説明

スルホン酸基含有ジアミン化合物とその製造方法

【課題】新規なスルホン酸基含有ジアミン化合物を提供する。
【解決手段】以下の式(1)に示すスルホン酸基含有ジアミン化合物とする。式(1)におけるAは、例えば、置換基を有していてもよい2価の脂肪族基(炭素数10以下)、芳香族基(環の数4以下)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸基を有するフルオレン骨格と、アミノ基とを有する、新規スルホン酸基含有ジアミン化合物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸基またはスルホン酸基誘導体を有するジアミン化合物(スルホン酸基含有ジアミン化合物)は、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどの重縮合ポリマー、熱硬化性ポリマーの原料あるいは架橋剤として幅広く使用されている。一方、フルオレンは、3つの環からなる縮合環構造を有し、分子構造的に高い平面性を有する。フルオレン骨格を持つスルホン酸基含有ジアミン化合物とすれば、当該化合物を原料あるいは架橋剤として形成したポリマーに対して、フルオレン骨格の高い平面性に由来する特性の賦与が期待される。
【0003】
ところで、フルオレン骨格における9位の炭素原子はメチレン基の炭素原子であり、当該骨格における他の炭素原子に比べて反応性が高い。このため、従来、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸、9,9−ビス(3−メトキシ−4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸、9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸など、アミノ基を有する置換基が当該骨格における9位の炭素原子に結合したスルホン酸基含有ジアミン化合物(特許文献1参照)が数多く合成、市販されている。なお、これ以降、フルオレン骨格における1〜9位の位置を、「フルオレン骨格における」を省略して、それぞれ単に「1位」〜「9位」と記すことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−68326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フルオレン骨格を持つスルホン酸基含有ジアミン化合物であって、アミノ基を有する置換基が9位の炭素原子に結合した化合物では、例えば当該化合物を用いて重縮合ポリマーを得た場合、フルオレン骨格がポリマー主鎖に垂直に配位するために、当該骨格の高い平面性に由来する特性が得難い。フルオレン骨格の平面性を利用したポリマーを得るためには、少なくとも、アミノ基を有する置換基が当該骨格の9位ではなく、2位および7位の炭素原子に結合している必要がある。そしてさらに、フルオレン骨格自体の平面性を損なわないために、9位の炭素原子に置換基が結合していないスルホン酸基含有ジアミン化合物が望まれる。
【0006】
フルオレン骨格における9位の炭素原子の反応性が高いことから、このようなスルホン酸基含有ジアミン化合物は従来の方法では合成できないか、あるいは仮に合成できたとしても、9位の炭素原子に置換基が結合した多くの副生成物が生じるため、望むスルホン酸基含有ジアミン化合物の精製に多大な労力が必要であるとともに、当該化合物の収率が著しく低くなる。
【0007】
本発明は、スルホン酸基を有するフルオレン骨格を持ち、アミノ基を有する置換基が当該骨格における2位および7位の炭素原子に結合しており、当該骨格における9位の炭素原子に置換基が結合していない、新規なスルホン酸基含有ジアミン化合物の提供と、当該化合物を効率よく合成できる製造方法の提供とを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、以下の式(1)に示す化合物である。
【0009】
【化1】

【0010】
ただし、式(1)において、[−SO3M]で表される基は、スルホン酸基、スルホン酸基の塩またはスルホン酸基エステルであり、
[−O−A−NH2]で表される部分構造におけるAは、
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R1
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar1
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar2およびAr3、ならびに、
直接結合(−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)もしくはスルホン基(−SO2−)であるZ1
により構成される式[−Ar2−Z1−Ar3−]で示される基(Ar2およびAr3は同一であっても互いに異なっていてもよい);
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R2、および、
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar4
により構成される式[−R2−Ar4−]で示される基;または、
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar5およびAr6、ならびに、
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R3
により構成される式[−Ar5−R3−Ar6−]で示される基(Ar5およびAr6は同一であっても互いに異なっていてもよい);であり、
脂肪族基R1、R2およびR3ならびに芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が有していてもよい前記置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、フェノキシ基、フェニルチオ基およびベンゼンスルホニル基から選ばれる少なくとも1種である。
【0011】
なお、[−SO3M]で表される基におけるMは、この基がスルホン酸基である場合は水素原子(H)であり、この基がスルホン酸基の塩である場合は金属原子またはプロトン化されたアミン化合物、例えば、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子であり、この基がスルホン酸基エステルである場合はアルキル基、特に炭素数1〜4のアルキル基である。
【0012】
本発明者らは、このようなスルホン酸基含有ジアミン化合物の合成方法を検討した結果、[1]出発物質として、フルオレン骨格における9位の炭素原子がケトン基(>C=O)を構成し(フルオレン骨格における9位がケトン基であり)、2位および7位の炭素原子にヒドロキシ基が結合した2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンを用いるとともに、[2]ケトン基によって9位の炭素原子を保護することで当該炭素原子への置換基の結合を防ぎながら、ヒドロキシ基との縮合反応によって2位と7位の位置にニトロ基を有する置換基を導入し、[3]9位の炭素原子をヒドロキシ基が結合した状態にまで還元した後に、一度、ヒドロキシ基をアセチル化してアセトキシ基(−OAc)とし、[4]アセトキシ基が結合した9位の炭素原子を還元してメチレン基(−CH2−)とするとともに、2位と7位の炭素原子に結合した置換基に含まれるニトロ基をアミノ基に還元し、[5]スルホン化反応によりフルオレン骨格における芳香環にスルホン酸基またはその誘導体を導入することにより、9位の炭素原子に置換基が結合した副生成物の生成を抑え、本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物を効率よく合成できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物の製造方法は、式(1)で表される上記本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物の製造方法であって、式(2)に示す2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンと、式(3)に示す化合物〔a〕との縮合反応により、式(4)に示す化合物〔b〕を得る工程と、
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
前記化合物〔b〕のフルオレン骨格における9位のケトン基を還元して、9位の炭素原子にヒドロキシ基が結合した状態とした後に、当該ヒドロキシ基をアセチル化して、式(5)に示す化合物〔c〕を得る工程と、
【0018】
【化5】

【0019】
前記化合物〔c〕のフルオレン骨格におけるアセトキシ基が結合した9位の炭素原子ならびに前記骨格における2位および7位の炭素原子に結合した前記化合物〔a〕由来の置換基に含まれるニトロ基を還元して、式(6)に示すジアミン化合物〔d〕を得る工程と、
【0020】
【化6】

【0021】
前記化合物〔d〕に対してスルホン化反応を行うことにより、フルオレン骨格における芳香環の炭素原子にスルホン酸基またはその誘導体を導入して、式(1)に示すスルホン酸基含有ジアミン化合物を得る工程と、を含む。
【0022】
【化7】

【0023】
ただし、式(3)中のXは、ハロゲン基である。式(3)〜(6)中のAは式(1)中のAについて上述したとおりである。
【発明の効果】
【0024】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、スルホン酸基またはその誘導体を有するフルオレン骨格を持つとともに、アミノ基を有する置換基が当該骨格における2位および7位の炭素原子に結合している。また、当該骨格における9位の炭素原子に置換基が結合していない。このようなスルホン酸基含有ジアミン化合物によれば、例えば、フルオレン骨格の高い平面性に由来する特性が賦与された重縮合ポリマー、熱硬化性ポリマーの形成が期待される。
【0025】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物の製造方法では、出発物質に2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンを用い、ヒドロキシ基の縮合反応を利用した2位および7位の炭素原子へのニトロ基含有置換基の導入、その際のケトン基による9位の炭素原子の保護、9位のケトン基を、ヒドロキシ基、次いでアセトキシ基が炭素原子に結合した状態を経た後にメチレン基に還元、ならびにニトロ基含有置換基におけるニトロ基のアミノ基への還元によって、フルオレン骨格における2位および7位の炭素原子にアミノ基を有する置換基を導入する一方で、9位の炭素原子に対する置換基の結合を防ぎ、さらにスルホン化反応によるフルオレン骨格の芳香環へのスルホン酸基またはその誘導体の導入によって、本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例で合成した2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸に対するプロトン核磁気共鳴分光(1H−NMR)測定の結果を示す図である。
【図2】実施例で合成した2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸に対するカーボン核磁気共鳴分光(13C−NMR)測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物]
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、以下の式(1)に示す化合物である。式(1)中のAおよびMは、上述したとおりである。
【0028】
【化8】

【0029】
すなわち、本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、例えば、以下の式(7)、(8)、(9)、(10)または(11)に示す化合物である。
【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
式(7)、(10)および(11)におけるR1、R2およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基である。式(8)〜(11)におけるAr1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、互いに独立して、1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基である。これらの脂肪族基R1、R2およびR3ならびに芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が有していてもよい置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、フェノキシ基、フェニルチオ基およびベンゼンスルホニル基から選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
式(9)におけるZ1は、直接結合(−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)またはスルホン基(−SO2−)である。
【0037】
式(1)、(7)〜(11)において[−SO3M]で表される基は、スルホン酸基、スルホン酸基の塩またはスルホン酸基エステルである。スルホン酸基の塩としては、スルホン酸基の金属塩、スルホン酸基のアミン塩などが挙げられる。スルホン酸基の金属塩における金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属などが挙げられる。
【0038】
式(1)、(7)、(10)および(11)における2価の脂肪族基R1、R2およびR3としては、2価の飽和脂肪族基が好ましい。2価の飽和脂肪族基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基であり、好ましくはメチル基、エチル基である。なお、上述したように、これらの2価の脂肪族基R1、R2およびR3は1つ以上の置換基を有していてもよい。
【0039】
式(1)、(8)〜(11)における2価の芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が複数の(2〜4の)環構造を有する場合、当該複数の環構造は縮合環であることが好ましい。2価の芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、例えば、フェニレン基、ナフタレン基、フェナントレン基、ピレン基、フルオレン基であり、好ましくはフェニレン基、ナフタレン基である。なお、芳香族基には複素芳香族基も含まれる。上述したように、これらの2価の芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は1つ以上の置換基を有していてもよい。
【0040】
式(1)および(9)におけるZ1としては、エーテル基(−O−)が好ましい。
【0041】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、式(1)におけるAが、脂肪族基R1または芳香族基Ar1であることが好ましく、芳香族基Ar1であることがより好ましい。
【0042】
式(7)で表されるスルホン酸基含有ジアミン化合物は、例えば、2,7−ビス(アミノメトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(アミノエトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノプロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノプロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(6−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(1−アミノ−1−フェニルメトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−フェニル−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−フェノキシ−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−フェニルスルファニル−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−ベンゼンスルホニル−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−フェニル−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−フェノキシ−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−フェニルスルファニル−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−ベンゼンスルホニル−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−フェニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−フェノキシ−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−フェニルスルファニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−ベンゼンスルホニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−フェニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−フェノキシ−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−フェニルスルファニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−ベンゼンスルホニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−フェニル−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−フェノキシ−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−フェニルスルファニル−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−ベンゼンスルホニル−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0043】
式(8)で表されるスルホン酸基含有ジアミン化合物は、例えば、2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(6−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(7−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(6−アミノ−1−ピレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−1−ピレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−1−ピレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(10−アミノ−9−フェナントレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(7−アミノ−2−フルオレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−3−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−8−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−6−フェニル−3−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−6−フェニル−8−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0044】
式(9)で表されるスルホン酸基含有ジアミン化合物は、例えば、2,7−ビス(4’−アミノ−4−ビフェニロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4’−アミノ−3,3’−ジメチル−4−ビフェニロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[4−(4−アミノフェニルスルファニル)フェノキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[4−(4−アミノベンゼンスルホニル)フェノキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0045】
式(10)で表されるスルホン酸基含有ジアミン化合物は、例えば、2,7−ビス[1−(4−アミノフェニル)メトキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[1−(3−アミノフェニル)メトキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[1−(2−アミノフェニル)メトキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0046】
式(11)で表されるスルホン酸基含有ジアミン化合物は、例えば、2,7−ビス{4−[1−(4−アミノフェニル)−2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエチル]フェノキシ}フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0047】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物では、アミノ基を有する置換基がエーテル結合(−O−)を介して2位および7位の炭素原子に結合している。エーテル結合は分子鎖の回転性に優れる。それゆえ、本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物を用いてポリマーを形成したとき、当該ポリマーを用いることによって屈曲性および可撓性が高いフィルムを得ることができる。
【0048】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどの重縮合ポリマー、熱硬化性ポリマーの原料あるいは架橋剤など、従来のジアミン化合物と同様の用途に使用できる。
【0049】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、2つのスルホン酸基を保護することにより、その取り扱いを容易にすることができる。スルホン酸基を、例えば、スルホン酸基エステル、スルホン酸基の金属塩、スルホン酸基のアミン塩などに変換することによって、スルホン酸基を保護することができる。保護されたスルホン酸基は、加水分解、イオン交換などによって容易にスルホン酸基へと再度変換することができる。
【0050】
[本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物の製造方法]
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物の製造方法では、まず、式(2)に示す2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンと、式(3)に示す化合物〔a〕とを縮合させて、式(4)に示す化合物〔b〕を得る(反応1)。
【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
【化16】

【0054】
式(3)のXはハロゲン基(F、Cl、BrまたはIであり、F、ClまたはBrが好ましく、FまたはClがより好ましい)である。式(3)および(4)におけるAは、式(1)中のAについて上述したとおりである。式(3)におけるAは、得たいジアミン化合物における、アミノ基を有する置換基に応じて選択すればよく、例えば、得たいジアミン化合物を式(1)で表したときに、当該式(1)におけるAと同じであればよい。このように、式(3)および(4)におけるAは、途中の反応で分子構造が変化しない限り、式(1)中のAと同じである。
【0055】
式(3)におけるAは、例えば、フェニレン基、ナフタレン基、メチル基、エチル基である。
【0056】
反応1は、2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンのヒドロキシ基と、化合物〔a〕との脱ハロゲン化水素縮合反応かつエーテル化反応であり、塩基性触媒の存在下で効率よく進行する。
【0057】
塩基性触媒は、例えば、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、水素化物およびアルコキシドである。具体的な塩基性触媒としては、酸化ナトリウム、酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ナトリウム、カリウム−t−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどが挙げられる。2種以上の塩基性触媒を使用してもよい。塩基性触媒の使用量は、例えば、2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンに対して1.0〜5.0当量、好ましくは2.0〜4.0当量である。
【0058】
反応1における反応溶媒としては、反応1が進行する限り特に限定されないが、非プロトン性極性溶媒が好ましい。具体的な反応溶媒としては、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチルピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア、ヘキサメチルホスホトリアミド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトンなどが挙げられる。反応溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば、反応物質の全量に対して1〜20重量倍である。非プロトン性極性溶媒は、反応1の後も、反応2、3の反応溶媒として引き続き使用することができる。
【0059】
反応1では、反応促進剤として、4級アンモニウム塩、4級リン酸塩、クラウンエーテルなどの大環状ポリエーテル、クリプタンドなどの含窒素大環状ポリエーテル、含窒素鎖状ポリエーテル、ポリエチレングリコールおよびそのアルキルエーテルなどの相間移動触媒、銅粉、銅塩などを併用してもよい。
【0060】
反応1では、フルオレン骨格における9位がケトン基であるフルオレノンを出発物質として用いているため、9位の炭素原子への置換基の結合が抑制される。これにより、続く反応2〜4を経て本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物を効率よく製造することができる。本発明者らが2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンの代わりに2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレンを出発物質として用いて反応1と同様の反応を進行させたところ、9位の炭素原子に置換基が結合することが確認された。
【0061】
次に、反応1を経て得られた化合物〔b〕の9位のケトン基を還元して、9位の炭素原子にヒドロキシ基が結合した状態とした後に、当該ヒドロキシ基をアセチル化して、式(5)に示す化合物〔c〕を得る(反応2)。
【0062】
【化17】

【0063】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物を得るためには、化合物〔b〕の9位のケトン基を還元してメチレン基にする必要がある。しかし、化合物〔b〕のケトン基に対する還元反応は、9位の炭素原子にヒドロキシ基が結合した状態までしか進行しない。そこで、ヒドロキシ基が結合した状態まで還元反応を進行させた後、一度、ヒドロキシ基をアセチル化し、9位の炭素原子にアセトキシ基(−OAc)が結合した状態とする。この状態(化合物〔c〕)とすることによって初めて、フルオレン骨格における9位のケトン基をメチレン基にまで還元することが可能となる。
【0064】
反応2におけるケトン基の還元反応は、例えば、水素化、ヒドリド還元、金属還元などの手法により進行させればよい。各手法に使用される還元剤および/または触媒は特に限定されない。水素化および金属還元には、例えば、ニッケル、銅−酸化クロム、ルテニウム、ロジウム、白金などの金属の微粉末、当該微粉末を活性炭、アルミナ、珪藻土などの不溶性担体に吸着させた触媒、有機物と金属との複合体などを使用できる。ヒドリド還元には、例えば、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリブチルスズなどを使用できる。
【0065】
ケトン基の還元反応に用いる反応溶媒は、当該反応が進行する限り、任意の溶媒を使用できる。反応1の反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用した場合、当該溶媒を引き続き使用することも可能である。
【0066】
反応2におけるアセチル化は、無水酢酸またはアセチルクロライドなどを用いて進行させればよい。
【0067】
アセチル化に用いる反応溶媒は、当該反応が進行する限り、任意の溶媒を使用できる。反応1の反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用した場合、当該溶媒を引き続き使用することも可能である。
【0068】
次に、反応2を経て得られた化合物〔c〕のフルオレン骨格における9位の炭素原子(アセトキシ基が結合した炭素原子)を還元してメチレン基とするとともに、2位および7位の炭素原子に結合した、化合物〔a〕に由来する置換基に含まれるニトロ基を還元してアミノ基とし、式(6)に示すジアミン化合物〔d〕を得る(反応3)。
【0069】
【化18】

【0070】
反応3における還元反応は、例えば、水素化、ヒドリド還元、金属還元などの手法により進行させればよい。各手法に用いられる還元剤および/または触媒は、反応2におけるケトン基の還元反応において使用したものと同様であってよい。
【0071】
反応3に用いる反応溶媒は、当該反応が進行する限り、任意の溶媒を使用できる。反応1の反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用した場合、当該溶媒を引き続き使用することも可能である。
【0072】
反応3における9位の炭素原子の還元と、ニトロ基の還元とは、同時に行ってもよいし、分離して行ってもよい。
【0073】
次に、反応3で得られたジアミン化合物〔d〕に対してスルホン化反応を行うことにより、化合物〔d〕の3位および6位の炭素原子にスルホン酸基またはその誘導体を導入し、式(1)に示す本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物を得る(反応4)。
【0074】
【化19】

【0075】
反応4のスルホン化反応において用いられるスルホン化剤は、化合物〔d〕のフルオレン骨格における芳香環にスルホン酸基またはその誘導体を導入できるものである限り特に制限はなく、スルホン化剤として通常用いられている種々のスルホン化剤を用いることができる。具体的なスルホン化剤としては、発煙硫酸、硫酸、無水硫酸(三酸化硫黄)、クロロスルホン酸、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン−3−スルホン酸、1,2,3,4,5−ペンタメチルベンゼン−6−スルホン酸などが挙げられる。中でも、発煙硫酸、クロロスルホン酸、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸が好ましく、発煙硫酸がより好ましい。
【0076】
反応4では、化合物〔d〕のフルオレン骨格における2位および7位の炭素原子が電子供与性のエーテル結合を有していることにより、得られる生成物はほぼ全て、3位および6位の炭素原子にスルホン酸基またはその誘導体が導入された、式(1)で表されるスルホン酸基含有ジアミン化合物である。
【0077】
反応1〜4における反応温度、反応時間など、反応条件の詳細は適宜調整できる。
【0078】
本発明の製造方法では、必要に応じて、反応1、2、3、および4以外の任意の反応ならびに任意の工程を実施してもよい。例えば、反応4で得られた化合物が式(12)で表される化合物である場合、その取り扱いを容易にするため、反応4の後にスルホン酸基(−SO3H)を保護する工程を追加してもよい。例えば、スルホン酸基を塩基と反応させることにより、式(12)におけるスルホン酸基をスルホン酸基の塩に変換することができる。
【0079】
【化20】

【0080】
以上の合成方法により、9位の炭素原子に置換基が結合した副生成物の生成を抑えながら、高い効率で、式(1)で表される本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物を合成することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0082】
[反応1]
2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノン100.0g(471.3mmol)、化合物〔a〕として4−フルオロニトロベンゼン146.3g(1036.8mmol)、触媒として炭酸カリウム260.5g(1885.0mmol)および反応溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)1000mLを内容積2Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内の混合物を攪拌しながら、窒素雰囲気下、90℃にて3時間、以下の式(13)に示す反応を進行させた。反応終了後、フラスコの内容物を室温に冷却し、その後、氷水10L中に注入して析出した結晶を濾取した。濾取した結晶を、水およびエタノールで順次洗浄した後、減圧乾燥して、式(13)の右辺に示す化合物〔b〕197.4g(収率92.2%)を、黄土色結晶として得た。なお、式(13)の右辺に示す化合物〔b〕は、2,7−ビス(4−ニトロフェノキシ)−9−フルオレノンである。
【0083】
【化21】

【0084】
[反応2]
反応1で得た化合物〔b〕150.0g(330.1mmol)、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム61.2g(1617.6mmol)および塩化アルミニウム(III)123.3g(924.3mmol)ならびに反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)2.3Lを内容積3Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内の混合物を窒素雰囲気下にて一晩環流させ、以下の式(14)に示す反応を進行させた。次に、アイスバスで冷却しながらフラスコ内に水1Lを滴下し、クエンチした。次に、酢酸エチルによる反応生成物の抽出を行い、抽出物を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、減圧濃縮し、ヘプタンによる晶析を経て、式(14)の右辺に示す化合物(2,7−ビス(4−ニトロフェノキシ)−9−ヒドロキシフルオレン)154.1g(収率102.3%)を黄色結晶として得た。
【0085】
【化22】

【0086】
次に、得られた化合物150.0g(328.7mmol)と、ジクロロメタン2Lと、トリエチルアミン39.9g(394.4mmol)と、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)4.0g(32.9mmol)とを、内容積3Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内を窒素雰囲気に保ちながら、全体を氷冷した。そこにアセチルクロリド31.0g(394.4mmol)を滴下し、3時間攪拌した後、フラスコ内の混合物を室温に戻してから一晩攪拌し続けることで、以下の式(15)に示す反応を進行させた。次に、フラスコの内容物を氷水3Lに投入した後に、ジクロロメタンによる反応生成物の抽出を行い、抽出物を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、減圧濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:1000g、展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。これにより得られた結晶をTHF/ヘプタンにて晶析させて、式(15)の右辺に示す化合物〔c〕159.7g(収率97.5%)を、微オレンジ色結晶として得た。なお、式(15)の右辺に示す化合物〔c〕は、2,7−ビス(4−ニトロフェノキシ)−9−アセトキシフルオレンである。
【0087】
【化23】

【0088】
[反応3]
反応2で得た化合物〔c〕159.0g(319.0mmol)、還元剤として10重量%パラジウム−活性炭素エチレンジアミン複合体15.9gおよび反応溶媒としてTHF3Lを内容積5Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内を水素雰囲気に保ちながら、室温で二日間、フラスコ内容物の攪拌を続け、以下の式(16)に示す反応を進行させた。反応終了後、セライト濾過により、フラスコ内容物から触媒を取り除いた後、濾液を減圧濃縮し、ヘプタンで晶析させた。晶析させた結晶をさらに少量のTHFに溶解させ、THF/エタノールで晶析させて、式(16)の右辺に示す化合物〔d〕101.1g(収率83.3%)を、白色結晶として得た。なお、式(16)の右辺に示す化合物〔d〕は、2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン(BAPF)である。
【0089】
【化24】

【0090】
[反応4]
反応3で得た化合物〔d〕47.6g(125.0mmol)と濃硫酸100mLとを内容積2Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内の混合物を撹拌しながら、50℃まで昇温することにより化合物〔d〕を溶解させた。溶解後、氷冷により全体を0℃にまで冷却してフラスコ内容物を撹拌しながら、三酸化硫黄の含有量が60重量%の発煙硫酸17.5mLをフラスコ内に少しずつ滴下した。氷冷による冷却は、滴下が終了した後30分が経過するまで継続し、この後にフラスコ内容物を昇温させ、50℃にて2時間撹拌を続けることにより、以下の式(17)に示す反応を進行させた。反応終了後、反応溶液を室温にまで冷却し、これを500mLの氷水中に注入し、この水溶液中に析出した固形物を吸引濾過により濾別した。濾別した固形物を濃度1Nの水酸化ナトリウム水溶液1L中に溶解させ、セライト濾過により不純物を除去した。得られた濾液を撹拌しながら濃塩酸を少しずつ滴下し、溶液の液性を弱酸性とすることで白色固形物が析出した。この固形物に対して吸引濾過を行い、濾別した固形物を蒸留水で洗浄して再び吸引濾過を行った。濾別した固形物をメタノールで洗浄した後、吸引濾過を行った。濾別した固形物を90℃にて12時間、減圧乾燥させることにより、式(17)の右辺に示す2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸(BAPFDS)55.0g(収率81.4%)を白色結晶として得た。
【0091】
【化25】

【0092】
得られた2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸(BAPFDS)は、核磁気共鳴分光装置(ブルカー・バイオスピン社製 AVANCE II 300)により1H−NMRおよび13C−NMR測定(周波数300MHz、測定溶媒:ジメチルスルホキシド−d6(DMSO−d6))を行うことで同定された。なお、BAPFDS自体はDMSO−d6に不溶である。DMSO−d6に可溶とするため、少量のトリエチルアミン(NEt3)を添加してBAPFDSのスルホン酸基をスルホン酸基トリエチルアンモニウム塩へと変化させた。こうして得たBAPFDSのトリエチルアンモニウム塩に対して各種のNMR測定を行った。得られた1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルをそれぞれ図1,2に示し、これらのスペクトルの帰属を以下に示す。図1,2に示すように、スペクトルのピークは、BAPFDSが有する6種類の水素原子および11種類の炭素原子に帰属された。
【0093】
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6,δ in ppm) 3.665(2H,CH2),4.883(4H,NH2),6.555−6.576(4H,CH),6.744−6.766(6H,CH),8.040(2H,CH)。13C−NMR(300MHz,DMSO−d6,δ in ppm) 36.219(CH2),113.986(CH),114.686(CH),118.816(CH),121.315(CH),133.476(C−S),136.462(C=C),144.871−144.969(C−N,C=C),147.102(C−O),155.276(C−O)。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のスルホン酸基含有ジアミン化合物は、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどの重縮合ポリマー、熱硬化性ポリマーの原料あるいは架橋剤など、従来のスルホン酸基含有ジアミン化合物と同様の用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)に示すスルホン酸基含有ジアミン化合物。
【化1】

ただし、式(1)において、[−SO3M]で表される基は、スルホン酸基、スルホン酸基の塩またはスルホン酸基エステルであり、
[−O−A−NH2]で表される部分構造におけるAは、
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R1
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar1
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar2およびAr3、ならびに、
直接結合(−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)もしくはスルホン基(−SO2−)であるZ1
により構成される式[−Ar2−Z1−Ar3−]で示される基(Ar2およびAr3は同一であっても互いに異なっていてもよい);
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R2、および、
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar4
により構成される式[−R2−Ar4−]で示される基;または、
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar5およびAr6、ならびに、
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R3
により構成される式[−Ar5−R3−Ar6−]で示される基(Ar5およびAr6は同一であっても互いに異なっていてもよい);であり、
脂肪族基R1、R2およびR3ならびに芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が有していてもよい前記置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、フェノキシ基、フェニルチオ基およびベンゼンスルホニル基から選ばれる少なくとも1種である。
【請求項2】
請求項1に記載のスルホン酸基含有ジアミン化合物の製造方法であって、
式(2)に示す2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンと、式(3)に示す化合物〔a〕との縮合反応により、式(4)に示す化合物〔b〕を得る工程と、
【化2】

【化3】

【化4】

前記化合物〔b〕のフルオレン骨格における9位のケトン基を還元して、9位の炭素原子にヒドロキシ基が結合した状態とした後に、当該ヒドロキシ基をアセチル化して、式(5)に示す化合物〔c〕を得る工程と、
【化5】

前記化合物〔c〕のフルオレン骨格におけるアセトキシ基が結合した9位の炭素原子ならびに前記骨格における2位および7位の炭素原子に結合した前記化合物〔a〕由来の置換基に含まれるニトロ基を還元して、式(6)に示すジアミン化合物〔d〕を得る工程と、
【化6】

前記化合物〔d〕に対してスルホン化反応を行うことにより、フルオレン骨格における3位および6位の炭素原子にスルホン酸基またはその誘導体が導入された、式(1)に示すスルホン酸基含有ジアミン化合物を得る工程と、を含むスルホン酸基含有ジアミン化合物の製造方法。
【化7】

ただし、式(3)中のXはハロゲン基である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−201654(P2012−201654A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69685(P2011−69685)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】