説明

セキュリティ文書、特に紙幣の認証

セキュリティ文書、特に紙幣の信憑性を認証するための方法が説明される。真正なセキュリティ文書は、印刷、貼り付け、または他の方法によってセキュリティ文書に設けられ、このセキュリティ文書の製造に使用されたプロセスに固有の特徴的な視覚的特徴を備えるセキュリティ特徴(41〜49;30;10;51、52)を有している。本方法は、認証すべき候補文書の表面のうちの前記セキュリティ特徴の少なくとも一部分を包含する少なくとも1つの関心領域(R.o.I.)のサンプル画像をデジタル的に処理するステップを含んでおり、このデジタル的な処理が、サンプル画像のウェーブレット変換(WT)によるサンプル画像の分解の実行を含む。そのようなサンプル画像の分解が、サンプル画像のウェーブレットパケット変換(WPT)に基づいており、好ましくはいわゆる二次元シフト不変WPT(2D−SIWPT)に基づいている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にセキュリティ文書、特に、紙幣の認証に関する。より詳しくは、本発明は、本出願の出願人の名義による「AUTHENTIFICATION OF SECURITY DOCUMENTS,IN PARTICULAR OF BANKNOTES」という名称の2008年6月2日付の国際公開第2008/146262(A2)号パンフレット(2007年6月1日付の欧州特許出願第07109470.0号および2007年6月20日付の欧州特許出願第07110633.0号の優先権を主張している)に開示の発明のさらなる改善に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットにおいてなされた従来技術についての検討および国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットの開示の全体を本明細書に援用する。国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットにおいて検討された一般的原理のすべてが、本発明にも同様に適用される。したがって、国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットの内容は、その全体が参照として組み込まれる。
【0003】
本発明は、特に、国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットに開示の発明をさらに改善するという目的においてなされた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の全体的な目的は、したがって、国際公開第2008/146262(A2)号に開示の方法、使用、および装置をさらに改善することである。
【0005】
より詳しくは、本発明の目的は、セキュリティ文書(特に、紙幣)の信憑性を認証するための方法であって、よりロバストであり、印刷、塗布、または他の方法でセキュリティ文書に設けられた特徴を効率的に見分けることができる優れた方法を提供することである。
【0006】
特に、本発明は、凹版印刷によるテクスチャと中品質または高品質の市販のオフセット印刷によるテクスチャとの間の識別を改善することを目的とする。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、携帯デバイスにおいて好都合かつ効率的に実行できるような方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的および他の目的が、添付の特許請求の範囲に定められる技術的解決策によって達成される。
【0009】
したがって、セキュリティ特徴が印刷、貼り付け、または他の方法で設けられている真正なセキュリティ文書、特に紙幣であって、そのようなセキュリティ特徴が、セキュリティ文書の製造に使用されるプロセスに固有の特徴的な視覚的特徴を備える真正なセキュリティ文書に関し、そのようなセキュリティ文書の信憑性を認証するための方法であって、認証すべき候補文書の表面のうちのセキュリティ特徴の少なくとも一部分を包含する少なくとも1つの関心領域のサンプル画像をデジタル的に処理するステップを含み、このデジタル的な処理が、サンプル画像のウェーブレット変換(WT)によるサンプル画像の分解の実行を含む方法が提供される。本発明によれば、サンプル画像の分解が、サンプル画像のウェーブレットパケット変換(WPT)に基づく。
【0010】
本発明の有利な実施形態によれば、ウェーブレットパケット変換(WPT)が、二次元シフト不変ウェーブレットパケット変換(2D−SIWPT)であり、好ましくは不完全ウェーブレットパケット変換に基づく。
【0011】
後者の場合には、サンプル画像の分解が、少なくとも1つの近似ノードとディテールノードとを含むウェーブレット・パケット・ツリーへとサンプル画像を分解すること、およびウェーブレット・パケット・ツリーにおいて最高の情報コンテンツを有するディテールノードを探すことを含むことができる。そのような判断は、有利には、いわゆる最良分岐アルゴリズム(BBA)に基づく。
【0012】
さらに、セキュリティ文書を製造するための請求項14に記載の方法、ならびに請求項16に記載のデジタル信号処理ユニット、およびセキュリティ文書の信憑性を認証するための請求項18に記載の装置も提供される。そのような装置を、有利には、スマートフォンなどの画像取得の能力と組み合わせた携帯電子デバイスとして実現することができる。
【0013】
さらには、セキュリティ文書、特に紙幣の認証にウェーブレットパケット変換(WPT)を使用することも請求される。
【0014】
また、セキュリティ文書(特に、紙幣)に印刷、貼り付け、または他の方法で設けられたセキュリティ特徴であって、セキュリティ文書の製造に使用されるプロセスに固有の特徴的な視覚的特徴を備えるセキュリティ特徴を検出するための方法であって、候補文書の表面のうちの前記セキュリティ特徴の少なくとも一部分を包含するように選択される少なくとも1つの関心領域のサンプル画像をデジタル的に処理するステップを含み、このデジタル的な処理が、サンプル画像のウェーブレット変換によるサンプル画像の分解の実行を含む方法が提供される。サンプル画像の分解が、同様にサンプル画像のウェーブレットパケット変換(WPT)に基づく。
【0015】
上述の技術的解決策の有利な実施形態が、従属請求項の主題を形成する。
本発明の他の特徴および利点が、あくまでも本発明を限定するものではない実施例として提示され、添付の図面によって示される本発明の実施形態についての以下の詳細な説明を検討することによって、さらに明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1a】例示的な紙幣見本のグレースケールスキャンである。
【図1b】図1aの紙幣見本の右上角の部分のグレースケール写真である。
【図2a】図1aの紙幣見本の拡大図である。
【図2b】図1aの紙幣見本の拡大図であり、図2aの白い四角によって示された領域に相当している。
【図3a】図1aの紙幣見本の第1のカラーコピーの拡大図である。
【図3b】図1aの紙幣見本の第1のカラーコピーの拡大図であり、図3aの白い四角によって示された領域に相当している。
【図4a】図1aの紙幣見本の第2のカラーコピーの拡大図である。
【図4b】図1aの紙幣見本の第2のカラーコピーの拡大図であり、図4aの白い四角によって示された領域に相当している。
【図5】3つのツリーレベル(2つの分解レベル)を有する二次元ツリー構造ウェーブレットパケット変換(「WPT」)の概念図である。
【図6】フィルタバンクとして実現された一次元シフト不変ウェーブレットパケット変換(「SIWPT」)の概念図である。
【図7】凹版印刷によるテクスチャ(左側)、および市販の印刷によるテクスチャ(右側)についての、本発明による1レベル2D−SIWPTの後のウェーブレット係数の正規化されたヒストグラムを示している。
【図8】本発明の好ましい実施形態による最良分岐アルゴリズム(BBA)に従って分解された不完全ウェーブレット・パケット・ツリーを示している。
【図9】実験サンプルのセットを構成するための基礎として用いた、凹版印刷に特徴的な6つの異なる印刷テクスチャを示している。
【図10】凹版印刷、ならびに中程度および高品質の市販のオフセット印刷によって印刷された図9のテクスチャのクラス間距離およびクラス内距離を示す図である。
【図11】本発明によるサンプル画像の分解から得られたウェーブレット係数の統計的分布の分散σおよび過剰Cに基づいて処理された後のサンプルの分類を示す二次元特徴空間である。
【図12】本発明の方法に従ってセキュリティ文書の信憑性を認証するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の背景は、セキュリティプリンタにのみ利用可能な特定の製造プロセスを用いてセキュリティ文書に印刷され、付与され、または他のやり方で設けられたセキュリティ特徴(特に、凹版印刷による特徴)が、関連する特定の製造プロセスに関する知識を持つ適格者によって認識可能なきわめて特徴的な視覚的特徴(以下では、「固有の特徴」と称する)を呈するという見解に端を発する。
【0018】
以下の検討は、凹版印刷によって生成された固有の特徴の分析に焦点を合わせる。しかしながら、同じ手法を、紙幣の他の固有の特徴、特にラインオフセット印刷による特徴、凸版印刷による特徴、および/または光学的回折の構造にも適用できることを、理解すべきである。本出願の出願人によって実施された試験の結果が、凹版印刷による特徴が、本発明による認証にきわめてよく適しており、さらには最良の結果をもたらすことを示している。これは、特に、凹版印刷が、きわめて細かく、高解像度であり、かつ明瞭なパターンを印刷できるということによる。したがって、凹版印刷は、本発明の文脈において利用される固有の特徴の生成に好ましいプロセスである。
【0019】
図1aは、本出願の出願人によって2004年に製造されたジュール・ベルヌの肖像画を示す例示のための紙幣見本1のグレースケールのスキャンである。この紙幣見本1は、特に、紙幣の多色の背景10を印刷するためのラインオフセット印刷、平面天球図20、および六分儀21のモチーフを含む光学的に可変のインクパターンを印刷するためのシルクスクリーン印刷、紙幣の高さに沿って垂直に延びる光学的回折構造を有する帯材料30(図1aにおいては、この帯30が2本の点線で図式的に範囲を定められている)を含む光学的可変デバイスを貼り付けるための箔押し技術、ジュール・ベルヌの肖像画41を含む複数の凹版パターン41〜49を印刷するための凹版印刷、2つのシリアル番号51、52を印刷するための凸版印刷、および保護用ニスの層で紙幣をニス塗りするためのニス塗りを含む紙幣の製造に特有の印刷および処理技術の組み合わせを使用して製造されている。さらに、この紙幣見本1は、見本の右側にマーキング60を備えており、このマーキング60は、帯30および下層のオフセット印刷によるインク(参照番号なし)の部分的レーザアブレーションによって付与されている。図示の例では、肖像画41(ならびに垂直方向の年号2004および肖像画を囲んでいる絵画的モチーフ)、ペガサスを含む「KBA−GIORI」のロゴ42、「KBA−GIORI」の表示43、および「見本(Specimen)」の表示44、ならびに紙幣の3つの角、右辺、および左辺の触覚パターン45〜49が、ラインオフセットによる背景10、シルクスクリーン印刷によるモチーフ20、21、および帯材料30の上に凹版印刷で印刷されている。凹版印刷の段階に続いて、シリアル番号51、52が印刷され、ニス塗りが行われている。さらに、紙幣見本1が、(本出願の出願人によって供給されているような)シートフィードの印刷および処理設備にて製造され、印刷された各々のシートが、製造プロセスの終わりにおいて個々の紙幣へと最終的に裁断される一続きの複数の紙幣見本を有している(この技術分野における通例である)ことを理解すべきである。
【0020】
図1bは、図1aの紙幣見本の右上角のグレースケール写真であり、ペガサス42を伴った「KBA−GIORI」の凹版印刷によるロゴと、ペガサス42に部分的に重なる45度の1組の平行線を含む触覚パターン45とを、より詳細に示している。凹版印刷の特徴的なエンボスおよびレリーフ効果、ならびに印刷の鮮鋭さをこの写真において明らかに見て取ることができる。
【0021】
図2aは、図1aの肖像画41の左側部分のさらに詳細な図である(パターン20、21、および44も、一部分を図2aにおいて見て取ることができる)。図2bは、肖像画41のうちの図2aにおいて白い四角によって示されている部分(または、関心領域R.o.I.)の拡大図である。図2bは、肖像画41を構成する凹版パターンの特徴的な固有の特徴のいくつかを示している。後の信号処理に用いられる関心領域R.o.I.は、文書の大きな表面領域にわたる必要はない。むしろ、試験により、認証の目的においては5cm未満の表面領域で充分であることが示されている。
【0022】
図3a、3bおよび図4a、4bは、図1aに示した紙幣見本の2つのカラーコピーの図2a、2bと同様のグレースケール画像であり、これらのコピーは、市販のカラーコピー機を使用して生成されている。図3aおよび4aの各々に図示されている白い四角は、それぞれ図3bおよび4bの拡大図に示されている肖像画の関心領域R.o.I.に対応する。図3a、3bに示されている第1のカラーコピーは、Epson社のインクジェットプリンタおよびEpson社の写真紙を使用して生成された。図4a、4bに示されている第2のカラーコピーは、Canon社のインクジェットプリンタおよび普通紙を使用して生成された。高解像度のスキャナを用いて見本の原本をスキャンし、インクジェットプリンタに必要な入力を供給した。
【0023】
両方のカラーコピーの全体的な外観は、元の見本と同様に見えるが、図3bおよび4bに示されているように、肖像画を形成しているコピーされた凹版パターンの構造をよく見ると、これらの構造が元の見本(図2bを参照)と比べて明瞭でなく、インクジェット印刷プロセスおよび使用された紙の性質の結果として、これらの構造がいくらかぼやけ、平滑化して見えることが明らかである。図3bおよび4bに含まれる画像情報は、図2bに示した元の見本の画像情報とは明らかに異なっている。国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットに記載の発明は、図2a、2bの元の真正な見本と図3a、3bおよび図4a、4bのカラーコピーとの間の識別のために、この相違をどのように取り出して活用できるかを定める方法に関する。以下の説明は、この以前の方法の改善に取り組む。
【0024】
上記で示唆したように、凹版印刷によるパターンの固有かつ特徴的な特徴が、特に高い印刷鮮鋭度である一方で、インクジェット印刷によるコピーは、特にデジタル処理および印刷に起因して大幅に低い印刷鮮鋭度を呈する。カラーレーザ印刷によるコピーならびに熱昇華プロセスによって得られるコピーについても、同じことがいえる。この相違は、図2b、3b、および4bの図などの認証すべき候補文書の拡大図(または、関心領域)に含まれる画像データの分解を実施するとともに、ウェーブレット変換(WT)によって見本の画像の分解を実施することにより、かつそのような分解から代表的な分類データを抽出することによって、取り出すことが可能である。セキュリティ文書の信憑性を確認する目的で適用されるウェーブレット変換(WT)の全体的な原理は、国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットにおいて広く検討されており、この国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットの内容は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0025】
ウェーブレットは、所与の関数または信号を種々のスケール成分へと分割するために使用される数学関数である。ウェーブレット変換(wavelet transformationまたはWavelet Transform)(以下では、「WT」という)は、関数または信号のウェーブレットによる表現である。WTは、不連続および鋭いピークを有する関数および信号を表わすうえで、伝統的なフーリエ変換よりも有利である。
【0026】
フーリエ変換が、WTに同化されるべきものではないことを理解すべきである。実際、フーリエ変換は、スケール関して何ら区別することなく、単に処理された画像を、画像の関連する空間周波数成分を表わすスペクトルに変換するにすぎない。
【0027】
ウェーブレット理論は、それ自身は当技術分野でよく知られており、この件についてのいくつかの教本において広く検討および説明されているため、本明細書においては深くは検討しないこととする。興味のある読者は、例えば[Mallat 1989]および[Unser 1995](本明細書の末尾の文献リストを参照)を参照することができる。[Mallat 1989]において検討されているピラミッド構造のWTおよび[Unser 1995]において検討されているシフト不変のWTは、低周波数スケールを成功裏に分解する。しかしながら、テクスチャの大きい部分(class)は、支配的な周波数を中周波数スケールに有している。
【0028】
この欠点を克服するために、本発明は、それ自身は当技術分野で知られているいわゆるウェーブレットパケット変換(以下では、「WPT」と称する)(例えば、[Chang 1993]を参照)を利用する。WPTを特に本発明の文脈において使用することは、以下で説明されるように、国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットに開示された発明に対する改善を構成する。
【0029】
上述のように、紙幣などのセキュリティ印刷物は、主としてラインオフセット、凸版印刷、箔の貼り付け、および凹版印刷によって生成される。特に、凹版印刷に挙げた技法が、紙幣の信頼性において主要な役割を果たす([Dyck 2008]を参照)。用語「凹版(intaglio)」は、イタリア語が起源であり、「彫り込み」を意味する。この名前の印刷方法は、文字および構造が彫り込まれた金属板を使用する。印刷プロセスにおいて、彫り込まれた構造にインクが満たされ、巨大な圧力(1インチあたり数十トン)のもとで紙へと直接押し付けられる([vanRenesse 2005]を参照)。凹版印刷プロセスに特有であり、市販の印刷方法では再現がほぼ不可能である触覚レリーフおよび微細な線が形成される([Schaede 2006]を参照)。凹版印刷は、世界中の貨幣の製造に使用されているため、凹版印刷機および凹版印刷機を所有する企業は、政府機関によって監視されている。
【0030】
信号処理に関して、凹版印刷技法の微細な構造を、特定の範囲の空間周波数を有するテクスチャと考えることができる。したがって、WPTによる検出が可能なはずである。この目的のために、好ましくは不完全WPT([Jiang 2003]を参照)に基づく新たな特徴抽出アルゴリズムが提案される。これは、トップダウン手法に属し、冗長シフト不変およびシフト不変のWPTに適用可能である。このアルゴリズムは、ウェーブレット係数の一次の統計学的モーメントに基づく基準に従って、いわゆるウェーブレット・パケット・ツリーを分解する。
【0031】
WPTは、クラシックなWTの一般化であり、信号の近似(低周波数部分)だけでなく、信号のディテール(高周波数部分)も分解されることを意味する([Zhang 2002]を参照)。これは、図5に概略的に示されるようなツリー構造のWPTをもたらし、クラッシクなWTにおいては分解されない上述の中間および高い空間周波数スケールのより豊かな解像度の分解をもたらす。ツリーの特徴ゆえに、周波数スケールは、ノードまたはサブ画像と称される。各々の分解レベルにおいて、すべての葉ノードは、1つの近似ノードAi,j、ならびに3つのディテールノードcVi,J、cHi,J、およびcDi,Jに分解される。cVi,Jは、垂直ディテールを表わし、cHi,Jは、水平ディテールを表わし、cDi,Jは、斜めディテールを表わし、iは、分解レベルであり、jは、ノード番号である。
【0032】
3つのツリーレベルを有する二次元ツリー構造ウェーブレットパケット変換を示している図5に示されているように、元の画像、すなわち「ルート」A0,0が、近似ノードA1,0(第1のノードなので、j=0)、ならびに3つのディテールノードcV1,1(第2のノードなので、j=1)、cH1,2(第3のノードなので、j=2)、およびcD1,3(第4のノードなので、j=3)に分解される(第1の分解レベルであり、すなわちルートの後の第2のツリーレベルなので、i=1)。次いで、第2のツリーレベルのA1,0、cV1,1、cH1,2、およびcD1,3の各々が、16個のノード(j=0〜15)A2,0、cV2,1、cH2,2、cD2,3、A2,4、cV2,5、cH2,6、cD2,7、A2,8、cV2,9、cH2,10、cD2,11、A2,12、cV2,13、cH2,14、およびcD2,15にさらに分解される(第2の分解レベルであり、すなわち第3のツリーレベルなので、i=2)。
【0033】
二次元WPTに基づく既存のテクスチャ分析法の大部分は、テクスチャ化された画像が同じ視点から得られていると明示的に仮定し、あるいは暗黙裏に仮定している([Coifman 1992]を参照)。多くの実際の応用においては、この限定を保証することはほとんど不可能である。したがって、シフト不変のWPTがきわめて望ましい。二次元WPTの伝統的な実施例においては、信号が最初にウェーブレットフィルタによって畳み込まれ、次いでダウンサンプリングされる。分解された信号の長さは、元の信号の1/4倍であり、ここでiは、やはり分解レベルである。ダウンサンプリングは、[Mallat 1989]において検討されているとおりのシフト可変信号表現をもたらす。[Shensa1992]に記載の別の手法は、各レベルでのダウンサンプリングを省略することによってシフト不変の変換をもたらす。この方法の大きな重荷は、きわめて冗長な信号表現ゆえの高い演算の負荷である。これらの欠点に鑑み、一次元シフト不変WPT(または、「SIWPT」)が提案された。これは、Δ個のサンプルの任意の信号変換が、各々の分解レベルにおけるダウンサンプリングゆえに、mod(Δ,2)(ここでmod(x,y)は、いわゆるモジューロ関数を指す)によって境界付けられるということに基づいている。したがって、シフト不変の表現を、近似ノードおよびディテールノードの下記の式[1]および[2]によって定められる非シフトバージョン、ならびに下記の式[3]および[4]によって定められる1画素シフトバージョンの分解によって達成することができる。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【0034】
両方のバージョンは、ダウンサンプリングされ、任意のウェーブレットフィルタg[n]およびh[n]によって畳み込まれる。h[n]およびg[n]は、それぞれ低域通過および高域通過のウェーブレットフィルタである([Mallat 1989]および[Daubechies 1992]を参照)。
【0035】
より多くの情報コンテンツを有するバージョンが、情報コンテンツ基準(後述)に基づいて特定され、さらに分解される一方で、他方のバージョンはアップキャスト(upcast)される。アップキャストによって、非冗長な表現および高速な実行時間がもたらされる。フィルタバンクとしての一次元SIWPTの実施例が、図6に示されている。上述のように、各々のツリーレベルにおいて、非シフトおよび1画素シフトのバージョンが、分解およびダウンサンプリングされる。情報コンテンツ基準に基づき、一方のバージョンがさらに分解される一方で、他方のバージョンは破棄される。
【0036】
上述の方法は、もっぱら一次元の信号について定められている。本発明の文脈においては、SIWPTが、画像などの二次元信号に合わせて変更されている。得られる二次元SIWPT(または、「2D−SIWPT」)は、最初に該当のノードの4つの異なるシフトのバージョンを分解する。得られる情報コンテンツに基づき、4つのバージョンのうちの3つが破棄される一方で、最高の情報コンテンツを有するバージョンが、さらに分解される。行われた実験によれば、シフト不変のWPTの間の特徴の安定性および品質に差は存在しない。
【0037】
上述のように、WPTは、すべての周波数スケールにおけるテクスチャの完全な特徴把握を可能にする。しかしながら、分解レベルが増えるにつれて、ノード(または、サブ画像)の数が指数関数的に増加する。これは、実行時間を大幅に下げ、したがって最も関連のあるノードだけに集中する方法が考え出された。
【0038】
テクスチャの分析においては、完全なウェーブレット・パケット・ツリー分解を達成することは、通常は不要である。代わりに、最良の空間周波数解像度および最大の情報コンテンツをそれぞれもたらすノードに集中することが、より重要である。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、WPTが情報コンテンツ基準に従って分解され、結果として不完全WPTがもたらされる。[Chang 1993]、[Jiang 2003]、[Coifman 1992]、[Saito 1994]、[Wang 2008]、および[Wang 2000]などの最もよく知られた方法の大部分は、この目的のために、画像のエントロピまたは平均エネルギを使用している。[Choi 2006]が、紙幣の種々の金種を分類するために、WTに一次統計を適用している。
【0039】
大域的な観点からは、上述の印刷プロセスによって印刷されたテクスチャは、ほとんど区別が不可能である。エントロピまたはエネルギに基づく方法は、異なるテクスチャを分離するように設計されており、それらを満足できる結果で区別することができない。したがって、別の手法が必要である。さまざまな印刷によるテクスチャは、それらのグレースケールの推移および不連続においてそれぞれ異なっている。特に、凹版印刷によるテクスチャの不連続が、市販の印刷物の不連続と比べてより顕著である。この相違を、国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットにおいて検討されているように、ウェーブレット係数の分散および過剰によって明らかにすることができる。
【0040】
図7が、凹版印刷によるテクスチャ(左側)、および市販の印刷によるテクスチャ(右側)について、本発明による1レベル2D−SIWPTの後のウェーブレット係数の正規化されたヒストグラムを示している(国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットの図12〜図20、および関連の説明も参照されたい)。凹版印刷のきわめて不連続な構造が、中間および高いウェーブレット係数への重み付けをもたらしている一方で、市販の印刷のヒストグラムは、狭く分布しており、小さい係数へと重み付けられている。異なる印刷技法の間の最良の分離に、この特定の場合においては、サブ画像のコントラストが最大化されるまでツリーが分散および過剰に向けて分解される場合に、到達することができる。したがって、該当のサブ画像がテクスチャを可能な限り最良なやり方で表わしていると仮定することができる。
【0041】
製造公差およびデジタル化のプロセスに鑑み、テクスチャが、追加のノイズによって影響される可能性がある。ノイズが小さなウェーブレット係数によって表わされる([Fowler 2005]を参照)ことに鑑み、ノイズのあるテクスチャのヒストグラムは広く分布する。
【0042】
上述の両方の特性は、3段階の停止基準1〜3につながる。
1.分解の最中に分散が低下する場合、サブ画像のコントラストがより低くなると考えられるため、分解を停止させるべきである。
2.分散が少なくとも過剰の低下と同じ程度で大きくなる場合、先のレベルの小さなウェーブレット係数の方が大きくなると考えられるため、サブ画像のノイズが少なく、したがってさらに分解されるべきであり、この基準を下記の式[5]のように公式化することができる。
【数5】

3.分解の際に分散および過剰の両方が大きくなる場合、サブ画像のコントラストが高められると考えられ、したがってツリーをさらに分解すべきである。
【0043】
さらに、サブ画像のサイズが、16×16の係数という経験的に決定される値よりも小さい場合、分散および過剰が、サンプル間で広くばらつく可能性がある。結果として、特徴が不安定になりかねない([Chang 1993]を参照されたい)。したがって、このサブ画像サイズを、好ましくは、全体的な停止基準として使用すべきである。
【0044】
上述の情報コンテンツおよび停止基準に基づく新規なアルゴリズムの考え方を、次に提示する。そのような考え方は、テクスチャ分析においては、最良の空間周波数解像度をもたらすツリーの分岐だけが重要であるという仮定に基づく。ツリーの特性の以下の調査は、いわゆる最良分岐アルゴリズム(BBA)につながる。
【0045】
ディテールノードは、その名前が示唆するように、テクスチャの具体的または詳細な特徴を含む。したがって、たとえテクスチャが類似していても、この情報によって区別をつけることが可能である。最も左側のツリーの分岐(いわゆる、近似分岐)の近似ノードは、低い周波数の情報しか含んでいない。したがって、近似分岐の情報コンテンツによって種々の印刷技法を見分けることがほとんど不可能であり、したがって、そのような近似分岐は、特徴抽出に使用されるべきではない。理論的には、それらの子供(中間の周波数スケールのうちの低い部分を表わす)が、最良の空間周波数解像度をもたらす可能性がある。この情報を、近似ノードから直接抽出することはできない。この理由で、近似ノードは、それらの子供がツリー全体の最良の空間周波数解像度を与える限りにおいて、分解されなければならない。実行時間を高速にするために、最良の空間周波数解像度を有するディテール分岐に集中し、さらに近似分岐の子供が最良のディテール分岐よりも良好な情報をサポートする限りにおいてそのような近似分岐に集中することが、有利である。次の分解レベルのディテール分岐の評価のために、現在のレベルの最高の情報コンテンツを有するノード、いわゆる最良ノードを調査しなければならない。同じツリーレベルのサブ画像の過剰は、ほぼ等しいため、最良のディテールノードを最高の分散によって決定することができる。
【0046】
以下の表が、最良分岐アルゴリズムについて可能な実施例を要約している。
【表1】

【0047】
図8が、上述の最良分岐アルゴリズムを使用して分解された不完全ウェーブレット・パケット・ツリーを概略的に示している。強調表示されているノードが、それぞれの分解レベルの最良ノード(cB、cB、cB)として特定され、破線で表わされているノードは、分解の最中に破棄されたノードである。第3の分解レベルのディテール分岐が、テクスチャの特徴をほぼ最適に表わしている。
【0048】
したがって、図8の図において、第1の分解レベル(i=1)の最良ノードcBが、この説明用の例においては、斜めのディテールを含むノード(cD1,3)であると決定され、すなわち同じ分解レベルの他のディテールノード(cV1,1およびcH1,2)と比べて最大の分散を呈するノードであるとして決定されることを理解されるであろう。
【0049】
次の分解レベル(i=2)においては、第1の分解レベルの近似ノードA1,0および最良ノードcBだけが、どのノードが最良の情報コンテンツにつながるかを判断するためにさらに分解される。図8の例に示されているとおり、近似ノードA1,0のさらなる分解が、第2の分解レベルの最良ノードcBの特定につながる。この例では、第2の分解レベル(i=2)の最良ノードcBが、この説明用の例においては、近似ノードA1,0のさらなる分解からもたらされる斜めのディテールを含むノードcD2,3であると決定され、すなわち同じ分解レベルの他のディテールノード(cV2,1、cH2,2、cV2,13、cH2,14、およびcD2,15)と比べて最大の分散を呈するノードであるとして決定される。この例では、先に発見された最良ノードcB(すなわち、ディテールノードcD1,3)のさらなる分解により、ノードA2,12、cV2,13、cH2,14、およびcD2,15がもたらされるが、これらのノードは、破線にて示されるとおり、後に破棄される。
【0050】
続く分解レベル(i=3)においては、第2の分解レベルの近似ノードA2,0および最良ノードcBだけが、やはりどのノードが最良の情報コンテンツにつながるかを判断するためにさらに分解される。この場合には、第3の分解レベル(i=3)の最良ノードcBが、先の最良ノードcBのさらなる分解からもたらされる水平のディテールを含むディテールノード(cH3,14)であると特定され、すなわち同じ分解レベルの他のディテールノード(cV3,1、cH3,2、cD3,3、cV3,13、およびcH3,15)と比べて最大の分散を呈するノードであるとして特定される。この例では、近似ノードA2,0のさらなる分解により、ノードA3,0、cV3,1、cH3,2、およびcD3,3がもたらされるが、これらのノードは、破線にて示されるとおり、後に破棄される。
【0051】
図8は、第3の分解レベルの最良ノードcBのさらなる分解が、特徴のさらに最適な表現につながらず、したがって分解が停止されることを示している。結果として、第3のレベルのディテール分岐が、特徴抽出のために選択される。
【0052】
本出願の出願人が製造した900個のテクスチャからなるセットについて、実験を実行して調査を行った。このセットの一部は、セキュリティ文書、特に、紙幣の製造に使用されるとおりの凹版印刷によって製造されている。このセットの残りの部分は、とりわけ新聞の印刷に使用されるような市販のオフセット印刷によって製造されている。この残りの部分を、高品質の印刷物と、追加のノイズによって影響された中程度の品質の印刷物とに、さらに分けることができる。市販の印刷による高品質のテクスチャおよび中程度の品質のテクスチャのどちらも、訓練されていない人間の眼では、凹版印刷によるテクスチャとの区別がほとんど不可能である。テクスチャは、製造公差に起因して数画素だけ平行移動かつ/または回転している。テクスチャを1200dpiの解像度でスキャンし、グレースケール画像へと変換した。セットは、図9に示したとおりの256×256画素の画像サイズを有する6つの異なるテクスチャで構成されている。図9に示されるとおり、テクスチャは、コントラスト、グレースケールの推移のラチチュード、および構造において異なっている。それらは、凹版印刷によって製造される最も一般的なセキュリティ印刷構造の代表例である。
【0053】
図9に示すべてのテクスチャ1〜6を、いわゆるDaubechiesの2タップウェーブレット(または、db2([Daubechies 1992]を参照))を用いた上述の二次元シフト不変ウェーブレットパケット変換(2D−SIWPT)により、上述の最良分岐アルゴリズム(BBA)を採用することによって分解した。
【0054】
分離結果の評価のために、抽出された特徴を、0〜1の間の値の一様な範囲へと正規化した。図10が、最初の3つの分解レベル(図10の水平軸に示されている)について、凹版印刷によるテクスチャならびに市販のオフセット印刷による中程度および高品質のテクスチャの間のクラス間およびクラス内距離をそれぞれ示している。破線が、最良分岐アルゴリズムによって分解が停止されたそれぞれの分解レベルを強調している。
【0055】
図10において、最良分岐アルゴリズムが、100%の割合にて凹版印刷によるテクスチャならびに市販のオフセット印刷による中程度および高品質のテクスチャの間の最良のクラス間距離を達成するレベルで分解を停止させたことを見て取ることができる。市販のオフセット印刷による中程度および高品質のテクスチャの対応するクラス内距離は、約60%の割合で大部分の場合に最小化される。たとえクラス内距離が、調査した900個のテクスチャのすべてにおいて最小化されていなくても、クラスが狭く分布していることを見て取ることができる。したがって、BBAは、平均で、クラスが最良に分離されて広がりが最低であるレベルで停止している。
【0056】
図10は、最良分岐アルゴリズム(BBA)が、調査した900個のテクスチャのすべてについて、それらの特徴が最もよく表わされるレベルで分解を停止させることを実証している。このやり方で、最良のクラス間距離に100%の割合で到達できる。たとえクラス内距離がすべての場合において最小に達しなくても、クラスの集団は、図11に概略的に示されるように依然として狭く分布している。
【0057】
図11は、それぞれのテクスチャがBBAを用いた分解から得られたウェーブレット係数の分布の分散σ(図11の横軸)および過剰C(図11の縦軸)に基づいて分類された二次元特徴空間を示している。
【0058】
図11の左下角に位置する円が、市販のオフセット印刷による中程度の品質のテクスチャを示している一方で、図11の下方の真ん中に位置する菱形が、市販のオフセット印刷による高品質のテクスチャを示している。図11の右上角に位置する正方形が、凹版印刷によるテクスチャを示している。
【0059】
すでに述べたように、図11は、BBAが、平均で、クラスが最良に分離されて広がりが最小であるレベルで停止することを示している。これは、直線状の境界を使用して種々のクラスの集団を簡単に分離することを可能にする。
【0060】
この分離結果は、遷移および変化するコントラストなどの製造公差と無関係である。実際、図9に示したすべての調査対象の特徴は、たとえコントラスト、グレースケールの推移のラチチュード、および構造において明確に異なっていても近くに集められる。ツリーにおける最良分岐の位置が、サンプルごとに幅広くさまざまでありうることが、明らかになっている。したがって、BBAによって発見される個々のノード位置を、通常は分類用の特徴として使用すべきではない。
【0061】
BBAに基づく不完全2D−SIWPTの実行時間は、O(log2(N))として定めることができ、ここでN=M×Mは、テクスチャ画像のサイズであり、この実行時間は、例えばフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)での実際の実施に完璧に適している。
【0062】
ここに提案されるセキュリティ文書、特に、紙幣に印刷された種々のテクスチャを見分けるための不完全二次元シフト不変ウェーブレットパケット変換は、セキュリティ文書、特に、紙幣の信憑性の確認という目標を達成するためのきわめて良好な性能を実証した。この手法は、特に凹版印刷によるパターンを検出するために、紙幣などのセキュリティ文書に印刷、貼り付け、または他の方法で設けられたセキュリティ特徴を特にロバストに検出するためにきわめて適している。
【0063】
分散σ(および、標準偏差σ)および過剰C(または、過剰尖度)の他に、さらなる統計パラメータ、すなわち
ウェーブレット係数の算術平均(統計学において、1次モーメントとも称される)、
統計的分布の非対称さの指標であるウェーブレット係数の統計的分布の歪度(統計学において、3次モーメントとも称される)、および/または
統計的分布の変化の指標である統計的エントロピ
を、ウェーブレット係数の統計的分布の特徴を表わすために使用することができる(国際公開第2008/146262(A2)号パンフレットの図13および関連の説明も参照されたい)。
【0064】
特徴抽出の目的において、上に挙げたモーメント(分散を含む)は、さまざまな候補文書の適切な比較および分類を可能にするために、正規化されるべきである。
【0065】
図21は、上述の方法に従ってセキュリティ文書、特に、紙幣の信憑性を確認するための装置の実施例を概略的に示している。この装置は、認証すべき候補文書1の関心領域R.o.I.のサンプル画像(画像c)を取得するための光学システム100と、サンプル画像のデジタル処理を実行するようにプログラムされたデジタル信号処理(DSP)ユニット200とを備える。DSP200は、特に、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)ユニットとして有利に実装することができる。
【0066】
図12の装置を、特にスマートフォンなど、画像取得の能力と組み合わされた携帯電子デバイスの形態で具現化することができる。
【0067】
上述した発明を、セキュリティ文書、特に、紙幣に印刷、貼り付け、または他の方法で設けられたセキュリティ特徴(特に、凹版印刷によるパターン)を単に検出するために適用できることを理解されるであろう。
【0068】
上述のように、分類用の特徴は、好都合には、サンプル画像の分解からもたらされるウェーブレット係数の統計的分布の算術平均、分散(σ)、歪度、過剰(C)、およびエントロピを含むグループから選択される統計パラメータであってよい。
【0069】
この方法が、抽出された分類用の特徴に基づく候補文書の信憑性の格付けの判定をもたらすことができることをさらに理解すべきである。上述の方法によって計算されるそのような信憑性の格付けは、セキュリティ文書に印刷、貼り付け、または他の方法で設けられるセキュリティ特徴を、本物の文書の信憑性の格付けを最適にするようなやり方で設計することによって最適にすることができる。
【0070】
そのような最適化を、特に、凹版印刷によるパターン、ラインオフセットによるパターン、凸版印刷によるパターン、光学的回折の構造、および/またはこれらの組み合わせに働きかけることによって達成することができる。例えば、図2bに示されているような高密度のパターン、好ましくは凹版印刷による直線状または曲線状のパターンが、特に望ましいと考えられる。
【0071】
添付の特許請求の範囲によって定められるとおりの本発明の技術的範囲から逸脱することなく、上述の実施形態について、さまざまな変更および/または改良を加えることができる。
【0072】
例えば、すでに述べたように、認証の原理は、好ましくは凹版印刷によるパターンを含む(あるいは、含むと推定される)画像の処理に基づくが、本発明を、セキュリティ文書の製造に使用されるプロセスに特有の特徴的な視覚的特徴を含む他のセキュリティ特徴(特に、ラインオフセットによるパターン、凸版印刷によるパターン、光学的回折の構造、および/またはこれらの組み合わせ)を含む画像の処理にも同様に適用することができる。
【0073】
さらに、スペクトル係数の統計的分布の処理を、調査対象のテクスチャがどのクラスに分類されるかを決定するための分類用の特徴の抽出のためのやり方として説明したが、そのような処理が、調査対象のセキュリティ特徴を充分に表わしており、本物の文書を偽物から効率的に区別できる特徴の取り出しおよび導出を可能にする限りにおいて、任意の他の適切な処理を想定することができる。
当然ながら、本発明に従って同じ候補文書のいくつかの関心領域に対応する複数のサンプル画像をデジタル的に処理することができる。いずれにせよ、各々の関心領域が、好ましくは高密度のパターンを含むように選択され、好ましくは例えば図2b(図9も参照)に示されているような凹版印刷による直線状または曲線状のパターンを含むように選択される。
【0074】
引用文献
[Mallat 1989] Stephane G.Mallat著、“A Theory for Multiresolution Signal Decomposition: The Wavelet Representation”、IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence、第11巻、第7号、1989年7月7日、pp.674−693
[Unser 1995] Michael Unser著、“Texture classification and segmentation using wavelet frames”、IEEE Transactions on Image Processing、第4巻、第11号、1995年11月、pp.1549−1560
[Chang 1993] Tianhorng Chang、およびC−C.Jay Kuo著、“Texture Analysis and Classification with Tree−Structured Wavelet Transfrom”、IEEE Transactions on Image Processing、第2巻、第4号、1993年10月、pp.429−441
[Dyck 2008] Walter Dyck、Thomas Tuerke、Johannes Schaede、およびVolker Lohweg著、“A New Concept on Quality Inspection and Machine Conditioning for Security Prints”、Optical Document Security、2008 Conference on Optical Security and Counterfeit Deterrence(San Francisco、CA、USA)、Reconnaissance International Publishers and Consultants 、2008年1月23−25日、IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence、第11巻、第7号、1989年7月7日、p9、 CD−ROM版
[vanRenesse 2005] Rudolf L.van Renesse著、 “Optical Document Security”、第3版、2005年、Artech House Boston/London、 Artech House Optoelectronics Library (ISBN 1−58053−258−6)、pp.115−120
[Schaede 2006] Johannes Schaede、およびVolker Lohweg著、“The Mechanisms of Human Recognition as a Guideline for Security Feature Development”、Optical Security and Counterfeit Deterrence Techniques VI、Rudolf L.van Renesse編、Proceedings of SPIE−IS & T Electronic Imaging、SPIE 第6075巻、2006年、pp.607507−1〜607507−10
[Jiang 2003] Xiao−Yue Jiang、およびRong−Chuan Zhao著、“Segmentation Based on Incomplete Wavelet Packet Frame”、IEEE Proceedings of the Second International Conference on Machine Learning and Cybernetics、Xi’an 2003年11月2−5日、pp.3172−3177
[Zhang 2002] Jianguo Zhang、およびTieniu Tan著、“Brief Review of Invariant Texture Analysis Methods”、Pattern Recognition Society、35、2002年、pp.735−747
[Coifman 1992] Ronald R.Coifman、およびMladen Victor Wickerhauser著、“Entropy−Based Algorithms for Best Basis Selection”、IEEE Transactions on Information Theory、第38巻、第2号、1992年3月、pp.713−718
[Shensa 1992] Mark J.Shensa著、“The Discrete Wavelet Transfrom: Wedding the A Trous and Mallat Algorithms”、IEEE Transactions on Signal Processing、第40巻、第10号、1992年10月、pp.2464−2482
[Daubechies 1992] lngrid Daubechies著、“Ten Lectures on Wavelets”、CBMS−NSF Regional Conference Series in Applied Mathematics 61、SIAM (Society for Industrial and Applied Mathematics)、第2版、1992年、ISBN 0−89871−274−2
[Saito 1994] Naoki Saito著、“Local Feature Extraction and its Applications using a Library of Bases”、PhD Thesis, Yale University、1994年12月
[Wang 2008] Qiong Wang、Hong Li、およびJian Liu著、“Subset Selection Using Rough Set in Wavelet Packet Based Texture Classification”、Proceedings of the 2008 International Conference on Wavelet Analysis and Pattern Recognition(Hong Kong)、2008年8月30−31日、pp.662−666
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[Choi 2006] Euisun Choi、Jongseok Lee、およびJoonhyun Yoon著、“Feature Extraction for Bank Note Classification Using Wavelet Transform”、IEEE Proceedings of the 18th International Conference on Pattern Recognition、ICPR’06、2006年、pp.934−937
[Fowler 2005] James E.Fowler著、“The Redundant Discrete Wavelet Transform and Additive Noise”、IEEE Signal Processing Letters、第12巻、第9号、2005年9月、pp.629−632

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セキュリティ特徴(41〜49;30;10;51、52)が印刷、貼り付け、または他の方法で設けられている真正なセキュリティ文書、特に紙幣であって、前記セキュリティ特徴が、前記セキュリティ文書の製造に使用されるプロセスに固有の特徴的な視覚的特徴を備える真正なセキュリティ文書に関し、前記セキュリティ文書の信憑性を認証する方法であって、
認証すべき候補文書の表面のうちの前記セキュリティ特徴の少なくとも一部分を包含する少なくとも1つの関心領域(R.o.I.)のサンプル画像をデジタル的に処理するステップを含み、
前記デジタル的な処理が、前記サンプル画像のウェーブレット変換(WT)による前記サンプル画像の分解の実行を含む方法において、
前記サンプル画像の前記分解が、前記サンプル画像のウェーブレットパケット変換(WPT)に基づくことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ウェーブレットパケット変換(WPT)が、二次元シフト不変ウェーブレットパケット変換(2D−SIWPT)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプル画像の前記分解が、不完全ウェーブレットパケット変換に基づく請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプル画像の前記分解が、少なくとも1つの近似ノード(Ai,j)とディテールノード(cVi,j、cHi,j、cDi,j)とを含むウェーブレット・パケット・ツリーへと前記サンプル画像を分解し前記ウェーブレット・パケット・ツリーにおいて最高の情報コンテンツを有する前記ディテールノードを探すことを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記最高の情報コンテンツを有する前記ノードが、最良分岐アルゴリズム(BBA)に基づいて決定される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記最良分岐アルゴリズム(BBA)が、
前記サンプル画像を少なくとも第1の分解レベル(i=1)へと分解すること、
前記第1の分解レベルの前記ディテールノード(cV1,1、cH1,2、cD1,3)のなかから前記最高の情報コンテンツを有する前記ディテールノード、すなわち最良ノード(cB)を決定すること、および
前記第1の分解レベルの前記近似ノード(A1,0)および前記最良ノード(cB)を少なくとも第2の分解レベルへとさらに分解すること
を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記最高の情報コンテンツを有する前記ノードが、所与の分解レベル(i)のノードのうちの最高の分散(σ)を呈する前記ノードとなるように決定される請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記同じ候補文書のいくつかの関心領域(R.o.I.)に対応する複数のサンプル画像をデジタル的に処理することを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの関心領域(R.o.I.)が、高密度のパターン、好ましくは凹版印刷による直線状または曲線状のパターン(図2b、図9)を含むように選択される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの関心領域(R.o.I.)が、前記候補文書に設けられた肖像画などの絵による表現のパターン(図2a、図2b)を含むように選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプル画像の前記分解から分類用の特徴(σ、C、・・・)を抽出することをさらに含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記分類用の特徴(σ、C、・・・)が、前記サンプル画像の前記分解からもたらされるウェーブレット係数の統計的分布の算術平均(統計学における一次モーメント)、分散(σ、統計学における二次モーメント)、歪度(統計学における三次モーメント)、過剰または尖度(C、統計学における四次モーメント)、およびエントロピで構成されるグループから選択される統計パラメータである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抽出された分類用の特徴(σ、C、・・・)に基づいて前記候補文書の信憑性の格付けを導出するステップをさらに含む請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
セキュリティ文書、特に紙幣を製造するための方法であって、
前記セキュリティ文書に印刷、貼り付け、または他の方法で設けられるセキュリティ特徴を設計するステップを含み、
前記セキュリティ特徴が、請求項13に記載の方法に従って決定される真正な文書の信憑性の格付けを最適にするようなやり方で設計される方法。
【請求項15】
前記セキュリティ特徴が、高密度のパターン、好ましくは凹版印刷による直線状または曲線状のパターン(図2b、図9)を含むように設計される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法に従って認証すべき候補文書(1)の表面の少なくとも1つの関心領域(R.o.I.)のサンプル画像の画像データを処理するためのデジタル信号処理ユニット(200)であって、
前記サンプル画像の前記デジタル処理を実行するようにプログラムされているデジタル信号処理ユニット(200)。
【請求項17】
FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)ユニットとして実現される請求項16に記載のデジタル信号処理ユニット(200)。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法に従ってセキュリティ文書、特に紙幣の前記信憑性を認証するための装置であって、
前記関心領域(R.o.I.)の前記サンプル画像を取得するための光学システム(100)と、前記サンプル画像の前記デジタル処理を実行するようにプログラムされたデジタル信号処理ユニット(200)とを備える装置。
【請求項19】
前記デジタル信号処理ユニット(200)が、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)ユニットとして実現される請求項18に記載の装置。
【請求項20】
スマートフォンなどの画像取得の能力と組み合わされた携帯電子デバイスとして実現された請求項18または19に記載の装置。
【請求項21】
セキュリティ文書、特に紙幣の前記認証のためのウェーブレットパケット変換(WPT)の使用。
【請求項22】
前記ウェーブレットパケット変換(WPT)が、二次元シフト不変ウェーブレットパケット変換(2D−SIWPT)である請求項21に記載の使用。
【請求項23】
不完全ウェーブレットパケット変換を伴う請求項21または請求項22に記載の使用。
【請求項24】
セキュリティ文書、特に紙幣に、印刷、貼り付け、または他の方法で設けられたセキュリティ特徴(41〜49;30;10;51、52)であって、セキュリティ文書の製造に使用されるプロセスに固有の特徴的な視覚的特徴を備えるセキュリティ特徴(41〜49;30;10;51、52)を検出するための方法であって、
候補文書の前記表面のうちの前記セキュリティ特徴(41〜49;30;10;51、52)の少なくとも一部分を含むように選択される少なくとも1つの関心領域(R.o.I.)のサンプル画像をデジタル的に処理するステップを含み、
前記デジタル的な処理が、前記サンプル画像のウェーブレット変換(WT)による前記サンプル画像の分解の実行を含む方法において、
前記サンプル画像の前記分解が、前記サンプル画像のウェーブレットパケット変換(WPT)に基づくことを特徴とする方法。
【請求項25】
前記ウェーブレットパケット変換(WPT)が、二次元シフト不変ウェーブレットパケット変換(2D−SIWPT)である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記サンプル画像の前記分解が、不完全ウェーブレットパケット変換に基づく請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記サンプル画像の前記分解が、
少なくとも1つの近似ノード(Ai,j)とディテールノード(cVi,j、cHi,j、cDi,j)とを含むウェーブレット・パケット・ツリーへと前記サンプル画像を分解すること、および前記ウェーブレット・パケット・ツリーにおいて前記最高の情報コンテンツを有するディテールノードを探すことを含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記最高の情報コンテンツを有する前記ノードが、最良分岐アルゴリズム(BBA)に基づいて決定される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記最良分岐アルゴリズム(BBA)が、
前記サンプル画像を少なくとも第1の分解レベル(i=1)へと分解すること、
前記第1の分解レベルの前記ディテールノード(cV1,1、cH1,2、cD1,3)のなかから前記最高の情報コンテンツを有する前記ディテールノード、すなわち最良ノード(cB)を決定すること、および
前記第1の分解レベルの前記近似ノード(A1,0)および前記最良ノード(cB)を少なくとも第2の分解レベルへとさらに分解すること
を含む請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記最高の情報コンテンツを有する前記ノードが、所与の分解レベル(i)の前記ノードのうちの前記最高の分散(σ)を呈するノードとなるように決定される請求項27〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
凹版印刷によるパターン(41〜49)を検出するための請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−501994(P2013−501994A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524327(P2012−524327)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053638
【国際公開番号】WO2011/018764
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(591031371)カーベーアー−ノタシ ソシエテ アノニム (54)
【Fターム(参考)】