説明

スレート板用のコーティング材

【課題】アスベスト本来の性能を損なうことなく、現在のスレート板をより強化し、劣化速度を緩やかなものとし、健康被害を出さないようにしたスレート板用のコーティング材を提供する。
【解決手段】スレート板1の表面に塗布されるコーティング材2において、全体に対して固形成分でケイ酸アルカリ化合物5を20〜30重量部、多孔性材料3を5〜25重量部、アクリル系樹脂4を5〜20重量部含有させ、これを水と混合させる。このような多孔性材料3としては、例えば、珪藻土、粘土、ゼオライトなどを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スレート板に塗布されることによってスレート板に含まれるアスベストの飛散を防止するコーティング材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石綿スレート板(以下、「スレート板」と称する)は、現在においても工場や倉庫、駅舎などにおいて多く使用されている。このスレート板は、アスベストとセメントとを水で練り合わせ、板状もしくは波状に圧縮して乾燥させたものであり、耐火性、防音性に優れるとともに、単価も安いことから、過去においては工場や倉庫、駅舎などで壁面材や屋根材などとして大量に使用されていた。
【0003】
ところで、このスレート板は、石灰分やアスベストを多く含んでいるため、外壁材や屋根材として使用されていた場合、近年の酸性雨や排気ガスなどの影響によって石灰分が溶出し、表面が毛羽立ってアスベストを飛散させてしまう危険性がある。
【0004】
今後、このようなスレート板は解体のピークを迎えることになるが、建物全体を覆うスレート板を他の製品に置き換えることは経済的な負担が大きいことから、依然としてスレート板が使われ続ける可能性がある。
【0005】
解体されたスレート板を無害化する手法については種々の方法が提案されているが(特許文献1など)、今後しばらく使用され続けられるスレート板については、表面にコーティング材(特許文献2、特許文献3)を塗布するといった対策を講じるなど、何らかの方法で外部からの水の浸入を防止しなければならない。
【特許文献1】特開2005−168632号公報
【特許文献2】特開2005−185368号公報
【特許文献3】特開2000−240211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スレート板にコーティング材を塗布する場合、一般に、スレート板の表面から雨水や夜露などを吸収してしまうために、天候のよい時期を見計らってコーティング材を塗布しなければならない。また、スレート板を乾燥させる前にコーティング材を塗布すると、スレート板内に水分が封じ込められてスレート板を劣化させてしまう危険性がある。さらには、例えば、アクリル系樹脂のコーティング材を表面に塗布させた場合、太陽光に含まれる紫外線によって樹脂を劣化させてしまうため、3〜4年に一回は塗料を塗り替えなければならず、さらには、アクリル系樹脂自体にアスベストを固化させる能力がないことから、経年変化によって樹脂が剥離した場合には、剥離した部分からアスベストを飛散させてしまう可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、アスベスト本来の性能を損なうことなく、現在のスレート板をより強化し、劣化速度を緩やかなものとし、健康被害を出さないようにしたスレート板用のコーティング材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、スレート板の表面に塗布されるコーティング材において、固形成分のケイ酸アルカリ化合物を20〜30重量部含むケイ酸アルカリ水溶液に対して、多孔性材料を5〜25重量部、アクリル系樹脂を5〜20重量部含有させるようにしたものである。
【0009】
このようなコーティング材を使用すれば、多孔性材料が有する微小孔によってスレート板と外気との通気性をよくすることができ、アスベスト繊維を飛散させることなくスレート板内の水分を外部に放出することができるようになる。また、多孔性材料だけでは逆に外部から水分を通してしまう可能性があるが、アクリル系樹脂を適量に含有しているため、その樹脂成分によって外部からの水分の浸入をある程度防止することができる。しかも、多孔性材料によってアクリル系樹脂を覆っているため、アクリル系樹脂の紫外線による劣化を防止することができる。加えて、ケイ酸アルカリ化合物の水溶液を用いて固化させるようにしているので、多孔性材料を固化させるだけでなく、スレート板に浸透して表面付近のアスベストを固化させ、アスベストの飛散を防止することができるようになる。
【0010】
なお、このような発明において、多孔性材料として、珪藻土や粘土を用い、好ましくは、アクリル系樹脂の粒子成分の径よりも小さな径を有するものを用いる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、スレート板の表面に塗布されるコーティング材において、固形成分のケイ酸アルカリ化合物を20〜30重量部含むケイ酸アルカリ水溶液に対して、多孔性材料を5〜25重量部、アクリル系樹脂を5〜20重量部含有するものを使用するようにしたので、多孔性材料によってスレート板と外気との通気性をよくすることができ、アスベスト繊維を飛散させることなくスレート板内の水分を外部に放出することができる。また、アクリル系樹脂によって外部からの水分の浸入をある程度防止することができ、さらには、多孔性材料によってアクリル系樹脂を覆うことができるため、アクリル系樹脂の紫外線による劣化を防止することができる。加えて、ケイ酸アルカリ化合物の水溶液を用いて固化させるので、多孔性材料を固化させるだけでなく、スレート板の表面付近のアスベストを固化させて、アスベストの飛散を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて詳述する。図1は、本実施の形態におけるコーティング材2を建物の壁面に塗布した状態を示したものである。
【0013】
まず、図1において、1はスレート板であって、2はそのスレート板1に塗布されたコーティング材である。また、図2において、3はそのコーティング材2に含まれる多孔性材料、4はアクリル系樹脂、5はこれらの多孔性材料3やアクリル系樹脂4の間に充填されるケイ酸アルカリ化合物である。なお、この実施の形態では、波状に形成されたスレート板1について説明するが、特に波状である必要はなく、板状であっても、もしくは、その他の形状であってもよい。
【0014】
まず、コーティング材2の構成について説明すると、このコーティング材2は、コテやスプレーなどによってスレート板1に塗布され、スレート板1上に0.5mm〜0.6mm程度の厚さをもって塗布される。このコーティング材2の組成物は、水溶液全体を100重量部とした場合に、その中に、多孔性材料3を5〜25重量部、アクリル系樹脂4を5〜20重量部、ケイ酸アルカリ化合物5を20〜30重量部含ませる。
【0015】
(1)多孔性材料
【0016】
多孔性材料3は、珪藻土や粘土、ゼオライトなどを用いる。多孔性材料3は、主に、紫外線による樹脂の劣化を防止する役目を担い、また、特に珪藻土やゼオライトはスレート板の調湿効果の役割を担う。
【0017】
使用される多孔性材料3のうち、珪藻土は、植物プランクトン(水中の藻)が化石化した土を粒子径が1.0〜5.0μmとなるように粉砕したものであり、木炭の数千倍という超多孔質を有している。この珪藻土内には、一般に0.1〜0.2μ(0.1μ=0.001mm)の微小孔径を有しており、また、融点が約1250℃と耐火性に非常に優れている。しかも、その超多孔質構造によって防音効果に優れ、含水率約80%と優れた調湿効果も有する。さらには、空気中の化学物質の除去や断熱効果などを有し、かさ比重が0.24程度で、気孔率が約90%と非常に軽量である。しかしながら、この珪藻土は、粉砕することによって微細粒子となるため、スレート板1に塗布する際には、表面からうっすらと微細粒子が刷れ落ちるといった問題を有する。このため、固化させてスレート板1に塗布する場合には、固化剤を用いる必要がある。
【0018】
粘土は、適量の水を含むことによって粘性と可塑性を示す微粒の天燃物であって、主成分として、ケイ酸・アルミナ、鉄、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどを含む。この粘土は、一般に多孔を有するため、珪藻土と同様に調湿効果や断熱効果、防音効果を持つ。この粘土については、粒子径が1.0〜5.0μmとなるように粒子化し、珪藻土や後述するゼオライトなどとともに混ぜ合わせる。
【0019】
ゼオライトは、オングストローム(1億分の1センチ)単位の極微小の連続した空洞を有するもので、天然界に存在するケイ酸アルミが主体の多孔質鉱石である。このゼオライトは、加熱によって脱水してもゼオライト自体の構造は破壊されず、脱水後に空いた空洞に再びガスや水分を強力に吸着する特性を有する。また、1gあたりの比表面積はおよそ350平方メートルという広大な面積を有し、陽イオン交換能や吸着・脱臭力によって大気中のダイオキシンなどの有害物質を吸着し、また、調湿能によって空気中の水分を吸放出することができる。このゼオライトを含むことにより、珪藻土と同様に耐火性、耐熱性、調湿性を持たせることができ、さらには、空気中の有害物質を効果的に除去することができる。
【0020】
これらの、珪藻土、粘土、ゼオライトは、いずれか一つのみを用いるようにしてもよく、また、経済性や多孔質の効果を利用して、適宜組み合わせて使用する。一般的には、粘土は非常に廉価であり、珪藻土などは相対的に高価なものとなるが、珪藻土などは吸湿性などにおいて粘土よりも格段に優れている。このため、好ましくは、珪藻土を多く含むようにするとよい。
(2)アクリル系樹脂
【0021】
アクリル系樹脂4は、アクリル基を持った高分子化合物からなる樹脂であり、メタクリル樹脂も含むものである。このアクリル系樹脂4は、耐候性、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性、耐油性に優れており、特にアクリル酸エステル共重合体は常温における粘着性が他の樹脂に比べ比較的高く、接着剤や粘着剤として有効に用いられる。この実施の形態では、粒子化された樹脂の径として、約0.06μm程度のものを用い、これを多孔性材料3とともに混ぜ合わせることによって、図2に示すように、アクリル系樹脂4の周りに多孔性材料3が存在することになる。これによって、紫外線からアクリル系樹脂4を守り、紫外線による劣化を防止するとともに、アクリル系樹脂4によって外部からの水の浸入を防止する。なお、このアクリル系樹脂4の配合については、樹脂率が多ければ多いほど外部からの水の浸入を防止することができるものの、今度は逆に、スレート板1の内部から水の放出ができなくなる。このため、水の浸入防止と調湿効果のバランスを保つべく、好ましくは、固形分換算で5〜20重量部の割合でアクリル系樹脂4を混ぜ合わせ、珪藻土を主体とする多孔性材料3を5〜25重量部の割合で配合するとよい。
(3)ケイ酸アルカリ化合物
【0022】
ケイ酸アルカリ化合物5は、一般式(MO・nSiO)(式中、Mはアルカリ金属でNa、K、単独もしくはそのうちの2種の混合系を示し、nは2.0〜4.1の数を示す)で表されるものである。この実施の形態では、例えば、ケイ酸ナトリウム塩、ケイ酸カリウム塩、ケイ酸リチウム塩、ケイ酸四級アンモニウム塩などを用い、モル比SiO2/M2O(MはNa,K,Li,NH4)が1.0〜5.0の水溶液を用いる。このケイ酸アルカリ水溶液は、粘土に含まれるマグネシウムやカルシウム、アルミニウムなどと反応して組成物を固化し、しかも、セメントを含有するスレート板1とも反応してスレート板1の表面に粘着して、さらに、スレート板1を補強する。このケイ酸アルカリ化合物5の配合割合は、割合が多くなればなるほど直ぐに固化してしまい、作業性が悪くなる。一方、配合割合が少なければ少ないほど、固化が遅くなり、その間、外部からの雨水などによる悪影響を受ける可能性が高くなる。このため、好ましくはケイ酸アルカリ化合物5を固形分換算で20〜30重量部の割合で配合させるようにする。
(4)その他の成分
【0023】
その他の成分として、セラミックビーズ、二酸化チタン、ケイ酸ゾルなどを含ませることもできる。このうちセラミックビーズは、セラミックを粒子径20μmとなるようにしたもので、アクリル系樹脂を紫外線から守ると同時に、外部からの水の浸入を防止する。また、二酸化チタンは、光触媒の機能を有するもので、細菌、ウイルス、カビ、悪臭の除去、汚れを防止する。
【0024】
そして、これらの多孔性材料3、アクリル系樹脂4、ケイ酸アルカリ化合物5、その他の成分などからなる固形成分を水35重量部〜50重量部に混合する。そして、ケイ酸アルカリ水溶液による固化が始まる前にコテやスプレーなどによってスレート板1の表面に2回〜3回塗布する。塗布を行う場合、厚みが0.5mm〜0.6mmとなるようにする。このような塗布を行うと、約24時間程度で表面から固化が始まり、次いで、多孔性材料3の微小孔を通して外部のCO2を取り込んで、徐々に内部が固化させる。完全な固化が完了すると、図2に示すように、コーティング材2内に多孔性材料とアクリル系樹脂4とが均一に存在する状態となり、径の大きな多孔性材料3の間に薄いアクリル系樹脂4の層が形成される。これにより、外部からの水の浸入をある程度カットするとともに、内側からの水分の吸湿を行うことができる。
【0025】
上述のように、本実施の形態によれば、スレート板1の表面に塗布されるコーティング材2において、水溶液全体を100重量部とした場合に、その中に、固形成分でケイ酸アルカリ化合物5を20〜30重量部、多孔性材料3を5〜25重量部、アクリル系樹脂4を5〜20重量部含有させるようにしたので、多孔性材料3によって調湿性・紫外線遮断を確保することができ、また、アクリル系樹脂4によって水分をある程度遮断することができる。また、ケイ酸アルカリ化合物5の水溶液を用いてスレート板1を固化させるようにしたので、珪藻土などの固化だけでなく、スレート板1の内部に浸透して表面付近のアスベストを固化させることができるようになる。
【0026】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0027】
例えば、上記実施の形態では、多孔性材料3とアクリル系樹脂4を混合させたケイ酸アルカリ水溶液をスレート板1に塗布するようにしているが、この塗布の際には、最初に多孔性材料を多く含有する同様のケイ酸アルカリ水溶液を塗布し、上塗りの際にはアクリル系樹脂4を多く含む水溶液を塗布し、最後に、再び多孔性材料3を多く含有する水溶液を塗布するようにしてもよい。このようにすれば、スレート板1側に存在する多孔性材料3によってスレート板1から水分を吸収することができ、中間層においては外部からの水を遮断し、表面部においては、紫外線の遮断などを行うことができるようになる。この場合、もちろん、最上部においては、紫外線の遮断や防水に好適な材料を多く含むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態におけるスレート板にコーティング材を塗布した状態を示す図
【図2】図1におけるコーティング材の断面拡大図
【符号の説明】
【0029】
1・・・スレート板
2・・・コーティング材
3・・・多孔性材料
4・・・アクリル系樹脂
5・・・ケイ酸アルカリ化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スレート板の表面に塗布されるコーティング材において、固形成分のケイ酸アルカリ化合物を20〜30重量部含むケイ酸アルカリ水溶液に対して、多孔性材料を5〜25重量部、アクリル系樹脂を5〜20重量部含有させたことを特徴とするスレート板用のコーティング材。
【請求項2】
前記多孔性材料が、珪藻土、粘土、ゼオライトの少なくとも一つを含むものである請求項1に記載のスレート板用のコーティング材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302730(P2007−302730A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130030(P2006−130030)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(502271438)株式会社ナチュル (7)
【Fターム(参考)】