説明

セシウム除去材

【課題】水溶液中あるいは大気中に含まれるセシウムを選択的に吸着でき、かつ吸着物の捕集が容易なセシウム除去材を提供する。また、本発明のセシウム除去材をセシウム検出材として用いることにより、水中にセシウムが含まれているかどうについて、容易に確認できる方法を提供する。
【解決手段】フェロシアン化金属化合物0.001〜80質量%及び結着剤99.999〜20質量%を含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム除去材に関する。さらに詳しくは、水溶液中あるいは大気中に含まれる有害な放射性セシウムを効率よく除去できるセシウム除去材に関する。また、水中にセシウムが含まれているかどうについて、容易に確認できるセシウム検出材及びそれを用いるセシウムの存在の有無を確認する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生する放射性物質を含む廃液や排ガスから放射性物質を自然環境中に排出させないことが求められている。特に放射性物質の中でも放射性セシウム137の半減期は30年と長く、γ線はその後も減衰するとはいえ、長期にわたり自然環境中に放射されることになる。また、ガス化し易いため広く環境中に飛散し、水溶性が高く生体に蓄積し易い。その為、生体内に取り込まれると、体内被曝による生体への悪影響が非常に大きく、より深刻である。この放射性セシウム137を除去する方法として、ゼオライトを用いて汚染水から除去する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、このゼオライトを用いる方法は、ナトリウム、カルシウム等の金属成分も同時に吸着する可能性があり、放射性セシウム137のみを選択的に除去する方法ではないため、効率が良くない。
一方、放射性セシウム137を含むセシウム及びその化合物と選択的に反応して吸着作用を有する化合物としてフェロシアン化金属化合物が一般的に知られている(特許文献2参照)。しかしながら、これらは一般的には微細な結晶を有する微粒子状の顔料であり、微粒子状態のままで使用すると、セシウム及びその化合物を吸着した後の廃液や排ガス中から微粒子状態の吸着物を回収することとなり、その捕集が困難であり効率的な回収方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−79999号公報
【特許文献2】特開平5−66295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フェロシアン化金属化合物を用いてセシウム及びその化合物(以下、単に「セシウム」ということがある。)を除去するに当たって、セシウムを吸着した後の吸着物の捕集が容易で、効率的なセシウム除去材を提供することを目的とする。また、本発明は、本発明のセシウム除去材をセシウム検出材として用いることにより、水中にセシウムが含まれているかどうについて、容易に確認できる方法についても提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、フェロシアン化金属化合物及び結着剤を特定割合で含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材により、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のセシウム除去材、セシウム検出材及びセシウムの存在の有無を確認する方法を提供するものである。
1.フェロシアン化金属化合物0.001〜80質量%及び結着剤99.999〜20質量%を含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材。
2.前記フェロシアン化金属化合物が一般式Axy[Fe(CN)6]で示される上記1に記載のセシウム除去材。
(式中、Aは、K、Na、NH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのいずれかであり、かつx、yは式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たす。nはMの価数を表す。)
3.分散液中の結着剤が、液状重合体、液状重合性モノマー及びバインダー樹脂から選択された少なくとも1種である上記1又は2記載のセシウム除去材。
4.分散液中の分散媒が水及び/又は有機溶媒である上記1〜3のいずれかに記載のセシウム除去材。
5.支持基材が粒状、繊維状、フィルム状及びシート状のいずれかである上記1〜4のいずれかに記載のセシウム除去材。
6.支持基材が不織布である上記5に記載のセシウム除去材。
7.上記5に記載のセシウム除去材からなるセシウム検出材。
8.支持基材が繊維状である上記7に記載のセシウム検出材。
9.繊維状の支持基材が不織布である上記8に記載のセシウム検出材。
10.上記7〜9のいずれかに記載のセシウム検出材を水中に沈めておき、次いで該セシウム検出材を水中から引き上げて、該セシウム検出材中のセシウム存在の有無を確認する水中のセシウム存在の有無を確認する方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フェロシアン化金属化合物及び結着剤を含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材を用いることにより、水溶液中あるいは大気中に含まれるセシウムを選択的に吸着でき、かつ吸着物の回収が容易であるので、セシウムを効率よく除去することができる。また、本発明のセシウム除去材をセシウム検出材として用いることにより、水中にセシウムが含まれているかどうについて、容易に確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のセシウム除去材は、フェロシアン化金属化合物及び結着剤を含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材である。以下、分散液及び支持基材について説明する。
【0008】
(分散液を構成する各成分について)
[フェロシアン化金属化合物]
本発明において使用されるフェロシアン化金属化合物は、一般式Axy[Fe(CN)6]で示される金属塩である。ここで、式中のAは、K、Na、NH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのいずれかであり、かつx、yは式x+ny=4(xは0から3の数)を満たす。また、nはMの価数を表す。
上記の金属化合物であり、種々の紺青の中で、特に化学式NH4Fe[Fe(CN)6]である紺青は、工業的に量産され、極めて微粒子状の顔料であり、その用途としてインキ、絵の具、化粧品などに広く使用されている安全性の高い化合物である。これらのフェロシアン化金属化合物は結晶構造として立方晶形を有し、格子内に一価の陽イオン、特にセシウムを選択的に取り込みやすい化合物である。
本発明のセシウム除去材に使用されるフェロシアン化金属化合物は、その形態が微粒子状であっても、水分等を含んだウェット状であってもよい。なお、市販の微粉品には吸着水が含まれている。
【0009】
[結着剤]
本発明において使用される結着剤は、分散液を支持基材に含浸あるいは塗布した際に、フェロシアン化金属化合物を支持基材に結着させ、支持基材からフェロシアン化金属化合物が容易に剥離や離脱が生じることがないよう接着強度を十分保った状態で使用される。フェロシアン化金属化合物は極めて微粒子状であるので、微粒子状態のままでセシウム除去材として使用すると、セシウムを吸着後の回収・捕集について、例えば遠心分離等の回収工程を行う必要があり、設備及び運用コスト、処理時間等の観点から好ましくない。従って、セシウムを吸着後の回収が容易となるようにする必要がある。従って、本発明では、支持基材に含浸あるいは塗布した際に、支持基材にフェロシアン化金属化合物を結着させるために結着剤を使用する。
本発明で使用される結着剤としては、液状重合体、液状重合性モノマー、バインダー樹脂、金属石鹸、界面活性剤、ワックス等が挙げられる。以下、これらの具体的な化合物について説明する。
【0010】
液状重合体としては、シリコーン系液状重合体、ウレタン系液状重合体、ジエン系液状重合体、オレフィン系液状重合体、アクリル系液状重合体等を挙げることができる。具体的には、シリコーンオイル、液状ポリブタジエン、流動パラフィン等を挙げることができる。また、液状重合性モノマーとしては、ブタンジオールモノアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。液状重合体や液状重合性モノマーは分散媒の役割もするので分散媒の使用を避ける事ができる(塗布後に分散媒の除去が不要)。この中で、液体吸収性の良い基材に使用する場合は液状重合体でも良いが、吸収性の悪い基材では基材への保持性の観点から液状重合性モノマーの方が好ましい。ここで、液状重合性モノマーは通常使用する方法(例えば紫外線硬化性があれば紫外線で硬化させる)を用いて重合させて結着剤とする。
【0011】
バインダー樹脂としては、石油樹脂、ロジン誘導体、硝化綿やアセチルブチルセルロース等のセルロース誘導体、環化ゴムや塩化ゴム等のゴム誘導体、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。この中で、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂が分散性および基材との接着性の観点から好ましい。また、基材との接着性を上げる等の目的で、イソシアネートやアミノ基を持つ化合物等の使用可能な硬化剤を併用しても良い。
【0012】
金属石鹸としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等が挙げられる。
【0013】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリル酸ジエタノールアミド等のアルキロールアマイド類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリオキシアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ジステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、モノカプリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0014】
アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代表されるアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソトリデシルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ジ(ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル)スルホコハク酸ナトリウム等のジポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、半硬化牛脂脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、特殊ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリリン酸アミノアルコール中和品、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、縮合ナフタレンスルホン酸アンモニウム塩、高縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、特殊芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩等が挙げられる。
【0015】
カチオン系界面活性剤としては、例えば塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩類、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム塩等のアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩類等が挙げられる。
【0016】
両性界面活性剤としては、ヤシ油アルキルベタイン等のアルキルベタイン類、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルアミドベタイン類、Z−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリームベタイン等のイミダゾリン類、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン等のグリシン類が挙げられる。
【0017】
ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、サゾールワックス、モンタンワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木蝋、蜜蝋、脂肪酸エステルワックス等が挙げられる。
これらの結着剤は、それぞれを単独で使用してもよいし、また複数種を併用して使用してもよい。
【0018】
[分散媒]
本発明においては、使用されるフェロシアン化金属化合物及び結着剤を分散液とするために必要に応じて分散媒を使用することができる。分散媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ブチルセロソルブ、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、キシレン、トルエン、酢酸ブチル、酢酸エチル、エトキシエチルプロピオネート、メトキシプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブタノール等が挙げられる。これらの分散媒は、それぞれを単独で使用してもよいし、また複数種を併用して使用してもよい。なお、使用される結着剤が分散媒としての役割を果たす場合は、上記の分散媒は必ずしも必要ではない。
【0019】
[添加成分]
本発明のセシウム除去材には、フェロシアン化金属化合物及び結着剤とともに添加成分を必要により添加含有させることができる。添加成分としては、分散安定剤、酸化防止剤、架橋剤、硬化剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、浸透剤、凍結防止剤、乾燥遅延剤、炭化水素系溶剤、乳化剤、増粘剤、可塑剤、造膜助剤、吸水性ポリマー、保湿剤、体質顔料等を挙げることができる。ここで、吸水性ポリマーや保湿剤は水分を保持してセシウムの吸着を補助する成分であり、吸水性ポリマーとしてはポリアクリル酸ナトリウムや変性ポリアルキレンオキサイド等が挙げられ、保湿剤としてはポリエチレングリコールやソルビトール等の合成多価アルコール、各種アミノ酸やキチン、キトサン、タンパク質分解物などの生物系保湿剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
[フェロシアン化金属化合物と結着剤との配合割合]
フェロシアン化金属化合物と結着剤との配合割合は、支持基材に含浸あるいは塗布する分散液中にフェロシアン化金属化合物と結着剤との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物が0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%、結着剤が99.9〜20質量%、好ましくは99.9〜50質量%含むように配合される。フェロシアン化金属化合物が、0.01質量%未満であるとセシウム除去効率が低下し、望ましくない。また、フェロシアン化金属化合物が80質量%を超えると支持基材に含浸あるいは塗布した後に、フェロシアン化金属化合物が支持基材から剥離や離脱する恐れがあり望ましくない。
【0021】
[分散媒の配合割合]
分散液中に使用される分散媒の量は、使用されるフェロシアン化金属化合物及び結着剤が分散状態となり、液状とすることができる量であればよく、通常は、フェロシアン化金属化合物と結着剤との合計量100質量部に対して、0〜900質量部、好ましくは0〜400質量部である。上述したように、使用される結着剤が分散媒としての役割を果たす場合は、分散媒は必ずしも必要ではない。本発明に使用される分散液は、上記にて説明した各成分を所定量配合して混合後、分散液とするものである。
【0022】
[支持基材について]
本発明で使用される支持基材は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム状弾性体、天然木、セルロース系材料、無機材料、金属材料等の材質からなるものを種々使用することができる。熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ビニロン等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。また、ゴム状弾性体としては、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。そして、セルロース系材料としては、レーヨン(銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン等)、テンセル、ポリノジック等が挙げられる。無機材料としては、ゼオライト、クレー、タルク、ガラスが挙げられる。また、金属材料としては、鉄、銅、亜鉛、鉛が挙げられる。上記の材質からなる支持基材の形状は、特に限定されるものではないが、粒状、繊維状、フィルム状及びシート状とすることが望ましい。
【0023】
[除去材の製造方法]
本発明のセシウム除去材は、上記にて記載したフェロシアン化金属化合物及び結着剤を含む分散液を上記にて記載した支持基材に公知の方法で含浸あるいは塗布して得られる
ものである。
【0024】
本発明では、上記で説明した粒状、繊維状、フィルム状及びシート状の支持基材に、上記にて説明したフェロシアン化金属化合物及び結着剤を含む分散液を含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材を、セシウム検出材としても使用することができる。このセシウム検出材及びその使用方法について以下に説明する。
上記で説明した本発明のセシウム除去材は、フェロシアン化金属化合物を含むことからセシウムの吸着能力に優れる。このセシウム除去材を水中に沈めておけば、水中に放射性セシウムを含むセシウム化合物が存在していた場合、セシウムを吸着することとなる。従って、このセシウム除去材を水中から引き上げて、放射線測定器でその放射線量を測定するか、もしくは、このセシウム除去材中のセシウム含有量を原子吸光分析装置等により分析することにより、セシウムが含まれているかどうかを容易に確認することが可能となる。従って、本発明のセシウム除去材は、セシウム検出材としても使用することができものとなる。なお、セシウム検出材として使用する際に、水中にセシウム検出材を沈めるに当たって、セシウム検出材が軽くて水に浮く場合は、錘等を付けて沈めてもよい。セシウム検出材とする場合の支持基材としては、粒状、繊維状、フィルム状及びシート状のいずれでもよいが、支持基材として、その表面積をできるだけ大きくした繊維状のものを使用することが好ましく、特に不織布の状態に加工して使用することが好ましい。不織布の状態として使用することにより、水中に存在する水溶性セシウム以外に微粒子状態で存在するセシウムに対しても吸着能力に優れるという効果を有する。
不織布を使用する場合の形状については、不織布を平板状、円筒状、球体状、箱型状、菊花断面棒状等の任意の形状として使用することができる。特に菊花断面を有する棒状不織布は、文字通り、その断面が菊型(放射状)をした棒状に不織布を加工して、表面積を大きくし、垂直に吊り下げて使用するものである。菊花断面を有する棒状不織布の花弁数は4〜12枚程度の数で任意に設定できる。この菊花断面を有する棒状不織布を用いたセシウム検出材は、セシウム吸着能力に優れているので、セシウム検出材として好適に使用することができるばかりではなく、本発明のセシウム除去材としても、好適に使用することができる。
【0025】
このようにして得られる本発明のセシウム除去材は、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生するセシウムを含む廃液や排ガスを処理するに当たって、分離可能なフィルター容器内(例えば、円筒カラム、不織布、ネット等)に入れて処理することもできるし、そのまま廃液や排ガス中に入れて処理することもできる。また、エアコンのフィルターや空気清浄機のフィルターとしても使用することができる。更に、支持基材が繊維である場合は、布、不織布等に加工し、汎用マスク、防毒マスク等に装着して使用することもできるし、防護服として使用することもできる。また、本発明のセシウム検出材は、水中のセシウムの存在の有無を容易に確認することができ、セシウムを除去する必要性を判断したりすることができる。
【実施例】
【0026】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例1
紺青顔料(商品名:ミロリブルー660PA、前記フェロシアン化金属化合物一般式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)10質量部に45質量%のアクリル樹脂を含むアクリルエマルジョン(商品名:リカボンド FK‐420;中央理化株式会社製)30質量部及び水60質量部を加え、ディゾルバーにて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物とアクリル樹脂(結着剤)との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は42.5質量%含まれていた。この分散液をロールコーターにてポリエステル製の布に塗布し、130〜150℃で2分以上乾燥させて、塗布量が乾燥重量として30g/m2のコーティング布を得た。得られたコーティング布160cm2を内径12ミリのカラムに充填し、硝酸セシウム70ミリグラム/リットル及び硫酸ナトリウム200グラム/リットルを含む硝酸セシウム水溶液(中性)500ミリリットルを2ミリリットル/分の速度でカラム中を通過させた。その流出液のセシウム濃度を原子吸光分析装置(偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−2010;(株)日立ハイテクノロジーズ製;検出限界0.006ミリグラム/リットル)にて測定し、その除染係数を求めた結果、除染係数は、850であった。なお、除染係数は処理前後でのセシウムの濃度比(除染係数=処理前のセシウム濃度/処理後のセシウム濃度)で定義される。除染係数は通常、100以上であれば、除去効果が十分あるとされている。
【0027】
実施例2
紺青顔料(商品名:ミロリブルー905、前記フェロシアン化金属化合物の一般式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)20質量部、30質量%ポリアミド樹脂溶液(サンマイド550H;エアプロダクツ社製:30質量部、トルエン:40質量部、酢酸エチル:10質量部、イソプロピルアルコール:20質量部)40質量部、30質量%硝化綿樹脂溶液(ニトロセルロースLIG−1/8;SNPE社製:30質量部、酢酸エチル:30質量部、イソプロピルアルコール:40質量部)10質量部、イソプロピルアルコール10質量部、酢酸エチル5質量部及びトルエン15質量部をダイノミル(スイスWAB社製)にて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物、ポリアミド樹脂(結着剤)及び硝化綿樹脂(結着剤)との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は57.1質量%含まれていた。この分散液を混合溶剤(イソプロピルアルコール:30質量部、酢酸エチル:20質量部及びトルエン:50質量部)にて希釈調製し、グラビア印刷にて厚み75μmのポリエチレンフィルムに塗布し、乾燥温度40℃にて乾燥し、塗布量が乾燥重量として5g/mのコーティングフィルムを得た。
得られたコーティングフィルム720cm2について実施例1と同様の方法で除染係数を測定した結果、除染係数は、590であった。
【0028】
実施例3
紺青顔料(商品名:ミロリブルー905、前記フェロシアン化金属化合物の一般式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)20質量部、30質量%ポリアミド樹脂溶液(サンマイド550H;エアプロダクツ社製:30質量部、トルエン:40質量部、酢酸エチル:10質量部、イソプロピルアルコール:20質量部)40質量部、30質量%硝化綿樹脂溶液(ニトロセルロースLIG−1/8;SNPE社製:30質量部、酢酸エチル:30質量部、イソプロピルアルコール:40質量部)10質量部、PEG4000S(三洋化成工業株式会社製ポリエチレングリコール;数平均分子量3400)1部、イソプロピルアルコール10質量部、酢酸エチル5質量部及びトルエン14質量部をダイノミル(スイスWAB社製)にて混練し、分散液を調製した。この分散液には、フェロシアン化金属化合物、ポリアミド樹脂(結着剤)及び硝化綿樹脂(結着剤)との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は57.1質量%含まれていた。この分散液を混合溶剤(イソプロピルアルコール:30質量部、酢酸エチル:20質量部及びトルエン:50質量部)にて希釈調製し、グラビア印刷にて厚み75μmのポリエチレンフィルムに塗布し、乾燥温度40℃にて乾燥し、塗布量が乾燥重量として5g/m2のコーティングフィルムを得た。
得られたコーティングフィルム720cm2について実施例1と同様の方法で除染係数を測定した結果、除染係数は、710であった。
【0029】
実施例4
紺青顔料(商品名:ミロリブルー660PA、前記フェロシアン化金属化合物の一般式中のAがNH4、MがFe;大日精化工業株式会社製)10質量部に57質量%のアクリル樹脂を含む水性樹脂塗料(商品名:ベース 720−F;大日精化工業株式会社製)20質量部、ポルトランドセメント25質量部、7号硅砂40質量部、水5質量部を加え、ディゾルバーにて混練し、樹脂モルタル液を調製した。この液には、フェロシアン化金属化合物及びアクリル樹脂(結着剤)との合計量に基づいて、フェロシアン化金属化合物は11.6質量%含まれていた。この液を吹付けにて、ポリエチレン製シートにポリエステル不織布をラミネートしたクロス(東レ株式会社製)に塗布し、常温で24時間以上乾燥させて、塗布量が乾燥重量として約1000g/m2、対水圧1,500mmH2O以上を有するシートを得た。得られた防水塗布シート180cm2について実施例1と同様の方法で測定した結果、除染係数は、200であった。
【0030】
比較例1
実施例1において、フェロシアン化金属化合物を添加しないで、それ以外は実施例1と同様の方法でコーティング布を得た。実施例1と同様の方法で除染係数を測定した結果、2.5であった。
【0031】
比較例2
実施例2において、フェロシアン化金属化合物を添加しないで、それ以外は実施例2と同様の方法でコーティングフィルムを得た。実施例2と同様の方法で除染係数を測定した結果、2.6であった。
【0032】
比較例3
実施例4において、フェロシアン化金属化合物を添加しないで、それ以外は実施例4と同様の方法で防水塗布シートを得た。実施例4と同様の方法で除染係数を測定した結果、2.8であった。
【0033】
実施例5
湿式法およびニードルパンチ法を用いて作製した厚さ1cmのポリエステル製不織布を、実施例1で調製して得られた分散液中にディッピングした後、乾燥してフェロシアン化金属化合物(紺青顔料)を含む不織布10cm×30cmを得た。この不織布6枚を接着剤にて貼り付けて、菊花断面を有する長さ30cmの不織布棒状体を得た。この菊花断面を有する不織布棒状体を、放射性セシウムが含まれていると考えられる水中に6時間浸漬した。水中から引き上げた不織布棒状体にガイガー=ミュラー計数管式放射線測定器を近づけた所、放射線を関知した。その後、この水中の放射性セシウムの含有量を測定したところ、6ベクレル/kgの放射性セシウムが含まれていることを確認した。
【0034】
上記の実施例から、本発明のフェロシアン化金属化合物及び結着剤を含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材はセシウムを効率よく捕集し、分離除去できることがわかる。また、本発明のセシウム除去材をセシウム検出材として使用すれば、水中にセシウムが含まれているかどうについて、容易に確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のフェロシアン化金属化合物及び結着剤を含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材は、水溶液中あるいは大気中に含まれるセシウムを選択的に吸着でき、かつ吸着後の吸着物を捕集する等の後処理が容易であるので、セシウムを効率よく除去することができる。従って、原子力発電所等の放射性物質取扱施設から発生するセシウムを含む廃液や排ガスからセシウムを効率よく除去できるセシウム除去材として好適である。また、防毒マスク等に設置すれば、大気中に含まれたセシウムを効率よく除去することができるので、防毒マスク、エアコンや空気清浄機のフィルターなどにも好適に使用することができる。また、本発明のセシウム除去材をセシウム検出材として用いることにより、水中にセシウムが含まれているかどうについて、容易に確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェロシアン化金属化合物0.001〜80質量%及び結着剤99.999〜20質量%を含む分散液を支持基材に含浸あるいは塗布してなるセシウム除去材。
【請求項2】
前記フェロシアン化金属化合物が一般式Axy[Fe(CN)6]で示される請求項1に記載のセシウム除去材。
(式中、Aは、K、Na、NH4のいずれかであり、Mは、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのいずれかであり、かつx、yは式x+ny=4(xは0〜3の数である)を満たす。nはMの価数を表す。)
【請求項3】
分散液中の結着剤が、液状重合体、液状重合性モノマー及びバインダー樹脂から選択された少なくとも1種である請求項1又は2に記載のセシウム除去材。
【請求項4】
分散液中の分散媒が水及び/又は有機溶媒である請求項1〜3のいずれかに記載のセシウム除去材。
【請求項5】
支持基材が粒状、繊維状、フィルム状及びシート状のいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載のセシウム除去材。
【請求項6】
支持基材が不織布である請求項5に記載のセシウム除去材。
【請求項7】
請求項5に記載のセシウム除去材からなるセシウム検出材。
【請求項8】
支持基材が繊維状である請求項7に記載のセシウム検出材。
【請求項9】
繊維状の支持基材が不織布である請求項8に記載のセシウム検出材。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のセシウム検出材を水中に沈めておき、次いで該セシウム検出材を水中から引き上げて、該セシウム検出材中のセシウムの存在の有無を確認する水中のセシウムの存在の有無を確認する方法。

【公開番号】特開2013−50438(P2013−50438A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96823(P2012−96823)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】