説明

セグメントの製造方法

【課題】 セグメントの製造方法において、水みちやひび割れなどを発生させる恐れがなく、表面仕上げ工程に入るまでの製造時間を短縮することができるようにする。
【解決手段】 高流動コンクリートを型枠に打設する際、硬化促進剤を添加し、高流動コンクリートが自立し表面仕上げ可能となるまで常温で放置し、蓋型枠を外して表面の仕上げを行い蒸気養生を行って脱型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートによりセグメントの製造を行う場合、型枠にコンクリートを打設し、振動締固めを行ってから蓋型枠を取って表面仕上げを行い、蒸気養生後、脱型することにより製造されている。
これに対して、型枠への打設時間を短縮するとともに、振動締固めを不要とすることで製造工程の簡素化を図るため高流動コンクリートを用いたセグメントの製造方法が提案されている。
しかしこの場合、コンクリート打設工程は迅速化されるものの、コンクリートが自立するまでに時間がかかり、自立できない状態ではコンクリートの表面にだれが生じて表面仕上げを行うことができないため、製造時間全体ではそれほど短縮できないという問題があった。
この問題を解決するために、特許文献1には、高流動コンクリートが打設されてから所定時間だけ常温より高い温度で加熱養生を行い、作業可能な略常温近くまで温度を低下させて、表面仕上げを行い、その後養生して脱型する高流動コンクリートを用いたコンクリートセグメントの製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−58348号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来のセグメントの製造方法には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、型枠の外側から加熱養生することにより、コンクリートが自立できるまでの時間を短縮できるものの、型枠の外側から加熱していくので、型枠面に近い側から硬化が進行していく。このため、表面仕上げ可能となるまで硬化が進んでも、セグメント内部での水和反応はそれほど進んでいない。そのため、内部の水和反応が十分進行していない状態で蒸気養生工程に入ることになる。その結果、セグメント内部でブリーディングが起こり、気泡がセグメント内部に閉じ込められてしまうので、水みちやひび割れが生じやすくなるという問題がある。
また加熱養生後、温度が低下しないと仕上げ作業ができないので、温度降下を待つ時間が必要となり時間短縮量に限界があるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、水みちやひび割れなどを発生させる恐れがなく、表面仕上げ工程に入るまでの製造時間を短縮することができるセグメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、高流動コンクリートを型枠に打ち込み、該高流動コンクリートが自立し表面仕上げ可能となるまで硬化してから、蓋型枠を外して表面の仕上げを行うセグメント製造方法であって、前記高流動コンクリートに硬化促進剤を添加して前記高流動コンクリートの硬化を促進する方法とする。
この発明によれば、添加された硬化促進剤の作用により、高流動コンクリートが自立可能となり、表面仕上げ可能となるまで硬化するのに要する時間を短縮することができる。また、表面仕上げ可能となるまで硬化させる際に加熱養生が不要となるので、加熱養生後の温度降下を待つことなく速やかに表面仕上げ工程に移ることができる。
また、高流動コンクリートに添加されて、内部に分散した硬化促進剤により表面仕上げ可能となるまで硬化させるので、例えば加熱養生のように表面から急速に硬化されて不均一な硬化が起こるといったことがなく、全体的に略均等に硬化が進むから、水みちやひび割れなどが生じないようにすることができる。
【0006】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のセグメントの製造方法において、前記硬化促進剤が、コンクリートの水和反応を促進する触媒からなる方法とする。
この発明によれば、硬化促進剤がコンクリートの水和反応を促進する触媒からなるので、添加後、それ自体が化学反応を起こして消費されることがないので、高流動コンクリートが流動性を保つ間に分散させることが容易となり、満遍なく硬化を促進することができる。
【0007】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のセグメントの製造方法において、前記硬化促進剤が、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、およびロダン酸塩のうちいずれかを含む方法とする。
この発明によれば、硬化促進剤の材質を上記のいずれかを含むようにすることにより、自立可能となるまでの硬化時間が適切となるようにすることができる。そのため、製造効率を向上させることができる。
【0008】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載のセグメントの製造方法において、前記高流動コンクリートが表面仕上げ可能となるまでの硬化時間が、打ち込み開始から10分から50分である方法とする。
この発明によれば、表面仕上げ可能となるまでの硬化時間が適切となるので、製造効率を向上させることができる。
硬化時間が10分より短い場合、表面仕上げ工程までの時間が短すぎて段取り時間が少なすぎ、実質的な表面仕上げ工程にかけられる時間が減少し、仕上げ精度が劣ってしまう。
硬化時間が50分より長い場合、表面仕上げ工程までの時間が長すぎ、製造効率が劣ってしまう。
【0009】
なお、硬化時間の範囲は、表面仕上げ工程に入るまでの段取り時間をより多く確保し、製造効率を向上するためには、上記範囲内でより狭い範囲であることが好ましい。例えば、下限値は、15分であることが好ましく、20分であることがより好ましい。また、上限値は、45分であることが好ましく、40分であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセグメントの製造方法によれば、高流動コンクリートに硬化促進剤を添加することにより、全体的に略均等な硬化を促進することができるから、表面仕上げ工程に入るまで製造時間を短縮できるとともに、水みちやひび割れなどを発生させることのないセグメントの製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法により製造されるセグメントについて簡単に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るセグメントについて説明するための斜視説明図である。
【0012】
本実施形態のコンクリートセグメント1(セグメント)は、図1に示すように、略一定の厚さ(t)を有するとともに、一方向に円弧状に湾曲された板状部材であり、複数を接合して組み立てることにより、掘削トンネルの内部を覆工するために用いられるものである。
一般に、掘削トンネルを覆工するコンクリートセグメントの形状は、例えば平面視六角形のものや、平面視台形のK型セグメントなど種々の平面視形状が知られている。また継手構造の違いによっても種々の形状がある。
本発明はそのような種々の平面視形状や継手構造を有するセグメントに対しても容易に適用できるが、以下では、簡単のために、トンネルの中心軸を含む2平面とトンネルの中心軸に直交する2平面で切り取った平面視矩形状の例で説明する。
すなわち、コンクリートセグメント1の側方には、トンネルの中心軸を含む平面に含まれる略矩形状の接合面2a、2aと、トンネルの中心軸と直交する平面に含まれる扇形状の接合面2b、2bとが形成されている。そして、湾曲の凹面側が内周面4であり、凸面側が外周面5になっている。
内周面4と、接合面2a、2a、2b、2bとが交差する位置に適宜間隔をおいて継手部3…が設けられている。
継手部3は、接合面2a(2b)に沿って、例えば、ボルト接合するための継手板3aが設けられ、内周面4側に接合作業を行うための穴空間が形成されているものである。
【0013】
以下、方向を参照する場合、トンネルの中心軸に一致するコンクリートセグメント1の湾曲の中心軸の延びる方向を軸方向、軸方向に直交する面内で湾曲に沿う方向を周方向、湾曲の径方向に沿う方向を板厚方向と称する場合がある(図1参照)。
【0014】
本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。図3、4、5は、本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法の各工程について説明するためのセグメント軸方向に直交する方向の模式断面図である。
【0015】
本実施形態のセグメントの製造方法は、高流動コンクリートを用いてセグメントを製造するための方法であり、その概略工程は、図2に示すように、型枠準備工程(ステップS1)、コンクリート打設工程(ステップS2、S3)、常温放置工程(ステップS4)、表面仕上げ工程(ステップS5)、養生工程(ステップS6)、および脱型工程(ステップS7)からなる。
【0016】
型枠準備工程は、図3(a)に示すように、下型枠10と蓋型枠16とからなる型枠の内部に、継手部形成用突起13、孔部形成用突起14などを設け、鉄筋9を配筋して、高流動コンクリートを打設できるように準備する工程である。
【0017】
下型枠10は、コンクリートセグメント1の内周面4、接合面2a、2a、2b、2bの形状を形成するためのもので、それぞれに対応して内周部型枠面10a、接合部型枠面10b、10b、そして不図示の接合部型枠面が紙面奥側および手前側に設けられ、上方が開口され、それぞれの上端部が外周面5の湾曲に沿う型枠端面10dが形成されたものである。
内周部型枠面10a上には、継手部3、穴部6など必要な形状に応じて、継手部形成用突起13、孔部形成用突起14などが適宜設けられる。
蓋型枠16は、下型枠10を上方から覆い、外周部型枠面16bを型枠端面10d上に設置することで、高流動コンクリートを打設するための型枠空間を形成するためのものである。蓋型枠16の湾曲の頂部には、高流動コンクリートを注入するための注入孔16aが設けられている。
【0018】
コンクリート打設工程は、不図示の硬化促進剤を添加しつつ、高流動コンクリート17を型枠空間内に打設する工程である。この工程は、図3(b)に示すように、打設開始前に硬化促進剤を高流動コンクリート17に練り混ぜてからコンクリート注入管15を通して注入孔16aに注入して打設してもよいし、硬化促進剤の注入手段を別に設けて、注入孔16a近傍でコンクリート注入管15から注入される高流動コンクリート17と混合しながら打設してもよい。
【0019】
高流動コンクリート17は、高い流動性と材料分離抵抗性を兼ね備えるコンクリ−トであり、セメント、水および骨材に混和材料を添加して混練したものである。
【0020】
セメントは、ポルトランドセメントが採用できる。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントなどが採用できる。
水は、水道水が使用できる。
骨材は、必要に応じて細骨材、粗骨材を用いることができる。細骨材としては、陸砂、川砂、砕砂、海砂、スラグ細骨材、軽量細骨材、重量細骨材、再生細骨材またはこれらの混合細骨材が使用できる。また粗骨材としては、川砂利、山砂利、海砂利、砕石、スラグ粗骨材、軽量粗骨材、重量粗骨材、再生粗骨材またはこれらの混合粗骨材が使用できる。
【0021】
混和材料としては、例えば、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微粉末、早強型膨張材、高性能減水剤などの混和材を含むことができる。また、強度・ワーカビリティを損なわない範囲で空気連行剤、抑泡剤、消泡剤、発泡剤、増粘剤、防錆剤、顔料などを混和材料としてもよい。
【0022】
硬化促進剤としては、高流動コンクリート17中に分散されて高流動コンクリート17の内部におけるコンクリートの水和反応を適切な速度で促進するものであれば、どのような硬化促進剤であってもよい。ここで、適切な速度とは、少なくとも、高流動コンクリート17を下型枠10に充填完了するまでは高流動性を維持するとともに、後述する表面仕上げが可能となる硬さが得られる硬化時間が、通常の高流動コンクリート17よりも短いことを意味する。例えば、常温において、10min〜50min程度となる硬化速度であることが好ましい。
そのような硬化促進剤の例として、コンクリートの水和反応を促進する触媒物質を好適に採用することができる。例えば、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、およびロダン酸塩のうちいずれかを含むものを好適に採用できる。ここで、亜硝酸カルシウムは、亜硝酸塩水溶液の形態で、コンクリート練混ぜ時に水に置換えて添加できるようにしておくことが好ましい。
【0023】
表1にこれらの使用材料の組合せの一例を示す。
【表1】

【0024】
また、表2にこれらの好適な配合の例を実施例として示す。表2中比較例は、従来コンクリートの一例である。
【表2】

【0025】
高流動コンクリート17は流動性に富み充填性に優れるので、注入孔16aから重力に従って円筒軸金型面10aなどに沿うように流動し、型枠空間内に迅速に充填されていく。そのため、振動締め固めを行う必要がない。図3(c)は打設終了時の状態を示す。
【0026】
常温放置工程は、高流動コンクリート17を型枠に打設を終了した状態(図3(c)参照)で、常温または常温に近い環境に所定時間放置して高流動コンクリート17の硬化を進行させる工程である。
所定時間は、蓋型枠16を外しても表面がだれることなく、コンクリートが自立した状態となり、かつ蓋型枠16を外した後に、表面の外周面5が平坦仕上げ可能な程度の柔らかさを保っている程度に硬化が進行する時間である。
このような硬化度合は、従来のセグメントの製造方法において表面仕上げ工程を開始する場合の硬化度合と同程度とすればよい。
【0027】
そのために必要な硬化時間は、温度条件や硬化促進剤の種類、量により異なるので、例えば実験などにより把握しておく。
環境温度としては、一般に高温になるほど、コンクリートの水和反応が促進されるから好ましいが、本実施形態に採用する硬化促進剤では、15〜30℃程度でも十分短い硬化時間が得られる。例えば、表1、2の構成では、20℃環境で、硬化時間は20分〜40分となる。
したがって、例えば50℃以上といったような高温で加熱することなく、迅速な硬化を達成することができる。
【0028】
また、環境温度を常温の範囲とすることにより、型枠の内部側で反応熱が蓄積して相対的に高温となり、型枠の表面側が環境温度により自然冷却されて相対的に低温となる。そのため、内部側の硬化が表面側の硬化よりも進行するから、表面が表面仕上げをするために必要な硬さであっても、内部側が相対的に安定した硬さとなっているために、養生工程後における表面仕上げ面の形状変化がほとんどない。その結果、高精度な表面仕上げ面を形成することができる利点がある。
【0029】
表面仕上げ工程は、常温放置工程終了後に、蓋型枠16を外し、表面に露出する高流動コンクリート17の面を、蓋型枠16が配置された型枠端面10dなどからなる型枠上面に沿って滑らかに湾曲した曲面として表面仕上げし、外周面5を形成するための工程(図4(d)参照)である。
本工程では、図4(d)に示すように、例えば仕上げ角棒18を紙面の奥側および手前側の不図示の接合部型枠面に渡して、図示両矢印に示すように、周方向に沿って移動させることにより、高流動コンクリート17の表面の凹凸を均していく。そして滑らかな湾曲面に整形し、外周面5を形成する。
【0030】
本工程は、常温放置工程に引き続いて行うため、作業可能な温度になるまで待つことなく、直ちに作業を開始できるとともに、常温下で作業を行うために人手で作業を行う場合でも快適に作業を行うことができるので、作業効率を向上できる。
【0031】
養生工程は、図4(e)に示すように、表面仕上げ工程が終了した高流動コンクリート17を下型枠10に保持したまま、加熱水蒸気雰囲気の中に放置する水蒸気養生などを行うことにより、高流動コンクリート17の硬化を促進する工程である。
養生工程は基本的に、従来のセグメントの製造方法におけるのと同様の養生方法を採用できる。ただし、本実施形態では、高流動コンクリート17に硬化促進剤が添加されているため、加熱水蒸気雰囲気によりコンクリートの水和反応が促進されることと相俟って、常温放置工程よりもさらに水和反応が促進される。したがって、加熱水蒸気の温度や養生時間は、従来のセグメントの製造方法におけるよりも低くしたり、短時間としたりすることも可能である。
【0032】
図6は、本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法における雰囲気温度の変化の一例を示す模式的なグラフである。横軸は、硬化促進剤の添加時からの経過時間を示し、縦軸は、雰囲気温度の設定温度を示す。
図6において、折れ線40は、図2におけるステップS2〜S7までの間の雰囲気温度の変化の概略を示す。
折れ線40で表される変化は、経過時間0からtまで温度Tで一定とされ(直線40a)、経過時間tにおいて温度T(ただし、T>T)に昇温され、経過時間tからtまで温度Tに保持され(直線40b)、経過時間tからtまでの間に温度TからTに放冷され(直線40c)、経過時間tからtの間、温度Tとされる(直線40d)ような変化である。
ここで、0<t<t<t<tである。そして、経過時間0〜tがステップS2〜S5の工程を示し、経過時間t〜tがステップS6を示す。後述する脱型工程は経過時間t〜tに行われる。
【0033】
温度Tは、下型枠10の設置場所の温度であり、常温に設定される。例えば、T=15℃〜30℃である。時間tは、例えば1h程度とすることができる。
温度Tは、従来のセグメントの製造方法において採用される養生温度と同程度もしくはやや低い温度とすることができる。例えば、T=45℃を採用することができる。温度Tの好適な範囲は、30〜55℃である。
温度Tを保持する時間(t−t)は、例えば2hとすることができる。温度Tを温度Tに下げる時間(t−t)は、例えば1.5hとすることができる。したがって、本実施形態では、養生工程の養生時間(t−t)は、3.5h程度とすることができる。
ただし、これら養生工程の条件は、硬化促進剤の量や高流動コンクリート17の配合比などにより最適値は変化するものであり、このような条件だけに限定されるものではない。例えば、温度T、Tを変える場合には、それらを一定に保持する時間や、冷却に要する時間も適宜変えることが好ましい。
また、高流動コンクリート17をできるだけ均等に昇温するためには、下型枠10にヒータを設置して、高流動コンクリート17を加温することが好ましい。
【0034】
脱型工程は、図5(f)に示すように、養生工程を終了してから、所定の強度が発現した高流動コンクリート17を下型枠10から脱型する工程である。
このようにして、高流動コンクリート17によりコンクリートセグメント1が製造される。
【0035】
次に、本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法の作用について説明する。
図7は、本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法に用いる硬化促進剤の硬化促進特性について説明するための模式グラフである。横軸は、硬化促進剤添加後の経過時間を示し、縦軸は、高流動コンクリートの「硬さ」を示す。ここでの「硬さ」とは、固体の硬度ではなく、流動状態、型枠を外してもだれない自立状態、セメントが凝結する状態へと変化する間の変形しやすさを表わす広義の硬さである。これらの状態の変化は、例えば、流動状態ではスランプ試験、凝結が進行した状態ではビガー針試験などの評価手段があるが、その中間の自立状態を含む業界共通の定量評価方法は確立されていない。しかしながら、これらの「硬さ」がコンクリートの種類、配合などの条件に応じて時間的に単調に変化することは明らかであり、図7の曲線はそれを模式的に記したものである。例えば試験錘による一定時間内の沈降量や凹み量の変化として定量化可能である。仕上げ可能な「硬さ」の判断基準は各社のノウハウにより多少異なるものの、例えば、一般のコンクリートではブリーディングが収まる時間を目安に仕上げを開始するので、その状態の「硬さ」に達する時間を、高流動コンクリートにおける仕上げ可能となるまでの硬化時間とすることができる。
【0036】
本実施形態に用いる硬化促進剤は、高流動コンクリート17に添加され、高流動コンクリート17の内部で、コンクリートの水和反応を促進するので、高流動コンクリート17に適宜分散させることにより高流動コンクリート17全体が略均等に硬化するように水和反応促進することができる。
【0037】
硬化促進剤を添加しない場合は、図7に1点鎖線で示す曲線51のように、練り混ぜ時の硬さHから緩やかに上昇して、時間t51に表面仕上げ可能な硬さHが得られる。一般的に、時間t51は、約2h〜4h程度である。
本実施形態では、そのような反応時間が加速されるので、曲線50に示すように硬さHから徐々に硬さが増加して、その後、急峻に増加し、時間t50(ただし、t50<t51)で、硬さHが得られる。その後、やや増加率を減少させつつ、さらに硬化が進行する。
時間t50は、上記に挙げた硬化促進剤を適宜量用いることにより、10min〜50minとすることができる。例えば、亜硝酸カルシウムであれば、約20min〜40min程度となる。
硬化速度を10min〜50min程度とすることにより、表面仕上げ工程を開始するための段取り時間を十分確保しつつ、養生工程に入るまでの時間を短縮することができるので、セグメントの製造効率を向上することができる。
【0038】
一方、自硬性の硬化剤も知られているが、図7に曲線52で示すように添加後急速に硬化し、硬さHとなる時間t52は、例えば5min以下程度と、本実施形態よりも圧倒的に高速で硬化するものである。
【0039】
また、本実施形態で、硬化促進剤としてコンクリートの水和反応を促進する触媒物質を用いる場合、自硬性の硬化促進物質とは異なり、それ自身が化学反応して消費されることがないので、高流動コンクリート17が流動性を保持する間は、未硬化の高流動コンクリート17中に分散させることができる。そのため、一部が急速に硬化して偏りが生じることがなく、満遍なく硬化を促進することができる。
【0040】
このように、本実施形態によれば、例えば外部から加熱して水和反応を促進したり、自硬性の硬化材を用いたりする場合などのように、外表面側から急速に硬化することがないから、内部に未硬化のコンクリート閉じ込められ、その硬化の進行につれてブリーディングが発生して、水みちやひび割れが発生する恐れがない。
【0041】
なお、上記の説明では、脱型工程は常温に下げてから行う例で説明したが、セグメントの強度および脱型作業に支障がなければ、完全に常温に戻る前に脱型工程を行ってもよい。
【0042】
また、上記の説明では、セグメントとしてRCセグメントの例で説明したが、表面仕上げが必要となるコンクリートセグメントであれば、RCセグメントに限定されるものではない。例えば、外周面または内周面がコンクリート面として露出された合成セグメントであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係るセグメントについて説明するための斜視説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法の各工程を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法の各工程について説明するためのセグメント軸方向に直交する方向の模式断面図である。
【図4】同じく図3に続く各工程について説明するためのセグメント軸方向に直交する方向の模式断面図である。
【図5】同じく図4に続く各工程について説明するためのセグメント軸方向に直交する方向の模式断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法における雰囲気温度の変化の一例を示す模式的なグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係るセグメントの製造方法に用いる硬化促進剤の硬化促進特性について説明するための模式グラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 コンクリートセグメント(セグメント)
4 内周面
5 外周面
10 下型枠(型枠)
16 蓋型枠(型枠)
17 高流動コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高流動コンクリートを型枠に打ち込み、該高流動コンクリートが自立し表面仕上げ可能となるまで硬化してから、蓋型枠を外して表面の仕上げを行うセグメント製造方法であって、
前記高流動コンクリートに硬化促進剤を添加して前記高流動コンクリートの硬化を促進することを特徴とするセグメントの製造方法。
【請求項2】
前記硬化促進剤が、コンクリートの水和反応を促進する触媒からなることを特徴とする請求項1に記載のセグメントの製造方法。
【請求項3】
前記硬化促進剤が、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、およびロダン酸塩のうちいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のセグメントの製造方法。
【請求項4】
前記高流動コンクリートが表面の仕上げ可能となるまで硬化時間が、打ち込み開始から10分から50分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセグメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−69366(P2007−69366A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256127(P2005−256127)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】