説明

スルーアンカ及びシートベルト装置

【課題】現在の強度を維持したまま、今以上の軽量化を図る。
【解決手段】ボルト挿通孔2aとウェビング挿通孔2bを設けた金属板2の前記ウェビング挿通孔2bの周囲を樹脂で覆ったスルーアンカ1である。前記金属板2の外周部とボルト挿通孔2aの周囲部にフランジ2cを形成する。このフランジ2cの少なくとも一部を、前記樹脂で覆った樹脂モールド部3に対して露出させる。車両に乗車した乗員が使用する際には、ウェビング挿通孔2bに挿通されるウェビング13が前記金属板2に接触しないように、前記樹脂モールド部3が形成されている。
【効果】一枚板の場合よりも薄い金属板で所定の強度を得ることができ、スルーアンカの軽量化に加えて樹脂の使用量も少なくでき、更なる軽量化が図れる。また、横方向から衝撃が加わって乗員の頭部がぶつかった場合も、フランジ部が塑性変形して衝撃を吸収するので、安全性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員拘束用のウェビングの方向を変えるために車体に取り付けられるスルーアンカ、及びこのスルーアンカを備えたシートベルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衝突時、乗員が座席から飛び出してフロントガラス、ハンドル、ダッシュボード等に激突しないように、車両にはシートベルト装置が設置されている。
【0003】
このうち、例えば運転席や助手席用のシートベルト装置では、乗員を拘束するウェビングの一端側は、座席のセンターピラー側の床に取り付けられたリトラクターに固定され、巻き取りが可能なようになされている。また、他端側は、センターピラーの上部に揺動自在に取り付けられたスルーアンカを通して方向を変え、前記リトラクターの近傍に取り付けられたアンカープレートに固定されている。
【0004】
乗員へのウェビングの装着は、アンカープレートとスルーアンカの間のウェビング中間部に移動自在に取り付けられたタングを、座席のリトラクターとは反対側側方に設置されたバックルに係合することで行う。この装着に際し、ウェビングはリトラクターから引出される。
【0005】
このようなシートベルト装置の構成要素であるスルーアンカは、ウェビングの引き出しや巻き取りを円滑に行うために、ウェビング挿通孔に樹脂等の低摩擦材を被覆している(例えば特許文献1の段落0003の従来技術の説明、特許文献2参照)。
【0006】
近年の燃費向上手段の一つとして、車両の重量軽減が挙げられるが、この重量軽減は車体だけでなくあらゆる構成部品にも及び、シートベルト装置も例外ではない。
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載された従来のスルーアンカの場合、スルーアンカは一枚板の金属板により形成され、必要な強度は金属板の厚さに頼っているので、現在の強度を維持したまま今以上の軽量化を図ることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−170807号公報
【特許文献2】特開2001−1861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の一枚板の金属板により形成されるスルーアンカの場合、現在の強度を維持したまま今以上の軽量化を図ることが難しいという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明では、現在の強度を維持したまま、今以上の軽量化を図ることができる本体構造とすることで、前記課題を解決するものである。
【0011】
すなわち、本発明のスルーアンカは、
ボルト挿通孔とウェビング挿通孔を設けた金属板の前記ウェビング挿通孔の周囲を樹脂で覆ったスルーアンカであって、
前記金属板の外周部とボルト挿通孔の周囲部にフランジを形成し、かつ、このフランジの少なくとも一部を、前記樹脂で覆った樹脂モールド部に対して露出させたことを最も主な特徴としている。
【0012】
本発明では、金属板の外周部とボルト挿通孔の周囲部にフランジを形成したので、フランジの作用で一枚板の場合よりも薄い金属板で所定の強度を得ることと、樹脂の使用量を少なくすることができ、スルーアンカの軽量化が図れる。
【0013】
また、本発明では、フランジの少なくとも一部は、樹脂で覆った樹脂モールド部に対して露出させているので、緊急時、ボルト挿通孔の周囲のフランジが塑性変形してジャミングの防止効果が期待できる。また、横方向から衝撃が加わって乗員の頭部がぶつかった場合も、フランジ部が塑性変形して衝撃を吸収する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、金属板の外周部とボルト挿通孔の周囲部にフランジを形成するので、一枚板の場合よりも薄い金属板で所定の強度を得ることができる。従って、スルーアンカの軽量化に加えて樹脂の使用量も少なくでき、更なる軽量化が図れる。
【0015】
また、本発明では、樹脂で覆った樹脂モールド部に対してフランジの少なくとも一部が露出しているので、緊急時、ボルト挿通孔の周囲のフランジが塑性変形してジャミングに対する防止効果が期待できる。また、横方向から衝撃が加わって乗員の頭部がぶつかった場合も、フランジ部が塑性変形して衝撃を吸収するので、安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のスルーアンカを示した図で、(a)は正面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】本発明のスルーアンカの正面側から見た斜視図である。
【図3】本発明のスルーアンカの他の取り付け状態を示した図1(b)と同様の図である。
【図4】本発明のスルーアンカの他の例を示した図1(b)と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来の一枚板の金属板により形成されるスルーアンカの場合、現在の強度を維持したまま今以上の軽量化を図ることが難しい。
【0018】
本発明は、金属板の外周部とボルト挿通孔の周囲部にフランジを形成し、かつ、このフランジの少なくとも一部を、前記樹脂で覆った樹脂モールド部に対して露出させることで、前記の課題を解決するものである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を、添付図面を用いて説明する。図1〜図3は本発明のスルーアンカを示した図である。なお、以下の説明で「上」「上側」とは車両の天井方向を指し、「下」「下側」とは車両の床方向を指す。
【0020】
1は本発明のスルーアンカであり、例えばセンターピラー11の上部にスルーアンカ1をボルト12で取り付けるためのボルト挿通孔2aを金属板2の上半部に設けている。また、金属板2の下半部にはウェビング13を通すウェビング挿通孔2bを設けて、このウェビング挿通孔2bの周囲を樹脂で覆っている。以下、この樹脂で覆った部分を樹脂モールド部3という。
【0021】
金属板2の上半部にボルト挿通孔2aを、下半部にウェビング挿通孔2bを設ける構成は、従来のスルーアンカと同じであるが、本発明のスルーアンカ1は、前記金属板2の外周部と前記ボルト挿通孔2aの周囲部にフランジ2cを形成している。
【0022】
すなわち、本発明では、金属板2の外周部とボルト挿通孔2aの周囲部にフランジ2cを形成することで、従来の一枚板の金属板を採用する場合に比べて、金属板2の厚みを薄くしても同等の強度を得ることができる。ちなみに、従来の一枚板の金属板の場合の厚みは、通常3.2〜3.5mmであるが、本発明の場合は2.6mm程度で従来と同等の強度を得ることができる。
【0023】
従って、従来と同様にウェビング13にダメージを与えることなく、かつ、緊急時にもウェビング13を支持して乗員を保護しつつ、重量の軽減とコストダウンを図ることができる。
【0024】
加えて、金属板2の厚みが薄くなる分、樹脂モールド部3に必要とする樹脂の使用量も少なくなるので、この分でも軽量化とコストダウンが図れる。
【0025】
また、本発明では、前記フランジ2cを樹脂モールド部3に対して少なくとも一部を露出させていることも大きな特徴である。
【0026】
このようにフランジ2cを樹脂モールド部3に対して露出させておくことにより、緊急時、ボルト挿通孔2aの周囲のフランジ2cが塑性変形することで、ジャミングに対する防止効果が期待できる。
【0027】
さらに、横方向から衝撃が加わって乗員の頭部がスルーアンカ1にぶつかった場合も、フランジ2cが塑性変形して衝撃を吸収するので、より安全性が向上する。
【0028】
ところで、スルーアンカは、図1(b)に示すように鉛直面に取り付けられる場合に限らず、図3に示すように、傾斜面に取り付けられる場合もある。
【0029】
従って、本発明では、スルーアンカ1を何れの状態で取り付けた場合も、車両に乗車した乗員が使用する際には、ウェビング挿通孔2bに挿通されるウェビング13と金属板2との間に隙間が形成されるように、前記樹脂モールド部3を形成する。この隙間は、平常使用時に形成されるように設定されていれば良く、実際の使用時などに偶発的にウェビング13が金属板2に接触することを妨げるものではない。これが本発明のシートベルト装置である。
【0030】
前記本発明のスルーアンカ1において、金属板2のフランジ2cの形成手段は、特に限定されないが、絞り加工により形成する場合は、高速度で生産することができる。
【0031】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0032】
すなわち以上で述べたスルーアンカ及びこのスルーアンカを備えたシートベルト装置は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0033】
図1及び図2の実施例では、金属板2の外周部とボルト挿通孔2aの周囲部にのみフランジ2cを形成したものを示したが、図4に示すように、ウェビング挿通孔2bの周囲部に小さなフランジ2dを形成しても良い。
【0034】
但し、この場合は、使用時に、ウェビング13が金属板2のどこかに接触することがない、すなわち、本シートベルト装置を車両に取り付けた初期状態で、ウェビング13は樹脂モールド部3でのみ接触し、樹脂モールド部3のどこかで小さなフランジ2dが露出することがないようにしておくことは言うまでもない。この場合、実際に使用する際に偶発的にウェビング13が金属板2に接触することを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 スルーアンカ
2 金属板
2a ボルト挿通孔
2b ウェビング挿通孔
2c フランジ
3 樹脂モールド部
13 ウェビング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト挿通孔とウェビング挿通孔を設けた金属板の前記ウェビング挿通孔の周囲を樹脂で覆ったスルーアンカであって、
前記金属板の外周部とボルト挿通孔の周囲部にフランジを形成し、かつ、このフランジの少なくとも一部を、前記樹脂で覆った樹脂モールド部に対して露出させたことを特徴とするスルーアンカ。
【請求項2】
前記金属板のフランジは絞り加工により形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のスルーアンカ。
【請求項3】
車両に乗車した乗員が使用する際には、ウェビング挿通孔に挿通されるウェビングと前記金属板との間に隙間が形成されるように、前記樹脂モールド部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスルーアンカを備えたシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91446(P2013−91446A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235285(P2011−235285)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
【復代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
【復代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
【Fターム(参考)】