説明

スルホン酸ジオール化合物の製造方法およびポリウレタン樹脂の製造方法

【課題】ポリウレタン原料として有用なスルホン酸ジオールの製造方法の提供。
【解決手段】アルコール溶媒中、タウリンとオキシラン化合物とをアルカリ金属水酸化物存在下で反応させることを特徴とするスルホン酸ジオール化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸ジオール化合物の製造方法に関するものであり、詳しくは、ポリウレタン樹脂の原料ジオールとして好適なスルホン酸ジオール化合物の製造方法に関するものである。
更に本発明は、前記製造方法により得られたスルホン酸ジオール化合物を原料ジオールとして使用するポリウレタン樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録再生装置および記録媒体には更なる高密度記録化が要求されている。
【0003】
高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得るためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることが有効であることが知られている。微粒子磁性体の分散性を高める手段としては、SO3Na基のようなスルホン酸(塩)基を結合剤に含有させる方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
磁気記録媒体用結合剤として広く用いられているポリウレタン樹脂へのスルホン酸(塩)基の導入方法としては、原料ジオールとしてスルホン酸(塩)基を導入したスルホン酸ポリオールを使用する方法が挙げられる。スルホン酸ポリオールとしては、ポリエステルスルホン酸ポリオールが知られているが、ポリエステルスルホン酸ポリオール中でスルホン酸(塩)基は、一部のオリゴマー成分に局在化した、不均一な形態で存在する。したがって、このポリエステルスルホン酸ポリオールを原料ジオールとして得られたポリウレタン中でも、スルホン酸(塩)基の存在形態は不均一となり、場合によってはスルホン酸(塩)基をほとんど含有しないポリウレタンも生成される。このようなポリウレタンは、磁性体への吸着性に乏しいため、良好な分散性向上効果を発揮することができず、吸着できないポリウレタンが媒体表面にマイグレートし、ヘッド汚れの発生や走行耐久性低下の原因となるおそれもある。
【0005】
そこで、スルホン酸(塩)基が均一に存在するポリウレタン樹脂を得るため、モノマーのスルホン酸ジオールを使用することが考えられる。そのようなスルホン酸ジオールとしては、例えば特許文献2に記載されているN,N−ビス(ヒドロキシアルキル)アミノエチルスルホン酸塩が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−132531号公報
【特許文献2】特開平3−66660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
モノマーのスルホン酸ジオールは、特許文献2に記載されているように、従来水溶媒中で合成されていたため、必然的に生成物中に多くの水が残留する。一方、ウレタン化反応において系内に多量の水が含まれるとイソシアネートのNCO基が水と反応してしまい、ジオール成分とのウレタン化反応が良好に進行しない。スルホン酸ジオールから水を留去した後にウレタン化反応を行うことも考えられるが、工業スケールでの水の留去は困難であるため実用上好ましくない。一方、スルホン酸ジオールの合成反応を有機溶媒中で行うことも考えられるが、スルホン酸ジオールの原料となるタウリン(2−アミノエタンスルホン酸)は、有機溶媒による晶析によって精製されるほど(例えば特開平6−192209号公報、特開平7−17943号公報等参照)、有機溶媒への溶解性に乏しいため、従来の方法では非水系で合成することは困難であった。
【0008】
そこで本発明の目的は、ポリウレタン原料として有用なスルホン酸ジオールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、従来有機溶媒への溶解性に乏しいと考えられていたタウリンが、アルカリ金属水酸化物を含むアルコール溶媒に溶解することを新たに見出した。この点について本発明者は、アルカリ金属水酸化物を含むアルコール溶媒中でタウリンがタウリン塩となり、このタウリン塩がアルコール溶媒に対して高い溶解性を示すからであると推察している。
本発明者は、以上の知見に基づき更に検討を重ね、アルカリ金属水酸化物を含むアルコール溶媒中でタウリンとオキシラン化合物を反応させることにより、アルコール溶媒中でスルホン酸ジオール化合物を合成できることを新たに見出した。アルコール溶媒に含まれる水酸基は、イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応(ウレタン化)し得る。ただしアルコール溶媒は、水と比べて除去が容易であり、工業的スケールで容易に除去することができる。したがって、アルコール溶媒中でスルホン酸ジオール化合物を合成した後、アルコール溶媒を留去した後にイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すことにより、スルホン酸ジオール化合物とイソシアネート化合物とのウレタン化反応を良好に進行させることができる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0010】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]アルコール溶媒中、タウリンとオキシラン化合物とをアルカリ金属水酸化物存在下で反応させることを特徴とするスルホン酸ジオール化合物の製造方法。
[2]前記オキシラン化合物は、アルキレンオキシドまたはグリシジルエーテルである[1]に記載の製造方法。
[3]前記反応にプロトン酸を共存させる[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記プロトン酸は、無機酸である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記プロトン酸は、有機酸である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記アルコール溶媒は、メタノールである[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記反応後に得られた反応液に、前記アルコール溶媒と相分離可能な抽出用溶媒を添加し液液抽出による精製を行うことを更に含む[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記反応後、アルコール溶媒の留去を行うことを更に含む[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]前記アルコール溶媒の留去を非プロトン性溶媒存在下での蒸留により行うことによって、前記反応の反応生成物であるスルホン酸ジオール化合物を含む反応液を得る[8]に記載の製造方法。
[10]前記反応液の含水率は1.0質量%以下である[9]に記載の製造方法。
[11]前記反応液のアルコール溶媒含有率は1.0質量%以下である[9]または[10]に記載の製造方法。
[12][8]に記載の製造方法によりスルホン酸ジオール化合物を製造し、得られたスルホン酸ジオール化合物をイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すことを特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。
[13][9]〜[11]のいずれかに記載の製造方法により前記反応液を得ること、次いで、
上記反応液をイソシアネート化合物と混合することにより、該反応液に含まれるスルホン酸ジオール化合物をイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すこと、
を特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スルホン酸(塩)基含有ポリウレタン樹脂の合成原料として有用なスルホン酸ジオール化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[スルホン酸ジオール化合物の製造方法]
本発明のスルホン酸ジオール化合物の製造方法は、アルコール溶媒中、タウリンとオキシラン化合物とをアルカリ金属水酸化物存在下で反応させるものである。ここで、「スルホン酸ジオール化合物」とは、スルホン酸基またはスルホン酸塩基(以下、これらをまとめて「スルホン酸(塩)基」という)を有するジオール化合物をいう。
【0013】
タウリンとオキシラン化合物とを出発原料としてスルホン酸ジオール化合物を得る反応のスキームは、以下の通りである。
【0014】
【化1】

[上記において、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基等であり、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。]
【0015】
しかし前述のようにタウリンは有機溶媒に不溶であるため、従来、上記反応は水溶媒中で行われていた。これに対し本発明者は、アルコール溶媒にアルカリ金属水酸化物を添加することにより、アルコール溶媒中で上記反応が良好に進行することを新たに見出した。これは、(1)タウリンが有するスルホン酸基がアルカリ金属水酸化物存在下でスルホン酸塩基となり、このスルホン酸塩基を有するタウリン塩がアルコール溶媒に対し高い溶解性を示すこと、(2)オキシラン化合物がアルコール溶媒に対して高い溶解性を示すこと、に起因すると考えられる。
以下、本発明のスルホン酸ジオールの製造方法について、更に詳細に説明する。
【0016】
アルコール溶媒
アルコール溶媒としては、特に限定されるものではないが、反応後の溶媒留去の容易性等を考慮すると、炭素数1〜3のアルコール溶媒が好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等を用いることが好ましく、反応に使用するオキシラン化合物およびアルカリ金属水酸化物、ならびに生成されるタウリン塩が良好に溶解し得るものを選択することがより好ましい。上記溶解性の観点からは、メタノールが好適である。アルコール溶媒は、一種のみ用いてもよく二種以上を混合して使用することもできる。
【0017】
反応溶媒としては、アルコール溶媒とともに他の有機溶媒を併用することもできる。併用可能な有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、およびイソホロン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒、塩化メチレン、クロロホルムを挙げることができる。但し、アルコール溶媒以外の有機溶媒を多量に使用すると、反応中にタウリンおよび中間体が析出するため反応速度の低下を招く。したがって、アルコール溶媒と他の有機溶媒とを併用する場合、反応溶媒全量に対するアルコール溶媒の含有量は、70質量%以上とすることが反応性の点から好ましく、100質量%とすることが最も好ましい。反応溶媒は、必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0018】
アルカリ金属水酸化物
アルカリ金属水酸化物は、前述の通り、アルコール溶媒中でタウリンを可溶化する役割を果たすことができる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等を用いることができる。アルカリ金属水酸化物は、一種単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0019】
反応液に添加するタウリンの濃度は、反応効率の点から1質量%以上であることが好ましく、アルコール溶媒に対するタウリン塩の溶解度を考慮すると25質量%以下であることが好ましい。したがって、上記観点から、反応液中のタウリン濃度は、1〜25質量%とすることが好ましい。
【0020】
アルカリ金属水酸化物とタウリンが1対1で反応することによりタウリン塩が生成されるが、タウリン、アルカリ金属水酸化物のいずれかを過剰量使用することも可能である。タウリンに対して1.0当量未満のアルカリ金属水酸化物を使用する場合、即ち、タウリンを過剰量使用する場合には、反応後の未反応タウリンの除去の容易性の観点から、タウリンに対して0.50当量以上のアルカリ金属水酸化物を使用することが好ましい。他方、アルカリ金属水酸化物を過剰量使用する場合には、反応後の未反応のアルカリ金属水酸化物の除去の容易性を考慮すると、タウリンに対するアルカリ金属水酸化物の使用量は、2.0当量以下とすることが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、反応性、除去性を考慮すると、タウリンに対し、より好ましくは0.50〜1.5当量の範囲である。
【0021】
オキシラン化合物
オキシラン化合物としては、例えば、アルキレンオキシド、グリシジルエーテル等を挙げることができ、所望のスルホン酸ジオールの構造に応じて選択すればよい。
【0022】
オキシラン化合物としてアルコール溶媒に対するタウリン塩の溶解性を阻害しないものを使用することにより、スルホン酸ジオールの生成反応を良好に進行させることができる。この観点からは、アルキレンオキシドの炭素数は、2〜10の範囲であることが好ましい。好ましいアルキレンオキシドの具体例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキサンオキシドを挙げることができる。
【0023】
上記観点から、グリシジルエーテルとしては、炭素数4〜12のグリシジルエーテルが好ましい。好ましいグリシジルエーテルの具体例としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0024】
反応液に添加するオキシラン化合物の量は、反応効率の点からは溶存しているタウリン塩に対して過剰量とすることが好ましく、反応液に添加したタウリンに対して1.0当量以上とすることが好ましい。また、反応後の未反応オキシラン化合物の除去の容易性を考慮すると、反応液に添加したタウリンに対するアルカリ金属水酸化物の使用量は、10.0当量以下とすることが好ましい。オキシラン化合物の使用量は、反応液に添加したタウリンに対し、より好ましくは1.0〜5.0当量の範囲である。
【0025】
タウリンとオキシラン化合物との反応
アルコール溶媒へのタウリン、アルカリ金属水酸化物およびオキシラン化合物の添加順序は特に限定されるものではなく、タウリン、アルカリ金属水酸化物およびオキシラン化合物を同時に添加してもよく、順次添加してもよい。アルコール溶媒中でタウリンを可溶化した後にオキシラン化合物を添加することが、反応効率の点から好ましい。具体的には、アルコール溶媒中でタウリンとアルカリ金属水酸化物とを攪拌混合した後、反応液中にオキシラン化合物を添加することが好ましい。
【0026】
反応中の反応液の温度は、反応速度の点からは0℃以上とすることが好ましく、アルコール溶媒およびオキシラン化合物の沸点以下にすることが望ましい。沸点を超える温度で反応させる場合には冷却管の使用や封管させるなど低沸点物が揮発しない操作を適宜行うことが好ましい。また、反応温度がオキシラン化合物の沸点以下であったとしても、高温にするとスルホン酸ジオールにオキシラン化合物が付加した4級アンモニウム塩やオキシラン化合物にアルコールが付加したエーテルが副生成する場合がある。したがって、反応液の温度は、副生物低減の観点から80℃以下とすることが好ましく、反応効率向上および副生物低減の観点からは、25〜70℃の範囲とすることがより好ましい。反応は、減圧下で行ってもよいが、大気圧下でも反応は十分進行し得る。反応時間は、反応が十分に進行する範囲内で適宜設定すればよいが、例えば30分〜16時間程度とすることができる。
【0027】
上記反応には、プロトン酸を共存させることもできる。プロトン酸を共存させることにより、プロトン酸が触媒として機能し、反応効率を高めることができる。プロトン酸としては、無機酸および有機酸のいずれを用いてもよい。プロトン酸としては、アルコール溶媒への溶解性の点からは無機酸が好ましい。無機酸としては、特に限定されるものではないが、水、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸が好ましく、水、リン酸がより好ましく、水が更に好ましい。有機酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、有機カルボン酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸、有機フェノール等を挙げることができる。有機スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。有機カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸等が挙げられ、好ましくは酢酸である。有機酸としては、有機カルボン酸が好ましい。反応液中のプロトン酸の含有量は、反応効率向上の観点からは固形分全量100質量部に対して0.0001質量部以上とすることが好ましい。また、生成物であるスルホン酸ジオール化合物をウレタン合成に使用する点からは0.1質量部以下とすることが好ましい。なお、プロトン酸として水を使用する場合、任意の割合で使用することができるが、水はウレタン合成時に副反応を起こすため少量であることが望ましく、工業的に容易に除去できる比率としては固形分100質量部に対して0.0001質量部以上、0.1質量部以下であることが望ましい。
【0028】
上記反応後、適宜精製、洗浄等の後工程を行うことにより、目的物であるスルホン酸ジオール化合物を得ることができる。特に、タウリンに対し過剰量のオキシラン化合物を使用する場合、未反応のオキシラン化合物を除去するための精製工程を行うことが好ましい。精製工程としては、反応液に対し、使用したアルコール溶媒と相分離し得る抽出用溶媒を添加し、液液抽出を行うことが好ましい。液液抽出によって、アルコール相中に含まれていた未反応物を抽出溶媒相に移すことにより、アルコール相中の不純物を除去し、スルホン酸ジオール化合物の純度を高めることができる。なお、低沸点のオキシラン類に対しては精製工程として減圧留去を行うことも有効である。
【0029】
前記液液抽出に使用する抽出用溶媒としては、反応に使用したアルコール溶媒と相分離可能であり、かつオキシラン化合物等の未反応物を良好に溶解し得る溶媒を選択することが好ましい。そのような溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンを挙げることができる。上記液液抽出は、抽出用溶媒の添加→攪拌→静置→アルコール層の取り出し、を1回または必要に応じて2回以上繰り返すことにより行うことができる。
【0030】
必要に応じて上記液液抽出等の精製工程を行った後、アルコール溶媒を留去することにより、目的物であるスルホン酸ジオール化合物を得ることができる。アルコール溶媒の留去方法は濃縮乾固でもよく、非アルコール溶媒共存下にてアルコールを留去する蒸留方式でもよい。蒸留は、非アルコール溶媒としてアルコール溶媒より高沸点である溶媒を使用すればよく、減圧下、常圧下いずれの条件においても実施可能である。
【0031】
前記非アルコール溶媒としては、反応生成物であるスルホン酸ジオール化合物をウレタン合成の原料として使用する場合の反応制御の観点から、非プロトン性溶媒が好ましい。これは、生成されたスルホン酸ジオール化合物をウレタン合成の原料として使用する場合、プロトン性溶媒は重合原料であるイソシアネートと反応するためである。
【0032】
前記非プロトン性溶媒としては、ベンゼン、トルエンのような芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類が好ましく、シクロヘキサノン、トルエン、メチルエチルケトン等がより好ましい。非プロトン性溶媒の使用量は、スルホン酸ジオールの溶解度以上であることが好ましく、具体的にはスルホン酸ジオール1質量部に対して0.2質量部〜100質量部とすることが好ましい。
【0033】
非アルコール溶媒を使用する留去処理によって、非アルコール溶媒中に反応生成物であるスルホン酸ジオールを含む反応液を得ることができる。反応液中にアルコール溶媒が多量に残留していると、後述のウレタン化反応においてイソシアネート化合物とアルコール溶媒が反応した不活性体が多く発生し、反応効率が低下したり分子量制御が困難となる場合があるため、後述のウレタン化反応の反応効率向上および分子量制御の容易性の観点からは、上記留去処理により、反応液中のアルコール溶媒含有率を1.0質量%以下に低減することが好ましい。上記留去処理を高温下または長時間行うほど上記反応液中のアルコール溶媒含有率が低減し、反応効率および分子量制御の点では好ましい。ただし、留去処理を高温下または長時間行うほど工業スケールでの製造においてコストアップにつながるため、量産性およびコスト面からは、上記反応液中のアルコール溶媒含有率の下限値は0.05質量%以上とすることが好ましい。上記反応液中のアルコール溶媒含有率は、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量%未満である。また、本発明によれば非水系溶媒中での反応からスルホン酸ジオール化合物を得ることができるため、例えば含水率1.0質量%以下のきわめて低含水率の反応液を得ることも可能である。このようにアルコール含有率および含水率が低減された反応液は、更なる分離精製工程を行うことなく、そのまま後述のウレタン化反応に付すことができる。
【0034】
以上の工程により、非水系溶媒中での反応からスルホン酸ジオール化合物を得ることができる。目的物が得られたことは、NMR等の公知の同定方法により確認することができる。また、上記の原料化合物は、いずれも公知の方法で合成可能であり、多くは市販品として入手可能である。
【0035】
上記製造方法により得られるスルホン酸ジオール化合物は、下記一般式(I)により表すことができる。
【0036】
【化2】

【0037】
一般式(I)中、Mは水素原子またはアルカリ金属原子を表し、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、またはアリールオキシアルキル基を表す。
【0038】
前記アルカリ金属原子は、ナトリウム原子、カリウム原子またはリチウム原子であることができる。例えば、前記反応においてアルカリ金属水酸化物としてカリウム塩を使用することによりMがカリウム原子であるスルホン酸ジオール化合物を得ることができる。
【0039】
1〜R4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシアルキル基、またはアリールオキシアルキル基を表す。本発明により得られるスルホン酸ジオール化合物は、液液抽出によりアルコール相中に回収可能であることが好ましく、この点からアルコール溶媒に対する溶解性が高いことが好ましい。また、ポリウレタン原料として使用する観点からは、有機溶媒に対する溶解性が高いことが好ましい。上記溶解性の観点からは、R1〜R4は、水素原子、炭素数2〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、または炭素数7〜20のアリールオキシアルキル基を表すことが好ましい。また、上記各基は置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、スルホニル基、およびシリル基を例示できる。また、前記アルキル基およびアラルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。
【0040】
これらの中でも、アルコール溶媒およびポリウレタン合成時に使用される有機溶媒に対する溶解性の点からは、R1〜R4すべてが水素原子ではないことが好ましい。水素原子以外の基としては、エチル基、メトキシメチル基、ブトキシメチル基、フェノキシメチル基、および、フェニル基を好ましく例示できる。
【0041】
本発明により得られるスルホン酸ジオール化合物の具体例としては、一般式(I)で表される下記化合物を挙げることができる。ただし本発明により製造されるスルホン酸ジオール化合物は、下記具体例に限定されるものではなく、原料オキシラン化合物の種類により、所望の構造を有するスルホン酸ジオール化合物を得ることができる。
【0042】
【化3】

【0043】
[ポリウレタン樹脂の製造方法]
本発明のポリウレタン樹脂の製造方法は、前述のアルコール溶媒留去を含む本発明のスルホン酸ジオール化合物の製造方法によりスルホン酸ジオール化合物を製造し、得られたスルホン酸ジオール化合物をイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すことを含む。本発明のポリウレタン樹脂の製造方法の好ましい態様は、先に説明した、非プロトン性溶媒存在下での蒸留により反応液を得る工程を含む本発明のスルホン酸ジオール化合物の製造方法によりスルホン酸ジオール化合物を製造し、得られた反応液をイソシアネート化合物と混合することにより、該反応液に含まれるスルホン酸ジオール化合物をイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すことを含む。
先に説明したように、ウレタン化反応を良好に進行させるためには、原料ジオールが水を極力含まないことが好ましい。本発明のスルホン酸ジオール化合物の製造方法では、反応溶媒として水を使用しないため、得られたスルホン酸ジオールをイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すことにより、水を留去する工程を実施することなく、ジオールとイソシアネートとのウレタン化反応を良好に進行させることができる。ただし、アルコール溶媒が多量に残留した状態でスルホン酸ジオール化合物をイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すと、イソシアネート化合物の一部がアルコール溶媒の水酸基とのウレタン化反応に供されてしまうため、スルホン酸ジオール化合物とイソシアネート化合物とのウレタン化反応を良好に進行させることが困難となり、その結果、得られるポリウレタン樹脂の分子量が低下する。このようなポリウレタン樹脂は、磁気記録媒体の結合剤としては不適である。
そこで本発明では、アルコール溶媒留去後にウレタン化反応を行う。これにより、磁気記録媒体の結合剤として好適な高分子量ポリウレタン樹脂を得ることができる。特に、上記好ましい態様によれば、アルコール含有率および含水率が低減された反応液を得ることができ、この反応液をそのままウレタン化反応に付すことにより、簡便かつ効率的にポリウレタン樹脂を得ることができる。このためには、非プロトン性溶媒として、ウレタン化反応の反応溶媒となる溶媒を使用することが好ましい。
また、スルホン酸化合物は一般に水溶性が高く有機溶媒に溶解しない化合物が多いのに対し、本発明のスルホン酸ジオール化合物の合成方法によれば、ポリウレタン合成に使用される有機溶媒に溶解可能なスルホン酸ジオール化合物を得ることができる。これにより、ウレタン化反応を非水系で行うことができるため、ウレタン化反応を良好に進行する上で有利である。
以下、本発明のポリウレタン樹脂の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0044】
ポリウレタン原料として使用されるスルホン酸ジオール化合物については、先に説明した通りである。
【0045】
ポリウレタン原料として使用されるイソシアネート化合物としては、2官能以上の多官能イソシアネートを用いることができる。多官能イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらは公知の方法で合成することができ、また市販品としても入手可能である。
【0046】
ポリウレタン原料としては、前記方法により得られたスルホン酸ジオール化合物およびイソシアネート化合物とともに、ポリオールを併用することができる。併用されるポリオールは、鎖延長剤としての役割を果たすことができる。併用するポリオールとしては、一般にポリウレタン原料として使用されている各種ポリオール、具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の直鎖脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、トリシクロデカンジメタノール等の脂環式構造の繰り返し単位を持つジオール、ビスフェノールA、キシリレンジオール等の芳香族ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の(ポリ)エーテルグリコール、ポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0047】
前記原料中の本発明の製造方法により得られたスルホン酸ジオール化合物の含有量は、イソシアネート化合物との反応性の点から0.01〜10.0質量%の範囲であることが好ましい。前記含有量は、より好ましくは0.7〜5.0質量%である。併用するポリオールとイソシアネート化合物の含有量は適宜設定すればよいが、例えば前記原料中の併用するポリオールの含有量は45.0〜70.0質量%、ジイソシアネートの含有量は23.0〜49.0質量%とすることができる。
【0048】
前記ポリウレタン樹脂の分子量は、質量平均分子量として、15,000〜200,000の範囲であることが好ましく、磁気記録媒体の結合剤として使用する際のヘッド汚れ抑制の観点から好ましくは30,000以上、分散性の観点から180,000以下であることが好ましく、更に好ましくは50,000〜150,000である。質量平均分子量が上記範囲内のポリウレタン樹脂は、溶剤溶解性が高く分散性が良好であるとともに、高い塗膜強度を有する磁気記録媒体を形成することができる。また、質量平均分子量/数平均分子量の比(Mw/Mn)は、好ましくは5以下であり、より好ましくは1.4〜4.0の範囲である。本発明における平均分子量は、標準ポリスチレン換算で求められる値をいうものとする。前記ポリウレタン樹脂の分子量は、原料組成、反応条件等により制御することができる。
【0049】
前述の原料を公知の方法で反応させることによりスルホン酸(塩)基が導入されたポリウレタン樹脂を得ることができる。合成方法については、後述の実施例も参照できる。また、磁気記録媒体の結合剤として好適なポリウレタン樹脂としては、スルホン酸(塩)基の含有量が10〜1000μeq/gのものが好ましい。スルホン酸(塩)基の含有量は、スルホン酸ジオール化合物の使用量により制御することができる。また、必要に応じて、スルホン酸(塩)基等の吸着性官能基を有するポリオールを併用する、合成されたポリウレタン樹脂に吸着性官能基を導入する、等の方法を採用することもできる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。
【0051】
実施例および比較例におけるガスクロマトグラフィーによるオキシラン化合物含有率およびアルコール溶媒含有率の測定条件を以下に示す。
(1)オキシラン化合物含有量の測定条件(検出限界:0.002%)
カラム:DB-5MS 30m×0.25mm×0.25μm
カラム温度:50℃、試料気化室温度:100℃、検出器部分温度:250℃
温度レート:50℃/6min→昇温10℃/min→250℃/8min、
検出器レンジ:2、圧力:102KPa、フロープログラム:圧力、試料注入量:1μl
サンプリングモード:スプリット、スプリット比:1:10
クロマトパック条件:WIDTH:3、SLOPE:540
MIN.AREA:3000、T.DBL:500
STOP.TM:35、SPEED:2.5、ATTEN:4
(2)アルコール溶媒含有率の測定条件(検出限界:0.002%)
カラム:DB-5MS 30m×0.25mm×0.25μm
カラム温度:40℃、試料気化室温度:100℃、検出器部分温度:250℃
温度レート:40℃/6min→昇温30℃/min→210℃/8min、
検出器レンジ:2、圧力:102KPa、フロープログラム:圧力、試料注入量:1μl
サンプリングモード:スプリット、スプリット比:1:10
クロマトパック条件:WIDTH:3、SLOPE:540
MIN.AREA:3000、T.DBL:500
STOP.TM:35、SPEED:2.5、ATTEN:4
【0052】
1.スルホン酸ジオール合成の実施例・比較例
【0053】
[実施例1]
タウリン100部、水酸化ナトリウム38.3部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、1,2−ブチレンオキシド115部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(1):例示化合物(2)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存する1,2−ブチレンオキシドをガスクロマトグラフィーにて定量したところ検出限界以下であった。
【0054】
[実施例2]
タウリン100部、水酸化カリウム44.8部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、1,2−ブチレンオキシド115部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(3):例示化合物(4)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存する1,2−ブチレンオキシド、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところいずれも検出限界以下であった。
【0055】
[実施例3]
タウリン100部、水酸化リチウム33.5部をメタノール500部に添加し、45℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、1,2−ブチレンオキシド115部を添加し、45℃でさらに2時間攪拌した。反応液にヘキサン550部を添加し、45℃で30分攪拌した。静置した後、メタノール層を取り出し真空蒸留装置に導入し濃縮乾固した。得られた固体にヘキサン400部を添加し、ろ過することで白色粉末を得た。白色粉末を1H−NMRにより同定し、例示化合物(13):例示化合物(14)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。白色粉末中に残存する1,2−ブチレンオキシド、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところいずれも検出限界以下であった。
【0056】
[実施例4]
タウリン100部、水酸化ナトリウム38.3部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、ブチルグリシジルエーテル207部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(5):例示化合物(6)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存するブチルグリシジルエーテル、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは検出されず、ブチルグリシジルエーテルは5.4%検出された。
【0057】
[実施例5]
タウリン100部、水酸化カリウム44.8部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、ブチルグリシジルエーテル207部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(7):例示化合物(8)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存するブチルグリシジルエーテル、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは検出されず、ブチルグリシジルエーテルは5.4%検出された。
【0058】
[実施例6]
タウリン100部、水酸化ナトリウム38.3部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、スチレンオキシド192部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(9):例示化合物(10)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存するスチレンオキシド、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは検出されず、スチレンオキシドは6.0%検出された。
【0059】
[実施例7]
タウリン100部、水酸化カリウム44.8部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、スチレンオキシド192部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(11):例示化合物(12)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存するスチレンオキシド、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは検出されず、スチレンオキシドは6.0%検出された。
【0060】
[比較例1]
メタノール500部をシクロヘキサノン500部に変えて実施例1と同様の操作を行った。反応液中をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、タウリン、1,2−ブチレンオキシドが80%以上残存していた。
【0061】
[比較例2]
メタノール500部をN,N−ジメチルホルムアミド500部に変えて実施例1と同様の操作を行った。反応液を1H−NMRにより分析したところ、タウリン、1,2−ブチレンオキシドが80%以上残存していた。
【0062】
[比較例3]
水酸化ナトリウムを使用しなかった点以外は実施例1と同様の操作を行った。反応終了後に反応液を濾過し、濾取物と濾液とに分離した。
濾取物を100部のメタノールで洗浄した後、40℃で3時間真空乾燥して固形物を得た。得られた固形物を1H−NMRにより分析したところ、固形物はタウリンであることが確認された。固形物の質量を測定したところ、99.5部であった。上記濾過により得られた濾液中のブチレンオキシドをガスクロマトグラフィーで定量したところ、115部相当のブチレンオキシドが観測された。
以上の結果から、原料タウリンと1,2−ブチレンオキシドがほとんど反応することなく残存していたことが確認された。
【0063】
[実施例8]
タウリン100部、水酸化ナトリウム32.0部、酢酸(プロトン酸)2部をメタノール500部に添加し、45℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、ブチルグリシジルエーテル115部を添加し、45℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(5):例示化合物(6)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存するブチルグリシジルエーテル、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは検出されず、ブチルグリシジルエーテルは1.2%検出された。なお、ブチルグリシジルエーテルがメタノールまたは水で開環したアルコール体は検出されなかった。
【0064】
[実施例9]
タウリン100部、水酸化ナトリウム32.0部、水(プロトン酸)30部をメタノール500部に添加し、45℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、ブチルグリシジルエーテル115部を添加し、45℃でさらに2時間攪拌した。反応液を真空蒸留装置に導入し濃縮、乾固した。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(5):例示化合物(6)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存するブチルグリシジルエーテル、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは検出されず、ブチルグリシジルエーテルは1.7%検出された。なお、ブチルグリシジルエーテルがメタノールまたは水で開環したアルコール体は検出されなかった。
【0065】
[比較例4]
メタノールを使用しなかった点以外は実施例9と同様の操作を行った。濃縮、乾固後に得られた固体をガスクロマトグラフィーで分析したところ、タウリン、ブチルグリシジルエーテルが80%以上残存した。
【0066】
[実施例10]
タウリン100部、水酸化ナトリウム32.0部をメタノール500部に添加し、45℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、ブチルグリシジルエーテル115部を添加し、45℃でさらに2時間攪拌した。反応液にヘキサン550部を添加し、45℃で30分攪拌した。静置した後、下層を取り出した。得られた下層にヘキサン200部を添加し45℃で30分攪拌した。静置した後、下層を取り出した。上記液液抽出により得られた下層を濃縮乾固し粘体を得た。得られた生成物(粘体)を1H−NMRにより同定し、例示化合物(5):例示化合物(6)=1:1(質量比)の混合物であることを確認した。粘体中に残存するブチルグリシジルエーテル、メタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは検出されず、ブチルグリシジルエーテルは1.7%検出された。
【0067】
[実施例11]
タウリン100部、水酸化カリウム44.8部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、ブチルグリシジルエーテル115質量部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。得られた反応液中の残存ブチルグリシジルエーテルをガスクロマトグラフィーにより定量したところ、0.15%であった。この反応液にヘキサン550部を添加し、30℃で30分攪拌した。静置した後、メタノール層を取り出した。上記液液抽出により得られたメタノール層中の残存ブチルグリシジルエーテルをガスクロマトグラフィーにより定量したところ、0.08%であり、液液抽出により未反応の残存オキシラン化合物量を低減することができた。
その後、上記メタノール層に、シクロヘキサノン250部を添加した。得られた溶液を60℃、15mmHgの条件で減圧蒸留してメタノールを留去し、シクロヘキサノン溶液を得た。溶液中のメタノールをガスクロマトグラフィーにて定量したところメタノールは0.15%検出された。シクロヘキサノン溶液中の含水率をカールフィッシャー水分計を用いて測定したところ、0.08%であった。シクロヘキサノン溶液を180℃/60分の条件で加熱乾固させ固形分濃度を測定した。固形分濃度は66.7%であった。
【0068】
上記の通り、実施例1〜11において、アルコール溶媒中でタウリンとオキシラン化合物とをアルカリ金属水酸化物存在下で反応させることにより、スルホン酸ジオール化合物を合成することができた。
これに対し、アルコール溶媒を使用しなかった比較例1および2、アルカリ金属水酸化物不存在下で反応を行った比較例3では、タウリンとオキシラン化合物との反応を進行させることはできなかった。
【0069】
2.ポリウレタン樹脂製造の実施例
【0070】
[実施例12]
実施例11で得られたシクロヘキサノン溶液を使用し、以下の方法によりポリウレタン樹脂を合成した。
実施例11で得られたシクロヘキサノン溶液13.2部、ポリエーテル(株式会社アデカ製アデカポリエーテルBPX−1000)38.1部、トリシクロ[5,2,1,0(2,6)]デカンジメタノール(東京化成工業株式会社製スルホン酸基含有ジオール)1.09部、ジラウリン酸ジブチルすず0.1部をシクロヘキサノン54.1部に添加し、室温で30分攪拌し完溶させた。フラスコ内の水分をカールフィッシャー水分計で測定し、含有する水に対して1倍モルのジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を添加した。内温を80℃に設定した後、内温80〜90℃になる速度で50%のジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を含有するシクロヘキサノン溶液30.0部を滴下した。内温80℃〜90℃で4時間攪拌した後室温に冷却した。
得られたポリウレタンの質量平均分子量および質量平均分子量/数平均分子量比(Mw/Mn)を0.3%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いて標準ポリスチレン換算で求めた。質量平均分子量70000、Mw/Mn=1.90であった。
【0071】
[実施例13]
実施例11で得られたシクロヘキサノン溶液を使用し、以下の方法によりポリウレタン樹脂を合成した。
実施例11で得られたシクロヘキサノン溶液13.2部、ポリエーテル(株式会社アデカ製アデカポリエーテルBPX−1000)20.1部、トリシクロ[5,2,1,0(2,6)]デカンジメタノール(東京化成工業株式会社製スルホン酸含有ジオール)11.2部、ジラウリン酸ジブチルすず0.1部をシクロヘキサノン54.1部に添加し、室温で30分攪拌し完溶させた。フラスコ内の水分をカールフィッシャー水分計で測定し、含有する水に対して1倍モルのジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を添加した。内温を80℃に設定した後、内温80〜90℃になる速度で50%のジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を含有するシクロヘキサノン溶液45.7部を滴下した。内温80℃〜90℃で4時間攪拌した後室温に冷却した。
得られたポリウレタンの質量平均分子量および質量平均分子量/数平均分子量比(Mw/Mn)を0.3%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いて標準ポリスチレン換算で求めた。質量平均分子量70000、Mw/Mn=1.90であった。
【0072】
[実施例14]
実施例2で得られた反応液を60℃、15mmHgの条件で減圧乾燥した。
得られた粘体8.8部、ポリエーテル(株式会社アデカ製アデカポリエーテルBPX−1000)38.1部、トリシクロ[5,2,1,0(2,6)]デカンジメタノール(東京化成工業株式会社製スルホン酸含有ジオール)1.09部、ジラウリン酸ジブチルすず0.1部をシクロヘキサノン54.1部に添加し、室温で30分攪拌し完溶させた。フラスコ内の水分をカールフィッシャー水分計で測定し、含有する水に対して1倍モルのジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を添加した。内温を80℃に設定した後、内温80〜90℃になる速度で50%のジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を含有するシクロヘキサノン溶液71.9部を滴下した。内温80℃〜90℃で4時間攪拌した後室温に冷却した。
得られたポリウレタンの質量平均分子量および質量平均分子量/数平均分子量比(Mw/Mn)を0.3%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いて標準ポリスチレン換算で求めた。質量平均分子量70000、Mw/Mn=1.90であった。
【0073】
[比較例5]
タウリン100部、水酸化カリウム44.8部をメタノール500部に添加し、25℃、30分攪拌した。得られたメタノール溶液に、ブチルグリシジルエーテル115質量部を添加し、30℃でさらに2時間攪拌した。反応液にヘキサン550部を添加し、30℃で30分攪拌した。静置した後、メタノール層を取り出した。メタノール層を減圧濃縮し固形分濃度66.7%のメタノール溶液を得た。
上記で得られたメタノール溶液13.2部、ポリエーテル(株式会社アデカ製アデカポリエーテルBPX−1000)38.1部、トリシクロ[5,2,1,0(2,6)]デカンジメタノール(東京化成工業株式会社製スルホン酸基含有ジオール)1.09部、ジラウリン酸ジブチルすず0.1部をシクロヘキサノン54.1部に添加し、室温で30分攪拌し完溶させた。フラスコ内の水分をカールフィッシャー水分計で測定し、含有する水に対して1倍モルのジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を添加した。内温を80℃に設定した後、内温80〜90℃になる速度で50%のジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製ミリオネートMT)を含有するシクロヘキサノン溶液30.0部を滴下した。内温80℃〜90℃で4時間攪拌した後室温に冷却した。
得られたポリウレタンの質量平均分子量および質量平均分子量/数平均分子量比(Mw/Mn)を0.3%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いて標準ポリスチレン換算で求めた。質量平均分子量6400、Mw/Mn=1.00であった。
【0074】
アルコールの留去処理を含む製造方法により得られたスルホン酸ジオール化合物をジオール成分としてウレタン化反応を行った実施例12〜14では、スルホン酸ジオール化合物とイソシアネート化合物との反応が良好に進行した結果、高分子量のポリウレタン樹脂を合成することができた。
これに対し、比較例5では高分子量のポリウレタン樹脂を合成することはできなかった。これは、アルコール溶媒(メタノール)を留去することなくウレタン化反応を行ったため、イソシアネート化合物の一部がメタノールの水酸基とのウレタン化反応に供された結果、スルホン酸ジオール化合物とイソシアネート化合物とのウレタン化反応が良好に進行しなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により得られるスルホン酸ジオール化合物は、ポリウレタン樹脂の合成原料として有用である。更に、本発明により得られるポリウレタン樹脂は、磁気記録媒体用結合剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール溶媒中、タウリンとオキシラン化合物とをアルカリ金属水酸化物存在下で反応させることを特徴とするスルホン酸ジオール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記オキシラン化合物は、アルキレンオキシドまたはグリシジルエーテルである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応にプロトン酸を共存させる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記プロトン酸は、無機酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記プロトン酸は、有機酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルコール溶媒は、メタノールである請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応後に得られた反応液に、前記アルコール溶媒と相分離可能な抽出用溶媒を添加し液液抽出による精製を行うことを更に含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記反応後、アルコール溶媒の留去を行うことを更に含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルコール溶媒の留去を非プロトン性溶媒存在下での蒸留により行うことによって、前記反応の反応生成物であるスルホン酸ジオール化合物を含む反応液を得る請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記反応液の含水率は1.0質量%以下である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記反応液のアルコール溶媒含有率は1.0質量%以下である請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載の製造方法によりスルホン酸ジオール化合物を製造し、得られたスルホン酸ジオール化合物をイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すことを特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法により前記反応液を得ること、次いで、
上記反応液をイソシアネート化合物と混合することにより、該反応液に含まれるスルホン酸ジオール化合物をイソシアネート化合物とのウレタン化反応に付すこと、
を特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2010−163376(P2010−163376A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5280(P2009−5280)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】