説明

スロットル開度学習装置

【課題】エンジンが暖機状態であるか否かに関わらず、精度良好な全閉電圧の学習を可能とするスロットル開度学習装置を得る。
【解決手段】エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段35と、スロットル弁の開度に応じた電圧を出力するスロットル開度検出手段39と、少なくとも前記エンジン回転数検出手段35で検出されるエンジン回転数が所定の判定回転数以下のときに、前記スロットル開度検出手段39からの出力電圧をスロットル全閉電圧と判定するスロットル全閉判定手段51と、前記スロットル全閉電圧を記憶する全閉電圧記憶手段52とを備え、前記スロットル全閉判定手段51は、前記エンジンの暖機中に使用する第1の判定回転数と、前記エンジンの暖機後に使用し前記第1の判定回転数よりも小さい第2の判定回転数とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットル開度に応じたスロットルセンサからの検出値に基づきスロットル開度を検出するに際して、スロットルが全閉となる全閉電圧を判定することで、この値を基準値としてスロットル開度の算出を行うスロットル開度学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スロットル開度学習装置としては、エンジンの暖機後において、車速がほぼ0、エンジン回転数が所定の判定回転数(例えば、850回転)以下で、且つスロットル電圧の電圧変動が所定範囲内の状態が所定期間継続したときにスロットル全閉の全閉電圧と判定し、この全閉電圧を基準値としてスロットル開度を算出するものが知られている。この全閉電圧は、エンジンを起動させる度に検出することで学習(更新)される(特許文献1)。
【0003】
ところで、学習した全閉電圧は、EEPROM等の記憶装置に記憶されるのが一般的であるが、EEPROMの書き込み可能回数を確保すべく、1回のエンジン始動につき1回のみ全閉電圧の学習が行われるようになっている。したがって、最後に学習した時から長時間が経過し、再度エンジン始動を行うような時には、学習値と実際の全閉値との間にズレが生じてしまう可能性がある。このような場合、ズレを素早く修正するため、エンジン始動直後の暖機中(ファーストアイドル中)から全閉電圧の判定を行って学習できるようにすることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3733648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したスロットル開度学習装置において、暖機中にも全閉電圧の学習が行えるようにする場合には、学習制御に入るための判定回転数をファーストアイドル回転数(例えば、2000回転)よりも高い判定回転数にする必要があるが、そうすると、暖機後(ファーストアイドル後)の通常のアイドル回転数と判定回転数との回転数差が大きく開いてしまうので、例えばユーザが判定回転数以下の回転数となるようにスロットルを極低開度で固定していたような場合にも、スロットルの全閉電圧の学習を行ってしまうという課題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて提案されたもので、エンジンが暖機状態であるか否かに関わらず、精度良好な全閉電圧の学習を可能とするスロットル開度学習装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1は、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段(35)と、スロットル弁の開度に応じた電圧を出力するスロットル開度検出手段(39)と、少なくとも前記エンジン回転数検出手段(35)で検出されるエンジン回転数が所定の判定回転数以下のときに、前記スロットル開度検出手段(39)からの出力電圧をスロットル全閉電圧と判定するスロットル全閉判定手段(51)と、前記スロットル全閉電圧を記憶する全閉電圧記憶手段(52)とを備えたスロットル開度学習装置において、次の構成を含むことを特徴としている。
前記スロットル全閉判定手段(51)は、前記エンジンの暖機中に使用する第1の判定回転数と、前記エンジンの暖機後に使用し前記第1の判定回転数よりも小さい第2の判定回転数とを備える。
【0008】
請求項2は、請求項1のスロットル開度学習装置において、前記エンジンのエンジン温度を検出するエンジン温度検出手段(34)を備え、前記スロットル全閉判定手段(51)は、前記エンジン温度に応じて、前記判定回転数を変化させることを特徴としている。
【0009】
請求項3は、請求項2のスロットル開度学習装置において、前記エンジンの回転数を調整するエンジン回転数調整手段(42)を備え、前記エンジン回転数調整手段(42)は、前記エンジン温度が所定温度(例えば70℃)よりも低いときには、エンジンのアイドル回転数を暖機用目標回転数に近づくように調整するとともに、前記エンジン温度が前記所定温度(70℃)よりも高いときには、エンジンのアイドル回転数を前記暖機用目標回転数よりも小さい暖機後用目標回転数に近づくように調整する一方、前記スロットル全閉判定手段(51)は、前記エンジン温度が所定温度(70℃)よりも低いときには、前記暖機用目標回転数よりも大きい第1判定回転数に設定するとともに、前記エンジン温度が前記所定温度(70℃)よりも高いときには、前記暖機用目標回転数よりも小さく、且つ前記暖機後用目標回転数よりも大きい第2判定回転数に設定することを特徴としている。
【0010】
請求項4は、請求項2又は請求項3のスロットル開度学習装置において、前記スロットル全閉判定手段(51)は、前記エンジン温度が前記所定温度(70℃)よりも低い第2の所定温度(例えば、40℃)よりも高くなったと判断されたときに、前記第1判定回転数から第2判定回転数へ切り替えることを特徴としている。
【0011】
請求項5は、請求項2または請求項3のスロットル開度学習装置において、前記スロットル全閉判定手段(51)は、前記エンジン温度が前記所定温度(70℃)よりも低い第3の所定温度(例えば、20℃)よりも高くなったと判断されたときに、当該エンジン温度が高くなるにつれて、前記第1判定回転数を除々に小さくするとともに、前記エンジン温度が前記所定温度(70℃)よりも高くなったと判断されたときに、前記第2判定回転数になるようにすることを特徴としている。
【0012】
請求項6は、請求項5のスロットル開度学習装置において、前記第1判定回転数は、前記エンジン温度の変化に伴うエンジン回転数の変化に沿うように設定されることを特徴としている。
【0013】
請求項7は、請求項4または請求項5のスロットル開度学習装置において、前記第1判定回転数は、前記エンジン温度が前記第2の所定温度に到達するまでは固定値で設定されることを特徴としている。
【0014】
請求項8は、請求項1のスロットル開度学習装置において、前記全閉電圧記憶手段(52)は、前記検出された全閉電圧を記憶するか否かを判断する全閉電圧更新判定手段(53)と、前記検出された全閉電圧と前記全閉電圧記憶手段に既に記憶された記憶済全閉電圧との大小関係を比較する比較手段(54)と、前記検出された全閉電圧が所定時間継続したか否かを判定する計時手段(55)を備え、前記計時手段(55)は、前記検出された全閉電圧が記憶済全閉電圧よりも大きい場合は第1の所定時間を計時し、前記検出された全閉電圧が記憶済全閉電圧より小さい場合は第2の所定時間を計時し、前記全閉電圧更新判定手段(53)は、前記所定時間が経過した場合に、前記記憶済全閉電圧に代えて前記検出された全閉電圧を前記全閉電圧記憶手段(52)に記憶することを特徴としている。
【0015】
請求項9は、請求項8のスロットル開度学習装置において、前記第2の所定時間よりも第1の所定時間を長く設定したことを特徴としている。
【0016】
請求項10は、請求項1のスロットル開度学習装置において、前記エンジンは自動二輪車に搭載されたものであり、前記全閉電圧記憶手段52は、エンジンの始動につき1回のみ、スロットル全閉電圧を記憶することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の構成によれば、暖機中のファーストアイドル回転数と、このファーストアイドル回転数よりも小さい暖機完了後の通常のアイドル回転数とに合わせて判定回転数をそれぞれ設定することができ、暖機中における全閉電圧の判定、及び学習を行えるように構成しつつ、暖機後の通常のアイドル時における全閉電圧の誤学習を防止することができる。
【0018】
請求項2の構成によれば、エンジン温度に応じて変化するエンジン回転数に応じて判定回転数を設定することができる。
【0019】
請求項3の構成によれば、暖機中は判定回転数を暖機用のアイドル回転数よりも大きく設定し、暖機後は暖機用のアイドル回転数よりも小さく、且つ暖機後用のアイドル回転数よりも大きい判定回転数を設定することで、暖機中と暖機後とで、判定回転数と目標回転数との回転数差を小さくすることができる。したがって、暖機中と暖機後のどちらで全閉電圧の学習を行う場合でも、精度良く全閉電圧の判定を行うことができる。
【0020】
請求項4の構成によれば、暖機用の目標回転数(ファーストアイドル回転数)から暖機後の目標回転数(通常のアイドル回転数)へ向かってエンジン回転数が除々に減少していくのに合わせて、暖機中の段階から第2の判定回転数へ切り替えるようにして、判定回転数をエンジン回転数に素早く追従させることができる。
【0021】
請求項5の構成によれば、暖機用の目標回転数(ファーストアイドル回転数)から暖機後の目標回転数(通常のアイドル回転数)へ向かってエンジン回転数が除々に減少していくのに合わせて、第1の判定回転数を除々に小さくしていくので、暖機用の目標回転数(ファーストアイドル回転数)中の段階から第2の判定回転数へ切り替えるようにして、判定回転数をエンジン回転数から暖機後の目標回転数(通常のアイドル回転数)へ向かう過度期のエンジン回転数と判定回転数との回転数差を小さくすることができ、判定回転数をより一層精度良く設定することができる。
【0022】
請求項6の構成によれば、ファーストアイドル回転数から暖機後のアイドル回転数への過度期のエンジン回転数の変化にリニアに追従させて判定回転数を設定することができ、判定回転数をより一層精度良く設定することができる。
【0023】
請求項7の構成によれば、エンジン始動直後からエンジン温度が第2の所定温度に到達するまでには、エンジン回転数がファーストアイドル回転数近傍で安定しやすいので、判定回転数も固定値として設定することで、判定を行い易くすることができる。
【0024】
請求項8の構成によれば、全閉電圧を新たに記憶するか否かを、上向き更新、下向き更新とでそれぞれ精度良く判断することができる。
【0025】
請求項9の構成によれば、上向き更新の所定時間の方が下向き更新の所定時間よりも長く設定されるので、スロットル開度が大きくなる、すなわち出力が大きくなる方向への更新の判定をより精度良く行うようにして誤った更新を防ぐことができる。また、スロットル開度が小さくなる、すなわち出力が小さくなる方向への更新は素早く行うようにして無駄な燃料噴射等を防止することができる。
【0026】
請求項10の構成によれば、エンジンの始動につき学習1回のみの車両では、最後に学習した時から長時間が経過することにより学習値と実際の全閉値とにズレが生じる可能性があり、特に、自動二輪車のように、エンジン温度の上昇に伴うエンジン回転数の変動が大きい車両においては、スロットル全閉値のズレが燃費やエミッションに与える影響も大きくなる可能性がある。このような自動二輪車において、判定回転数をエンジン回転数に適切に追従させて精度良く設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のスロットル開度学習装置が搭載された自動二輪車の側面図である。
【図2】本発明のスロットル開度学習装置の構成図である。
【図3】スロットル開度学習装置の全閉判別手段でスロットル全閉状態を判定する場合に、水温及びエンジン回転数に対する判定回転数の設定例の一例を示すグラフである。
【図4】スロットル開度学習装置の全閉判別手段でスロットル全閉状態を判定する場合に、水温及びエンジン回転数に対する判定回転数の設定例の他例を示すグラフである。
【図5】スロットル開度学習装置の全閉判別手段でスロットル全閉状態を判定する場合に、水温及びエンジン回転数に対する判定回転数の設定例の他例を示すグラフである。
【図6】スロットル開度学習装置における全閉基準値設定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のスロットル開度学習装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。本発明のスロットル開度学習装置は、エンジンで後輪が駆動される自動二輪車に搭載される。
【0029】
図1は、本発明のスロットル開度学習装置が搭載された自動二輪車の側面図である。
自動二輪車1は、無段変速機を内蔵するユニットスイング式のパワーユニットを備えたスクータ型の自動二輪車である。車体フレームとしてのメインフレーム2に固定的に連結されるヘッドパイプ3には左右一対のフロントフォーク6が軸着され、その下端部の車軸7において前輪WFが回転自在に軸支されている。前記フロントフォーク6は、ハンドルカバー5から車幅方向左右に突出するハンドル4によって操舵可能とされており、前輪WFの上方を覆うフロントフェンダ10は、前記フロントフォーク6と一体的に操舵される。前記フロントフェンダ10の上方に配設される車体カバーとしてのフロントカバー9には、左右2灯式のヘッドライトユニット60と、左右一対のウィンカユニット70とが装着されている。前記フロントカバー9の上部には、該フロントカバー9と連続的な外装面を形成するように、分割式のセンターカバー8が接続されている。また、前記フロントカバー9の車両後方側には、前記メインフレーム2を覆うカバーパネル26が配設されており、該カバーパネル26は、その下方で乗員の足を載せるステップフロア15と結合されている。また、前記フロントカバー9の下部に連結されるフロントロアカバー13は、前記ステップフロア15の下方に位置するアンダーカバー14と結合されている。
【0030】
前記メインフレーム2の下部後方には、サイドスタンド27が設置されると共に、乗員が着座するシート11やボディカバー12等を支持するシートフレーム16が連結されている。また、前記メインフレーム2の車体後方には、エンジン33、キャブレター機構を備えたスロットルボディ37、エアクリーナ36を含むパワーユニット22の一端側が回転可能に軸着されている。該パワーユニット22は、前記シートフレーム16に取り付けられたリヤクッション23によって吊り下げられることで前記一端側を軸として揺動可能とされており、その他端側には、駆動輪としての後輪WRが車軸65において回転自在に軸支されている。また、前記エンジン33のシリンダヘッドに設けられた排気ポート(不図示)にその一端が接続される排気管20は、車両後方のマフラ21に連結されている。前記パワーユニット22の下部には、乗員の降車時に自動二輪車1を直立状態で保持するメインスタンド28が取り付けられている。また、前記ボディカバー12の車両後方端部には、テールランプと左右のウィンカユニットが一体的に形成されたストップランプユニット24が配設されており、その下方に後輪WRを覆うリアフェンダ25が取り付けられている。
【0031】
次に、本発明の実施形態に係るスロットル開度学習装置について、図2を参照しながら説明する。スロットル開度学習装置は、主要部となる制御部(エンジン・コントロール・ユニット)50を備えるとともに、吸気管31及び排気管32(20)に通じるエンジン33に対して設けた水温センサ(エンジン温度検出手段)34及びエンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)35が設けられている。
エンジン33の吸気管31側には、エアクリーナ36を介して空気が導かれるスロットルボディ37が接続され、スロットルボディ37内には、車両の右側のハンドル4端に装着されて運転者が操作するスロットルグリップの操作量(回転角度)に応じて回動することで、スロットル開度を調整して吸気通路の断面積を変更して吸気通路を通過する空気量を制御するスロットルバルブ38が配置され、スロットル開度によりエンジン出力を調整するようになっている。また、スロットルバルブ38の回動軸近傍には、スロットルバルブ38の開度を検出するスロットルセンサ(スロットル開度検出手段)39が設けられている。
スロットルセンサ39は、スロットルバルブ38の開度を検出するためのポテンショメータ及びその電圧を検出する電圧検出器等から構成され、スロットルセンサ39で検出されるスロットル開度検出信号は制御部50へ出力される。
そして、各センサ(水温センサ34、エンジン回転数センサ35、スロットルセンサ39)で検出した信号を元にスロットル開度を学習するように構成されている。
【0032】
スロットルボディ37には、スロットルバルブ38を迂回してその上流側と下流側の吸気通路を連通させるバイパス通路40が設けられている。このバイパス通路40は、途中に設けられた制御バルブとしてのISCバルブ41によってその空気量を調整することで、スロットルバルブ38が全閉の状態でもアイドリング運転に必要な空気を供給して目標回転数に対してエンジンの回転数(アイドリング回転数)を調整する。ISCバルブ41による空気量の調整は、制御部50からの信号により行われる。また、バイパス通路40の断面積は、吸気通路に比して小さく、ISCバルブ41は、ステップ数を伴うパルス信号によって任意の回転角度で停止することができるステッピングモータで駆動されるため、微細な空気量調整を容易に行うことができる。尚、このISCバルブ41は、水温や点火のリタード量等に応じてON/OFFすることでバイパス通路40を開閉するソレノイドバルブによって構成しても良い。
【0033】
エンジン33に通じる吸気管31には、燃料ポンプによって燃料タンク(不図示)から圧送される燃料を、制御部50で設定される所定のタイミングで噴射する燃料噴射弁としてのインジェクタ45が取り付けられている。
エンジン33の近傍位置には、制御部50からのイグニッションスイッチのON信号を受けてエンジン始動を行う点火回路47が設けられている。
【0034】
制御部50は、前記ISCバルブ41を駆動するパルス信号を発するISCバルブ駆動手段42と、エンジン回転数センサ35の信号等によって燃料噴射量を設定する燃料噴射量設定手段46と、スロットルセンサ(スロットル開度検出手段)39からの出力電圧からスロットル全閉電圧の学習を行うスロットル全閉判定手段51と、スロットル全閉電圧を記憶する全閉電圧記憶手段52とを備えている。
スロットル全閉判定手段51は、少なくともエンジン回転数検出手段35で検出されるエンジン回転数が所定の判定回転数以下のときに、スロットルセンサ(スロットル開度検出手段)39からの出力電圧をスロットル全閉電圧と判定する。所定の判定回転数は、エンジンの暖機中には暖機用目標回転数よりも大きい第1の判定回転数が使用され、エンジンの暖機後には暖機用目標回転数よりも小さく且つ前記暖機後用目標回転数よりも大きい第2の判定回転数が使用される。
【0035】
スロットル全閉判定手段51は、水温センサ34で検出されるエンジン温度に応じて、判定回転数を第1の判定回転数、又は、第1の判定回転数よりも小さい第2の判定回転数に設定する。すなわち、エンジン温度が70℃よりも低いときには暖機中と判断して第1の判定回転数が使用され、70℃以上である場合には、暖機後と判断して第2の判定回転数が使用される。第1の判定回転数及び第2の判定回転数は、スロットル全閉判定手段51に格納されたテーブルから算出されるようになっている。テーブルには、水温の変化に対応する判定回転数が記憶されている。
また、スロットル全閉判定手段51には、スロットル全閉を判定するために使用する予め設定されたスロットル開度設定値及びスロットル開度変動設定値が記憶されている。
【0036】
全閉電圧記憶手段52は、検出された全閉電圧を記憶するか否かを判断する全閉電圧更新判定手段53と、検出された全閉電圧と全閉電圧記憶手段52に既に記憶された記憶済全閉電圧との大小関係を比較する比較手段54と、検出された全閉電圧が所定時間継続したか否かを判定する計時手段55を備えている。計時手段55は、検出された全閉電圧が記憶済全閉電圧よりも大きい場合は第1の所定時間(4秒)を計時し、検出された全閉電圧が記憶済全閉電圧より小さい場合は第2の所定時間(0.4秒)を計時する。第1の所定時間は、第2の所定時間より長く設定されている。
全閉電圧更新判定手段53は、計時手段55による所定時間(4秒又は0.4秒)が経過した場合に、記憶済全閉電圧に代えて検出された全閉電圧を全閉電圧記憶手段52に記憶する。
【0037】
スロットル全閉判定手段51で使用される判定回転数(第1の判定回転数及び第2の判定回転数)の具体例について、図3〜図5のグラフを参照しながら説明する。
図3は、スロットルが全閉である場合におけるエンジンの水温の変化に伴うエンジン回転数の変化を表わしたもので、エンジン回転数は、始動直後は暖機中のファーストアイドル回転数(例えば、2000回転)を維持し、水温が上昇するに従いエンジン回転数を低下させ、水温が70℃以上となって暖機運転が終了した場合は、暖機後アイドル回転数(例えば、1700回転)を維持するように、ISCバルブ駆動手段42によりエンジン回転数が調整される。
【0038】
図3の例では、実際のアイドルエンジン回転数から常時一定回転数(例えば、200回転)高い値に判定回転数が設定されている。判定回転数の設定は、予め設定された時間毎に水温センサ34で検出した水温に対応する判定回転数を、予めスロットル全閉判定手段51に格納されているテーブルから求める。この例の場合、水温20℃までは2200回転、水温20℃〜70℃(暖機中)の間では2200回転から1700回転まで第1の判定回転数が連続的若しくは連続的に変化する回転数、水温70℃を超えた場合は1700回転となるようにテーブルが設定されている。
すなわち、水温(エンジン温度)が所定温度(70℃)よりも低い所定温度(20℃)よりも高くなったと判断されたときに、水温が高くなるにつれて、第1判定回転数をエンジン回転数に沿って除々に小さくするとともに、水温が所定温度(70℃)よりも高くなったと判断されたときに、第2判定回転数になるように設定し、以後は第2判定回転数を維持する。
【0039】
この例によれば、暖機中は第1の判定回転数として暖機用のアイドル回転数(2000回転)よりも大きく設定し、暖機後は暖機用のアイドル回転数よりも小さく、且つ暖機後用のアイドル回転数(1700回転)よりも大きい判定回転数(第2の判定回転数)を設定することで、暖機中と暖機後とで、判定回転数と目標回転数との回転数差を小さくすることができる。したがって、暖機中と暖機後のどちらで全閉電圧の学習を行う場合でも、精度良く全閉電圧の判定を行うことができる。
【0040】
また、暖機用の目標回転数(ファーストアイドル回転数)から暖機後の目標回転数(通常のアイドル回転数)へ向かってエンジン回転数が除々に減少していくのに合わせて、第1の判定回転数を除々に小さくしていくので、暖機用の目標回転数(ファーストアイドル回転数)中の段階から第2の判定回転数へ切り替えるようにして、判定回転数をエンジン回転数から暖機後の目標回転数(通常のアイドル回転数)へ向かう過度期のエンジン回転数と判定回転数との回転数差を小さくすることができ、判定回転数をより一層精度良く設定することができる。
【0041】
更に、第1の判定回転数を連続的に変化させるように判定回転数を設定することで、ファーストアイドル回転数から暖機後のアイドル回転数への過度期のエンジン回転数の変化にリニアに追従させることができ、判定回転数をより一層精度良く設定することができる。
【0042】
他の実施の形態として、図4の例では、第1の判定回転数と第2の判定回転数が、水温70℃を境に変更するように設定される。第1の判定回転数及び第2の判定回転の設定は、予め設定された時間毎に水温センサ34で検出した水温に対応する判定回転数を、予めスロットル全閉判定手段51に格納されているテーブルから求める。この例の場合、水温70℃(暖機中)以下の場合は2200回転が第1の判定回転数として選択され、水温70℃を超えた場合は1700回転が第2の判定回転数として選択されるようにテーブルが設定されている。
すなわち、水温が所定温度(70℃)よりも高くなったと判断されたときに、第1判定回転数から第2判定回転数へ切り替えられて以後は第2判定回転数を維持する。また、第1判定回転数は、水温が所定温度に到達するまでは固定値で設定される。
【0043】
この例によれば、エンジン始動直後からエンジン温度が所定温度(70℃)に到達するまでには、エンジン回転数がファーストアイドル回転数近傍で安定しやすいので、判定回転数も固定値として設定することで、判定を行い易くすることができる。
【0044】
さらに他の実施の形態として、図5の例では、第1の判定回転数と第2の判定回転数が、水温40℃を境に変更するように設定される。第1の判定回転数及び第2の判定回転の設定は、予め設定された時間毎に水温センサ34で検出した水温に対応する判定回転数を、予めスロットル全閉判定手段51に格納されているテーブルから求める。この例の場合、水温40℃(暖機中)以下の場合は2200回転が第1の判定回転数として選択され、水温40℃を超えた場合は1700回転が第2の判定回転数として選択されるようにテーブルが設定されている。
すなわち、水温が所定温度(70℃)よりも低い所定温度(40℃)よりも高くなったと判断されたときに、第1判定回転数から第2判定回転数へ切り替えられ以後は第2判定回転数を維持する。また、第1判定回転数は、水温が第2の所定温度に到達するまでは固定値で設定される。
【0045】
この例によれば、図4と同じ効果を有するとともに、暖機用の目標回転数(ファーストアイドル回転数)から暖機後の目標回転数(通常のアイドル回転数)へ向かってエンジン回転数が除々に減少していくのに合わせて、暖機中の段階から第2の判定回転数へ切り替えるようにすることで、判定回転数をエンジン回転数に素早く追従させることができる。
【0046】
上述の例では、検出されたエンジンの水温により判定回転数を変化させるようにしたが、エンジンの油温を検出し、油温に対応する判定回転数が設定されたテーブルを使用し、第1の判定回転数及び第2の判定回転数を決定にするようにしてもよい。
【0047】
続いて、スロットル開度学習装置における全閉基準値設定処理手順について、図6のフローチャートを参照しながら説明する。
制御部50では、イグニッションスイッチがオン状態となると、図4のスロットル全閉更新判断処理を実行する。この処理では、先ず、不揮発性メモリ等に記憶しているスロットル全閉学習値(基準電圧値)を読み出し、これを全閉初期値として設定する(ステップ101)。不揮発性メモリ等に記憶しているスロットル全閉学習値(基準電圧値)がない場合には、出荷時に記憶されている基準電圧値が読み込まれる。
出荷時に記憶される基準電圧値は、部品交差等を考慮し、大きめの全閉電圧の初期値が記憶されている。
【0048】
次に、ギアがニュートラル状態であるか否かを判断し(ステップ102)、ニュートラル状態である場合には、引き続いてエンジン回転数検出センサ35からエンジンが停止状態(エンスト状態)であるか否かを判断する(ステップ103)。尚、本実施形態の車両のように、マニュアルミッション(MT)搭載でないスクータ型車両である場合は、ステップ102の判断は行わない。
ギアがニュートラル状態でない場合、又は、エンスト状態である場合には、フラグ「0」にする(ステップ104)。
エンジンが停止状態(エンスト状態)でない場合、全閉判別手段51は、水温センサ34で検出した水温に対応したエンジン回転数をテーブルから検索して判定回転数(判定NE)として設定する(ステップ105)。
【0049】
続いて、エンジン回転数検出センサ35でエンジン回転数を検出し、設定された判定NE以下であるかを判断する(ステップ106)。
エンジン回転数が判定NE以下である場合、スロットルセンサ39で検出したスロットル開度が予め記憶された設定値(例えば、4.5度)以下であるかを判断する(ステップ107)。スロットル開度が設定値より高い場合は、スロットル異常、若しくは、運転者によるスロットルの意図的な操作が行われていると判断する。
スロットル開度が設定値以下である場合、スロットル開度の変動が予め記憶されたスロットル開度変動設定値内(例えば、0.1〜0.3度)であるかを判断する(ステップ108)。
スロットル開度の変動が設定値内である場合、フラグが「0」「1」のどちらの状態となっているかを判断し(ステップ109)、フラグが「1」である場合は、スロットル全閉値の更新を許可する。
【0050】
ステップ106において、検出されたエンジン回転数が判定NE以下でない場合(エンジン回転数が判定NEより高い場合)はスロットルが全閉でないと判断し、フラグ「0」にする(ステップ110)。
ステップ107において、検出されたスロットル開度が設定値以下でない場合(スロットル開度が設定値より高い場合)はスロットルが全閉でないと判断し、フラグ「0」にする(ステップ110)。
ステップ108において、スロットル開度の変動が設定値内でない場合(スロットル開度の変動が設定値より大きい場合)はスロットルが全閉でないと判断し、フラグ「0」にする(ステップ110)。
【0051】
ステップ109でフラグが「0」である場合は、比較器54において基準電圧値と現在のスロットル電圧値(全閉電圧値)を比較し、全閉電圧値が上昇する方向に更新する上向き更新であるか、下降する方向に更新する下向き更新であるかを判断する(ステップ111)。上向き更新は、基準電圧値より現在のスロットル電圧値が大きくなる場合で、主にカーボン堆積等の経年劣化が生じている場合に発生する。下向き更新は、基準電圧値より現在のスロットル電圧値が小さくなる場合で、主に出荷時の最初のスロットル学習時に発生する。
【0052】
全閉電圧値の上向き更新である場合、4秒のタイマ(所要時間が長)をスタートし(ステップ112)、全閉電圧値の下向き更新である場合、0.4秒のタイマ(所要時間が短)をスタートし(ステップ113)、その後にフラグを「1」にする(ステップ114)。
上向き更新のタイマを長い所定時間(4秒)に設定するのは、スロットル開度が大きくなる、すなわち出力が大きくなる方向への更新の判定をより精度良く行うようにすることで誤った更新を防ぐためである。また、下向き更新のタイマを短い所定時間(0.4秒)に設定するのは、スロットル開度が小さくなる、すなわち出力が小さくなる方向への更新を素早く行うようにして無駄な燃料噴射等を防止するためである。
【0053】
次に、スロットル全閉値の更新許可の有無を判断するため、フラグが「0」「1」のどちらの状態となっているかを判断し(ステップ115)、フラグが「1」である場合はスロットル全閉電圧値の更新を許可し、フラグが「0」である場合はスロットル全閉電圧値の更新を禁止する。
ステップ115でスロットル全閉電圧値の更新許可が行われた場合、前記したタイマの時間が満了したかを判断する(ステップ116)。
タイマの時間(4秒、又は、0.4秒)が満了している場合は、不揮発性メモリに書込み済であるかどうかを判断し(ステップ117)、書込未実施である場合にスロットル全閉電圧値をスロットル学習値として不揮発性メモリに書込む(ステップ118)。
【0054】
上述したスロットル開度学習装置の構成によれば、暖機中のファーストアイドル回転数と、このファーストアイドル回転数よりも小さい暖機完了後の通常のアイドル回転数とに対応するように、エンジンの水温に応じて判定回転数(第1の判定回転数又は第2の判定回転数)をそれぞれ設定することができ、暖機中における全閉電圧の判定、学習を行えるように構成しつつ、暖機後の通常のアイドル時における全閉電圧の誤学習を防止することができる。
背景技術で説明したような一つの判定回転数で全閉電圧を判断するスロットル開度学習装置では、暖機中に全閉電圧の学習を行えるようにファーストアイドル回転数よりも高い判定回転数を設定した場合、エンジン始動後に直ちにユーザが車両を発進させてしまうことも考えられるため、必ずしもファーストアイドル中に全閉電圧の学習を行えるとは限らない。ファーストアイドル中に全閉電圧の学習ができなかった場合は、暖機後の通常のアイドル中に全閉電圧の学習を行うことになるが、判定回転数がファーストアイドル回転数よりも高く設定されているため、通常のアイドル中にユーザがスロットルを極低開度で固定していた場合には、回転数が判定回転数の範囲内に収まってしまい、全閉電圧を誤学習してしまう可能性がある。
上述したスロットル開度学習装置の構成によれば、仮に暖機中に全閉電圧の判定を行うことができなかった場合であっても、暖機後の通常のアイドル中でアイドル回転数(水温)に応じた判定回転数を設定することができ、誤学習を防止して精度良好な全閉電圧の学習を行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1…自動二輪車、 31…吸気管、 32…排気管、 33…エンジン、 34…水温センサ(エンジン温度検出手段)、 35…エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)、 36…エアクリーナ、 37…スロットルボディ、 38…スロットルバルブ、 39…スロットル開度検出手段、 40…バイパス通路、 41…ISCバルブ、 42…ISCバルブ駆動手段(エンジン回転数調整手段)、 50…制御部、 51…スロットル全閉判定手段、 52…全閉電圧記憶手段、 53…全閉電圧更新判定手段、 54…比較手段、 55…計時手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段(35)と、
スロットル弁の開度に応じた電圧を出力するスロットル開度検出手段(39)と、
少なくとも前記エンジン回転数検出手段(35)で検出されるエンジン回転数が所定の判定回転数以下のときに、前記スロットル開度検出手段(39)からの出力電圧をスロットル全閉電圧と判定するスロットル全閉判定手段(51)と、
前記スロットル全閉電圧を記憶する全閉電圧記憶手段(52)とを備えたスロットル開度学習装置において、
前記スロットル全閉判定手段(51)は、
前記エンジンの暖機中に使用する第1の判定回転数と、
前記エンジンの暖機後に使用し前記第1の判定回転数よりも小さい第2の判定回転数と
を備えることを特徴とするスロットル開度学習装置。
【請求項2】
前記エンジンのエンジン温度を検出するエンジン温度検出手段(34)を備え、
前記スロットル全閉判定手段(51)は、前記エンジン温度に応じて、前記判定回転数を変化させる請求項1に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項3】
前記エンジンの回転数を調整するエンジン回転数調整手段(42)を備え、
前記エンジン回転数調整手段(42)は、
前記エンジン温度が所定温度よりも低いときには、エンジンのアイドル回転数を暖機用目標回転数に近づくように調整するとともに、
前記エンジン温度が前記所定温度よりも高いときには、エンジンのアイドル回転数を前記暖機用目標回転数よりも小さい暖機後用目標回転数に近づくように調整する一方、
前記スロットル全閉判定手段(51)は、
前記エンジン温度が前記所定温度よりも低いときには、前記暖機用目標回転数よりも大きい第1判定回転数に設定するとともに、
前記エンジン温度が前記所定温度よりも高いときには、前記暖機用目標回転数よりも小さく、且つ前記暖機後用目標回転数よりも大きい第2判定回転数に設定する
請求項2に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項4】
前記スロットル全閉判定手段(51)は、
前記エンジン温度が前記所定温度よりも低い第2の所定温度よりも高くなったと判断されたときに、前記第1判定回転数から第2判定回転数へ切り替える
請求項2または請求項3に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項5】
前記スロットル全閉判定手段(51)は、
前記エンジン温度が前記所定温度よりも低い第3の所定温度よりも高くなったと判断されたときに、当該エンジン温度が高くなるにつれて、前記第1判定回転数を除々に小さくするとともに、
前記エンジン温度が前記所定温度よりも高くなったと判断されたときに、前記第2判定回転数になるようにする
請求項2または請求項3に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項6】
前記第1判定回転数は、前記エンジン温度の変化に伴うエンジン回転数の変化に沿うように設定される請求項5に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項7】
前記第1判定回転数は、前記エンジン温度が前記第2の所定温度に到達するまでは固定値で設定される請求項4または請求項5に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項8】
前記全閉電圧記憶手段(52)は、
前記検出された全閉電圧を記憶するか否かを判断する全閉電圧更新判定手段(53)と、
前記検出された全閉電圧と前記全閉電圧記憶手段に既に記憶された記憶済全閉電圧との大小関係を比較する比較手段(54)と、
前記検出された全閉電圧が所定時間継続したか否かを判定する計時手段(55)を備え、
前記計時手段(55)は、
前記検出された全閉電圧が記憶済全閉電圧よりも大きい場合は第1の所定時間を計時し、前記検出された全閉電圧が記憶済全閉電圧より小さい場合は第2の所定時間を計時し、
前記全閉電圧更新判定手段(53)は、
前記所定時間が経過した場合に、前記記憶済全閉電圧に代えて前記検出された全閉電圧を前記全閉電圧記憶手段(52)に記憶する
請求項1に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項9】
前記第2の所定時間よりも第1の所定時間を長く設定した請求項8に記載のスロットル開度学習装置。
【請求項10】
前記エンジンは自動二輪車に搭載されたものであり、前記全閉電圧記憶手段(52)は、エンジンの始動につき1回のみ、スロットル全閉電圧を記憶する請求項1に記載のスロットル開度学習装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−163074(P2012−163074A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25493(P2011−25493)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】