説明

セグメントの継手構造、およびセグメント

【課題】セグメント間の連結を軽量で低コストな金具により実現する。
【解決手段】連結対象のセグメントのうち一方のセグメント15において、一端32が当接面16より突出するよう固定される板状金物30と、前記他方のセグメント10において板状金物30を収容する袋体状金物20とからなり、袋体状金物20の開口21は、他方のセグメント10における当接面11から当該セグメント10に挿入された板状金物30が、スライド移動することを許容する開口であり、袋体状金物20の内空24は、スライド移動の方向と直交する方向であって、開口24のうち当接面での開口22からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状であり、袋体状金物20の内空24には、該把持体50と、把持体50を付勢する付勢手段60とからセグメントの継手構造を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントの継手構造およびセグメントに関するものであり、具体的には、セグメント間の連結を軽量で低コストな金具により実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法を採用してトンネルを構築する場合には、切羽の掘進に応じて後方でセグメントを連結し、筒状の覆工体を形成していくことが一般的である。こうしたセグメント同士の連結作業を単純化し、エレクタなどロボットによる自動作業を可能とするため、C型およびI型の連結金具を用いた継手構造が提案されている。この継手構造は、セグメントの突き合わせ接合面の対向位置にC型の連結金具を埋め込んでおき、このC型連結金具の開口部に対し、対向するセグメントのI型の連結金具を嵌め込むことによって、セグメント同士の突き合わせ端面を相互に接合させて連結する構造となっている。
【0003】
こうした技術の例としては、例えば、セグメントの接合端面を形成する側板に連結金物のフランジ部を挿入する挿入口と、該挿入口に連通して側板の長手方向に延びる連結金物のウェブ挿通溝とを形成し、両ウェブ挿通溝間に連結金物を跨らせて係合装着するセグメントの連結構造(特許文献1)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−52541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした既存の継手構造においては、セグメント間で生じる引き抜き力を、I型金物を介しC型金物が直接引き受ける構造となっている。また、このC型金物が引き受ける引き抜き力に関しては、C型金物から後方(セグメント内部側)に伸びるアンカー筋が、その引き抜き耐力を発揮して対抗している。
【0006】
こうした継手構造であれば、C型金物自体の強度を大きなものとし、上記の引き抜き力に抵抗する必要がある。そのため従来の継手構造に採用されるC型金物は、肉厚で重いものとなっていた。またC型金物は、I型金物との連結に必要な複雑な形状を備える必要があるため、金属板の単純なプレス加工等で形成することは出来ず、鋳造による製造がなされている。従って、重量と共に製作コストもかさみ、C型金物および継手構造の導入コスト増大を招いていた。
【0007】
そこで本発明では、セグメント間の連結を軽量で低コストな金具により実現する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明のセグメントの継手構造は、連結対象のセグメントのうち一方のセグメントにおいて、一端がセグメント同士の当接面より突出するよう固定される板状金物と、前記連結対象のセグメントのうち他方のセグメントにおいて開口を持って埋設され前記板状金物を収容する袋体状金物とからなり、前記袋体状金物の前記開口は、前記他方のセグメントにおける当接面から当該セグメントに挿入された前記板状金物が、前記当接面と略平行な向きで該袋体状金物の内部に向けてスライド移動することを許容する開口であり、前記袋体状金物の内空は、前記スライド移動の方向に向けて拡大する形状であると共に、前記スライド移動の方向と直交する方向であって、前記開口のうち当接面での開口からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状であり、前記袋体状金物の内空には、該内空の形状に沿った外形と板状金物の前記スライド移動が可能な間隙とを有する把持体と、前記スライド移動の方向と逆方向、又は前記スライド移動の方向と直交し当接面での前記開口からセグメント奥部に向かう方向と逆方向に前記把持体を付勢する付勢手段とが備わっている、ことを特徴とする。
【0009】
上記セグメントの継手構造を採用し、あるセグメント同士を連結させる際、一方のセグメントにおいて一端が当接面より露出するよう固定された板状金物を、前記セグメントに対向する他方のセグメントの内部に設置された袋体状金物における前記開口に挿入し、この板状金物を、前記当接面と略平行な向きで袋体状金物の内部に向けてスライド移動させる。この時、板状金物の側部は、前記開口を経て袋体状金物内空に入り、袋体状金物内空に備わる把持体の間隙に入り込む。板状金物の側部をその間隙で受け入れた前記把持体は、板状金物の前記スライド移動の進行に伴って押圧され、袋体状金物の内空形状(スライド移動の進行方向に向けて拡大する形状)に沿って後退することで、前記間隙を拡大することになる。拡大した間隙に入り込んだ前記板状金物は前記スライド移動がより容易となる。
【0010】
一方、前記把持体への押圧に対し抗するのが前記付勢手段であり、この付勢手段が、前記スライド移動に際して前記把持体における過度の変形や移動を抑制し、把持体を常に前記押圧の発生前の位置に戻そうとする。従って、前記スライド移動の動作が終了し、把持体への押圧が解消されると、前記把持体は前記付勢手段によって元の位置に戻ろうとし、前記スライド移動の進行に伴って拡大していた間隙は縮小する。一旦拡大した間隙に入り込んでいた前記板状金物は、縮小してしまった間隙に確実に挟み込まれることになる。この状態の板状金物に対し、把持体から引き抜く方向に力を加えた場合、この引き抜き力を板状金物から伝達された把持体が、袋体状金物の内空形状(スライド移動の進行方向に向けて拡大する形状、すなわちスライド移動と逆方向に縮小する形状)に沿って開口に向け前進することで、前記間隙を更に縮小させることになり、間隙に入り込んだ前記板状金物は更に確実に把持体に保持される。
【0011】
上述のように、板状金物が前記開口にてスライド移動して袋体状金物の内空に保持された状態となった後、前記スライド移動の方向と直交し、前記開口のうち当接面での開口からセグメント奥部に向かう方向の引き抜き力が前記板状金物に作用した場合、この引き抜き力を板状金物から伝達された把持体が、袋体状金物の内空形状(前記スライド移動の方向と直交する方向であって、前記開口のうち当接面での開口からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状)に沿って開口に向け前進することで、前記間隙を縮小させて前記板状金物を確実に保持することになる。つまり本発明のセグメントの継手構造によれば、袋体状金物での板状金物のスライド移動時に働く引き抜き力(スライド移動と逆方向の力)と、これと直交し主としてスライド移動後に働く引き抜き力(スライド移動の方向と直交する方向の力)の両方に抵抗して板状金物と袋体状金物との離間を阻止し、セグメント間の連結を確実なものとすることができる。
【0012】
しかも、上記の袋体状金物は、板状金物を介して伝達される引き抜き力に対し、当該引き抜き力を受けた前記把持体の移動に伴って周囲のコンクリートに反力を得ることが可能であり、引き抜き耐力(コーン破壊耐力、押し抜きせん断耐力)を発揮する。つまり、従来のC型金物の如くC型金物自身で引き抜き力を引き受けるといったことが無いため、袋体状金物としては肉厚な鋳鉄製のものを採用する必要は無い。また、従来のC型金物の如くアンカー筋を配置する必要も無くなり、継手構造がシンプルな構成となり、更なるコストダウンも図られる。従って、セグメント間の連結が、軽量で低コストな金具により可能となる。
【0013】
なお前記セグメントの継手構造において、前記他方のセグメントまたは前記袋体状金物が、前記他方のセグメントにおける当接面からの、前記板状金物の当該セグメントへの前記挿入を受け入れる凹部を備えるとしてもよい。これによれば、前記スライド移動の前段手順となる、前記他方のセグメントにおける当接面から当該セグメントへの板状金物の挿入動作をセグメントないし袋体状金物にて許容できることになる。
【0014】
なお、前記セグメントの継手構造において、前記袋体状金物は板状材で構成されている。上述のように、従来の金物の如く肉厚な鋳鉄製のものを採用する必要は無い為、薄肉の板状材を加工して製作した袋体状金物を継手構造に採用することが可能であり、肉厚で鋳鉄製の従来のC型金物を採用するより大幅な軽量化を図ることが可能である。また、コストが高い鋳造ではなく低廉な板材加工のみで製作された袋体状金物を採用することで、当然ながらコスト低減も図られることになる。
【0015】
こうした袋体状金物を構成する板状材は、板状金物を介して引き抜きの応力がかかっても、板状材背面にあるセグメントのコンクリートに欠損等が生じない程度の適宜な強度を備えたものであればよく、例えば、金属製、樹脂製、炭素繊維製、であることが考えられる。
【0016】
なお、前記セグメントの継手構造において、前記板状金物ないし前記把持体の表面を粗面としてもよい。これによれば、上述のように、把持体とその間隙に保持される板状金物との間の摩擦が増大して両者がより一体化し、前記引き抜き力に対して効果的に抵抗することができる。
【0017】
また、前記セグメントの継手構造において、前記板状金物ないし前記把持体の表面に摩擦係数の増加剤を塗布するとしてもよい。これによれば、上述のように、把持体とその間隙に保持される板状金物との間の摩擦が増大して両者がより一体化し、前記引き抜き力に対して効果的に抵抗することができる。
【0018】
また、前記セグメントの継手構造において、セグメント内に固定される前記板状金物の他端に貫通孔が備わるとしてもよい。これによれば、前記貫通孔に充填され固化したコンクリートが、周囲のコンクリート(セグメントのコンクリート)に対してせん断キーの形となってせん断抵抗を発揮し、前記引き抜き力に対抗することになる。よって、板状金物をセグメントに埋設固定する際の大がかりなアンカー構造等は不要となり、継手構造の適用に際しコストや手間の低減が可能となる。なお、前記貫通孔を貫くように鉄筋を配置すれば、上記のせん断抵抗が更に大きくなり、引き抜き力へも更に対抗しやくなる。
【0019】
また、本発明のセグメントは、連結対象のセグメントのうち一方のセグメントにおいて、一端がセグメント同士の当接面より突出するよう固定される板状金物と、前記連結対象のセグメントのうち他方のセグメントにおいて開口を持って埋設され前記板状金物を収容する袋体状金物とからなり、前記袋体状金物の前記開口は、前記他方のセグメントにおける当接面から当該セグメントに挿入された前記板状金物が、前記当接面と略平行な向きで該袋体状金物の内部に向けてスライド移動することを許容する開口であり、前記袋体状金物の内空は、前記スライド移動の方向に向けて拡大する形状であると共に、前記スライド移動の方向と直交する方向であって、前記開口のうち当接面での開口からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状であり、前記袋体状金物の内空には、該内空の形状に沿った外形と板状金物の前記スライド移動が可能な間隙とを有する把持体と、前記スライド移動の方向と逆方向、又は前記スライド移動の方向と直交し当接面での前記開口からセグメント奥部に向かう方向と逆方向に前記把持体を付勢する付勢手段とが備わっている継手構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セグメント間の連結を軽量で低コストな金具により実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態におけるセグメントの継手構造を示す概念図である。
【図2】本実施形態における袋体状金物の構造例を示す四面図である。
【図3】本実施形態における把持体(楔)の構造例を示す四面図である。
【図4】本実施形態における板状金物の構造例を示す四面図である。
【図5】本実施形態におけるセグメントの連結手順を示す図である。
【図6】本実施形態における継手構造の各断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態におけるセグメントの継手構造を示す概念図であり、図2〜4は、袋体状金物、把持体、および板状金物の各構造例を示す図である。本実施形態におけるセグメント10は、シールド工法におけるトンネルの覆工体として用いられるものである。シールド工法において、シールド掘進機内では、エレクタ等によりこのセグメント10がトンネル周方向に逐次連結され、筒状の覆工体を形成するのが一般的である。そこで互いに連結されるセグメント10の継手構造として、本実施形態の継手構造100を採用する。
【0023】
当該継手構造100は、図1に示すように袋体状金物20および板状金物30を含んでいる。袋体状金物20は、開口21をもってセグメント10に埋設される金物であり、セグメント10と対向し連結対象である他セグメント15に固定された板状金物30を受け入れて該板状金物30のスライド移動を許容する開口21を備えた連結金物となる。一方、一端32を他セグメント15の外方に突出させ、他端33が他セグメント15内に固定されるのが、板状金物30である。
【0024】
上述の袋体状金物20における開口21は、板状金物30を収容できる寸法の開口である当接面11上の挿通開口40と連続する当接面開口部22と、挿通開口40からセグメント内奥に向けて延びる所定深さの箱状領域である凹部45と連続する内奥開口部23とからなっている。これら当接面開口部22と内奥開口部23とは連続している。いずれの開口部も板状金物30を収容できる寸法に形成されている。
【0025】
図1に例示する構造では、挿通開口40は、上記の当接面開口部22と連続する開口であり、挿通開口40とこれより小さな当接面開口部22とが連結し、当接面11にて鍵穴状の形態をなしている。よって、袋体状金物20は当接面開口部22と挿通開口40をもってセグメント10の当接面11にて開口しているとも言える。なお、凹部45は、板状金物30の他セグメント15からの突出長さ36と略同じ深さとなっている。
【0026】
この場合、セグメント連結時において、板状金物30の一端32は、上述した挿通開口40を介して凹部45に挿入され(図1において太線矢印で示す動作)、その後、凹部45と連続する内奥開口部23を介し、袋体状金物20の内奥(袋体状金物20の内空24において内奥開口部23と対向する突き当たり面26)に向けてスライド移動させられることになる。
【0027】
図1および図2に例示するように、袋体状金物20の内空24は、板状金物30の前記スライド移動の方向に向けて拡大する形状であり、より具体的には、開口21における板状金物30の側端部31の受け入れ箇所たる内奥開口部23から内空24の奥部への方向、すなわち板状金物30のスライド移動の方向に向けて拡大する形状となっている。また袋体状金物20の内空24は、板状金物30のスライド移動の方向と直交する方向であって、前記開口21のうち当接面開口部22からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状であり、図1に示す具体例では、板状金物30の一端32から他端33に向かう方向に向けて縮小する形状ともなっている。
【0028】
また、図1に例示するように、袋体状金物20の内空24には、上述したこの内空24の形状に沿った外形と、板状金物30のスライド移動が可能な間隙51を有する把持体50が備わっている。本実施形態で示す例では、把持体50を2つの楔52により構成し、楔間の空間を空隙51としている。なお、この把持体50を構成する2つの楔52の底部53と、袋体状金物20の内空24における突き当たり面26との間には付勢手段60が備わっている。この付勢手段60は、板状金物30のスライド移動の方向と逆方向に把持体たる楔52を付勢するものであり、バネなどの弾性体を採用できる。弾性体の種類は問わないが、例えばウレタンバネを採用できる。
【0029】
この付勢手段60としては、板状金物30のスライド移動の方向と逆方向に楔52を付勢するものだけでなく、板状金物30のスライド移動の方向と直交し、板状金物30の一端32から他端33に向かう方向に把持体たる楔52を付勢するものを袋体状金物20の内空24に設置するとしてもよい。勿論、板状金物30のスライド移動の方向と逆方向に楔52を付勢するものと、板状金物30のスライド移動の方向と直交し、板状金物30の一端32から他端33に向かう方向に把持体たる楔52を付勢するものの両方の付勢手段60を袋体状金物20の内空24に設置するとしてもよい。楔52の材質としては、鍛造鋼や軟鋼等を採用できる。
【0030】
一方、板状金物30は、図1に示すように、その一端32を他セグメント15の当接面16より外方に突出させ、セグメント10および他セグメント15の連結に際しては、セグメント10における当接面11に備わる挿通開口40に挿入され、この挿通開口40に連続するセグメント内の凹部45および内奥開口部23を介して袋体状金物20に向けてスライド移動されることになる。また板状金物30の他端33は、他セグメント15の内部に埋め込まれて固定されている。本実施形態における板状金物30は、図4に例示するように、板幅34、板厚35を備えた矩形の板材である。板状金物30の長さは、一端32の長さである、他セグメント15の当接面16からの突出長さ36と、他端33の長さである、他セグメント15での他端33の埋設長さ38とを含んでいる。
【0031】
なお、他セグメント15に埋設される他端33には貫通孔37が備わっている。この貫通孔37に充填され固化したコンクリートは、他セグメント15における他端33の埋設箇所周囲のコンクリートに対してせん断キーの形となってせん断抵抗を発揮するから、板状金物30を他セグメント15から引き抜こうとする引き抜き力に対抗することになる。従って、板状金物30を他セグメント15に埋設固定する際の大がかりなアンカー構造等は不要となり、ひいては継手構造100の適用に際しコストや手間の低減が可能となる。板状金物30の材質としては通常の鋼板を採用できる。なお、前記貫通孔37を貫くように鉄筋を配置すれば、上記のせん断抵抗が更に大きくなり、引き抜き力へも更に対抗しやくなる。
【0032】
なお、板状金物30ないし把持体たる楔52の表面を粗面とするか、或いは、板状金物30ないし把持体たる楔52の表面に摩擦係数の増加剤を塗布するとしてもよい。楔52とその間隙51に保持される板状金物30との間の摩擦が増大して両者がより一体化し、間隙51から板状金物30を引き抜こうとする引き抜き力に対して効果的に抵抗することができる。摩擦係数の増加剤としては、所定径の粒状物が多数含まれた塗料や、所定の粘性を有する接着剤が採用できる。
【0033】
続いて、上記の継手構造100を用いた場合の、セグメント同士の連結動作について説明する。図5は、本実施形態におけるセグメントの連結手順を示す図である。この場合、まず、図1で示したように、板状金物30の一端32を、挿通開口40を介して凹部45に挿入する(図1)。この時、板状金物30の一端32における側端部31は、凹部45と連続する内奥開口部23に当接された状態となっている(図5の状態1)。この状態から、板状金物30の一端32を、袋体状金物20の内奥開口部23を介し、側端部31を先頭にして、袋体状金物20の内奥すなわち突き当たり面26に向けてスライド移動させる。
【0034】
この時、板状金物30の側端部31は、内奥開口部23を経て袋体状金物20の内空24に入り、この内空24に備わる楔52の間隙51に入り込む(図5の状態2)。板状金物30の側端部31をその間隙51で受け入れた楔52は、板状金物30のスライド移動の進行に伴って押圧され、袋体状金物20の内空形状(スライド移動の進行方向に拡大する形状)に沿って、突き当たり面26に向け後退する。楔52が後退することで、袋体状金物20の内空24の壁面と楔52との間に隙間が生まれ、この隙間が間隙51の拡大を許容する余地となる。こうして間隙51の拡大が生じると、間隙51に入り込んだ板状金物30は突き当たり面26へのスライド移動がより容易となる。但し、楔52の底部53には、楔52への押圧に対し抗する付勢手段60が配置されている。そのため、突き当たり面26への楔52の後退は、付勢手段60の弾性変形の範囲でなされる。
【0035】
例えば、板状金物30の側端部31が、楔52の間隙51において、付勢手段60の付近までスライドするなどし、板状金物30のスライド移動の動作が終了したとする(図5の状態3)。このように、スライド移動が終了し、楔52への押圧が解消されると、楔52は付勢手段60によって元の位置に戻ろうとし、スライド移動の進行に伴って拡大していた間隙51は縮小する。一旦拡大した間隙51に入り込んでいた板状金物30は、縮小してしまった間隙51に確実に挟み込まれることになる。
【0036】
図6は本実施形態における継手構造の各断面を示す図である。上述の状態の板状金物30に対し、楔52からの引抜方向に力を加えた場合、この引き抜き力を板状金物30から伝達された楔52が、袋体状金物20の内空形状(スライド移動の進行方向に拡大する形状、すなわちスライド移動と逆方向に縮小する形状)に沿って内奥開口部23に向け前進する。この場合の内空形状は、図6における、「1−1断面」と「2−2断面」で示している。図で示すように、「1−1断面」より「2−2断面」のほうが、袋体状金物20の内空24および楔52の断面が小さく、つまり断面がスライド移動と逆方向に縮小する形状となっている。このことにより、楔52はその間隙51を更に縮小させることになり、間隙51に入り込んだ板状金物30は更に確実に楔52に保持される。
【0037】
また上述のように、板状金物30が袋体状金物20の内空24に保持された状態となった後、楔52の間隙51での板状金物30のスライド移動の方向と直交し、板状金物30の一端32から他端33に向かう方向の引抜力が、板状金物30に作用する状況も想定される。この場合、引抜力を板状金物30から伝達された楔52が、袋体状金物20の内空形状(スライド移動の方向と直交する方向であって、前記当接面開口22からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状)に沿って、当接面開口部22に向け前進することで間隙51を縮小させ、板状金物30を確実に保持することになる。この場合の内空形状は、図6における、「A−A断面」と「B−B断面」で示している。図で示すように、「A−A断面」より「B−B断面」のほうが、袋体状金物20の内空24および楔52の断面が小さく、つまり断面が、スライド移動の方向と直交する方向であって、板状金物30の一端32から他端33に向かう方向に向けて縮小する形状となっている。
【0038】
このように本実施形態のセグメントの継手構造100によれば、袋体状金物20への板状金物30のスライド移動時に働く引抜力(スライド移動と逆方向の力)と、これと直交し主としてスライド移動後に働く引抜力(スライド移動の方向と直交する方向の力)の両方に抵抗して板状金物30と袋体状金物20との離間を阻止し、セグメント間の連結を確実なものとすることができる。
【0039】
なお、上記の袋体状金物20は、板状金物30を介して伝達される引抜力に対し、当該引抜力を受けた楔52の移動に伴って周囲のコンクリートに反力を得ることが可能であり、引き抜き耐力(コーン破壊耐力、押し抜きせん断耐力)を発揮する。つまり、従来のC型金物の如くC型金物自身で引き抜き力を引き受けるといったことが無いため、袋体状金物20としては肉厚な鋳鉄製のものを採用する必要は無い。また、従来のC型金物の如くアンカー筋を配置する必要も無くなり、継手構造100がシンプルな構成となり、更なるコストダウンも図られる。従って、セグメント間の連結が、軽量で低コストな金具により可能となる。
【0040】
また、袋体状金物20は板状材で構成されている。上述のように、従来の金物の如く肉厚な鋳鉄製のものを採用する必要は無い為、薄肉の板状材を加工して製作した袋体状金物20を継手構造100に採用することが可能であり、肉厚で鋳鉄製の従来のC型金物を採用するより大幅な軽量化を図ることが可能である。また、コストが高い鋳造ではなく低廉な板材加工のみで製作された袋体状金物20を採用することで、当然ながらコスト低減も図られることになる。
【0041】
こうした袋体状金物20を構成する板状材は、板状金物30を介して引き抜きの応力がかかっても、板状材背面にあるセグメント10のコンクリートに欠損等が生じない程度の適宜な強度を備えたものであればよく、例えば、金属製、樹脂製、炭素繊維製、であることが考えられる。
【0042】
以上、本実施形態によれば、セグメント間の連結を軽量で低コストな金具により実現することができる。
【0043】
本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 セグメント
11 当接面
15 他セグメント
16 当接面
20 袋体状金物
21 開口
22 当接面開口部
23 内奥開口部
24 袋体状金物の内空
25 壁面
26 突き当たり面
30 板状金物
31 板状金物の側端部
32 一端
33 他端
34 板状金物の板幅
35 板状金物の板厚
36 板状金物の他セグメントからの突出長さ
37 貫通孔
38 他セグメントでの他端の埋設長さ
40 挿通開口
45 凹部
50 把持体
51 間隙
52 楔
53 楔の底部
60 付勢手段
100 継手構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結対象のセグメントのうち一方のセグメントにおいて、一端がセグメント同士の当接面より突出するよう固定される板状金物と、前記連結対象のセグメントのうち他方のセグメントにおいて開口を持って埋設され前記板状金物を収容する袋体状金物とからなり、
前記袋体状金物の前記開口は、前記他方のセグメントにおける当接面から当該セグメントに挿入された前記板状金物が、前記当接面と略平行な向きで該袋体状金物の内部に向けてスライド移動することを許容する開口であり、
前記袋体状金物の内空は、前記スライド移動の方向に向けて拡大する形状であると共に、前記スライド移動の方向と直交する方向であって、前記開口のうち当接面での開口からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状であり、
前記袋体状金物の内空には、該内空の形状に沿った外形と板状金物の前記スライド移動が可能な間隙とを有する把持体と、前記スライド移動の方向と逆方向、又は前記スライド移動の方向と直交し当接面での前記開口からセグメント奥部に向かう方向と逆方向に前記把持体を付勢する付勢手段とが備わっている、
ことを特徴とするセグメントの継手構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記他方のセグメントまたは前記袋体状金物が、
前記他方のセグメントにおける当接面からの、前記板状金物の当該セグメントへの前記挿入を受け入れる凹部を備えることを特徴とするセグメントの継手構造。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記板状金物ないし前記把持体の表面を粗面としたことを特徴とするセグメントの継手構造。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記板状金物ないし前記把持体の表面に摩擦係数の増加剤を塗布したことを特徴とするセグメントの継手構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
セグメント内に固定される前記板状金物の他端に貫通孔が備わることを特徴とするセグメントの継手構造。
【請求項6】
連結対象のセグメントのうち一方のセグメントにおいて、一端がセグメント同士の当接面より突出するよう固定される板状金物と、前記連結対象のセグメントのうち他方のセグメントにおいて開口を持って埋設され前記板状金物を収容する袋体状金物とからなり、前記袋体状金物の前記開口は、前記他方のセグメントにおける当接面から当該セグメントに挿入された前記板状金物が、前記当接面と略平行な向きで該袋体状金物の内部に向けてスライド移動することを許容する開口であり、前記袋体状金物の内空は、前記スライド移動の方向に向けて拡大する形状であると共に、前記スライド移動の方向と直交する方向であって、前記開口のうち当接面での開口からセグメント奥部に向かう方向に向けて拡大する形状であり、前記袋体状金物の内空には、該内空の形状に沿った外形と板状金物の前記スライド移動が可能な間隙とを有する把持体と、前記スライド移動の方向と逆方向、又は前記スライド移動の方向と直交し当接面での前記開口からセグメント奥部に向かう方向と逆方向に前記把持体を付勢する付勢手段とが備わっている継手構造を有することを特徴とするセグメント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−104279(P2013−104279A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250948(P2011−250948)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(501122850)株式会社アイ・エル・シー (8)
【Fターム(参考)】