説明

セキュリティインク

【課題】光の照射を停止した際の消色に時間を要しない高いセキュリティ性能を有するセキュリティインクを提供する。
【解決手段】一般式(1)


で表されるフォトクロミック化合物と、樹脂を含む支持材料とを含有するセキュリティインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック化合物を含む材料を用いたセキュリティインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物を用いたインクが知られている(例えば、特許文献1参照)。このインクは、長時間の光の照射に対しても発色濃度が減少しない耐光性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−22202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このインクにおいては、光の照射を停止した際のフォトクロミック化合物の消色に時間が必要であり、セキュリティの保持が求められる情報の印刷等に用いるのには適していなかった。
【0005】
本発明の目的は、光の照射を停止した際の消色に時間を要しない高いセキュリティ性能を有するセキュリティインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセキュリティインクは、一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)中、R、Rは、炭素数1〜20の直鎖状または分枝状の、アルキル基、アルキルアミノ基及び炭素数2〜20の直鎖状または分枝状のアルコキシ基を示し、k、l、m、nは互いに独立した1〜5の整数を示す)で表されるフォトクロミック化合物と、樹脂を含む支持材料とを含有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るセキュリティインクは、前記樹脂が、光硬化樹脂であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るセキュリティインクは、前記支持材料が、帯電制御剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るセキュリティインクによれば、光の照射を停止した際の消色に時間を要せず、高いセキュリティ性能を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係るセキュリティインクに含まれるフォトクロミック化合物のナノ秒レーザーフラッシュフォトリシス測定におけるナノ秒紫外レーザー照射直後の可視・近赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態に係るセキュリティインクに含まれるフォトクロミック化合物のナノ秒レーザーフラッシュフォトリシス測定における吸収帯(400nm)の減衰を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態に係るセキュリティインクに含まれるフォトクロミック化合物のベンゼン溶液の紫外−可視吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。本発明のセキュリティインクは、フォトクロミック化合物及び樹脂を含む支持材料を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明に用いるフォトクロミック化合物は、一般式(1)
【化2】

(上記一般式(1)中、R、Rは、炭素数1〜20の直鎖状または分枝状の、アルキル基、アルキルアミノ基及び炭素数2〜20の直鎖状または分枝状のアルコキシ基を示し、k、l、m、nは互いに独立した1〜5の整数を示す)で表される。
【0013】
この(1)式で表されるフォトクロミック化合物は、メトキシ基を有することにより光に対する反応性を増加させることが可能となり、紫外光だけでなく光のエネルギーが比較的弱い太陽光などの照射によっても発色させることが可能となる。また、このフォトクロミック化合物は、高速な発消色特性を有し、視覚的に光の照射停止と同時に消色する。
【0014】
ここで、消色速度は、例えば、溶媒としてベンゼンを用いてフォトクロミック化合物を溶解させ、測定方法として後述するナノ秒レーザーフラッシュフォトリシスにより測定した発色体の半減期が1〜1000msの範囲である。また、ここで、一般に消色は熱反応によって生じるが、本発明に係るフォトクロミック化合物においては室温であっても消色し、消色速度は上述の半減期となる。
【0015】
また、(1)式で表されるフォトクロミック化合物は、アルキル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を有することにより有機溶媒及び樹脂等の高分子を含む溶液に対する溶解性を向上させることができる。ここで、フォトクロミック化合物を溶解する有機溶媒としては、特に制限はなく、ベンゼン、トルエン、クロロフォルム、塩化メチレン等、汎用的な溶媒とその混合溶媒を挙げることができる。
【0016】
また、このフォトクロミック化合物を混合する樹脂等の高分子化合物を含む溶液に用いられる高分子化合物としては、公知の方法により製造可能なものであれば全て適用可能であるが、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリエステル、ABS樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタール等を挙げることができ、PMMA、ポリスチレンが好適である。用いる高分子の分子量としては重量平均分子量千から百万程度が好適であるが、重量平均分子量数万程度が特に好適である。
【0017】
また、高分子化合物を含む溶液は、溶液に高分子化合物を溶解したものでもよいし、高分子化合物を重合反応等により合成する際のモノマー溶液等の前駆溶液であってもよい。また、高分子化合物を含む溶液に用いられる溶液として、メタノールやエタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、クロロフォルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルフォルムアミド(DMF)、水等の溶媒に高分子化合物を溶解させた溶液が挙げられる。
【0018】
本発明に係るセキュリティインクに用いる支持材料は、樹脂、溶剤及び必要に応じて各種添加剤を含むものである。
【0019】
本発明に係るセキュリティインクに用いる支持材料に含まれる樹脂としては、公知の方法により製造可能なものであれば全て適用可能である。例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニリデン系樹脂;ポリ酢酸ビニル等のポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリスチレン、スチレンーアクトニトリル共重合体、アクロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂;PMMA、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂;ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース等のセルロース系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ウレタン系樹脂;ナイロン系樹脂;ゴム系樹脂;でんぷん、ロジン、たんぱく質等の天然高分子;ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタラート、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド等を挙げることができる。
【0020】
これらの樹脂は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
また、支持材料に用いる溶剤としては、特に制限はなく、アルコール類、グリコール類、エーテル類、エステル類、炭化水素類、ケトン類、ハロゲン化アルキル類、DMF、水等を使用することができる。
【0022】
アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等を挙げることができる。
【0023】
グリコール類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルを挙げることができる。
【0024】
エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、ベラトロール、ジオキサン等を挙げることができる。
【0025】
エステル類の具体例としては、酢酸エチル、酢酸磯プロピル、酢酸n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。
【0026】
炭化水素類の具体例としては、ベンゼン、アルキルベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素やヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素を挙げることができる。
【0027】
ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0028】
ハロゲン化アルキル類の具体例としては、クロロフォルム、ジクロロメタン等を挙げることができる。
【0029】
これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、溶剤として水等の水溶液系の溶媒を用いる場合には樹脂とのエマルジョンを形成し支持材料とし、水性のセキュリティインクとしてもよい。
【0030】
なお、樹脂として、光硬化樹脂を用いる場合には支持材料に含まれる溶剤を省略することができる。光硬化樹脂としては、公知のものを用いることができ、例えば、アクリル系樹脂を合成するためのモノマーとして2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の単官能アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等の多官能アクリレートを用いることができる。また、オリゴマーとして、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリル酸エステルを用いることができる。また、必要に応じて光重合開始剤を用いてもよい。
【0031】
本発明に係るセキュリティインクに用いる支持材料には、所望により各種添加剤、例えば界面活性剤、帯電制御剤、酸化防止剤、pH調製剤、防腐剤、架橋剤、硬化剤、分散剤、保湿剤、防カビ剤、防錆剤等を含有させることができる。例えば、トナー用のセキュリティインクに用いる場合には帯電制御剤を添加する。
【0032】
本発明に係るセキュリティインクは、塗料、印刷用のインク、筆記具、絵の具等に用いることができる。また、マニキュア等の化粧品にも用いることができる。
【0033】
塗料として用いる場合には、刷毛塗り、スプレー塗装、浸漬塗装、静電塗装、ローラー塗装等の塗装方法により紙、プラスチック、金属等の印刷対象物に対して塗装を行うことができる。
【0034】
また、印刷用のインクとして用いる場合には、凹版印刷、凸版印刷、平版印刷、孔版印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷方法により紙、プラスチック、金属等の印刷対象物に対して印刷を行うことができる。
【0035】
塗装または印刷等により印刷対象物上に形成されたセキュリティインク層に対して紫外光等を照射するとフォトクロミック化合物が発色し、塗装または印刷等された文字や図形等の情報が視認可能となる。また、紫外光等の照射を停止すると視覚的に瞬時にフォトクロミック化合物が消色し、情報の視認が不可能となる。ここで、照射する紫外光は、365〜500nmの波長の光が好ましく、365〜405nmの範囲の波長の光を照射することがより好ましい。
【0036】
上述のように本発明に係るセキュリティインクに用いるフォトクロミック化合物は、有機溶媒や樹脂等の高分子化合物を含む溶液に対する溶解度が大きく、セキュリティインクにフォトクロミック化合物を均一かつ高濃度に含ませることが可能である。また、紫外光等の光に対する反応性も高いため、本発明に係るセキュリティインクは、高い発色濃度を得ることができる。
【0037】
また、塗装や印刷により形成された文字や図形等の情報が高速で発消色するため、これらの情報が他者の目に触れることがなく高いセキュリティ性能の実現が可能である。
【0038】
次に、本発明に係るセキュリティインクに用いるフォトクロミック化合物について、化学式(2)
【化3】

で表されるフォトクロミック化合物を例により具体的に説明する。化学式(2)で表されるフォトクロミック化合物は、一般式(1)中のR及びRを2−エチルヘキシロキシ基とし、n及びmの値をそれぞれ1、また、k及びlの値をそれぞれ2としたフォトクロミック化合物を示すものである。なお、化学式(2)は、原子省略法によって記載され、省略された末端はすべてメチル基を示す。
【0039】
(フォトクロミック化合物の合成)
上記式(2)に示す化合物は以下に示す合成経路により合成される。
【化4】

【0040】
即ち、既報に従い[2.2]パラシクロファンを出発物質として[2.2]パラシクロファン−4.13−ジカルバルデヒドを得る。
【0041】
[2.2]パラシクロファン−4.13−ジカルバルデヒドを4,4’−ビス(2−エチルヘキシロキシ)ベンジルと3,3’,4,4’−テトラメトキシベンジルの混合物と酢酸アンモニウム存在下、酢酸中で加熱撹拌した。反応終了後、アンモニア水溶液で中和後、生成した淡黄色固体をろ別・水で洗浄した。この混合物を乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより前駆体である[2.2]パラシクロファン−4−(4,4’−ビス(2−エチルヘキシロキシ)イミダゾール−イル)−13−(3,3’,4,4’−テトラメトキシ)イミダゾール−イル)を得る。
【0042】
この前駆体をベンゼンに溶解させ、水酸化カリウムとフェリシアン化カリウムの水溶液を加え、激しく撹拌した。反応終了後、有機層を水でよく洗浄し、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより目的とするフォトクロミック化合物を得る。
【0043】
(フォトクロミック化合物のナノ秒レーザーフラッシュフォトリシス測定)
合成したフォトクロミック化合物のベンゼン溶液(濃度1.0×10−5mol/l)を光路長10mmの石英分光セルに加え、レーザーフラッシュフォトリシス測定を時間分解分光測定装置(型式TSP−1000、株式会社ユニソク製)を用いて25℃、Ar雰囲気下において行った。
【0044】
図1は、(2)式に示すフォトクロミック化合物のベンゼン溶液に波長355nmのナノ秒紫外レーザー(パルス幅:5ns、出力8mJ)を照射した直後から、時間分解分光測定装置によって150ms間隔で測定した可視・近赤外吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。図1に示す測定結果より、紫外光照射により400〜500nm付近に強い吸収帯、500から800nmにかけてのブロードな弱い吸収帯が可逆的に生成することが確認された。
【0045】
また、図2は、(2)式に示すフォトクロミック化合物のベンゼン溶液に355nmのナノ秒紫外レーザー(パルス幅:5ns、出力8mJ)を照射すると同時に現れる400nmの吸収帯の時間減衰を示すグラフである。図2に示す測定結果より、(2)式に示すフォトクロミック化合物において、ナノ秒紫外レーザーの照射により生成した吸収帯は照射停止後25℃において半減期約200msで減衰することが確認された。
【0046】
合成したフォトクロミック化合物のベンゼン溶液(濃度1.0×10−5mol/l)を光路長10mmの石英分光セルに加え、紫外可視分光光度計(型式UV3150、株式会社島津製作所製)により紫外−可視吸収スペクトル測定を25℃において行った。
【0047】
図3は、(2)式に示すフォトクロミック化合物のベンゼン溶液の紫外−可視吸収スペクトルである。この化合物は長波長紫外線(UVA)領域に吸収帯を有していることが明らかとなった。これはこの化合物が紫外線だけではなく可視光の照射によっても発色することが示唆され、また、太陽光など比較的エネルギーの弱い光の照射によっても発色することが示唆された。
【0048】
化学式(2)で表されるフォトクロミック化合物をポリメチルメタクリレート(PMMA)(分子量15,000)のジクロロメタン溶液にポリマーに対して70wtパーセントとなるように加え、均一な溶液を調製することができる。一方、一般式(1)中のR及びRを有さない高速発消色フォトクロミック化合物(関東化学製)ではポリマーに対して20wtパーセントしか溶解しなかった。これは本化合物のように化合物の一部に溶媒、高分子への溶解性の高い分岐型アルキル基を導入した効果であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化5】

(上記一般式(1)中、R、Rは、炭素数1〜20の直鎖状または分枝状の、アルキル基、アルキルアミノ基及び炭素数2〜20の直鎖状または分枝状のアルコキシ基を示し、k、l、m、nは互いに独立した1〜5の整数を示す)で表されるフォトクロミック化合物と、樹脂を含む支持材料とを含有することを特徴とするセキュリティインク。
【請求項2】
前記樹脂は、光硬化樹脂であることを特徴とする請求項1記載のセキュリティインク。
【請求項3】
前記支持材料は、帯電制御剤を含むことを特徴とする請求項1または2記載のセキュリティインク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132265(P2011−132265A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289154(P2009−289154)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(399109333)学校法人青山学院 (12)
【出願人】(508353271)
【Fターム(参考)】