説明

スレッド及びそれを用いた偽造防止用紙

【課題】一見しただけではどのようなセキュリティ技術が適用されているか不明で偽変造に対する大きな抑止力を持ち、かつ機械での真贋判定適性のあるスレッドとそれを用いた偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】表裏の面をもつ糸状物として、その表裏最表面に形成された両面側の接着層を介して基材用紙の紙層内に抄き込まれるスレッドにおいて、少なくとも光透過性を持つベースフィルムと、前記ベースフィルムの片側の面又は両側の面に任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣類、有価証券類、あるいはパスポートや預貯金通帳等冊子等、偽造防止が要望される分野に好適なスレッド(ストリップ、フィラメント、糸状物、安全帯片、等とも称される)と、そのセキュリティスレッドを抄き込んだ「スレッド入り紙」でなる偽造防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムに様々な加工を施して幅1〜3mm程の糸状にし、紙層内にこの糸状物を抄き込んだ「スレッド入り紙」と呼ばれる偽造防止用紙は良く知られている。透かし用紙同様、このスレッド入り紙を光にかざして見ると紙の中に細い糸状のものが入っているのが確認できる。また、特定の波長の光を照射することで発色あるいは発光してその存在が確認できる。このスレッド入り紙は製造に極めて高度な(抄造する)技術を必要とするので偽造防止に大きな効果があり、各国の紙幣などに多く使用されている。
【0003】
このスレッド入り紙には大きく分けて2種類あり、その一つはスレッドが用紙内部に抄き込まれて用紙表面に露出しないタイプであり、もう一つはスレッドの一部が用紙表面に間欠的に露出した「窓空きスレッド入り紙」(ウインドウスレッド)と呼ばれるものである。いずれも公知の製造方法で製造することが可能であり、前者のスレッドが表面に露出しない用紙を製造する方法としては、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3にその製造方法が開示されており、また、「窓空きスレッド入り紙」を製造する方法としては、例えば特許文献4、特許文献5、特許文献6にその製造方法が開示されている。
【0004】
紙の中に入れるスレッドに様々な加工を施すことにより、より一層偽造防止効果を高めることが可能であり、スレッドには多種多様な構成が提案されている。例えば、色材を添加または塗布したプラスチックフィルムを糸状にした着色スレッド、ホログラム加工したプラスチックフィルムを糸状にしたホログラムスレッド、金属材料を蒸着したプラスチックフィルムを糸状にした金属蒸着スレッド、磁気インクを塗布したプラスチックフィルムを糸状にした磁気スレッド、紫外線の照射で蛍光発色するスレッド、サーモクロミック剤を塗布したスレッド、マイクロ文字入りスレッド等々が実用化されている。
【0005】
そのうちのマイクロ文字入りスレッドは、例えば特許文献7に開示されている様に、プラスチックフィルムに直接箔押しする方法や、真空蒸着装置においてマスク若しくはテンプレートを使用して選択的に金属化をする方法や、全面を金属化した表面を腐食(エッチング)により部分的に非金属化する方法(パスター加工、あるいはデメタライズ加工と称される)や、あるいは全面を金属化した表面をレーザー印字にてマイクロ文字を印字することでその部分金属のみをレーザーにより飛ばす方法で製造できることが知られている。また、特許文献8には、このマイクロ文字を表裏から見ても逆向きでなく同じ向きに確認できる両面デメタライズドスレッドとしてのより高度なセキュリティ技術が開示されている。なお偽造防止性能を考慮した場合、一般に、この文字は非常に小さいものが採用され、本発明では、特に断りの無い限り、単に文字のみならず模様も含めてマイクロ文字と総称する。
【0006】
しかしながら、上記したマイクロ文字をデメタライズ加工で形成したスレッドに関しても、微細加工技術の向上により一見しただけでは真偽判定できない程の再現性のよい金属箔が出回っている。そのため、紙幣(銀行券)やパスポート等の偽変造に対する大きな抑止力と真贋判定適性が求められる用途では、セキュリティスレッドには通常磁気読み取り検証のための磁性剤が導入されている。磁性体であるγ酸化鉄を配合したインキで、磁気
量からその印字体型を機械読み取りしたり、あるいは、磁気センサーにより磁気の有無を検出することにより真偽判定する形で使用されている。
【0007】
ところで、一般的な磁性剤は黒若しくは茶色に着色しており、スレッドに適用した場合自由な色をつけることができず、磁気層が認識されてしまう問題があった。また、前述したマイクロ文字を形成する金属薄膜の層を、通常のアルミニウムに替えて、例えばニッケル−コバルトのような磁性体の蒸着膜にすることで磁気情報を偽造防止手段とすることが出来るが、この場合も自由な着色は困難で、別に隠蔽層を形成する必要があり、コスト的にも製造技術的にも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭51−130309号公報
【特許文献2】特開平02−169790号公報
【特許文献3】特公平05−40080号公報
【特許文献4】特公平05−85680号公報
【特許文献5】米国特許第4462866号公報
【特許文献6】特開平06−272200号公報
【特許文献7】特公平06−062030号公報
【特許文献8】WO2007−007784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、カラーコピー機やスキャナーの性能向上に伴い、素人でも精巧な偽造品を作ることが出来るようになっている。また、有価証券の偽造事件が多発しており、偽造を未然に防止する技術が求められている。このため、この従来には存在しなかった偽変造を防止するとともに、このような偽変造品を容易に判断できるような偽変造防止技術の開発が必要とされていた。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するものであり、一見しただけではどのようなセキュリティ技術が適用されているか不明で偽変造に対する大きな抑止力を持ち、かつ機械での真贋判定適性のあるスレッドとそれを用いた偽造防止用紙を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る発明は、表裏の面をもつ糸状物として、その表裏最表面に形成された両面側の接着層を介して基材用紙の紙層内に抄き込まれるスレッドにおいて、少なくとも光透過性を持つベースフィルムと、前記ベースフィルムの片側の面又は両側の面に任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とするスレッドである。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記ベースフィルムの片側の面に、少なくとも
、文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された1以上の金属薄膜層と、該金属薄膜層のそれぞれの上にそれぞれの金属薄膜層と同じパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とする請求項1に記載するスレッドである。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記ベースフィルムの片側の面に加えて反対側の面に、少なくとも、文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された1以上の金属薄膜層と、該金属薄膜層のそれぞれの上にそれぞれの金属薄膜層と同じパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とする請求項1または2に記載するスレッドである。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記べースフィルムの面の片側と反対側との間で、前記パターンが同様であることを特徴とする請求項3に記載するスレッドである。
【0015】
また、本発明の請求項5に係る発明は、前記ベースフィルムの面の片側と反対側との間で、前記パターンが、大きさ、配置、又は向きのいずれかが相違していることを特徴とする請求項3に記載するスレッドである。
【0016】
次に、本発明の請求項6に係る発明は、前記ベースフィルムの面の片側で、前記着色が同一色であることを特徴とする請求項3に記載するスレッドである。
【0017】
また、本発明の請求項7に係る発明は、前記ベースフィルムの面の少なくとも片側で、前記着色がパターンによって異なることを特徴とする請求項3に記載するスレッドである。
【0018】
また、本発明の請求項8に係る発明は、前記ベースフィルムの面の片側と反対側の両方とも、前記着色が同一色であることを特徴とする請求項3に記載するスレッドである。
【0019】
また、本発明の請求項9に係る発明は、前記ベースフィルムの面の片側と反対側で互いに、前記着色がパターンによって異なることを特徴とする請求項3に記載するスレッドである。
【0020】
次に、本発明の請求項10に係る発明は、前記ベースフィルムの片側の面に回折構造形成層が設けられ、該回折構造形成層を介して金属薄膜層が形成され、該金属薄膜層の上に文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とする請求項1に記載するスレッドである。
【0021】
次に、本発明の請求項11に係る発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載するスレッドが、紙の中にその全体が埋設される形態で又はその表面が一部紙の表面に露出する形態で、用紙となる紙の中に抄き込まれていることを特徴とする偽造防止用紙である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。即ち、特殊な用紙抄造技術と、白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなり任意の色に着色された磁気層を有するスレッド技術が組み合わされることで、反射光だけではなく透過光で透かして見ても、磁気層を外からは目視で確認できなくすることができ、偽変造を行なう者が気づきにくく、一見しただけではどのようなセキュリティ技術が適用されているか不明な偽造防止用紙が作製可能であり、且つ、磁気の有無を機械的に検出することで確実に真偽判定が可能とな
る。つまり、本発明のスレッドを用いることで、偽変造に対する大きな抑止力を持ち、かつ機械での真偽判定適性のあ偽造防止用紙を提供することが可能となる。
【0023】
また、本発明を金属蒸着スレッドと組み合わせ、磁気層を構成する樹脂層をデメタライズ加工のマスクインキとして用いることにより、印刷効果と磁気層を有するマイクロ文字入りスレッドが作成可能であり、意匠性に優れた偽変造防止機能と真偽判定性を得るものである。さらに、磁気層を構成する樹脂層を金属蒸着層付のホログラム層スレッドのデメタライズ加工に用いるマスク層あるいは印刷着色層として構成することで、更に高度な偽造防止効果と真偽判定適性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のスレッドを埋設した偽造防止用紙の一実施形態例の斜視模式図である。
【図2】図1に示した本発明のスレッドの一実施形態例を説明する拡大断面模式図である。
【図3】本発明に係る、埋め込みデメタライズ加工スレッドの一実施形態例の断面模式図である。
【図4】本発明に係る、金属蒸着層付のホログラム層スレッドの一実施形態例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のスレド及びそれを用いた偽造防止用紙を、一実施形態に基いて以下に説明する。なお、同一の機能を持つ部分に関してはその実施形態に関わらず同一の符合を用いて以下説明する。また、以下の説明において、本発明のスレッドは表裏の面をもつ糸状物として、基材用紙の紙層内に抄き込まれるが、その表裏は用紙の表裏と同じ方向であるとして説明する。
【0026】
本発明のスレッド(100)は、図1及び図2に示すように、表裏の面をもつ糸状物として、その表裏最表面に形成された両面側の接着層(31)および(32)を介して基材用紙の表側の紙層(41)と裏側の紙層(42)の内側に抄き込まれる。このスレッド(100)は、図2に示すように、少なくとも光透過性を持つベースフィルム(10)と、このベースフィルム(10)の片側の面又は図示しない両側の面に磁性層(20)を備え、この磁性層(20)は白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなり、色材と混ぜることにより任意の色に着色することが出来る。スレッドの表裏最表面には、用紙抄造時にスレッドに植物繊維等に対する結合力を付与するための接着層(31)および(32)を設ける。スレッドは所望する幅にスリットして、抄き込み用のスレッドとし、紙層(41、42)の間に抄き込まれる。抄き込み用のスレッドの幅は、通常0.5mm〜10mmとする。
【0027】
本発明で用いる白色又は無色の磁性体としては、公知の白色又は無色の磁性体を使用することが出来る。例えば、特開平3−274278号公報に開示されている、鉄などの磁性金属やこれらの合金からなる磁性粉体を核として、その表面を銀などの金属膜で被覆した白色磁性粉体が使える。また、酸化チタン粒子粉末を核として、例えば、特開平5−294626号公報に開示されているように、その表面に磁性酸化鉄を化学的に析出させるか、あるいは、特開2003−2658号公報に開示されているように、その表面に磁性酸化鉄を物理的に的に固着させた白色磁性粉体が使える。更に、特開平5−294626号公報に開示されている、磁性酸化鉄粒子粉末の表面にスズ酸化物あるいは水酸化物を被着させた透明磁性粉体が使える。
【0028】
上記した白色又は無色の磁性体は、バインダー樹脂と溶剤及び色材と混ぜることにより任意の色に着色したインキあるいはコート剤として調整し、光透過性を持つベースフィルムの片側の面又は両側の面にグラビア印刷法等公知の塗布手法を用いて適用され、磁気層として形成される。用いる磁性体粉体の粒径としては、印刷、塗布適性と得られる磁気層の磁気特性から、平均粒径0.1μm〜2.0μm好ましくは0.2μm〜1.0μmのものが使用できる。バインダー樹脂に対する磁性体粉体の添加量および形成する磁気層の厚みは、適用する偽造防止用紙の使用目的及び使用する磁気センサーの感度に対応して適宜調整可能である。磁気層の保磁力としては、検出に用いる磁気センサーの性能にも依存するが、市販の機器の性能から、少なくとも5KA/m以上、好ましくは50KA/m以上とすることが望ましい。
【0029】
スレッド基材としての光透過性を持つベースフィルムは、スレッドが紙層間に抄き込まれた偽造防止用紙とか偽造防止印刷物の状態では、外観からその存在を視認できないことが好ましく、無彩色の基材が好ましい。後に述べる光学的な視覚効果との複合を考慮すると、厚みが安定しており、機械的に強く柔軟性や可とう性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いるのが一般的である。しかし、これに限るものではなくセロファン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート等の高分子材料からなるフィルムや、サンドブラスト加工を施した半透明のフィルムも必要に応じて用いられる。スレッド基材としては厚さが3.5μm〜50μmのものが使用できるが、厚みが薄すぎても各種の加工が困難となり、厚すぎてもスレッドを紙層間に抄き込んだ場合に部分的に紙の厚みが増大し種々の問題点を引き起こすため、ベースフィルムの厚みは5μm〜25μmとすることが好ましい。
【0030】
バインダー樹脂としては、白色又は無色の磁性体の特徴を生かすために透明樹脂が好ましく使用される。透明樹脂には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、および感光性樹脂が含まれる。透明樹脂には、必要に応じて、その前駆体である、放射線照射により硬化して透明樹脂を生成するモノマーもしくはオリゴマーを単独で、または2種以上混合して用いることができる。これを適当な溶剤を用いて予めバインダー樹脂溶液として調整し、これに上記した磁性体粉体を添加して公知の方法で混合することでインクあるいはコート剤として調整することができる。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ブチラール樹脂、スチレンーマレイン酸共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂、環化ゴム系樹脂、セルロース類、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリイミド樹脂等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、およびこれらを変性したもの等が挙げられる。
【0032】
接着層としては、用紙抄造時にスレッドに植物繊維等に対する結合力を付与する性質を有する澱粉系、メチルセルロース系、カルボキシル化セルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系、ビニルエチルエーテル−無水マレイン酸共重合体系、ポリアクリル酸系、ポリエチレンオキサイド系等の樹脂や、抄紙機のドライヤーで軟化若しくは溶融して、用紙と強固に接着する性能を有した周知の接着剤が使用できる。これらの接着剤としては、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル系、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂系、ポリアクリル酸エステル樹脂系等の公知の接着剤を単独であるいは前記した樹脂と組み合わせて、水系若しくは溶剤系の塗料として、ロールコーターやグラビアコーター等の周知の塗工機を用いて、スレッドの両最表面に塗布することにより形成できる。その塗布量は、通常0.1〜10g/m2(乾燥質量換算)とする。
【0033】
次に、図3は、本発明に係る、埋め込みデメタライズ加工スレッドの一実施形態例の断面拡大模式図である。図3(a)に示すように、このスレッド加工材は、通常ウエッブ状のベースフィルム(10)の片側の面の全面に、たとえばアルミニウム等の金属を蒸着した金属薄膜層(51)が施され、その上にパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層(21)が施され、その反対側の面の全面に、金属薄膜層(52)が施され、その上にパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層(22)が形成されている。この任意の色に着色された磁性層(21,22)はマイクロ文字のパターンとして印刷されている。
【0034】
ここで、金属薄膜層(51、52)は、適度な遮光性や光反射性を得るために施すもので、ベースフィルムへの加工性やコストの面から、アルミニウムの真空蒸着によることが一般的である。なお、これに限定されず、本発明に係る金属薄膜層の成膜は、スパッタリング法等の他の成膜技術を使用し、アルミ以外の他の金属を用いてもよい。金属薄膜層の厚みは通常25〜100nmが適切である。
【0035】
また、任意の色に着色された磁性層(21、22)は、前述した、白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなり、色材と混ぜることにより任意の色に着色したインクを適当な印刷技術を用いて所望のパターン状に形成したものである。オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等、印刷技術を適宜選択することにより、所望するパターンを精度良く容易に形成できる。通常この印刷厚味は、0.5μm〜3.0μmである。
【0036】
ここで、任意の色に着色された磁性層(21、22)は、ベースフィルムの面の片側と反対側との間で、パターンが同様であってもよい。また、ベースフィルムの面の片側と反対側との間で、パターンが、大きさ、配置、又は向きのいずれかが相違していてもよい。また、ベースフィルムの面の片側で、その着色が同一色であってもよい、また、ベースフィルムの面の少なくとも片側で、その着色がパターンによって異なるていてもよい。また、ベースフィルムの面の片側と反対側の両方とも、その着色が同一色であってもよい。さらに、ベースフィルムの面の片側と反対側で互いに、その着色がパターンによって異なっていてもよい。
【0037】
次に、図3(a)に示したスレッド加工材を、アルカリ性水溶液や酸性水溶液に浸漬し、任意の色に着色された磁性層(21、22)をマスクとして活用して、金属薄膜層をエッチングしてデメタライズ加工する。この場合、マスクとして利用する任意の色に着色された磁性層の着色剤やバインダー樹脂の材料としては、アルカリ又は酸のエッチング液に侵され難いものを選択する必要がある。金属薄膜層と磁性層との界面にエッチング液が浸透してしまうとパターニング精度に悪影響する。そこで、これを予防するためには、この金属薄膜層と磁性層との間の密着性が良い材料を選択し、成膜もイオンアシスト等密着性向上につながる手法を適宜選択するのが好ましい。図3(b)に示すように、磁性層以外の部分の金属薄膜層が溶解され、水洗、乾燥することで、ベースフィルムの両面に、少なくとも、文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された金属薄膜層と、該金属薄膜層のそれぞれの上にそれぞれの金属薄膜層と同じパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層とを備えたスレッドベースが加工される。その後、図3(c)に示すように、このスレッドベースの表裏最表面に、用紙抄造時にスレッドに植物繊維等に対する結合力を付与するための接着層(31)および(32)を設ける。これを、マクロスリッターを使用してスリットし、ボビンに巻き取ることで、図3(d)に示すように、本発明の埋め込みデメタライズ加工スレッド(100)とすることができる。
【0038】
図4は、本発明をウィンドウスレッドに適用した、金属蒸着層付のホログラム層スレッドの一実施形態例の断面模式図である。ベースフィルム(10)の片側の面に回折構造形成層(60)が設けられ、該回折構造形成層を介して金属薄膜層(50)が形成され、該金属薄膜層の上に文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層(21)とを備え、さらに、その表裏最表面に、用紙抄造時にスレッドに植物繊維等に対する結合力を付与するための接着層(31)および(32)を設ける。これを、マクロスリッターを使用してスリットし、ボビンに巻き取ることで本発明のウィンドウスレッドに適用する金属蒸着層付のホログラム層スレッドとすることができる。なお、回折構造形成層は微細加工したスタンパーをベースフィルム表面に形成したホログラム形成層等にエンボスするなどの公知の方法でベースフィルムの表面に形成可能である。ウィンドウスレッドに適用した場合に特に効果的であるが、その存在が知られてしまうため、本発明でのパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層との組み合わせによって高い偽造防止効果が発揮される。
【0039】
次に、本発明の偽造防止用紙の製造方法の一例を説明する。
【0040】
本発明の偽造防止用紙は、従来公知の方法を使用して製造できる。前述したように、このスレッド入り紙には大きく分けて2種類あり、その一つはスレッドが用紙内部に抄き込まれて用紙表面に露出しないタイプであり、もう一つはスレッドの一部が用紙表面に間欠的に露出した「窓空きスレッド入り紙」(ウインドウスレッド)と呼ばれるものである。本発明の偽造防止用紙は、これらいずれであっても適用可能である。
【0041】
前者のスレッドが表面に露出しない用紙を製造する方法としては、例えば、長網抄紙機のスライス部分における紙料の中にノズルを入れ、ノズルに水を流しながらスレッドを繰り出し、抄紙網に形成される紙匹中にスレッドを抄き込む方法(特許文献1参照)、長網抄紙機のフローボックスから流出する紙料へスレッドの挿入装置を設置し、空気流でスレッドと紙料を非接触状態としながらスレッドを抄き込む方法(特許文献2参照)、2層以上を有した円網抄紙機を使用し、2層以上の抄き合わせで、内壁に凹凸を設けた送管を使用してスレッドを紙層間に送り出し、紙層間にスレッドを抄き込む方法(特許文献3参照)等が採用できる。
【0042】
後者の「窓空きスレッド入り紙」を製造する方法としては、例えば、ワイヤー上の紙料懸濁液に、凹凸部を有するガイドの凸部先端にスレッドを通した溝を有するベルト機構を埋没して製造する方法(特許文献4参照)、凹凸状に加工した網を円網抄紙機の上網に使用し、スレッドを網表面の凹凸部に接触させながら挿入して窓空き部分にスレッドを抄き込む方法(特許文献5参照)、長網抄紙機のワイヤー上の回転ドラム内に圧縮空気ノズルを内蔵させ、予め紙匹に挿入したスレッド上のスラリーを圧縮空気で間欠的に吹き飛ばしてスレッドを露出させる方法(特許文献6参照)等が採用できる。
【0043】
上記した製造方法で用いる紙料の調整としては、まず、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の製紙用パルプを主体とし、ビーターやディスクリファイナー等を使用して叩解処理し、これに白土、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム等の各種填料、紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、定着剤等を適宜併用し紙料を調整する。ここで、以下に説明する偽造防止用紙の効果を有効に得られるようにするためには、磁気の到達距離(厚み)や光の透過性・反射性あるいは隠蔽性をコントロールする必要がある。用紙の厚みや用紙製造の仕方、紙料の調整の仕方に工夫を要するが、用紙の坪量の調整と、紙料に併用する各種の填料の種類や添加量の調整が重要となる。用紙の坪量は、通常50〜150g/mとする。
【0044】
このようにして製造された本発明の偽造防止用紙は、例えば、無彩色に近い色に着色された磁気層を有するスレッドが埋め込まれていることで、反射光だけではなく透過光で透かして見ても、磁気層を外からは目視で確認できなくすることができ、偽変造を行なう者が気づきにくく、一見しただけではどのようなセキュリティ技術が適用されているか不明な偽造防止用紙が作製可能である。また、磁気の有無を機械的に検出することで確実に真偽判定が可能となる。
【0045】
また、前述した、埋め込みデメタライズ加工スレッドで、磁気層を構成する樹脂層をデメタライズ加工のマスクインキとして用いるに際して、例えば表側は赤、裏側は青と色を変えることで、スレッドの片面には赤銀色に見えるマイクロ文字が形成され、反対面には青銀色に見えるマイクロ文字が形成されたスレッドが紙層間に抄き込まれた偽造防止用紙となる。この場合、用紙表面(オモテ面)から入射した光は、赤色に着色された磁気層の表面で反射するので用紙表面で赤色のマイクロ文字が視認できる。同様の理由で、用紙の裏面では青色のマイクロ文字が視認できる。用紙の表面(オモテ面)から入射した光は、金属がエッチングされた部分からスレッドの内部にも入射し、青色のマイクロ文字が形成されている面、即ち裏面側の金属蒸着面にも到達する、この光は裏面側の金属蒸着面で反射して、その一部は用紙の表面(オモテ面)から出てくるが、この光は蒸着面の色相である銀色を有しているので、用紙表面の反射光の色相と殆ど区別することが出来ない。すなわち、用紙の表裏で色の異なるマイクロ文字が見え、しかも磁気センサーを用いることで磁気の有無が検出できる偽造防止用紙となる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0047】
[スレッドの製造]
スレッド基材のベースフィルムとして、厚み12μmの透明な2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製)の巻き取りを使用し、その両面に、金属アルミニウムを厚み50nmずつ真空蒸着機を使用して定法に従い蒸着した。この片面に、グラビア印刷機を使用して下記に示す固形分処方の赤色磁性インクを使用して、デメタライズ加工マスクとなるAパターンのマイクロ文字の印刷層を1.0μm厚で形成した。
・ディメタライジング加工用アクリル系樹脂 100質量部
・白色磁性体粉末(平均粒径0.3μm磁性酸化鉄/酸化チタン複合体) 30質量部
・赤色染料:オレオゾールファーストレッド(住友化学工業社製) 15質量部
反対面には同様にして、グラビア印刷機を使用して下記に示す固形分処方の青色磁性インクを使用して、Bパターンのマイクロ文字の印刷層を形成した。
・ディメタライジング加工用アクリル系樹脂 100質量部
・白色磁性体粉末(平均粒径0.3μm磁性酸化鉄/酸化チタン複合体) 30質量部
・青色染料:オレオゾールブルー(住友化学工業社製) 20質量部
次に、定法に従い、2質量%水酸化ナトリウム水溶液を使用して、表裏共にディメタライジング加工を施し、水洗、乾燥してロールに巻き取った。
【0048】
さらにこの両面に、シリカ粉末を固形分で2質量%分散したエチレン−酢酸ビニル系樹脂からなる感熱接着剤をグラビアコーターを使用して塗布し、それぞれ2.0μmの厚みで接着層を形成した。次いで、マイクロスリッターを使用して幅2mmのスレッドを製造し、このスレッドをボビンに巻き取った。
【0049】
[偽造防止用紙の製造]
NBKP25質量部、LBKP75質量部を、フリーネス350mlC.S.F.(カナダ標準濾水度:Canadian Standard Freeness)に叩解し、これに白土10質量部、二酸化チタン5質量部、紙力増強剤:ポリストロン(荒川化学工業社製)0.4質量部、サイズ剤:サイズパインE(荒川化学工業社製)1.0質量部、硫酸バンドを適量加え、紙料を調整した。
【0050】
上記した紙料を用いて、2槽式円網抄紙機の第1槽目と第2槽目で、それぞれ坪量45g/mの紙匹を抄造し、両者を抄き合せる際に、紙層間に予め作成したスレッドを抄き込んだ。その後、定法に従い乾燥し偽造防止用紙を製造した。
【0051】
[効果の確認]
得られた偽造防止用紙は、反射光で観察すると、片方の面には赤色のAパターンのマイクロ文字のみが見え、反対の面では青色のBパターンのマイクロ文字のみが見えた。さらに、市販の紙幣チェック機の磁気インクチェックモードで、磁気インキの検出が可能であった。
【符号の説明】
【0052】
10・・・ベースフィルム 20・・・磁性層 21、22・・・パターン磁性層
31・・・接着層(表側) 32・・・接着層(裏側) 40・・・紙層(表側)
41・・・紙層(裏側) 50・・・金属薄膜層 51・・・金属蒸着層(表側)
52・・・金属蒸着層(裏側) 60・・・回折構造形成層 100・・・スレッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏の面をもつ糸状物として、その表裏最表面に形成された両面側の接着層を介して基材用紙の紙層内に抄き込まれるスレッドにおいて、少なくとも光透過性を持つベースフィルムと、前記ベースフィルムの片側の面又は両側の面に任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とするスレッド。
【請求項2】
前記ベースフィルムの片側の面に、少なくとも、文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された1以上の金属薄膜層と、該金属薄膜層のそれぞれの上にそれぞれの金属薄膜層と同じパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とする請求項1に記載するスレッド。
【請求項3】
前記ベースフィルムの片側の面に加えて反対側の面に、少なくとも、文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された1以上の金属薄膜層と、該金属薄膜層のそれぞれの上にそれぞれの金属薄膜層と同じパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とする請求項1または2に記載するスレッド。
【請求項4】
前記べースフィルムの面の片側と反対側との間で、前記パターンが同様であることを特徴とする請求項3に記載するスレッド。
【請求項5】
前記ベースフィルムの面の片側と反対側との間で、前記パターンが、大きさ、配置、又は向きのいずれかが相違していることを特徴とする請求項3に記載するスレッド。
【請求項6】
前記ベースフィルムの面の片側で、前記着色が同一色であることを特徴とする請求項3に記載するスレッド。
【請求項7】
前記ベースフィルムの面の少なくとも片側で、前記着色がパターンによって異なることを特徴とする請求項3に記載するスレッド。
【請求項8】
前記ベースフィルムの面の片側と反対側の両方とも、前記着色が同一色であることを特徴とする請求項3に記載するスレッド。
【請求項9】
前記ベースフィルムの面の片側と反対側で互いに、前記着色がパターンによって異なることを特徴とする請求項3に記載するスレッド。
【請求項10】
前記ベースフィルムの片側の面に回折構造形成層が設けられ、該回折構造形成層を介して金属薄膜層が形成され、該金属薄膜層の上に文字または模様のいずれか片方または両方によるパターン状に形成された任意の色に着色された磁性層とを備え、前記磁性層が白色又は無色の磁性体を含む樹脂層からなることを特徴とする請求項1に記載するスレッド。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載するスレッドが、紙の中にその全体が埋設される形態で又はその表面が一部紙の表面に露出する形態で、用紙となる紙の中に抄き込まれていることを特徴とする偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−226035(P2011−226035A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99013(P2010−99013)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】