スーパーオキシドの分析方法およびスーパーオキシドの分析キット
【課題】バックグラウンドの低減化が可能であり、スーパーオキシドに対する特異性の高い、高感度なスーパーオキシドの分析方法を提供する。
【解決手段】化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いるスーパーオキシドの分析方法である。
【解決手段】化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いるスーパーオキシドの分析方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析するスーパーオキシドの分析方法およびスーパーオキシドの分析キットに関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素と疾患との関わりが解明されつつある。活性酸素は、普通の酸素分子よりも活性化された状態の酸素分子とその関連物質を指し、スーパーオキシド(O・−)、ヒドロキシルラジカル(HO・)、過酸化水素(H2O2)、一重項酸素(1O2)等が知られている。活性酸素の中でもスーパーオキシドはその中心的な役割を演じており、スーパーオキシドを測定することは基礎医学のみならず臨床医学においても非常に重要である。
【0003】
生物系で生成するスーパーオキシドは微量であるため、高感度で分析できる分析方法が望まれる。スーパーオキシドの分析方法としては、例えば、ウミホタルルシフェリン類縁体を発光試薬として用いる化学発光法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
ウミホタルルシフェリン類縁体を発光試薬として用いる化学発光法は、スーパーオキシドを高感度で分析できるが、感度を上げるために発光試薬の濃度を高くする必要がある。しかし、発光試薬の濃度を高くすると、発光試薬が系内の溶存酸素によりわずかに発光することでバックグラウンドが生じるため、発光試薬の濃度を高くするのにも限界がある。また、ウミホタルルシフェリン類縁体は、スーパーオキシド以外にも一重項酸素とも反応して発光するため、スーパーオキシドを特異的に分析することができない。さらに、医学領域等で生物試料において生成するスーパーオキシドを分析するためには、さらなる高感度化が求められている。特許文献1では、感度を高めるために発光試薬であるウミホタルルシフェリン類縁体の構造を変えているものの、バックグラウンド等の問題は依然解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−060697号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nakano M.ら、「Cellular and Molecular Neurobiology」,18,pp.565−579(1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、バックグラウンドの低減化が可能であり、スーパーオキシドに対する特異性の高い、高感度なスーパーオキシドの分析方法およびスーパーオキシドの分析キットである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、ニトロキシル基を有するラジカル化合物(以下、総称して「ニトロキシルラジカル」と呼ぶことがある)の存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いるスーパーオキシドの分析方法である。
【0009】
また、本発明は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析するための分析キットであって、ウミホタルルシフェリン系化合物と、ニトロキシルラジカルと、を含むスーパーオキシドの分析キットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いることにより、バックグラウンドの低減化が可能であり、スーパーオキシドに対する特異性の高い、高感度なスーパーオキシドの分析方法およびスーパーオキシドの分析キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてMCLAを用いた測定サンプル(1)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(3)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてCLAを用いた測定サンプル(2)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(4)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてMCLAを用いた測定サンプル(1)(ニトロキシルラジカル:TEMPOL)、測定サンプル(5)(ニトロキシルラジカル:TEMPO)、測定サンプル(6)(ニトロキシルラジカル:PROXYL−COOH)、測定サンプル(7)(ニトロキシルラジカル:PROXYL−CONH2)および測定サンプル(3)(ニトロキシルラジカルなし((−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてMCLAを用いた測定サンプル(1)(消去剤なし)および(8)(消去剤あり:SOD)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(9)(0.004u XOD、0.23μmol/L MCLA+0.1mmol/L TEMPOL)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(10)(0.004u XOD、2.74μmol/L MCLA(TEMPOLなし))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(11)(0.000125u XOD、0.23μmol/L MCLA+0.1mmol/L TEMPOL)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(12)(0.000125u XOD、0.91μmol/L MCLA(TEMPOLなし))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(13)(XOD:0.004u)、測定サンプル(14)(XOD:0.002u)、測定サンプル(15)(XOD:0.001u)、測定サンプル(16)(XOD:0.0005u)、測定サンプル(17)(XOD:0.00025u)、測定サンプル(18)(XOD:0.000125u)、測定サンプル(19)(XOD:0.0000625u)、測定サンプル(20)(XOD:0.0000343u)、測定サンプル(21)(XOD:0.0000171u)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図10】図9におけるXODの量に対する発光強度の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例において、スーパーオキシドの代わりに過酸化水素を用いた測定サンプル(22)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(23)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例において、スーパーオキシドの代わりに一重項酸素を用いた測定サンプル(24)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(25)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<スーパーオキシドの分析方法>
本実施形態に係るスーパーオキシドの分析方法は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いる。
【0014】
例えば、分析対象試料と、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物と、ニトロキシルラジカルと、必要に応じてpH調整剤と、必要に応じて溶媒とを混合して、測定サンプルを調製し、その測定サンプルについて、ウミホタルルシフェリン系化合物と分析対象試料中のスーパーオキシドとの反応による発光を、発光測定装置を用いて測定すればよい。発光測定装置によって発光強度等を測定することにより、スーパーオキシドを容易に定量化することができる。
【0015】
測定系にニトロキシルラジカルを存在させることにより、ウミホタルルシフェリン系化合物とスーパーオキシドとの反応が促進されるため、低濃度の発光試薬で強い発光強度を得ることができる。これにより、発光測定におけるバックグラウンドを低減化することができる。また、ニトロキシルラジカルを系内に存在させると、ウミホタルルシフェリン系化合物と通常反応する一重項酸素に対して、発光の増強がほとんど見られないことから、相対的にスーパーオキシドに対する特異性が向上する。したがって、従来以上に微量のスーパーオキシドの測定を行うことができ、医学領域等への貢献が期待される。
【0016】
ウミホタルルシフェリン系化合物としては、スーパーオキシドと反応して発光するイミダゾピラジノン化合物であればよく、特に制限はないが、例えば、下記構造式(1)で示されるイミダゾピラジノン化合物である。
【0017】
【化1】
(構造式(1)において、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、インドリル基であり、それらは置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基;ヒドロキシ基;炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基を有していてもよいフェニル基で置換されていてもよい。)
【0018】
これらのうち、容易に入手可能である等の点で、R1がメチル基、R3がフェニル基である下記構造式(2)で示される2−メチル−6−フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン(CLA)、R1がメチル基、R3が4−メトキシフェニル基である下記構造式(3)で示される2−メチル−6−(4−メトキシフェニル)−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン(MCLA)が好ましい。その他に、3,7−ジヒドロ−6−[4−[2−[N’−(5−フルオレセニル)チオウレイド]エトキシ]フェニル]−2−メチルイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−
オン(FCLA Free Acid)、[2−[4−[4−[3,7−ジヒドロ−2−メチル−3−オキソイミダゾ[1,2−a]ピラジン−6−イル]フェノキシ]ブチルアミド]エチルアミノ]スルホローダミン(Red−CLA)等が挙げられる。
【0019】
【化2】
【0020】
ニトロキシルラジカルとしては、ニトロキシル基(>N−O・)を有する化合物であればよく、特に制限はないが、例えば、下記構造式(4)で示されるピペリジン−1−オキシル化合物、下記構造式(5)で示されるピロリジン−1−オキシル化合物、下記構造式(6)で示されるピロリン−1−オキシル化合物、下記構造式(7)で示されるオキサゾリジン−1−オキシル化合物等が挙げられる。
【0021】
【化3】
(構造式(4)〜(7)において、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数7〜20のアラルキル基、もしくはインドリル基であり、それらは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基等で置換されていてもよい。また、R5とR6、R7とR8はそれぞれで炭素数3〜8のスピロ環を形成していてもよく、それらは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基等で置換されていてもよい。ただし、スピロ環に酸素、イオウ、窒素などのヘテロ原子を含んでいてもよい。一方、R9は、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アミノ基、シアノ基、アセトアミド基、2−クロロアセトアミド基、2−ヨードアセトアミド基、イソチオシアナト基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、オキソ基、炭素数1〜20のアルキル基によるモノ置換あるいはジ置換アミノ基、独立して炭素数1〜20のアルキル基を3つ有するアンモニウム基であり、これらアルキル基はヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基等を有していてもよい。)
【0022】
これらのうち、入手がしやすく、水溶性で、発光増強効果が高いことから、R5〜R8がメチル基で、R9が水素原子である上記構造式(4)で示される2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、R5〜R8がメチル基で、R9がヒドロキシ基である上記構造式(4)で示される4−ヒドロキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)、R5〜R8がメチル基で、R9がカルボキシル基である上記構造式(5)で示される3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−COOH)、R5〜R8がメチル基で、R9がカルバモイル基である上記構造式(5)で示される3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−CONH2)が好ましい。
【0023】
溶媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。これらのうち、生体試料のスーパーオキシドを測定するときは水が好ましい。また、水としては、蒸留水、イオン交換水等の純水、超純水等が用いられるが、金属イオン等の妨害物質の影響を除くために超純水が好ましい。
【0024】
測定を行う際のpHは、例えばpH4.0〜10.0の範囲であり、生体試料のスーパーオキシドを測定するときはpH6.5〜7.5の範囲が好ましい。
【0025】
pHの調整は、緩衝溶液等のpH調整剤を添加することにより行えばよい。緩衝溶液としては、例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン緩衝液、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸緩衝液などのグッドの緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、イミダゾール緩衝液、バルビタール緩衝液、炭酸水素ナトリウム緩衝液等が挙げられ、これらを単独または混合物として用いることができる。また、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の塩を存在させてもよいが、ナトリウム、カリウムは0〜160mmol/Lの範囲、カルシウム、マグネシウムは0〜2mmolの範囲が好ましい。
【0026】
測定温度は、例えば、10〜40℃の範囲であり、生体試料のスーパーオキシドを測定するときは37℃付近が好ましい。
【0027】
ウミホタルルシフェリン系化合物の使用濃度は、測定サンプルのスーパーオキシド発生量に関わらず、0.001〜1.0μmol/Lの範囲、好ましくは0.1〜0.25μmol/Lの範囲である。この範囲外の場合には、発光量が低下したり、バックグラウンドが増加する場合がある。
【0028】
ニトロキシルラジカルの使用濃度は、測定サンプルのスーパーオキシド発生量に関わらず、5〜500μmol/Lの範囲、好ましくは50〜200μmol/Lの範囲である。この範囲外の場合には、発光量が低下する場合がある。
【0029】
発光測定装置としては、ウミホタルルシフェリン系化合物と分析対象試料中のスーパーオキシドとの反応による発光を測定することができるものであればよく、特に制限はない。例えば、ダイナミックレンジが広く、直線性の高いシングルフォトンカウント方式等の発光測定装置等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係るスーパーオキシドの分析方法は、生体内、生物試料等で生成されるスーパーオキシドの定量分析、抗酸化物質および抗酸化物質を含有する食品、飲料、医薬品(医薬部外品を含む)等の抗酸化能の評価等に用いることができる。
【0031】
例えば、好中球・マクロファージからのスーパーオキシド生成の測定等の臨床医学分野における診断法、血管壁や臓器組織(NADPH酸化酵素やキサチテンオキシダーゼ)からのスーパーオキシド生成の測定等の基礎医学における病態メカニズム解析法、スーパーオキシド消去活性を示す抗酸化剤、抗酸化食品等の評価法等として、本実施形態に係るスーパーオキシドの分析方法を用いることができる。
【0032】
<スーパーオキシドの分析キット>
本発明の実施形態に係るスーパーオキシドの分析キットは、化学発光法によりスーパーオキシドを分析するための分析キットであって、ウミホタルルシフェリン系化合物と、ニトロキシルラジカルと、必要に応じてpH調整剤と、必要に応じて溶媒とを含む。また、本実施形態に係るスーパーオキシドの分析キットは、ウミホタルルシフェリン系化合物と溶媒と必要に応じてpH調整剤とを含むウミホタルルシフェリン系化合物含有溶液と、ニトロキシルラジカルと溶媒と必要に応じてpH調整剤とを含むニトロキシルラジカル含有溶液とを含むものであってもよい。
【0033】
ウミホタルルシフェリン系化合物、ニトロキシルラジカル、pH調整剤、溶媒については、上記の通りである。
【0034】
最終の測定サンプルにおけるウミホタルルシフェリン系化合物の濃度、ニトロキシルラジカルの濃度、pHが上記範囲となるように、キットのウミホタルルシフェリン系化合物含有溶液におけるウミホタルルシフェリン系化合物の濃度やpH、ニトロキシルラジカル含有溶液におけるニトロキシルラジカルの濃度やpH、および各溶液の分注量を決めることが好ましい。また、最終測定サンプルの量がなるべく少なくなるように、各溶液の濃度および分注量を決めることが好ましい。
【0035】
キットにおける各溶液は、ガラス容器や、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂容器等に収容することができる。
【0036】
また、本実施形態に係るスーパーオキシドの分析キットと、発光測定装置とを組み合わせたスーパーオキシド分析システムとして提供してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例および比較例>
[ニトロキシルラジカルの存在による発光強度の増加の確認]
ウミホタルルシフェリン系化合物として2−メチル−6−(4−メトキシフェニル)−イミダゾピラジノン(MCLA)の13μmol/L水溶液を10μLと、ニトロキシルラジカルである4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)の2.5mmol/L水溶液を25μLと、pH調整剤として4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(20mM、pH7.4)を500μLと、スーパーオキシド生成系(4.0×10−6mol・L−1・min−1)としてヒポキサンチンの2mmol/L水溶液を25μLおよびキサンチンオキシダーゼ(XOD)の0.4u/mL水溶液を10μLとを混合して、測定サンプル(1)を調製した(実施例)。また、ウミホタルルシフェリン系化合物として2−メチル−6−フェニル−イミダゾピラジノン(CLA)を使用した以外は同様にして、測定サンプル(2)を調製した(実施例)。
【0039】
ニトロキシルラジカルの代わりにHEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を加えた以外は測定サンプル(1)、測定サンプル(2)と同様にして、測定サンプル(3)、測定サンプル(4)(以上、比較例)をそれぞれ調製した。
【0040】
(測定)
測定サンプル(1)〜(4)について、発光測定装置としてアロカ(株)製AccuFLEX Lumi400型を用いて、37℃で低速反転による撹拌を行いながら発光測定を行った。時間に対する発光強度を図1(MCLA:測定サンプル(1),(3))および図2(CLA:測定サンプル(2),(4))に示す。
【0041】
図1,2からわかるように、MCLA、CLAいずれのウミホタルルシフェリン系化合物でもニトロキシルラジカル(TEMPOL)の存在下で発光強度が増加した。
【0042】
[各種ニトロキシルラジカルによる発光強度増強効果の確認]
ニトロキシルラジカルとして、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−COOH)、3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−CONH2)を用いた以外は、測定サンプル(1)と同様にして、測定サンプル(5)、測定サンプル(6)、測定サンプル(7)をそれぞれ調製した。
【0043】
上記と同様にして、測定サンプル(1)、測定サンプル(5)、測定サンプル(6)、測定サンプル(7)および測定サンプル(3)について発光測定を行った。時間に対する発光強度を図3に示す。
【0044】
図3からわかるように、いずれのニトロキシルラジカルについても、発光強度の増強効果が得られた。
【0045】
[増強された発光におけるスーパーオキシドの関与の確認]
スーパーオキシドの特異的消去剤としてスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の2.6u/mL水溶液を50μL添加した以外は、測定サンプル(1)と同様にして、測定サンプル(8)を調製した。
【0046】
上記と同様にして、測定サンプル(1)および測定サンプル(8)について発光測定を行った。時間に対する発光強度を図4に示す。
【0047】
図4からわかるように、増強された発光は、スーパーオキシドによるものであることが確認された。
【0048】
[発光試薬濃度の影響の確認]
ニトロキシルラジカルによる効果と、単に発光試薬(MCLA)の濃度を増やしたときとの違いを、スーパーオキシド生成酵素キサンチンオキシダーゼ(XOD)の量を変えて比較した。MCLAの13μmol/Lの水溶液を10μL、TEMPOLの2.5mmol/Lの水溶液を25μL、ヒポキサンチンの2mmol/Lの水溶液を25μL、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を500μLを混合して、測定サンプル(9)および測定サンプル(11)を調製した。MCLAの13μmol/Lの水溶液を120μL用い、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を415μLにして、TEMPOLを添加しない以外は、測定サンプル(9)と同様にして測定サンプル(10)を調製した。MCLAの13μmol/Lの水溶液を40μL用い、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を495μLにして、TEMPOLを添加しない以外は、測定サンプル(9)と同様にして測定サンプル(12)を調製した。
【0049】
上記と同様にして、測定サンプル(9)、測定サンプル(10)について、発光測定を行った。スーパーオキシド生成酵素としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)の0.4u/mL水溶液を10μL、測定開始から100sec後に系内に添加した(XOD:0.004u、スーパーオキシド生成量4.0×10−6mol・L−1・min−1)。また、測定サンプル(11)、測定サンプル(12)について、発光測定を行った。スーパーオキシド生成酵素としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)の0.0125u/mL水溶液を10μL、測定開始から100sec後に系内に添加した(XOD:0.000125u、スーパーオキシド生成量1.25×10−7mol・L−1・min−1)。時間に対する発光強度を図5〜8に示す。
【0050】
図6からわかるように、ニトロキシルラジカル(TEMPOL)なしでも発光試薬の濃度を高くすればある程度は発光強度が高くなるが、バックグラウンドも上がってしまう。これは、図8のようなスーパーオキシドの微量分析では検出を妨げることになる。図7からわかるように、ニトロキシルラジカルの存在により、発光試薬の濃度の低減化が可能であり、バックグラウンドを低く抑えることができる。
【0051】
[直線性の確認]
発光強度のスーパーオキシド発生量依存性を検証した。スーパーオキシド生成酵素キサンチンオキシダーゼ(XOD)の量を変えて、測定サンプル(13)〜(21)を調製した。加えたキサンチンオキシダーゼ(XOD)の量は、0.004u、0.002u、0.001u、0.0005u、0.00025u、0.000125u、0.0000625u、0.0000343u、0.0000171uとした。
【0052】
上記と同様にして、測定サンプル(13)〜(21)について、発光測定を行った。時間に対する発光強度を図9に示す。XODの量に対する発光強度を図10に示す。
【0053】
図10からわかるように、スーパーオキシド発生量と発光強度との間に良好な直線性が見られた。
【0054】
[スーパーオキシド特異性の確認]
発光試薬と過酸化水素、一重項酸素との反応に対するニトロキシルラジカル存在の影響を検証した。MCLAの40μmol/Lの水溶液を10μL、TEMPOLの2.5mmol/Lの水溶液を25μL、過酸化水素水0.95mol/Lを20μL、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を500μLを混合して、測定サンプル(22)を調製した。TEMPOLを添加しない以外は測定サンプル(22)と同様にして、測定サンプル(23)を調製した。
【0055】
また、MCLAの40μmol/Lの水溶液を10μL、TEMPOLの2.5mmol/Lの水溶液を25μL、一重項酸素発生剤として3−(1,4−ジヒドロ−1,4−エピジオキシ−1−ナフチル)プロピオン酸の2.5mmol/L水溶液を100μL、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を500μLを混合して、測定サンプル(24)を調製した。TEMPOLを添加しない以外は測定サンプル(24)と同様にして、測定サンプル(25)を調製した。
【0056】
上記と同様にして、測定サンプル(22)〜(25)について、発光測定を行った。時間に対する発光強度を図11,12に示す。
【0057】
図11からわかるように、過酸化水素とMCLAとの反応ではもともと発光強度が低く、ニトロキシルラジカルの影響はほとんどなかった。また、図12からわかるように、一重項酸素とMCLAとは反応して発光するが、ニトロキシルラジカルの存在により、むしろ発光が抑えられた。ニトロキシルラジカルを系内に存在させると、ウミホタルルシフェリン系化合物と通常反応する一重項酸素に対して、発光の増強がほとんど見られないことから、相対的にスーパーオキシドに対する特異性が向上することがわかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析するスーパーオキシドの分析方法およびスーパーオキシドの分析キットに関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素と疾患との関わりが解明されつつある。活性酸素は、普通の酸素分子よりも活性化された状態の酸素分子とその関連物質を指し、スーパーオキシド(O・−)、ヒドロキシルラジカル(HO・)、過酸化水素(H2O2)、一重項酸素(1O2)等が知られている。活性酸素の中でもスーパーオキシドはその中心的な役割を演じており、スーパーオキシドを測定することは基礎医学のみならず臨床医学においても非常に重要である。
【0003】
生物系で生成するスーパーオキシドは微量であるため、高感度で分析できる分析方法が望まれる。スーパーオキシドの分析方法としては、例えば、ウミホタルルシフェリン類縁体を発光試薬として用いる化学発光法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
ウミホタルルシフェリン類縁体を発光試薬として用いる化学発光法は、スーパーオキシドを高感度で分析できるが、感度を上げるために発光試薬の濃度を高くする必要がある。しかし、発光試薬の濃度を高くすると、発光試薬が系内の溶存酸素によりわずかに発光することでバックグラウンドが生じるため、発光試薬の濃度を高くするのにも限界がある。また、ウミホタルルシフェリン類縁体は、スーパーオキシド以外にも一重項酸素とも反応して発光するため、スーパーオキシドを特異的に分析することができない。さらに、医学領域等で生物試料において生成するスーパーオキシドを分析するためには、さらなる高感度化が求められている。特許文献1では、感度を高めるために発光試薬であるウミホタルルシフェリン類縁体の構造を変えているものの、バックグラウンド等の問題は依然解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−060697号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nakano M.ら、「Cellular and Molecular Neurobiology」,18,pp.565−579(1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、バックグラウンドの低減化が可能であり、スーパーオキシドに対する特異性の高い、高感度なスーパーオキシドの分析方法およびスーパーオキシドの分析キットである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、ニトロキシル基を有するラジカル化合物(以下、総称して「ニトロキシルラジカル」と呼ぶことがある)の存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いるスーパーオキシドの分析方法である。
【0009】
また、本発明は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析するための分析キットであって、ウミホタルルシフェリン系化合物と、ニトロキシルラジカルと、を含むスーパーオキシドの分析キットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いることにより、バックグラウンドの低減化が可能であり、スーパーオキシドに対する特異性の高い、高感度なスーパーオキシドの分析方法およびスーパーオキシドの分析キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてMCLAを用いた測定サンプル(1)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(3)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてCLAを用いた測定サンプル(2)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(4)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてMCLAを用いた測定サンプル(1)(ニトロキシルラジカル:TEMPOL)、測定サンプル(5)(ニトロキシルラジカル:TEMPO)、測定サンプル(6)(ニトロキシルラジカル:PROXYL−COOH)、測定サンプル(7)(ニトロキシルラジカル:PROXYL−CONH2)および測定サンプル(3)(ニトロキシルラジカルなし((−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを、発光試薬としてMCLAを用いた測定サンプル(1)(消去剤なし)および(8)(消去剤あり:SOD)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(9)(0.004u XOD、0.23μmol/L MCLA+0.1mmol/L TEMPOL)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(10)(0.004u XOD、2.74μmol/L MCLA(TEMPOLなし))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(11)(0.000125u XOD、0.23μmol/L MCLA+0.1mmol/L TEMPOL)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(12)(0.000125u XOD、0.91μmol/L MCLA(TEMPOLなし))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例において、スーパーオキシド発生源としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)とヒポキサンチンを用いた測定サンプル(13)(XOD:0.004u)、測定サンプル(14)(XOD:0.002u)、測定サンプル(15)(XOD:0.001u)、測定サンプル(16)(XOD:0.0005u)、測定サンプル(17)(XOD:0.00025u)、測定サンプル(18)(XOD:0.000125u)、測定サンプル(19)(XOD:0.0000625u)、測定サンプル(20)(XOD:0.0000343u)、測定サンプル(21)(XOD:0.0000171u)の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図10】図9におけるXODの量に対する発光強度の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例において、スーパーオキシドの代わりに過酸化水素を用いた測定サンプル(22)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(23)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例において、スーパーオキシドの代わりに一重項酸素を用いた測定サンプル(24)(ニトロキシルラジカルあり(TEMPOL(+)))および(25)(ニトロキシルラジカルなし(TEMPOL(−)))の発光測定における時間に対する発光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<スーパーオキシドの分析方法>
本実施形態に係るスーパーオキシドの分析方法は、化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いる。
【0014】
例えば、分析対象試料と、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物と、ニトロキシルラジカルと、必要に応じてpH調整剤と、必要に応じて溶媒とを混合して、測定サンプルを調製し、その測定サンプルについて、ウミホタルルシフェリン系化合物と分析対象試料中のスーパーオキシドとの反応による発光を、発光測定装置を用いて測定すればよい。発光測定装置によって発光強度等を測定することにより、スーパーオキシドを容易に定量化することができる。
【0015】
測定系にニトロキシルラジカルを存在させることにより、ウミホタルルシフェリン系化合物とスーパーオキシドとの反応が促進されるため、低濃度の発光試薬で強い発光強度を得ることができる。これにより、発光測定におけるバックグラウンドを低減化することができる。また、ニトロキシルラジカルを系内に存在させると、ウミホタルルシフェリン系化合物と通常反応する一重項酸素に対して、発光の増強がほとんど見られないことから、相対的にスーパーオキシドに対する特異性が向上する。したがって、従来以上に微量のスーパーオキシドの測定を行うことができ、医学領域等への貢献が期待される。
【0016】
ウミホタルルシフェリン系化合物としては、スーパーオキシドと反応して発光するイミダゾピラジノン化合物であればよく、特に制限はないが、例えば、下記構造式(1)で示されるイミダゾピラジノン化合物である。
【0017】
【化1】
(構造式(1)において、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、インドリル基であり、それらは置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基;ヒドロキシ基;炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基を有していてもよいフェニル基で置換されていてもよい。)
【0018】
これらのうち、容易に入手可能である等の点で、R1がメチル基、R3がフェニル基である下記構造式(2)で示される2−メチル−6−フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン(CLA)、R1がメチル基、R3が4−メトキシフェニル基である下記構造式(3)で示される2−メチル−6−(4−メトキシフェニル)−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン(MCLA)が好ましい。その他に、3,7−ジヒドロ−6−[4−[2−[N’−(5−フルオレセニル)チオウレイド]エトキシ]フェニル]−2−メチルイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−
オン(FCLA Free Acid)、[2−[4−[4−[3,7−ジヒドロ−2−メチル−3−オキソイミダゾ[1,2−a]ピラジン−6−イル]フェノキシ]ブチルアミド]エチルアミノ]スルホローダミン(Red−CLA)等が挙げられる。
【0019】
【化2】
【0020】
ニトロキシルラジカルとしては、ニトロキシル基(>N−O・)を有する化合物であればよく、特に制限はないが、例えば、下記構造式(4)で示されるピペリジン−1−オキシル化合物、下記構造式(5)で示されるピロリジン−1−オキシル化合物、下記構造式(6)で示されるピロリン−1−オキシル化合物、下記構造式(7)で示されるオキサゾリジン−1−オキシル化合物等が挙げられる。
【0021】
【化3】
(構造式(4)〜(7)において、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数7〜20のアラルキル基、もしくはインドリル基であり、それらは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基等で置換されていてもよい。また、R5とR6、R7とR8はそれぞれで炭素数3〜8のスピロ環を形成していてもよく、それらは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基等で置換されていてもよい。ただし、スピロ環に酸素、イオウ、窒素などのヘテロ原子を含んでいてもよい。一方、R9は、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アミノ基、シアノ基、アセトアミド基、2−クロロアセトアミド基、2−ヨードアセトアミド基、イソチオシアナト基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、オキソ基、炭素数1〜20のアルキル基によるモノ置換あるいはジ置換アミノ基、独立して炭素数1〜20のアルキル基を3つ有するアンモニウム基であり、これらアルキル基はヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基等を有していてもよい。)
【0022】
これらのうち、入手がしやすく、水溶性で、発光増強効果が高いことから、R5〜R8がメチル基で、R9が水素原子である上記構造式(4)で示される2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、R5〜R8がメチル基で、R9がヒドロキシ基である上記構造式(4)で示される4−ヒドロキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)、R5〜R8がメチル基で、R9がカルボキシル基である上記構造式(5)で示される3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−COOH)、R5〜R8がメチル基で、R9がカルバモイル基である上記構造式(5)で示される3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−CONH2)が好ましい。
【0023】
溶媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。これらのうち、生体試料のスーパーオキシドを測定するときは水が好ましい。また、水としては、蒸留水、イオン交換水等の純水、超純水等が用いられるが、金属イオン等の妨害物質の影響を除くために超純水が好ましい。
【0024】
測定を行う際のpHは、例えばpH4.0〜10.0の範囲であり、生体試料のスーパーオキシドを測定するときはpH6.5〜7.5の範囲が好ましい。
【0025】
pHの調整は、緩衝溶液等のpH調整剤を添加することにより行えばよい。緩衝溶液としては、例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン緩衝液、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸緩衝液などのグッドの緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、イミダゾール緩衝液、バルビタール緩衝液、炭酸水素ナトリウム緩衝液等が挙げられ、これらを単独または混合物として用いることができる。また、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の塩を存在させてもよいが、ナトリウム、カリウムは0〜160mmol/Lの範囲、カルシウム、マグネシウムは0〜2mmolの範囲が好ましい。
【0026】
測定温度は、例えば、10〜40℃の範囲であり、生体試料のスーパーオキシドを測定するときは37℃付近が好ましい。
【0027】
ウミホタルルシフェリン系化合物の使用濃度は、測定サンプルのスーパーオキシド発生量に関わらず、0.001〜1.0μmol/Lの範囲、好ましくは0.1〜0.25μmol/Lの範囲である。この範囲外の場合には、発光量が低下したり、バックグラウンドが増加する場合がある。
【0028】
ニトロキシルラジカルの使用濃度は、測定サンプルのスーパーオキシド発生量に関わらず、5〜500μmol/Lの範囲、好ましくは50〜200μmol/Lの範囲である。この範囲外の場合には、発光量が低下する場合がある。
【0029】
発光測定装置としては、ウミホタルルシフェリン系化合物と分析対象試料中のスーパーオキシドとの反応による発光を測定することができるものであればよく、特に制限はない。例えば、ダイナミックレンジが広く、直線性の高いシングルフォトンカウント方式等の発光測定装置等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係るスーパーオキシドの分析方法は、生体内、生物試料等で生成されるスーパーオキシドの定量分析、抗酸化物質および抗酸化物質を含有する食品、飲料、医薬品(医薬部外品を含む)等の抗酸化能の評価等に用いることができる。
【0031】
例えば、好中球・マクロファージからのスーパーオキシド生成の測定等の臨床医学分野における診断法、血管壁や臓器組織(NADPH酸化酵素やキサチテンオキシダーゼ)からのスーパーオキシド生成の測定等の基礎医学における病態メカニズム解析法、スーパーオキシド消去活性を示す抗酸化剤、抗酸化食品等の評価法等として、本実施形態に係るスーパーオキシドの分析方法を用いることができる。
【0032】
<スーパーオキシドの分析キット>
本発明の実施形態に係るスーパーオキシドの分析キットは、化学発光法によりスーパーオキシドを分析するための分析キットであって、ウミホタルルシフェリン系化合物と、ニトロキシルラジカルと、必要に応じてpH調整剤と、必要に応じて溶媒とを含む。また、本実施形態に係るスーパーオキシドの分析キットは、ウミホタルルシフェリン系化合物と溶媒と必要に応じてpH調整剤とを含むウミホタルルシフェリン系化合物含有溶液と、ニトロキシルラジカルと溶媒と必要に応じてpH調整剤とを含むニトロキシルラジカル含有溶液とを含むものであってもよい。
【0033】
ウミホタルルシフェリン系化合物、ニトロキシルラジカル、pH調整剤、溶媒については、上記の通りである。
【0034】
最終の測定サンプルにおけるウミホタルルシフェリン系化合物の濃度、ニトロキシルラジカルの濃度、pHが上記範囲となるように、キットのウミホタルルシフェリン系化合物含有溶液におけるウミホタルルシフェリン系化合物の濃度やpH、ニトロキシルラジカル含有溶液におけるニトロキシルラジカルの濃度やpH、および各溶液の分注量を決めることが好ましい。また、最終測定サンプルの量がなるべく少なくなるように、各溶液の濃度および分注量を決めることが好ましい。
【0035】
キットにおける各溶液は、ガラス容器や、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂容器等に収容することができる。
【0036】
また、本実施形態に係るスーパーオキシドの分析キットと、発光測定装置とを組み合わせたスーパーオキシド分析システムとして提供してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例および比較例>
[ニトロキシルラジカルの存在による発光強度の増加の確認]
ウミホタルルシフェリン系化合物として2−メチル−6−(4−メトキシフェニル)−イミダゾピラジノン(MCLA)の13μmol/L水溶液を10μLと、ニトロキシルラジカルである4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)の2.5mmol/L水溶液を25μLと、pH調整剤として4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(20mM、pH7.4)を500μLと、スーパーオキシド生成系(4.0×10−6mol・L−1・min−1)としてヒポキサンチンの2mmol/L水溶液を25μLおよびキサンチンオキシダーゼ(XOD)の0.4u/mL水溶液を10μLとを混合して、測定サンプル(1)を調製した(実施例)。また、ウミホタルルシフェリン系化合物として2−メチル−6−フェニル−イミダゾピラジノン(CLA)を使用した以外は同様にして、測定サンプル(2)を調製した(実施例)。
【0039】
ニトロキシルラジカルの代わりにHEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を加えた以外は測定サンプル(1)、測定サンプル(2)と同様にして、測定サンプル(3)、測定サンプル(4)(以上、比較例)をそれぞれ調製した。
【0040】
(測定)
測定サンプル(1)〜(4)について、発光測定装置としてアロカ(株)製AccuFLEX Lumi400型を用いて、37℃で低速反転による撹拌を行いながら発光測定を行った。時間に対する発光強度を図1(MCLA:測定サンプル(1),(3))および図2(CLA:測定サンプル(2),(4))に示す。
【0041】
図1,2からわかるように、MCLA、CLAいずれのウミホタルルシフェリン系化合物でもニトロキシルラジカル(TEMPOL)の存在下で発光強度が増加した。
【0042】
[各種ニトロキシルラジカルによる発光強度増強効果の確認]
ニトロキシルラジカルとして、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−COOH)、3−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル(PROXYL−CONH2)を用いた以外は、測定サンプル(1)と同様にして、測定サンプル(5)、測定サンプル(6)、測定サンプル(7)をそれぞれ調製した。
【0043】
上記と同様にして、測定サンプル(1)、測定サンプル(5)、測定サンプル(6)、測定サンプル(7)および測定サンプル(3)について発光測定を行った。時間に対する発光強度を図3に示す。
【0044】
図3からわかるように、いずれのニトロキシルラジカルについても、発光強度の増強効果が得られた。
【0045】
[増強された発光におけるスーパーオキシドの関与の確認]
スーパーオキシドの特異的消去剤としてスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の2.6u/mL水溶液を50μL添加した以外は、測定サンプル(1)と同様にして、測定サンプル(8)を調製した。
【0046】
上記と同様にして、測定サンプル(1)および測定サンプル(8)について発光測定を行った。時間に対する発光強度を図4に示す。
【0047】
図4からわかるように、増強された発光は、スーパーオキシドによるものであることが確認された。
【0048】
[発光試薬濃度の影響の確認]
ニトロキシルラジカルによる効果と、単に発光試薬(MCLA)の濃度を増やしたときとの違いを、スーパーオキシド生成酵素キサンチンオキシダーゼ(XOD)の量を変えて比較した。MCLAの13μmol/Lの水溶液を10μL、TEMPOLの2.5mmol/Lの水溶液を25μL、ヒポキサンチンの2mmol/Lの水溶液を25μL、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を500μLを混合して、測定サンプル(9)および測定サンプル(11)を調製した。MCLAの13μmol/Lの水溶液を120μL用い、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を415μLにして、TEMPOLを添加しない以外は、測定サンプル(9)と同様にして測定サンプル(10)を調製した。MCLAの13μmol/Lの水溶液を40μL用い、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を495μLにして、TEMPOLを添加しない以外は、測定サンプル(9)と同様にして測定サンプル(12)を調製した。
【0049】
上記と同様にして、測定サンプル(9)、測定サンプル(10)について、発光測定を行った。スーパーオキシド生成酵素としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)の0.4u/mL水溶液を10μL、測定開始から100sec後に系内に添加した(XOD:0.004u、スーパーオキシド生成量4.0×10−6mol・L−1・min−1)。また、測定サンプル(11)、測定サンプル(12)について、発光測定を行った。スーパーオキシド生成酵素としてキサンチンオキシダーゼ(XOD)の0.0125u/mL水溶液を10μL、測定開始から100sec後に系内に添加した(XOD:0.000125u、スーパーオキシド生成量1.25×10−7mol・L−1・min−1)。時間に対する発光強度を図5〜8に示す。
【0050】
図6からわかるように、ニトロキシルラジカル(TEMPOL)なしでも発光試薬の濃度を高くすればある程度は発光強度が高くなるが、バックグラウンドも上がってしまう。これは、図8のようなスーパーオキシドの微量分析では検出を妨げることになる。図7からわかるように、ニトロキシルラジカルの存在により、発光試薬の濃度の低減化が可能であり、バックグラウンドを低く抑えることができる。
【0051】
[直線性の確認]
発光強度のスーパーオキシド発生量依存性を検証した。スーパーオキシド生成酵素キサンチンオキシダーゼ(XOD)の量を変えて、測定サンプル(13)〜(21)を調製した。加えたキサンチンオキシダーゼ(XOD)の量は、0.004u、0.002u、0.001u、0.0005u、0.00025u、0.000125u、0.0000625u、0.0000343u、0.0000171uとした。
【0052】
上記と同様にして、測定サンプル(13)〜(21)について、発光測定を行った。時間に対する発光強度を図9に示す。XODの量に対する発光強度を図10に示す。
【0053】
図10からわかるように、スーパーオキシド発生量と発光強度との間に良好な直線性が見られた。
【0054】
[スーパーオキシド特異性の確認]
発光試薬と過酸化水素、一重項酸素との反応に対するニトロキシルラジカル存在の影響を検証した。MCLAの40μmol/Lの水溶液を10μL、TEMPOLの2.5mmol/Lの水溶液を25μL、過酸化水素水0.95mol/Lを20μL、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を500μLを混合して、測定サンプル(22)を調製した。TEMPOLを添加しない以外は測定サンプル(22)と同様にして、測定サンプル(23)を調製した。
【0055】
また、MCLAの40μmol/Lの水溶液を10μL、TEMPOLの2.5mmol/Lの水溶液を25μL、一重項酸素発生剤として3−(1,4−ジヒドロ−1,4−エピジオキシ−1−ナフチル)プロピオン酸の2.5mmol/L水溶液を100μL、HEPES緩衝液(20mmol/L、pH7.4)を500μLを混合して、測定サンプル(24)を調製した。TEMPOLを添加しない以外は測定サンプル(24)と同様にして、測定サンプル(25)を調製した。
【0056】
上記と同様にして、測定サンプル(22)〜(25)について、発光測定を行った。時間に対する発光強度を図11,12に示す。
【0057】
図11からわかるように、過酸化水素とMCLAとの反応ではもともと発光強度が低く、ニトロキシルラジカルの影響はほとんどなかった。また、図12からわかるように、一重項酸素とMCLAとは反応して発光するが、ニトロキシルラジカルの存在により、むしろ発光が抑えられた。ニトロキシルラジカルを系内に存在させると、ウミホタルルシフェリン系化合物と通常反応する一重項酸素に対して、発光の増強がほとんど見られないことから、相対的にスーパーオキシドに対する特異性が向上することがわかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、
ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いることを特徴とするスーパーオキシドの分析方法。
【請求項2】
化学発光法によりスーパーオキシドを分析するための分析キットであって、
ウミホタルルシフェリン系化合物と、
ニトロキシルラジカルと、
を含むことを特徴とするスーパーオキシドの分析キット。
【請求項1】
化学発光法によりスーパーオキシドを分析する方法であって、
ニトロキシルラジカルの存在下で、発光試薬としてウミホタルルシフェリン系化合物を用いることを特徴とするスーパーオキシドの分析方法。
【請求項2】
化学発光法によりスーパーオキシドを分析するための分析キットであって、
ウミホタルルシフェリン系化合物と、
ニトロキシルラジカルと、
を含むことを特徴とするスーパーオキシドの分析キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−149867(P2011−149867A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12288(P2010−12288)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(594158150)学校法人君が淵学園 (12)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(594158150)学校法人君が淵学園 (12)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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