説明

セグメント函体または推進函体とエアモルタルブロックの複合体、及び多連形断面トンネルの施工方法

【課題】円形断面のトンネル同士を一部ラップさせながら多連形断面トンネルを構築する際に使用されるセグメント函体または推進函体とエアモルタルブロックの複合体、及び多連形断面トンネルの施工方法を提供する。
【解決手段】断面の外殻形状が欠円状のセグメント函体1と、欠円部に取付けられたエアモルタルブロック2とから構成されており、全断面の外殻形状が円形となるようにセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体100が形成される。エアモルタルブロック2は、複数の分割体21,21,…から構成されており、分割体同士、および分割体とセグメント函体とは、炭素繊維からなるボルトおよびナットによる締付け手段等によって接続されている。この複合体100を先行トンネルに適用し、後行トンネル施工用の掘進機がエアモルタルブロック2を切削しながら多連形断面トンネルが施工される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円形断面のトンネル同士を一部ラップさせながら多連形断面トンネルを構築する際に使用されるセグメント函体または推進函体とエアモルタルブロックの複合体と、該複合体を先行トンネルの一部または全部に使用してなる多連形断面トンネルの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、特に都市部において、地下道や地下鉄の本線トンネルがシールド工法にて施工されている一方で、本線トンネルにランプトンネルが分岐・合流する区間等のトンネル拡幅部や大断面トンネルの施工は、地上を広範囲に占有しながら開削工事にて施工されているのが現状である。施工深度が大深度に及ぶ場合や施工規模が大規模となる場合には、地上部の占有期間も長期化することとなり、交通渋滞をはじめとする地上交通等への影響も必然的に大きくなってしまう。また、大深度地下利用法を適用した地下トンネルの施工需要が今度増加することが予想される中で、その工期短縮や経済性、安全性、地上への影響の少ない工法の開発が急務となっている。
【0003】
地上を占有することなく、トンネル拡幅部を施工する技術としては、これまで様々な技術が公開されている。例えば、出願人等によって開発された技術として、プレシェル工法を挙げることができる。これは、トンネルの外殻覆工を複数の小断面トンネルで構成して推進工法にて掘削し、隣接する小断面トンネルを接続・一体化し、外殻覆工を地中で完成させ、外殻覆工の内部を掘削してトンネル拡幅部や大断面のトンネルを構築する方法である。この小断面トンネルを構成する推進函体は欠円部を有しており、この欠円部に地山保持用の滑材や裏込材を充填/硬化させ、この滑材や裏込材を後行の掘進機が掘進しながら小断面の推進函体を逐次構築するものである。
【0004】
上記する欠円状の函体と欠円部に切削体を備えた開示技術として、例えば特許文献1がある。これは、先行施工されるセグメントトンネルを、断面が欠円状のセグメント函体と、欠円部に発泡体等からなる切削体とからなる函体によって施工し、後行トンネル施工用のシールドマシンが切削体を切削しながら掘進することにより、多連形断面トンネルを構築するものである。
【0005】
また、出願人等による鋭意研究の結果発案された他の技術として、FAST工法(Free Access Shield Tunnel)を挙げることができる。この技術は、先行施工された本線トンネルのうち、後行トンネル施工用の掘進機によって切削される部分には切削が容易なFFUセグメント(FFU:Fiber Reinforced Foamed Urethane 積水化学工業株式会社製)を使用し、先行トンネル内に仕切壁を構成する補強材を建て込むとともに中詰材をトンネル内部に充填/硬化させた後に、後行トンネル施工用の掘進機がFFUセグメントを切削しながら多連形断面トンネルを施工するものである。
【0006】
【特許文献1】特開平11−159297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の欠円状のセグメント函体と切削体からなる先行函体によれば、切削体を後行トンネル施工用の掘進機にて掘進していくことで、地上を占有することなく、効率的に多連形断面トンネルを施工することが可能となる。しかし、特許文献1では、具体的に如何なる仕様の切削体を適用するのかが明確でなく、また、セグメント函体の外殻形状が大きくなった場合に、切削体も大規模なものとなり、欠円状のセグメント函体と該切削体を一体に組立てる際の製作手間は計り知れない。ここで、セグメント函体として断面視がD型のセグメントを適用し、その欠円部に裏込注入材等を充填施工する方法もあるが、この場合には、施工に応じてシールド掘進機のテール部の改造が余儀なくされることとなる。さらに、シールド掘進機内部に、シールドジャッキを追加したり、シールドジャッキを盛り替える等の作業が発生し、施工工程に段取り替え工が含まれることとなり、工期が長期化するといった問題もある。
【0008】
また、上記するFAST工法においては、FFUセグメントを適用することによって後行トンネル施工用の掘進機によるセグメント切削が極めて容易となり、施工効率を格段に向上させることができる。しかし、その一方でFFUセグメントの製作コストは比較的高価であり、さらに、仕切壁用の補強材の製作やその設置によって施工コストの高騰が危惧される。
【0009】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、円形断面のトンネル同士を一部ラップさせながら多連形断面トンネルを構築するに際し、後行トンネル施工用の掘進機によってその一部が切削される先行トンネル函体の製作コストも安価であり、かつ、掘進機の掘進時に作用する押圧力に対しても十分な強度を備えたセグメント函体または推進函体とエアモルタルブロックの複合体と、該複合体を使用してなる多連形断面トンネルの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明によるセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体は、断面の外殻形状が欠円状のセグメント函体と、欠円部に取付けられたエアモルタルブロックと、から構成されており、全断面の外殻形状が円形に形成されてなるセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体において、前記エアモルタルブロックは、複数の分割体から構成されており、分割体同士、および分割体とセグメント函体とが、掘進機による切削が可能な接続手段によって接続されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、欠円状とは、円形の一部が欠損しており、この欠損部に鉛直方向ないしは円形の内側に湾曲状に窪んだ壁面(隔壁)が形成されてなる形状を意味しており、セグメント函体自体は無端閉合されている。セグメント函体を形成するセグメントは、コンクリート製、鋼製、コンクリートと鋼材の組合せからなる公知のセグメントを使用できる。
【0012】
この欠円部の隔壁には、エアモルタルブロックが取付けられ、掘進機にて造成された切削孔に全断面の外殻形状が円形のセグメント函体とエアモルタルブロックからなる複合体が順次設置されることにより、セグメントトンネルが構築される。より具体的には、掘進機(シールド掘進機)内のエレクタ装置により、円弧断面を形成する複数のセグメントと、隔壁を構成するセグメントとを閉合するように組付けることによってセグメント函体を形成し、隔壁にエアモルタルブロックを取付けることによって全断面が円形の複合体を形成した後に、切削孔内に該複合体を設置する。
【0013】
エアモルタルブロックは、例えば、セメント、砂、水、起泡剤(気泡)からなり、予め発泡させた気泡をモルタルと混合させることによって所定の形状に成形される。エアモルタルは、セメントと、砂、水の各配合割合や起泡剤の混合割合を調整することにより、任意の強度(圧縮強度)の部材を製造することができる。したがって、後行トンネルを施工する掘進機による切削容易性と、該掘進機による掘進時の押圧力に抗し得る強度との双方を勘案して、適宜の配合にてエアモルタルブロックを製造するのが望ましい。また、エアモルタルブロックの形状は、上記する欠円部の側壁の形状に一致する側辺と、欠円部の円弧を形成する側辺からなるブロック形状に成形される。
【0014】
本発明の複合体にて適用されるエアモルタルブロックは、予め複数の分割体に成形されており、各分割体同士、および分割体と上記隔壁とを任意の接続手段にて接続することによって複合体が形成される。この接続手段は、掘進機による切削が可能な適宜の素材からなる接続部材によって構成されている。なお、分割体同士の接続時期については、分割体の製作工場にて取付ける形態や、立坑内にて取付けた後に掘進機内に搬入する形態、掘進機内にて直接取付ける形態など、運搬性や施工性を勘案して任意に決定される。
【0015】
本発明のセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体によれば、エアモルタルブロックが比較的軽量であることから、組付け効率も高く、エアモルタルの構成材料の各配合を適宜に調整することによって、掘進機による切削容易性と所要の圧縮性能を得ることができる。また、エアモルタルは安価な材料であることから、複合体の製作コストが安価となり、工費の削減に繋がる。また、エアモルタルブロックを複数の分割体とし、各分割体を組付けることによって複合体が形成されることから、複合体全体の組付け効率を高めることができる。さらに、分割体を組付ける構成とすることにより、トンネルの外殻が比較的大規模な場合でも、分割体自体の重量が大きくなることはなく、したがって組付け性能や運搬性の低下といった問題も生じ得ない。
【0016】
また,本発明によるセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体の好ましい実施形態において、前記接続手段は、炭素繊維からなるボルトによる締付け手段、分割体とセグメント函体に穿孔された孔に挿通された炭素繊維からなるロープによる締付け手段、接着剤による接着手段のいずれか1つまたは複数の手段からなることを特徴とする。
【0017】
セグメント函体の隔壁とエアモルタルブロック、および、エアモルタルブロックを構成する分割体同士を接続する手段として、一つには、炭素繊維からなるボルトを使用する形態を適用できる。なお、後行トンネルを施工する掘進機によって切削される接続部(例えば分割体同士の接続部)においては、ボルトとナットの双方が炭素繊維から成形されていることが望ましい。一方、セグメント函体の隔壁と分割体との接続部においては、炭素繊維からなるボルトを使用するとともに、隔壁のボルトボックス等で使用されるナットは、後行トンネル施工用の掘進機にて切削される必要が必ずしもないことから、従来の金属製のナットでよい。少なくともボルトが炭素繊維から成形されていることにより、後行トンネル施工用の掘進機による接続手段の切削容易性を実現でき、さらには、炭素繊維が引張性能に優れていることから、所要の接続強度を確保することができる。
【0018】
また、接続手段の他の実施の形態として、上記隔壁と各分割体のそれぞれに孔を穿孔しておき、接続される部材同士の孔に炭素繊維からなるロープを挿通させて締付ける方法であってもよい。この場合も、後行トンネル施工用の掘進機による接続手段の切削容易性と、所要の接続強度の確保の双方を満足することができる。
【0019】
さらに、エポキシ系接着剤やゴム系接着剤など、所要の接着強度を有する任意の接着剤にて分割体同士、および分割体と隔壁とを接着する形態であってもよい。この場合は、接着剤が掘進機による切削に何らの障害となるものではなく、接着剤の仕様に応じて所定の接着力を期待できることから、接続部の品質に優れた複合体を製作することが可能となる。
【0020】
また、本発明による推進函体とエアモルタルブロックの複合体は、断面の外殻形状が欠円状の推進函体と、欠円部に取付けられたエアモルタルブロックと、から構成されており、全断面の外殻形状が円形に形成されてなる推進函体とエアモルタルブロックの複合体において、前記エアモルタルブロックは、複数の分割体から構成されており、分割体同士、および分割体と推進函体とが、接続手段によって接続されていることを特徴とする。
【0021】
本発明は、推進工法によって先行トンネルが施工される場合に適用される推進函体とエアモルタルブロックの複合体に関するものである。推進工法は、工場で製造された推進函体(鉄筋コンクリート函体、硬質塩化ビニル函体、鋼管、鋳鉄管等)の先端に掘進機を取り付け、ジャッキの推進力等で函体を地中に圧入する方法である。
【0022】
推進函体も、上記するセグメント函体と同様に断面が欠円状に製作され、欠円部を構成する隔壁に、複数の分割体からなるエアモルタルブロックが接続されることによって全断面が円形の推進函体とエアモルタルブロックからなる複合体が形成される。また、エアモルタルブロックの分割体同士の接続や分割体と推進函体の隔壁との接続は、上記する炭素繊維からなるボルトおよびナットによる締付け手段、炭素繊維からなるロープによる締付け手段、接着剤による接着手段のいずれか1つまたは複数の手段を適用すればよい。
【0023】
本発明の推進函体と分割体からなるエアモルタルブロックの複合体を推進工法による先行トンネルに適用することにより、上記シールド工法と同様に、高い組付け効率と、後行トンネル施工用の掘進機による切削容易性を図ることができる。
【0024】
また、本発明による多連形断面トンネルの施工方法は、断面視円形の先行トンネルの一部を断面視円形の後行トンネルを構築する掘進機が切削しながら、多連形断面のトンネルを施工する多連形断面トンネルの施工方法において、先行トンネルの一部または全部が、前記セグメント函体とエアモルタルブロックの複合体、または、前記推進函体とエアモルタルブロックの複合体から形成されており、後行トンネルを構築する掘進機がエアモルタルブロックを切削しながら掘進することを特徴とする。
【0025】
本発明の多連形断面トンネルは、例えば、上記するFAST工法においては、拡幅区間を形成する本線トンネルとランプトンネルとから構成されるトンネルであり、(大深度)プレシェル工法では、大断面トンネルを構築する際に施工される、複数の小断面トンネルがラップして形成される支保工用のトンネルである。また、多連形断面トンネルは、2つの単円トンネル(双方の断面寸法が同一の形態や異なる形態)がラップすることによって形成される拡幅断面トンネルや、プレシェル工法で施工される支保工のように、十ないし数十基の小径トンネルがラップすることによって形成される多連形断面トンネルなど、その形態は任意である。このプレシェル工法のように、3以上のトンネルがラップ施工される形態における先行トンネルは、次に施工される後行トンネルに対して相対的に先行施工されるトンネルを意味している。
【0026】
シールド工法にて先行トンネルおよび後行トンネルが施工される場合には、円形の面盤を有するシールド掘進機が適用され、推進工法にて施工される場合には、円形の面盤を有する掘進機と後方から推進函体を圧入するジャッキが適用される。
【0027】
上記する本発明のセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体、または、前記推進函体とエアモルタルブロックの複合体を先行トンネルに適用することにより、後行トンネル施工用の掘進機の切削容易性と施工効率の向上、複合体の製造コストおよび全体工費の削減を図ることが可能となる。特に、上記するFAST工法においては、高価なFFUセグメントに代わって本発明の上記複合体を適用することで、その施工コストを大幅に削減することが期待できる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から理解できるように、本発明のセグメント函体または推進函体とエアモルタルブロックの複合体によれば、欠円状のセグメント函体または推進函体の欠円部に安価で複数の分割体からなるエアモルタルブロックを接続した複合体とすることにより、トンネルの規模に左右されることなく、施工効率を格段に高めることができる。また、分割体同士、および函体の隔壁と分割体とを掘進機にて切削が容易な素材からなる接続部材にて接続することにより、掘進機の切削効率を高めることができ、接続部材によってカッタフェイスの切削刃が破損するといった問題を回避することができる。また、本発明の多連形断面トンネルの施工方法によれば、上記複合体を先行トンネルに適用することにより、掘進機による切削容易性を図ることによって施工効率を高めることができ、工期の短縮と工費の削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明のセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体の一実施の形態を示した斜視図を、図2は、図1の一部の分解斜視図をそれぞれ示している。図3は、本発明の多連形断面トンネルの施工方法の一実施の形態を示した斜視図を、図4は、本発明の多連形断面トンネルの施工方法の他の実施の形態を説明した図であって、施工された多連形断面トンネルの断面図を、図5は、図4の施工方法を説明した図をそれぞれ示している。図6〜図8は、順に、本発明の多連形断面トンネルの施工方法のさらに他の実施の形態を示した断面図であり、施工ステップ1〜3をそれぞれ示している。また、図9は、図6〜図8の施工ステップによって構築された拡幅区間を示した断面図である。なお、本発明の多連形断面トンネルの施工方法は、図示する実施の形態に限定されるものではなく、2以上の単円トンネル同士をラップさせながら多連形断面トンネルを施工する全ての実施の形態に適用できるものである。また、図示する施工方法の実施の形態は、すべてシールド掘進機を使用するシールド工法によるものであって、先行トンネルに適用される複合体はセグメント函体とエアモルタルブロックから構成されるものであるが、本発明の施工方法が推進工法によるものであって、先行トンネルに適用される複合体が推進函体とエアモルタルブロックから構成される形態であってもよいことは勿論のことである。
【0030】
図1は、本発明のセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体を示している。図示するように、複合体100は、欠円状のセグメント函体1と、該セグメント函体1の欠円部を構成する隔壁に取付けられるエアモルタルブロック2とから製作され、複合体100の全体断面の外殻形状は円形となっている。セグメント函体1は、コンクリート製ないしは鋼製の一般のセグメントピース11,11,…と、隔壁のセグメントピース12,12,…を欠円形状のリング方向とトンネル軸心方向にそれぞれ組付けることで、無端閉合されている。
【0031】
一方、エアモルタルブロック2は、複数の分割体21,21,…から構成されており、隣接する分割体21,21同士、および分割体21と隔壁のセグメントピース12とが接続手段によって接続されている。この接続手段は、図2に示す分解斜視図に示するように、ボルト31とナット32の組合せ、またはボルト31とナット33の組合せから構成されている。分割体同士の接続部は、後行のシールド掘進機にて切削されることから、ボルト31、ナット32の双方が切削容易な炭素繊維から成形されている。隔壁のセグメントピース12と分割体21との接続方法は、分割体21に穿孔されたボルト孔21aにボルト31を螺合させておき、セグメントピース12に形成されたボルトボックス12bと隔壁端面とを貫通するボルト孔12aにボルト31を貫通させ、ボルトボックス12b内でボルト31を金属製のナット33で締付けることによりおこなわれる。一方、分割体21,21同士の接続は、該分割体21に形成されたボルトボックス21bから分割体の端面に貫通するボルト孔21aにボルト31を貫通させ、対向する分割体21,21のボルトボックス21b、21b内にてナット32,32によりボルト31の締付けをおこなう。なお、セグメント函体1を構成するセグメントピース同士の接続は、公知の金属製のボルトおよびナットにて接続される。
【0032】
次に、図1に示す複合体100を先行トンネルに使用して複数のトンネル同士をラップさせながら多連形断面トンネルを施工する施工方法について説明する。
【0033】
図3に示す斜視図は、従来のFAST工法において、先行トンネルである本線トンネルの一部に複合体100を適用した施工方法を模式的に示したものである。
【0034】
まず、本線トンネルAが相対的に大断面の面盤を有するシールド掘進機(図示略)にて施工される。この本線トンネルAの側方に、ランプトンネルBを構築するシールド掘進機4が進入し、拡幅区間を施工するものである。この拡幅区間L1には、図1に示すセグメント函体1とエアモルタルブロック2とからなる複合体100が施工されており、拡幅区間以外の区間L2には、エアモルタルブロックを備えていない一般の断面円形のシールドトンネル200が施工されている。
【0035】
シールド掘進機4は、エアモルタルブロック2を切削しながら掘進し、拡幅区間の施工がおこなわれる。なお、エアモルタルブロック2は、シールド掘進機4による掘進時の押圧力に抗し得る圧縮強度を備えた材料配合(セメントと、砂、水の各配合割合や起泡剤の混合割合など)とすることにより、セグメント函体内部に補強用の支保部材を設置したり、従来のFAST工法のようにトンネル内部に中詰材を充填することなく、拡幅区間の施工をおこなうことができる。尤も、必要に応じて支保工を設ける等の措置を講じてもよい。
【0036】
一方、図4に示す断面図、および図5に示す施工方法の説明図は、従来の大深度プレシェル工法において、支保用函体に図1に示す複合体100を順次ラップ施工する施工方法を説明したものである。
【0037】
大深度プレシェル工法は、図4に示すように、トンネルの拡幅区間や大断面トンネルを施工するに際し、まず、トンネル軸心方向に延設する複数の小断面トンネルa,a,…をシールド掘進機4にて側方に順次ラップ施工することによって支保工アーチを形成する(X方向)。なお、止水対策等、必要に応じて大径の無端リング状に支保工を形成してもよい。
【0038】
図5に示すように、この小径トンネルaに複合体100を適用し、順次、シールド掘進機4にて先行トンネルの複合体100のエアモルタルブロック2を切削しながら掘進させ、後行の小断面トンネルaを構築していく。
【0039】
図4に戻り、所定規模の支保工用アーチを構築した後に、その下部に、本線トンネルbや導坑を構築し、該本線トンネルや導坑を起点としてトンネル断面を拡大していく方法(Y方向)や、先行トンネルの一部に後行トンネルをラップさせながら拡幅区間の構築をおこなう方法などにより、所定規模および形態の本設トンネルを施工することができる。
【0040】
さらに、図6〜図9に示す断面図は、出願人等によって発案されたZIP工法において、その先行トンネルに複合体100を適用してなる施工方法をステップ順に説明したものである。ここで、ZIP工法とは、間隔をおいて併設施工される2つの本線トンネルを先行施工し、その間に矩形断面のランプトンネル施工用のシールド掘進機が掘進し、中央のランプトンネルと両側の本線トンネルとを連通させることにより、トンネル拡幅区間を施工する方法である。
【0041】
ここでは、先行施工される本線トンネルA1、A1の少なくとも拡幅区間に複合体100,100が適用される。
【0042】
まず、図6に示す施工ステップ1において、複合体100,100が、双方のエアモルタルブロック2,2を対向するようにして先行施工される。その間に、ランプトンネルを後行施工する矩形断面(詳細には、矩形断面の上下の端辺が湾曲形状となっている)のシールド掘進機4aが進入してくる。なお、このシールド掘進機の断面視形状は、円形や楕円形、矩形など、図示するシールド掘進機の実施の形態以外の形態であってもよい。
【0043】
次いで、図7に示す施工ステップ2において、シールド掘進機4aは、両側の複合体100,100のエアモルタルブロック2,2を切削しながら掘進し、本線トンネルA1,A1の双方にランプトンネルをラップ施工していく。
【0044】
このシールド掘進機4aは、図8に示す施工ステップ3に示すように、エアモルタルブロック2,2を切削しながら掘進するととともに、その後方においてセメント系地盤改良材を地盤内に吐出したり、凍結工法を実施するなどしながら、ランプトンネルと本線トンネルとの接続部周辺に改良体Cを造成する。所定延長の拡幅区間においてランプトンネルB1の施工が終了し、地盤改良施工が終了した段階で、中央のランプトンネルB1内から、トンネル側壁を解体しながら、鋼管等からなる接続コラムD,D,…を本線トンネルA1,A1内にそれぞれ貫通施工していく。
【0045】
接続コラムD,D,…の貫通施工を拡幅区間全長に亘っておこなって大断面のトンネル拡幅区間を施工後、トンネル内部に本設躯体Eを構築することにより、拡幅区間の施工が完了する(図9参照)。
【0046】
上記する3ケースの多連形断面トンネルの施工方法において、先行トンネルに本発明のセグメント函体とエアモルタルブロックからなる複合体を適用することにより、シールド掘進機による切削容易性と、複合体の高い組付け効率により、全体の施工性を従来の工法に比して格段に向上させることができる。また、エアモルタルブロックを構成する分割体同士、および分割体とセグメント函体の隔壁のセグメントピースとの接続を炭素繊維からなるボルトとナットにておこなうことにより、シールド掘進機にて該接続手段が容易に切削され、掘進機による切削効率を低下させる危険性がない。
【実施例1】
【0047】
次に、発明者等が実施した本発明の複合体と比較例との製作コストを比較結果を示す。表1では、一定の延長の複合体(実施例)に対して、同程度の延長で、エアモルタルブロック部分に他の材料を使用してなる複合体(比較例)の比率を示している。すなわち、比較例においては、セグメント函体は実施例と同じ仕様の函体を使用し、実施例のエアモルタルブロックに代わって、様々な材料の部材をセグメント函体に組付けている。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、FRPとは、繊維補強プラスチックのことである。
【0050】
表1に示す試算結果からも明らかなように、セグメント函体の欠円部にエアモルタルブロックを組付けてなる複合体が最も製作コストが安価となる。また、比較例5の木材を適用した場合には、後行トンネル施工用のシールド掘進機による切削時の反力に対して、該木材が十分な強度を有していないことは明らかであるが、コスト的には、エアモルタルブロックはこの木材と同程度である。
【実施例2】
【0051】
また、発明者等は、エアモルタルの成分配合を調整することにより、複数の圧縮強度のエアモルタルブロックの実施例(A〜C)を試作した。以下の表2〜4にはそれぞれ、実施例A〜Cの各成分配合とそれぞれの圧縮強度を示している。
【0052】
【表2】

【0053】
表2より、実施例Aでは、セメントと砂の比(C:S)を1:1とすることにより、13(N/mm)の圧縮強度のエアモルタルブロックを製作することができた。
【0054】
【表3】

【0055】
表3より、実施例Bでは、セメントと砂の比(C:S)を1:3とすることにより、10(N/mm)の圧縮強度のエアモルタルブロックを製作することができた。
【0056】
【表4】

【0057】
表4より、実施例Cでは、セメントと砂の比(C:S)を1:3.5とすることにより、8(N/mm)の圧縮強度のエアモルタルブロックを製作することができた。
【0058】
上記実施例A〜Cの配合によってできるエアモルタルブロックは、掘進機による切削時の押圧力によっても十分に抗し得る強度を有している。また、各実施例のコスト比較を試算すると、実施例A:実施例B:実施例C=1:0.98:1.12程度となり、コスト差はそれほど生じないことが分かった。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体の一実施の形態を示した斜視図。
【図2】図1の一部の分解斜視図。
【図3】本発明の多連形断面トンネルの施工方法の一実施の形態を示した斜視図。
【図4】本発明の多連形断面トンネルの施工方法の他の実施の形態を説明した図であって、施工された多連形断面トンネルの断面図。
【図5】図4の施工方法を説明した図。
【図6】本発明の多連形断面トンネルの施工方法のさらに他の実施の形態を示した断面図であり、その施工ステップ1を示した図。
【図7】図6に続く施工ステップ2を示した図。
【図8】図7に続く施工ステップ3を示した図。
【図9】図6〜図8の施工ステップによって構築された拡幅区間を示した断面図。
【符号の説明】
【0061】
1…セグメント函体、11…一般のセグメントピース、12…隔壁のセグメントピース、2…エアモルタルブロック、21…分割体、31…ボルト、32…ナット、4,4a…シールド掘進機、100…複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面の外殻形状が欠円状のセグメント函体と、欠円部に取付けられたエアモルタルブロックと、から構成されており、全断面の外殻形状が円形に形成されてなるセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体において、
前記エアモルタルブロックは、複数の分割体から構成されており、分割体同士、および分割体とセグメント函体とが、掘進機による切削が可能な接続手段によって接続されていることを特徴とするセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体。
【請求項2】
前記接続手段は、炭素繊維からなるボルトによる締付け手段、分割体とセグメント函体に穿孔された孔に挿通された炭素繊維からなるロープによる締付け手段、接着剤による接着手段のいずれか1つまたは複数の手段からなることを特徴とする請求項1に記載のセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体。
【請求項3】
断面の外殻形状が欠円状の推進函体と、欠円部に取付けられたエアモルタルブロックと、から構成されており、全断面の外殻形状が円形に形成されてなる推進函体とエアモルタルブロックの複合体において、
前記エアモルタルブロックは、複数の分割体から構成されており、分割体同士、および分割体と推進函体とが、接続手段によって接続されていることを特徴とする推進函体とエアモルタルブロックの複合体。
【請求項4】
前記接続手段は、炭素繊維からなるボルトおよびナットによる締付け手段、分割体と推進函体に穿孔された孔に挿通された炭素繊維からなるロープによる締付け手段、接着剤による接着手段のいずれか1つまたは複数の手段からなることを特徴とする請求項3に記載の推進函体とエアモルタルブロックの複合体。
【請求項5】
断面視円形の先行トンネルの一部を断面視円形の後行トンネルを構築する掘進機が切削しながら、多連形断面のトンネルを施工する多連形断面トンネルの施工方法において、
先行トンネルの一部または全部が、請求項1または2に記載のセグメント函体とエアモルタルブロックの複合体から形成されており、後行トンネルを構築する掘進機がエアモルタルブロックを切削しながら掘進することを特徴とする多連形断面トンネルの施工方法。
【請求項6】
断面視円形の先行トンネルの一部を断面視円形の後行トンネルを構築する掘進機が切削しながら多連形断面のトンネルを施工する多連形断面トンネルの施工方法において、
先行トンネルの一部または全部が、請求項3または4に記載の推進函体とエアモルタルブロックの複合体から形成されており、後行トンネルを構築する掘進機がエアモルタルブロックを切削しながら掘進することを特徴とする多連形断面トンネルの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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