説明

セキュリティ文書

【課題】外部の読み書き装置と非接触でデータの送受信を行うRFIDを内蔵するセキュリティ文書であって、それらの偽造、改竄を防ぐ構成が要望されている。
【解決手段】RFIDを内蔵するセキュリティ文書であって、第一の基材上には印刷層が設けられ、前記第一の基材の下には接着層と、保護層と、光学機能層と、パターン化された第一の導電層と該導電層下に位置するマスク層と、前記第一の導電層と静電容量的に結合するパターン化された第二の導電層と、前記第二の導電層に跨って電気的に接続するICチップと、接着層と、第二の基材と、がこの順に積層されたセキュリティ文書であって、前記第一の基材には、一個または複数個の開口部が備えられ、前記光学機能層が前記開口部を通して目視できることを特徴とするセキュリティ文書である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な視覚効果を呈する光学変化デバイスを備え、外部のデータ読み取り装置との間で非接触でデータの送受信をすることができる、RFID(Radio Frequency Idenification)を内蔵したセキュリティ文書に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小売店やレンタル店等における商品管理に、ICチップとアンテナとを備えたRFIDが使用されている。これは、管理すべき商品にRFIDを取り付け、専用のデータ読み書き装置でICチップに格納されたデータを読み書きし、商品の出入庫管理、在庫管理、貸し出し管理等を行うものである。ICチップを備えている為、商品コードだけでなく、入荷日、担当者等の豊富な情報を商品と一体で記録管理することができる。
【0003】
RFIDが普及するにつれ、RFIDに光学変化デバイス(Optical Variable Dvice:以下、「OVD」と称する。)を組み合わせることが行われている。OVDとは、光の干渉を用いて立体画像や特殊な装飾画像を表現できるホログラムや回折格子、光学特性の異なる薄膜を重ねることにより見る角度により色の変化を生じる多層薄膜の総称である。これらOVDは立体画像や色の変化といった独特な印象を与えるため、優れた装飾効果を有しており、各種包装材や絵本、カタログ等の一般的な印刷物に利用されている。セキュリティ関連については、OVDは高度な製造技術を要することから偽造防止手段として使用され、同様な意味でクレジットカード、有価証券、証明書類等にも利用されている。
【0004】
上述のRFIDのデータ読み書き機能とOVDの偽造防止機能や装飾効果を組み合わせることによって、より高レベルの偽造防止効果を実現したり、偽造防止効果又は装飾効果と商品管理機能を併せ持つラベルを構成したりすることができる等の利点がある。
【0005】
一例として、特許文献1では、ホログラム加工を施した金属薄膜の一部をエッチング、レーザ照射などにより除去し残った導電性金属部分をアンテナパターンとした非接触型データ送受信体が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、ホログラム加工を施したパターン状金属薄膜と、この金属薄膜上に絶縁層を介してICチップとICチップに接続されたアンテナ層(接続層)を設け、アンテナ層(接続層)と金属薄膜を容量結合で電気的に接続することでアンテナ層と金属薄膜が共同して一つのアンテナとして機能し良好な通信が可能となるRFID情報媒体が提案されている。
【0007】
前述のOVD付きRFIDをラベル化して、そのラベルをセキュリティ文書に貼り付けることで偽造、改竄を防ぐことが提案されているが、熱や溶剤を用いてラベルの粘着剤を溶融あるいは溶解させてセキュリティ文書からラベル剥がし、偽造したセキュリティ文書に剥がしたラベルを再び貼り付けるといった、不正行為による貼り替えができてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−42088号公報
【特許文献2】WO2008/038672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セキュリティ文書に付けられたOVD付きRFIDの不正な貼り替えを防止する技術を提供することにある。また本発明のセキュリティ文書の主な用途しては、パスポート、有価証券、証明書、保証書、カード等がその対象となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するための請求項1に係る発明は、外部の読み書き装置と非接触でデータの送受信を行うRFIDを内蔵するセキュリティ文書であって、第一の基材上には印刷層が設けられ、前記第一の基材の下には接着層と、保護層と、光学機能層と、パターン化された第一の導電層と該導電層下に位置するマスク層と、前記第一の導電層と静電容量的に結合するパターン化された第二の導電層と、前記第二の導電層に跨って電気的に接続するICチップと、接着層と、第二の基材と、がこの順に積層されたセキュリティ文書であって、前記第一の基材には、一個または複数個の開口部が備えられ、前記光学機能層が前記開口部を通して目視できることを特徴とするセキュリティ文書である。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記光学機能層が前記開口部を通して目視できる部分と、目視できない部分とを、前記開口部の縁を跨いで文字、図形等の型押し(エンボス)がされていることを特徴とする請求項1に記載のセキュリティ文書である。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記光学機能層が前記開口部を通して目視できる部分と、目視できない部分とを、前記開口部の縁を跨いで全ての層を貫通するパンチ穴で文字、図形等の表現がされていることを特徴とする請求項1に記載のセキュリティ文書である。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記第二の導電層は、導電性ペーストインキであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のセキュリティ文書である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセキュリティ文書は、OVD付きRFIDラベルが簡単に貼り替えられてしまうという不正行為の課題に対して、セキュリティ文書の厚み方向の内層部にOVD付きRFIDを設けることで、不正な貼り替えを困難にするセキュリティ文書が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のセキュリティ文書の一例の上面図である。
【図2】セキュリティ文書の上面透視図である。
【図3】セキュリティ文書(図1、図2)のA−A線における断面視の図として表現したものである。
【図4】図1のセキュリティ文書にエンボス加工を施した上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の一例であるRFIDを内蔵したセキュリティ文書(以下、単に「セキュリティ文書」と称する)について、図1から図4を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明のセキュリティ文書1の一例の上面図である。中央に位置する楕円形状は、セキュリティ文書1を構成する層構造において、表面に位置する第一の基材に開けられた開口部4であり、その内側にはホログラムでデザインされたOVD2の絵が見えている。楕円形状の外側のアルファベット文字は、印刷層3で描かれた文字である。
【0018】
図2はセキュリティ文書の印刷層3のアルファベット文字を外した上面透視図である。
セキュリティ文書1に内装されたRFIDの造形が見えている。印刷アンテナ5にはICチップ6が実装されており、楕円形状の開口部4からはアンテナでもあるOVD2の一部が見える構造となっている。
【0019】
図3は図1および図2のA−A線における断面の図である。上部に位置する第一の基材12には楕円形状の開口部4が開けられており、その上面には印刷層3が下面には接着層10が設けられている。
【0020】
第一の基材12および第二の基材13の材料としては、一般的な紙類、樹脂等であればポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂(ABS)などあげられる。
【0021】
接着層10の下面にはOVDの反射膜をICチップのアンテナとしたRFID部が形成されており、このRFID部は上層より下層に向かって保護層7、光学機能層8、第一の導電層(反射膜)9、マスク層(絶縁層)11、第二の導電層の印刷アンテナ5、ICチップ6の順に各層が構成されている。
【0022】
保護層7は基材12の楕円形状の開口部4から露出する層であり、下面のOVD機能を保護するために機械的損傷や携帯時の擦り等の外部損傷、生活物質(酒、水等)に対する耐性を備えた層である。用いられる材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂等の有機高分子樹脂であって、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂や、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加、架橋したウレタン樹脂や、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化樹脂、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)アクリレート等の電離放射線(紫外線あるいは電子線)硬化樹脂を単独もしくはこれらを複合して使用できる。
【0023】
保護層7の下面には、OVDとして機能する光学機能層8が形成されている。光学機能層8は、立体画像が表現されたり、見る角度によって色が変化するレリーフ型や体積型のホログラム、複数種類の回折格子が画素として配置された回折格子画像、カラーシフトを生じるセラミクスや金属材料の薄膜積層体等が、適宜選択されて公知の方法により形成されている。これらの中では、量産性やコストを考慮すると、レリーフ型ホログラム(回折格子)や多層薄膜方式のものが好ましい。
【0024】
導電層9は、アルミ等の金属を光学機能層8上に蒸着することによって蒸着膜として形成されている。導電層9は、ポリアミドイミド等からなる所望の形状のマスク層11で被覆し、デメタライズ処理(金属等の光反射性膜を部分的に取り除く処理)を施すことによって、所望の形状に形成することができる。
【0025】
導電層9は、後述する第二の導電層の印刷アンテナ5を介して、ICチップ6と静電容量的に接続されて、ICチップ6のアンテナとして非接触通信を可能にするとともに、反射層として機能するため、光学機能層8が発揮する視覚効果を高める。特に、光学機能層8がレリーフホログラムや回折格子等の場合は、これらの回折効果が高められ、より鮮明にホログラム画像、回折格子画像が認識できるようになる効果がある。
【0026】
印刷アンテナ5は、銀ペーストインキ等の導電性ペーストを用いてマスク層11の下面にシルク印刷方法などの公知の方法で印刷されることによって、例えば図2に示すような形状に形成されている。
【0027】
ICチップ6は、シリコンの単結晶等からなり、図示しないバンプが異方導電性接着剤
等を用いて加熱加圧接着し、印刷アンテナ5に電気的に接続され実装されている。導電層9と印刷アンテナ5とは、両者の間に介在する絶縁性のマスク層11を誘電体として、図3の破線楕円Bの範囲における静電容量結合により電気的に接続されており、ICチップ6が、外部の読み取り装置と電波方式の非接触データ通信が可能となっている。ICチップ6と外部の読み取り装置との交信に使用する周波数は、マイクロ波帯(2.45ギガヘルツ)及びUHF波帯(840〜960メガヘルツ)となっている。
【0028】
ICチップ6として、1個1個異なる識別情報(ユニークID、以下、「UID」と称する。)が付されたものが用いられてもよい。UIDは、例えば、数字、英文字、記号等またはこれらの組み合わせからできており、それぞれのICチップのメモリに、対応するUIDが記憶されている。このようなICチップを用いると、UIDを読み取り利用することによって、そのICチップのトレーサビリティを確保することができる。
【0029】
ICチップ6と印刷アンテナ5を含むマスク層11の下方全体には、接着層14が設けられており、その接着力によって第二の基材13の面に接着されている。
【0030】
OVDを含むRFID部の貼り替えのさらなる改竄防止策として、図4のエンボス16に示すように、雄型、雌型を使って文字、図形等のエンボスの加工をおこなうこともできる。また同様の位置において、全ての層を貫通する微細なパンチ穴で文字、図形等の表現を施すこともできる。セキュリティ文書1の少なくとも保護層7、光学機能層8、導電層9、マスク層11と、第一の基材12の開口部4の造形がこの加工によって部分的に破壊されるため、貼り替えは一層困難になる。
【0031】
次に本発明のセキュリティ文書の製造方法について説明する。
【0032】
上記のように構成されたOVDを含むRFID部は、図示しない支持体の面上に保護層7と光学機能層8とを順に形成し、光学機能層8上に金属蒸着膜を形成してマスク層11を用いて導電層9を所望の形状に形成し、さらに印刷アンテナ5を印刷によって設け、ICチップ6を印刷アンテナ5に実装し、転写箔の状態にして製造することができる。次にこの転写箔の状態にあるOVDを含むRFID部を、接着層14が基材13の全面が設けられた面に転写し、その後支持体より分離する。最後に、開口部4が開けられその上面には印刷層3、下面の全面には接着層10が設けられている基材12と、貼り合わせることで製造することができる。
【0033】
次に図2の実施例に示すアンテナの特徴と性能について説明する。導電層9と印刷アンテナ5は共にアンテナとして機能する。印刷アンテナ5にはICチップ6が実装されており、またアンテナ側のインピーダンスとICチップ側の内部インピーダンスとを整合するインピーダンス整合回路がICチップ6付近にスリットパターンとして形成されている。印刷アンテナ5は、さらに図に示すようなコの字形状のアンテナであり、また導電層9との静電結合用の接続パッド15を備えている。
【0034】
図2に示すアンテナは、一般的な半波長ダイポールアンテナを変形させた変形ダイポールアンテナである。従来のホログラムラベルと同様に、ホログラムの特徴である立体画像、特殊な装飾画像、色変化などの光学効果を最大限に得るためには、欠け、切れ目等のない面で、かつある程度の面積を有する表現面が必要であり、この表現面を得るためにデザインされたアンテナが図2に示す変形ダイポールアンテナである。
【0035】
図2に示す変形ダイポールアンテナの性能であるが、標準半波長ダイポールアンテナのアンテナ利得が2.14dBiであるのに対して、本発明のアンテナは2.45ギガヘルツ仕様でラベルの長さ:42mm、幅:12mmのサイズでアンテナ利得は約1.5dB
iであった。印刷アンテナ5のアンテナ部分が双方に折り返されていることから全体の放射効率が低下し、アンテナ利得が下がったものと考えられる。
【0036】
ただし、本発明のRFIDを内蔵したセキュリティ文書は、物流等で使われるRFIDタグのような長距離での読み取り通信距離性能は必要ではなく、ハンディリーダーで近接して読み取りできる通信距離があればよいので、前述のアンテナ利得約1.5dBiという性能であっても問題はない。
【0037】
本説明では、基材12の開口部を一個の楕円形状としたが、少なくとも光学機能層8が見えればどのような形状であってもよく、さらに複数設けることもできる。複雑なデザインと開口部の増加によって不正行為を一層困難にすることができる。また印刷層3のデザイン、光学機能層8のデザイン、デメタライズ処理による導電層9の形状などが協調した開口部の形状も可能である。
【0038】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、セキュリティ文書の内容や目的に応じて適宜その構成や材料等において最適化することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 セキュリティ文書
2 OVD
3 印刷層
4 開口部
5 印刷アンテナ
6 ICチップ
7 保護層
8 光学機能層
9 導電層(反射膜)
10 接着層
11 マスク層(絶縁層)
12 第一の基材
13 第二の基材
14 接着層
15 接続パッド
16 エンボス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の読み書き装置と非接触でデータの送受信を行うRFIDを内蔵するセキュリティ文書であって、第一の基材上には印刷層が設けられ、前記第一の基材の下には接着層と、保護層と、光学機能層と、パターン化された第一の導電層と該導電層下に位置するマスク層と、前記第一の導電層と静電容量的に結合するパターン化された第二の導電層と、前記第二の導電層に跨って電気的に接続するICチップと、接着層と、第二の基材と、がこの順に積層されたセキュリティ文書であって、前記第一の基材には、一個または複数個の開口部が備えられ、前記光学機能層が前記開口部を通して目視できることを特徴とするセキュリティ文書。
【請求項2】
前記光学機能層が前記開口部を通して目視できる部分と、目視できない部分とを、前記開口部の縁を跨いで文字、図形等の型押し(エンボス)がされていることを特徴とする請求項1に記載のセキュリティ文書。
【請求項3】
前記光学機能層が前記開口部を通して目視できる部分と、目視できない部分とを、前記開口部の縁を跨いで全ての層を貫通するパンチ穴で文字、図形等の表現がされていることを特徴とする請求項1に記載のセキュリティ文書。
【請求項4】
前記第二の導電層は、導電性ペーストインキであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のセキュリティ文書。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−150409(P2011−150409A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9115(P2010−9115)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】