説明

スルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及びその製造方法

【課題】酸性条件下での安定性が高く、金属不純物の含有量が低く、しかも濾過性が良好であるスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コロイダルシリカに、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤を添加した後、前記官能基をスルホン酸基に変換するスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルの製造方法、及びそれにより得られるpH2以上の酸性においてゼータ電位が−15mV以下であるスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及びその製造方法に関する。
【0002】
具体的には、水性媒体を用いたコロイダルシリカ(シリカゾル)の表面をスルホン酸修飾することによりアニオン性を付与したスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
水性媒体を用いたコロイダルシリカ(シリカゾル)は、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤として用いられたり、半導体ウェハの研磨剤として使用されたりしている。シリカゾルは、酸性条件下ではシリカ粒子どうしが凝集してしまい安定性に劣るといった問題が存在しており、幅広いpH領域で安定性に優れたシリカゾルが求められている。
【0004】
特許文献1には、酸性条件下において安定性の高い変性コロイダルシリカが記載されている。具体的には、加水分解可能なケイ素化合物を加水分解・縮合して得られたコロイダルシリカを変性剤で変性させて得られる変性コロイダルシリカが記載されており、特に、変性剤としてカチオン性基を有するシランカップリング剤が用いられている(特許文献1の請求項1、[0018]段落等)。
【0005】
特許文献2には、上記とは逆に、シリカ表面にアニオン性を付与した高安定性の変性コロイダルシリカが記載されている。具体的には、コロイダルシリカとアルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩を反応させることによりシリカ表面にアニオン性を付与した、アニオンシリカゾルが記載されている(特許文献2の請求の範囲第1項、発明の効果等)。
【0006】
これらの従来品の変性コロイダルシリカを特に酸性条件下で半導体ウェハの研磨剤等の用途に用いる場合には、より改善の余地がある。
【0007】
つまり、特許文献1のカチオン性シリカゾルは、酸性領域でプラスのゼータ電位を有し高安定である。しかしながら、カチオン性ゾルの場合、液性が中性からアルカリ性に変化する途中でゼータ電位がゼロになる等電点を通過することになり、酸性からアルカリ性の広い領域において高い安定性を有するわけではない。また、特許文献2では、アルミン酸塩を反応させているため、アニオン性シリカゾルはケイ素以外にアルミニウム元素を含むことになり、一部の用途、特に不純物金属元素を嫌う化学機械研磨(CMP)用途に適さない。更に、研磨剤等として用いる場合には研磨装置に研磨液を供給する前に粗粒を除去するために濾過する必要がある上、研磨液を循環して繰り返し用いる設計上、研磨液の濾過性が高いことが要求される。つまり、濾過に際して変性コロイダルシリカが凝集したりゲル化したりするのを防止する必要がある。また、変性コロイダルシリカに金属不純物が含まれる場合には、半導体ウェハにスクラッチ傷等が生じる可能性があるため、金属不純物の含有量はできる限り低いことが要求される。この点、従来品の変性コロイダルシリカは上記要求を十分に満たしきれておらず、更に改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−162533号公報
【特許文献2】WO2008/111383号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、酸性条件下での安定性が高く、金属不純物の含有量が低く、しかも濾過性が良好であるスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、コロイダルシリカ(シリカゾル)中のシリカ表面を特定の官能基を有するシランカップリング剤で処理した後、当該官能基をスルホン酸基に変換する製造方法によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルに関する。
1.pH2以上の酸性においてゼータ電位が−15mV以下であるスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル。
2.1)ナトリウム及びカリウムから選ばれるアルカリ金属、2)カルシウム及びマグネシウムから選ばれるアルカリ土類金属並びに3)アルミニウム、鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトから選ばれる重金属及び軽金属の含有量がそれぞれ1重量ppm以下である、上記項1に記載のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル。
3.酸性条件下、調製後2週間以上、凝集又はゲル化が防止されている、上記項1又は2に記載のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル。
4.コロイダルシリカに、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤を添加した後、前記官能基をスルホン酸基に変換するスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルの製造方法。
5.前記化学的にスルホン酸基に変換できる官能基はメルカプト基である、上記項4に記載の製造方法。
6.前記コロイダルシリカは、加水分解可能なケイ素化合物を加水分解・縮合して得られる、上記項4又は5に記載の製造方法。

以下、本発明のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及びその製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルは、コロイダルシリカに、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤を添加した後、前記官能基をスルホン酸基に変換する製造方法(以下、「本発明の製造方法」)によって得られる。
【0013】
原料のコロイダルシリカは表面にシラノール基を有するものであれば限定されないが、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩素等の腐食性イオンを含まないことを考慮すると、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシラン又はこの誘導体)を原料とし、加水分解・縮合により得られるコロイダルシリカが好ましい。このケイ素化合物は、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0014】
本発明では、下記一般式1で示されるアルコキシシラン又はこの誘導体が好ましい。
【0015】
Si(OR) (1)
〔式中、Rはアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜8の低級アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の低級アルキル基である。〕
上記Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を例示することができ、Rがメチル基であるテトラメトキシシラン、Rがエチル基であるテトラエトキシシラン、Rがイソプロピル基であるテトライソプロポキシシランが好ましい。また、アルコキシシランの誘導体としては、アルコキシシランを部分的に加水分解して得られる低縮合物を例示することもできる。本発明では、加水分解速度を制御し易い点、シングルnmの微小シリカ粒子が得られ易い点、未反応物の残留が少ない点でテトラメトキシシランを用いることが好ましい。
【0016】
上記ケイ素化合物は、反応溶媒中で加水分解・縮合されてコロイダルシリカとなる。反応溶媒としては、水または水を含む有機溶媒が使用される。
【0017】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の親水性有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒の中でも、特にメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類を使用することが好ましく、反応溶媒の後処理などの観点から、原料のケイ素化合物のアルキル基(R)と同じアルキル基を有するアルコール類を使用することがより好ましい。これらの有機溶媒は、1種又は2種以上で使用できる。
【0018】
有機溶媒の使用量は特に限定されないが、ケイ素化合物1モル当り、5〜50モル程度が好ましい。5モル未満の場合、ケイ素化合物との相溶性が失われる場合がある。50モルを超える場合、製造効率が低下する場合がある。
【0019】
有機溶媒に添加される水の量は特に限定されず、ケイ素化合物の加水分解に要する量が存在すればよく、ケイ素化合物1モル当り2〜15モル程度が好ましい。なお、有機溶媒に混合される水の量は、形成されるコロイダルシリカの粒径に大きく影響する。水の添加量が相対的に増加すれば、コロイダルシリカの粒径を相対的に大きくすることができる。水の添加量を相対的に低下すれば、コロイダルシリカの粒径を相対的に小さくすることができる。よって、水と有機溶媒の混合比率を変化させることによって、製造されるコロイダルシリカの粒径を任意に調整することができる。
【0020】
反応溶媒には、塩基性触媒を添加して反応溶媒をアルカリ性に調整することが好ましい。これにより反応溶媒は好ましくはpH8〜11、より好ましくはpH8.5〜10.5に調整され、速やかにコロイダルシリカを形成することができる。塩基性触媒としては、不純物を考慮すれば有機アミン、アンモニアが好ましく、特にエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチル水酸化アンモニウム等が好ましいものとして挙げられる。
【0021】
反応溶媒中でケイ素化合物を加水分解・縮合するには、原料化合物を有機溶媒に添加して0〜100℃、好ましくは0〜50℃の温度条件で攪拌すればよい。水を含む有機溶媒中でケイ素化合物を攪拌しながら加水分解・縮合することにより、球状で粒径のそろったコロイダルシリカを得ることができる。
【0022】
本発明では、コロイダルシリカに、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤を添加した後、前記官能基をスルホン酸基に変換することにより、コロイダルシリカをスルホン酸修飾する。これは、スルホン酸基は酸性度が高く加水分解を招くため、スルホン酸基を有するシランカップリング剤は得られ難いことに基づく。
【0023】
化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤としては、例えば、1)加水分解によりスルホン酸基に変換できるスルホン酸エステル基を有するシランカップリング剤、2)酸化によりスルホン酸基に変換できるメルカプト基及び/又はスルフィド基を有するカップリング剤が挙げられる。なお、コロイダルシリカ表面のスルホン酸修飾は溶液中で行われるため、修飾効率を高めるためには、後者のメルカプト基及び/又はスルフィド基を有するカップリング剤を用いることが好ましい。
【0024】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
スルフィド基を有するカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが挙げられる。
【0026】
コロイダルシリカにカップリング剤を添加する際、カップリング剤の溶解性を考えるとコロイダルシリカに親水性有機溶媒を含むことが好ましい。この点、アルコキシシランを塩基性触媒によりアルコール−水溶媒中で加水分解・縮合するストーバー法によってコロイダルシリカを得た場合にはアルコールが反応液中に含まれるので更に親水性有機溶媒を添加する必要はない。このとき、コロイダルシリカ中の水に対して親水性有機溶媒は50質量%以上がより好ましいため、必要に応じて反応液を濃縮することにより調整する。
【0027】
他方、水分散のコロイダルシリカにシランカップリング剤を添加する場合は、シランカップリング剤が溶解する程度に親水性溶媒を加える。親水性有機溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール及びメタノール等のアルコールが挙げられる、この中でも、ケイ素化合物の加水分解により生成するアルコールと同種のアルコールを用いることが好ましい。これは、ケイ素化合物の加水分解により生成するアルコールと同種のアルコールを用いることにより、溶媒の回収、再利用を容易化できるからである。
【0028】
上記カップリング剤の添加量は、シリカに対して0.1〜10質量%程度である。添加量が少ないと、酸性におけるゼータ電位が十分安定しない場合がある。添加量が多ければ、経時的に変性シリカゾルがゲル化する可能性がある。
【0029】
カップリング剤を添加する際の温度は限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。反応時間も限定されないが、10分〜10時間が好ましく、30分〜2時間がより好ましい。添加時のpHも限定されないが、7以上11以下が好ましい。11以上の強アルカリでは、シランカップリング剤がシリカ表面と反応せず、シランカップリング剤どうしが自己縮合するおそれがあり好ましくない。
【0030】
修飾したメルカプト基及びスルフィド基を酸化する方法としては、酸化剤を用いることができる。例えば、硝酸、過酸化水素、酸素、オゾン、有機過酸(過カルボン酸)、臭素、次亜塩素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸等が挙げられる。これらの酸化剤の中でも過酸化水素及び有機過酸(過酢酸、過安息香酸類)が比較的取り扱いが容易で酸化収率も良好である点で好ましい。なお、反応で副生する物質を考慮すれば、過酸化水素を用いることが最も好ましい。
【0031】
酸化剤の添加量は、シランカップリング剤の3倍モルから100倍モルが好ましい。特に添加量の上限はないが、50倍モル程度がより好ましい。なお、コロイダルシリカ及びシランカップリング剤については、スルホン酸基に酸化(変換)される官能基以外は酸化反応において安定な構造を有するので、副生成物がない。
【0032】
上記の方法に従って得られたスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルは水以外の溶媒を含んでいるため、当該シリカゾルの長期保存安定性を高めるために、必要に応じて、反応溶媒を主とする分散媒を水で置換することができる。なお、この水置換は、カップリング剤を添加後、酸化剤を添加する前に行ってもよい。
【0033】
反応溶媒を主とする分散媒を水で置換する方法は特に限定されず、例えば、当該シリカゾルを加熱しながら水を一定量ずつ滴下する方法が挙げられる。また、当該シリカゾルを沈殿・分離、遠心分離等により反応溶媒を主とする分散媒と分離した後に、水に再分散させる方法も挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法により得られるスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルは、ゾル中のシリカ表面がスルホン酸基によって変性されているので、酸性の分散媒であっても、当該シリカゾルの凝集やゲル化が抑制されており、長期間安定分散可能である。例えば、酸性条件下、調製後2週間以上、凝集又はゲル化が防止されている。また、スルホン酸基によって変性されているため、理由は不詳であるが、表面が修飾されていない(シラノール基のみ)コロイダルシリカと比べてシリカゾルの透明度が高い。
【0035】
しかも、本発明の製造方法により得られる当該シリカゾルは、1)ナトリウム及びカリウムから選ばれるアルカリ金属、2)カルシウム及びマグネシウムから選ばれるアルカリ土類金属並びに3)アルミニウム、鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトから選ばれる重金属及び軽金属の含有量がそれぞれ1重量ppm以下と少なく、さらに腐食性を有する塩素、臭素等のハロゲン元素を含まず高純度である。
【0036】
また、当該シリカゾルに含まれる変性シリカの粒子径は1000nm以下、好ましくは5〜500nm、より好ましくは10〜300nmである。
【0037】
本発明の当該シリカゾルは、幅広いpH領域において長期間の分散安定性に優れる。シリカゾルの安定性は、シリカゾルのゼータ電位を測定することで評価することができる。ゼータ電位とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことであり、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発が強く粒子の安定性は高くなり、ゼータ電位の絶対値がゼロに近づくほど、粒子は凝集し易くなる。
特に本発明のシリカゾルは酸性領域において高い安定性を有する。変性剤としてアニオン性基を有するカップリング剤を用いるため、分散媒がpH2以上の酸性のときのゼータ電位は負電位(−15mV以下)であり、分散媒が酸性であっても高い分散安定性を有する。このようにゼータ電位の絶対値が大きいため高い分散安定性を有し、これに伴いシリカゾルの動粘度も小さい。
【0038】
本発明のシリカゾルは、高濃度化が可能である。特開2005−060219「シリカゾル及びその製造方法」、WO2008/015943「シリカゾル及びその製造方法」に開示されたように、アルカリを添加してコロイダルシリカの安定性の高いpHで維持すること、又は、少量の有機酸の塩を添加することによって高濃度化が試みられているが、これらの従来品ではシリカ濃度40wt%程度が限界であった。これに対し、スルホン酸基により修飾した本発明のアニオンシリカゾルは、酸性からアルカリ性の広い範囲で50質量%以上の高濃度化が可能である。
【0039】
本発明のシリカゾルは、研磨剤、紙のコーティング剤などの様々な用途に使用することができ、広いpH範囲で長期間安定分散可能であり、しかもナトリウムや鉄、ニッケル、アルミニウム等の金属不純物量が1重量ppm以下と高純度である。半導体製品の不良の大半は汚染によるものであり、しかも鉄、ニッケル、クロム、銅、亜鉛などの重金属及びナトリウム、カルシウムなどのアルカリ金属による汚染は主に液体に接触することにより付着して汚染される。金属汚染があれば、酸化膜の絶縁破壊につながるおそれがあるため、金属不純物を接触させないことが重要である。従って、金属不純物量が低く抑えられている本発明のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルは、特に半導体ウェハのCMP研磨用の研磨剤として好適に用いることができる。
【0040】
本発明のシリカゾルは、濾過性が良好である。分散剤やシラノール基のアニオン化又はカチオン化でシリカゾルの動粘度を低下させることができるが、濾過性とは直結しない。これに対し、スルホン酸修飾を行うことにより、確実に濾過性が優れたシリカゾルとなる。とりわけ本発明のシリカゾルをCMP研磨剤(研磨液)として用いる場合には、研磨装置に研磨液を供給する前に濾過を行う必要があると同時に、循環して繰り返し用いる設計上、シリカゾルの濾過性が高いことは優位性がある。
【0041】
CMPでシリカゾルを研磨剤として用いる場合に、リサイクルスラリー中には最初の研磨中に生じた研磨パッドの研磨屑や研磨パッドの状態を安定化する場合のドレッシング屑など大小の異物が混入しており、このまま利用するとウェハにスクラッチ傷を生じ、ウェハ自体が使い物にならなくなる。
【0042】
また、スラリーをリサイクルしないシステムにおいても、比較的大きな粒子によるマイクロスクラッチの問題があり、これを回避するためにCMP装置の直前においてフィルターレーションすることは重要なプロセスであると考えられている。
【0043】
シリカゾルの製造プロセスにおいても、目的物のシリカ粒子だけでなく粒子が凝集した凝集物が生成するので、製品化の最後のプロセスにおいて濾過が必要になる。
【0044】
CMPに限らず、粗粒を問題とするシリカゾルの用途にとって濾過工程は工業上重要なプロセスであり、シリカゾル自体の濾過性を改善することには、濾過に用いるフィルター自身の寿命も延ばすことができる点からも有益な物性の改善であるといえる。
【発明の効果】
【0045】
本発明のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルは、pH2以上の酸性においてゼータ電位が−15mV以下である。そして、分散媒が酸性であっても高い分散安定性を有する。このようにゼータ電位の絶対値が大きいため高い分散安定性を有し、これに伴いシリカゾルの動粘度も小さい。また、高濃度化が可能である上、濾過性が良好である。特に加水分解可能なケイ素化合物を加水分解・縮合することにより原料コロイダルシリカを得る場合には金属不純物の含有量を有意に低減できるため、本発明のシリカゾルは半導体ウェハのCMP研磨剤としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0047】
実施例1
純水787.9g、26%アンモニア水(塩基性触媒)786.0g、メタノール12924gの混合液に、テトラメトキシシラン1522.2g、メタノール413.0gの混合液を、液温を35℃に保ちつつ55分かけて滴下し、水とメタノールを分散媒とするシリカゾルを得た。
【0048】
このシリカゾルを常圧下で5000mlまで加熱濃縮した。この濃縮液にシランカップリング剤として3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン6.0gを加え、沸点で還流して熱熟成を行った。その後、容量を一定に保つために純水を追加しながらメタノール及びアンモニアを水置換し、pHが8以下になった時点で一旦シリカゾルの液温を室温に下げた。次に35%過酸化水素水を53.5g添加して再び加熱し、8時間反応を続け、室温まで冷却後、スルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルを得た。
【0049】
実施例2
純水2212.7g、26%アンモニア水(塩基性触媒)567.3g、メタノール12391gの混合液に、テトラメトキシシラン1522.2g、メタノール413.0gの混合液を、液温を20℃に保ちつつ25分かけて滴下し、水とメタノールを分散媒とするシリカゾルを得た。
【0050】
このシリカゾルを常圧下で2500mlまで加熱濃縮した。この濃縮液にシランカップリング剤として3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン6.0gを加え、沸点で還流して熱熟成を行った。その後、容量を一定に保つために純水を追加しながらメタノール及びアンモニアを水置換し、pHが8以下になった時点で一旦シリカゾルの液温を室温に下げた。次に35%過酸化水素水を28g添加して再び加熱し、8時間反応を続け、室温まで冷却後、スルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルを得た。
【0051】
比較例1
純水2212.7g、26%アンモニア水(塩基性触媒)567.3g、メタノール12391gの混合液に、テトラメトキシシラン1522.2g、メタノール413.0gの混合液を、液温を20℃に保ちつつ25分かけて滴下し、水とメタノールを分散媒とするシリカゾルを得た。
【0052】
このシリカゾルを常圧下で2500mlまで加熱濃縮した。この濃縮液の容量を一定に保つために純水を追加しながらメタノール及びアンモニアを水置換し、pHを8以下にすることによりコロイダルシリカを得た。
【0053】
比較例2
比較例1で得たコロイダルシリカ1800gに、攪拌下で液温25℃に保ちながら、Al含有量18.8%の市販のアルミン酸ナトリウム水溶液2.65gを10gの純水で希釈した水溶液を添加した。次に沸点で2時間還流してアルカリ性アルミ改質コロイダルシリカを得た。
【0054】
室温下、得られたアルカリ性アルミ改質コロイダルシリカに陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−124H)30gを投入し、pHが3.5以下になるまで攪拌を行った。その後、陽イオン交換樹脂を除去して、酸性アルミ改質コロイダルシリカを得た。
【0055】
各実施例で得られたスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及び各比較例で得られたコロイダルシリカの物性を下記表1に示す。
【0056】
金属不純物量は原子吸光測定装置を用いて測定した。また、ゼータ電位は測定装置ELS-Z(大塚電子社製)を用いて動的光散乱ドップラー法により測定した。
【0057】
【表1】

【0058】
試験例1(経時変化観察)
実施例1、2で得たスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及び比較例1で得たコロイダルシリカのpHを3と4.5に2種類調整し、43℃と60℃の恒温槽に保存し、1週間後と2週間後の経時変化を調べた。
【0059】
動粘度はキヤノンフェンスケ粘度計により測定した。
【0060】
一次粒子径は比表面積から換算することにより算出した。二次粒子径(ELS値)はドデシル硫酸ナトリウム水溶液またはクエン酸水溶液希釈法により測定した。
【0061】
実施例1についての測定結果を下記表2に示す。実施例2についての測定結果を下記表3に示す。比較例1についての測定結果を下記表4に示す。なお、表中、「会合比」は、二次粒子径を一次粒子径で割った数値である。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
試験例2(透過量(濾過性)評価)
実施例2で得たスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル及び比較例1で得たコロイダルシリカの透過量(濾過性)を調べた。具体的には、アドバンテック東洋社の開孔3μmのメンブランフィルター(型番:A300A047A)を用いて、−0.07MPaの減圧度の条件で吸引濾過を行い、10分間に濾紙を透過する上記シリカゾル又はコロイダルシリカの透過量を測定することによって濾過性を評価した。
【0066】
測定データのばらつきを考慮しそれぞれ6回測定し、測定した透過量の最大値と最小値を除き、4回の測定データの平均値により評価した。10分間に濾紙を透過するコロイダルシリカの透過量の結果を上記表1に併せて示す。表1の結果からは、実施例2で得たスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルの方が、比較例1のコロイダルシリカよりも約2.7倍も透過量(濾過性)が大きいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH2以上の酸性においてゼータ電位が−15mV以下であるスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル。
【請求項2】
1)ナトリウム及びカリウムから選ばれるアルカリ金属、2)カルシウム及びマグネシウムから選ばれるアルカリ土類金属並びに3)アルミニウム、鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトから選ばれる重金属及び軽金属の含有量がそれぞれ1重量ppm以下である、請求項1に記載のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル。
【請求項3】
酸性条件下、調製後2週間以上、凝集又はゲル化が防止されている、請求項1又は2に記載のスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾル。
【請求項4】
コロイダルシリカに、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤を添加した後、前記官能基をスルホン酸基に変換するスルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルの製造方法。
【請求項5】
前記化学的にスルホン酸基に変換できる官能基はメルカプト基である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記コロイダルシリカは、加水分解可能なケイ素化合物を加水分解・縮合して得られる、請求項4又は5に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−269985(P2010−269985A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124384(P2009−124384)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000238164)扶桑化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】