説明

セシウム除去性壁紙

【課題】特殊な装置を必要とせずに、セシウム及びその化合物を吸着除去することができ、かつ吸着物の処理を容易とすることのできるセシウム除去性壁紙を提供する。
【解決手段】支持基材層とフェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層とを有するセシウム除去性壁紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム除去性を有する壁紙に関する。さらに詳しくは、大気中に含まれる有害な放射性セシウムの除去が可能な壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生する放射性物質を含む廃液や排ガスから放射性物質を自然環境中に排出させないことが求められている。特に放射性物質の中でも放射性セシウム137は、半減期が30年であり、その間γ線を放射し続ける。また、ガス化し易いため広く環境中に飛散し、水溶性が高く生体に蓄積し易い。その為、生体内に取り込まれると、体内被曝による生体への悪影響が非常に大きく、深刻である。この放射性セシウム137を除去する方法として、ゼオライトを用いて汚染水から除去する方法は多数知られている(特許文献1参照)。一方、放射性セシウム137を含むセシウム及びその化合物と選択的に反応して吸着作用を有する化合物として紺青(プルシアンブルーとも言う)などのフェロシアン化金属化合物が一般的に知られており(特許文献2参照)、微粒子状態のまま使用し、セシウム及びその化合物を吸着した後の廃液や排ガス中から微粉状態の吸着物の回収を検討しているが、大掛かりな装置が必要である(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−79999号公報
【特許文献2】特開平5−66295号公報
【特許文献3】特開平4−285017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フェロシアン化金属化合物を用いてセシウム及びその化合物(以下、単に「セシウム」ということがある。)を除去するに当たって、特殊な装置を必要とせずに、かつセシウムを吸着した後の吸着物の処理が容易であるセシウム除去材として有用な壁紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、支持基材層とフェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層とを有する壁紙により、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のセシウム除去性壁紙を提供するものである。
1.支持基材層とフェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層とを有するセシウム除去性壁紙。
2.セシウム除去材層に含有するフェロシアン化金属化合物が化学式Axy[Fe(CN)6]で示される上記1に記載のセシウム除去性壁紙。〔ただし、化学式中のAは、K、Na、及びNH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnのいずれかであり、かつ式x+ny=4(x=0〜3)を満たす。ただしnはMの価数を表わす。〕
3.セシウム除去材層に、フェロシアン化金属化合物を1〜90質量%含有する上記1又は2に記載のセシウム除去性壁紙。
4.支持基材層は通気性を有するものであり、壁に貼り付けた際に、セシウム除去材層が壁側となるように貼り付けられる上記1〜3のいずれかに記載のセシウム除去性壁紙。
5.通気性を有する支持基材層の透気抵抗度(測定法:JIS P8117−1998)が60秒以下である上記4に記載のセシウム除去性壁紙。
6.セシウム除去材層上に、さらに別途、支持基材層を有する上記4又は5に記載のセシウム除去性壁紙。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセシウム除去性壁紙によれば、該壁紙に包含されるフェロシアン化金属化合物によって、特殊な装置を必要とせずに、セシウム及びその化合物を吸着除去することができ、かつ吸着物の処理を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のセシウム除去性壁紙の1態様を示す説明図である。
【図2】本発明のセシウム除去性壁紙の1態様を示す説明図である。
【図3】本発明のセシウム除去性壁紙の1態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセシウム除去性壁紙について、図1〜図3を用いて説明する。本発明のセシウム除去性壁紙は、少なくとも支持基材層2及び/又は5とフェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層3との2層又は3層を有する。図1〜図3では、セシウム除去材層3は、支持基材層2及び/又は5の全面に塗工したものが示されているが、支持基材層2及び/又は5上の一部に塗工されていてもよい。また、セシウム除去材層3は、フェロシアン化金属化合物を含有するものであるが、印刷層としての作用を兼ね備えたものであってもよい。なお、セシウム除去材層3が印刷層を兼ね備えたものであるか否かにかかわらず、別途、印刷層4を有することができる。別途、印刷層を有する場合は、その印刷層4の配置位置は、支持基材層2(図2では支持基材層5)とセシウム除去材層3との間に配置させてもよいし、貼った後の最外面に設置させてもよい。なお、本発明のセシウム除去性壁紙を構成する各層の接着には、必要に応じて接着剤を使用してもよいし、セシウム除去材層3が接着剤層を兼ねても良い。
また、図2に示すように支持基材層5上にセシウム除去材層3が設けられるか、または図3に示すように、支持基材層5上にセシウム除去材層3が設けられ、さらにその上に支持基材層2を設けることはさらに好ましい態様である。ここで接着剤層の壁に対する接着力を少し弱くしておけば、壁紙を剥がす時に有害なセシウムを含むセシウム除去材層3が壁に残ることを防げる観点で好ましい。ただし、図2に示すような構成ではセシウム除去材層3の色が濃色で目に刺激が強いので白色顔料を併用して淡色化することが好ましい。
【0009】
これに対して図1及び図3に示す態様では、セシウム除去材層3が支持基材層2に対して、接着剤層の壁6に対向する側に積層され、必要に応じて使用される接着剤層によって本発明のセシウム除去性壁紙1が壁6に貼着されるものである。したがって、これらの態様では支持基材層2の裏面側(壁6に対向する側と反対側)が壁紙の表面となる。よって、支持基材層2はセシウム除去材層3の保護層としての機能も合わせ持つ。また、支持基材層2により、セシウム除去材層3の濃色は、程度に差はあるが隠蔽される。
一方、図2に示す本発明のセシウム除去性壁紙は、支持基材層5の上にセシウム除去材層3を有するので、支持基材層5の裏面側に通常壁紙を貼着するのに用いられる接着剤(図示せず)を用いて、支持基材層5と壁6を貼着させることができる。この場合には、セシウム除去材層3が前面に表れる。なお、本発明のセシウム除去性壁紙は、支持基材層2及び/又は5上にセシウム除去材層3のみを有していてもよいし、セシウム除去材層3が印刷層の役割を兼ね備えたものであってもよい。さらには、印刷層を支持基材層2又は5とセシウム除去材層3との中間層として使用してもよく、または、壁側から見て最外層に使用してもよい。次に、本発明のセシウム除去性壁紙を構成する各層について記載する。
【0010】
[セシウム除去材層]
本発明のセシウム除去性壁紙を構成するセシウム除去材層3は、フェロシアン化金属化合物を含有するものである。このセシウム除去材層3を構成する原材料としてフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂成分を含む分散液が用いられる。また、必要に応じて色を変える場合は着色顔料を使用する。以下、分散液を構成する各成分について記載する。
【0011】
[フェロシアン化金属化合物]
本発明において使用されるフェロシアン化金属化合物とは、その化学式は、Axy[Fe(CN)6]ただしA及びMは金属等の陽イオン、で示される金属塩であり、化学式中のAは、K、Na、及びNH4のいずれかが望ましく、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnのいずれかが望ましく、かつ式x+ny=4(x=0〜3)を満たす。ただしnはMの価数を表わす。
この中の代表的な化合物で構造式NH4Fe[Fe(CN)6]で表せる種類の紺青は、工業的に量産され、極めて微粒子状の顔料であり、その用途としてインキ、絵の具、化粧品などに広く使用されている安全性の高い化合物である。これらのフェロシアン化金属化合物は結晶構造として立方晶形を有し、格子内に一価の陽イオン、特にセシウムを選択的に取り込みやすい化合物である。
本発明のセシウム除去性壁紙に使用されるフェロシアン化金属化合物は、その形態が微粒子状であっても、水分等を含んだウェット状であってもよい。なお、市販の微粉品には吸着水が含まれている。
【0012】
本発明に使用するフェロシアン化金属化合物は着色力が大きい(例:紺青は濃い青)のでセシウム除去材層が表面(壁紙の最外面)にあると目への刺激が強い。そこで基材の裏側(貼った後の)に塗布するか、または白色顔料を併用して淡色にする必要がある。また、色相を変えるには他の有色顔料を併用すると良い(例:紺青に赤色顔料を混ぜると紫色に、黄色顔料を混ぜると緑色になる)。
白色顔料としては酸化チタン、酸化亜鉛、リトポン等が挙げられ特に隠蔽力、分散性などの点で酸化チタンが望ましい。有彩色顔料としては、赤色顔料として弁柄(三酸化二鉄)、キナクリドン顔料、ジケトピロロピロール顔料等があげられ、黄色顔料として黄土(水和酸化鉄)、チタンイエロー、イソインドリノン顔料等があげられるが、これらに限定されない。
【0013】
[バインダー樹脂]
本発明において使用されるバインダー樹脂としては、天然樹脂及び合成樹脂のいずれを用いることもでき、また、天然樹脂と合成樹脂を組み合わせて用いることもできる。
分散液で用いられるバインダー樹脂としては、接着性とフェロシアン化金属化合物の分散性を有するものが好ましい。ここで、前記接着剤組成物中で用いられる場合と、前記印刷インキ中で用いられる場合とでは、その役割及び要求される物性が異なる。すなわち、接着剤組成物中で用いられる場合は接着剤としての物性が必要だが、印刷層用のインキ中に用いる場合は特に印刷適性が要求される。
【0014】
前記接着剤組成物中で用いられる場合、バインダー樹脂として接着剤としての物性を考慮すると具体的には、以下に記載する天然樹脂及び合成樹脂が好適に挙げられる。
天然樹脂としては、カゼイン、大豆たんぱく、澱粉、天然ゴム、セルロース系、膠、松脂、セラック等が挙げられ、さらにはこれらの天然樹脂に対して、焙焼・酸化・アセチル化・メチル化・カルボキシメチル化・エステル化・エーテル化などの変性を施したものが挙げられる。
また、合成樹脂としては、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、アクリル・酢酸ビニル系、アクリル酸・メチルメタクリレート系、ポリメタクリレート系、α-オレフィン・無水マレイン酸系、ウレタン系、エポキシ系、塩化ビニル系、クロロプレン系、酢酸ビニル系、シアノアクリレート系、シリコーン系、水性ビニルウレタン系、スチレン系、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系、ポリビニルブチラール系、ポリベンズイミダゾール系、ポリアミド系、ユリア系、メラミン系、レゾルシノール系等が挙げられる。
上記天然樹脂及び合成樹脂は、1種類以上を適宜選択して使用することができる。
またイソシアネート化合物等の架橋性の硬化剤を併用してもよい。
【0015】
また、セシウム除去材層3に印刷層としての機能を有させる場合、バインダー樹脂としては、フェロシアン化金属化合物の分散性と印刷適性を有するものが好ましく、具体的には、石油樹脂、ロジン誘導体、硝化綿やアセチルブチルセルロース等のセルロース誘導体、環化ゴムや塩化ゴム等のゴム誘導体、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂等の天然樹脂又は合成樹脂が好適に挙げられる。
【0016】
[分散媒]
本発明においては、使用されるフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂を分散液とするために分散媒を使用することができる。分散媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ブチルセロソルブ、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、キシレン、トルエン、酢酸ブチル、酢酸エチル、エトキシエチルプロピオネート、メトキシプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブタノール等が挙げられる。これらの分散媒は、それぞれを単独で使用してもよいし、また複数種を併用して使用してもよい。
【0017】
[添加成分]
本発明のセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層3を形成するために用いられる分散液には、フェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂とともに添加成分を必要により添加含有させることができる。添加成分としては、分散安定剤、酸化防止剤、架橋剤、硬化剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、浸透剤、凍結防止剤、乾燥遅延剤、炭化水素系溶剤、乳化剤、増粘剤、可塑剤、造膜助剤、吸水性ポリマー、保湿剤、体質顔料等を挙げることができる。ここで、吸水性ポリマーや保湿剤は水分を保持してセシウムの吸着を補助する成分であり、吸水性ポリマーとしてはポリアクリル酸ナトリウムや変性ポリアルキレンオキサイド等があげられ、保湿剤としてはポリエチレングリコールやソルビトール等の合成多価アルコール、各種アミノ酸やキチン、キトサン、タンパク質分解物などの生物系保湿剤があげられるが、これらに限定されない。
【0018】
[フェロシアン化金属化合物とバインダー樹脂の含有割合]
本発明のセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層3を形成するために用いられる分散液中の、フェロシアン化金属化合物とバインダー樹脂の含有量は、フェロシアン化金属化合物とバインダー樹脂の合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物が1〜90質量%であり、バインダー樹脂が99〜10質量%であることが好ましい。フェロシアン化金属化合物が1質量%未満であるとセシウム除去効率が低下し、90質量%を超えるとフェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層3が支持基材層2から剥離や離脱する恐れがある。
【0019】
[分散媒の配合割合]
分散液中に使用される分散媒の量は、使用されるフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂が分散状態となり、液状とすることができる量であればよく、通常は、フェロシアン化金属化合物とバインダー樹脂との合計量100質量部に対して、0〜900質量部、好ましくは0〜400質量部である。上述したように、使用されるバインダー樹脂が分散媒としての役割を果たす場合は、分散媒は必ずしも必要ではない。使用される分散液は、上記にて説明した各成分を所定量配合して混合後、分散液とするものである。
【0020】
[支持基材層]
本発明のセシウム除去性壁紙における支持基材層は、フェロシアン化金属化合物とバインダー樹脂を含む分散液を塗工してセシウム除去材層を形成し、壁紙を製造するための基材である。
図1に示す態様では、支持基材層2は本発明の壁紙を壁に貼った後に表面になる層である。よって、大気中の放射性物質は該支持基材層2を通して、壁紙の内部に存在するフェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層3に吸着されるものであるため、通気性の良い材料であることが好ましい。また、壁6に貼った後に表面になる支持基材層2はセシウム除去材層3の保護層としての役割もある。なお、その上に、装飾のための通常の印刷層が施されていてもよい。
このように壁に貼った後に表面になる支持基材層2としては、セシウムは支持基材層2を通して、セシウム除去材層3に吸着されることから、通気性を有することが必要となる。通気性を有する支持基材層2としては、透気抵抗度が60秒以下、更に好ましくは30秒以下である通気性を有する基材を使用することが望ましい。なお、透気抵抗度の測定方法は、JIS P8117−1998紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法に基づいて測定されるものである。
これらの材質としては和紙、非木材紙、水酸化アルミニウム紙(水酸化アルミニウムおよびパルプを含む)、珪藻土紙(紙と珪藻土の混合物)や布などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
和紙としてはコウゾ、ミツマタなどを原料とするものが挙げられ、非木材紙としてはケナフ、さとうきびの搾り糟などを原料とするものが挙げられる。布としては平織布、綾織布、朱子織布、不織布、植毛布や金属繊維やガラス繊維を素材とした布などが挙げられる。
貼った後に表面になる支持基材層2の厚さとしては、本発明の効果が奏される範囲内であれば、特に限定されないが、通気性基材の強度等の観点から0.01mm以上であることが好ましく、一方放射性物質を効果的に通過させるとの観点から3mm以下であることが好ましい。以上の点から、さらに0.05〜1mmの範囲であることがさらに好ましい。
【0021】
図2に示す態様では支持基材5を使用し、その上に貼った後の表面層としてのセシウム除去材層を形成する。支持基材5としては市販の壁紙用紙が望ましいが、これらに限定されるものではない。このような構成で壁6との間の接着剤層の接着強度を弱くしておけば、壁紙を剥がす時に有害なセシウムを含むセシウム除去材層3が壁に残ることを防げる点で好ましい。
【0022】
図3に示す態様では支持基材2に加えて支持基材5を使用する。支持基材5としては、市販の壁紙用紙が望ましいが、これらに限定されるものではない。支持基材5は、支持基材2及びセシウム除去材層と接着剤を用いて貼り合せて使用するが、接着剤層はセシウム除去材層を兼ねても良い。このような構成で壁6との間の接着剤層の接着強度を弱くしておけば、壁紙を剥がす時に有害なセシウムを含むセシウム除去材層3が壁に残ることを防げる観点で好ましい。
【0023】
[印刷層]
本発明のセシウム除去性壁紙には、必要に応じて印刷層を設けることができる。この印刷層は、装飾性、意匠性や各種表示機能を目的として使用されるものである。この印刷層は、前述したように、セシウム除去材層自体に印刷層としての役割を持たせることも可能であり、また、支持基材層とセシウム除去材層との中間層として又は外層側に設けることも可能である。ただし、印刷層は放射性物質の透過を妨げるので出来るだけ少ない面積が望ましい。
この印刷層を構成するバインダー樹脂としては、前述したように、印刷適正に優れた公知の材料、例えば、石油樹脂、ロジン誘導体、硝化綿やアセチルブチルセルロース等のセルロース誘導体、環化ゴムや塩化ゴム等のゴム誘導体、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂等の天然樹脂又は合成樹脂が好適に挙げられる。
【0024】
[接着剤]
セシウム除去材層が接着剤層を兼ねる場合は、前記セシウム除去材層で記載したものの中で接着剤としての物性および印刷適性を兼ね備えたものが望ましい。
セシウム除去材層が接着剤層を兼ねない場合は、酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル樹脂系、澱粉系、セルロースエーテル系、アクリル系などの市販の壁紙用接着剤を使用することができる。
【0025】
[壁紙の製造方法]
構成例1(セシウム除去材層3が接着剤層で支持基材層2の壁側である構成、図1参照)
構成例1のセシウム除去性壁紙は、上記にて記載したフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂を含む分散液を、上述の支持基材層2上に公知の方法で塗布して、必要に応じて乾燥、硬化させセシウム除去材層3を形成させたものである。壁6に接着させるには、セシウム除去材層3が接着剤層を兼ねるか、または別途、接着剤を使用する。
【0026】
構成例2(構成例1でセシウム除去材層3が接着剤層を兼ねない構成、図1参照)
構成例2のセシウム除去性壁紙は、上記にて記載したフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂を含む分散液を印刷インキとして用い、支持基材層2に公知の方法で印刷してセシウム除去材層3を形成させるものである。このセシウム除去材層3は有彩色であるため、印刷層を兼ねても良い。該セシウム除去材層3の面に接着剤を用いて壁6に貼って使用してもよい。
【0027】
構成例3(構成例1で印刷層がセシウム除去材層3とは別にある構成、図1参照)
構成例3のセシウム除去性壁紙は、上記にて記載したフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂を含む分散液を、上述の支持基材層2上に公知の方法で塗布して、必要に応じて乾燥、硬化させてセシウム除去材層3を形成させ、更に支持基材層2側の面、または、セシウム除去材層3側の面に印刷層を設けたセシウム除去性壁紙である。なお、この印刷層は、セシウム除去材層3と支持基材層2との間に設けることもできる。
【0028】
構成例4(セシウム除去材層3が接着剤層ではなくて、かつ支持層5の壁と逆側である構成、図2参照)
構成例2のセシウム除去性壁紙は、上記にて記載したフェロシアン化金属化合物、着色顔料及びバインダー樹脂を含む分散液を、上述の支持基材層5上に公知の方法で塗布して、必要に応じて乾燥、硬化させセシウム除去材層3を形成させたものである。ここで、目への刺激性を低減させるために白色顔料を含むことで淡色にする。なお、このセシウム除去材層3は有彩色であるため、印刷層を兼ねても良い。壁6に接着させるには壁紙用接着剤層を使用する。
【0029】
構成例5(支持基材層が2層でセシウム除去材層を挟む構成、図3参照)
構成例5のセシウム除去性壁紙は、上記にて記載したフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂を含む分散液を、上述の支持基材層2上に公知の方法で塗布して、必要に応じて乾燥、硬化させセシウム除去材層3を形成させ、次いで、接着剤層を用いて(セシウム除去材層3が兼ねても良い)紙や布等の支持基材層5を貼り合せて得られる。該構成例では、通常、支持基材層5の面に壁紙用で使用できる接着剤を塗布して接着剤層を形成し、壁に貼るものである。
【0030】
上記構成例のうち、構成例2および構成例5は、壁紙を剥がす時に有害なセシウムを含むセシウム除去材層3が壁に残ることを防げる点で好ましい。また、構成例3は、フェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層3が印刷層としての役割を有することから、別途に印刷層を設ける必要性が低く、セシウム除去性壁紙としての層構成を減らすことができる。そして、構成例4は、印刷層を別途有するため、セシウム除去性壁紙として意匠性、装飾性等に優れたセシウム除去性壁紙が得られる。
このようにして得られる本発明のセシウム除去性壁紙を使用すると、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生するセシウムを含む汚染された空気からセシウムを特殊な装置を必要とせず簡便に除去することができる。
【実施例】
【0031】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
除染試験
本発明の壁紙について、除染試験は本来セシウムの微粒子を含む空気を用いて試験するべきだが、そのセシウムを含む空気の作成方法が大変難しいので、ここではセシウムを含む水溶液の状態のもので代替して行った。
各実施例で製造したセシウム除去性壁紙500cm2を裁断(幅5mm)して得られたサンプルを内径12mmのカラムに充填し、硝酸セシウム70ミリグラム/リットル及び硫酸ナトリウム200グラム/リットルを含む硝酸セシウム水溶液(中性)500ミリリットルを2ミリリットル/分の速度で通過させた。その流出液のセシウム濃度を原子吸光分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−2010;出限界0.006ミリグラム/リットル)にて測定し、その除染係数を求める。なお、除染係数=処理前のセシウム濃度/処理後のセシウム濃度で示される。除染係数は通常、100以上であれば、除去効果が十分あるとされている。
【0032】
実施例1(構成例1:セシウム除去材層3が接着剤層で支持層2の壁側である場合)
紺青顔料(商品名:ミロリブルー660PA、フェロシアン化金属化合物の前記化学式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)15質量部に、50質量%のエチレン-酢酸ビニル樹脂を含むエマルジョン(商品名:スミカフレックス752;住友化学株式会社製)60質量部、水25質量部を加え、ディゾルバーにて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物とエチレン-酢酸ビニル樹脂(バインダー樹脂)との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は33質量%含まれていた。この分散液をスポンジローラーにて、厚さ100μmのポリエステル製のフィルム(支持基材層)に、分散剤塗布量が乾燥重量として40g/m2となるように塗布し、更にその塗布液上にレーヨン素材の不織布(基材支持層2;透気抵抗度:1.4秒未満)を貼り合せ、130℃で2分間乾燥して厚みが33μmのセシウム除去材層を設け、本発明のセシウム除去性壁紙を得た。このセシウム除去材層中には、フェロシアン化金属化合物の紺青顔料が32質量%含まれていることを確認した。得られたセシウム除去性壁紙をポリエステルフィルム(厚さ50μm)に貼付する事でサンプルを得た。該サンプルを上記方法にて評価した結果、除染係数は530であった。
【0033】
実施例2(構成例1:セシウム除去材層3が接着剤層で支持層2の壁側である場合)
紺青顔料(商品名:ミロリブルー660PA、フェロシアン化金属化合物の前記化学式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)5質量部に、50質量%のエチレン-酢酸ビニル樹脂を含むエマルジョン(商品名:スミカフレックス752;住友化学株式会社製)65質量部、水30質量部を加え、ディゾルバーにて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物とエチレン-酢酸ビニル樹脂(バインダー樹脂)との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は13質量%含まれていた。この分散液を使用して実施例1と同様の方法で、本発明のセシウム除去性壁紙を得た。なお、分散液塗布量は実施例1と同じ乾燥重量として40g/m2とした。得られたセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層の厚みは36μmであり、このセシウム除去材層中には、フェロシアン化金属化合物である紺青顔料が13質量%含まれていることを確認した。該壁紙を使用し実施例1と同様に作成したサンプルを上記方法にて評価した結果、除染係数は230であった。
【0034】
実施例3(構成例1:セシウム除去材層3が接着剤層で支持層2の壁側である場合)
実施例1でレーヨン素材の不織布を壁紙用裏打紙(紙/発泡塩ビ;透気抵抗度:30秒)に替えた以外は実施例1と同様の方法で、本発明のセシウム除去性壁紙を得た。なお、分散液塗布量は実施例1と同じ乾燥重量として40g/m2とした。得られたセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層の厚みは36μmであり、このセシウム除去材層中には、フェロシアン化金属化合物である紺青顔料が13質量%含まれていることを確認した。該壁紙を使用し実施例1と同様に作成したサンプルを上記方法にて評価した結果、除染係数は375であった。
【0035】
実施例4(構成例1:セシウム除去材層3が接着剤層で支持層2の壁側である場合)
実施例1でレーヨン素材の不織布を壁紙用裏打紙(紙/発泡塩ビ;透気抵抗度:60秒)に替えた以外は実施例1と同様の方法で、本発明のセシウム除去性壁紙を得た。なお、分散液塗布量は実施例1と同じ乾燥重量として40g/m2とした。得られたセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層の厚みは36μmであり、このセシウム除去材層中には、フェロシアン化金属化合物である紺青顔料が13質量%含まれていることを確認した。該壁紙を使用し実施例1と同様に作成したサンプルを上記方法にて評価した結果、除染係数は105であった。
【0036】
実施例5(構成例5:支持基材層が2層である場合)
紺青顔料(商品名:ミロリブルー905、フェロシアン化金属化合物の前記化学式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)15質量部、50質量%のエチレン-酢酸ビニル樹脂を含むエマルジョン(商品名:スミカフレックス752;住友化学株式会社製)70質量部、PEG4000S(三洋化成工業株式会社製ポリエチレングリコール;数平均分子量3400)1部、水14質量部を加え、ディゾルバーにて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物、エチレン-酢酸ビニル樹脂、ポリエチレングリコールの合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は29質量%含まれていた。この分散液をロールコーターにて坪量120g/m2壁紙用紙(支持基材層5)に塗布し、更に市販の接着剤(NEWサンゲツ糊;澱粉系、株式会社サンゲツ製)を用いてその塗布液上にレーヨン素材の不織布(基材支層2)を貼り合せ、120〜150℃で2分乾燥させて、分散液の乾燥重量が45g/m2のセシウム除去性壁紙を作製した。得られたセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層の厚みは32μmであり、このセシウム除去材層中には、フェロシアン化金属化合物である紺青顔料が28質量%含まれていることを確認した。市販の接着剤(NEWサンゲツ糊;澱粉系、株式会社サンゲツ製)を使用してポリエステルフィルム(厚さ50μm)を該壁紙に貼付する事でサンプルを得た。該サンプルを上記方法にて評価した結果、除染係数は640であった。
【0037】
実施例6(構成例2:構成例1でセシウム除去材層が接着剤層を兼ねない場合)
紺青顔料(商品名:ミロリブルー905、フェロシアン化金属化合物の前記化学式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)18質量部、46質量%のスチレン-アクリル樹脂を含むエマルジョン(商品名:ジョンクリル357J;BASFジャパン株式会社製)65質量部、水17質量部を加え、ディゾルバーにて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物とスチレン-アクリル樹脂との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は37質量%含まれていた。この分散液を希釈剤(水:70質量部、イソプロピルアルコール:30質量部)にて粘度を調整し、グラビア印刷にて坪量120g/m2のレーヨン素材の不織布(支持基材層)に2度刷りして、分散液塗布量が乾燥重量として6g/m2のセシウム除去性壁紙を作成した。得られたセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層の厚みは5μmであり、このセシウム除去材層中には、フェロシアン化金属化合物である紺青顔料が36質量%含まれていることを確認した。該壁紙を使用し、実施例5と同様の方法でセシウム除去性壁紙を貼ったサンプルを得た。得られたサンプルを上記方法にて評価した結果、除染係数は140であった。
【0038】
実施例7(構成例4:セシウム除去材層が支持基材層の壁に対し逆側である場合)
紺青顔料(商品名:ミロリブルー905、フェロシアン化金属化合物の前記化学式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)16質量部、酸化チタン(商品名:タイピュアR−960;デュポン社製)4質量部、46質量%のスチレン-アクリル樹脂を含むエマルジョン(商品名:ジョンクリル357J;BASFジャパン株式会社製)65質量部、水15質量部を加え、ディゾルバーにて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物、酸化チタンおよびスチレン-アクリル樹脂の合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は32質量%含まれていた。この分散液を希釈剤(水:70質量部、イソプロピルアルコール:30質量部)にて粘度を調整し、グラビア印刷にて坪量120g/m2の壁紙用紙(支持基材層)に2度刷りして、分散液塗布量が乾燥重量として6g/m2のセシウム除去性壁紙を作成した。色は水色(薄い青色)であった。得られたセシウム除去性壁紙のセシウム除去材層の厚みは5μmであり、このセシウム除去材層中には、フェロシアン化金属化合物である紺青顔料が31質量%含まれていることを確認した。該壁紙を使用し実施例5と同様の方法でセシウム除去性壁紙を貼ったサンプルを得た。得られたサンプルを上記方法にて評価した結果、除染係数は650であった。
【0039】
比較例1
実施例1において、フェロシアン化金属化合物を添加しないこと以外は実施例1と同様の方法で壁紙を作製した。上記方法にて評価した結果、除染係数は1.7であった。
比較例2
実施例1において、貼り付けるレーヨン素材の不織布を壁紙用裏打紙(紙/発泡塩ビ;透気抵抗度:70秒)に替えたこと以外は実施例1と同様の方法で壁紙を作製した。上記方法にて評価した結果、除染係数は85であった。
比較例3
実施例5において、フェロシアン化金属化合物を添加しないこと以外は実施例5と同様の方法で壁紙を作製した。上記方法にて評価した結果、除染係数は1.9であった。
比較例4
実施例6において、フェロシアン化金属化合物を添加しないこと以外は実施例6と同様の方法で壁紙を作製した。上記方法にて評価した結果、除染係数は1.1であった。
比較例5
実施例7において、フェロシアン化金属化合物を添加しないこと以外は実施例7と同様の方法で壁紙を作製した。上記方法にて評価した結果、除染係数は1.2であった。
【0040】
上記の実施例及び比較例の結果から、本発明のフェロシアン化金属化合物及びバインダー樹脂を含む分散液を接着剤層又は印刷層に用いたセシウム除去性壁紙は、セシウムを簡便に捕集し、分離除去できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のセシウム除去性壁紙は、大気中に含まれるセシウムを選択的に吸着でき、かつ吸着後の吸着物を捕集する等の後処理が容易であるので、特殊な装置を必要とせずにセシウムを簡便に除去することができる。従って、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生するセシウムを含む汚染された空気からセシウムを簡便に除去できるセシウム除去材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材層とフェロシアン化金属化合物を含有するセシウム除去材層とを有するセシウム除去性壁紙。
【請求項2】
セシウム除去材層に含有するフェロシアン化金属化合物が化学式Axy[Fe(CN)6]で示される請求項1に記載のセシウム除去性壁紙。〔ただし、化学式中のAは、K、Na、及びNH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnのいずれかであり、かつ式x+ny=4(x=0〜3)を満たす。ただしnはMの価数を表わす。〕
【請求項3】
セシウム除去材層に、フェロシアン化金属化合物を1〜90質量%含有する請求項1又は請求項2に記載のセシウム除去性壁紙。
【請求項4】
支持基材層は通気性を有するものであり、壁に貼り付けた際に、セシウム除去材層が壁側となるように貼り付けられる請求項1〜3のいずれかに記載のセシウム除去性壁紙。
【請求項5】
通気性を有する支持基材層の透気抵抗度(測定法:JIS P8117−1998)が60秒以下である請求項4に記載のセシウム除去性壁紙。
【請求項6】
セシウム除去材層上に、さらに別途、支持基材層を有する請求項4又は請求項5に記載のセシウム除去性壁紙。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−47650(P2013−47650A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186265(P2011−186265)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】