説明

スロープ材

【課題】長手方向に連結する手段を備えたスロープ材を低コストで製造可能とする。
【解決手段】敷設床材の端面に突き当てて段差を解消するために用いられるスロープ材10であって、施工面に接地する接地面11と、この接地面に対して所定角度θで傾斜する傾斜面12と、傾斜面の後端から垂下する後端面13とを有して、全体として略三角形状の断面形状を有し、その長手方向の一端縁に雄実16が形成されると共に、長手方向の他端縁に雌実(17)が形成され、これら雄実と雌実を嵌合させることによりスロープ材同士を長手方向に連結可能とされている。雄実および雌実は、スロープ材の傾斜面と平行に延長し、スロープ材の後端から先端15に向かうにつれて徐々に薄くなって、スロープ材の先端では消失している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敷設床材の端面に突き当てて段差を解消するために用いられるスロープ材に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、既設床材による床面の上に新たに床材を敷設したときに、この床材の端面と既設床面の間に段差が生ずるため、この段差を解消してバリアフリー化する目的でスロープ材が使用される。
【0003】
たとえば、特許文献1には、ポリエチレンなどの独立発泡体からなる弾性体を段差に合わせて三角形などの断面形状を有するものとして形成した屋内段差解消具が開示されている。また、特許文献2には、木製のスロープ材が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、断面三角形状の本体と、この本体の上面と同一角度に傾斜する先端面を有する複数枚の調整板とを準備し、本体の下方に、凸部と凹部との嵌合を介して任意の調整板を任意枚数連結・積層させることで、段差に合わせて高さ調整可能としたスロープ材が開示されている。また、特許文献4には、断面三角形状の先端部と、この先端部の上面と同一角度に傾斜する上面を有する複数の傾斜面体を準備し、先端部の後方に、凸部と凹部との嵌合を介して任意数の傾斜面体を順次に連結させることで、段差に合わせて高さ調整可能としたスロープ材が開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、床およびスロープ材の端縁にそれぞれ嵌合可能な雄雌の連結部を設け、これら連結部を介して床とスロープ材、およびスロープ材同士を連結することで位置ずれや捲れ上がりを防止するようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実願平5−65663号(実開平7−29184号)のCD−ROM
【特許文献2】特開2010−180543号公報
【特許文献3】特開2000−145098号公報
【特許文献4】特開2002−021302号公報
【特許文献5】特開平10−252245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜4に開示される従来技術は、長手方向にスロープ材同士を連結する手段を有していない。特許文献3,4には、段差との高さ調整を行うために高さ方向(特許文献3)または前後方向(特許文献4)に連結するための手段を有しているが、これらは実際に使用すべきスロープ材を得る際に段差に合わせて高さ調整を行うための連結手段であり、スロープ材同士を長手方向に連結する手段ではない。長手方向において、スロープ材同士は単に端面同士が突き合わせ接合されるにすぎない。このため、スロープ材が位置ずれを起こしたり、木製の場合には吸放湿に伴う膨張や伸縮によってスロープ材同士の長手方向連結部において突き上げや隙間を生じさせることがあった。
【0008】
特許文献5に開示されるスロープ材は、長手方向にスロープ材同士を連結する手段を有するため、上記のような不利欠点を生ずることはないが、連結のための構成が複雑であり、コスト負担が大きくなるため、一般住宅などでは採用することが困難な場合が多い。
【0009】
したがって、本発明が課題とするところは、このような従来技術の不利欠点を解消して、スロープ材同士を長手方向に連結する手段を備えながら、簡易な構成で且つ低コストで製造可能な新規なスロープ材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、敷設床材の端面に突き当てて段差を解消するために用いられるスロープ材であって、施工面に接地する接地面と、この接地面に対して所定角度で傾斜する傾斜面と、傾斜面の後端から垂下する後端面とを有して、全体として略三角形状の断面形状を有し、その長手方向の一端縁に雄実が形成されると共に、長手方向の他端縁に雌実が形成され、これら雄実と雌実を嵌合させることによりスロープ材同士を長手方向に連結可能とされていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載のスロープ材において、前記雄実および雌実が、スロープ材の傾斜面と平行に延長していることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る本発明は、請求項1または2記載のスロープ材において、前記雄実および雌実が、スロープ材の後端から先端に向かうにつれて徐々に薄くなり、スロープ材の先端では消失していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る本発明によれば、スロープ材同士を雄実と雌実との嵌合を介して長手方向に連結することができるので、スロープ材同士の短手方向の位置ずれを防止すると共に、木製のスロープ材を使用した場合であっても吸放湿に伴う膨張や伸縮によってスロープ材同士の長手方向連結部において突き上げや隙間を生じることがない。また、簡単な構成であってコスト負担も小さいため、一般住宅などでも無理なく採用することができる。
【0014】
請求項2に係る本発明によれば、スロープ材同士を雄実と雌実との嵌合を介して長手方向に連結した状態において、雄実側のスロープ材に吸湿膨張などによる反りが生じ、雄実が上向きに変形しようとする力が加わった場合であっても、雄実と雌実がスロープ材の傾斜面と平行に延長するように形成されていることから、雌実を形成する上側凸部の厚さが一定であるので、雄実の上向き変形を抑制することができ、スロープ材同士の嵌合部において傾斜面に段差を生じさせない。また、雄実と雌実がスロープ材の傾斜面と平行に延長していることは、スロープ材の接地面とは所定角度で傾斜していることを意味するから、施工状態において一のスロープ材に前後方向(先端から後端に向けた方向)に力が作用しても、長手方向に雄実、雌実同士の嵌合により連結された他のスロープ材によって前後方向のずれを規制するので、スロープ材同士の嵌合部において傾斜面に段差を生じさせない。
【0015】
請求項3に係る本発明によれば、スロープ材の薄い先端部には雄実、雌実が形成されていないので、雄実、雌実の破損を防止することができる。すなわち、薄い先端部に雄実、雌実が形成されていると、スロープ材の製造過程、輸送中、施工中さらには使用中などにおいて雄実、雌実が破損しやすいものとなり、また、施工されたスロープ材に歩行者や車椅子などによる荷重がかかると、薄い先端部が変形し、これに伴って先端部付近の雄実や雌実も変形して破損しやすくなるが、請求項3に係る本発明によれば先端部には雄実、雌実が形成されていないので、破損を生じない。また、このような実形状であっても、断面略三角形状のスロープ材の少なくとも後端面近くの領域においては雄実および雌実が完全な形で存在することになるので、スロープ材同士を長手方向に確実に連結することができる効果が損なわれることはない。さらには、汚損や破損によりスロープ材を交換する必要が生じた場合、実嵌合されていない先端側から容易に引き剥がすことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるスロープ材の雄実形成側の端面図(A)および同図中B部の拡大図(B)である。
【図2】このスロープ材の雌実形成側の端面図である。
【図3】このスロープ材の平面図である。
【図4】このスロープ材の底面図である。
【図5】このスロープ材同士を雄実と雌実の嵌合を介して連結した状態の平面図である。
【図6】図5と同じ連結状態の底面図である。
【図7】図5中A−A断面図(A)、B−B断面図(B)およびC−C断面図(C)である。
【図8】このスロープ材を床材の端縁面に突き当てた状態の平面図である。
【図9】図8と同じ状態のD−D断面図である。
【図10】このスロープ材の製造方法を工程順に示す平面図である。
【図11】図10(C)で得られた長尺状板材からスロープ材に加工する要領を示す雄実形成側の端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1ないし図4を参照して、本発明の一実施形態によるスロープ材の形状および構成について説明する。このスロープ材10は、後述するように、雄実および雌実を有する床材から、その裏面側を切除することによって製造されるものであって、床下地や既設床面などに接地する接地面11と、この接地面11に対して所定角度θで傾斜する傾斜面12と、傾斜面12の後端から垂下する後端面13とを有し、全体として略三角形状の断面形状を有する。接地面11と後端面13は直角をなすように形成されている。この実施形態においては、接地面11の後端部が傾斜面12と平行な後底面14とされている。また、傾斜面12の先端部15は、その表面側の角部が丸みを帯びた形状に形成されているので、躓きにくく安全である。傾斜面12には塗装、突板貼り、化粧シート貼りなどによる任意化粧が施されていることが好ましい。
【0018】
このスロープ材10は長尺状に形成され、一例として、長手方向(図1および図2において紙面鉛直方向、図3および図4において紙面左右方向)の寸法は1818mmであり、短手方向寸法は140mmである。また、傾斜面12の傾斜角度θ(接地面11に対する角度)は、このスロープ材10の接地面11を水平面に接地させて施工したときに、傾斜面12を車椅子で安全かつ容易に走行することができるような角度に設定される。平成18年12月に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)によれば、段差が16cm以下の場合は段差スロープの傾斜を1/8以下とすべきものとされているので、本発明においてもそれに倣うものとする。一例として、接地面から最高部(傾斜面12と後端面13との角部)までの高さが14mmの場合、傾斜は1/10となるので、この要件を満たすことができる。
【0019】
このスロープ材10の長手方向両端縁の一方には雄実16が形成され、他方の端縁には雄実16と嵌合可能な形状を有する雌実17が形成されている。これら雄実16および雌実17は、傾斜面12と平行に、したがってそれらも傾斜して形成されているので、後端面13近くの後端部では完全な形の実形状を有しているが、先端部15に向かうにつれて裏面側から切除されていって徐々に薄くなり、先端部15近くでは実形状が完全に消失している。
【0020】
このスロープ材同士を雄実16と雌実17の嵌合を介して長手方向に連結した状態が図5ないし図7に示されている。この連結部において、スロープ材10Aの雄実16がスロープ材10Bの雌実17に嵌合されるが、上述したように、雄実16および雌実17は後端部から先端部15に向かうにつれて裏面側から切除されていって徐々に薄くなり、先端部15近くでは実形状が完全に消失している。このため、雄実16および雌実17が完全な実形状を維持している後端部近く(図5中のC−C切断地点)では雄実16が雌実17に嵌合された状態となる(図7(C))が、中間地点(図5中のB−B切断地点)では雄実16および雌実17より裏面側が消失した結果、スロープ材10の裏面(接地面11)に露出した状態で雄実16(の上方部分)が雌実17(の上方部分)に嵌合されており(図7(B))、先端部15近く(図5中のA−A切断地点)では雄実16および雌実17の実形状が完全に消失しているので、スロープ材10A,10Bの長手方向端縁面同士が単に突き合わされた状態となる。
【0021】
このスロープ材10を床材18の端縁面に突き当てた状態が図8および図9に示されている。たとえば、コンクリート床下地上にPタイルやクッションフロアなどを貼った既設床を木製フローリングにリフォームする場合、既設のPタイルなどを剥がしてコンクリート床下地上に新たに床材18を施工する場合もあるが、既設床の撤去には埃が発生するため特に病院や老人ホームなどでは嫌われる傾向にあることから、既設床を残したまま、その床面19上に床材18を新たに施工することがある。この場合、施工された床材18の周囲において床面19との間に段差が生ずるため、この段差をスロープ材10で解消することが望まれる。スロープ材10は、その接地面11を床面19に接地させ、後端面13を床材18の端縁面に突き当てた状態にして、接着剤や釘などを用いて固定される。
【0022】
次に、このスロープ材10の製造方法について、図10および図11を参照して説明する。この製造方法は、図8および図9に示す床材18を加工してスロープ材10を製造するものである。したがって、得られたスロープ材10は床材18と略同一の長手方向および短手方向寸法を有し、また、傾斜面には床材11と同様の表面化粧が施されているので、全体として統一がとれた違和感のない外観を与えることができる。
【0023】
製造方法について詳しく説明すると、まず、スロープ材10を製造するために用いる床材18を準備する(図10(A))。この床材18は、一例として、長手方向寸法が1818mm、短手方向寸法(幅)が303mmであって、その表面には、短手方向中央に長手方向に延長する縦溝20が形成されると共に、この縦溝20で区画された一方(図において上方)の細長矩形区画において横溝21が形成されている。これら縦溝20および横溝21の有無、位置および本数は意匠性などを考慮して任意に設定することができる。この床材18は、合板、繊維板、パーティクルボード、単板積層板などの木質材料を単独または任意に組み合わせて積層させたものを基板とし、その表面に塗装、突板貼り、化粧シート貼りなどによる任意化粧が施され、さらに必要に応じて裏面に裏打ち材が貼着された積層構造を有している。また、この床材18の四周縁のうち対向する一対の端縁に沿って雄実が形成されている(太線で示す)と共に、他の対向する一対の端縁に沿って該雄実と嵌合可能な形状の雌実が形成されている。
【0024】
この床材18を、縦溝20に沿って2分割して(図10(B))、2枚の長尺板22(22A,22B)を得る(図10(C))。図10(B)に点線で示されているのがカット幅である。ここではカット幅が23mmとなるような刃物を用いてカットしているので、2分割カット後に得られる長尺板22A,22Bはいずれも1818mm×140mmの寸法を有している。
【0025】
以降、2分割カット後に得られた長尺板22A,22Bのうちの一枚を用いてスロープ材10に加工する方法について、図11を参照して説明する。なお、長尺板22Aには横溝21が形成されており、これを用いてスロープ材10に加工すると、得られたスロープ材10の表面(傾斜面12)にも横溝21が残ることになるが、横溝21が残っても機能的に問題となることはなく、かえって横溝21がアクセントとなって意匠性を高めると共に、床材18による床面との間でデザイン的な統一を図ることができるので、この横溝21付きの長尺板22Aからスロープ材10を作製することも、本発明の範囲内である。
【0026】
床材18を2分割して得られた長尺板22(22A,22B)の雄実16側の端面は図11に示す通りである。床材18は、雄実16および雌実17の嵌合を介して長手方向および短手方向に連接施工したときに、床材18同士の継ぎ目を目立たなくするために、四周縁の表面側角部が面取りされている。したがって、これを2分割して得られた長尺板22A,22Bにおいて、カットされた短手方向一端縁(図において左側)の表面側角部は鋭角になっているが、他端縁(図において右端)の表面側角部は面取りがそのまま残っている。
【0027】
この長尺板22の裏面を、鋭角部を有する短手方向一端縁から面取り角部を有する他端縁に向けて斜めにカットする。これにより、点線で示される部分23がカットされ、そのカット面がスロープ材10の接地面11となる。このとき、図示されるように、後底面14となる部分を残してカットし、この部分の長さLを調整することによってスロープ材10としての高さHを調整することができる。また、このカット先端を面取り角部の下方とする(面取り角部を完全に切除しない)ものとして、面取りによる丸みを帯びた先端部15が残されるようにする。これにより、先端部15に躓くことなく歩行や車椅子走行などの際の安全性が確保されると共に、床材18の表面塗装による塗膜が先端部15でも残されているので耐久性が向上する。
【0028】
また、図において左側の端縁において、表面側の鋭角部から裏面に向けて断面三角形状にカットする。これにより、点線で示される部分24がカットされ、そのカット面がスロープ材10の後端面13となる。このときのカットは、カット後に得られるスロープ材10において接地面11の延長線とカット面(後端面13)とが直角となるように行う。以上の加工によって、図1ないし図4に示すスロープ材10が得られる。
【符号の説明】
【0029】
10,10A,10B スロープ材
11 接地面
12 傾斜面
13 後端面
14 後底面
15 先端部
16 雄実
17 雌実
18 床材
19 床面
20 縦溝
21 横溝
22 2分割後に得られる長尺板
23 裏面側のカット部分
24 後端側のカット部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷設床材の端面に突き当てて段差を解消するために用いられるスロープ材であって、施工面に接地する接地面と、この接地面に対して所定角度で傾斜する傾斜面と、傾斜面の後端から垂下する後端面とを有して、全体として略三角形状の断面形状を有し、その長手方向の一端縁に雄実が形成されると共に、長手方向の他端縁に雌実が形成され、これら雄実と雌実を嵌合させることによりスロープ材同士を長手方向に連結可能とされていることを特徴とするスロープ材。
【請求項2】
前記雄実および雌実が、スロープ材の傾斜面と平行に延長していることを特徴とする、請求項1記載のスロープ材。
【請求項3】
前記雄実および雌実が、スロープ材の後端から先端に向かうにつれて徐々に薄くなり、スロープ材の先端では消失していることを特徴とする、請求項1または2記載のスロープ材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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