説明

スルホン酸基導入無定形炭素含有組成物

【課題】スルホン酸基が導入された無定形炭素を使用したプロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、燃料電池用触媒層等をさらに性能向上させる組成物を提供すること。
【解決手段】電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が過剰なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素とを少なくとも含有することを特徴とする組成物を用いること。
前記電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が、スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸基が導入された無定形炭素を含む組成物に関する。
この組成物は、プロトン伝導膜、固体酸触媒、イオン交換膜、燃料電池用触媒層などに利用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、高いエネルギー効率を有し、環境負荷の少ない燃料電池が注目されている。
燃料電池とは、水素やメタノール等の燃料を酸素または空気を用いて電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すものである。
【0003】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、アルカリ型等に分類される。
このうち、陽イオン交換膜を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は、用いる電解質膜を薄くすることにより燃料電池内の内部抵抗を低減できるため高電流で操作でき、小型化が可能である。
このような利点から固体高分子型の研究が盛んになってきている。
【0004】
固体高分子型燃料電池に用いる電解質膜には、燃料電池の電極反応に関与するプロトンについて高いプロトン伝導性が要求される。
【0005】
このようなプロトン伝導性高分子電解質膜材料としては、Nafion(登録商標)(デュポン社製)などのスルホン酸基含有フッ素樹脂が知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0006】
しかし、これらの高分子電解質材料は特性に優れているが、扱いづらいフッ素系の樹脂である上、合成経路が複雑であり、非常に高価であるという問題を抱えている。
【0007】
また、スルホン酸基含有フッ素樹脂は、ガラス転移温度が低く、耐熱性が低い為、動作温度が約80〜100℃と低くなってしまい効率が悪くなるという問題点も抱えている。
【0008】
一方、固体酸触媒は液体酸触媒に比べ分離および回収が容易であり、少ないエネルギーで目的物を作ることができるため、従来から積極的に研究が進められてきた。
【0009】
しかし、性能の高い固体酸触媒を作ることは難しく、より高い性能の固体酸触媒が望まれている。
【0010】
【特許文献1】特表2005−507012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
東京工業大学では、スルホン酸基が導入された無定形炭素(スルホン酸基導入無定形炭素)が燃料電池用電解質膜として優れた性質を持つことを見出し、出願を行っている(特開2004−238311号公報)。
【0012】
このスルホン酸基導入無定形炭素はプロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、また製造コストも低く、高分子電解質膜材料や固体酸触媒として優れた性質を示す。
【0013】
しかも、この物質は水にも溶媒にも難溶な物質であり、安定性に優れている。
【0014】
このように優れた性質を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素であるが、さらに触媒性能やプロトン伝導性能を上昇させることはコストや効率面で多大の効果があり、さらに高い性能を持つ組成が研究されている。
【0015】
本発明の課題は、このスルホン酸基導入無定形炭素組成物の性能をさらに向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が過剰なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素とを少なくとも含有することを特徴とする組成物を作ることで本発明を完成するに至った。
【0017】
これにより、充分な強度を付与した膜や固体酸触媒担持体も併せて提供が可能となる。
【0018】
請求項1に記載の発明は、電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が豊富なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素を含有することを特徴とする組成物である。
【0019】
このような組成物にすることで、プロトン伝導性や触媒性能を飛躍的に上昇させることができる。
これは、π−πスタッキングにより、秩序を持った構造ができるからだと考えられる。
特にプロトン伝導性はプロトンの通り道が三次元的に形成される為、向上し易い。
【0020】
請求項2に記載の発明は、前記電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が、スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物である。
【0021】
フッ素は特に無定形炭素内にある多環式芳香族の電子雲を電子不足にする。
その為、π−πスタッキングし易く、特にプロトン伝導度の向上がみられる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、13C核磁気共鳴スペクトルにおいて、縮合芳香族炭素6員環及びスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出され、また、粉末X線回折において、半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが検出されることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれか一項に記載の組成物である。
【0023】
このような特性を持つ組成物は触媒性能、プロトン伝導性能が高い。
【0024】
請求項4に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物が、X線光電子分光法において、結合エネルギー165eV〜175eVにS2Pの光電子ピークが検出され、結合エネルギー675eV〜695eVにF1sの光電子ピークが検出されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の組成物である。
【0025】
このようなフッ素化されたスルホン酸基が導入された無定形炭素は、無定形炭素内にある多環式芳香族の電子雲をさらに電子不足にする。
その為、π−πスタッキングし易く、特にプロトン伝導度の向上がみられたと考えられる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物の表面における硫黄の含有量が、該無定形炭素の炭素に対する該硫黄の元素比(S/C)で0.01以上であり、該表面におけるフッ素の含有量が、該無定形炭素の炭素に対する該フッ素の元素比(F/C)で0.01以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の組成物である。
【0027】
無定形炭素の表面における硫黄の含有量が元素比(S/C)で0.01以上と高ければ、触媒能やプロトン伝導能に関与するスルホン酸基が多く存在し、プロトン伝導性能が高くなる。
【0028】
一方、無定形炭素の表面におけるフッ素の含有量が元素比(F/C)で0.01以上と高ければ、無定形炭素内にある多環式芳香族の電子雲を著しく電子不足にするため、プロトン伝導性能が高くなり易い。
【0029】
請求項6に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素の粉末X線回折において、炭素(002)面の回折ピークのみが検出されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の組成物である。
【0030】
このような炭素面を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素は、電子雲が発達しており、プロトン伝導性能が高くなり易い。
【0031】
請求項7に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素、及び、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物のスルホン酸密度が、1.6〜8.0mmol/gであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の組成物である。
【0032】
スルホン酸密度が1.6mmol/g未満だと、膜化や固体酸触媒担持を行った時に、プロトン伝導性、触媒性能、および、イオン交換性能が低くなり易い。
【0033】
また、スルホン酸密度が8.0mmol/g以上のスルホン酸基が導入された無定形炭素は導入が難しく、コストが高くなりやすい。
【0034】
この為、スルホン酸密度が1.6〜8.0mmol/gであることが望ましい。
このような組成物は無定形炭素のスルホン酸密度が安定し易い。
【0035】
請求項8に記載の発明は、さらに、樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の組成物である。
【0036】
樹脂を含有することで、膜化や固体酸触媒担持を行った時に機械的な特性を付与することができる。
特に燃料電池用電解質膜として使用する場合は、樹脂を含有させなければ膜にはならず、効果が大きい。
【0037】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の組成物を用いたことを特徴とする燃料電池用電解質膜である。
【0038】
このような組成物を用いたことを特徴とする燃料電池用電解質膜は特にプロトン伝導性に優れている。
【0039】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の組成物を用いたことを特徴とする膜電極接合体である。
【0040】
このような組成物を用いたことを特徴とする部材を用いた膜電極接合体は、特に出力特性に優れている。
【0041】
請求項11に記載の発明は、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の組成物を用いたことを特徴とする燃料電池である。
【0042】
このような組成物を用いたことを特徴とする部材を用いた燃料電池は、安価で高い出力特性を示すことができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が過剰なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素とを少なくとも含有させることにより、プロトン伝導性や触媒性能を飛躍的に上昇させることができる。
【0044】
これにより、プロトン伝導性能の高い燃料電池用電解質膜や固体酸触媒担持体等を作ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0046】
本発明の組成物は、電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が過剰なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素とを少なくとも含有することを特徴とする。
【0047】
その為、最低限必要なのは、(ア)電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素、および、(イ)それよりも電子が過剰なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素である。
【0048】
また、本発明の組成物に添加物を加えても構わない。
添加物には溶媒、有機物、樹脂、金属、無機物等を用いることができる。
【0049】
その他の添加物としてはフタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン、カーボンブラック等の着色顔料、樹脂硬化触媒、チクソトロピー付与剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、分散剤等を挙げることができる。
これらの中でも樹脂を用いると、膜化や固体酸触媒担持が良好にできる。
【0050】
スルホン酸基が導入された無定形炭素は、スルホン酸基を持ち、無定形炭素としての性質を示す物質であればどのようなものでもよい。
【0051】
ここで「無定形炭素」とは、炭素からなる物質であって、ダイヤモンドや黒鉛のような明確な結晶構造を持たない物質をいい、より具体的には、粉末X線回折において、明確なピークが検出されないか、あるいは幅の広いピークが検出される物質を意味する。
【0052】
好適なスルホン酸基導入無定形炭素としては、(1)以下の(A)、(B)及び(C)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素、(2)以下の(A)、(B)及び(C)の性質、並びに以下の(D)及び/又は(E)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素、(3)以下の(C)、(F)、及び(G)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素を例示できる。
(A)13C核磁気共鳴スペクトルにおいて縮合芳香族炭素6員環及びスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出される。
(B)粉末X線回折において半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが少なくとも検出される。
(C)プロトン伝導性を示す。
(D)スルホン酸密度が0.5〜8.0mmol/gである。
(E)スルホン酸基が結合した炭素原子が全炭素原子の3〜20%である。
(F)酸触媒としての機能を持つ。
(G)硫黄含有量が、0.3〜15.0atm%である。
【0053】
上記(B)の性質に関して、検出される回折ピークは(002)面以外のものがあってもよいが、(002)面の回折ピークのみが検出されることが好ましい。
【0054】
上記(C)の性質に関して、プロトン伝導度は特に限定されないが、0.01〜0.20Scm−1であることが好ましく、0.08〜0.11Scm−1であることが更に好ましい。(前記プロトン伝導度は、温度80℃、湿度100%条件下、交流インピーダンス法によって測定される値である。)
【0055】
上記(D)の性質に関し、スルホン酸密度は0.5〜8.0mmol/gであればよいが、1.6〜8.0mmol/gであることが好ましい。
【0056】
上記(G)の性質に関し、硫黄含有量は0.3〜15atm%であればよいが、3〜10atm%であることが好ましい。
【0057】
スルホン酸基導入無定形炭素は、例えば、有機化合物を濃硫酸又は発煙硫酸中で加熱処理することによって製造することができる。
【0058】
この製造方法の概略を図1に示す。
【0059】
有機化合物を濃硫酸又は発煙硫酸中で加熱処理すると、炭化、スルホン化、環同士の縮合が起きる。
この結果、図1に示すようなスルホン酸基導入無定形炭素が生成する。
【0060】
濃硫酸又は発煙硫酸中の有機化合物の加熱処理は、窒素、アルゴン等の不活性ガス気流中、あるいは乾燥空気気流中で行うことがスルホン酸密度の高い無定形炭素を製造する上で必要である。
【0061】
より好ましい処理は、有機化合物を加えた濃硫酸又は発煙硫酸に窒素、アルゴン等の不活性ガス、あるいは乾燥空気を吹き込みながら加熱を行う処理である。
【0062】
濃硫酸と芳香族化合物の反応によって芳香族スルホン酸と水が生成するが、この反応は平衡反応である。
したがって反応系内の水が増えると、逆反応が早く進むため、無定形炭素に導入されるスルホン酸の量が著しく低下する。
不活性ガスや乾燥空気気流中で反応を行うか、反応系にこれらのガスを吹き込みながら反応を行い、水を反応系から積極的に除去することによって高いスルホン酸密度をもつ無定形炭素を合成することができる。
【0063】
加熱処理によって、有機化合物の部分炭化、環化及び縮合などを進行させると共に、スルホン化を起こさせる。
【0064】
従って、加熱処理温度は、前記反応を進行させる温度であれば特に限定されないが、工業的には、100℃〜350℃、好ましくは150℃〜250℃である。
【0065】
処理温度が100℃未満の場合、有機化合物の縮合、炭化が十分でなく、炭素の形成が不十分であることがあり、また、処理温度が350℃を超えると、スルホン酸基の熱分解が起きる場合がある。
【0066】
加熱処理時間は、使用する有機化合物や処理温度などによって適宜選択できるが、通常、5〜50時間、好ましくは10〜20時間である。
【0067】
使用する濃硫酸又は発煙硫酸の量は特に限定されないが、有機化合物1モルに対し、通常、2.6〜50.0モルであり、好適には6.0〜36.0モルである。
【0068】
有機化合物としては、芳香族炭化水素類を使用することができるが、それ以外の有機化合物、例えば、グルコース、砂糖(スクロース)、セルロースのような天然物、ポリエチレン、ポリアクリルアミドのような合成高分子化合物を使用してもよい。
【0069】
芳香族炭化水素類は、多環式芳香族炭化水素類でも単環式芳香族炭化水素類でもよく、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ペリレン、コロネンなどを使用することができ、好適には、ナフタレンなどを使用することができる。
【0070】
有機化合物は、一種類だけを使用してもよいが、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
また、必ずしも精製された有機化合物を使用する必要はなく、例えば、芳香族炭化水素類を含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを使用してもよい。
【0072】
グルコース、セルロース等の天然物や合成高分子化合物を原料とする時は、濃硫酸又は発煙硫酸中での加熱処理の前に、これらの原料を不活性ガス気流中で加熱し、部分炭化させておくことが好ましい。
【0073】
この時の加熱温度は、通常、100〜350℃であり、処理時間は、通常、1〜20時間である。
【0074】
部分炭化の状態は、加熱処理物の粉末X線回折パターンにおいて、半値幅(2θ)が30°の(002)面の回折ピークが検出されるような状態が好ましい。
【0075】
芳香族炭化水素類、又はこれを含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを原料とする場合、濃硫酸又は発煙硫酸中での加熱処理の後、生成物を真空加熱することが好ましい。そうすることにより、過剰の硫酸を除去すると共に、生成物の炭化および固化を促進させ、生成物の収率を増加させることができる。
【0076】
真空排気は排気速度10L/min以上、到達圧力100torr以下の排気装置を用いることが好ましい。
【0077】
好ましい加熱温度は140〜300℃、より好ましい加熱温度は200〜280℃である。
この加熱温度における真空排気の時間は、通常2〜20時間である。
【0078】
電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が豊富なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素の組み合わせは相対的なものである。
すなわち、2種のスルホン酸基が導入された無定形炭素がπ−πスタッキングを起こし易い組み合わせであれば良い。
【0079】
電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素は、以下の電子吸引性の官能基をスルホン酸基が導入された無定形炭素に持たせることで作り出し易い。
【0080】
すなわち、三級アミノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、カルボン酸基、アルデヒド基、エステル基、ハロゲン基、ハロゲン化アルキル基等である。
【0081】
このうち、ハロゲン基、ハロゲン化アルキル基は特に電子不足にする。
ハロゲンの中でも、フッ素は電気陰性度が一番低く、特に電子不足にさせるので良い。
フッ素化処理(化合物にフッ素原子を導入すること)する方法例には、スルホン酸基が導入された無定形炭素に直接フッ素ガスを吹き込むことで反応させることの他、他のフッ素化試薬等を用いる方法等がある。
【0082】
フッ素が導入されたかどうかは、元素分析、X線光電子分光スペクトル、光電子ピークにより確認できる。
【0083】
一方、電子豊富な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素を作り出すこともできる。
すなわち、一級アミノ基、水酸基、アルキルエーテル基、アミド基、フェニル基、アルキル基等の電子供与性の官能基である。
これらを導入することで積極的にπ−πスタッキングできる可能性が高い。
【0084】
本発明の組成物には溶媒も添加することができる。
例えば、水、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキナノンなどのケトン類、ジオキサン、テトラハイドロフランなどのエーテル類、トルエンなどの芳香族炭化水素、クロルベンゼン、トリクレン、パークレンなどのハロゲン化戻化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル等があり、1種または2種以上の混合物として使用することができる。
この中でも特に水を用いることが、経済性および分散性の観点から好ましい。
【0085】
本発明の組成物には前述したように樹脂も好適に添加することができる。
樹脂としては、以下に例示する樹脂を単独又は二種類以上混合して使用することができる。
【0086】
また、これらの樹脂の変性体や共重合体を使用してもよい。
樹脂としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、プロピレン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ビニリデン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、フェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ビニル樹脂、カルボン酸樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂などを例示できるが、これらに限定されない。
【0087】
また、上記のように有機樹脂だけでなく、有機無機ハイブリッド樹脂やシリケート樹脂、水ガラス、各種無機ポリマー等も使用できる。
【0088】
これらの樹脂にスルホン酸基や水酸基を導入した変性体も好適に用いられる。
中でも、水溶性ポリマー、フッ素樹脂、エンジニアリングプラスチックを単独、若しくは変性及び共重合させたものは、ガス遮断性、水蒸気透過性、非電子伝導性、低コスト性等、燃料電池用電解質として重要な性質を備えているので好ましい。
【0089】
特に水溶性ポリマーは、前記した性質に加え、スルホン基導入無定形炭素に親和性が高く、良好な膜やペレットを作るので好ましい。
【0090】
水溶性ポリマーの中でも、ポリビニルアルコールは機械的特性に優れ好ましい。
【0091】
エンジニアリングプラスチックとしては、耐熱性が100℃以上あり、強度が49.0MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上ある樹脂であれば特に限定されない。
【0092】
このような物には以下のような物などがある。
すなわち、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルエーテルニトリルなどが好適に用いられる。
【0093】
この中でも、変性ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルエーテルニトリルは安定性に優れ、特に好ましい。
【0094】
水溶性ポリマーとしては、純水に1wt%以上溶解する物であれば特に限定されない。
このような物には以下のような物がある。
すなわち、ポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール、ポリプロピルアルコール、ポリフェノール、ポリスチリルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポバール酢酸ビニル、ポリビニルアセトアミド、カラギナン、ポリエチレングリコール、デキストリン、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、セルロース系化合物、スターチ、ポリアクリルアミド、カルボン酸系ポリマー、水溶性ナイロン、水溶性ポリイミド等が挙げられる。
【0095】
また、それらの共重合体、誘導体を用いても良く、単独または2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0096】
これらの中でも、ポリビニルアルコールは機械的強度が強い為、膜化や固体酸触媒担持に際して、機械的強度が付与し易く好ましい。
【0097】
フッ素を含有している樹脂としては、フッ素樹脂などを使用でき、より具体的には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニルフルオライド、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素含有モノマーの単独又は共重合体を使用することができる。
前記フッ素含有モノマーと、エチレン、プロピレン、スチレン、各種のアクリレートなどの共重合性モノマーとの共重合体も含まれる。
フッ素を含有することで電解質膜のプロトン伝導性が飛躍的に向上する。
【0098】
スルホン酸基を含有する樹脂としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、プロピレン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ビニリデン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、フェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ビニル樹脂、カルボン酸樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、スチロール樹脂、エンジニアリングプラスチックなどを、硫酸や発煙硫酸などでスルホン酸基変性したものを使用できる。
【0099】
これらを用いることで樹脂にもプロトン伝導性が付与でき、燃料電池用電解質膜で重要である高いプロトン伝導性が付与されることが多い。
【0100】
本発明の組成物を用いて、燃料電池用電解質膜、膜電極接合体、燃料電池を製造する方法の一例を以下に示す。
【0101】
まず、本発明の組成物を支持体上に積層し、その後、乾燥することにより、燃料電池用電解質膜を形成する。
【0102】
さらに必要に応じてその上へ保護フィルムを積層して保存する。
使用時、この支持体、保護フィルムを剥離させた後、燃料電池用電解質膜の両側にガス拡散層および触媒層を含有する電極を形成することにより、膜電極接合体が得られる。
【0103】
膜電極接合体の両側にセパーレタを配置することにより、燃料電池を作製することが出来る。
【0104】
また、本発明における組成物によって形成された燃料電池用電解質層の好適な厚さは、通常0.1〜500μm程度であるが、より好ましくは10μm〜150μmである。
形成された燃料電池用電解質膜が厚すぎると抵抗値が大きくなり、薄すぎると電解質膜の物理特性が悪くなってしまう為である。
【0105】
本発明の組成物を用いて、性能の高い固体酸触媒担持物を製造する方法の例として、以下の方法を示す。
【0106】
例えば、樹脂等のバインダーを混ぜた本発明の組成物に、膜化やペレット化をして固体酸触媒担持体を作ることができる。
この時、本発明の組成物を使用することで均一に膜化やペレット化が可能となり、触媒性能が向上し易くなるといった利点がある。
【0107】
また、他の例としては、本発明の組成物をスプレーで、アルミナ等の被担持物質に吹きつけ、乾燥させることで固体酸触媒を担持しても良い。
この時、樹脂等のバインダーを少量混ぜると良好に担持されることが多い。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0109】
(製造例1)
ナフタレンを濃硫酸(96%)に加え、250℃で15時間加熱した後、過剰の濃硫酸を250℃での減圧蒸留によって除去し、黒色粉末を得た。
この黒色粉末を300mlの蒸留水で洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸が元素分析の検出限界以下になるまでこの操作を繰り返した後、処理を行いスルホン酸基が導入された無定形炭素(化合物1)(電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素よりも電子が豊富なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素)を得た。
スルホン酸密度は4.5mmol/gであった。
【0110】
(製造例2)
ナフタレンを濃硫酸(96%)に加え、250℃で15時間加熱した後、過剰の濃硫酸を250℃での減圧蒸留によって除去し、黒色粉末を得た。
この黒色粉末を300mlの蒸留水で洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸が元素分析の検出限界以下になるまでこの操作を繰り返した。
【0111】
次に、フッ素ガスを吹き込み、フッ素原子を導入することにより、フッ素化されたスルホン酸基が導入された無定形炭素(化合物2)(電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素)を得た。
スルホン酸密度は4.5mmol/gであった。
【0112】
<実施例1>
製造例1〜2で得られた化合物1および化合物2、樹脂(ポリフルオロスルホニックアシッド)を用い、表1に示す組成の組成物Aを調製した。
【0113】
【表1】

【0114】
組成物Aを、溶媒(水:イソプロパノール=4:1)を用いて、固形分が6重量%になるように希釈し、その後、ボールミルで混錬し、その後、125℃で乾燥し、その後、放冷させることにより、膜厚が100μmの燃料電池用電解質膜を得た。
【0115】
<比較例1>
製造例1で得られた化合物1、および、樹脂(ポリフルオロスルホニックアシッド)を用い、表1に示す組成の組成物Bを調製した。
【0116】
組成物Bを、溶媒(水:イソプロパノール=4:1)を用いて、固形分が6重量%になるように希釈し、その後、ボールミルで混錬し、その後、125℃で乾燥し、その後、放冷させることにより、膜厚が100μmの燃料電池用電解質膜を得た。
【0117】
<比較例2>
製造例2で得られた化合物2、および、樹脂(ポリフルオロスルホニックアシッド)を用い、表1に示す組成の組成物Cを調製した。
【0118】
組成物Cを、溶媒(水:イソプロパノール=4:1)を用いて、固形分が6重量%になるように希釈し、その後、ボールミルで混錬し、その後、125℃で乾燥し、その後、放冷させることにより、膜厚が100μmの燃料電池用電解質膜を得た。
【0119】
<評価>
(1)機械物性
燃料電池用電解質膜を手で折り曲げ、膜が切断されないものを○、切断されるものを×とし、結果を表2に示した。
(2)プロトン伝導性
燃料電池用電解質膜を純水に浸漬した後、NF製インピーダンスアナライザー(FRA5080)を用いてプロトン伝導性を測定した。
得られたCole−Coleプロットから抵抗値を読み取り、プロトン伝導度を算出し、結果を表2に示した。
【0120】
【表2】

【0121】
なお、プロトン伝導度の算出式として、
プロトン伝導度σ(S/cm)=膜厚l(cm)/{膜抵抗R(Ω)×断面積S(cm)}を用いた。
【0122】
実施例1のように電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が豊富なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素とを少なくとも含有することを特徴とする組成物を用いた時のプロトン伝導度は0.14S/cmと高い値を示した。
【0123】
一方、比較例1のように、電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素よりも電子が豊富なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素のみを用いた場合は、プロトン伝導度が0.07S/cmとなり、実施例1よりも低いプロトン伝導度となった。
【0124】
また、比較例2のように、電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素のみを用いた場合は、プロトン伝導度が0.09S/cmとなり、実施例1よりも低いプロトン伝導度となった。
【0125】
上記の結果は通常の予想に反する。
すなわち、プロトン伝導度は通常、酸の強さに比例する。
これに従うと、フッ素原子を含有しているスルホン酸基が導入された無定形炭素を多く含む比較例2は、実施例1および比較例1に比べ、酸が強く、プロトン伝導性が一番高くなるはずである。
【0126】
しかしながら、実施例1のプロトン伝導性が意外にも一番高かったことは、π―πスタッキングが形成されてスルホン酸基が並び、その結果、プロトンの通り道が良好に形成されたためだと考えられる。
【0127】
電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が豊富なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素とを少なくとも含有することを特徴とする組成物を用いることによって、高いプロトン伝導性が得られることがわかった。
【0128】
高いプロトン伝導性は燃料電池用触媒層にも必要とされ、本発明を用いることで出力の高い触媒層を作れることが容易に示唆される。
【0129】
また、高いプロトン伝導性が得られるということは、酸として働くプロトンが良好に放出されることを意味する。
そのため固体酸触媒担持体やイオン交換体としての能力も高いことも、容易に示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の組成物は、固体酸として機能し、プロトン伝導性に優れ、また、イオン交換容量も高いことから、固体酸触媒、プロトン伝導膜、イオン交換膜などとして利用できる。更に、本発明の組成物を利用して燃料電池用電解質膜を作製し、これを用いて膜電極接合体(MEA)や燃料電池を作製することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】スルホン酸基導入無定形炭素含有組成物の製造方法の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素と、それよりも電子が豊富なπ電子雲を持つスルホン酸基が導入された無定形炭素を含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記電子不足な電子雲を持つスルホン酸基が、スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、13C核磁気共鳴スペクトルにおいて、縮合芳香族炭素6員環及びスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出され、また、粉末X線回折において、半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが検出されることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物が、X線光電子分光法において、結合エネルギー165eV〜175eVにS2Pの光電子ピークが検出され、結合エネルギー675eV〜695eVにF1sの光電子ピークが検出されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物の表面における硫黄の含有量が、該無定形炭素の炭素に対する該硫黄の元素比(S/C)で0.01以上であり、該表面におけるフッ素の含有量が、該無定形炭素の炭素に対する該フッ素の元素比(F/C)で0.01以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素の粉末X線回折において、炭素(002)面の回折ピークのみが検出されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素、及び、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のフッ素化物のスルホン酸密度が、1.6〜8.0mmol/gであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
さらに、樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の組成物を用いたことを特徴とする燃料電池用電解質膜。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の組成物を用いたことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の組成物を用いたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−66221(P2008−66221A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245315(P2006−245315)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】