物を使用することで、スルホン化を容易に行って化学的安定性が高いスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物を容易に製造できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0040】
本発明の請求項8記載の製造方法は、請求項7記載の製造方法において、
前記含窒素複素環を有する有機化合物がピリジン環を1つ有する有機化合物であることを特徴とするものであり、
ピリジン環を1つ有する有機化合物を使用することで、スルホン化をさらに容易に行って化学的安定性が高いスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物をさらに容易に製造できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0041】
本発明の請求項9記載の発明は、請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物であり、
高いイオン交換容量を有し、スルホン酸基を有するので触媒活性が高く、また医薬活性が高い医薬品に利用可能であるので、優れたイオン交換体として利用したり、安価で安定性に優れた触媒に利用したり、安価で有効な医薬品を提供することができ、また例えばバインダーを混合して製膜することができ、得られる膜は従来の炭化水素系樹脂では得られなかった高い耐OHラジカル性を有し、かつ燃料電池用に適する高いプロトン伝導性を有するとともに、安価で安定性が高いので、電解質膜やそれを用いた膜電極接合体やそれを備えた燃料電池を提供できるという顕著な効果を奏する。
【0042】
本発明の請求項10記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物は、請求項9記載の有機化合物において、
前記含窒素複素環を有する有機化合物がピリジン環を有する有機化合物であることを特徴とするものであり、
ピリジン環を有する有機化合物を使用することで、化学的安定性がより高くなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0043】
本発明の請求項11記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とするイオン交換体であり、
高いプロトン伝導性を有するとともにイオン交換容量が大きい上、安価で安定性が高いという顕著な効果を奏する。
【0044】
本発明の請求項12記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とする電解質膜であり、
次世代クリーンエネルギーとして使用される燃料電池の材料自体の環境負荷が大きいことは問題であり、環境問題は全体として考えなければならず、環境負荷の低減を目指すという意味でも本発明の電解質膜はその効果が大きく、さらに高分子有機化合物を用いれば容易に製膜して電解質膜を得ることができ、また有機化合物を用いる場合は例えばバインダーを混合して容易に製膜して電解質膜を得ることができ、得られる電解質膜は従来の炭化水素系樹脂では得られなかった高い耐OHラジカル性を有し、かつ燃料電池用に適する高いプロトン伝導性を有するとともに、安価で安定性が高いという顕著な効果を奏する。
【0045】
本発明の請求項13記載の発明は、請求項9あるいは請求項10に記載の製造方法で製造されたスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を利用して構成されることを特徴とする医薬品であり、
医薬活性が高くかつ安価な医薬品を提供できるという顕著な効果を奏する。
【0046】
本発明の請求項14記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とする触媒であり、
スルホン酸基を有するので酸触媒としての活性が高く、安価で安定性に優れているという顕著な効果を奏する。
【0047】
本発明の請求項15記載の発明は、請求項12記載の電解質膜を用いて構成されることを特徴とする膜電極接合体であり、
次世代クリーンエネルギーとして使用される燃料電池の材料自体の環境負荷が大きいことは問題であり、環境問題は全体として考えなければならず、環境負荷の低減を目指すという意味でも本発明の膜電極接合体はその効果が大きく、さらに請求項12記載の電解質膜を用いたので燃料電池用に適する高いプロトン伝導性を有するとともに耐OHラジカル性が高い上、安価で安定性が高いという顕著な効果を奏する。
【0048】
本発明の請求項16記載の発明は、請求項12記載の電解質膜を用いて構成されることを特徴とする燃料電池であり、
スルホン酸基含有フッ素樹脂はフッ素を含有する電解質膜やそれを用いた膜電極接合体は環境負荷が高く、また、資源が少ない燃料電池の触媒として使用されるプラチナのリサイクル性も低い問題があり、次世代クリーンエネルギーとして使用される燃料電池の環境負荷が大きいことは問題であり、環境問題は全体として考えなければならず、環境負荷の低減を目指すという意味でも本発明の燃料電池はその効果が大きく、さらに高いプロトン伝導性を有するとともに耐OHラジカル性が高い請求項12記載の電解質膜を用いているので、発電効率が高く、安価で信頼性が高いという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第1の目的は、耐OHラジカル性が高く、プロトン伝導性に優れ、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できる他に医薬品としても利用可能なスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物を提供することである。
【0050】
本発明の第2の目的は、低温度で、かつ環境に負荷を与えない製造方法で、含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物を容易に経済的にスルホン化してスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物および有機化合物を製造する方法を提供することであり、含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成した前記有機化合物あるいは前記高分子有機化合物を作り、これをスルホン化した後、前記錯形成する物質を除去することにより製造することを特徴とするものである。
【0051】
本発明のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を製造する方法は前記本発明の製造方法に限定されるものではなく、他の製造方法によって製造することも可能である。しかし、本発明の製造方法によれば低温度で、かつ環境に負荷を与えず、化学的に安定な含窒素複素環を容易にスルホン化してスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を経済的に製造できる。
【0052】
本発明の他の目的は、スルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物または有機化合物を用いたイオン交換体、電解質膜、医薬品、触媒、膜電極接合体、燃料電池を提供することである。
【0053】
本発明における含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物(以下、両者をまとめて含窒素複素環を有する有機化合物と称す場合がある)は、環を構成している1個またはそれ以上が窒素原子である環状化合物のうち、芳香族性を有する有機化合物を指す。
このようなものとしては以下のものが例示できる。
すなわち、ピリジン、ピコリン酸などのピリジン環を1つ有する有機化合物や、ピロール、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール、ピラゾール、トリアジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジンや、これらを一部に含有する多環式複素環(例えばインドール、プリン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリンなど)を例示でき、また、これらを化学修飾した複素環やポリマー化した高分子有機化合物を例示できる。
その中でもピリジン環を有しているものは化学的安定性が高い。ピリジン環を有しているものの中でも、ピリジンは化学的安定性が特に高く、ピリジン環を有しているスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物は燃料電池用途や触媒用途として好適に使用ができる。
【0054】
またスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物がポリマーの場合は、単独で膜とすることができる。燃料電池内部には電解質膜が使われているため、ポリマーであることが望ましい。すなわち、上項で挙げたような含窒素複素環を1種類ないし2種類以上重合しポリマー化したものや、ポリマー主鎖の一部が上記段落で挙げたような含窒素複素環であるようなポリマーが例示できる。その中でもポリマーの化学的安定性は環の構造に由来するため、ポリマーを構成するユニットとしてはピリジン環がよい。また異なるユニットを含み、そのユニットがピリジン環よりも化学的安定性に劣る場合そのユニット部分がポリマーの化学的安定性を損なう恐れがある。そのためピリジン環のみから成るポリピリジンがよい。
【0055】
本発明でいうポリマー(高分子有機化合物)の質量平均分子量などで表される分子量はその用途により最適値が異なるので特に限定されない。しかし、通常、1000〜1000万が好ましい。1000未満では機械的強度を要求される分野に不適となる恐れがあり、一方、1000万を超えると加工性などが劣る恐れがある。
【0056】
含窒素複素環を有する有機化合物と錯形成する物質としては、錯形成して電子状態を変化させる物質、もしくは、含窒素複素環を有する有機化合物の溶解性を向上させる物質であればよい。
このような物質の例としては、Pt、Rh、Feなどを有する金属錯体や、酸性の官能基を有している物質を使用すると良好な結果を示すことが多い。酸性の官能基を有している物質を使用すると良好な結果が得られる理由は、含窒素複素環を有する有機化合物が塩基性を示しやすく酸・塩基反応で錯形成するためである。
【0057】
酸性の官能基としては、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3 H)、フェノール性水酸基(−Ph−OH)、アルコール性水酸基(−CH2 −OH)、−エノール基(−CH=CR(OH))、リン酸基(−PO(OH)2 )などを例示できる。
この中でも、スルホン酸基は酸性度が高く、含窒素複素環を有する有機化合物とは良好に錯形成しやすい。スルホン酸基としては、カンファースルホン酸がスルホン化含窒素複素環のスルホン化率を上げることができるので特に良い。
【0058】
含窒素複素環を有する有機化合物をスルホン化するときには、スルホン化剤が用いられる。
使用するスルホン化剤としては、具体的には一般に知られているものを用いることができ、例えば、発煙硫酸、硫酸、フルオロ硫酸、メタンスルホン酸、クロロスルホン酸、SO2 、SO3 、NaHSO3 、プロパンスルトン、ブタンスルトンや、その他のスルホン化物などを例示できる。
この中でも、クロロスルホン酸は、得られたスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を精製しやすくよい。
【0059】
スルホン化剤の量としては、含窒素複素環を有する有機化合物に対してモル比で、0.01倍〜1000倍がよい。0.01倍未満だと、含窒素複素環を有する有機化合物のスルホン化率が極端に低くなる恐れがある。また、1000倍を超えると、スルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を精製するときにスルホン化剤の除去が困難になる恐れがある。
【0060】
含窒素複素環を有する有機化合物をスルホン化する際、溶媒も使用することができる。溶媒としては、反応温度で液体であるものが望ましく、その中でもコストの面から、汎用溶媒が望ましい。
汎用溶媒としては、具体的には、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、水などを例示できる。
【0061】
含窒素複素環を有する有機化合物の質量に対し、溶媒の質量が0.5倍から100倍が好ましいが、錯形成した含窒素複素環を有する有機化合物が溶けない場合は、それ以上の溶媒を使用することもある。0.5倍未満であると、錯形成した含窒素複素環を有する有機化合物が溶けにくいことが多い。100倍を超えると不経済となる恐れがある。
【0062】
カンファースルホン酸を錯形成する物質として使用した場合は、クロロホルム、テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒がよい。これは、ハロゲン系溶媒に対し、含窒素複素環を有する有機化合物・カンファースルホン酸錯体の溶解性がよいため、スルホン化率が上がるためである。
【0063】
反応温度としては、室温から300℃までが好適な範囲である。その中でも室温から200℃までが、反応時間とエネルギーの観点からよい。反応温度が高いと、反応時間が短くなる傾向にあるが、多くのエネルギーを使用する他、副反応が進みやすくなる。一方、反応温度が室温よりも低いと、反応時間が長くなり、スルホン化率も低くなりやすい。カンファースルホン酸を錯形成する物質として使用した場合は、70℃未満だと、スルホン化が進まず、70℃以上300℃以下が望ましい。
【0064】
含窒素複素環を有する有機化合物に対し、錯形成する物質量としては、1倍〜100倍(モル比)がよい。1倍未満だと、スルホン化剤を滴下させたときに、溶媒から未反応の含窒素複素環を有する有機化合物が析出してしまい、反応が進みにくくなる。一方、100倍を超えて滴下すると、精製するときに錯形成する物質の除去が困難となる。
【0065】
含窒素複素環を有する有機化合物をスルホン化後、錯形成した物質を取り除く方法としては、錯形成する物質によるが、カンファースルホン酸の場合では、水で洗浄した後、アセトンで洗浄することによりできる。また、スルホン化含窒素複素環を有する有機化合物が塩化する恐れもあるが、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水といった塩基性溶液で洗浄すると、簡単に取り除ける。
【0066】
本発明のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物は、プロトン伝導性に優れ、また、イオン交換容量も高いことから、イオン交換体などとして利用することができる。
【0067】
また、内部にスルホン酸を有することから触媒として使用できる。
【0068】
含窒素複素環を有する有機化合物は医薬活性が高いことから、本発明のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を利用して医薬用途にも応用できる。
本発明のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を利用して誘導できると考えられる医薬として、具体的には、例えば日本薬局方(第15改正)に記載の下記の医薬を挙げることができる。
【0069】
セファピリンナトリウム(Cefapirin Sodium) 、セフォチアム塩酸塩(Cefotiam Hydrochloride) 、セフォテタン(Cefotetan)、セフォペラゾンナトリウム(Cefoperazone Sodium)、セフピラミドナトリウム(Cefpiramide Sodium) 、セフブペラゾンナトリウム(Cefbuperazone Sodium) 、セフミノクスナトリウム水和物(Cefminox Sodium hydrate)、セフメタゾールナトリウム(Cefmetazole Sodium) 、セフメノキシム塩酸塩(Cefmenoxime Hydrochloride)、チアマゾール(Thiamazole)、ラタモキセフナトリウム(Latamoxef Sodium) など。
【0070】
更に、本発明のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を利用して電解質膜を作製し、これを用いて図1に示した構成を備えた膜電極接合体(MEA)やその膜電極接合体(MEA)を備えた図2に示した構成の燃料電池の単セルを作製することも可能である。
【0071】
本発明のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物あるいは有機化合物を用いて、電解質膜を製造する方法の一例としては、以下の方法を示すことができる。
スルホン化含窒素複素環を有する有機化合物自体がポリマーであり膜特性を有する場合は、熱溶融することにより電解質膜を形成することができる。
また、スルホン化含窒素複素環を有する有機化合物もしくは高分子有機化合物が溶媒に可溶である場合は、適当な溶媒に溶かした後、支持体に塗布後、乾燥させることにより、電解質膜を形成する方法を用いることができる。
ポリマーではないスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物など、それ自体に膜特性を有しない場合は、スルホン化含窒素複素環を有する有機化合物にバインダーを混合させて膜化させることもできる。
本発明のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物あるいは有機化合物を用いて、イオン交換体や触媒を製造する際にも上記のように熱溶融することにより形成することができ、また適当な溶媒に溶かした後、支持体に塗布・コーティングしたり、担持させたりすることにより形成でき、その形成法は特に限定されるものではない。
【0072】
バインダーとしては、以下に例示する樹脂を単独又は二種類以上混合して使用することができる。
またバインダーとして、これらの樹脂の変性体や共重合体を使用してもよく、例えば、これらの樹脂にスルホン酸基を導入して変性した変性体を用いることによりプロトン伝導性をさらに向上できるので好適に用いられる。
具体的には、樹脂としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、プロピレン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ビニリデン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、フェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ビニル樹脂、カルボン酸樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、スチロール樹脂、エンジニアリングプラスチックなどを例示できる。
また、上記のような有機樹脂だけでなく、有機無機ハイブリッド樹脂やシリケート樹脂、水ガラス、各種無機ポリマーなども使用できる。上記のようにこれらの樹脂にスルホン酸基や水酸基などを導入した変性体も好適に用いられる。
【0073】
膜電極接合体(MEA)を製造する方法の一例としては、以下の方法を示すことができる。
まず、本発明のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて前述した製造法により、電解質膜を形成する。さらに必要に応じてその上へ保護フィルムを積層して保存する。そして使用時に、この支持体、保護フィルムを剥離させた後、電解質膜の両側に触媒層、ガス拡散層を含有する電極層を形成し、これにより図1に示した膜電極接合体(MEA)が得られる。この膜電極接合体(MEA)に図2に示したようにセパレータや図示しない補助的な装置(ガス供給装置、冷却装置など)を装着して組み立て、単一あるいは積層することにより燃料電池を作製することができる。
【0074】
また、本発明におけるスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物によって形成された電解質膜の好適な厚さは、通常0.1〜500μm程度であるが、より好ましくは10μm〜150μmである。500μmを超えて厚過ぎるとプロトン伝導性が損なわれる恐れがあり、0.1μm未満で薄すぎると電解質膜の物理特性が損なわれる恐れがある。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕
[スルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物の合成]
ナード社製のポリピリジン500mgに、テトラクロロエタン15mlを加えた。ここにカンファースルホン酸を3g加え60℃30分間撹拌した。撹拌すると濃赤色となり錯化した。
次にポリピリジンのユニットモル数に対し3倍当量のクロロスルホン酸を含むテトラクロロエタン溶液10mlを滴下し、反応温度120から150℃で40時間撹拌した。
反応終了後、純水、アセトンでよく洗浄を行った。これを乾燥することでスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物(ポリピリジンスルホン酸)を350mg得た。
【0077】
〔比較例1〕
実施例1でカンファースルホン酸を加えない以外は、反応温度140℃、反応時間40時間の条件で実施例1と同様に反応を行った。
【0078】
〔比較例2〕
実施例1でカンファースルホン酸を加えず、反応温度を70℃、反応時間を18時間にした以外は、実施例1と同様に反応を行った。
【0079】
〔比較例3〕
実施例1でカンファースルホン酸を加えず、反応温度を室温、反応時間を60時間にした以外は、実施例1と同様に反応を行った。
【0080】
[評価方法]
(1)カンファースルホン酸に特有のカルボニル基の確認:
実施例1、比較例1〜3で得られた化合物をJASCO社製FT/IR−460plusにて、赤外スペクトルを計測し確認した。確認は、カンファースルホン酸に特有のカルボニル基に由来する1740cm-1のピークの有無により行った。
図3に原料のポリピリジン、実施例1で得られた錯形成する物質であるカンファースルホン酸と錯化したポリピリジン、および、実施例1で得られた、錯形成する物質であるカンファースルホン酸を洗浄して除去した後のスルホン化ポリピリジンの赤外スペクトルを示す。
【0081】
(2)スルホン酸基の有無の確認:
実施例1、比較例1〜3で得られた化合物を、さらに、アンモニア水溶液で2回、純水で1回洗浄した。得られた化合物を、JASCO社製FT/IR−460plusにて、赤外スペクトルを計測し確認した。スルホン酸基の有無の確認は、1185cm-1、1040cm-1付近の−SO3 H特有の吸収ピークにより行った。
【0082】
(酸価):
水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、計測した。その滴下した量により酸価を算出した。
【0083】
(耐OHラジカル性):
<フェントン試験>
実施例1で得られた物質を用いて、ワニスを調整する。ワニスをシャーレに入れ、150℃で溶媒を除去して、電解質膜を作製した。
作製した電解質膜をフェントン試薬(80℃、3%H22 、2ppmFe2+)に入れ、80℃3時間条件で、電解質膜の色が目視で変化するまでの時間を測定した。
測定した時間が長ければ、耐OHラジカル性に優れ、測定した時間が短かければ耐OHラジカル性が劣るとして、耐OHラジカル性を評価した。
(耐OHラジカル性)
○:優れている
△:やや優れている
×:劣っている
【0084】
表1に実施例1、比較例1〜3の各反応条件を示す。
表2に、実施例1、比較例1〜3で得られた化合物の赤外スペクトルの分析により実施例1において錯形成後、錯形成する物質が洗浄により除去されたかどうか、スルホン酸基の有無、酸価を分析した結果、および実施例1における耐OHラジカル性を評価した結果を示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
(実施例1において高分子有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成した後にスルホン化剤でスルホン化し、その後、錯形成する物質を洗浄によって除去して、確かに本発明のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を得ることができたかどうかを検討する):
赤外スペクトルでは、カルボニル基の吸収ピークは一般に他のピークよりも鋭く感度もよいことが知られている。
表2および図3に示したように、実施例1、比較例1〜3で得られた化合物の赤外スペクトルを分析した結果、実施例1において錯形成後、スルホン化剤でスルホン化した後、水、アセトンによる洗浄方法で錯形成したカンファースルホン酸が除去できたことがわかる。
【0088】
すなわち、実施例1で得られたスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物には、カンファースルホン酸由来のスルホン酸基は存在しておらず、実施例1で得られたスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物に存在するスルホン酸基は、クロロスルホン酸によりスルホン化されて生成されたものであることが確認できた。
表2の比較例1でスルホン酸基のピークがわずかに計測された理由は明確にはわかっていないが、酸価が実施例1と比べ、格段に低いことから、含窒素複素環を有する有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成後にスルホン化剤でスルホン化することにより、スルホン化が大きく促進されることがわかる。
また、比較例2、3のように反応温度が低いと、スルホン酸基のピークが計測されることもなく、酸価も計測されなかった。
【0089】
以上の結果により、含窒素複素環を有する有機化合物に錯形成する物質を添加して、錯形成した含窒素複素環を有する有機化合物を作り、これをスルホン化剤でスルホン化させた後、錯形成する物質を除去することにより、高酸価を有するスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を容易に得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の高分子有機化合物は、スルホン化含窒素複素環を有することを特徴とするものであり、製膜が容易であり、従来の炭化水素系樹脂では得られなかった高い耐OHラジカル性を有し、かつ優れたプロトン伝導性、高いイオン交換容量を有し、酸触媒としての活性が高いので、触媒、イオン交換体、電解質膜、膜電極接合体、燃料電池として有効に使用できるという顕著な効果を奏し、
そして本発明のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物の製造方法によれば、低温度で、かつ環境に負荷を与えず(重金属触媒を使用せずに)に、化学的に安定な含窒素複素環を容易にスルホン化してスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物を製造することができる上、合成のステップ数も、2段階と少なく、合成にかかるエネルギーも少なく経済的であるという顕著な効果を奏し、
そして本発明のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物を用いた耐OHラジカル性に優れたプロトン伝導膜、触媒、イオン交換体、医薬品、膜電極接合体、燃料電池を提供することができるので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】電解質膜の両面に電極触媒層を形成した膜電極結合体の一実施態様の断面説明図である。
【図2】図1に示した膜電極結合体を装着した燃料電池の単セルの構成を示す分解断面図である。
【図3】ポリピリジン、カンファースルホン酸と錯化したポリピリジン、およびスルホン化ポリピリジンの赤外スペクトルを示す。
【符号の説明】
【0092】
1 電解質膜
2 空気極側電極触媒層
3 燃料極側電極触媒層
4 空気極側ガス拡散層
5 燃料極側ガス拡散層
6 空気極
7 燃料極
8 ガス流路
9 冷却水流路
10 セパレータ
11 単セル
12 膜電極結合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン化含窒素複素環を有することを特徴とする高分子有機化合物。
【請求項2】
上記含窒素複素環がピリジン環であることを特徴とする請求項1記載の高分子有機化合物。
【請求項3】
スルホン化ピリジン環と、ピリジン環誘導体のみで構成されることを特徴とする請求項2記載の高分子有機化合物。
【請求項4】
スルホン酸密度が、0.1〜8ミリ当量/gであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高分子有機化合物。
【請求項5】
含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物に錯形成する物質を添加し、錯形成した前記有機化合物あるいは前記高分子有機化合物を作り、これをスルホン化した後、前記錯形成する物質を除去することにより製造することを特徴とするスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物の製造方法。
【請求項6】
前記錯形成する物質が、カンファースルホン酸であることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記含窒素複素環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物がピリジン環を有する有機化合物あるいは高分子有機化合物であることを特徴とする請求項5あるいは請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記含窒素複素環を有する有機化合物がピリジン環を1つ有する有機化合物であることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物。
【請求項10】
前記含窒素複素環を有する有機化合物がピリジン環を有する有機化合物であることを特徴とする請求項9記載の有機化合物。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とするイオン交換体。
【請求項12】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とする電解質膜。
【請求項13】
請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を利用して構成されることを特徴とする医薬品。
【請求項14】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスルホン化含窒素複素環を有する高分子有機化合物を用いるかあるいは請求項9あるいは請求項10に記載のスルホン化含窒素複素環を有する有機化合物を用いて構成されることを特徴とする触媒。
【請求項15】
請求項12記載の電解質膜を用いて構成されることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項16】
請求項12に記載の電解質膜を用いて構成されることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−126910(P2009−126910A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301841(P2007−301841)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】