説明

スルホン酸基含有ポリマー、及びその製造方法、並びにポリマー組成物

【課題】体積抵抗率が小さく、カーボン分散性に優れたスルホン酸基含有ポリマーを提供する。
【解決手段】所定の一般式で表される反応性シリコーン化合物である単量体(A)、及び不飽和重合性基及びスルホン酸基を有する単量体(B)を含む単量体成分を共重合させてなるスルホン酸基含有ポリマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸基含有ポリマー、及びその製造方法、並びにポリマー組成物に関し、更に詳しくは、バインダー、コーティング材、電池セパレーターへのコーティング材、好ましくは電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、固体コンデンサー、イオン交換膜、各種センサー等に利用可能なスルホン酸基含有ポリマー、及びその製造方法、並びにポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スルホン酸基、カルボキシル基(カルボン酸基)、リン酸基等の親水性基を有する重合体が知られており、界面活性剤、乳化剤、分散剤、高分子固体電解質、イオン交換膜等に利用されている。一方、近年、このような親水性基の分散性、親水性、イオン捕捉性、小さな体積抵抗率(以下、「小抵抗性」ともいう)、基材への密着性といった特徴を活かして、バインダー樹脂、コーティング材、表面処理剤、電池用電解質への応用が検討されている。特に、スルホン酸基含有ポリマーは、スルホン酸基の有する強イオン性のため、上記の特徴が発現しやすく、その応用性が注目されている。例えば、特許文献1,2では、アクリルアミドスルホン酸を共重合したポリマーの、イオン交換膜や燃料電池用高分子電解質への応用が提案されている。
【0003】
しかしながら、スルホン酸基等の親水性基含有ポリマーは、その親水性基が有する親水性、換言すれば水溶性という性質上、親水性基の含有量がある程度以上高い場合には、水に対する耐性が大きく低下する。従って、例えば膜材料、バインダー材、又はコーティング材として使用した場合に、水の存在下で著しく膨張し、その結果、膜の機械的強度が大幅に低下したり、基材からの剥離が生じ易くなり、耐久性が低下するといった問題がある。このため親水性基の含有量が制限され、小抵抗性、親水性といった特徴を十分発揮するには至らなかった。
【特許文献1】特開平11−302410号公報
【特許文献2】特開2002−343381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、体積抵抗率が小さく、カーボン分散性に優れたスルホン酸基含有ポリマー、及びその製造方法、並びに、体積抵抗率が小さく、耐水性に優れたポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、所定の一般式で表される反応性シリコーン化合物である単量体と、不飽和重合性基及びスルホン酸基を有する単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合させることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。また、このようにして得られるスルホン酸基含有ポリマーと、ポリオルガノシロキサン含有ポリマーとを所定の割合で配合することによって上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明によれば、以下に示すスルホン酸基含有ポリマー、及びその製造方法、並びにポリマー組成物が提供される。
【0007】
[1]下記一般式(1)で表される単量体(A)、及び不飽和重合性基及びスルホン酸基を有する単量体(B)を含む単量体成分を共重合させてなるスルホン酸基含有ポリマー。
【0008】
【化1】

(前記一般式(1)中、Aは不飽和重合性基であり、Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、相互に同一又は異なる、下記一般式(2)で表されるQ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子であり(但し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のそれぞれの組み合わせは、いずれもが水素原子になることはない)、Zは−X−B基(Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、Bは不飽和重合性基、又は水素原子である)、又はフルオロアルキル基であり、kは0〜100の整数である。但し、kが2以上の整数である場合には、それぞれの−Si(R3)(R4)O−基が同一であっても異なっていてもよい)
【0009】
【化2】

(前記一般式(2)中、Y1、Y2、及びY3は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子である(但し、Y1、Y2、及びY3のうちの二以上が水素原子になることはない))
【0010】
[2]前記単量体(A)を2〜50質量%、前記単量体(B)を50〜98質量%、及び、及び前記単量体(A)及び前記単量体(B)と共重合可能な他の単量体(C)を0〜50質量%、の割合(但し、(A)+(B)+(C)=100質量%)で共重合させてなる前記[1]に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0011】
[3]前記単量体(A)が、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレートである前記[1]又は[2]に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0012】
[4]前記単量体(B)が、アミド基を更に有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0013】
[5]前記単量体(B)が、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸である前記[4]に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【0014】
[6]下記一般式(1)で表される単量体(A)、及び不飽和重合性基及びスルホン酸基を有する単量体(B)、を含む単量体成分を、メタノールを主成分とする溶媒中で共重合させることによりスルホン酸基含有ポリマーを得ることを含む、スルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
【0015】
【化3】

(前記一般式(1)中、Aは不飽和重合性基であり、Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、相互に同一又は異なる、下記一般式(2)で表されるQ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子であり(但し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のそれぞれの組み合わせは、いずれもが水素原子になることはない)、Zは−X−B基(Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、Bは不飽和重合性基、又は水素原子である)、又はフルオロアルキル基であり、kは0〜100の整数である。但し、kが2以上の整数である場合には、それぞれの−Si(R3)(R4)O−基が同一であっても異なっていてもよい)
【0016】
【化4】

(前記一般式(2)中、Y1、Y2、及びY3は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子である(但し、Y1、Y2、及びY3のうちの二以上が水素原子になることはない))
【0017】
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のスルホン酸基含有ポリマー(I)を20〜80質量%、及び、ポリオルガノシロキサン含有ポリマー(II)を20〜80質量%の割合(但し、(I)+(II)=100質量%)で含有するポリマー組成物。
【0018】
[8]前記スルホン酸基含有ポリマー(I)と、前記ポリオルガノシロキサン含有ポリマー(II)の合計100質量部に対して、10〜1000質量部のカーボンブラックを更に含有する前記[7]に記載のポリマー組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、体積抵抗率が小さく、カーボン分散性に優れているといった効果を奏するものである。また、本発明のスルホン酸基含有ポリマーの製造方法によれば、体積抵抗率が小さく、カーボン分散性に優れたスルホン酸基含有ポリマーを簡便にすることができる。
【0020】
本発明のポリマー組成物は、体積抵抗率が小さく、耐水性に優れているといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
(スルホン酸基含有ポリマー)
本発明のスルホン酸基含有ポリマーの一実施形態は、前記一般式(1)で表される単量体(A)、及び不飽和重合性基及びスルホン酸基を有する単量体(B)を含む単量体成分を共重合させてなるものである。以下、その詳細について説明する。
【0023】
(単量体(A))
単量体(A)は、前記一般式(1)で表される反応性シリコーン化合物である。前記一般式(1)中、Aは不飽和重合性基を示す。不飽和重合性基としては、ビニル基、CH2=C(R)COO−(Rは水素原子、フッ素原子、メチル基、又はフルオロメチル基である)で示される(フルオロ)(メタ)アクリルオキシ基、CH2=CHCONH−で示されるアクリルアミド基、CH2=CHC64−で示されるスチリル基、CH2=C(CN)−で示されるシアン化ビニル基、CH2=C(CN)COO−で示される2−シアノアクリルオキシ基等を好適例として挙げることができる。
【0024】
また、前記一般式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6が示すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、i−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基等の直鎖状又は分岐状の、炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基を好適例として挙げることができる。また、フッ素原子で置換されたアルキル基としては、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、ペンタフルオロブチル基、ヘプタフルオロペンチル基、ノナフルオロヘキシル基等の、炭素数1〜20、より好ましくは炭素数3〜8のフルオロアルキル基を好適例として挙げることができる。
【0025】
1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、フェニル基、ビニル基、又は前記一般式(2)で表されるQ基である場合もある。ここで、Q基中、Y1、Y2、及びY3は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子である。なお、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基としては、R1〜R6について例示したものと同じ基を好適例として挙げることができる。
【0026】
前記一般式(1)中、Xは炭素数1〜10の2価の炭化水素基である。炭素数1〜10の2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基等の、炭素数1〜4のものを好適例として挙げることができる。
【0027】
また、前記一般式(1)中、Zは「−X−B」基、又はフルオロアルキル基である。この「−X−B」基中、Xは炭素数1〜10の2価の炭化水素基であり、Bは不飽和重合性基、又は水素原子である。Bが示す不飽和重合性基としては、Aについて例示したものと同じ基を好適例として挙げることができる。なお、kは0〜100、好ましくは1〜20の整数である。ここで、kが2以上の整数である場合には、それぞれの−Si(R3)(R4)O−基が同一であっても異なっていてもよい。即ち、複数個のR3及びR4は、同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
前記一般式(1)で表される単量体(A)としては、例えば(フルオロ)シロキサニルモノ(メタ)アクリレート、(フルオロ)シロキサニルジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。より具体的には、以下に示す化合物を好適例として挙げることができる。
【0029】
ペンタメチルジシロキサニルメチルメタクリレート、ペンタメチルジシロキサニルメチルアクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルメタクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルアクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルアクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルアクリレート等のシロキサニルモノ(メタ)アクリレート。
【0030】
(3,3,3−トリフルオロプロピルジメチルシロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルメチルメタクリレート、(3,3,3−トリフルオロプロピルジメチルシロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルメチルアクリレート、(3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチルジメチルシロキシ)(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)トリメチルシロキシシリルプロピルメタクリレート、(3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチルジメチルシロキシ)(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)トリメチルシロキシシリルプロピルアクリレート、(3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチルジメチルシロキシ)(ペンタメチルジシロキサニルオキシ)トリメチルシロキシシリルメタクリレート等のフルオロシロキサニルモノ(メタ)アクリレート。
【0031】
下記式(3)、及び下記式(4)等で表されるシロキサニルジ(メタ)アクリレート。
【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
下記式(5)、及び下記式(6)等で表わされるフルオロシロキサニルジ(メタ)アクリレート。
【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
なお、前記一般式(1)で表される化合物のうち、本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーを構成する単量体(A)として特に好適なものとしては、以下に示す化合物を挙げることができる。
【0038】
ペンタメチルジシロキサニルメチルメタクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルメタクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート等のシロキサニルモノ(メタ)アクリレート。
【0039】
(3,3,3−トリフルオロプロピルジメチルシロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルメチルメタクリレート、(3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチルジメチルシロキシ)(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)トリメチルシロキシシリルプロピルメタクリレート、(3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチルジメチルシロキシ)(ペンタメチルジシロキサニルオキシ)トリメチルシロキシシリルメタクリレート等のフルオロシロキサニルモノ(メタ)アクリレート。
【0040】
下記式(3)、及び下記式(4)で表されるシロキサニルジメタクリレート。
【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
上述してきた前記一般式(1)で表される単量体(A)は、単独で又は二種以上を組み合わせて、後述する単量体(B)、及び必要に応じて用いられる、単量体(A)及び単量体(B)と共重合可能な単量体(C)と共重合させることができる。
【0044】
(単量体(B))
単量体(B)は、その分子構造中に不飽和重合性基とスルホン酸基を有する化合物であり、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、メタアリルスルホン酸、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等を挙げることができるが、とりわけ(メタ)アクリルアミドスルホン酸類のような、その分子構造中にアミド基を有する化合物が好ましい。具体的には、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸(ATBS)を好適例として挙げることができる。なお、単量体(B)は、単独で又は二種以上を組み合わせて、単量体(A)、及び必要に応じて用いられる単量体(C)と共重合させることができる。
【0045】
このように、親水性基であるスルホン酸基をその分子構造中に有する単量体(B)を用いて得られる本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーは、その体積抵抗率が小さいものである。また、単量体成分として前述の単量体(A)を用いているため、本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーの分子中には、親水性を示すスルホン酸基と、疎水性を示すシリコーンユニットが共存している。なお、疎水性のシリコーンユニットが分子中に存在することにより、カーボン表面への配向力が向上するものと推測される。このため、本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーは、体積抵抗率が小さく、カーボン分散性に優れているといった効果を奏するものと推測される。
【0046】
(単量体(C))
本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーは、単量体(A)及び単量体(B)の他に、これらと共重合可能な他の単量体を共重合させて得られるものであってもよい。単量体(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニル化合物、不飽和カルボン酸エステル、及び不飽和ニトリル等を例示することができる。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;
【0048】
フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート類;
【0049】
メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;
【0050】
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール(メタ)アクリレート類;
【0051】
ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類;
【0052】
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;
【0053】
ベンジル(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0054】
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、アクリロイルモルホリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、tert−オクチル(メタ)アクリルアミド、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミドを挙げることができる。
【0055】
ビニル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、n−ドデシルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、又はシクロアルキルビニルエーテル類;
【0056】
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸等のカルボン酸ビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブテン等のα−オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ジイソプロペニルベンゼン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、1,1−ジフェニルエチレン、p−メトキシスチレン、N,N−ジメチル−p−アミノスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等のビニル芳香族化合物を挙げることができる。
【0057】
不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、クロトン酸プロピル、クロトン酸ブチル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸プロピル、ケイ皮酸ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチルを挙げることができる。
【0058】
不飽和ニトリルとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−クロロメチルアクリロニトリル、α−メトキシアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、クロトン酸ニトリル、ケイ皮酸ニトリル、イタコン酸ジニトリル、マレイン酸ジニトリル、フマル酸ジニトリルを挙げることができる。
【0059】
また、得られるスルホン酸基含有ポリマーに架橋部位を導入するために、水酸基含有単量体、エポキシ基含有単量体等の、各種官能基を有する化合物を単量体(C)として使用することができる。
【0060】
水酸基含有単量体としては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシスチレン、p−イソプロペニルフェノール、m−イソプロペニルフェノール、o−イソプロペニルフェノール等のフェノール性水酸基含有単量体を挙げることができる。
【0061】
エポキシ基含有単量体としては、例えば、グリシジルビニルエーテル等のエポキシ基含有ビニルエーテル類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができる。
【0062】
更に、得られるスルホン酸基含有ポリマーの特性を損なわない範囲内で、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル、フルオロオレフィン、及びフルオロオレフィン誘導体等の含フッ素化合物を使用することができる。含フッ素(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレートを挙げることができる。フルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、3,3,3−トリフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレンを挙げることができる。
【0063】
フルオロオレフィン誘導体としては、例えば、メチルトリフルオロビニルエーテル、エチルトリフルオロビニルエーテル等のアルキルパーフルオロビニルエーテル類;メトキシエチルトリフルオロビニルエーテル、エトキシエチルトリフルオロビニルエーテル等のアルコキシアルキルパーフルオロビニルエーテル類;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(イソブチルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類;パーフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)類を挙げることができる。
【0064】
なお、単量体(B)は、単独で又は二種以上を組み合わせて、単量体(A)、及び単量体(B)と共重合させることができる。
【0065】
本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーは、反応性乳化剤から導かれる構造単位を含有してなるものであってもよい。反応性乳化剤としては、ノニオン性反応性乳化剤を用いることが好ましい。ノニオン性反応性乳化剤としては、例えば、下記一般式(7)で表される化合物を挙げることができる。なお、より具体的には、ノニオン性反応性乳化剤としては、例えば、「アデカリアソープNE−5」、「アデカリアソープNE−10」、「アデカリアソープNE−20」、「アデカリアソープNE−30」、「アデカリアソープNE−40」(いずれも商品名(旭電化工業社製))等の市販品を使用することができる。
【0066】
【化11】

(前記一般式(7)中、k=1〜20、m=0〜4、p=3〜50である)
【0067】
本実施形態のスルホン酸基含有ポリマー中に占める、反応性乳化剤から導かれる構造単位の割合は、0〜10質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%であることが更に好ましく、0.05〜2質量%であることが特に好ましい。反応性乳化剤から導かれる構造単位の割合が上記範囲内にあると、このスルホン酸基含有ポリマーを塗布剤として使用する場合に、良好な塗布性及びレベリング性を得ることができる。反応性乳化剤から導かれる構造単位の割合が、10質量%超であると、得られるスルホン酸基含有ポリマーが粘着性を帯び易くなるために取り扱いが困難となる傾向にあり、塗布剤として使用する場合に耐湿性が低下する傾向にある。
【0068】
本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーは、単量体(A)を2〜50質量%、単量体(B)を50〜98質量%、及び単量体(C)を0〜50質量%の割合で共重合させてなるものであることが好ましく、単量体(A)を5〜45質量%、単量体(B)を55〜93質量%、及び単量体(C)を0〜30質量%の割合で共重合させてなるものであることが更に好ましい。また、単量体(A)を10〜40質量%、単量体(B)を60〜90質量%、及び単量体(C)を0〜20質量%の割合で共重合させてなるものであることが特に好ましい(但し、(A)+(B)+(C)=100質量%である)。
【0069】
単量体(A)の割合が2質量%未満、及び/又は単量体(B)の割合が98質量%超であると、得られるスルホン酸基含有ポリマーの疎水性が低下し、カーボン分散性が低下する傾向にある。一方、単量体(A)の割合が50質量%超、及び/又は単量体(B)の割合が50質量%未満であると、得られるスルホン酸基含有ポリマーの親水性が低下し、十分に小さい体積抵抗率になり難い傾向にある。また、単量体(C)の割合が50質量%超であると、体積抵抗率が小さく、カーボン分散性に優れているといった効果が十分に発揮され難くなる傾向にある。
【0070】
本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーの分子構造中に含まれる、スルホン酸基の割合(スルホン酸基含有割合)は、固形分中に、0.2〜5mmol/gであることが好ましく、0.5〜4mmol/gであることが更に好ましく、1〜3mmol/gであることが特に好ましい。スルホン酸基含有割合が0.2mmol/g未満であると、体積抵抗率が大きくなり過ぎる傾向にある。一方、5mmol/g超であると、耐水性が低下する傾向にある。
【0071】
また、本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーは、その固形分についての体積抵抗率が、10-2〜103Ω・cmであることが好ましく、10-2〜102Ω・cmであることが更に好ましい。ここで、本明細書にいう「体積抵抗率」とは、スルホン酸基含有ポリマーのエマルジョンに、必要に応じて架橋剤、有機溶剤等を添加し、必要に応じて加熱しながら媒体を蒸発させて得られる、厚みが1mm以下のフィルム状の固体を25℃の水中で24時間養生したときの体積抵抗率をいう。本明細書における体積抵抗率は、25℃で湿潤した状態のフィルムに電極を接触させ、交流インピーダンスを測定することにより算出される。測定電極は電圧の負荷による化学反応を伴わないものが好ましく、例えば、白金が好ましい。抵抗測定器は一般的なインピーダンスメーターであれば、特に限定はなく、測定周波数は、例えば、1kHz程度である。
【0072】
(スルホン酸基含有ポリマーの製造方法)
本発明の一実施形態であるスルホン酸基含有ポリマーは、前述の単量体(A)、及び単量体(B)を含む単量体成分を、メタノールを主成分とする溶媒中で共重合させることにより製造することができる。また、必要に応じて反応性乳化剤やその他の共重合可能な単量体(C)を使用してもよい。
【0073】
本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーは、ラジカル重合開始剤を用いる重合方法であれば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、又は溶液重合法のいずれの重合方法でも重合することができる。重合操作形式は、回分式、半連続式、又は連続式等の操作形式から適宜選択することができる。重合条件は特に制限されるものではないが、例えば、50〜200℃の範囲の温度で、1〜100時間の重合時間で重合することが好ましい。
【0074】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物類;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩類を挙げることができる。
【0075】
また、本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーの製造方法においては、メタノールを主成分とする溶媒中で共重合反応を行う。メタノールを主成分とする溶媒を使用することにより、疎水性の強い単量体(A)成分と、親水性の強い単量体(B)成分を共に溶解することができる。ここで、本明細書にいう「メタノールを主成分とする」とは、メタノールの物理的特性が損なわれない程度には他の成分を含有してもよいことを意味する。より具体的には、共重合反応に用いられる溶媒の、メタノール濃度は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。なお、共重合反応に用いられる溶媒中にメタノールとともに含有されることのある「他の成分」としては、例えば、水、脂肪族炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、環状アミド化合物等を挙げることができる。
【0076】
上述の重合方法により得られる、スルホン酸基含有ポリマーを含む反応溶液は、そのまま種々の用途に供することもできるが、この反応溶液について適宜後処理を施してもよい。適宜施される後処理としては、例えば、再沈殿処理を行った後、精製されたスルホン酸基含有ポリマーを溶剤に溶解する処理等を挙げることができる。この再沈殿処理としては、スルホン酸基含有ポリマーの不溶化溶剤(例えば、脂肪族炭化水素等)に反応溶液を滴下して、スルホン酸基含有ポリマーを凝固させる精製処理を挙げることができる。また、適宜施される後処理として、得られた反応溶液からの残留モノマー除去を実施することもできる。
【0077】
上述の製造方法によって得られる本実施形態のスルホン酸基含有ポリマーの分子量は特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)が、200,000以下であることが好ましく、5,000〜100,000であることが更に好ましい。重量平均分子量(Mw)が小さ過ぎると、スルホン酸基含有ポリマー又はこれを含有するポリマー組成物を硬化して得られる硬化物の強度や伸び等の物性が低下する傾向にある。一方、重量平均分子量(Mw)が大き過ぎると、スルホン酸基含有ポリマーを他の成分と配合する場合において相溶性が低下したり、溶液粘度が上昇したりし、塗布性が低下する傾向にある。
【0078】
(ポリマー組成物)
本発明のポリマー組成物の一実施形態は、前述のスルホン酸基含有ポリマー(I)(以下、単に「ポリマー(I)」ともいう)、及びポリオルガノシロキサン含有ポリマー(II)(以下、単に「ポリマー(II)」ともいう)を所定の割合で含有するものである。以下、その詳細について説明する。
【0079】
(ポリオルガノシロキサン含有ポリマー(II))
本実施形態のポリマー組成物に含有されるポリマー(II)は、ポリオルガノシロキサンを含有するものである。ポリオルガノシロキサンとは、一般的にはオルガノシランの加水分解物のシラノール基が縮合してSi−O−Si結合を形成したものをいうが、本発明においては、シラノール基のすべてが縮合している必要はなく、一部のシラノール基のみが縮合したもの、縮合の程度が異なっているものの混合物等をも包含する概念である。
【0080】
ポリオルガノシロキサンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、800〜1,000,000であることが好ましく、1,000〜500,000であることが更に好ましい。ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量(Mw)が800未満であると、ポリマー組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。一方、重量平均分子量(Mw)が1,000,000超であると、成膜性に劣る傾向にある。
【0081】
(ポリマー(II)の製造方法)
ポリマー(II)は、例えば、下記(a)〜(d)成分、更には必要に応じて下記(e)成分を混合し、エマルジョンの平均粒子径を1μm以下に微細化する工程を含み、更に必要に応じて(f)成分を加えてラジカル重合を行なうことにより製造することができる。
【0082】
((a)成分)
(a)成分は、下記一般式(8)で表されるオルガノシラン、その加水分解物、及びその縮合物からなる群より選択される一種以上の成分である。
(R1nSi(OR24-n …(8)
(前記一般式(8)中、R1は、2個存在するときは同一又は異なる、炭素数1〜8の1価の有機基であり、R2は、同一又は異なる、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜6のアシル基であり、nは0〜2の整数である)
【0083】
前記一般式(8)において、R1の炭素数1〜8の1価の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基等のアシル基;ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、エポキシ基、グリシジル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアナート基等の他、これらの基の置換誘導体等を挙げることができる。
【0084】
1の置換誘導体における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換若しくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基等を挙げることができる。但し、これらの置換誘導体からなるR1の炭素数は、置換基中の炭素原子を含めて8以下である。なお、前記一般式(8)中に、R1が2個存在するときは、相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0085】
また、R2の炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等を挙げることができる。炭素数1〜6のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基等を挙げることができる。前記一般式(8)中に複数個存在するR2は、相互に同一であっても異なっていてもよい。
【0086】
このようなオルガノシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類の他、メチルトリアセチルオキシシラン、ジメチルジアセチルオキシシラン等を挙げることができる。
【0087】
これらのうち、トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類を好適に用いることができる。トリアルコキシシラン類としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが好ましい。また、ジアルコキシシラン類としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが好ましい。
【0088】
本明細書においては、オルガノシランの縮合物のことを「ポリオルガノシロキサン」ともいう。(a)成分としてポリオルガノシロキサンを使用すると、ビニル化合物が重合する際の重合安定性が著しく向上し、高固形分で重合できるために工業化が容易であるという利点がある。
【0089】
ポリオルガノシロキサンは、オルガノシランを予め加水分解・縮合させて、オルガノシランの縮合物として使用する。ポリオルガノシロキサンを調製する際に、オルガノシランに適量の水、及び必要に応じて有機溶剤を添加することにより、オルガノシランを加水分解・縮合させることが好ましい。水の使用量は、オルガノシラン1モルに対して、1.2〜3.0モルとすることが好ましく、1.3〜2.0モルとすることが更に好ましい。
【0090】
また、必要に応じて用いられる有機溶剤としては、ポリオルガノシロキサンや後述する(b)成分を均一に混合できるものであれば特に限定されないが、例えば、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を挙げることができる。
【0091】
これらの有機溶剤のうち、アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール等を挙げることができる。
【0092】
また、芳香族炭化水素類の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等を、エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等を、ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等を、エステル類の具体例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独で又は二種以上を混合して使用することができる。なお、ポリオルガノシロキサン中に有機溶媒を含む場合には、後述する縮合・重合反応の前に、この有機溶媒を水系分散体から除去しておくこともできる。
【0093】
ポリオルガノシロキサンの市販品には、三菱化学社製のMKCシリケート、コルコート社製のエチルシリケート、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製の変性シリコーンオイル(商品名:SFシリーズ、SHシリーズ)、GE東芝シリコーン社製の変性用シリコーンワニス(商品名:TSRシリーズ)、シリコーンレジン(商品名:TSRシリーズ)、ヒドロキシ末端ジメチルポリシロキサン(商品名:YFシリーズ)、信越化学工業社製のシリコーンアルコキシオリゴマー(商品名:Xシリーズ、KRシリーズ)、ダウコーニング・アジア社製のヒドロキシル基含有ポリジメチルシロキサン、日本ユニカー社製のNUC反応性シリコーンオイル(商品名:FZシリーズ)、昭和電工社製のグラスレジン等がある。これらの市販品ををそのまま、又は更に縮合させて使用してもよい。
【0094】
((b)成分)
(b)成分は、ラジカル重合性モノマーであり、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を有するものであれば特に限定されるものではない。(b)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリルリレート、アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のエステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリル酸エステル類;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ペンタデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子含有(メタ)アクリルエステル類;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、等のアミノ基含有(メタ)アクリルエステル類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類等の(メタ)アクリル化合物を挙げることができる。
【0095】
その他、ラジカル重合性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシメチルスチレン、4−エチルスチレン、4−エトキシスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,4−ジエチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロ−3−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、1−ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;
【0096】
テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、メチルトリフルオロビニルエーテル、エチルトリフルオロビニルエーテル、メトキシエチルトリフルオロビニルエーテル、エトキシエチルトリフルオロビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(イソブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)等のフルオロオレフィン及びフルオロオレフィン誘導体;ジビニルベンゼン等の上記以外の多官能性単量体;
【0097】
(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ノルマルプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−2−エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等の酸アミド化合物;
【0098】
アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン等のピペリジン系モノマー;その他、ジカプロラクトン等を挙げることができる。
【0099】
更に、官能基を有するラジカル重合性モノマーとして、例えば、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の上記以外の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;アクリルアミドt−ブチルスルホン酸等の(メタ)アクリルアミドスルホン酸類;2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル等の上記以外の水酸基含有ビニル系単量体;2−アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有ビニル系単量体;1,1,1−トリメチルアミン(メタ)アクリルイミド、1−メチル−1−エチルアミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2−ヒドロキシプロピル)アミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2’−フェニル−2’−ヒドロキシエチル)アミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2’−ヒドロキシ−2’−フェノキシプロピル)アミン(メタ)アクリルイミド等のアミンイミド基含有ビニル系単量体;アリルグリシジルエーテル等の上記以外のエポキシ基含有ビニル系単量体等を挙げることができる。
【0100】
以上の化合物のなかでは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル化合物、酸アミド化合物、(メタ)アクリルアミドスルホン酸類が好ましく、特に、アクリル酸、メタクリル酸、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ペンタデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸が好ましい。なお、酸性官能基を有するラジカル重合性モノマーを使用すると、後述する加水分解触媒としても優れた効果を示すため好ましい。
【0101】
(a)成分と(b)成分の配合割合は、(a)成分の合計量が1〜100質量部であることが好ましく、1〜95質量部であることが更に好ましく、10〜90重量部であることが特に好ましい。また、(b)成分は、99〜0質量部であることが好ましく、99〜5質量部であることが更に好ましく、90〜10質量部であること(但し、(a)+(b)=100質量部)が特に好ましい。ここで、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン等、(a)成分としても(b)成分としても作用する成分については、その質量を2で除し、(a)成分及び(b)成分として扱うものとする。(b)成分の割合が99質量部超であると、耐水性が著しく低下する傾向にある。
【0102】
((c)成分)
(c)成分は、乳化剤である。乳化剤として用いられる界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル(塩)、アルキルアリール硫酸エステル(塩)、アルキルリン酸エステル(塩)、脂肪酸(塩)等のアニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキル四級アミン塩等のカチオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ブロック型ポリエーテル等のノニオン系界面活性剤;カルボン酸型(例えば、アミノ酸型、ベタイン酸型等)、スルホン酸型等の両性界面活性剤、商品名で、ラテムルS−180A(花王社製)、エレミノールJS−2(三洋化成社製)、アクアロンHS−10、KH−10(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE−10N、SR−10(旭電化工業社製)、Antox MS−60(日本乳化剤社製)等の反応性乳化剤等のいずれも使用可能である。
【0103】
アルキル硫酸エステル、アルキルアリール硫酸エステル等のスルホン酸基を有する乳化剤を酸型のまま用いることにより、体積抵抗率を小さくすることができる。特に、反応性乳化剤を用いると、耐水性に優れ好ましい。
【0104】
親水性基を有するポリマーのうち、分散機能を有するものも乳化剤として使用することができる。このようなポリマーとしては、例えば、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・アクリル酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、ポリイソプレンのスルホン化物、水添スチレン・ブタジエン共重合体のスルホン化物、スチレン・マレイン酸共重合体のスルホン化物、スチレン・アクリル酸共重合体のスルホン化物等を挙げることができる。特に、スルホン酸基を有するポリマーを酸型のまま用いることで体積抵抗率を小さくすることができる。このようなポリマーとしては、ポリイソプレンのスルホン化物、水添スチレン・ブタジエン共重合体のスルホン化物、スチレン・マレイン酸共重合体のスルホン化物、スチレン・アクリル酸共重合体のスルホン化物等を挙げることができる。
【0105】
これらの乳化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。乳化剤の使用量は特に限定されるものではないが、(a)成分と(b)成分の合計量100質量部に対し、0.1〜50質量部とすることが好ましく、0.2〜20質量部とすることが更に好ましく、0.5〜5質量部とすることが特に好ましい。0.1質量部未満であると、乳化が十分となり難く、また、加水分解・縮合、及びラジカル重合時の安定性が低下する傾向にある。一方、50質量部超であると、泡立ち及び耐水性が問題となる傾向にある。
【0106】
((d)成分)
(d)成分は、水である。この水は、予め添加された(a)成分の水系の混合液中に存在する水であってもよく、(a)成分の混合物に更に(c)乳化剤とともに添加される水であってもよい。水の使用量は特に限定されるものではないが、(a)成分及び(b)成分の合計量100質量部に対し、50〜2,000質量部とすることが好ましく、80〜1,000質量部とすることが更に好ましく、100〜500質量部とすることが特に好ましい。50質量部未満であると、乳化が困難であったり、乳化後のエマルジョンの安定性が低下したりする傾向にある。一方、2,000質量部超であると、生産性が低下する傾向にある。
【0107】
((e)成分)
(e)成分は、加水分解触媒である。(a)〜(d)成分を混合し、エマルジョンの平均粒子径を1μm以下に微細化する前、及び/又は後で、(a)成分の加水分解・縮合反応を促進する成分として使用することができる。(e)成分を使用することにより、重合安定性を高めるとともに、使用される(a)成分の重縮合反応により生成されるポリシロキサン樹脂の分子量が大きくなり、耐水性に優れた材料を得ることができる。
【0108】
このような(e)成分としては、酸性化合物、アルカリ性化合物、塩化合物、アミン化合物、有機金属化合物及び/又はその部分加水分解物(以下、「有機金属化合物及び/又はその部分加水分解物」を、まとめて「有機金属化合物等」という)が好ましい。前記酸性化合物としては、例えば、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、アルキルチタン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、フタル酸等を挙げることができる。なかでも、塩酸、硫酸、リン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0109】
また、前記アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。但し、体積抵抗率が大きくなることがあるので、アルカリ性化合物は使用しないことが好ましい。更に、前記塩化合物としては、例えば、ナフテン酸、オクチル酸、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸、炭酸等のアルカリ金属塩等を挙げることができる。
【0110】
前記アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ピペリジン、ピペラジン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、エタノールアミン、トリエチルアミン、3−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・メチル・ジメトキシシラン、3−アニリノプロピル・トリメトキシシランや、アルキルアミン塩類、四級アンモニウム塩類の他、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種変性アミン等を挙げることができる。なかでも、3−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリメトキシシランが好ましい。
【0111】
また、前記有機金属化合物等としては、例えば、下記一般式(9)で表される化合物(以下、「有機金属化合物(2)」という)、同一のスズ原子に結合した炭素数1〜10のアルキル基を1〜2個有する4価スズの有機金属化合物(以下、「有機スズ化合物」という)、又はこれらの化合物の部分加水分解物等を挙げることができる。
M(OR3r(R4COCHCOR5s …(9)
(前記一般式(9)中、Mはジルコニウム、チタン、又はアルミニウムであり、R3及びR4は、同一又は異なって、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等の炭素数1〜6の1価の炭化水素基であり、R5は、R3及びR4と同様の、炭素数1〜6の1価の炭化水素基の他、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ラウリルオキシ基、ステアリルオキシ基等の炭素数1〜16のアルコキシル基であり、r及びsは、0〜4の整数(但し、(r+s)=(Mの原子価))である)
【0112】
有機金属化合物(2)の具体例としては、以下に示す(イ)〜(ハ)の化合物を挙げることができる。
【0113】
(イ)テトラ−n−ブトキシジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n−プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物。
【0114】
(ロ)テトラ−i−プロポキシチタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトン)チタニウム等の有機チタン化合物;
【0115】
(ハ)トリ−i−プロポキシアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・アセチルアセトナートアルミニウム、i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物。
【0116】
これらの有機金属化合物(2)、及びその部分加水分解物のうち、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、又はこれらの化合物の部分加水分解物が好ましい。
【0117】
また、有機スズ化合物の具体例としては、(C492Sn(OCOC11232、(C492Sn(OCOCH=CHCOOCH32、(C492Sn(OCOCH=CHCOOC492、(C8172Sn(OCOC8172、(C8172Sn(OCOC11232、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOCH32、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC492、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC8172、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC16332、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC17352、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC18372、(C8172Sn(OCOCH=CHCOOC20412
【0118】
(C492SnOCOCH3



(C492SnOCOCH3
【0119】
(C49)Sn(OCOC11233、(C49)Sn(OCONa)3等のカルボン酸型有機スズ化合物;
【0120】
(C492Sn(SCH2COOC8172、(C492Sn(SCH2CH2COOC8172、(C8172Sn(SCH2COOC8172、(C8172Sn(SCH2CH2COOC8172、(C8172Sn(SCH2COOC12252、(C8172Sn(SCH2CH2COOC12252、(C49)Sn(SCOCH=CHCOOC8173、(C817)Sn(SCOCH=CHCOOC8173
【0121】
(C492Sn(SCH2COOC817



(C492Sn(SCH2COOC817)等のメルカプチド型有機スズ化合物;
【0122】
(C492Sn=S、(C8172Sn=S、
【0123】
(C492Sn=S



(C492Sn=S等のスルフィド型有機スズ化合物;
【0124】
(C49)SnCl3、(C492SnCl2、(C8172SnCl2
【0125】
(C492Sn−Cl



(C492Sn−Cl等のクロライド型有機スズ化合物;
【0126】
(C492SnO、(C8172SnO等の有機スズオキサイドや、これらの有機スズオキサイドとシリケート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フタル酸ジオクチル等のエステル化合物との反応生成物を挙げることができる。
【0127】
なお、(e)成分として、アクリル酸、メタクリル酸等のラジカル重合性の酸を含むと、(b)成分として共重合することから、耐水性を劣化させることがないという効果が得られる。(e)成分の使用量は特に限定されるものではないが、(a)成分の100質量部に対して、0.01〜5質量部とすることが好ましく、0.1〜5質量部とすることが更に好ましく、0.1〜3質量部とすることが特に好ましい。
【0128】
((f)成分)
(f)成分は、ラジカル重合開始剤である。(b)成分を用いる場合に、この(f)成分が用いられる。ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキサイド、2,2’−アゾビス〔2−N−ベンジルアミジノ〕プロパン塩酸塩等の水溶性開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤;酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を併用したレドックス系開始剤等が使用できる。これらの(f)成分のなかでも、重合安定性の面から、水溶性開始剤が好ましい。
【0129】
これらのラジカル重合開始剤の使用量は特に限定されないが、(b)成分の100質量部に対して、0.01〜5質量部とすることが好ましく、0.05〜4質量部とすることが更に好ましく、0.1〜3質量部とすることが特に好ましい。0.01質量部未満であると、ラジカル重合反応が途中で失活する場合がある。一方、5質量部超であると、耐水性に劣る場合がある。
【0130】
本実施形態のポリマー組成物に含有されるポリマー(II)を製造するに際しては、例えば、下記(a)〜(d)成分、更には必要に応じて下記(e)成分を混合し、エマルジョンの平均粒子径を1μm以下に微細化する。微細化は、高圧ホモジナイザー、超音波、ホモミキサー等の機械的手段を用いて、系をミニエマルジョン化する。この際、エマルジョンの平均粒子径を1μm以下とすることが好ましく、0.01〜0.5μmとすることが更に好ましく、0.01〜0.2μmとすることが特に好ましい。エマルジョンの平均粒子径が1μm超であると、耐水性が劣る傾向にある。
【0131】
また、ラジカル重合反応の反応条件のうち、温度については25〜120℃とすることが好ましく、40〜90℃とすることが更に好ましい。また、反応時間については0.5〜15時間とすることが好ましく、1〜8時間とすることが更に好ましい。ポリマー(II)の水系分散体中に、前記(a)成分の調製時に必要に応じて用いられる有機溶媒が含まれる場合には、この有機溶媒を水系分散体から除去しておくこともできる。更に、ポリマー(II)には、必要に応じて、(a)成分の調製時に用いられる上記のような各種有機溶媒を添加することもできる。なお、引火性を持たないようにするために、引火性有機溶媒は、加熱・蒸留等の手段で低減させておくことが望ましい。
【0132】
(添加剤)
本実施形態のポリマー組成物に含有されるポリマー(II)を、必要に応じて、架橋剤、溶剤等の各種添加剤で処理することもできる。
【0133】
架橋剤として、(a)成分及び/又は(b)成分により導入された官能基と反応して硬化物を形成することができる化合物を使用することができる。このような架橋剤としては、例えば、(ポリ)メチロール化メラミン、(ポリ)メチロール化グリコールウリル、(ポリ)メチロール化ベンゾグアナミン、(ポリ)メチロール化ウレア等の活性メチロール基の全部又は一部をアルキルエーテル化した含窒素化合物;ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン及びその共重合体、低分子フェノール化合物等のフェノール樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等のエポキシ化合物等を挙げることができる。
【0134】
(b)成分としてジアセトンアクリルアミドを用いた場合等、カルボニル基がポリマー(II)に導入されている場合、アジピン酸ジヒドラジド等の多価ヒドラジド化合物を架橋剤として用いることができる。(e)成分は(a)成分の硬化触媒としても働き、後添加する架橋剤としては、特に有機金属化合物が好適に用いられる。
【0135】
また、溶剤は、ポリマー(II)の取り扱い性を向上させたり、粘度や保存安定性を調節したりするために添加される。このような溶剤は、本発明の目的を損なわない有機溶媒であれば特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;
【0136】
プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
【0137】
エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;ブチルカルビトール等のカルビトール類;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−プロピル、乳酸イソプロピル等の乳酸エステル類;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソブチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル等のエステル類;
【0138】
トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;γ−ブチロラクン等のラクトン類を挙げることができる。また、必要に応じて、脂肪族炭化水素類等を混合して使用してもよい。これらの溶媒は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0139】
本実施形態のポリマー組成物は、ポリマー(I)を20〜80質量%、好ましくは25〜70質量%、更に好ましくは30〜60質量%の割合で含有するものである。また、本実施形態のポリマー組成物は、ポリマー(II)を20〜80質量%、好ましくは30〜75質量%、更に好ましくは40〜70質量%の割合で含有するものである。なお、ポリマー(I)とポリマー(II)の合計は100質量%である。
【0140】
ポリマー(I)の割合が20質量%未満、及び/又はポリマー(II)の割合が80質量%超であると、得られるポリマー組成物の体積抵抗率が十分に小さくなり難くなる傾向にある。一方、ポリマー(I)の割合が80質量%超、及び/又はポリマー(II)の割合が20質量%未満であると、得られるポリマー組成物に十分な耐水性が付与され難くなる傾向にある。
【0141】
(その他の添加剤)
本実施形態のポリマー組成物は、無機又は有機の粒子、密着助剤、増感剤、レベリング剤、着色剤等、その他の添加剤を更に含有するものであってもよい。
【0142】
無機粒子としては、例えば、SrTiO3、FeTiO3、WO3、SnO2、Bi23、In23、ZnO、Fe23、RuO2、CdO、CdS、CdSe、GaP、GaAs、CdFeO3、MoS2、LaRhO3、GaN、CdP、ZnS、ZnSe、ZnTe、Nb25、ZrO2、InP、GaAsP、InGaAlP、AlGaAs、PbS、InAs、PbSe、InSb、SiO2、Al23、AlGaAs、Al(OH)3、Sb25、Si34、Sn−In23、Sb−In23、MgF、CeF3、CeO2、3Al23・2SiO2、BeO、SiC、AlN、Co、Co−FeOx、CrO2、Fe4N、BaTiO3、BaO−Al23−SiO2、Baフェライト、SmCO5、YCO5、CeCO5、PrCO5、Sm2CO17、Nd2Fe14B、Al43、α−Si、SiN4、CoO、Sb−SnO2、Sb25、MnO2、MnB、Co34、Co3B、LiTaO3、MgO、MgAl24、BeAl24、ZrSiO4、ZnSb、PbTe、GeSi、FeSi2、CrSi2、CoSi2、MnSi1.73、Mg2Si、β−B、BaC、BP、TiB2、ZrB2、HfB2、Ru2Si3、TiO2(ルチル型、アナターゼ型)、TiO3、PbTiO3、Al2TiO5、Zn2SiO4、Zr2SiO4、2MgO2−Al23−5SiO2、Nb25、Li2O−Al23−4SiO2、Mgフェライト、Niフェライト、Ni−Znフェライト、Liフェライト、Srフェライト、Pt、Au、Ag、Fe、Cu等を挙げることができる。このような金属酸化物又は金属粒子を使用することにより、本実施形態のポリマー組成物を硬化して得られる硬化膜の屈折率などの光学特性制御、誘電率や絶縁性、導電性などの電気特性を制御することができる。これらの粒子は単独で使用できるが、カーボンブラックや炭酸カルシウム等の粒子上に担持されたものでもよい。
【0143】
また、本実施形態のポリマー組成物は、ポリマー(I)とポリマー(II)の他に、カーボンブラックを更に含有するものであることが好ましい。なお、カーボンブラックの含有割合は、ポリマー(I)と、ポリマー(II)の合計100質量部に対して、10〜1000質量部であることが好ましく、50〜800質量部であることが更に好ましく、100〜500質量部であることが特に好ましい。カーボンブラックの含有割合を上記の数値範囲内とすることにより、良好な分散性を付与することができる。
【0144】
本実施形態のポリマー組成物は、コーティング材、特に電池セパレーター用不織布のコーティング材やバインダー樹脂、高分子固体電解質膜等、種々の用途に適用可能である。また、種々の用途に適用する際、物性等を改良するために、他のポリマーを併用することもできる。他のポリマーとしては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル、ポリスチレン、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、SBRやNBR等のジエン系ポリマー等、公知のものを挙げることができる。
【0145】
また、本実施形態のポリマー組成物は、キャストフィルム成形等の成形法を用いて寸法精度の良好なフィルムを得ることができる。このようなフィルムは、例えば、イオン交換膜等として好適に用いることができる。
【0146】
本実施形態のポリマー組成物は、単品、又は各種添加物を加えた配合物として使用される。コーティング材として使用する場合、コーティング方法には特に制限なく、刷毛塗り、スプレー、ロールコーター、フローコーター、バーコーター、ディップコーター等の方法を採用することができる。塗布膜厚は、用途によって異なるが、乾燥膜厚で、通常、0.01〜1,000μm、好ましくは0.05〜500μmである。
【0147】
また、使用される基材には特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等の高分子材料;アルミニウム、銅、ジュラルミン等の非鉄金属;ステンレス、鉄等の鋼板;ガラス、木材、紙、石膏、アルミナ、無機質硬化体等を挙げることができる。基材の形状に特に制限はなく、平面状のものから不織布等の多孔質材料等にも使用できる。
【0148】
本実施形態のスルホン酸基含有水系分散体は、乾燥膜として燃料電池等の高分子固体電解質や、基材表面の改質剤として使用できる。例えば、疎水性表面にコーティングすることにより、親水性、吸湿性の発現又はその維持が可能となる。また、静電気等による汚れ、埃付着防止が可能である。更に、不織布等の多孔質材料にコーティングした場合には、例えば、空気中若しくは水中に存在するアンモニア、アミン等の弱塩基、又はイオン性物質の捕捉作用を示す。また、電池用セパレータの表面をコーティング処理することにより、電池用電解質との親和性が向上し、自己放電特性等の電池特性の向上に繋がるといった効果も期待できる。加えて、前記の各種粒子を高度に分散させることも特徴の一つであり、粒子がもつ機能性を十分発揮できるという特徴もある。
【実施例】
【0149】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び評価方法を以下に示す。
【0150】
[スルホン酸基含有量]:得られたポリマーの水分散体を80℃で12時間真空乾燥して乾燥物を得、得られた乾燥物を硫黄元素分析することにより、スルホン酸基含有量(mmol/g)を算出した。
【0151】
[重量平均分子量(Mw)]:得られたポリマーの水分散体を、不揮発分濃度が0.2%となるように水で希釈し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によりポリエチレングリコール換算分子量として測定した。なお、保持時間(min)に対してlog(重量平均分子量(Mw))をプロットしたグラフ(分子量較正曲線)を図1に示す。
【0152】
[赤外吸光分析]:得られたポリマーの水分散体を80℃で12時間真空乾燥して乾燥物を得、得られた乾燥物について、赤外分光光時計(商品名「NEXUS470F」(サーモニコレー社製))を使用して赤外吸光分析を行った。
【0153】
[耐水性(膜残存率)]:ポリマー組成物の水分散体を、乾燥後の膜厚が0.2mmとなるように4フッ化エチレン重合体(登録商標:テフロン)製の枠に流し、25℃にて48時間放置して水分を揮発させた。次いで、150℃で1時間加熱処理した後、温度25℃、相対湿度60%にて24時間養生した。得られた膜を60℃で水中に12時間浸漬した後に乾燥し、浸漬前後の質量変化から膜残存率(%)を測定・算出し、耐水性の評価指標とした。
【0154】
[体積抵抗率]:ポリマー組成物の水分散体を、乾燥後の膜厚が0.2mmとなるように4フッ化エチレン重合体(登録商標:テフロン)製の枠に流し、25℃にて48時間放置して水分を揮発させた。次いで、150℃で1時間加熱処理した後、温度25℃、相対湿度60%にて24時間養生することにより測定用のフィルムを得た。得られたフィルムを25℃で水中に1時間浸漬した後、白金箔(白金電極)を付けた2つのテフロンブロック間に挟み、四隅を止めて測定セルを作製した。この際、フィルムの膜面に対して垂直方向から見たときに、各白金電極間の間隔が0.5cmとなるように調整した。測定セルの白金電極部分に、ケミカルインピーダンスメータ(商品名「3532−80」(日置電機社製))を接続し、両白金電極間の交流インピーダンスを周波数1kHzにて測定して、フィルムの体積抵抗率(Ω・cm)を算出した。
【0155】
[カーボン分散性]:ポリマー組成物の水分散体に、ポリマー組成物100部(固形分として)に対して300部のカーボン粒子(商品名「ケッチェンブラックEC」(ライオン社製))を添加し、不揮発分濃度が5%となるように水で希釈した。その後、超音波分散機 MODEL US−600(日本製機製作所社製)により10分間超音波分散処理を実施してカーボン粒子の分散液を得た。得られたカーボン粒子の分散液を、ステンレス製200メッシュ(太陽金網社製)にてろ過した後、カーボン粒子の粒子径(分散粒子径(μm))をMicrotrac粒度分布計(日機装社製)により測定し、カーボン分散性の指標とした。
【0156】
(1)ポリマー(I)の合成
(合成例1)
窒素ガスで十分置換した撹拌機付きガラス製反応器に、メタノール1500部、水35部、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸(ATBS)(東亞合成社製)60部、及びトリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート(商品名「X−22−2404」(信越化学工業社製))40部を投入し、撹拌しながら昇温を開始した。反応器内の温度が50℃になった時点で、重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.4部投入した。そのまま60℃で4時間反応を継続した後、反応器を水冷して反応を停止させた。反応器内の溶液(ポリマー溶液)中の不揮発分濃度(有効成分濃度、固形分濃度)は、ポリマー溶液をアルミ皿上で200℃、10分間乾燥させて測定した結果、6.0%であった。次いで、ナスフラスコに、このポリマー溶液、及び水1600部を投入し、不揮発分濃度が10%となるまで減圧蒸留を行った。その後、不揮発分濃度が5.0%となるように水を加えて調整することにより、ポリマー(I−1)の水分散体を得た。なお、ポリマー(I−1)の重量平均分子量(Mw)は36500、スルホン酸基含有量は2.8mmol/gであった。また、ポリマー(I−1)の分子量測定結果を示す、保持時間(min)に対して検出強度(mV)をプロットしたグラフ、及び赤外吸収スペクトルを、図2、3にそれぞれ示す。
【0157】
(合成例2〜6)
表1に示す配合処方としたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、ポリマー(I−2)〜(I−6)の水分散体を得た。ポリマー(I−2)〜(I−6)のスルホン酸基含有量の測定結果を表1に示す。但し、ポリマー(I−5)については、水溶性が乏しく、ポリエチレングリコール換算として重量平均分子量(Mw)を測定することが不可能であった。また、ポリマー(I−6)については、ゲル化してしたために、重量平均分子量(Mw)を測定することが不可能であった。更に、ポリマー(I−6)については、重合反応途中で著しい粘度上昇が起こってゲル化し、水分散体とすることができなかったため、スルホン酸基含有量の測定をすることが不可能であった。
【0158】
【表1】

【0159】
(2)ポリマー(II)の合成
(合成例7)
容器内に、シリコーンアルコキシオリゴマー(商品名「X40−9246」(信越化学工業社製))60部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1部、メチルメタクリレート8部、2−エチルヘキシルアクリレート10部、シクロヘキシルメタクリレート4部、ヒドロキシエチルメタクリレート2部、ジアセトンアクリルアミド4部、ドデシルベンゼンスルホン酸0.8部、反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH10」(第一工業製薬社製))1.5部、及び水300部を仕込み、常温にて2時間撹拌を行った。その後、高圧ホモジナイザー(商品名「マイクロフルイダイザーM110Y」(みずほ工業社製))を使用して、70MPaの圧力で微細化することにより乳化物を得た。なお、得られた乳化物の平均粒子径は、0.2μmであった。この乳化物をセパラブルフラスコに投入して昇温を開始した。セパラブルフラスコ内の温度が60℃になった時点で、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2部を加えた。セパラブルフラスコ内の温度を75℃に維持したまま3時間撹拌した後、水冷することにより重合を停止した。セパラブルフラスコ内の反応溶液を200メッシュのステンレス金網でろ過して、ポリオルガノシロキサン含有ポリマー(ポリマー(II))の水系分散体を得た。
【0160】
(実施例1)
ポリマー(I−1)の水分散体50部(但し、固形分として)、及びポリマー(II)の水分散体50部(但し、固形分として)を配合することにより、ポリマー組成物(実施例1)の水分散体を調製した。ポリマー組成物の膜残存率は94%、体積抵抗率は50Ω・cm、及びカーボンの分散粒子径は280μmであった。
【0161】
(実施例2〜4、比較例1、2)
ポリマー(I)の種類、及びポリマー(I)とポリマー(II)の配合割合を表2に示すようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様にしてポリマー組成物(実施例1〜4、比較例1、2)を調製した。それぞれのポリマー組成物の膜残存率、体積抵抗率、及びカーボンの分散粒子径の測定結果を表2に示す。なお、比較例2のポリマー組成物については、カーボンの分散液をろ化することが不可能であり、カーボンの分散粒子径を測定することができなかった。
【0162】
【表2】

【0163】
表2に示す結果から、実施例1〜4のポリマー組成物は、比較例1、2のポリマー組成物に比して、優れた耐水性を示すとともに体積抵抗率が小さく、また、カーボン分散性が良好であり、これらの特性が良好なバランスを示しているものであることが明らかである。これは、ポリマー(I)の分子構造中に、疎水性のポリオルガノシロキサン成分(シリコーンユニット)と、親水性のスルホン酸基が共存しているためであると推測される。一方、比較例1のポリマー組成物は、耐水性が低く、体積抵抗率が大きく、カーボン分散性が低い結果となった。これは、ポリマー(I)の分子構造中に、疎水性のポリオルガノシロキサン成分が存在しないために疎水性が不足したためであると推測される。更に、比較例2のポリマー組成物は、体積抵抗率が著しく大きく、カーボン分散性が著しく低いものであった。これは、ポリマー(I)の分子構造中に、親水性のスルホン酸基が存在しないためであると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明のスルホン酸基含有ポリマー、及びこれを用いたポリマー組成物は、コーティング材、特に電池セパレーター用不織布のコーティング材やバインダー樹脂、高分子固体電解質膜等の種々の用途に適用可能である。また、フィルムにも適用でき、例えば、イオン交換膜等に好適に用いることができる。また、本発明のスルホン酸基含有ポリマー、及びこれを用いたポリマー組成物は、乾燥膜として燃料電池等の高分子固体電解質や、基材表面の改質剤として使用できる。
【0165】
本発明のスルホン酸基含有ポリマー、及びこれを用いたポリマー組成物は、種々の用途に適用可能である。多孔質材料等に応用した場合には、例えば、繊維用カチオン染色助剤、吸水性不織布、防汚材料、イオン交換繊維、電池用セパレータ親水化処理剤、アンモニア、イオン性物質等を除去するための空気清浄フィルター、水清浄フィルター等のフィルター用途、白血球除去用フィルター、花粉症アレルゲン除去材料、水蒸気透過材料、抗菌材料、消臭繊維、消臭塗料、消臭性紙、防曇材、結露防止材料等の調湿材料、帯電防止材料、防食材料、酸素吸収剤、衛生用品、活性炭の表面改質等を挙げることができる。また、フロアポリッシュ用、マスキング材、紙用サイズ材、紙力増強材、接着剤、ハロゲン化銀写真感光材料等の写真材料等への応用も可能である。
【0166】
また、本発明のスルホン酸基含有ポリマー、及びこれを用いたポリマー組成物は、各種機能性粒子を組み合わせることにより、種々の用途に適用可能である。例えば、一般塗料、回路基板用塗料、導電性材料、固体電解質のバインダー、又は電極物質用バインダー等の電池材料、電磁波シールド材料、帯電防止塗料、面状発熱体、電気化学的反応電極版、電気接点材料、摩擦材、抗菌材料、摺動材、研磨材料、磁気記録媒体、感熱記録材料、エレクトロクロミック材料、光拡散フィルム、通信ケーブル用遮水材、遮光フィルム、遮音シート、プラスチック磁石、X線増感スクリーン、印刷インキ、農薬粒剤、電子写真トナー等を挙げることができる。また、表面保護用のコーティング材として、例えば、ステンレス、アルミニウム、銅等の金属、コンクリート、スレート等の無機物、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の高分子材料、木材、紙への応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】保持時間(min)に対してlog(重量平均分子量(Mw))をプロットしたグラフ(分子量較正曲線)である。
【図2】ポリマー(I−1)の分子量測定結果を示す、保持時間(min)に対して検出強度(mV)をプロットしたグラフである。
【図3】ポリマー(I−1)の赤外吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体(A)、及び
不飽和重合性基及びスルホン酸基を有する単量体(B)、
を含む単量体成分を共重合させてなるスルホン酸基含有ポリマー。
【化1】

(前記一般式(1)中、Aは不飽和重合性基であり、Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、相互に同一又は異なる、下記一般式(2)で表されるQ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子であり(但し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のそれぞれの組み合わせは、いずれもが水素原子になることはない)、Zは−X−B基(Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、Bは不飽和重合性基、又は水素原子である)、又はフルオロアルキル基であり、kは0〜100の整数である。但し、kが2以上の整数である場合には、それぞれの−Si(R3)(R4)O−基が同一であっても異なっていてもよい)
【化2】

(前記一般式(2)中、Y1、Y2、及びY3は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子である(但し、Y1、Y2、及びY3のうちの二以上が水素原子になることはない))
【請求項2】
前記単量体(A)を2〜50質量%、
前記単量体(B)を50〜98質量%、及び
前記単量体(A)及び前記単量体(B)と共重合可能な他の単量体(C)を0〜50質量%、
の割合(但し、(A)+(B)+(C)=100質量%)で共重合させてなる請求項1に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【請求項3】
前記単量体(A)が、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレートである請求項1又は2に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【請求項4】
前記単量体(B)が、アミド基を更に有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【請求項5】
前記単量体(B)が、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸である請求項4に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される単量体(A)、及び
不飽和重合性基及びスルホン酸基を有する単量体(B)、
を含む単量体成分を、メタノールを主成分とする溶媒中で共重合させることによりスルホン酸基含有ポリマーを得ることを含む、スルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
【化3】

(前記一般式(1)中、Aは不飽和重合性基であり、Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、相互に同一又は異なる、下記一般式(2)で表されるQ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子であり(但し、R1とR2、R3とR4、及びR5とR6のそれぞれの組み合わせは、いずれもが水素原子になることはない)、Zは−X−B基(Xは炭素数1〜10の炭化水素基であり、Bは不飽和重合性基、又は水素原子である)、又はフルオロアルキル基であり、kは0〜100の整数である。但し、kが2以上の整数である場合には、それぞれの−Si(R3)(R4)O−基が同一であっても異なっていてもよい)
【化4】

(前記一般式(2)中、Y1、Y2、及びY3は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フェニル基、若しくはビニル基、又は水素原子である(但し、Y1、Y2、及びY3のうちの二以上が水素原子になることはない))
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のスルホン酸基含有ポリマー(I)を20〜80質量%、及び、
ポリオルガノシロキサン含有ポリマー(II)を20〜80質量%
の割合(但し、(I)+(II)=100質量%)で含有するポリマー組成物。
【請求項8】
前記スルホン酸基含有ポリマー(I)と、前記ポリオルガノシロキサン含有ポリマー(II)の合計100質量部に対して、10〜1000質量部のカーボンブラックを更に含有する請求項7に記載のポリマー組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−335925(P2006−335925A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163595(P2005−163595)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】